2020/06/29 のログ
ご案内:「開拓村」にシュルヴェステルさんが現れました。<補足:人間初心者の異邦人。人型。黒いキャップにパーカーのフードを被っている。学生服。後入り歓迎してます。>
シュルヴェステル > 常世島の未開拓地域の最前線、開拓村。
転移荒野は学生の腕試しの場にもなっているが故に学生の姿も少なくない。
だがしかし、この開拓村まで足を運ぶ生徒は殆どいない。

未開拓地区を中心に活動する住民によって形成された村。
学園地区のような最新鋭の科学設備などはなく、落第街とは別ベクトルにアウトローな雰囲気。
そして、住人も変わり者が多いという、言ってしまえば『遅れた』とも言える村。

そこには宿泊施設や住居があり、簡単な研究所や畑や酒場は存在する。
されど、そこは一歩外に出てしまえば何が《門》を越えてやってくるかわからない魔境。

人が、多いわけではないのだ。

シュルヴェステル > は、と短い息を吐く。
笑いとも違う。どちらかといえば、安心してようやく呼吸ができたような。

パーカーのフードを被って、そのうえ黒いキャップで自らを覆い隠す。
先日、異能学会の会場で暴れた「異邦人」が、その村に足を踏み入れ。

「……此処なら」

きっと『何があっても』、空気のように流してもらえるだろう。
学生街のように、息がつまりそうなほど礼儀正しいわけでもなく。
落第街のように、血の匂いと暴力を垣間見ることになるわけでもなく。

恐らく、こんな未開拓地域にいる者であるのならば。
何があっても、「そういうものだ」と平等に無関心でいられるかもしれない。

……居場所が、あるかもしれない。

シュルヴェステル >  
――先日の一件。
異能学会における、意思疎通不可能なオーク種による、物損事故。
その“オーク種”張本人であるシュルヴェステルが行ける場は、多くなかった。

理由があったとはいえ、それを説明することはしなかった。
できなかったではない。自らの意思で、諦めて、怠って、やらなかった。

その結果がこれだ。
常世島の隅。表も裏も、どちらも社会だ。
その中間である、異邦人街にも足を運んだ。運んだけれど。

「どちらにもいられない」人々のための街にすら馴染めない自分に出会った。
常に異邦人街は「誰か」のために極彩色に彩られているけれど、
「自分」のためになるものが存在していなかった。とんだお客様根性だ、と思った。

故に。

シュルヴェステル >  
世界の隅っこにならば、居場所があるかもしれない、と。
強欲にも期待して、強欲にも「頑張らなくていい」場所を探して。
この開拓村にやってきた。恐る恐る足を踏み入れる。

いわば前時代的な、映画の中でしか見られないような酒場。
どこか古びて、《門》の影響か、わけのわからない品物も並ぶ。
というよりも、売っている側もわかっていないのだろうが。

「……すまない、なにか、もらえるだろうか」

開拓村には、彼のように「人間のような」見た目の者以外もいた。
《門》からやってきた異邦人を迎え入れるのを生業にしている者もいた。
人間のように、借り物の言語翻訳魔術で意思疎通をすれば、店員は頷く。
ジェスチャだけでも事足りることに気付く。少し息を吐いてから、頭を下げた。

この酒場は、どうやら《あちら》ほど言葉を使わないらしい。
指をさし、肩を組み、笑う。食事をする。酒を飲む。
そういう「言葉を使わないコミュニケーション」が、どうにも居心地がよかった。

時折研究者らしき白衣の人物が声を掛ければ、そこで初めて言葉が交わされる。
異邦人のシュルヴェステルにとって、それは少しだけ懐かしいものだった。

ご案内:「開拓村」に暁 名無さんが現れました。<補足:赤褐色長髪の青年教師/幻想生物担当/所謂人生を不真面目に謳歌している人/一人称ロール練習/>
暁 名無 > 「うるせーやい俺ぁまだ仕事残ってんの!お前らと一緒にすんな!
 まーた今度な!」

久々にやって来た開拓村の酒場。
裏口から入り店内へと至れば、見知った顔が次々と声を掛けてくる。いや、半分くらい鳴き声とかな気もするけど。
いわゆる“いつもどおり”の光景だ。この村にある簡易研究所に来る時は大抵寄る酒場。
仕事が無い時は一杯ひっかける事もあるが、今日は授業と授業の合間の時間。このあと学校まで戻らにゃならんわけで。

「……さて今回は有意義な情報は……無さそ、お?」

店の片隅に、場違いな学生服を見つける。
やれやれ人がまだ仕事残してるってのに、良い御身分じゃねーの!

「なーんだ、学生の時分からこんなとこで一杯やろうってのか。だいぶ肝が据わってんな。」

とりま、声を掛けてみる。

シュルヴェステル >  
店員が品名を口にしたが、わからなかった。
多分どこかの異世界の言語だろう。食わねば死ぬ身。
なれば食べられるものならなんだって構わない。オーク種は悪食だ。
《大変容》の前の「オーク」は人間の姫騎士が主食と思われていたらしい。

さて、と手づかみで野菜に巻かれた何らかの肉料理を口に運ぼうとした矢先。
軽やかな言葉と雰囲気に僅かに気圧されながら男を見た。
異邦人街っぽい色合いだな、と、シュルヴェステルは静かに思う。

「……学生が、ここにいてはいけない理由があるのか?」

店員も暁の顔を見れば慣れた調子で片手を挙げる。
ああ、そうか知己であったか、であらば自分が余所者か、と。

「学生街で暮らす肝を持ち合わせていないから、ここにいる」

少しだけ拗ねたような声色でそう言ってから、肉料理を口にした。

暁 名無 > 「おうおう、反抗期みてえなツラぁしやがって。
 ……って、その顔どっかで見た事あるな……ええと、」

あー、何で見たんだっけか。
女の子の顔ならまず忘れないんだが、男の顔となるとちょっと怪しい。
自分の受け持ちの生徒じゃなさそうだし、かと言ってどっかで会ったわけでもない、とすると……あ!

「あーあー、お前さんあれか、博物館で一悶着起こしたオークだろ?
 なあ大将、そうだよな?」

店主に確認がてら目を向ければ、性質の悪い酔っ払いを見る目で見られた。
なんだよまだ素面だ素面。

「はっはは、そりゃあ学生街じゃ据わりが悪いわな。
 で、異邦人街じゃなくこんなとこで飲んでるって事は、だ。」

──さてはこいつ、馴染めなかった口か。

シュルヴェステル > 「…………」

博物館。確かに、あのときも閉館間際だった。
閉館間際に、見知らぬ学生に対して声を大にした。
そういう噂が立っていてもおかしくないし、自分の種族を知っているのは。
自分なりに秘しているとはいえ、学園の教員であればそれを知ることはできる。

自分の思ってもいない場所でも「やらかし」ているのを再確認する。

「……ああ、ああ」

静かに肯定するしかできない。
店主は「よしとけ」なんて言葉を掛けるがそれもおざなり。
いい意味でも悪い意味でも、客に興味はそこまでないのだろう。

「それで、学園の。一体、私に何用だ」

わかったような口を――事実わかっている――きく男に。
少しばかりの苛立ちを織り交ぜながら、言葉を返した。

暁 名無 > 「ああ、やっぱり!……いや、違うな。
 なんかニュースがごっちゃになってるが、まあいいか。
 職員会議でも挙がってたぞ、どうしたもんだろうなってな。」

博物館だったか、学術展だったか。
まあ多分どちらもかもしらんが、別にそれはどうでもいい。

「難儀なもんだよなあ、お前さんも。
 放っといて貰えれりゃまだ幾分か楽だろうに。」

ケラケラ笑ってたら横のテーブルからサンドイッチの様な物が飛んできた。
飲まないならせめて食ってけという事らしい。一口齧る。何とも言えない風味が口に広がった。

「んや?別に何か用がある訳じゃ……あ、いや。あるな。
 お前さんよ、腕っぷしに自信はあるか?ありそうだよな。」

──学生街にも異邦人街にも馴染めず開拓村に流れ着いたオーク。
うん、うん。こりゃあ誂え向きだ。

シュルヴェステル > 「……そうか」

僅かに言い淀んでから。
職員会議。先日職員室で自分の細剣を返せと言ったこと。
自分の中で当たり前の行動と思っていたどれもが、人間から見れば。
そのすべてが、人間からすれば「異物感のある」行動だったということ。
彼の思惑を越えて、オーク種の青年は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「それは、大変に迷惑をかけ――。
 ……放って。……あ、え、ああ。そう、で、」

だから現に、貴殿にも放っておいて頂きたいのだが、と言うつもりだった。
だが、その前の言葉は青年にはあまりに予想外だった。
放っておいてほしい、なんてことを言い当てられるなんて思っていない。

「ああ、いや、それは、違う。
 ……腕も、異能や超常に比べればありきたりな程度だ。
 学園の学生たちのほうがよっぽど、私よりも、戦闘を……牙を手段にしているはずだ」

一体目の前の教師が何を言っているのか、青年にはわからなかった。
情報量に目をぐるぐると回しながら、血色の瞳が暁をじっと見やった。

暁 名無 > 「余所の世界から来たからって、郷に入れば郷に従えで枠に収めようなんざ元々無理が有んだよなあ。
 そんなのが通用すんのは、“自分から来た”連中だけだっつのに。」

サンドイッチを頬張ったところで更にジョッキが横から差し出される。
ちくしょうこいつらそういう狙いか。
お前ら持ちだぞ!!!と見事こちらを罠に嵌めて来た狼頭の男へと叫びつつジョッキを呷る。

………ミルクだこれ!!!!!

「いんや、別にあんなもん適当に聞き流してりゃろくな結論も出さず終わるもんだ。
 迷惑ってのは……あー、そうだな……思いつかねえ、パス。」

ジョッキをカウンターに置けば、胡散臭いものを見る目で店主が見て来る。
うっさいな素面だ。ところでこれなんの乳?牛じゃないよね??

「あんな豪快に物壊しといて謙遜のつもりか?
 まあいい、腕っぷしに関しちゃ既に評価はついてんだ。  肝心なのはお前さんが学園じゃ厄介者ってとこだ。」

ニヤリ。我ながらだいぶ悪い顔してると思う。
でも、学園に馴染めなかった、文明文化に迎合出来なかったって事はだ。

「どうだお前さんよ、ここいらでひとつ、手に職つけてみる気はねえかい。
 こんなとこで飲んでるくらいだ、是が非でも学校で勉強したいってクチじゃあるまい?」

酷く懐かしさを感じる血の色の瞳が此方を見ている。
きっとそれを見返す俺の目は、乾いて擦れどもとは同じ色のそれだ。

シュルヴェステル >  
「…………」

自分が言いたいことを、1から10まで言われた。
そして、それは自分が口を閉ざしているのだから伝わらないはずだった。
だのに、目の前の男は平然とした顔でさらりと言ってのけた。

「……謙遜ではない。
 事実として、この学園の生徒と違って指向性がない。
 彼らは暴力の向きを操作しているように思うが、私は小器用なことはできない。
 私よりも別の相手を雇ったほうがよっぽど効率がいいはずで」

異邦人から見ても「よくわからないもの」だらけのこの店の中で、
何も気にせず……気にしていたとしても、それに気付けないほど自由に。
「誰もの仲間の一人」のような顔をする男に、訝しげな視線を向ける。

「だが」

口がうまい相手に気をつけろ。
我が異邦は、その口一つで滅びを迎えた。
暴力と拳だけが言葉であった異邦は、今は見る影もない。……それでも。

「……話は、聞く」

聞かねば、シュルヴェステルにはわからない。
目の前の男のように聡くはない。であらば、できることは一つだけ。

暁 名無 > 「そもそも尺度が狭いんだ。
 元から居るのが『人間』でよそから来たら『異邦人』
 同じ様なナリをしてるからって、同じ様な道理が通じると思ってやがる。まったく傲慢も良いとこだ。
 別の国の連中とでさえ相互理解を諦めるフシがある癖に、ましてや別の世界だぞ?」

横合いから『そうだそうだ!』と声が上がる。
まったくこれだから酔っ払いは。大将、あっちの馬鹿にとっておきの麦酒を!

「馬鹿野郎、暴力に指向性もクソもあるか。
 そんな事言ってて自分で薄ら寒くならねえのかお前さん。」

だって、オークだろう?
俺の知るオークとは、幾分か勝手が違うのかもしれない。
それでも大筋では同じはずだ。違うとこは後々擦り合せりゃ良い。

「そうこなくちゃ。
 おっと、その前に形式だけでも自己紹介と行こうか。

 俺の名は名無。学園での担当は幻想生物。」

大仰に胸に手なんぞ当ててみる。
まあテーブルに腰掛けてるから行儀なんてクソほども無い訳だが。

「さてそんな幻想生物の教師が何をお前さんにさせたいかと言えば。
 ここ転移荒野周辺に現れるとっておき獰猛な獣どもをな。
 指向性の無い暴力で、器用さの無い暴力でだ、
 
 ──征伐あるいは屈服させて欲しい。」

シュルヴェステル >  
「…………、」

『人間』を目の前にして、『異邦人』は言葉を持たなかった。
きっと、彼が人間であったのならば、豊かな言葉とともに生きた種族であれば。
『筆舌に尽くしがたい』なんて言葉を選ぶことができたかもしれない。

「……それを学んだのは、この世界に来てからで。
 そちらのほうが効率的だとか、どこもルールがあるだとか、」

それを学園から教わったからそう言ったのに、この教師は。
平然とした表情で、それをひっくり返してから調子よく笑うのだ。
異邦人にとっては、そのどれもがわからない。

正しく。
オークという種――もとい、シュルヴェステルを擁する種にとっては、だが。
暴力など、その大小しかありはしない。手段でなく目的でしかない。

「■■■■■■■」

はじめて。この《世界》において、異邦で呼ばれる通りに。
自分で、一瞬だけ言語翻訳魔術を膂力にて『握り潰し』てから。
「本当の音」でもって、名を名乗る。伝わるはずもない音の羅列。
そのあとすぐに、少しだけ薄く笑ってから、握った手を開いて。

「聡き檻のシュルヴェステル。
 この世界の言葉に『倣う』なら、『こう』なるらしい」

オーク種において、聡いことは祝福ではない。
武で、拳で、暴力で語らうオーク種が「聡い」と呼ばれるのは皮肉でしかない。
この《世界》からしたらその頭も飾りと大差なくとも、《異世界》ではそう呼ばれていたと。

告げる。

「理由を問おう。
 『征伐』される、『屈服』させられるに足る理由が彼らにあるのか。
 なぜ、貴殿が私にそれを求めるのかを、聞かせてほしい」

「聡き」暴力の徒は。真っ直ぐに、一つも物怖じすることなく。
暴力を『手段』とする理由を、問うた。

暁 名無 > 「効率とルールで上手く回るんなら苦労はねえってんだ。
 その結果、お前さんのような奴が出る。俺みたいな奴が出る。この酒場で屯せざるを得ない奴らが出る。
 効率的だとか、ルールがある。そりゃあ確かにその通り。
 でも、それが全てじゃあ生きられねえ奴だって居るだろうがよ。」

そんな事、当人が一番分かってるだろうに。
いや、“分からされた”だろうになあ。
そう言う意味じゃ、この“学園”は確かに機能を果たしている。
正しい道理を説く事だけが「教える」という事じゃない。
正道を説くなら邪道も説け。綺麗事を並べるなら、汚れた物も等しくだ。

「はっは!それがお前さんの名か!
 生憎と何を言ってるかまでは分からんが、大層なもんじゃねえか。」

『人間』には自分の名前すら尻込みしてしまう奴も少なくないってのに。
目の前のオークは、己の名を、己の言葉で、伝わらない事を承知で見事名乗って見せた。
……わざわざその後で翻訳し直しまでしてくれた、が。

「……そうかい、──■■■■■■■。
 シュルヴェステル。なるほど、こりゃ通じんな。」

たとえ言語として理解は出来ずとも。音として成るなら復唱くらい訳は無い。
魔狼の遠吠え、天馬の嘶き、飛竜の唸り、『人類』が言葉と見做さない言葉なんぞ、世界には掃いて捨てるほどあるのだから。
それらを言葉として捉えられなければ、幻想生物学者なんて門前払いだ。

「何故お前さんに頼んだか、か。
 単刀直入に言えば、お前さんが厄介者だからだ。
 危険な場所に放り込んで、その結果命を落としても──
 ──厄介払いが出来るだけ、だろ。
 
 ここからは蛇足だが──
 
 元居た世界から辺鄙な場所へと放り出され、
 訳も分からないままに、それでも奴らぁ必死に生きてる。
 だのに、言葉が通じんから、とそんな理由で危険と見做され迫害の的だ。
 
 だからこそ、似たような境遇の誰かさんに対処を頼みたい──と、これじゃあ不十分か?」

よっ、と掛け声とともに俺はテーブルから腰を上げた。

「──ああ、一つ言い忘れてた。
 『征伐』も『屈服』も人間様の都合で行うもんだ。
 もっと他にいい方法があるなら、『危険』を払えるならそれに越した事はない。
 人間の面倒なルール上でそう呼んでるだけだ。」

シュルヴェステル >  
目の前の教師を『試す』ような異邦の民の問いを。
かつて道を通す通さないを問いかけで決めていた、獅子の身体の異貌持つ生命があったらしい。
文字通りの幻想生物の問題を、ある旅人は簡単に解き明かしたらしい。
奇しくも、時間の『旅人』は異邦の民の問いかけに答えた。逸話をなぞるように道は開く。

「……貴殿は、私を。
 『学園の教師』として、そう語るのであらば。
 例として、私が『不慮の事故』で崖から身を落として死んだとて。
 人間のように扱わず、人間のように弔わず、人間のように語らないと、そういうことか」

体裁としては未だ『生徒』である以上、彼の意見は『教師』としては言語道断。
知能に劣るオーク種でもわかる、「ルール違反」だ。
それを、その責任を彼が背負い。そこで、『また同じようなこと』があった場合は。

「であらば、その責は。……貴殿が、負うことになろうが」

言ってしまえば、完全な特例措置にほかならない。
ほかの生徒の学ぶことも学ばずに、一匹の獣をこの開拓村で放し飼いにすると言っているのだ。

「もし運悪く、私ではなく『異邦の者』に危害を加えた学生がいらば。
 私は、力を振るうことを躊躇いやしないだろう。加減などできようものか」

裁定者としては、人選は最悪だ。こんなにも「異世界」に肩入れしている。
もし、異邦のものが『人を殺せば信頼してやる』というのなら、それを躊躇わない。
オーク種というのは、生まれたばかりの火のようなものである。
怒りとエネルギーを司り、若さと情熱の象徴でありながらにして、不死の国の王の名を背負うもの。

「人間を信じるなと、声高に叫ぶことが許されるのであらば。
 ――私は、それを受諾しよう。それを承ろう。人に解らぬ言葉で、それを告げよう」

暁 名無 > 「──まあ、そうだな。」

もしこの場に他の教員が居れば、叱責どころの話じゃないだろう。
当然だ。生徒に向けてお前は人間じゃないだなどと人権無視にもほどがある。
……で、ほどがあるから何だ?

「そうなるな。
 まあ、お前さんがそれを良しとしないのであれば考慮するが……
 ふむ。そも、俺には不慮の事故で息絶える程、人間じみた様には見えないが。」

物の例えだというのは解る。
解るが、もうちょっと例え様があるだろうに、まったく。

「それくらいは雇い主の責務として当然だろう?
 責任が恐くて生徒を危険に放り込めるか。」

腐っても一応、教師だ。いや、今回ばかりはその任を超えたことをしてる自覚はあるけれどもだ。
が、それ以上に。一人の人間として、一人の異邦人に相対しているつもりでいる。
や、違うな……あらゆる常識が異なるひとつの生物同士として向かい合っている方が正しい。

「そうだな、それも已む無しだ。
 もし仮に異邦の者がこちらの世界の人に手を掛ければ報復を受けるのが道理だ。
 その理屈を無視して、一方的に異邦を謗る謂われは無いだろうよ。」

人間も異邦人も関係無い。手を出されたから報復する。
話はシンプルだ。人間同士でもよくやってる。

「ふむ、──『人を信じるな』か。
 そこまでの事を認めるのは流石に荷が勝ち過ぎているな……でも、お前さんの根っこはそれ、なんだな?」

なるほど、と腕を組んでしばし考える。
二つ返事で認めるには、自分でも言ったが荷が重すぎる。
が、かと言って現状を如何とする術も無し……ふーむ。

シュルヴェステル > 「……ああ。私は、人間など信用できん。
 斬らば死ぬ。その弱さを武器にする、人間という生き物が嫌いだ。
 徒手空拳に爪牙を隠して、我々よりもよほど指向性のある暴力を用いる」

異能。魔術。指向性のある、超常の力が嫌いだ。
一度口を開けば。まるで人のように言葉が流れ出す。
目の前の人間に対して、どれだけ、どうして嫌いなのかを詳らかにする。

「して、私は何より。――人間の傲慢が、許せない。
 はじめから、『わかりあえる』などという幻想を抱かなければよかった。
 共生できているという幻想に溺れ、真実を見ようとしなかった。
 即ち、私は。……私は、《異邦》の取捨選択が、……、」

人間と交わることのできる異邦と、交わることのできない異邦。
この転移荒野でも様々な異邦の民が、交わることできずに死していった。
人が死ぬこともあったろう。それよりも、異邦の民のほうがよほど。

「ここにやってきた全てを殺さなかった人間を、私が許せようか」

揺れることなく。
気高き知性を持ちながら、「わかりあえない」ということを「わからなかった」。
――転じて、「わかりあえると思った」人間の傲慢さを、彼は許せぬと。

悩む暁とは対照的に、シュルヴェステルは高らかに謳う。
「わからない」を「わかる」暁ならば、と胸中を打ち明けてから。

「私は。――私でよいのであれば、その任、承ろう」

暁 名無 > 「───なるほど、な。」

ふむ、ここまで強固な意志を持つに至った理由も聞かされれば納得のいくものではある。
俺自身感じていたもの、外から来た彼は、より鮮明により深刻にその身に感じて来ていたのだろう。
その感情を、間違いだとする様な感性は、日和った精神は持ち合わせていない。

「そうだな、そうとも。お前さんの言う事は尤もだ。
 その怒り、悲しみ、嫌悪は正当のものであると認めざるを得ない。」

これ以上の適任は居ないと思うと同時、最悪の選択でもあると思う。
なら、だ。

「それなら、だ。一つ言いたい事がある。
 人を嫌うは良し、信用出来ないと言うのも認めよう。

 ただ、それらを踏まえた上で一つ。
 
 決して──殺すなよ。
 異邦の者も、人間も、どちらも殺すな。死なせるな。
 それが出来る者として、俺はお前さんを選びたい。」

さて、これで相手がどう出るか──

シュルヴェステル >  
「心得た」

静かで、短い答えだった。
すこしの逡巡もなく、すこしの動揺もなく。
それをそうするのが、最初から当然至極であるかのように。

「『人間の真似事をせよ』と貴殿が云うならば。
 ここに辿り着いたときに殺されることができなかった自らを責めるほかない。
 人間にとって、排除せねばならないほどの脅威たり得なかった自責に他ならん」

もし、その膂力がなにもかもを殺すほどに強ければ。
もし、その行いが人間が絶対に許せないことであれば。
もし、転移荒野にやってきた時点で少しの知性もなかったのならば。

そのどれもが架空で、「そうでなかった」のならば。
「どうにかできるほど」に弱く、中途半端であるのならば。
その申し出を不可能だと告げる理由を持ち合わせていない。

それができてしまう。――弱いから。
弱いものが、強いものの定めた法に従うのは事実である。
人間というこの島でのヒエラルキーの頂点からそう言われたのであらば。

オークという種において、弱いことは悪しきことである。
故に、弱いのであらば力をつける以外にやることなぞありやしない。
全ての人間を殺せるほどの暴力を持ち合わせていなかった自分が悪い。

「その全て、『聡き檻』が承る」

幸いであったことは、「死ぬな」と言われていないことだ。
もし、「殺される」手違いも、「自死」の手違いがあったとしてもいい。

「その代わり、生活委員会より。
 この世界に足を踏み入れたとき、取り上げられた私のつるぎを。
 どうか返してもらえるよう、口を利いてもらえないだろうか」

答えを聞かずに、口の中に肉の野菜巻きを詰め込んでから。
「できる」も「できない」も聞きたくなかったが故に、静かに踵を返す。

異能学会で、転移荒野で。そして、博物館でまでも。
異物として扱われた異邦人に返すつるぎがあるかどうかを。
……いまは、なぜだか知りたくなかったから。

ご案内:「開拓村」からシュルヴェステルさんが去りました。<補足:人間初心者の異邦人。人型。黒いキャップにパーカーのフードを被っている。学生服。後入り歓迎してます。>
暁 名無 > 「嫌いな物、信用ならないものをその感情のままに殺す。殺すことに理由を求める。
 その方が俺はよほど『人間の真似事』だと思うが。」

一度目を閉じ、ふぅ、と溜息を零す。
其処も含めて常識の齟齬か、と改めて溝の深さにめまいを覚える。
が、彼の抱えていたものはこの程度の物ではないのだろう。もっと深く、昏いものに違いない。

「──つるぎ、だな。善処しよう。」

正直、一介の教師が回収できるかは分からない。
わからないが──それがやらない理由には成り得ない。
であればダメ元でも掛け合うだけの事をするだけだ。

去りゆく背を見送りながら、酒場の店主と顔を見合わせて。
……え、あいつ代金払って無い?本当に?

「──まったく、難儀な場所だよ。この島は。」

憎々しげになけなしの昼食代を店主に渡し、俺も酒場を後にしたのだった。

ご案内:「開拓村」から暁 名無さんが去りました。<補足:赤褐色長髪の青年教師/幻想生物担当/所謂人生を不真面目に謳歌している人/一人称ロール練習/>
暁 名無 > 「──まあ、そうだな。」

もしこの場に他の教員が居れば、叱責どころの話じゃないだろう。
当然だ。生徒に向けてお前は人間じゃないだなどと人権無視にもほどがある。
……で、ほどがあるから何だ?

「そうなるな。
 まあ、お前さんがそれを良しとしないのであれば考慮するが……
 ふむ。そも、俺には不慮の事故で息絶える程、人間じみた様には見えないが。」

物の例えだというのは解る。
解るが、もうちょっと例え様があるだろうに、まったく。

「それくらいは雇い主の責務として当然だろう?
 責任が恐くて生徒を危険に放り込めるか。」

腐っても一応、教師だ。いや、今回ばかりはその任を超えたことをしてる自覚はあるけれどもだ。
が、それ以上に。一人の人間として、一人の異邦人に相対しているつもりでいる。
や、違うな……あらゆる常識が異なるひとつの生物同士として向かい合っている方が正しい。

「そうだな、それも已む無しだ。
 もし仮に異邦の者がこちらの世界の人に手を掛ければ報復を受けるのが道理だ。
 その理屈を無視して、一方的に異邦を謗る謂われは無いだろうよ。」

人間も異邦人も関係無い。手を出されたから報復する。
話はシンプルだ。人間同士でもよくやってる。

「ふむ、──『人を信じるな』か。
 そこまでの事を認めるのは流石に荷が勝ち過ぎているな……でも、お前さんの根っこはそれ、なんだな?」

なるほど、と腕を組んでしばし考える。
二つ返事で認めるには、自分でも言ったが荷が重すぎる。
が、かと言って現状を如何とする術も無し……ふーむ。

シュルヴェステル > 「……ああ。私は、人間など信用できん。
 斬らば死ぬ。その弱さを武器にする、人間という生き物が嫌いだ。
 徒手空拳に爪牙を隠して、我々よりもよほど指向性のある暴力を用いる」

異能。魔術。指向性のある、超常の力が嫌いだ。
一度口を開けば。まるで人のように言葉が流れ出す。
目の前の人間に対して、どれだけ、どうして嫌いなのかを詳らかにする。

「して、私は何より。――人間の傲慢が、許せない。
 はじめから、『わかりあえる』などという幻想を抱かなければよかった。
 共生できているという幻想に溺れ、真実を見ようとしなかった。
 即ち、私は。……私は、《異邦》の取捨選択が、……、」

人間と交わることのできる異邦と、交わることのできない異邦。
この転移荒野でも様々な異邦の民が、交わることできずに死していった。
人が死ぬこともあったろう。それよりも、異邦の民のほうがよほど。

「ここにやってきた全てを殺さなかった人間を、私が許せようか」

揺れることなく。
気高き知性を持ちながら、「わかりあえない」ということを「わからなかった」。
――転じて、「わかりあえると思った」人間の傲慢さを、彼は許せぬと。

悩む暁とは対照的に、シュルヴェステルは高らかに謳う。
「わからない」を「わかる」暁ならば、と胸中を打ち明けてから。

「私は。――私でよいのであれば、その任、承ろう」

暁 名無 > 「───なるほど、な。」

ふむ、ここまで強固な意志を持つに至った理由も聞かされれば納得のいくものではある。
俺自身感じていたもの、外から来た彼は、より鮮明により深刻にその身に感じて来ていたのだろう。
その感情を、間違いだとする様な感性は、日和った精神は持ち合わせていない。

「そうだな、そうとも。お前さんの言う事は尤もだ。
 その怒り、悲しみ、嫌悪は正当のものであると認めざるを得ない。」

これ以上の適任は居ないと思うと同時、最悪の選択でもあると思う。
なら、だ。

「それなら、だ。一つ言いたい事がある。
 人を嫌うは良し、信用出来ないと言うのも認めよう。

 ただ、それらを踏まえた上で一つ。
 
 決して──殺すなよ。
 異邦の者も、人間も、どちらも殺すな。死なせるな。
 それが出来る者として、俺はお前さんを選びたい。」

さて、これで相手がどう出るか──

シュルヴェステル >  
「心得た」

静かで、短い答えだった。
すこしの逡巡もなく、すこしの動揺もなく。
それをそうするのが、最初から当然至極であるかのように。

「『人間の真似事をせよ』と貴殿が云うならば。
 ここに辿り着いたときに殺されることができなかった自らを責めるほかない。
 人間にとって、排除せねばならないほどの脅威たり得なかった自責に他ならん」

もし、その膂力がなにもかもを殺すほどに強ければ。
もし、その行いが人間が絶対に許せないことであれば。
もし、転移荒野にやってきた時点で少しの知性もなかったのならば。

そのどれもが架空で、「そうでなかった」のならば。
「どうにかできるほど」に弱く、中途半端であるのならば。
その申し出を不可能だと告げる理由を持ち合わせていない。

それができてしまう。――弱いから。
弱いものが、強いものの定めた法に従うのは事実である。
人間というこの島でのヒエラルキーの頂点からそう言われたのであらば。

オークという種において、弱いことは悪しきことである。
故に、弱いのであらば力をつける以外にやることなぞありやしない。
全ての人間を殺せるほどの暴力を持ち合わせていなかった自分が悪い。

「その全て、『聡き檻』が承る」

幸いであったことは、「死ぬな」と言われていないことだ。
もし、「殺される」手違いも、「自死」の手違いがあったとしてもいい。

「その代わり、生活委員会より。
 この世界に足を踏み入れたとき、取り上げられた私のつるぎを。
 どうか返してもらえるよう、口を利いてもらえないだろうか」

答えを聞かずに、口の中に肉の野菜巻きを詰め込んでから。
「できる」も「できない」も聞きたくなかったが故に、静かに踵を返す。

異能学会で、転移荒野で。そして、博物館でまでも。
異物として扱われた異邦人に返すつるぎがあるかどうかを。
……いまは、なぜだか知りたくなかったから。

ご案内:「開拓村」からシュルヴェステルさんが去りました。<補足:人間初心者の異邦人。人型。黒いキャップにパーカーのフードを被っている。学生服。後入り歓迎してます。>
暁 名無 > 「嫌いな物、信用ならないものをその感情のままに殺す。殺すことに理由を求める。
 その方が俺はよほど『人間の真似事』だと思うが。」

一度目を閉じ、ふぅ、と溜息を零す。
其処も含めて常識の齟齬か、と改めて溝の深さにめまいを覚える。
が、彼の抱えていたものはこの程度の物ではないのだろう。もっと深く、昏いものに違いない。

「──つるぎ、だな。善処しよう。」

正直、一介の教師が回収できるかは分からない。
わからないが──それがやらない理由には成り得ない。
であればダメ元でも掛け合うだけの事をするだけだ。

去りゆく背を見送りながら、酒場の店主と顔を見合わせて。
……え、あいつ代金払って無い?本当に?

「──まったく、難儀な場所だよ。この島は。」

憎々しげになけなしの昼食代を店主に渡し、俺も酒場を後にしたのだった。

ご案内:「開拓村」から暁 名無さんが去りました。<補足:赤褐色長髪の青年教師/幻想生物担当/所謂人生を不真面目に謳歌している人/一人称ロール練習/>
ご案内:「転移荒野」に真浄虎徹さんが現れました。<補足:フード付きパーカー、七分袖シャツ、ブラックジーンズ、スニーカー>
真浄虎徹 > 「――いやはや、どうしてこうなったんだろうね…うん。」

そんなボヤきを漏らしながら目の前の”怪物”を見上げる。…沢山の首を持った竜…多頭竜というやつだろうか?
何でそんな怪物と対峙しているのかと言えば――ただの偶然であり不運でしかない。
異能も魔術も全く使えない…結果的に”補習”となったのだが…まぁ、色々あって転移荒野で魔物退治だ。

(…うん、ただの凡人にどうこう出来る相手じゃないよねぇ、これ…僕、人生詰んだかな)

と、ぼんやり思いつつも不思議と恐怖心は感じない――昔からそうだったけど。
それでも、脅威は感じ取れるので強そうな魔物、というのは流石に分かるのだけど。

「――あーーうん、えーと、こっちの…というか、人間の言葉とかって分かる?
出来れば交渉、とゆーか話し合いをした――」

カッ!!  

直後、多頭の竜の首の一つが放った閃光のブレスで少年の背後の地面が抉り取られるように蒸発した。
ゆるーい空気はそのままに、何となく後ろを振り返り…「あーーこれヤバいね…」と、他人事のように呟く。

「そちらさんは殺る気満々なのは分かったけど、僕としては特にやり合う気はないんだけど…と、いうか勝てる訳ないじゃない」

次の瞬間には自身が今度こそ閃光のブレスの餌食になりそうなものだが、少年の態度は何時もと変わらない。

真浄虎徹 > 「…よし、取り敢えず逃げないと死ぬのはよく分かった…まぁ、逃げ切れるかどうか分からな――あ、やっべぇ」

独り言をぼんやり呟いていたが、緊張感ゼロの「やべぇ」発言の直後に真横に転がるように身を飛ばす。
再び、つい一瞬前まで少年が立っていた場所が閃光のブレスにて地面が抉られるように蒸発。
何とかギリギリ回避は出来たが、正直勘に助けられたかもしれない。
緩慢な動作でゆっくりと身を起こしながら多頭竜を見上げて…。

「…いや、ほら…えーと。僕、村人Aみたいな端役なんで見逃して貰えないかなぁ…。
あ、駄目?うん、だよねぇ…村人Aなんて魔物に殺されるというのもよくある事だし…」

周りのように異能も魔術も使えないし、凄い武器や道具を持っている訳でもない。
備えているのは大雑把に過ぎる『体術』と、生まれつきちょっぴり精神の耐性が強いくらいだ。

(あーー…今の交わしたから、奴さんちょっとイラッて来てるみたいだなぁ。
…うん、全部の頭がこっち向いてるし目が凄い迫力で僕チビりそう…)

真浄虎徹 > …とはいえ、恐怖心がサッパリなので実際にチビりそうなのかどうかは分からない。
いや、気分的には漏らしても罰は当たらないと少年的には思うのだけれど。
まぁ、勢いで小と大を一気に、という可能性も無きにしも非ず…それはまぁ置いておいて。

「……うーん、誰かに助けを求めるにしても、転移荒野だしなぁ、ここ…。」

スマホ?さっきこの多頭竜さんに不意打ちでぶっ壊されましたけども。
――経済的に厳しいのだけど、それよりまずは生存第一。別に死にたい願望は無い。

(――無いんだけど、これ逃げ切るのもやっぱり無――)

「――って、待った待った、たかが凡人学生一人に君は何マジになって――っ!!」

次の瞬間、複数の頭から放たれた閃光、電撃、火炎、凍結、毒霧、他数種類のブレスが乱れ飛ぶ。
最早、回避がどうとかそういう問題ではない。ただ無意識の動きで回避行動を取るが――

「…だから…マジになりすぎだって…っ!!」

直撃こそ無かった――否、あったら死んでいたけど――ブレスの衝撃で上空に吹っ飛ばされる。
即死よりかはまだマシだが、このまま地面に叩き付けられたらどちらにしろ死ぬのではなかろうか。

「……あ、これは何とかしないと死ぬなーー」

考える時間は無い。さて、どうするかと思っている時点でもう地面がすぐそこに迫っている。

真浄虎徹 > ――考えている時間が無かったので、まず空中で身を捻ってつま先から地面に着地、そのまま体を丸めて地面を転がるようにしながら脛の外、臀部、背中、肩の順番で地面に接地して衝撃を分散していく。
いわゆる『五点着地』というやつだが、勿論少年はそういうのは知らない。

「…っはぁ…死ぬかと思った…いや、現在進行形で死にそうなんだけど」

そのまま反動で身を起こしながら、衣服の汚れを軽くパンパンと払っておく。
体だけはやたらと鍛えられていたから助かった…まぁ、痛くないかと言われたら痛い。

――今ので仕留め切れなかった事にご立腹なのか、多頭竜の目が血走ってきた。
…あと、低い唸るような声も聞こえる。…死を回避したと思ったら次の死がそこにある。

ご案内:「転移荒野」に真浄虎徹さんが現れました。<補足:フード付きパーカー、七分袖シャツ、ブラックジーンズ、スニーカー>
真浄虎徹 > (うーん、こういうピンチに覚醒!とか主人公補正あったらいいんだけど、そーいうの無いしなぁ)

村人Aとはそういうものである。あと、都合よく覚醒したらそれはそれでどうかと思う。
よって、手持ちの札で何とかしないといけないのだが…倒す?論外だ。僕が死ぬ。
誰が来てくれるまで耐える…これも論外だ。体力切れでどのみち僕が死ぬ。
あと、都合よく誰かが来てくれたらそれこそ奇跡的だろうと思う。
と、なると逃げるしか無いのだが――多頭竜から完全に逃げ切るって難易度高すぎでは。

「あれかな、今僕の人生はハードモードにでもモードが切り替わったのかな」

取り敢えず、ジリジリと後ずさるように後ろへと下がり始める。あの図体だから動きは鈍い…と、思う。
何せこんな怪物と出会うのは初めてだからしょうがない。ともあれ、最優先は生き延びる事。

――いよいよ切羽詰ったら見切りは付けるが、それにはまだ早い。死ぬならやる事をやってから、だ。

真浄虎徹 > 「――よし、死ぬ気で逃げよう」

方針は決まったし、後は…まぁ、なるようになれ。
都合の良い覚醒は無いし、都合の良い助けは来ない。
自分の『体術』でアレが倒せるか?…高望みし過ぎだろう。

(ほんと、異能とか魔術がある人が羨ましいなぁ――)

「なーーんて、ね。無いもの強請りしてもしょうがないだろう僕。
どんな力があっても死ぬ時は結局死ぬんだし…。」

だったら、無能力でも凡人でも生き残ればそれで上々だ。
――で、うん。考えタイム中に攻撃してこない君は実は結構優しいのかな?

「――ほんと、日本語というか言葉が通じたら話でもしてみたい所なんだけどなぁ」

首が沢山あるドラゴンって格好良いじゃないか!!と、少年は思うがそのドラゴンさんに殺されかけてる訳で。
取り敢えず、ここを生きて切り抜けられたら補習かました人に文句の一つくらいは言わせて貰おう。

「――さーて、僕が逃げ切るか君が僕を殺すか…命がけの鬼ごっこだねぇ」

真浄虎徹 > 結果的に言えば――彼は生き延びた。
食われかけたり、ブレス食らいそうになったり、腕試しで着ていた誰かに巻き添えで吹っ飛ばされたり。
――まぁ、生き延びたけど見事にボロボロになった。

「あ、僕は別にこんな格好だけど変質者じゃ――」

『いやーー!?また全裸が現れたわーーー!!』

まぁ、ほぼ全裸だったのは仕方ない。生き延びるのに必死だったもの。
衣服なんてボロボロになり過ぎて既に跡形も無かったのだ。

(――と、いうか”また”全裸ってどういう事なんだろうなぁ)


悲鳴を上げた女子(自主訓練で来ていたらしい)に派手に吹っ飛ばされながら、僕はそんな事を考えるのだった。

ご案内:「転移荒野」から真浄虎徹さんが去りました。<補足:フード付きパーカー、七分袖シャツ、ブラックジーンズ、スニーカー>