2020/06/10 - 23:11~01:31 のログ
ご案内:「ロビー」に城之内 ありすさんが現れました。<補足:制服姿、黒髪のボブカット、変わらない表情の少女。>
城之内 ありす > 昼休み。学生はみな、思い思いの場所で昼食をとったり、自由な時間を過ごしている。
そんな中、ロビーのベンチに座って、静かに本を読んでいる少女の姿があった。
普段から人付き合いが良い方ではない少女は、購買部で買ったおにぎりと自販機で買ったお茶をテーブルの上に置いたまま、本を読む。
「………………。」
いつもそうしているわけではないけれど、少女はこんな風に、一人で過ごす時間が多かった。
昔からそうだから、今更それを気にすることなんてない。
城之内 ありす > けれど、この島に来たら何かが変わるかもしれない。
そんな風に思っていた時期も、もちろんある。
何も気にせず笑ったり怒ったりしていた時と同じように過ごせるかも知れない。
そんな風に思っていた時期も、もちろんある。
「…………………。」
教室から楽しそうな声が聞こえて、少しだけ気分が沈みそうになった。
「駄目駄目…!」
それを抑え込むように声を出して、お茶を流し込む。
本を閉じたけれど、なかなか、おにぎりを食べる気になれなかった。
ご案内:「ロビー」にヨキさんが現れました。<補足:29歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた細身の白ローブに黒革ハイヒールブーツ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > かつり、こつり、とヒールの音。
学生街のパン屋で買い求めた昼食を手に、職員室ででも食べようかと校舎へ戻ってきたところだった。
目にしたのは、少女が茶を呷った一場面。
手付かずになっているおにぎりと彼女の顔とを交互に見比べながら、足を止めた。
「――もし、君。何か悩み事でも?」
こつり、かつん。控えめな間合いまで歩み寄り、首を傾いだ。
城之内 ありす > 「えっ……?」
突然声を掛けられて、少女は驚きに顔を上げた。
立っている人物を見て、考える……美術の時間に見た教師だ。
背が高くて、丁寧に教えてくれたから、記憶に残っている。
「…ヨキ先生、こんにちは。」
きっと、授業で目立ったことのない自分は、名前も覚えてもらっていないだろう。
「いえ、大丈夫です……ちょっと、疲れてるだけなので。」
少女は、表情をあまり変えないまま答える。
ヨキ > 「こんにちは。君は――」
そこでようやく、少女の顔を真正面から見た。
硬い眼差しと目が合って、一瞬ののち。
ああ、という声と共に、顔が柔和に綻んだ。
「――城之内君、だったか。
授業以外の時間に会うのは初めてだな。
そうか、疲れているところに声を掛けてしまって悪かった。
君はヨキの授業の時にも、あまり浮かない顔をしていた記憶があってな……。
少し、心配していたよ」
隣、座ってもいいかい? と空いたスペースを指差す。
香ばしいパンの匂いがする紙袋が、腕の中でかさりと音を立てた。
城之内 ありす > 「あ……。」
名前を覚えてくれていた。それだけで少し嬉しい気持ちになる。
「はい、もちろんどうぞ。ごめんなさい、寄りますね。」
そんなことをしなくても十分座れるのに、ベンチの端に寄ってスペースを広げた。
それから、お茶とおにぎりも少し、テーブルの端に寄せる。
「授業の時にも……すみません、みんなと一緒にやるのって…あんまり、慣れてないので。」
顔に出さないようにしていたつもりだった。
だからそれを指摘されて、少女は言い訳をするようにそう言う。
ヨキ > 「有難う。済まないな、図体が大きくて」
照れ笑いするように頭を書いて、ありすの隣に腰掛ける。
彼女が離れた分、もう一人は座れそうな隙間が空いている。
「いや、気にすることはない。君はまだ一年生だろう?
自分の異能のことで手一杯だろうに、周りにも同じように悩みを持った者たちばかりの、デリケートな環境だ。
それでいて新しい学びに一所懸命なのだから、頭がいっぱいになるのも致し方ないことだ」
紙袋を開いて、パンを取り出す。カレーパン、クリームパン、ベリーたっぷりのデニッシュ。
昼食なのかおやつなのか判別しかねる、食べたいものを素直に買ったようなラインナップ。
「だから、ヨキの前では楽にしていてくれていい。今はまだ慣れなくとも、いずれ。
教え子を受け止めるだけの度量は、身に着けているつもりだからね」
城之内 ありす > 「あ、すみません、そんなつもりじゃなかったんですが。」
むしろ、長身で、綺麗な顔をしていて、見惚れてしまいそう。そう思ったけれど、口が裂けてもそんなことは言えない。
そんなヨキ先生が名前を覚えていてくれて、隣に座って、話しかけてくれる。
「本当に、色んなことが変わってしまって……でも、変わらないこともあって。
そうですよね、まだ一年生ですもんね…ありがとうございます、ヨキ先生。」
「あの……ヨキ先生は、ここで働き始めて、どのくらい経つんですか?」
そんな質問をするのと、貴方が沢山の菓子パンを取り出すのはほぼ同時。
ちょっと意外だな、と、心の中で思う。
ヨキ > 「むしろ女性に遠慮させてしまって、申し訳ないくらいさ」
笑い掛けるのと同等の軽やかさで肩を竦める。
顔も仕草も日本人離れしているが、語り口はまったく日本人のそれ。
「君にとって、変わらないこともあるんだね。
それは良いことなのかな、それとも悪いこと?
よかったら、ヨキの話と交換しよう」
微笑んで、クリームパンの袋から手に取る。
ペットボトルの緑茶を片手に、大きな一口。
口は大きいが、口の端に汚れが付かないほどには清潔な食べ方をする。
「ヨキかね。もう十年以上になるよ。
もう数えきれないくらい、沢山の学生を教えたよ。
数えきれない、とは言っても、ひとりひとりが大事な教え子だがね」
城之内 ありす > 「…生徒に向かって女性なんて、そんなこと言う先生珍しいですよ。」
ほんの僅かに、くすくすと、笑ってしまった。
「え、話を交換するんですか?面白い話じゃないですよ?
えっと……良いこともありますけど、悪いことも…あります。」
ヨキ先生が食べ始めるのを見て、自分もおにぎりの封を開けた。
でもまだ、それに口を付けることはしない。
「10年…長いんですね。
ヨキ先生、ここで勉強した人たちって、みんな……異能を上手く使えるようになるんですか?」
ヨキ > 「たとえ師弟関係であっても、礼儀は大事なものさ。
むやみに男だから無遠慮に振舞うとか、女だから優しくする、ということはないがね。
……ああ、よかった。ふふ、君の笑顔が見られて、嬉しくなってしまったよ」
はにかみ、くすくすと笑う。
「もちろん、無下に聞き出そうとは思わない。
食事が喉を通るくらいにしておいてくれれば、それでいいよ。
込み入った話は、また落ち着いたときにでもすればいい」
パンをよく噛んで飲み込み、茶を飲む。
一口をじっくり噛むために、早食いというほどではない。
「みんな……なる、と言いたいがね。
残念ながら、そうでない者も居ることは居るよ。
百人居れば、百通りの異能があるくらいだ。どうしても、という無念を失くすことはまだ出来ないんだ」
城之内 ありす > 「…変わってますよね、ヨキ先生って。」
笑われてしまったことが恥ずかしかったのか、そうとだけ言って視線を逸らす。
けれど、嬉しくなると言われて…もちろん嫌な気はしなかった。
「ここに来たら、すぐに、全部変わると思ってたんです。
みんな異能に悩んでて、だから…自分だけ、我慢したりしなくていいのかなって。
……でも、やっぱり、我慢しなくちゃいけないのは変わらなくて……やっぱり、みんなと一緒に何かするのは苦手なままで。」
少女は、まだこの学園に来て日が浅い。
異能の制御についても、まだ本格的に授業が始まったわけではなかった。
ただ、その危険性だけは、指摘されたのだ。
「………そうですよね。」
気休めではなく本当のことを言ってくれたのは有難かった。
けれどやっぱり不安になってしまう。
後ろ向きな気分になってしまう。
自分も、最後まで異能に振り回されてしまうのではないかと。
……ふわりと,その身体がほんの少しだけ,縮む。
ヨキ > 「ああ……済まない、よく言われてしまうな。
君が笑ってくれたものだから、つい釣られてしまった」
ありすの素直な吐露に、小さく相槌を打ちながら耳を傾ける。
ひとつ目のパンを食べ終えたあと、二つ目にはまだ手付かずで。
「本当は、明るい希望だけを持って居て欲しいとヨキも思う。
それでも……そうとはいかないのが、異能という力だ。
本当には誰も悪くない、得体の知れない力のために――」
そこまで言い掛けて、ありすの身体が瞬きの合間に縮むのを見た。
居ても立っても居られず、
「――城之内君ッ」
手が伸びた。
おにぎりを手にしたままの、彼女の手首を。
まるでいまにも掻き消えてしまいそうなものを掴み取るような、ほんの少しの力で。
きゅ、と握ってしまう。
城之内 ありす > 「きゃっ……!」
反射的に声が出てしまった。
掴まれた手首は痛むどころか、優しく包まれるようでさえあったのに。
驚いた表情が目の前の教師へと向けられて、すぐ少女は目を伏せた。
「ヨキ先生、ごめんなさい、私…。」
ゆっくりと呼吸をする。気持ちを落ち着かせるように。
感情を抑えれば、すぐには身体の大きさが戻ることはなくとも、それ以上縮むこともない。
「…こんな感じで、まだ全然、制御できてないんです。
だから、ちょっとだけ不安になっちゃって…みんなと一緒に話してるときにこうなっちゃったら、どうしよう…って。」
ヨキ > 「あっ」
少女の悲鳴に、こちらもまた声が出た。
すぐに手を引っ込めて、頭を下げる。
「……失敬。君が消えてしまうのではないかと思って、つい」
はらはらとした眼差しで、相手の様子を見守る。
けれどそれ以上縮むことがないと判ると、ほっと安堵した。
「そうだったのか。それは……不安が大きくなるのも当然だ。
――そうだな。それでは、こう考えてみるのはどうかな。
不安や心配を分かち合い、和らげるために友人を作るのだと。
暗い気持ちではなく、嬉しい気持ち、楽しい気持ちを膨らませるために、人の輪へ入るのだと……。
……いや。言葉だけでは、難しいことは判っている。
すぐにそう出来なくたって、何ら不思議はない」
城之内 ありす > 「…大丈夫です、ありがとうございます。」
腕を掴む優しい力から、その気持ちは読み取れていた。
だから少女は首を横に振って、礼を述べる。
「嬉しい気持ち、楽しい気持ちを膨らませるために…。」
ずっと、悲しみや怒りを我慢することだけを考えていた。
その所為で、嬉しい、楽しい、そんな気持ちも一緒に覆い隠してしまっていたのかもしれない。
「すぐには…出来ないかも知れないです。…でも、がんばってみます、私。」
そうとだけ言って、少女はおにぎりを頬張った。
すぐにそれを食べ終えてしまう様子は、それまでの印象とは少しだけ違うかも知れない。
「あ、もう授業始まっちゃう!
ありがとうございました、ヨキ先生。その、できたら…またお話ししたいです。」
ヨキ > ありすを見つめる目は優しい。
礼の言葉に、にこりと頷いて。
「ああ。頑張りすぎることは身体に毒だ。
だが、先ほど言ったように……ヨキには君を受け止める覚悟があるから。
楽しいときも、つらいときも。君が頼る支えのひとりになれたら嬉しいよ」
おにぎりをいっぺんに頬張る様子に、笑顔が深まる。
「ああ、そろそろヨキも仕事へ戻る頃合いだ。
どう致しまして。ヨキはいつでも君を待っているよ。
君が話をしに来てくれることを……それから、君が大事なものを見つけて、成長してゆくことを」
城之内 ありす > おにぎりの包みとお茶のペットボトルを処分してから、少女はヨキに深々と頭を下げて、教室の方へと小走りで向かっていった。
次に美術の授業があるのは何曜日だったかな。
教師であるヨキに会いに行く、ということはまだハードルが高いけれど、授業であればただそこに行くだけで、また出会えるから。
ヨキ > ありすを見送って、デニッシュを一口齧る。
残りは午後の間食用に取っておこうと、袋を閉じた。
「――さて。
ヨキ自身の楽しみも、ひとつ増えたな」
教え子を見守ることは、いつでも彼のよろこびだった。
口元を綺麗に拭って、席を立つ。
学生や教師らの声が徐々に教室へと遠ざかってゆくロビーの中を、颯爽と歩いてゆく。
ご案内:「ロビー」からヨキさんが去りました。<補足:29歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた細身の白ローブに黒革ハイヒールブーツ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ご案内:「ロビー」から城之内 ありすさんが去りました。<補足:制服姿、黒髪のボブカット、変わらない表情の少女。>