2019/04/08 - 21:40~22:56 のログ
ご案内:「常世体育館」にアリスさんが現れました。<補足:バレーボールウェアを着た二年生。(乱入歓迎)>
アリス >
私、アリス・アンダーソン!
今年の四月から二年生になった常世学園生徒!
今は、バレー部の仲間たちと共に常世体育館で宿敵との試合に臨んでいる。
私たち常世学園バレー部(通称トコガク)と
強豪・奈良九園バレー部(通称ナラク)との試合は一進一退の攻防の果てに。
お互いが1セットを取って最終ラウンド前のブリーフィングをしていた。
私たちトコガクとナラクとの試合の数々はアビスの戦いと呼ばれ、今までも度々注目されてきた。
けど、今日という日に彼らに勝つのは私たちだ。
スポーツドリンクを飲みながら、少しでも失った体力を取り戻そうとコーチの話を聞いている。
コーチは“その場にいる無関係の生徒をバレー部の部員に仕立て上げる異能”を野放図に使う以外は最高の指導者。
今回も、私たちに勝利への道を示してくれるはず。
アリス >
コーチが拳を握り、私たちに声をかけようとして躊躇う。
きっと精神論を振りかざしそうになった自分を古いタイプの指導者だと恥じてる。
そういうコーチだからこそ、私たちは信じてついてきたのにね。
「コーチ! いつもみたいに私たちの背中を押してよ」
タオルで額の汗を拭い、指にテーピングをする。
ここから先は怪我なんて関係ない。
精神力で勝つ。
コーチが私たちの顔を一巡するように見て、
『いいか、お前ら! バレーは一人でするスポーツじゃない!』
『オレたちのチームはナラクに個人の力で勝てない、それでも……組織力で勝て!!』
集合の合図がなされた。
私たちはタオルや飲み物をその場に置き、コートに向かって歩き出す。
今までの練習が私と彼女たちを、“私たち”にしたんだ。
絶対に勝つ!! ホイッスルが鳴り、私たちのサーブが始まる。
アリス >
私たちのチームのエースが弾丸のようなサーブを撃つ。
入る!! エンドラインのギリ手前!!
しかし、ナラクのリベロが素早く動いてレシーブしていた。
「ナイッサーナイッサー!」
2アタックは恐らくない。
ナラクの絶対的エース、神気初子に繋げてくる。
こちらのブロックは三枚。
抜けてきたら……その時は絶対に拾う!!
神気は背が高い。その長身と長い手を武器にしたアタックは。
ブロックを抜けてちょうど空白地帯を撃ち抜いた。
「……っ! う、打ち分け……」
嘘でしょ、Aクイックだよ!?
あの威力で、あの角度で、あの速度で……落とすべき場所まで分けてくるなんて。
これが圧倒的エース。ナラクの揺るぎない支柱。
アリス >
『一つ、聞いてもいい?』
アタックを撃ち終え、私を見下し……ううん、見下ろしていた神気初子が言葉を発する。
『あなたのポジションは?』
その言葉は、挑発。私の上背を見れば当然、リベロ以外に道はないと思うはず。
でも、私は。私のやるべきことは。
「ミドルブロッカーよ。あなたに勝てって言われてこのコートにいるの」
背が低くても。
腕が短くても。
主人公になれなくても。
神気初子に勝ちたい。
惨めで。
悔しくって。
みっともなくって。
それでも……最後はあいつに勝ちたい。
一進一退の攻防、いや……私たちの不利で試合は進む。
アリス >
試合のムードはもちろん、応援でもナラクは圧倒的だ。
『押せ押せナラク! 勝て勝てナラク!!』
そんな声援が常世体育館を揺らしている。
俯きそうになる時。
負けそうになる時。
『顔を上げろ!! バレーは上を向かなきゃ始まらないんだぞ!!』
コーチの声が、私たちに力をくれる!!
『必ず拾う!!』
リベロの声が響く。
その言葉の通り、神気初子の強烈無比なアタックを弾くように上に上げた。
次の瞬間。
私を含め、トコガクが全員で前に走った。
同時多発位置差攻撃(シンクロアタック)。
守りも残り体力も関係ない。攻めなきゃ勝てない!!
アリス >
ナラクのブロッカーが舌なめずりをしたのが見えた。
相手の嗅覚は本物。でもこのシンクロは読みきれない!!
何故なら! 私が!!
誰よりも速く! 誰よりも高く!! 誰よりも先に!!
飛ぶから!!
ネットすれすれで、私は飛ぶ。
私の放つ殺気を感じ取ったのか、ブロックが二枚前に出る。
それでも。
背が低くても、誰にも届かない場所へ行けるのなら。
私は!!
踏み込む足、右足に力が入る。
左側に大きく跳びながら、セッターからドンピシャで上がってきたボールを相手のコートに叩き込んだ。
シンクロからの移動攻撃(ブロード)。それが私たちの出した答え。
アリス >
流れが変わる。
トコガクは無回転サーブとシンクロ、ブロード、セッターの2アタックと多彩な攻めで点を取り始める。
お願い、もう少しだけ。
私の手……無理を聞いてね。
テーピングした指に痛みを隠して、私はまた飛んだ。
この場の誰よりも背の低い私が。
この場の誰よりも高く飛べると信じて。
アリス >
20-19でトコガクのマッチポイント。
これが最後。ジュースで長引いたらもう……私たちには体力が残されていない。
気力だけでその場に立ち、吼える。
無回転サーブを読みきった相手リベロがボールをふわりと浮かせる。
ナラクは来る。絶対に神気初子で落としにかかる!!
わかってても拾えない最強の一撃で、私たちの心を折りに来る!!
その時、何かが噛み合った。
歯車のように、がっちりと。
私たちが、“群れ”として完成された…気がした。
これが幻想であっても。
今は力に変えて。
神気初子のアタックを、トコガクのブロックが弾く。
この試合で初めて、ブロックが喰らいついた。
疲れていたのは、私たちだけじゃなかった!!
「ワンタッチィィィィィィィィィィィィィ!!!」
同時多発位置差攻撃に時間差とブロードを組み合わせた。
これが私たちのファイナルアタック。
ヒリつく空気を胸いっぱいに吸い込んで、疾走る。
破れそうな心臓に、酸素が流れ込む!!
『来る、小さいののブロード!!』
小さいのは余計だっての!!
ブロックに参加する神気初子に獰猛に襲い掛かる、私の殺気。
最後の力を振り絞って、左の空きスペースに飛ぶ。
セッターは。
私じゃなく、エースにボールを流した。
シンクロも。ブロードも。時間差も。
全ては。この瞬間のために。
私が囮になり、空いたブロックの僅かな隙間にエースがアタックをねじ込む。
アリス >
それすらも拾いにかかるナラクのリベロ。
しかし、レシーブは僅かに届かない。
審判が試合終了のホイッスルを鳴らす。
「お……終わっ………」
荒い呼吸で呆然とスコアボードを見ている。
信じられない。私たちが、あのナラクに勝っ……
ふと、疑問が湧いた。
何故、私はこんなところでバレーボールを?
振り返ると、一足先に洗脳が解けた仲間たちがコーチをボコっている。
『あんたまた異能使ったでしょ!!』
『洗脳してないで普通にバレー部の勧誘しなさいよね!!』
コーチが蹴られる姿を見て、私は。
「世界一無駄な時間すごした」
と、肩を落として更衣室に向かっていったのだった。
ご案内:「常世体育館」からアリスさんが去りました。<補足:バレーボールウェアを着た二年生。(乱入歓迎)>