2020/06/15 - 22:11~01:24 のログ
ご案内:「大時計塔」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた細身の白ローブに黒革ハイヒールブーツ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > 夕刻の時計塔。
見回りのためにやってきた、長身の教師の姿がある。
高所を通り抜ける風は涼やかで、まもなく夜を迎えようとする常世島の眺望は美しい。
「……斯様な場所なら、忍び込みたくなるのも無理はない、か」
一歩ごと、かつん、かつん、とヒールの足音が響く。
塔の隅々にまで、先客がないかを確かめて歩いてゆく。
ヨキ > 風が髪を揺らす。
「……………………」
不意に足を止め、眼下の景色を見下ろす。
過日に交わしたいくつかの会話を思い出す、遠い眼差し。
足を止めて思案に耽る姿は、傍から見ればヨキもまたここへ忍び込んだ学生と変わらない。
ご案内:「大時計塔」に北条 御影さんが現れました。<補足:赤いショートヘアの少女>
北条 御影 > 夕日を眺めるその後ろ姿を見て、足を止める。
止めたのは足だけでなく、息遣いもだったが―
沈みゆく夕日に照らされて映えるその艶やかな黒髪に、息を呑む。
呑み込んだのは息だけでなく、言葉もだったが―
「―あ、の。先生」
言おうと思っていた―言わなければならないことは色々あった筈なのに、やっと出てきたのはこれだけだ。
「御影、です。北条―御影」
彼が振り向く前に、名前を告げる。
それだけでわかってくれたらいいと、淡い期待を胸に抱いて。
ヨキ > 掛けられた声に、振り返る。
闖入者を注意しようとした教師の表情が、しかし瞬きと共に止まった。
北条御影。
聞き覚えのない名前を突然投げ掛けられたように、少し考える。
「……北条君? ……」
それはただ、名乗られた名を反芻したに過ぎない。けれど。
ヨキの視界の中で、“北条御影”と、小柄な赤毛の少女の姿が結び付いて――
「君は……」
ふっと笑う。声が先ほどよりも和らいで、深くなる。
「――ああ。北条君、か。こんにちは、また会ったね?」
人間違いを憚って、意を決して口にしたかのような言い回しだった。
「ヨキはまた、君のことを忘れてるみたいだ」
初めて会ったとき以来、心に刻んだ鉄則――“己を呼ぶ赤毛の少女は、決して初対面ではない”。
北条 御影 >
こみ上げてくる想いを、言葉を、今度は意図的に抑え込んだ。
ダメだ、泣くな。
まだまだ話したいことがある。
涙なら、それが全部終わってから流せば良い。
今はこの「知人」との時間を大切にしなければ―
「はい、お久しぶりです」
ふり絞った声は、震えていないだろうか?
ちゃんと、笑えているだろうか?
「いいんです。それは先生が悪いわけじゃないんですから。
忘れてても、いいんです。『また』、って。そう言ってくれるだけで」
たったそれだけの、なんと得難いことか。
その二文字が、今の自分には何よりも嬉しい。
「また、会いましたね」
だから自分も口にする。
この言葉の意味を理解してくれる人がこの島にどれだけいるのだろう?
自分からこの言葉を口にすることはままあるけれど、
それでも今この時、この人に向けるこの二文字は、特別な意味を持つ。
ヨキ > 「――よかった」
安堵に、顔をくしゃくしゃにして笑う。
「人違いをした記憶だけは、沢山残ってる。
君と似ても似つかぬ子を、何度も君の名で呼んでしまってな。
その子にも、君にも申し訳ないことをしたと思いながら……、
それでも、いつか君に会えると信じて諦めなかった」
また会えた。また。
彼女がそう認めてくれた事実に、ヨキは今度こそ自信を持って手を伸ばす。
ぽん、と。
女性へ向けた控えめな力で、軽やかにその肩を叩く。
「初めて会う女の子に気安く触れるなど、気が引けるが……。
正真正銘、我々は『はじめまして』ではないのだな。
初めて会ったときのヨキは、絶対に次も会いたがったはずだった。
……君だけでなく、ヨキの願いも叶ったよ」
北条 御影 > 「会いたかった」とまで言ってくれるなんて、想像もしていなかった。
彼はきっと過去の記憶を思い出したりはしていないのだろう。
それでもこうして自分との再会を喜んでくれている。
「本当にありがとうございます。
あの、私…ほんとに嬉しくて。―あは、どうしようかな。何か…上手いこと喋れませんね」
喜びと、照れくささと。
その他諸々がない交ぜになってしまって言葉にならない。
せめて泣き出さないようにと先ほど堪えたというのに、
結局何も言えないのでは意味がない。
「―っと、あの!次は!次は…あの、何を約束すればいいですか?」
何度か視線を泳がせ、指先をまごつかせて、何とか言葉を紡ぐ。
知人との会話なんて久しぶり過ぎて、何を話していいか分からなくなって。
「あのっ、約束!約束があれば、私、次もきっとヨキ先生に会いに行けます!
何か、理由が―。先生に会いに行く、理由が…欲しくて」
だから、こんな言葉が出た。
知人との接し方なんて、とうの昔に忘れてしまっていたのだろうか
余りにも卑屈な、けれど切実な―
ヨキ > 「君は本当に……寂しい思いをしてきたのだな。
済まぬ。ヨキはまだまだ、君を忘れてしまうことには打ち克てない。
君のその喜びに溢れた顔が、誤りではないというたった一つの証明だ」
困ったように笑って、前髪をくしゃりと掻き上げる。
事実、ヨキは目の前の教え子のことを跡形もなく忘れている。
スマートフォンに残された、顔馴染みのごとく挨拶せよ、というタスクだけがヨキを繋ぎ止めているのだ。
「約束?」
御影の申し出に、笑って首を振る。
「そうだな、何か決めておきたいところだが……。
ふ、はは。急に声を掛けられたものだから、まだ思い浮かばなくて。
だが――」
スマートフォンを取り出す。記されたメモに残る、彼女との時間。
「――今やりたいことはあった。
君と、一緒に写真を撮って残したかったんだ」
北条 御影 > 分かっている。
彼が自分のことを覚えているわけではないと、そんなことは分かっている。
それでも縋りたい―否、縋るしかないのだ。
例えそれが彼の善意によって形作られたガラスの梯子であったとて、
暗い穴底で過ごしてきた彼女にとって、余りにも美しく、余りにも眩しい。
「―しゃ、しん」
思わず、声が漏れた。
考えたことが無いわけではない。
実際、初対面の相手とノリで写真を撮ったり―なんてことが無かったわけではない。
ただ、皆、知らないうちに携帯に入っていた見知らぬ相手とのツーショットを気味悪がって消してしまうのだ。
「あ、の。それは…全然、構わないんですけど。
明日のヨキ先生は…気味悪がったり、しません?
知らない女の子とのツーショット、だなんて」
彼がそんな人ではないことは分かってはいる。
何せ実在するかも分からない生徒のために、只管に見知らぬ生徒全員に名前を訪ねて回る程だ。
そこまでしてくれる相手に、今更こんなことを訪ねるのは失礼にあたるだろうことには、気づけなかった
ヨキ > ヨキの視線は真っ直ぐだ。
目の前の少女の顔を、一秒でも長く焼き付けようとするように。
「明日のヨキは、必ず君を忘れてしまうだろう。
だが……この写真は、次への手掛かりになるはずなんだ。
君を見つけ出すための。君に見つけてもらったとき、記憶と結び付けるための。
気味悪がるくらいなら、今日はとても仲の良い風に撮ればいいのさ。
仲睦まじいのに顔を知らない相手だなんて、尋常でないと気付けるだろう?
だから……」
失敬、と告げてから。
御影の傍らへ、慎ましやかに寄り添う。
顔の高さを合わせながら、スマートフォンを正面に翳して。
「――肩を、組ませてもらってもいいかね。
君も出来るだけ、ヨキと仲良しに見えるように撮られてほしいんだ」
北条 御影 > 「―は、はいっ!よろしくお願いしますっ!」
肩にかかるヨキの腕の重みにぞわぞわと背筋に何かが走る。
決して悪いものではないのだろうけれど―ひどく、むずがゆい。
くすぐったくもある不思議な感覚が、触れ合う肩から全身に広がっていく。
「仲良く、仲良くですか。
えと、それじゃー失礼しまして」
「えい」と掛け声一つで此方からも肩を回すなんてことが出来てしまった。
温もりで緊張がほぐれたのか、はたまた熱に浮かされてまともな思考が出来なくなったのか。
ともあれ、先ほどまで頭の中の大部分を占めていた暗い想いは鳴りを潜めていた。
「仲良し、ですもんね。
だったらこのぐらい、当然ですもんね」
それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
何度か自分に言い聞かせるようにつぶやいた後―
に、と少し強張った笑顔をスマートフォンへと向ける。
ヨキ > 「ははは、上出来だ。
入ってはいけない時計塔で、先生と肩を組んで写真を撮るなんて、得難い経験にも程があるだろう?」
笑って、シャッターを切る。
画面の中に残る、ヨキと御影の顔。
満足げに笑って身体を離し、ありがとう、と礼を告げる。
「この写真、ぜひ君の端末にも送らせてくれないかな。
ヨキが何度でも君と知り合うというしるしに、君にも持っていて欲しいんだ」
大事なものを支えるように、スマートフォンを両手で持ちながら。
「ふふ。君の方こそ、ヨキには何でも我侭を言ってくれていいんだ。
きっと君は、たくさん遠慮と我慢をしてきたのだろうから。
ヨキが君にしてやれることは、何かあるかね?」
北条 御影 > 「あ、えっと。それなら…あの、アドレスの、交換を」
おずおずと自分の携帯端末を取り出し、画面をヨキに向ける。
表示されているIDを登録すれば、特に問題なくアプリ上での「友達」となるだろう。
互いに登録を済ませれば、先ほどの画像を送ってもらい―
「あの、それじゃ一つ、やってみたいことがあるんです」
暫く「友達一覧」に久しぶりに追加された名前を見つめていたが、
ヨキの言葉に小さく頷いてから顔を上げる。
「―遊びに行く約束を、してもらえませんか」
そう告げる瞳はまっすぐにヨキを見つめている。
きっと彼は「また」、忘れてしまうだろう。
それでも「また」、出会えるだろう。
彼の努力と優しさにただ甘えているだけなのは何となく分かってはいる。
だけど、一度くらいは夢を見てみたかった。
いや、嘗ては日常だった他愛のない「約束」をもう一度してみたかったのだ。
今となっては、途轍もなく重たい「約束」となってしまうのだろうが、それでもだ。
ヨキ > 御影が新たな“友だち”として画面上に表示される。
他愛ないほどあっさりと増えた、限りなくかけがえのない名前。
手慣れた操作で写真を送る。
ついでに、ゆるキャラが“わ~い”と手を挙げてくるくる回るスタンプ付きだ。
「遊びに行く約束?」
徐に、噛み締めるようにはにかんで。
前回御影と会ったときの記録を読み返しながら。
「――いいよ。どこへ行きたい?
バレンタインに会ったきりだから、ホワイトデーがてらお菓子を食べに行くのもいいね。
他にもきっと、行ってみたいところはいっぱいあるだろう?
買い物や、映画や、公園や、ゲームや……いいとも、いくらでも付き合うよ。
ヨキの休日を、丸ごと君にあげる」
北条 御影 > ―やっぱり。
やっぱり彼は、笑って受け入れてくれた。
この約束が自分にとってどんな重みを持つかは、わかっていることだろう。
そしてまた、彼にとってどんな重みを持つかも。
それでも、受け入れてくれた。
だから今は、それを素直に喜ぶことにしよう。
笑っていよう。この時間を出来る限り楽しいものとして、記憶しておきたいから。
「やった!さすが先生、太っ腹です。
まさか一日貰えるとは思ってませんでしたよ」
ぱん、と何かを切り替えるかのように手を打てば、笑顔の花が咲いた。
あれもいい、これもいい、と楽し気に悩みながらヨキの周りをうろうろと歩き回り、やがて―
「あーもう、やりたいこと多すぎてとてもじゃないですけど決められそうにないですよこれ。
選択肢が多すぎるのも困りものですよねぇ」
立ち止まり、軽く肩を落として苦笑い。
そこまで言って、不意に言い淀む。
「あー、っと。だから、その。
今後の予定は…そう、メッセージ!メッセージでやりとりましょう!
その、友達ですから!そのぐらい…普通、ですよね?」
此処までしてもらえて尚甘えてしまう自分が少し嫌になる。
けれど、彼は言ってくれたのだ。「なんでも我儘を言って良い」と。
だから、もう遠慮はしない。
こうして受け止めてくれるのは、今はきっと彼だけだから。
だから、精いっぱい甘えて、頼って、縋って。
それでもなお忘れるのなら、その分の新しい想い出を一日かけて作ればいい。
今の自分にはそれが出来る。
だって、彼と自分は「新しい友達」になったのだから。
ヨキ > 自分の周りを歩き回る御影を、ヨキもまたその場で回って目で追い掛けた。
「大事な教え子との時間だもの、一日くらい簡単なものさ。
……ふふ。その様子を見るに、出かける日は大層充実した一日になりそうだな」
メッセージでのやりとりを乞われて、当然のことのように頷く。
「ああ、いいとも。
電話も、ビデオ通話も、たくさんしよう。
そのたびに君を忘れてしまうやも知れんが――そのたびに覚え直して、何度でもやりとりしよう。
大丈夫。もしもヨキが忘れても、スマートフォンは全部覚えていてくれるから」
スマートフォンを仕舞って、再び御影に向き直る。
「ああ。普通のこと、普通なのにし難かったこと。
何でもヨキに頼んでくれて構わない。
君の異能を克服することは、未だ夢のまた夢だが……。
その苦しみをカバーする手段を、共にひとつでも多く見つけていこう」
ぱっと笑う。笑い飛ばす。
何ということはないのだと、言い聞かせるように。
「そうしたら、ヨキ以外にもたくさんの『友だち』を増やしていく勇気も出るかも知れない。
君は、もっと助けを求めて構わないんだ。それに応えようとするのが、本当の友人なのだから」
北条 御影 > そう、その通りだ。
確かに彼の記憶は消えてしまうだろう。
それでも、電子媒体の記録されたデータは残り続ける。
だからこそ、彼女にとってこの新しい繋がりは非常に大きな意味を持つ。
今まで何度か最初の「初めまして」でアドレス交換をしたことはある。
それでも、どうせ次の日には忘れてしまうのだろうと―
知らない相手からのメッセージは気持ちが悪いだろうと―
その次の一歩を踏み出すことを躊躇ってきた。
だが今、こうしてその一歩を踏み出すことを「良し」としてくれる友人が目の前にいる。
忘れてしまうことを否定せず、その上で自分との関係を築いてくれると、そう言ってくれた。
ならばもう何も怖いことは無い。
何時かきっと、忘れてしまうことをすら笑い飛ばせてしまうようになる。
そんな未来のために、もう少しだけ一歩を踏み出す勇気をもってみようと思えた。
「じゃぁ…。先生は、私がこの島に来てからの初めての「本当の友達」ですね。
だから、こう言っておきます」
またね、でもない。
さようなら、でもない。
もっともっと、未来が明るいものであると。
そう思える言葉こそがふさわしいハズだから。
「これから、よろしくお願いしますね!」
そう言った彼女の表情は、今までのどの瞬間よりも輝いていたことだろう―
ご案内:「大時計塔」から北条 御影さんが去りました。<補足:赤いショートヘアの少女>
ヨキ > 「ヨキを本当の友達と言ってくれるのか?
ああ、嬉しいな。今日一日の疲れが吹き飛んだし――明日からも頑張ろうと思える」
たとえ明日その言葉を忘れてしまっても、今日そう感じたことは嘘ではない。
以前も誓ったように、ヨキは何度だってそうして彼女を心に刻み続ける。
何度でも、何度でも。繰り返し。折れることなく。
「こちらこそ、よろしく頼むよ。次に出かける日を楽しみにしてる。
北条君――明日からも、ずっとずっとヨキの友人である君」
笑い返す。
別れを告げれば、すぐにスマートフォンに今日の思い出を打ち込んで。
二つの笑顔が並んだ写真を見ながら、力強く頷く。
ヨキ > ――やがて。
階段を降りて職員室に戻る頃、時計塔巡回の記録簿にはこう記される。
“異状なし”。
忍び込むような不埒な学生は、ひとりも居なかったのだと。
それが果たして、御影の異能による忘却なのか、あるいは“友人に対する厚情”だったのかは――
さて。
ヨキは間もなく、すっかり忘れてしまったことだろう。
ご案内:「大時計塔」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた細身の白ローブに黒革ハイヒールブーツ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>