2020/06/20 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に幌川 最中さんが現れました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。人好きのする見目。後入り歓迎>
幌川 最中 > ――そこは、かつて違反部活の「部室」だった。

その部活があったことは、記録という闇の中に葬られて、覚えている者も多くない。
その部活の活動は実にありきたりで、どこにでもあって、
探せば同じようなものは二、三と見つかることだろう。
現に、幌川最中の記憶の中にも、同じような「部活」は数多く存在している。

そのうちの一つに、久々に足を運んで。
赤い風紀委員の制服を腰で結んだシャツの男が、古びた廃墟に立っていた。

いまもあの日の風景は思い出せる。
いくらでも、いくらでもだ。動物と人間の垣根もないような空間を。
無能力者と異能者の垣根もないような空間を。
幌川最中は、決して、1日たりとも忘れたことはない。

「こんなとこに入り込んでるやつァいねえか~~。
 こんな倒壊寸前5秒前のクソ怪しい空間に居座ってる学生はいねが~」

間の抜けた声で、足音を響かせながら「見回り」をする。
風紀委員会の仕事らしく、二級学生はおらんか~と言わんばかりに、丸腰で。

幌川 最中 > 足音はしない。ただ、静かなままだ。

「付き添いますよ」と言ってくれた後輩を無理やり帰して、
先の会議を思いながら淡々と歩みを進めていく。

今やここには何も残されていないが、どこになにがあったか。
誰がどこにいたのか、そして、誰が最も裁かれるべき「悪人」だったかを。
その全てを、余すことなく覚えている。

打ちっぱなしのコンクリートの黒ずんだ汚れが、
一体なぜ、いつ、どうやってついた汚れであるのかを、知っている。

反響音だけが響く廃墟に、わざわざ足を向けていたのは。
その片手に持った花束を持ち寄った理由は、ただ一つでしかなく。

「すまんかったな」

いまにも崩れそうな廃墟に膝をついてから、花束を手向けた。
……墓石の代わりのように、積み上げられた瓦礫の上に。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」に日ノ岡 あかねさんが現れました。<補足:常世学園制服。軽いウェーブのセミロング。首輪のようなチョーカーをつけている。>
日ノ岡 あかね > 「一人でこっそり墓参り?」

声が落ちる。
月明りの差し込む廃墟。
耳が痛い程の静寂と、堆く積み上げられた塵埃だけが支配する――忘れられた空間。
そこに、音もなく現れたのは……常世学園制服に身を包んだ、ウェーブのセミロングの女。
女の名は。

「なら、私も付き添っていいかしら?」

日ノ岡あかね。
元違反部活『トゥルーサイト』所属。
一年間の『補習』を経て、外に出てきた『首輪』付き。

「手ぶらだけどね」

真っ黒なチョーカー……委員会謹製の異能制御用リミッターを見せびらかすように襟を広げて。
日ノ岡あかねは……静かに笑った。

幌川 最中 > 「二人も三人もいるように見えるか?」

ほんの少しだけ疲れた表情で両手を広げてみせる。
音もなく。文字で書いてわかる通り、誰であろうが足音を隠せない廃墟に。
まるで黒猫のように現れた女の顔は。

「あかねちゃんも覗き見たあ、趣味が悪いねえ。
 化けて出られないように「こう」してるだけさ」

顔なじみのように笑う。文字通り、旧知の相手を迎えるような表情。
幌川最中が5回目の「4年生」をしていたときに起きた事件で関わった相手。
……可愛い、「後輩」のうちの一人の姿を認めて。

「似合ってんなあ。赤か黒かで、ちゃんと黒選んだヤツには感謝せにゃならんな。
 『そう』してるほうがよっぽど可愛いぜ、あかねちゃん」

日ノ岡 あかね > 「でしょ? 私も結構気に入ってるのよ。制服にも合わせやすいし……結構気が利いてるわよね? 先輩達も」

先輩達。風紀委員会。
日ノ岡あかねを『補習』に放り込んだ組織。
『トゥルーサイト』を壊滅させた組織。
そこに所属する大先輩……幌川最中に、あかねは楽しそうに笑った。

「ごめんなさいね、化けて出ちゃって」

冗談めかしてそう笑って、目の前まで歩み寄る。
じっと最中の顔をみて。
ずっと最中の顔をみて。

「久しぶり、モナカ先輩。相も変わらず留年楽しんでる?」

あかねは、かつて自分を捕まえた相手……その一人に、緩やかに微笑んだ。

幌川 最中 > 「捲れるスカートがある相手なら化けて出られてもいいけどな」

本気めいた表情を浮かべながら、口元は弧を描く。
じっと最中の顔をみるあかねの足元をみて。
ずっと最中の顔をみるあかねの腰元をみて。

「楽しんでるよ。今日も本当に楽しかった。
 これだから委員会活動はやめらんねえんだよなあ。
 10年目だぜ、10年目。愛され続けて10年目。いやあ、やめられん」

最中は、かつて自分が捕まえた相手……その一人に、笑みを浮かべ。

「あかねちゃんも、相変わらず『楽しんでる』んだろ?」

日ノ岡 あかね > 「ええ、お陰様で毎日ね。スカートに関しては安くないから諦めて欲しいけど」

可笑しそうにそう笑って、あかねは最中の顔を見上げる。
廃墟には微かな血の香が残る。
実際はきっと気のせいだ。そうに違いない。
それでも、そう思わせるほどに……壁に染み込んだ黒は、今もハッキリと残っている。

「1年しっかり『補習』した甲斐があったわ。ま、10年ダブってる先輩からすれば、私の1年ダブりくらい何でもないと思うかもしれないけれど」

猫のように目を細めて、あかねは笑う。
月のように曲がる最中の口元を見つめて……静かに。

「会議、楽しかった?」

そう、問うた。

幌川 最中 > 「男ってのは高けりゃ高いほど挑みたくなるんだよ」

熱の入った様子でそう言ってから、自分の顔を見上げる後輩を見て。
その廃墟のどれもこれもを視界から外して、
真っ黒の瞳をじっと見つめながら大真面目に口を開き。

「チューしても今ならバレないな」

そして、問われた問題には「相変わらず耳年増で」と笑い。
冗談を添えて、目を細める。距離はつめたまま。
お互いにお互いの顔だけをじっと見つめて、それを見ている者はいない。

あかねの腹部に、無骨な硬い“なにか”が当たる。
安っぽい火薬の匂いだけが鼻先を擽れば、笑みを表情から消した。

「ああ、そりゃあもう、楽しかった。
 ……可愛い後輩の健全な成長を見るのが楽しくない奴なんていなかろうさ。
 あかねちゃんの方こそ。
 こんなとこらじゃなく、あっちで楽しい学生生活したほうがいいんじゃないか?」

首元のチョーカーは委員会謹製。
即ち、監視対象である日ノ岡あかねの行動は多少なりとも把握している。
彼女が、未だにこの落第街を居場所としていることは、男も知っていた。

日ノ岡 あかね > 火薬の匂い。
押し付けられた硬い『何か』。
最中の顔から笑みが消えても、あかねの笑みは消えない。
月が雲に隠れる。
訪れるのは……真っ黒な夜。
闇の中で、あかねは呟く。

「勿論、『あっち』でも学生生活楽しんでるわよ? 知ってるでしょ、私、マメに報告書だしてるし」

監視対象である日ノ岡あかねは、委員会への毎日の報告書提出が義務付けられている。
それは……『少なくとも報告書を毎日提出できる距離』より外に出ることを許さないという事でもある。
落第街は……その距離のほぼギリギリだ。
最中の言う通り、『今のあかね』が本来居ていい場所ではない。
それでも。

「でも、だからって『こっち』を無かったことにするなんて……『嘘』でしかないわ」

日ノ岡あかねは……ただ、笑った。

「そう思わない? 最中先輩。見て見ぬ振りなんて……出来ないでしょ?」

幌川 最中 > 「それを俺に言うたあ、さては皮肉だな」

ため息交じりにそう言ってから、表情の見えない後輩に。
揺れる黒髪から、甘やかな女の香りがする。
それ以外はなにもわからない。お互いに、ひとつも。

「俺ァ報告書に目を通せるほど偉くねえからなあ。
 ……どうだかなあ。あかねちゃんは謎の多い女だからな」

首を軽く横に振ってから、笑い声混じりに息をついて。

「見て見ぬ振りは、されてるさ」

落第街。そんな街の存続が成っているのは。
奇妙なバランスの上で成り立っている「こちら」と「あちら」。
それは、『誰か』が見て見ぬ振りをしているからにほかならない。
この常世島の上で、この場所がこうしているのも、この墓が崩れないのも。
見て見ぬ振りを、されているからこそで。

「『こっち』なんては、もとから『無い』。
 あかねちゃん。それが『本当』のことじゃあねえかと思うがね」

次に月明かりが差し込んだときには、最中の両手は空っぽだった。

「見て見ぬ振りのできねえ俺が言うことじゃあねえけどな。
 ……せっかく『無くなった』んだから、昔の男なんて忘れろよ」

冗談交じりに。それが何を示しているのかは簡単で。

「やり直さねえ? ……って、何回も聞くことじゃあねえけどな」

日ノ岡 あかね > 「やり直してるわよ。だってこれ、『仲直り』の証でしょ?」

嬉しそうに、あかねは笑って首輪を指さす。
まるで、恋人から送られたプレゼントを自慢するかのように。
恋する乙女に似た顔で……日ノ岡あかねは満面の笑みを浮かべた。

「昔の男は昔の男。言い分はわかるけど……別にいいでしょ? だって、先輩達だって……『分かって』私を外に出したんじゃないかしら?」

委員会をそう十把一絡げにして、あかねは笑う。
固有名詞などで呼ばない。大雑把な代名詞で一つに括る。
人が花を花としか呼ばないように。月を月としか呼ばないように。
それぞれ、形も意味も変わるのに。

「日ノ岡あかねが『そういう女』だって……ね?」

日ノ岡あかねは自らも……そう、十把一絡げにした。
月明りの中で、二人の男女が顔を合わせる。
教師と生徒程の歳の差がある二人の相貌を……月が静かに照らした。

「それじゃあ……先輩はダメ?」

幌川 最中 > 「そりゃあ、そういう『ルール』だからな」

あかねも他の違反生徒と十把一絡げにして、最中は笑う。
特別扱いなどしない。「そう裁かれた」から「そうしている」だけで。
常世島の法に則って「そうなっている」だけだと示すように。
ただ、それをどう思うかなんてことはそれぞれ……会議のように様々で。

「プレゼントひとつで『仲直り』なんて安い女じゃあなかろうに」

肩を竦めてから、僅かに金属の擦れる音を鳴らして背伸びをする。
……男は、癖のように大きく背伸びをしてから、薄く笑う。

「内緒にしといてくれるんなら、」

何を? 誰に? ……いっときの間を置いてから。

「俺はそれでもいいかもしらんな。俺ァあかねちゃんと違って、安い男だしな」

笑い声を一つ落としてから、合わせた視線の先を手繰るように。
月明かりが、僅かに最中の顔に影を落とした。

日ノ岡 あかね > 「勿論」

あっさりとそう承諾して、あかねは笑う。
楽しそうに。
可笑しそうに。

「私だって……素敵な殿方の前では存外安いからね?」

最中に合わせるように、あかねも軽く伸びをして……背を向ける。
言葉とは裏腹に、逢瀬を惜しむ様子も見せず……ただ当たり前のように。

「此処でのことは……私と最中先輩だけの内緒。それでいいわ」

日ノ岡あかねは去っていく。
月明りの中、猫のように足音もさせず。
狭い歩幅でゆっくりと。

「また会いましょ、最中先輩」

日ノ岡あかねは……夜の中に姿を消した。
別れの挨拶もそこそこに。
それはでも……やはり当然の事でしかない。

また会えるのなら、いつでも会えるのなら。

10年の時が過ぎても、1年の時が過ぎても。
ずっと『そこにいる』とわかっているのなら。

そこにあるのはきっと……安堵でしかないのだから。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から日ノ岡 あかねさんが去りました。<補足:常世学園制服。軽いウェーブのセミロング。首輪のようなチョーカーをつけている。>
幌川 最中 > 「サンキュー、マドモアゼル」

内緒にしておいてもらわなければならない。
『此処でのこと』は。『此処』で、かつてなにがあったかは。
決して、他の委員に知られてはいけない。見ない振りをしてもらわなければいけない。
だから、こうして口止めができたのならばそれで十分で。

「うろうろするなら、《俺みたいなヤツ/風紀委員》に見つからんようにしろよ」

見て見ぬ振りができる委員と、できない委員とその両方がいることはわかっている。
……とはいえ、どちらかといえば、今回は自分の前に姿を現したようなものだが。
野良の黒猫が、気まぐれにこうして顔を見せただけなのかもしれないが。
もしくは、死神が自分の真後ろにぴたりと張り付いていて、「化けて出た」のかもしれないが。
そのどちらでも、どれだったとしても不吉であることには違いない。

「気ィつけろよ」

こうして、先輩面をするために。
こうして、『ここにいる』ために。
こうして、胸を撫で下ろして安堵するためには。

黙っていてもらわねばならない。
数年前、この違反部活の拠点で、数年前何があったのかということは。

かつて知ることになった、全ての人間の『見て見ぬ振り』を、願い続けねばならない。
男は背伸びをする。自分の背の丈以上のものを背負おうとして、腕を伸ばそうとする。

その結果、何があったかということは。
……いずれ、後輩たちにも告げねばならない日はくる。
この落第街という区画を、誰もが『無視する』ことはできないように。

墓は、遠からず暴かれる。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から幌川 最中さんが去りました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。人好きのする見目。後入り歓迎>