2020/06/18 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」にシュルヴェステルさんが現れました。<補足:人間初心者の異邦人。人型。黒いキャップにパーカーのフードを被っている。学生服。後入り歓迎してます。>
シュルヴェステル > 嘆願が聞き入れられることはなかった。
異邦人である自分が、わけもわからず生活委員会の生徒を傷つけたこと。
そして、この世界に馴染めている度合いが他の異邦人に比べて低いこと。
――おまけに、丁度傷つけてしまった生徒が受付をしていたこと。
これが、シュルヴェステルが異世界から持ち込んだ物品の返却が叶わなかった理由だ。
「…………」
フードを被り、その下にも黒いキャップを被った青年が、
混雑する店内、カフェテラスの片隅に逃げ込むように座っている理由だ。
グラスの氷も溶け始めているものの、それに手をつける様子は見られない。
他の学生たちは、避けるように席を選びながら通り過ぎる。
徐々に、昼間どきのカフェテラスの席は埋められていく。
シュルヴェステル > 「この世界に馴染む」とは、どうやるのか。
生活委員会の学生を問いただしても答えは与えられず。
「それをわかるようになる」のが第一歩だと返答を返される。
わからないことをわかってから、と言われても、
結局わかるようになる方法がわからない以上どうしようもない。
難しい顔をしながら、腕を組んで体重をボックスシートに預ける。
手元のペンで、どこの言葉とも知れない文字を紙ナプキンに綴る。
ペンをくるくると回しながら、苛立つように爪先が地面を叩き続ける。
店員の学生から、少しだけ迷惑そうな視線を向けられた。
シュルヴェステル > こうして学生街のカフェテラスに腰を下ろして。
こうしてカフェテラスでありきたりなドリンクを注文して。
こうして誰にも迷惑はかけていない……はずだ。
わかることは、「これでは足りない」ということだけ。
ではこれ以上どうしろというのだろうか。
フードを被った青年は、天井を仰いで呻き声を漏らす。
「……頼んでるものの問題か?
ああ、それとも……いや、何が違う?」
まだドリンクに手をつけていないからか、と少し思い、
慣れた風を装いながらストローの刺さったグラスに直接口をつける。
いらない、と言えばよかったな、と青年は胸中独り言ちる。
シュルヴェステル > 自己認識の上では、自分は十分に馴染んでいると思っている。
馴染んでいるはずだ。
こうして学生服を身に纏って、授業を受けている。
学食も使えるようになったはずだ。
道案内もできるようになったはずだ。
食券を買うことも、説明もできたはずだ。
自動販売機の中身が入っていなくとも戸惑わないはずだ。
十分以上、自分はこの世界で暮らしていると思うのだが。
『――相手の視点に立って、考えてください』
自分が傷つけてしまった生活委員会の少女の言葉。
相手の視点に立つこと。それを見せること。
それが、この常世島で帯剣を許されるための唯一の条件。
「……わからん」
一体何をいいたかったのか、一つもわからない。
既に水とドリンクが分離しているが、それには目もくれず。
組んでいた腕を解いて、肘をつきながら頭を抱えた。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に日ノ岡 あかねさんが現れました。<補足:常世学園制服。軽いウェーブのセミロング。首輪のようなチョーカーをつけている。>
日ノ岡 あかね > 「相席、いいかしら?」
突如、そう声が降りてきた。
声を発しているのは……緩やかな笑みを浮かべた女生徒。
常世学園制服に身を包み、ウェーブのセミロングを揺らしながら、青年の目を見ている。
見れば、既に時刻は放課後。夕暮れ時。
他の席は埋まっていた。
シュルヴェステル > 「相席――」
少しばかしの間を置いて、周囲を見る。
全ての席が埋まっているのを見れば短く「ああ」と短く返事。
既に氷も溶け切った、味の薄いアイスティーとトレイを引き寄せる。
じっと見られた瞳は茜色よりもよほど赤い血色のような赤。
賑わうカフェテラスで、静かな声が落ちる。
「構わない」
日ノ岡 あかね > 「ありがと」
短く謝礼の言葉を述べて、女生徒が対面に腰掛ける。
手早くケーキセットを注文して、女生徒は静かに微笑んだ。
女生徒の夜のような黒瞳が、青年の血色の赤瞳を見返す。
「ごめんなさいね、一人のところ邪魔しちゃって。私はあかね。日ノ岡あかね。あなたは?」
シュルヴェステル > 「シュルヴェステルだ」
聞かれたことに聞かれただけ返事をする。
隣の席で賑やかしく言葉を交わす男子生徒と女子生徒とは対照的に。
学校の帰り道に二人でやってきたらしいことも
いくらでも盗み聞けてしまうような二人の横の席で静かに佇んでいる。
「して、何用だ?」
相席までは理解の範囲内だ。
席を共にすることには頷いたが、名を問われるとは思わなかった。
真っ直ぐにその瞳を見てから、僅かにチョーカーに視線が揺れた。
日ノ岡 あかね > 「用事はそうね……しいて言うなら、お喋りをしたい……かしら? だって折角、素敵な殿方と相席したんですもの。お喋りを楽しみたいと思うのは普通の事でしょう?」
首輪のような真っ黒なチョーカーごと首を捻り、小首を傾げる。
くすくすと、シュルヴェステルの目を見ながら……あかねは笑った。
窓から差し込む真っ赤な夕日が、その横顔を妖しく照らした。
「それにしても、変わったお名前ね。海外の方かしら? それとも、異邦人さん?」
不躾に、あかねはズケズケと質問をする。
隣の席で男子生徒と盛り上がる女子生徒のように……馴れ馴れしく、シュルヴェステルの顔を見ている。
シュルヴェステル > 「そうか。
……この島には話好きの者が多いらしいな」
イエスとは言わないがノーとも言わない。
思索の中からじわりと抜け出しつつ、いくらか口数は増える。
目を細めてから、少女を見やる。
「異邦人だ。……島の外という意味ならば、海外とも言えるだろう。
が、最も適切な表現をするなら異邦人だ。して、その首輪は」
チョーカーに視線を向けたまま。
決してチョーカーとは言わず……否、青年にとっては首輪にしか見えていない。
青年は、お洒落アイテムの名前は一つとして知らないだろう。
一定の距離は保ちつつ、姿勢を正したまま、男はそう短く返事をした。
日ノ岡 あかね > じわりと……あかねの笑みが深くなる。
目を細め、口角を釣り上げ、微かに頬を紅潮させて。
あかねは……嬉しそうに口を開く。
「ふふふ、『これ』が気になるなんて……シュヴェ君は中々御目が高いわね?」
とっておきの服を見せびらかすように。
自慢のアクセを誇るように。
あかねは首輪を指さして、くすくすと笑った。
「これはね。リミッター。委員会謹製の異能制御用の『首輪』……簡単に言えば、手枷とか口枷みたいなものね」
異能制御用リミッター。
それは、本来異能を扱えるものからすれば……『元々あったはずの体機能』を奪われるようなもの。
場合によっては……五感を一つ捥ぎ取られるにも等しい。
それほどの代物。
それほどの罰。
にも関わらず……あかねはただただ可笑しそうに笑って。
「私、元違反部活所属なの」
おそらく、異邦人でも最初説明されたであろう『それ』に所属していたことを……あっさりと明かした。
シュルヴェステル > 横の席の男女がしんと一瞬静かになる。
二人は顔を寄せ合ってから、暫くして席を立った。
誰のどういう影響でそうしたのかはわからないが、事実として。
「異能を使えなくなるというやつか。
話には聞いたことがある。……そうか。それは、災難だったな」
それを聞いて、異邦人――シュルヴェステルは、少しだけ口調を和らげた。
首輪。手枷。口枷。もしくは他にも表現の手段はあるかもしれない。
異能という目に見えない超常を、目に見える形で封じ込める。
「して、一体どうしたら“そう”させられるんだ」
あっさりと明かされたそれに、あっさりとそう返した。
動物のように警戒していた視線も少しばかり穏やかなものに変わる。
……見てわかるのならば。目の前の人物の持つ何らかの刃が縛られているのなら。
目に見える刃の返却を拒まれた青年も、目に見えぬ刃に怯えなくて済む。
日ノ岡 あかね > その反応に……あかねは興味深そうに目を細める。
隣の男女が立ち去り、いくらか静寂が取り戻されたカフェの一角で……日ノ岡あかねは妖しく笑った。
「『楽しい事』を好き勝手していたら捕まっただけよ? ……生き残りは私だけ。他はみーんな『死亡』、『退島』、『凍結』のどれか。まぁ、体制に逆らった自由人の末路……ってところかしらね」
昔の『楽しい思い出』でも語るかのように、あかねは軽やかに語る。
そこに悲観めいた響きは微塵も感じられない。
まるで不良の武勇伝でも語るかのように、あかねは得意気に胸を張った。
「出る杭は打たれるって事。まぁ、狼が捕まったなら、爪牙を抜かれるのは当然でしかないし……剥製にされなかっただけマシじゃないかしらね?」
罪に対する罰を事も無げに『災難』と述べたシュルヴェステル。
その反応を楽しむように……あかねはただただ、静かに笑う。
シュルヴェステル > 微温くなったアイスティーのグラスを再度傾ける。
表情の変化こそわかるものの、何を考えているかは少しもわからない。
だから、あかねの言葉を真っ直ぐに読み解いていくしかない。
「そうか」
楽しげにころころと変わる猫のような表情とは真逆。
起伏の薄い表情と声色のまま、異邦人は首輪つきの少女をじっと見る。
「して、その『楽しいこと』が許されなかったのには理由があるだろう。
理由なく爪牙を奪われるようなことはないと私は考えているが」
自分が帯刀を許されないのと同じ。爪牙を奪われるには理由がある。
誰かを傷つけている、だの、それ以外にも理由はあるだろうが、
異邦人の青年にはこの一つの理由しか思い当たらない。……知らない。
「なぜそうなった?」
「知らない」を減らすために。自分の爪牙を取り戻すために、問う。
日ノ岡 あかね > 「ふふふふ、それはね」
待っていたと言わんがばかりに、あかねは身を乗り出して。
互いの髪の香が分かるほど傍にまで、顔を近付けて。
「ヒミツ」
あかねは……心底嬉しそうに笑った。
自らの口元に、一本高く人差し指を立てて。
「ごめんなさいね、守秘義務があるの。これでも私、監視付きだから」
あっさりと元の位置にまで戻って、ようやく届いたケーキセットをフォークで切り分ける。
小さく切り分けたチョコケーキを一口食べてから、あかねは改めて口を開いた。
「怒られない範囲で話していいなら……『著しく体制に迷惑を掛けたから』かしらね? 少なくとも、ある程度放っておかれている違反部活を差し置いて、優先して私のいた部活が取り締まられる程度には……『体制に迷惑を掛けた』から。『目障りだった』から。『あると困る部活だった』から。『少なくとも一人残らず管理する必要があった』から」
つらつらと、迂遠な物言いで爪牙が奪われた理由を羅列し。
「『触れてはいけない事に触れた』から」
最後に付け加える様に……そう呟いた。
「……満足して貰える答えになったかしら?」
シュルヴェステル > 顔を寄せられれば、露骨に眉根を寄せた。
自分から先に距離を取る。ボックスシートに背をつけるほど。
「そうか」
それなら、そういうものなのだろう。
良しも悪しもなく、面白くもない淡白な返事だけを寄越す。
言えないのであらば、言えと言うこともできない。無理なものは無理なもの。
グラスから滴る水滴が学生服のズボンを少しだけ濡らす。
「貴女が、触れてはいけないものに触れることを楽しみとすることは解った。
それで構わない。……そういう、」
そういう女は大概にして魔性だ、と口にしようとして止まった。
そこまでで、一度長く続いた言葉を切り落とす。
「そのような相手の眼鏡にかなうほどのものは、
生憎と私は持ち合わせていないはずだが。……楽しそうだな。
女性の話し相手として不足がないのであれば、喜ばしいことだが」
その表情を見てから、皮肉げにそう呟いた。
日ノ岡 あかね > 「ええ、シュヴェ君と話をするのはとっても楽しいわ。不足なんて一つもないから、安心してね……ふふふ」
ケーキセットをゆっくりと平らげて、程よく温くなった紅茶を楽しむ。
猫のように少しずつカップの水面を下げながら、あかねは笑う。
窓辺から差し込む夕日の光が、互いの相貌に陰影を象った。
「異邦の人には少し住み辛い街かもしれないけど……安心してね。そういう人は少なくないし、だから……落第街なんてものがあるんだからね」
落第街。
ある程度……いや、ほぼハッキリと『意図的』に隔離された廃棄区画。
体制に迎合できない者達の掃き溜め。
常世の片隅に置かれた……無法の棲み家。
「アナタも息苦しくなったら、そっちに顔を出してみたらどうかしら? 私みたいに度が過ぎなければ……そっちの方が気安いかもしれないわよ?」
そう言って、音もなく立ち上がる。
みれば、既に紅茶は無くなっていた。
「そろそろ寮の門限だし、私はこれで失礼するわね……楽しかったわ、シュヴェ君。また、お喋りしましょうね」
嫌味の無い笑みでそう別れの言葉を告げて、あかねは伝票片手に去っていく。
強かな夕日は、気付けばいつの間にか……控えめな月明りへと、その姿を変えていた。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から日ノ岡 あかねさんが去りました。<補足:常世学園制服。軽いウェーブのセミロング。首輪のようなチョーカーをつけている。>
シュルヴェステル > 「……」
去りゆく後ろ姿を見て。
尻尾を揺らすように黒い髪を揺らすのを見ながら。
「息苦しくなったら、か」
――ああ。 ……ああ、やはり!
分厚いソフトドリンクグラスの底が、小さなテーブルを打つ。
異邦人は。シュルヴェステルは、静かに胸の内で感情をぐらりと揺らした。
「……勧めるならば、異邦人街だ」
「異邦の人」に住み辛い街であるときのために、常世学園は異邦人街を用意している。
土の色から違う、街を漂う香りすらも学生街とは違う、『意図的に』隔離された区画があるのに。
それを彼女が知らないわけもないだろう。話を聞くに、新入生という様子も見えない。
『だから』あるのは、『異邦人街』のはずだ。
「は、はは……」
であらば。であるのならば。
あの首輪を学園が与えているのは『妥当』であると、青年は思い。
そして、逆説的に自分が爪牙を奪われている理由も垣間見て。
シュルヴェステル > .
「妖婦が」
.
シュルヴェステル > さながら人間のごとく、そう毒づいてから。
自分が「そう」見ているということは、他人も「そう」見るかもしれない。
自分が日ノ岡 あかねをこう評したように、
転移荒野で生活委員会の少女の顔を傷つけた男をどう見るかなど、
火を見るよりも明らかであるはずなのに、気付いていなかった。
されど、「それ」を自分に彼女は教えた。
異能が制限されているはずなのに。首輪がついているはずなのに。
青年は席を立ち、足早にカフェテラスを後にする。
――実に苦々しく。覚えのある毒味とあたたかさに、表情を歪めながら。
ご案内:「カフェテラス「橘」」からシュルヴェステルさんが去りました。<補足:人間初心者の異邦人。人型。黒いキャップにパーカーのフードを被っている。学生服。後入り歓迎してます。>