2020/06/13 - 21:23~23:57 のログ
ご案内:「商店街」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > よく晴れた休日の昼下がり。
夏の到来を思わせる日差しの中、徒歩で商店街を巡って買い物をする美術教師の姿がある。
学内の派手なコート姿とは異なるシンプルな装いで、書店へ、菓子屋へ、雑貨屋へ。
細々とした買い物は、肩に提げたメッセンジャーバッグへ入れて。
菓子店のロゴが入った小さな紙袋を片手に提げた格好で、賑やかな往来をゆく。
歩きながらも、視線は街中のあちらこちらへ。
騒動がないことを確かめるように。
楽しみの切欠を探すように。
知った顔が歩いてはいないかと。
知らない顔が困っていやしないかと。
ご案内:「商店街」に城戸 良式さんが現れました。<補足:公安委員。黒いコートに眠そうな目。>
城戸 良式 > 「あれ。
……ヨキ先生」
人違いだったら申し訳ないなと思いながら、
あの身長と体躯で間違えるはずはないなと声をかける。
黒いコートのツンツンヘアの男が、
頭一つ分小さい視線を上に向けて話しかけてきた。
「どうも。
二年の、ええと、公安の城戸です。
何回か授業見てもらったンすけど、覚えてないっスよね」
卑屈に、へらっと笑いながら一礼した。
ヨキ > 「おや」
話し掛けてきた顔に、ぱちくりと瞬き。
「城戸君、もちろん覚えているとも。
大勢の中でも、教え子の顔と名前くらいはきちんと残るさ。
それに君は、座学も演習も真面目に受けてくれていたからね。
より印象に残っていたよ」
笑って会釈を返す。それに、と付け加えて。
「休憩時間に、そのコートを羨んだのも覚えておるぞ。
風紀の腕章だとか、公安の上着だとか。
自分では身に着ける機会がないからな」
城戸 良式 > 「ああ、よかった。
特徴ねーせいか、大体顔とか覚えらんねー性質なんで、
すげーっスね教師って。
ああ、いやすげーのは先生がか?」
真面目にと先生は言うが、
自分でも全く才能のない美術造形の授業が難しすぎて、
何から手を付けていいかわからず首を傾げていただけだったように思える。
それを真面目と評価してもらえるのはありがたい。
公安のコートについて指摘されると苦笑し。
「ああ、それで覚えて貰えてたってんなら、
四六時中公安コート着てた甲斐あったな……。
あー、そっか、ヨキ先生って風紀とも公安とも関係ない人でしたね。
……あの、先生って。
生徒のために、休日まで『先生』してくれるっスか?
ちょっと悩んでて……。
あ、歩きながらでも聞いてくれると嬉しいんスけど」
その、公安委員のことで悩んでるんスよ、と進行方向を変え、
ヨキに追従するように横に並びながら苦い顔をする。
ヨキ > 「これだけの規模の学園では、人数は途方もないがね。
人気のある大きな授業よりも、覚えるべき人数がまだ少ないのが救いだな。
それに、覚えていてもらうのはほっとするだろう?
街中でヨキ先生、と呼ばれるのは、自分が嬉しいからな。
出来るだけ返せるように努めている」
投げ出さずに課題と向き合う者には、才能の有無にかかわらず評価する。
それがヨキの授業方針だった。
だから良式も、ヨキからすればプラス評価の教え子なのだった。
続けて尋ねられると、にこりと笑みを深めて。
「勿論、悩みなら今でも相談に乗るよ。
君が話したいと思ったその時に、ヨキはいつでも付き合う」
街路樹の影が落ちる商店街の歩道を歩くと、日陰の冷えた空気が心地よい。
良式の渋い表情を柔らかく受け止める眼差しで、続けて、と促した。
城戸 良式 > 「先生と生徒じゃ覚える数違いすぎる気しますけど!」
さも当たり前のように、よかれと思うようにと返され、
笑いが出てしまった。
悩みに付き合ってもらえると聞いて、
どう説明したものかと顎に手をやるとうーんと首を傾げ。
「実は……あの、正義について悩んでて。
公安辞めようかと思ってるんスよね」
この言い方だと若干物々しいかなと思いながらも、
実際にそうなのだから仕方がない。
正義、大義、道徳。同い年の友人にするには鼻で笑われるような話だ。
「極端な話するっスけど。
あるとこに一人、人を殺した"殺人犯A"がいたとするじゃないスか。
そいつはまあ、俺らが追い詰める悪いやつなわけですけど。殺人は悪なんで。
でも、その殺人犯Aが殺した一人が、実はそいつと同じような殺人犯Bで、
Aが殺さなければBによって300人ほど死ぬかもしれなかったとき。
俺らはAを捕まえるのが本当に正しいことなんですかね?
とか考え始めて。……何が正しいんだろってなってきて。
このまま公安って組織にいて、やること全部正しく居れるのかなって。
すげー漠然とした話スけど、何に悩んでるか伝わります?」
口下手なところが出たなと苦笑いして、
いまいち伝わらないかもしれない例え話がヨキ先生に伝わっていることを祈った。
ヨキ > 良式の突っ込みに、ははは、と軽い調子で笑う。
けれど彼の悩みを打ち明ける調子には、真面目な顔で口を結んだ。
「正義について、か」
ふむ、と小さく応え、その内容に耳を傾ける。
「……なるほど。
“殺人犯A”を『必要悪』と呼ぶとして。
君はその『必要悪』の存在意義に、不健全さに――『正義』の答えのなさに、迷いが出始めたと。
確かに漠然としているが、大事な話だ。
それが仮に殺人犯の話でなかったとしても当て嵌まるくらいには、どこにでもあり、全員が同じ答えを出せる問いではないね」
城戸 良式 > そのヨキ先生の表現に大きく息を吐いた。
「へぇ、必要悪。
めちゃくちゃ的を射てる表現あるんですね。
必要な悪。『必要悪』……か」
世界が潤滑に回るための必要な悪。
正義だけでも、悪だけでも回らない歯車を回すためのパーツ。
「ええ。そうなんスよ。
結局のところ、その線引きって人それぞれだし、
じゃあ150人殺そうとしてる奴を殺す奴はその『必要悪』ってやつなのか?
75人なら? 30人なら? 10人なら? 1人なら?
そいつを殺さなければ死ぬ人間がどのくらいの数より上の『殺人』が、
そいつは『処すべきじゃない人間』じゃないと許されるのか。とか。
考えてると、自分らのやってることって、
そんなに正しいもんじゃねーのかもとか思えてきて」
もしかして自分は、公安というものに、風紀というものに。
向いていないのではないかと思い始めていた。
「そいつに……『必要悪』に同情してしまうんスよ。
そいつに、きっと銃口を向けないといけない立場なんですけど。
ヨキ先生ならどうします。
自分が手を下さないと300人死ぬ奴が目の前にいて、
そいつは改善の見込みなく、止めなければ300人が死ぬってときに引き金を引いた相手を、
捕まえるべきだと思います?」
ヨキ > 「そう、必要悪。
明確であろうと、陰に隠れた不文律であろうと、それは至るところに在る。
様々なかたちで、とても自然にね」
指先で顎を軽く撫でて、少し考える。
「ヨキが思うに……まず、大前提として『悪は悪だ』。
この国ないし、常世島にはルールがある。
人を傷つけてはならない。殺してはならない。
それを行った人間には、然るべき処罰が下されると。
だからヨキの考えは――
Bは300人を殺すかも知れない。
だが現に、Bという一人はAによって殺された。
一人だろうと300人だろうと、現に殺人が発生しているね。
だからそこでAを捕らえなければ――それは『公安委員会としての職務の放棄』に当たる。
それはそれで、紛れもない悪だ」
だが、と続ける。
「机上の空論とは異なり、社会にはもっと複雑なシステムがある。
それはAを捕らえる裏でBを追う公安の別動隊だったり、Bによって死ぬ人数を可能な限り減らそうとする、風紀委員会であったりする。
ヨキのような『一般の教師』からすれば――君らひとりひとりまで含めた、委員会全員の働きを信じる他にないんだ」
城戸 良式 > 『必要悪』もまた、紛れもない『悪』であると。
そうヨキ先生は自分に告げた。
必要でありながら悪、というその在り方は、
最初から矛盾に満ちている。
「300人殺そうが、一人を殺した悪だからこそ、
それが必要悪であったとしても
風紀や公安が裁くべきであると、そういうことスか」
それは。
なんだかとても辛いことだなと、そう思った。
「そう、ですね。
一番極端な例で話してたんで、
実際のところ風紀や公安だって一枚岩の一辺倒ってわけじゃないんで、
その辺はも少し上手く動くかなって思うんスけどね、俺も。
なるほど……んじゃ、そんな『一般の教師』に期待されてるってわけスか、
公安委員として自分たちも……」
そりゃ、ちょっと頑張りたくなってきたな、と笑いを零した。
「すいませんお休みに変な話して。
色々すっきり整理ついた気がします。
ああ、それと、ついでじゃないですけどもう一個だけ聞かせてもらっていいですか?
俺、無異能者なんですけど、
この島で、他に異能を持っていない生徒とかって、ヨキ先生知ってます?
ええと、この際生徒じゃなくて先生とかでもいいですけど」
ヨキ > 「…………、」
良式に念を押され、少し黙る。
「『表向き』は、な。ヨキは『教師として』、そう答えざるを得ないんだ。
だがね――もし君が己の中で、これまでの公安や風紀のやり方でない、『こうすべきなのではないか』という正義の種を見つけたとき……ヨキは、その背中を押してやりたいとも思っている」
そこで一旦言葉を切り、目を細める。
「……何年か前。
同じように、教え子と正義の話をしたことがあった。
法によって裁けぬ悪を――『裁き切ることの出来ない悪』を、どう捌いてゆくべきかとね。
彼は彼で――『己のやり方』を見出し、その道を進んでゆくと決めた。
君もまた、『己にとっての正義』を見つけたのなら――公安という集団と袂を分かつことも、ヨキは反対はしない」
笑う。
「……済まぬ。君の知らぬ人間の話をしたな。
何にせよ、迷いや惑いのある心で決断を急ぐべきではないよ。
それまでヨキは、何度だって君の話を聴くから」
そうして、ついでという彼の話に。ほう、と頷いて。
「それなら、ヨキも異能は持っていないよ。
他にも付き合いのある中で、何人か心当たりはあるが……何故だね?」
城戸 良式 > 「………?」
何かを懐かしむような、誰かを懐かしむような視線と言い方。
恐らく、言う通り自分の知らない誰かの話なのだろうけれど、
どこか触れてはいけないような重厚なものを感じた。
「『己にとっての正義』スか。
……難しいな、それって正義なんスかね……?
ちょっと、持ち帰って考えてもみます。
今ンとこ、すぐにどうこうしなきゃならねーわけでもないんで……。
まあ、でも、そんなこんなで急に目の前に、
300人殺せる殺人鬼とか、そいつを殺したやつとかが出てきたら、
判断しねーといけないのが公安のきついとこスけど」
少々バツが悪そうに頭の後ろを掻く。
「そりゃありがたい!
ああ、しかも先生異能ないんスか。
俺もなんスよ。んで、異能ないなりに色々頑張ってるんスけど、
ちょっとそっちにも行き詰まり見えてきたっていうか。
みんなどうやって折り合いつけてんのか知りたくなって。
んじゃ尚更、また色々ごちゃごちゃ考えたくなったら、
先生に声かけますね!」
ありがとうございました!と残して、その場を辞した。
ご案内:「商店街」から城戸 良式さんが去りました。<補足:公安委員。黒いコートに眠そうな目。>
ヨキ > 「全く難しいものさ。
――ゆっくり考えてくれたまえ。
ヨキもまた、君の言葉をゆっくり反芻させてもらうよ。
他の委員たちとも、建設的な対話が出来るとよいな」
困ったように笑って。
「ふむ、そちらでも――か。
なるほど、悩みが多くては大変だな。
ああ、いつでも話を聞こう。話し合うことは大歓迎だ」
良式の挨拶に、軽く手を振って見送る。
その場で何事か考えるように少し立ち止まってから――また歩き出していった。
ご案内:「商店街」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>