東方三神山の一つ、「瀛洲(えいしゅう)」の名を頂く大古書店街。
学生街の中にありながら、異彩を放つ区域である。
常世学園の草創期から存在するとされ、経過年数に関わらずやけに古びた外観の店が大通りを含め、路地などに密集する。
古今東西の様々な書籍が集まる「書海」であり、学術書から魔導書、一般書、コミック、ダイムノベル、パルプ・マガジンなど扱われる書籍のジャンルに際限はない。
また、時折「異界」の書物も売りに出されることがある。
非常に価値の高い稀覯本なども取り扱われており、「禁書」の類のものも密かに取引がされているという噂がある。
一度迷い込めば抜け出すには時間のかかるような書籍の混沌の地。
学生街にある「古書店街」の大通りを中心として、幾つもの路地が伸びており、そのどこにも古書店が存在する。
印象としては雑多な街といえるだろう。
週末には古本祭りが行われ、安価に書籍が購入できる。
『万物の運行表(スキーム)』という、白と黒の頁から成る、未来過去現在の三世を記した予言書めいた書物などが流れたという噂が定期的に起こるが、どれもこれも眉唾な噂である。
2020/06/13-2020/06/14 のログ
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に神代理央さんが現れました。<補足:風紀委員の制服に腕章/腰には45口径の拳銃/金髪紅眼/顔立ちだけは少女っぽい>
神代理央 > 比較的早い時間に風紀委員の任務が終わった事もあり、遅めの夕食を取る前の寄り道。
出来れば中級魔術の指南書。あわよくば実戦で使用出来る魔術の掲載された魔導書等ないかな、と暢気に入り込んだは良いものの――
「…腹の虫がもう少し仕事をしてくれれば良かったのだがな」
気付けば辺りは真っ暗。通りには生徒の姿も無い。というより、端末が示す時間は結構遅い。
空腹感も忘れて立ち読みに耽っていた罰かな、と溜息を吐き出しながら取り急ぎ学生街へ戻る道へと足を進める。
タクシーなんて無粋なものがうろついていないのは美点だが、同時にデメリットな気がしないでもない。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】長めの紫髪に桃色の瞳の男/31歳179cm。右片耳に金のピアス、くたびれた白衣を着ている。小さな白い龍を2体連れている。>
神代理央 > 欲を言えば、風紀委員として活動する時には近接系の同僚とタッグを組みたい。しかして、戦力増強を声高に叫ぶ風紀委員会において、己一人だけ護衛をください等と贅沢を言う訳にもいかない。
そもそも、任務、委員会、学園に忠実ではあっても己にはより上位の――父親という純然たる鎖がある以上、己の能力を高める努力を怠る訳にはいかないのだから。
「防御系の魔術に特化すべきか。しかし、異能が通用しない相手への搦め手も欲しい所ではある…欲張りすぎかね」
掌を翳したら龍とか召喚出来る様になったりしないだろうか、と夢想した己自身に苦笑いを浮かべながら、夜の帳に支配された瀛洲を歩く。
この時間でも営業している書店が有る事には些か驚いたりしながら。
羽月 柊 > そんな夜間営業の書店からちょうど1人の男が出てくる。
紫の長髪が風に揺れ、桃眼を細めている。
服装はといえば、少しばかりよれた白衣、シャツに緩んだネクタイ。
この島では髪や眼の色が少しばかり違うだけではさして眼を惹く男ではないだろう。
…容姿よりも、男の肩と頭に鳥のごとく留まっている
小さな白龍達の方が目立つかもしれないが。
手には本が入っていると推定される四角い袋。
「この時期は出費ばかりが増えて困るな…。」
等と、肩口のそれを撫でてぼやいた。
神代理央 > 目に留まった書店から、正しくどんぴしゃというタイミングで現れた男。身に纏う白衣から、研究者であろうか等と考えながら何ともなしに視線を向ける。
研究者が此の街を訪れる事は珍しくない。というよりも、訪れる客の割合は学問に身を捧げた者の方が多いのだろう。
だから、彼一人だけなら声はかけなかったかもしれない。補導する様な年齢にも見えないし、そもそも夜間の外出が禁止されている訳でも無い。特に問題がなければ、会釈だけして通り過ぎただろう。
しかし、彼の頭上と肩に鎮座する生物が。先程己が夢想した通りの生命を乗せた彼の姿に、思わず足を止める事になるのだろう。
「…今晩は。珍しいものを連れていらっしゃいますね。ペットか何か、ですか?」
つい気になってしまったので、思わず声をかけてしまう。
とはいえ、風紀委員の制服と腕章をつけた己が突然龍について声をかければ、詰問している様にも見られてしまうだろうか。
言葉を選ぶべきだったかな、と声をかけてから後悔していたり。
羽月 柊 > 確実に偶然めいた何か、だったのだろう。
声をかけて来た少女…いや少年? が、ちょうど己の連れている龍たちの事を考えていた等。
夜の灯が、白い白衣と白い龍たちを照らし、その存在を浮き彫りにする。
男は声をかけられれば、確かに目立つ風紀委員の腕章に
ちらりと桃眼を走らせたが、特に怖気づく様子も無く。
子供がこんな時間に? とも眼を細めたが、それは男の思考内でのこと。
「こんばんは。
……ああ、こいつらは俺のペッ…いや、相棒たちみたいなものだな。」
淡々と返事が返ってくる。
ペットと言いかければ、小さな龍たちが反発するように鳴声を上げ、
それに合わせて言葉を変える。
「害のあるような行動はしない。
それは保証させていただく。」
神代理央 > どうやら、此方が投げかけた言葉に身構える様な事は無かった様子。
先ずは其処に安堵しながら、此方の言葉に応える男に改めて視線を向ける。
やはり目を引くのは彼が連れている二匹の白龍か。身形そのものは研究地区の住民と言えば誰もが納得する様な風貌。幾分よれた白衣が、寧ろ学問の追及者たる事をアピールしている様ですらある。
それ故に。彼の言葉を咀嚼し、暫し考え込み、やがて自分よりも大分背の高い男の桃眼を見上げて口を開く。
「相棒…ですか。となれば、魔法生物か何か。或いは、純粋種たる龍種なのでしょうか?」
大変容後の世界には、鬼もゴブリンもアンデッドも存在する。龍が天空を羽ばたく事も、空想ではなくなってしまった。
とはいえ、彼の手懐ける龍が元々存在しているモノなのか。或いは、人為的に生み出されたものなのか。
単純な好奇心から発せられた質問には、興味津々といった色合いが滲み出ているだろうか。
「それを聞けて何より。問題を起こす様な生物であれば、風紀委員として処理しなければならなくなりますから」
羽月 柊 > 「うちには処理されるような"子達"はいない。
"息子"を学園に通わせている手前もあるのでね。」
厳格たる風紀委員とはいえ、隠し切れぬ好奇心や興味は子供のそれ。
質問に対して特に隠し通すような風も無く、答えは返って来るだろう。
それでも『処理』という言葉には、桃眼を一度閉じた後、相手の紅眼を真っすぐに見たが。
「…彼らは前者であり後者だ。
説明としては長くなるから簡潔に言えば、魔法で小さくした龍と思えば良い。
ところで、話をするのも良いが、子供が遅い時間に出歩いても大丈夫なのか?」
そう片手を上げれば、手につけた大小様々な装飾品がジャラリと音を立てた。
神代理央 > 「…ふむ、成程。言葉が悪かった事は謝罪しましょう。職業柄というべきか、どうにも物騒な単語が口から零れてしまいがちでして」
処理、という単語には彼も思う所があったのだろう。
違反部活や二級生徒なら兎も角、風紀委員の保護対象たる彼等に不快な思いをさせるのは本意ではない。
此方を真直ぐに見据える彼の瞳を見返すと、素直に己の非を詫びるのだろう。
「魔法による小型化、ですか。いやはや、此の学園では驚く事に慣れ過ぎて、島を出た時には非常識な人間になっているやも知れませんね」
彼の説明にふむふむ、と首肯していたが、次いで投げかけられた言葉には一瞬きょとんとした様な表情を浮かべた後――
「……ああ、御心配なく。其処迄長く出歩くつもりも無いですし、風紀委員の制服と腕章を身に着けている以上は、多少の巡回も兼ねて帰路につくつもりですから」
初対面の相手に子ども扱いされるのは中々新鮮な気分だな、と委員会で若干擦れてしまった己は場違いな感心を抱きながら彼に向けて肩を竦めてみせるだろう。
羽月 柊 > 「いいや、仕方のないことだ。
彼らも龍とはいえ、人間と相いれないことも多い。」
…子供達が自らの手でこの島を平定する。
委員と呼ばれる彼らのことは聞き及んではいるし、ある程度の行動も分かっている。
それでも、余りにもこの島は子供達にかかる負担が大きいのでは、とも思うが。
「賑やかな方面へ向けて一緒に歩くかとも思ったが、
巡回する予定ならば手出しは不要か。」
まあ見知らぬ大人についていくのもそれはそれで危ないか、
と返事を待つでもなく言葉が宙に浮いた。
「…今の世の中は、非常識などと言うのはそうあり得ない。
ほぼほぼ、なんでもありの世の中になってしまった。
あるとするならば、自分と他人の認識の差だ。
ただ話し合いが成立するならば、常識の擦り合わせも出来るだろう。」
何せ、こうして話してはいるが、
男にとって目の前の少年の性別も特に判別はしていないのだ。
その真意が分かればヘソを曲げてしまいそうだが。
神代理央 > 此方の謝罪を受け入れた彼に小さく頭を下げて応える。
次いで投げかけられた言葉には、小さく笑みを浮かべて――
「巡回ついでに学生街までお送りするくらいであれば可能ですよ。どのみち、此の区画ではもう問題は起こらないでしょうし」
彼の気遣いを受け取りつつ、周囲を軽く身渡して見せる。
すっかり人気の無くなった此のエリアでは、最早暴漢の類どことか出歩く生徒の姿がそもそも見当たらない程。
とはいえ、此方の提案も緩やかなもの。彼が望めば、という程度の口調であるだろう。
「話し合いが成立するなら良いのですけどね。
中には、対話すら不可能な連中も多々存在します。…まあ、それは大変容が起こる前から、変わらない事なのかも知れませんが」
空に龍が飛び交い、大地を一角獣が疾走し、海中に魔物が潜もうと。
何時だって人は争い、いがみ合ってきた。そんな有様を皮肉る様に、今度は大袈裟に肩を竦めてみせる。
尤も、現在進行形で認識の差が。即ち、彼が己の性別を未だ判別していないとは露程も思ってはいなかったのだが――
羽月 柊 > 「…なら、そうさせてもらうとしようか。
体格を見て、息子と同じぐらいの子に見えてどうもな。
送り狼をするつもりは無いが…。
ああそうだ、身元を言っておこう。
俺は羽月 柊(はづき しゅう)、研究区住みだ。
これで粗方疑う余地は無いとは思う。」
しかし腐っても大人である。性別のことに関して明言はしなかった。
分からないのなら黙っているのが華である。
沈黙は金とは良く言ったモノ。
「人間の心は近くて遠い。それは確かに今も昔も変わらない。
まぁ…それでも希望は捨てたくはないモノだがな。」
そういって学生街の方面へ向けて、歩き出す。
どこか諦めているような節のある少年とは、少し対照的な言葉を使う男であった。
神代理央 > 「御希望とあれば喜んで。市民の安全を守るのも私達の仕事ですから。
…ああ、此方こそ名乗りが遅れました。風紀委員会所属の二年生、神代理央と申します。以後お見知りおきを。
………ところで、送り狼とはいったいどういう意味でしょう?」
彼の言葉に小さな笑みと共に頷き、同行を願い出る。
名乗り出た際の音声を所持している小型端末で拾い上げ、データベースで確認。警告音が鳴らないという事は、取り合えず何の問題も無いということ。
流石に細かなプロフィールなどは端末を開かなければ確認出来ないが、流石に本人の前でする様な無粋な真似はしない。
尤も、送り狼という互いの性別に似付かわしくない単語には、簿妙に首を傾げる事になるのだが。
「希望を捨てぬ事、抱き続ける事は立派な事ですし、そうあるべきだと思います。しかし、そういった知性を持つが故の争いを全て否定する事は、どうかとも思いますけどね」
知性と感情があるからこそ、いがみ合い争い合う。
その争いもまた尊いものなのだろうと、のんびりとした口調で答えるだろう。
そんな会話を続けながら、彼を先導する様に学生街へ。
人気の無くなった古書の街には、研究者と風紀委員の語らう音が暫しの間響いていたのだろう。
羽月 柊 > 「子供に市民の安全をと言われると、どうにも調子が狂うがな。
…ああ、分からないなら気にすることでもない。」
こんな夜遅くまで古書店にいるぐらいだ。
自衛の術は持っているのだろうと分かるかもしれない。
データベースに引っかからない程度では、あるだろうが。
そして探りの為に入れた言葉の一つに対して相手の反応を見れば、
これは少年かと漸く腑に落ちたようである。判断が遅い。
「……そう、だな。
子供のうちは……それで良いのかもしれないな。」
そうして彼らは歩き出す。
僅かに伏せられた目線を誤魔化し、そう呟いて。
学生街へたどり着けば、男は別れを告げ、言葉通り研究区の方へと消えていくだろう。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から神代理央さんが去りました。<補足:風紀委員の制服に腕章/腰には45口径の拳銃/金髪紅眼/顔立ちだけは少女っぽい>
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】長めの紫髪に桃色の瞳の男/31歳179cm。右片耳に金のピアス、くたびれた白衣を着ている。小さな白い龍を2体連れている。>
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に神代理央さんが現れました。<補足:風紀委員の制服に腕章/腰には45口径の拳銃/金髪紅眼/顔立ちだけは少女っぽい>
神代理央 > 比較的早い時間に風紀委員の任務が終わった事もあり、遅めの夕食を取る前の寄り道。
出来れば中級魔術の指南書。あわよくば実戦で使用出来る魔術の掲載された魔導書等ないかな、と暢気に入り込んだは良いものの――
「…腹の虫がもう少し仕事をしてくれれば良かったのだがな」
気付けば辺りは真っ暗。通りには生徒の姿も無い。というより、端末が示す時間は結構遅い。
空腹感も忘れて立ち読みに耽っていた罰かな、と溜息を吐き出しながら取り急ぎ学生街へ戻る道へと足を進める。
タクシーなんて無粋なものがうろついていないのは美点だが、同時にデメリットな気がしないでもない。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】長めの紫髪に桃色の瞳の男/31歳179cm。右片耳に金のピアス、くたびれた白衣を着ている。小さな白い龍を2体連れている。>
神代理央 > 欲を言えば、風紀委員として活動する時には近接系の同僚とタッグを組みたい。しかして、戦力増強を声高に叫ぶ風紀委員会において、己一人だけ護衛をください等と贅沢を言う訳にもいかない。
そもそも、任務、委員会、学園に忠実ではあっても己にはより上位の――父親という純然たる鎖がある以上、己の能力を高める努力を怠る訳にはいかないのだから。
「防御系の魔術に特化すべきか。しかし、異能が通用しない相手への搦め手も欲しい所ではある…欲張りすぎかね」
掌を翳したら龍とか召喚出来る様になったりしないだろうか、と夢想した己自身に苦笑いを浮かべながら、夜の帳に支配された瀛洲を歩く。
この時間でも営業している書店が有る事には些か驚いたりしながら。
羽月 柊 > そんな夜間営業の書店からちょうど1人の男が出てくる。
紫の長髪が風に揺れ、桃眼を細めている。
服装はといえば、少しばかりよれた白衣、シャツに緩んだネクタイ。
この島では髪や眼の色が少しばかり違うだけではさして眼を惹く男ではないだろう。
…容姿よりも、男の肩と頭に鳥のごとく留まっている
小さな白龍達の方が目立つかもしれないが。
手には本が入っていると推定される四角い袋。
「この時期は出費ばかりが増えて困るな…。」
等と、肩口のそれを撫でてぼやいた。
神代理央 > 目に留まった書店から、正しくどんぴしゃというタイミングで現れた男。身に纏う白衣から、研究者であろうか等と考えながら何ともなしに視線を向ける。
研究者が此の街を訪れる事は珍しくない。というよりも、訪れる客の割合は学問に身を捧げた者の方が多いのだろう。
だから、彼一人だけなら声はかけなかったかもしれない。補導する様な年齢にも見えないし、そもそも夜間の外出が禁止されている訳でも無い。特に問題がなければ、会釈だけして通り過ぎただろう。
しかし、彼の頭上と肩に鎮座する生物が。先程己が夢想した通りの生命を乗せた彼の姿に、思わず足を止める事になるのだろう。
「…今晩は。珍しいものを連れていらっしゃいますね。ペットか何か、ですか?」
つい気になってしまったので、思わず声をかけてしまう。
とはいえ、風紀委員の制服と腕章をつけた己が突然龍について声をかければ、詰問している様にも見られてしまうだろうか。
言葉を選ぶべきだったかな、と声をかけてから後悔していたり。
羽月 柊 > 確実に偶然めいた何か、だったのだろう。
声をかけて来た少女…いや少年? が、ちょうど己の連れている龍たちの事を考えていた等。
夜の灯が、白い白衣と白い龍たちを照らし、その存在を浮き彫りにする。
男は声をかけられれば、確かに目立つ風紀委員の腕章に
ちらりと桃眼を走らせたが、特に怖気づく様子も無く。
子供がこんな時間に? とも眼を細めたが、それは男の思考内でのこと。
「こんばんは。
……ああ、こいつらは俺のペッ…いや、相棒たちみたいなものだな。」
淡々と返事が返ってくる。
ペットと言いかければ、小さな龍たちが反発するように鳴声を上げ、
それに合わせて言葉を変える。
「害のあるような行動はしない。
それは保証させていただく。」
神代理央 > どうやら、此方が投げかけた言葉に身構える様な事は無かった様子。
先ずは其処に安堵しながら、此方の言葉に応える男に改めて視線を向ける。
やはり目を引くのは彼が連れている二匹の白龍か。身形そのものは研究地区の住民と言えば誰もが納得する様な風貌。幾分よれた白衣が、寧ろ学問の追及者たる事をアピールしている様ですらある。
それ故に。彼の言葉を咀嚼し、暫し考え込み、やがて自分よりも大分背の高い男の桃眼を見上げて口を開く。
「相棒…ですか。となれば、魔法生物か何か。或いは、純粋種たる龍種なのでしょうか?」
大変容後の世界には、鬼もゴブリンもアンデッドも存在する。龍が天空を羽ばたく事も、空想ではなくなってしまった。
とはいえ、彼の手懐ける龍が元々存在しているモノなのか。或いは、人為的に生み出されたものなのか。
単純な好奇心から発せられた質問には、興味津々といった色合いが滲み出ているだろうか。
「それを聞けて何より。問題を起こす様な生物であれば、風紀委員として処理しなければならなくなりますから」
羽月 柊 > 「うちには処理されるような"子達"はいない。
"息子"を学園に通わせている手前もあるのでね。」
厳格たる風紀委員とはいえ、隠し切れぬ好奇心や興味は子供のそれ。
質問に対して特に隠し通すような風も無く、答えは返って来るだろう。
それでも『処理』という言葉には、桃眼を一度閉じた後、相手の紅眼を真っすぐに見たが。
「…彼らは前者であり後者だ。
説明としては長くなるから簡潔に言えば、魔法で小さくした龍と思えば良い。
ところで、話をするのも良いが、子供が遅い時間に出歩いても大丈夫なのか?」
そう片手を上げれば、手につけた大小様々な装飾品がジャラリと音を立てた。
神代理央 > 「…ふむ、成程。言葉が悪かった事は謝罪しましょう。職業柄というべきか、どうにも物騒な単語が口から零れてしまいがちでして」
処理、という単語には彼も思う所があったのだろう。
違反部活や二級生徒なら兎も角、風紀委員の保護対象たる彼等に不快な思いをさせるのは本意ではない。
此方を真直ぐに見据える彼の瞳を見返すと、素直に己の非を詫びるのだろう。
「魔法による小型化、ですか。いやはや、此の学園では驚く事に慣れ過ぎて、島を出た時には非常識な人間になっているやも知れませんね」
彼の説明にふむふむ、と首肯していたが、次いで投げかけられた言葉には一瞬きょとんとした様な表情を浮かべた後――
「……ああ、御心配なく。其処迄長く出歩くつもりも無いですし、風紀委員の制服と腕章を身に着けている以上は、多少の巡回も兼ねて帰路につくつもりですから」
初対面の相手に子ども扱いされるのは中々新鮮な気分だな、と委員会で若干擦れてしまった己は場違いな感心を抱きながら彼に向けて肩を竦めてみせるだろう。
羽月 柊 > 「いいや、仕方のないことだ。
彼らも龍とはいえ、人間と相いれないことも多い。」
…子供達が自らの手でこの島を平定する。
委員と呼ばれる彼らのことは聞き及んではいるし、ある程度の行動も分かっている。
それでも、余りにもこの島は子供達にかかる負担が大きいのでは、とも思うが。
「賑やかな方面へ向けて一緒に歩くかとも思ったが、
巡回する予定ならば手出しは不要か。」
まあ見知らぬ大人についていくのもそれはそれで危ないか、
と返事を待つでもなく言葉が宙に浮いた。
「…今の世の中は、非常識などと言うのはそうあり得ない。
ほぼほぼ、なんでもありの世の中になってしまった。
あるとするならば、自分と他人の認識の差だ。
ただ話し合いが成立するならば、常識の擦り合わせも出来るだろう。」
何せ、こうして話してはいるが、
男にとって目の前の少年の性別も特に判別はしていないのだ。
その真意が分かればヘソを曲げてしまいそうだが。
神代理央 > 此方の謝罪を受け入れた彼に小さく頭を下げて応える。
次いで投げかけられた言葉には、小さく笑みを浮かべて――
「巡回ついでに学生街までお送りするくらいであれば可能ですよ。どのみち、此の区画ではもう問題は起こらないでしょうし」
彼の気遣いを受け取りつつ、周囲を軽く身渡して見せる。
すっかり人気の無くなった此のエリアでは、最早暴漢の類どことか出歩く生徒の姿がそもそも見当たらない程。
とはいえ、此方の提案も緩やかなもの。彼が望めば、という程度の口調であるだろう。
「話し合いが成立するなら良いのですけどね。
中には、対話すら不可能な連中も多々存在します。…まあ、それは大変容が起こる前から、変わらない事なのかも知れませんが」
空に龍が飛び交い、大地を一角獣が疾走し、海中に魔物が潜もうと。
何時だって人は争い、いがみ合ってきた。そんな有様を皮肉る様に、今度は大袈裟に肩を竦めてみせる。
尤も、現在進行形で認識の差が。即ち、彼が己の性別を未だ判別していないとは露程も思ってはいなかったのだが――
羽月 柊 > 「…なら、そうさせてもらうとしようか。
体格を見て、息子と同じぐらいの子に見えてどうもな。
送り狼をするつもりは無いが…。
ああそうだ、身元を言っておこう。
俺は羽月 柊(はづき しゅう)、研究区住みだ。
これで粗方疑う余地は無いとは思う。」
しかし腐っても大人である。性別のことに関して明言はしなかった。
分からないのなら黙っているのが華である。
沈黙は金とは良く言ったモノ。
「人間の心は近くて遠い。それは確かに今も昔も変わらない。
まぁ…それでも希望は捨てたくはないモノだがな。」
そういって学生街の方面へ向けて、歩き出す。
どこか諦めているような節のある少年とは、少し対照的な言葉を使う男であった。
神代理央 > 「御希望とあれば喜んで。市民の安全を守るのも私達の仕事ですから。
…ああ、此方こそ名乗りが遅れました。風紀委員会所属の二年生、神代理央と申します。以後お見知りおきを。
………ところで、送り狼とはいったいどういう意味でしょう?」
彼の言葉に小さな笑みと共に頷き、同行を願い出る。
名乗り出た際の音声を所持している小型端末で拾い上げ、データベースで確認。警告音が鳴らないという事は、取り合えず何の問題も無いということ。
流石に細かなプロフィールなどは端末を開かなければ確認出来ないが、流石に本人の前でする様な無粋な真似はしない。
尤も、送り狼という互いの性別に似付かわしくない単語には、簿妙に首を傾げる事になるのだが。
「希望を捨てぬ事、抱き続ける事は立派な事ですし、そうあるべきだと思います。しかし、そういった知性を持つが故の争いを全て否定する事は、どうかとも思いますけどね」
知性と感情があるからこそ、いがみ合い争い合う。
その争いもまた尊いものなのだろうと、のんびりとした口調で答えるだろう。
そんな会話を続けながら、彼を先導する様に学生街へ。
人気の無くなった古書の街には、研究者と風紀委員の語らう音が暫しの間響いていたのだろう。
羽月 柊 > 「子供に市民の安全をと言われると、どうにも調子が狂うがな。
…ああ、分からないなら気にすることでもない。」
こんな夜遅くまで古書店にいるぐらいだ。
自衛の術は持っているのだろうと分かるかもしれない。
データベースに引っかからない程度では、あるだろうが。
そして探りの為に入れた言葉の一つに対して相手の反応を見れば、
これは少年かと漸く腑に落ちたようである。判断が遅い。
「……そう、だな。
子供のうちは……それで良いのかもしれないな。」
そうして彼らは歩き出す。
僅かに伏せられた目線を誤魔化し、そう呟いて。
学生街へたどり着けば、男は別れを告げ、言葉通り研究区の方へと消えていくだろう。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から神代理央さんが去りました。<補足:風紀委員の制服に腕章/腰には45口径の拳銃/金髪紅眼/顔立ちだけは少女っぽい>
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】長めの紫髪に桃色の瞳の男/31歳179cm。右片耳に金のピアス、くたびれた白衣を着ている。小さな白い龍を2体連れている。>