2020/06/25 のログ
ご案内:「常世病院・ロビー」に幌川 最中さんが現れました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。人好きのする見目。後入り歓迎です>
幌川 最中 >  
常世病院。常世島の誇る、先端医療研究の一端を担う大病院。
幌川最中がそこに入院していた、なんて噂は広まったこともなければ、
事実として一度も入院したことはない。大怪我を負った経験も、一度もない。

その代わりに、他の生徒の見舞いに来ることは少なからずあったし、
看護師たちと仲良さそうに(喫煙を咎められているだけではないかという説もある)
会話をしているところを見たことがある人物も少なくないかもしれない。
それくらいには、どうやらこの病院に来るのは「慣れている」ようだった。

「ほら、あるじゃないですか色々。
 考え事してるときに? 口元が寂しくなるとか?
 手がちょっと手隙で落ち着かないとか? いやいやいや違いますよ。
 うそうそ。あっちょっと返してくだ、ちょっと~」

胸ポケットに突っ込まれていた煙草の箱を没収されて、力なく膝をつく。
返してくださいよ~と看護師に言いながらも諦めはどうやらついているようで。
ロビーの茶番にじとりとした視線が向けられて、照れ笑いを浮かべる。

幌川 最中 >  
病院のロビーで天井を仰ぐ。
大きな病院は帰るまでがどうにも長い。
旧時代と違うのだから全て電子化自動化だのと便利にすればいいだろうに、と
思うものの、この旧時代式な病院の受付に待合というのは変わらず続いている。

この「旧時代っぽさ」が、幌川は嫌いではなかった。
ダラダラと過ぎゆく時間の中にぼんやりと身体を置くことが。
色んな人々がそれぞれ、少なくとも「病院が必要」という共通の目的を持っていることが。
そして、病院は来る者を拒んだりしないという平等さが。

「喫煙所はできねえ……よなあ……」

喫煙者にはやけに風当たりが強いが。
というよりも健康を害するといわれている旧時代式の煙草を吸っている幌川への
風当たりが強いというのは健康を司る常世病院からしたら当然のことなのだが。

「屋上で吸ったら怒られ……っていま没収されたんだった……」

立ち上がろうとして、腰を再び下ろす。
物種がない以上、どう足掻いても喫煙活動は不可能である。悲しいね。

幌川 最中 >  
幌川の吸っている煙草。
学園の「表側」で売られているそれと違う、古びたデザインのパッケージ。
落第街をはじめとした、「裏側」でしか売られていないようなもの。
没収されたはいいが、これを問い詰められたら華霧式の言い訳を使うことにしよう。
……ぼ、没収したやつっすね。俺のじゃないです。この方向性でいこう。

それは、明確に校則に違反している。
学園で許されているような嗜好品ではなく、許可されていない種類のそれ。
健康にも悪影響があると明確に示されていて、違反部活の収入源でもある。
それを、幌川最中は愛煙している。

風紀委員会に所属しているはずなのに。
「堂々としてたらバレなかろう」の論理でここまでバレていない。
なぜバレていないのかは少しわからない。堂々としているのは大事だなと思う。

「いやあ……ちょっとばかし困ったな」

頭をがりがりと掻きながら、薄く笑う。
取り戻すのが一番だが、どううまくやるかは思いつかない。
あの看護師はわかっていないようだったが、あれが校則違反品だとバレると困る。
というかどうせ風紀委員会にチクられるのが目に見えている。

途轍もなく、困る。

幌川 最中 >  
それを知ったのは、昨日今日の話ではない。
数年前、ある違反部活の摘発に及んだときに、同僚が吸っていた。

「それ、校則違反だろ。風紀委員が校則違反かあ~?」

幌川は笑ってそう言った。
同僚は、いたって真面目な表情で、鼻を鳴らして笑った。

「正規品じゃやってらんねえ時ってのがオレにはあんだよ。
 それが今ってだけで、テメーに文句言われる筋合いはねえんだがなあ」
「筋合いって、校則違反を注意するのは生徒指導課の仕事でしょうが」
「へえへえ。これだから真面目ちゃんは冗談が通じなくて困るねえ」

刑事部の同僚。今はいない男。
その男が吸っていた煙草がこれで、結局それを幌川は上申しなかった。
理由がなければ校則違反なんてくだらないことをするはずがない。
なにか理由があったに違いない、と、幌川は思っていたが故に。

その理由の答え合わせをする日は来なかったが、
その理由に心当たりは自分も多少はある。そっくりそのまま同じかは、わからないが。

幌川 最中 >  
「幌川さん」と名前が呼ばれてから、ゆっくり立ち上がる。
間延びした調子で返事をしてから、慣れた調子で受付へと向かう。

「今日のところはお返ししますが、禁煙を心掛けてください。
 ただでさえ、あなたの身体は『他の人よりも』大事にしなきゃ、
 いつ使えなくなってもおかしくないんですから。わかりましたか?」

受付の事務員はどうやら幌川の状況を知っているらしく。
そう咎められれば、幌川は恥ずかしそうに笑う。

「勘弁してくださいよ。
 この見てくれで身体が弱いなんて、冗談にならんでしょう。
 ダサくてダサくてしゃーないんですから、もう。言わない約束でしょ。
 ……他の人には内緒にしてくださいよ。俺と、アナタの――」
「馬鹿言える元気はあるみたいなので安心致しました。
 それ、セクハラなんでやめたほうがいいですよ。女の子、嫌がりますよ」

露骨に嫌そうな顔をした事務員を相手に軽く頭を下げる。
スイマセン。俺が悪かったです。と言いたげな表情を浮かべてから。

「禁煙も、病院でなんとかなるんですから。
 旧時代よりもずっと医療は進んでるんですよ。保険も使えます」
「いやあ、禁煙だのって問題じゃあないんでねえ。見逃してください」

そう言って、胸ポケットに煙草をまた放り込んでから財布を開く。

幌川 最中 >  
 
――旧時代で言う、薬物乱用ですしね。これ。
痛み止めにするには、病院の薬よりいいんですよ。

見逃してもらえないと、俺がこうやって出歩けなくなるんでね。
 
 

幌川 最中 >  
「だから」校則違反なのもわかってて、
病院でもどうにも治療ができないからって民間療法してるようなもんですから。

へらへらとした笑顔の下に、全てを覆い隠して。
いつだか裏競売で出会った男から借りパクしたままの仮面を思い出す。
狐面。……ハハハ、どこまでバレてたんだろうなあ。


「はいはい、気をつけます。死なない程度にね」
「『そういう人』のために病院があるんですから。
 ちゃんと、使えるものは使ったほうがいいですよ。
 風紀委員会だって、そのためにこの病院と提携してたりするんだから」


『そういう人』の中から取りこぼされた自分の現状。
異能の副作用であるのか、先天的なものなのか、後天的なのかもわからない。
肉体の老化が、他人の数倍の速度でやってくる。
1分1秒が、他人よりもずっと貴重でずっと大切で、だからこそ。

だから、常世島から出られない。最先端医療も異能治療もあるこの島から。
繰り返す留年の正体。「学生」の立場でいたほうが、そういった制度の恩恵に預かれる。

幌川 最中 >  
 
「――お大事に」
 
 

幌川 最中 >  
 
「……はい、ありがとうございます。それじゃあ、また」
 
 

ご案内:「常世病院・ロビー」から幌川 最中さんが去りました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。人好きのする見目。後入り歓迎です>