2020/06/14 - 22:37~01:24 のログ
ご案内:「第三教室棟 職員室」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた細身の白ローブに黒革ハイヒールブーツ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > しとしとと雨の降りしきる午後。
空調が湿気を和らげる職員室の半ば、自分のデスクで事務仕事を行うヨキの姿がある。

「……ふう、これでひと段落か」

教師の仕事がまるきり終わるなどということはないのだが、それでも急を要するタスクは処理を終えた。
人一倍目立つ体躯で大きく伸びをして、ペットボトルの茶で喉を潤す。
ヨキ > 続いてスマートフォンを取り出し、通知に従ってメッセージを開く。
異邦人街で仕立てたコートに現代日本のガジェットはどうにも不似合いだが、
操作するヨキの手つきは何とも手馴れている。

風紀委員会の赤坂薫子に告げたように、教師や学生たちと交換したIDはあくまで連絡用だ。

保存された名前のいくつかが、学園にとって『正規の学生と看做されない』というだけで。
それらの『存在しない』者たちもまた、ヨキの大事な教え子であることには変わりない。

相談事。世間話。ゲームの進捗。新しく買ったスタンプのテスト送信。
溜まった連絡に小気味よい短文のテキストメッセージやスタンプを返してゆく、ひとときの休憩時間。

ご案内:「第三教室棟 職員室」にシュルヴェステルさんが現れました。<補足:人間初心者の異邦人。人型。黒いキャップにパーカーのフードを被っている。学生服。>
シュルヴェステル > 休憩時間を過ごしているヨキの耳に、遠巻きに苛立ちの混じった声が聞こえる。
どうやら中身は『没収されたものを返してほしい』というありきたりなものだ。

「……貴殿らにも職務があるとは十分に存じている。
 私も、言われずとも数多理由があることはわかっているが。
 それでも、私にはそれが必要なんだ。それを要している。
 どうか一考してはもらえないだろうか。……返却を、私は望んでいる」

堅苦しい、言葉選びの怪しい言葉の群れ。
対面している教師も、やや困ったような表情を浮かべて首を横に振る。
が、断固対面している学生――白髪をキャップとフードで覆い隠した青年は譲らない。

「それがないと困る。……事実、私は何度もこちらに来てから当惑した。
 それがあらば解決した物事も解決できなかった。
 誰の所為という話ではない。私が解決するから、返してくれと言っているんだ」

怒りすらも僅かに滲んだ声色。
青年は、自分より身長の低い教師へと冷ややかな赤い視線を向けていた。

ヨキ > やがて耳に届く声に、スマートフォンを操作する手を止める。

長身の少年――シュルヴェステルと教師の会話の内容から、用件を推察して。
なかなか埒が明かないようだと判断した頃、徐に席を立つ。

「――やあ。二人とも、お疲れ様。
よかったら、ヨキにも話を聞かせてはもらえまいか」

中立の立場を示すように、話し込む二人の間に立つ。
互いの顔を交互に見遣ったのち、シュルヴェステルヘと首を傾いでみせた。

「君は、異邦人だな。よほど大事な品物だったようだね」

そう語り掛けるヨキの顔立ちもまた、どこか日本人離れした印象を与える。

シュルヴェステル > 教師のほうは鶴の一声に安心したような表情を浮かべ。
一方、学生のほうは自分より背高の相手へも、鋭い視線を遠慮なく向けた。

「……そうだ」

短い肯定の言葉を呟くように洩らし、瞬きを数度。
柔らかい印象のヨキと一定の距離を保ったまま青年は口を開く。

「この世界に紛れ込んだのち、学園預かりとなっていた物品を返却してもらいにきた。
 が、この有様だ。それはできない、それは難しい、と首を縦に振らない」

無愛想に学生がそう言い放てば、教師のほうが小声でヨキへと耳打つ。
「この学生が紛れ込んだとき、剣を持っていたんです」。
「保護の声を掛けようとした生活委員会の学生が、それで斬られまして」。
「保護が決まったときに、武器は預かるということになったんですが」。

「返却頂きたいのだが、どこに申し出れば首肯してもらえるだろうか」

角張った無骨な言葉をつかう異邦人の学生が、ヨキに問う。

ヨキ > 両者の言い分へそれぞれ耳を傾け、ふむふむ、ほう、と相槌を打つ。

「剣……剣か……」

苦い顔をして、額に手を当てる。
シュルヴェステルの方を見遣って、穏やかに言葉を続ける。

「……生憎と、保管先を伝える訳にはゆかんな。
残念ながら、君はその『大事な剣』で学園の生徒を一人、斬ってしまった。

だがこの常世島では、おいそれと剣を使ってはならんのだよ。

君がこの島の生活に慣れぬうち、むやみに剣を抜かぬと知れないうちは――
人を斬らないという保証がないうちは、『まだ』返せない」

そこまで言って、一旦言葉を切る。

「こちらの人間の服装も言葉も、君には見慣れぬものだったろう。
君はきっと、自分の身を守ろうとして剣を抜いたのだろうな?」

シュルヴェステル > ヨキの言に、感情的な反論はなかった。
ただ、右手を強く、強く握っていた。言葉を噛み殺すように。

「そうか」

極力、淡白を装おうとしているのを伺うのは容易だ。
なんせ、こちらへ迷い込んだときに少しの躊躇いもなく剣を抜くほど。
俯きながら唇を噛み、納得をなんとかつくろうとしているような沈黙を経て。

「……では、どうすらば保証となる。
 何をして、どのような行いをして、如何なる手段で保証は得られる?
 この常世島で生きていく――いいや、帰るまでの護身は、一つとして私は持たない。
 いつまでこのような思いをしなければならない?」

切られたあとの言葉は、青年にとって核心的であり。
それを見透かされたのも含め、些か居心地の悪そうな表情を浮かべた。
キャップのつばを深く被り直す。

「すべてが。陽光のいろ、砂塵のいろ、温度、言葉も。
 ああ、そのとおりに。……貴殿の想像と、少しも違わない。
 今もこうして、誰とも知らぬ者に呪われなければ会話すら行えない」

最初にこの島にやってきたときに行われたこと。
翻訳魔術を、彼ははじめに学園所属の術士によって掛けられた。
言葉も何も通じない動物と話すために、常世学園は言葉を与えた。

「会話が行えているかも、定かではないがな」

ヨキ > 「具体的に何をすればよいか、か。
そうだな、それが知りたくなるのは当然だ。

たとえば……この常世島には、『部活』や『委員会』という集団がある。

君が身に着けた、剣術や武術。
それらの技術が役立つような組織に身を置き、そこのルールに従って活動する。

それで、君の剣術の腕が『街にとって有益である』と保証できれば――
返還を申し出ることも可能になるやも知れん」

シュルヴェステルに似た、どこか芝居がかった言葉の選び。
冷静に、相手の目を見ながら、ひとつひとつ言葉を並べてゆく。

すべてが異なる、というシュルヴェステルの言に、ゆったりと応える。

「……安心したまえ。
君の考えはきちんと筋道が立っていて、きちんと会話が出来ているよ。

たしかに言葉は魔術で与えられたものかも知れないが、それを発するための『考え方』は君自身のものだから」

シュルヴェステル > 「『部活』、『委員会』」

ぼそり、と口の中で転がすように言葉を咀嚼する。
「詳細を」と聞く前に、ヨキは欲しいものを全て用意していた。
自分の上から注がれる真剣な視線から、少しも逸らしはしない。

「……それは、首肯できない。
 剣は『誰か』のために振るものではない。
 己の身を護るための牙だ。それに、この街の人間が所持しているものと同じだ。
 彼らの手にある超常と、私の剣は同一であるはずだ」

だから、返して欲しいのだと繰り返す。
そして同時に、部活や委員会の助力はしないときっぱり告げる。
故に、交渉は既に決裂しており、異邦人の申し出が認められることはないだろう。

「であらば、返却を要求する」

異能や魔術が目に見えない「牙」であるのならば、
見えるだけで自分の剣も同じではないのか、と青年は諦めることなくヨキに視線を注ぎ続ける。

「街にとって有益でなければ、奪われ続けるのか」

ヨキ > シュルヴェステルの断固とした意志に、どこか感心の交じった眼差しで頷く。

「なるほど。君の言う『超常』――異能の力と、君の剣は同じ、と。
全く一理ある。

己の身を護るために剣を振るわねばならなかった暮らしは……さぞ過酷であったろうな」

腕を組み、片手を口元に添えて少し考える。

「……では、異能と同じと言うなら、言葉を変えよう。
『有益である』ではなく、『有害ではない』と」

言葉を続ける。

「この学園では、みな己が持つ力――『異能』のために苦しんでいる者が大勢居る。
それを制御するために学ぶ場が、この常世学園だ。

君は己の身を護るために剣を抜いた。
だがこの学園では、『基本的に』君の身を害しようとする者は存在しないはずなんだ。
事情を説明し、君の身を保護しようとした生活委員を含めて、な。

それならば、ヨキが求める条件は『剣を持ちながらにして抜かぬこと』だ。
君の身を害さない者に向けて剣を抜くことは、制御不可能な異能と何ら変わりない。

言葉で伝えること。他者を信頼すること。
それらの『剣を抜く以外に自分の身を護る方法』を、身に着けてはもらえまいかね?」

シュルヴェステル > 「私にとっては――善き、暮らしであった」

なにかを変えたいとあらば、自らに実力がなければ変えられない。
逆説、会話などという小難しい過程を飛ばして結論に辿り着くことができる世界。
懐旧じみた、少しばかり寂しそうな視線を窓の外に向ける。
はじめてヨキの視線から逃げるように見た空には、鳥が数羽連なって飛んでいた。

「……『有害ではない』」

復唱した。
端的な言葉であり、自分の行いを示す言葉でもあった。
であるからして。中立的で端的な物言いを再度求めるかのように。

「それは、誰が決めるものなのだろうか」

『君の身を害しようとする者は存在しない』。
『君の身を害さない者に向けて剣を抜くことは、制御不可能な異能と何ら変わりない』。
よくわかる言葉だった。異世界の者に対して、実にわかりやすかった。
だからこそ、異邦人の青年はちらりと視線を戻して、問いかける。

「私が『害された』と感じれば、――言葉が通じないと断じたらば」

首を横に振る。

「それを身につけることがこの世界から抜け出す一歩になるのならば、努力は惜しまない。
 が、もし、それが叶わないと断じた折には、恐らく私は剣を抜くだろう。
 貴殿の言がすべて正しいのであれば、抜く機会はない。逆説これは発生しないことになる」

「して、」

視線でヨキへと問いかける。
自分の没収されていた細剣を返還してもらうことは叶うのか、と。

ヨキ > 「そうか。だとすれば、今の状況はさぞ歯がゆく、腹立たしいだろうな。
……このヨキもまた、この島へは右や左の概念も知らぬまま辿り着いた身だ」

シュルヴェステルの短い述懐に、ヨキもまた遠い過去を織り交ぜた。

「誰が決めるか。それはこの島で君と交わり、君の姿を見かける全員だ。
教師。学生。委員会。その他街に居る、全員が。

何も、君を監視しようとしている訳ではない。

君が他の人間――たとえば(傍らの教師へ目配せして、)ヨキたちを、敵ではないかと警戒しているのと同じで。
もしも周囲の人間が帯剣している君を見かければ、『むやみに斬られやしないか』と及び腰になるものなのさ。

この世界の者たちは、君ほどには長い刃物を見慣れていないものでね。

……万が一にも、これから先。
君が『剣を抜いていい機会』があるとすれば――」

目線がひととき、鋭くなる。それはまるで、忠告めいて。

「『素手では太刀打ち出来ぬ相手に遭遇したとき』だ。

相手が君へ『敵意を持って』『武器や異能を』振るってきたとき。
そのときだけは、『正統な防衛を行った』として『有害な行為ではない』と看做されるだろう。

『この学園の周りや、学生街では』、そんな騒動は起こらないはずだからね。
それが君に可能だと言うなら――

――生活委員会に掛け合ってみるといい。

我々異邦人の身元は、君が斬った相手が所属していた生活委員会が担っている。
剣を預かっているのは、委員会街に居る彼らだろう」

シュルヴェステル > 右や左の概念も知らぬまま辿り着いた身。
それを聞いて、そこで初めて――年相応らしい驚いたような表情を浮かべた。

「……それは、失礼をした」

短いながらも、謝罪の言葉がヨキへと向けられる。
そして、すぐに。述べられる言葉言葉を聞きながら、少しだけ目を細める。

「……、」

及び腰になる、と。長い刃物を見慣れていない、と言われれば。
青年は少しだけ口を開けてから、また言葉を飲み込むように閉ざす。
訓戒めいた言葉は、暫しの沈黙によって咀嚼とし、喉を通す。

「それであらば、可能といえる。
 なにも、目につくもの全てを斬りつけて歩きたいというわけではない。
 ただ、……私も、手元に自分のものを置いておきたいだけだ。
 ……セイカツイインカイ。承知した。委員会街、か。調べてみよう」

嘘ではないが、真実ではない言葉。

――私も、目に見えぬ超常持つものたちに。
むやみに傷つけられやしないかと、おそれているだけなのだ。

言葉は、飲み干されて残らない。

「承知した。教示、感謝する」

そう言って、青年は静かに背を向ける。
傍らで話を聞いていた教員が、ヨキへと薄いファイルを差し出す。
「彼は、どうにも扱いづらい。助け舟を出してくれて助かった」と。
「会話を彼は、こちらに来た当初から拒んでいたらしくてね」と。
そのファイルは、人を傷つけた「動物のような」異邦人に関する記録であった。

ご案内:「第三教室棟 職員室」からシュルヴェステルさんが去りました。<補足:人間初心者の異邦人。人型。黒いキャップにパーカーのフードを被っている。学生服。>
ヨキ > 「気にするな。君がそうと気付けないほどには人間として成長できた、というのがヨキの誇りだよ」

相手からの謝罪に、小さな笑みを返す。

「ああ。もしも埒が明かぬときには、改めてヨキに相談してくれ。
そのときにはまた、何らかの助け舟も出せよう。

――そうでなくとも、君とはまた語り合いたいものだな」

その場を辞するシュルヴェステルへ、こちらも挨拶を返す。
立ち去ったのち――教員から示されたファイルへ、目を落とし。

動物のような。
その一文に、興味深そうに目を細めた。

「…………、ほう? これは――
恐らく、しばらくは万事解決という訳にはゆくまいな。

――獣の恨みと恐れほど、根深いものはない。

ご苦労だったな。
水分でも摂って、少し休みたまえ」

ファイルを閉じ、教員へ返す。
労いの微笑みを最後に、ヨキもまた自分の席へと戻ってゆく。

ご案内:「第三教室棟 職員室」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた細身の白ローブに黒革ハイヒールブーツ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>