2020/06/23 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に227番さんが現れました。<補足:白い髪に青い瞳。ボロボロのフード付きマントを羽織り、フードを深々と被る。待ち合わせ無し>
227番 > 落第街の数ある路地裏の一つ。
その隅っこで、2匹の犬が吠えている。
野良犬の喧嘩だろうか?……そうではないようだ。
2匹は姿勢を低く構え、上を見上げ、吠えている。
その視線の先、高めの塀の上で、縮こまって下を見ている、暗い色フードの少女。
どうやら追われた結果、完全に追い込まれたらしい。
人間の相手は追いつかせない自信があるが、動物は話が別だ。
塀を飛び越えても、こいつらはついてきてしまう。
なんとか届かない高さの場所を見つけて飛び乗ったものの、降りる先は無かった。
じっと、犬たちが諦めるのを、待つしか無い……。
ご案内:「落第街 路地裏」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
227番 > どうしよう。
塀の上に居続けるのも、いずれ限界は来るし。
下の犬たちがうるさく吠えているのも、あんまり良くないだろう。
怖い人が、きてしまうかもしれない。
それでも、227は動くことが出来ない。
二匹の"落第街の野良犬"の前には、まず勝てない、と思う。
ヨキ > やたらと犬の鳴き声が聞こえる、と、普段とは異なる曲がり角を曲がった先。
二匹の野良犬が、塀の上に向かって吠えている。
標的となってしまった少女の姿を見つけて――男は迷わずその渦中へ足を踏み出した。
廃屋から転げていた、ひしゃげた鉄パイプを拾い、振り回す。
「こらあッ! 犬ども、ヨキの教え子に何をしてくれるかあッ!」
よく通る大声と共に、臆せず野良犬たちへと駆け寄っていく。
少女と男とは面識はなかったし、正直なところ顔さえよく見えていなかった。
それでも、男は少女のことをそう呼んだ。
227番 > 突然の乱入に狼狽える野良犬たち。
恵まれた体つきが振り回すパイプに慄き、あるいはそれにぶつかったかも知れない。
なにはともあれ、奴らはたまらず逃げ出していくことだろう。
一方の少女はと言うと、大きな声にビビって縮こまっている。
やがて、犬の声がしなくなったことに気付いて、恐る恐る下を覗き込んだ。
227と書かれたタグのフードの下からは、白い髪、まんまるとした青い瞳。
ヨキ > 野良犬たちが逃げ出し、その姿が見えなくなるまで路地の先を睨み付け、武器を構えていた。
やがて気配が完全に遠ざかったところで、漸う鉄パイプを隅へ放り捨てる。
安堵の溜め息。はあ、と吐き出す声さえ通る。どうやら、地声がでかいようだ。
「――君」
空になった諸手を広げ、塀の上の少女へ振ってみせる。
「済まないな、びっくりさせた。もう大丈夫だ。降りて来られるかね?」
この高さを上ったくらいだとはあっても、平静になってみれば判らないと。
もしものときには支えになれるよう、両腕を軽く広げたまま少女へ呼び掛ける。
227番 > 「……大、丈夫?」
少しの間を置いて、状況がわかってきた。どうやら、助けられたらしい。
「……降りれる」
躊躇なく飛び降り、マントが広がる。
その下はうっすら透けるぐらい薄手の衣服のようだ。服と呼んで良いのかも怪しい。
羞恥の感情はないらしく、そのことには全く気にせず。
やがてふわりと着地するだろう。
ヨキ > そつなく地面へ降り立つ少女の様子に、再びほっと胸を撫で下ろす。
少女の肢体が透けたとて、何かしら動揺する様子はない。
「よかった、これでもうひと安心だな。
先生をやっているヨキというよ。覚えやすい名前だろう? 君は……」
言いながら、見下ろした少女のフードに記された番号を読み上げる。
「……ニヒャクニジュウナナ……、ニイニイナナ? これ、君の名札か? 他に名前は?」
227番 > 「せんせい……?」
路地裏でおじさんがそう呼ばれていたのは聞いたことが有るが、
おそらくそういったものではないだろう。この人からは、そんな感じはしない。
「うん。わたしの名前、これ。に、に、なな」
話す言葉はたどたどしい。
見た目通りの年齢なら、普通に会話ができそうなものだが。
フードの下から、見上げるように相手を見る。
ヨキ > 「そう、せんせい。勉強を教える人のことだよ」
笑い掛ける。
野良犬に怒鳴り付けたときとは打って変わって、低く穏やかな声。
相手のたどたどしい語調に合わせるかのよう、視線を下げ、中腰になって膝に手を突く。
「ほう、ニイニイナナ、それが君の名前か。
それなら、他にイチとか、ニイニイロクとか、サンマルヨンなんて子が居たりするのかな?」
相手の目を見ながら、ゆっくりと言葉を話す。
問い掛けながら、小首を傾いでみせた。
227番 > 「べんきょうを、おしえる……」
いつぞやに聞いた、勉学、のことだろうか。
路地裏で暮らす上で、必要がなかったので、ぼんやりとしか記憶していない。
視線を合わせられれば、すこし調子が落ち着く。
初めての相手なので、それなりに緊張していたようだ。
といっても、助けてもらった、という事実があるため、警戒はあまりしていない。
「……わからない。わたし、なにも、しらなくて。
いたりするかも、っていうのは、きいた、けど」
こちらも相手の表情を伺おうと、じっと相手の目を見ている。
ヨキ > 「そう、とっても楽しいよ。知っていると、楽しいことがちょっと増える。
お腹がいっぱいになったりはしないけどね」
わからない、という少女の答えに、そっか、と眉を下げて笑う。
安心したようにも、さみしげにも見える笑顔。
「知らなかったら、しょうがないよな。それで大丈夫」
そこで、後ろ腰の鞄から何やらごそごそと取り出す。
何の変哲もない、油性ペンと手のひらサイズのメモ帳だ。
「せんせいというのは……」
油性ペンで、何やらさらさらと描き上げる。
非常にシンプルな線で構成された、丸っこい、可愛らしい女の子のイラストだ。
頭のところには「227」と書いてある。どうやら、少女の似顔絵らしい。
「こういうことをする人だよ。
君は、絵を描いたことはある?」
227番 > 「……そうなんだ」
少しだけ、興味があるかも知れない。
生活にちょっとだけ余裕のある今なら。それらは全て施してもらってのものなのだが。
表情の機微にはしっかりと気付くが、
しかしその向こうにある感情までは掴み取れない。
227は人を怒らせないかを第一に気にしているのだ。
「……すごい」
魔法を見たかのように、目を見開いて驚く。
紙とペンの関係も良く認識していなかった227は、かなりと言っていいほど衝撃を受けた。
なにか書かれた紙、…たとえば、しんぶんも、こうやって作られているのだろうか?
なんてことを思いながら、まじまじとイラストを見る。
反応からして、経験がないのはすぐに分かるだろう。
ヨキ > 驚く少女を前に、小さなメモの上に次々と模様を描き込む。
星とか、花とか、ふわふわとした雲で似顔絵を囲ってみたりする。
「このペンを使うと、いろいろなものが書ける」
キャップを外したままの油性ペンを、少女へ差し出す。
新しいページを繰って、白い紙面と一緒に。
「うわーってやって、好きに手を動かしてみていいよ。
君もやってみるかい?」
ペンの持ち方も、それで何をどう描こうとも、気にした風もなさそうに。
227番 > 目がペンの先を追う。動くものがなんだか気になる。
「ペン……」
こんな物があったんだ、と思いながら見ていると、
ペンと紙を差し出される。
「……いいの?」
どうにも隠しきれない興味。
そわそわとしながらも、一応もう一度聞いてみる。
ヨキ > 落ち着かない様子の少女に、朗らかに笑ってみせて。
「あはは、いいよ。ヨキの前では、何をやってもいいんだよ。
怖い人や犬みたいに、ワンワン怒ったりはしないから安心して」
おいでおいで、と少女を手招き。
廃屋の壁に背を凭れ、地べたに並んで座ろうと。
「ここに座って、やりたいように書いてごらん。
この白い紙も、全部使って構わないから」
227番 > 「……わかった」
招かれるままに腰を下ろし、グーでペンを握る。
恐る恐る紙にペンを降ろして──ちょん、と点を描いた。
どうにも控えめな性格らしい。
しかしその目は、初めての経験に輝いている。
真っ白な紙自体を見ることさえあまりなかったのに、
今、それに何かを書き込んでいる。
ヨキ > 長い足を抱えた緩い体育座りで、少女の隣に座り込む。
少女の初めての経験を、まるでまばゆいものを見るように眺めている。
ペンはこう握るものとか、もっと勢いよく描いてみてだとか――
そんな不躾なことは、何も言わない。
きらきらと輝く少女の横顔と、何やら動くペン先を、交互に見る。
路地裏の喧騒も、今はどこか遠く。無言のまま、静かな時間が流れる。
227番 > ペンを動かせば線が引かれることに感動して
最初こそぐちゃぐちゃに線を描いていたが、
少しずつ、何かを象っているような感じの線を描き始める。
さっき、先生はわたし?をかいた。
227。自分を指し示す唯一の記号。
その文字を書いてみようとする。
もちろん力加減はまだ掴めてないので、線はガタガタだ。
ヨキ > 「おっ」
何を書こうとしているのか気付いた様子で、目を瞠る。
わくわく、そわそわ。静かにしつつも、期待を込めた眼差し。
「合ってる合ってる。その調子」
内緒話のような声で、隣から囁き掛ける。
見守る表情は柔らかく、優しい。
227番 > 「かけてる?よかった」
ちらりと顔色を伺ってみたり、
合ってると言われればにこりと目を細めたり。
「できた」
先に描いていた関係ないと線と重なったり、サイズも安定していなかったりする文字が書かれた。
不格好だが、読めなくもない。本人は満足そうだ。
ペンを握りしめるように持っていたためか、手が疲れてしまい、ペンをゆるく持つ。
「……楽しい」
ヨキ > 書き上がった“はじめて”に、ぱちぱちと控えめな拍手。
「よくやった。初めてでこれだけ書けたら、頑張ればもっと上手くなれるよ」
楽しい、という感想に、満足そうに笑う。
「その紙とペンは、君にあげるよ。
楽しかったことや、覚えておきたいことを書けるようになると、毎日がもっと楽しくなる。
そうでなくとも、誰かに『何か書いて』ってお願いしてごらん。
ヨキが君を描いたみたいに、びっくりするようなものを書いてもらえるかも」
そこまで言って、少女の顔を覗き込んで問い掛ける。
「頑張った君を褒めたいな。
頭を撫でてもらうとか、抱っこしてもらうとか、君が好きなことは何かあるかい?」
227番 > 「もっと、上手く……」
練習という概念も理解していない。
いつも出来ることだけをやって、今日まで生き延びてきた。
「……くれるの?どうして……?」
いつもの疑問だ。ただでものを貰うことに抵抗がある。
納得できる理由か、対価の要求を欲しがる。
「好きなこと……?」
人に甘えたことなどなかった。考えたことさえない。
あ、でも……最近を振り返ってみれば。
「撫でられるの、嫌いじゃない、かも」
ヨキ > 少女の疑問に、快活に笑って。
「ヨキはね、それと同じものをたくさん持っているんだ。
だから、君にも分けてあげたいと思った。
楽しいことは、みんなみんな一つでも多い方がいいんだよ」
撫でることについての返答に、よし来た、と頷く。
「嫌いじゃない、それもいい。
君が『好きだな』と思ったことがあったら、ヨキにたくさん教えて欲しい。
ヨキはそれを、いっぱいいっぱい君にあげられるようにするから」
そうして、少女の頭を撫でる。
誰の頭にナニが生えているか判らない世の中だから、ぽんぽん、すりすり、と控えめに。
大きな手のひらで、頭を包み込むように。長い腕で、小さな肩を抱き込むように。
227番 > 「……分ける」
また馴染みのない概念だ。落第街ではどちらかと言うと、取り合うのが日常。
227は取り合いに勝つ力がないので、ゴミを漁ることを選択していた。
しかし、相手の言葉には不思議と説得力が有るような気がして。
「ありがとう」と言ってペンをきゅっと握りしめた。
それから、特に抵抗も無く撫でられ、小さく体を揺する。
……なんだか、落ち着くような気がする。不思議な感覚だ。
「わかった、でも……もらって、ばっかりじゃ、わるい、かも」
しかし、素直に受け取れない。
ヨキ > 「そう、分ける。この街では、難しいやも知れんな。
でも、ヨキはこの街と、“表”の街を両方知っているから。
君が知らないことも、いろいろ知っているんだ」
頭に手を添えたまま、相手にだけ聞こえるほどの声量でぽつぽつと囁き掛ける。
「悪い、なんて思うことはないんだよ。
ヨキは君の、素敵な顔を見せてもらったしね」
だが、と言葉を続ける。
「もらってばかりじゃ悪い、という君の気持ちも、大事にしたいな。
君は人から何かをしてもらったとき、もらったとき。
どうやって『お返し』をしてきたの?」
227番 > 「おもて……外……」
自分の知らない世界。今気になっているもの。
「おかえし……。
なにかきかれて、こたえる、とか、頼み事、とか」
少しずつ、思い出すように、上げていく。
実のところ対価に見合っているかどうかは、よくわかっていない。
価値の勘定ができるほどの教養は持っていないのである。
ヨキ > 「ああ、ここの“外”だ。
ここよりもっと広くて、もっと明るくて、もっと人が多い。
『もっと楽しい』かどうかは判らないけれどね」
少女がひとつずつ挙げていく答えに、うんうん、と相槌を打って。
「大丈夫そうだね。
もしも“お返し”だからと言って、いやなことを言わされたり、させられたりしそうになったら、断ってもいいんだよ。
君はもっと、さっきみたいに『楽しい』ことを選んでいいんだ」
それじゃあ、と少し考えてから。
「……ヨキと一緒に、少しだけ“外”の通りを歩いてみるかい?
ちょっとお散歩するくらいなら、人に見つかるようなこともなかろう」
227番 > 「いやなこと……うん」
今までそういうのはなかっただけで、もし言われたらどうしていたのだろう。
これをきっかけに、今後は回避ができそうだ。
「外で…わたしを知りたい」
外の世界。ひとりでは怖くて行けない場所。
誰かが付いててくれるなら……行ってみたい。
でも、なぜか行ってはいけない気がする。
お前は外に行ってはいけない。
お前は外に行ってはいけない。
お前は外に行ってはいけない。
お前は外に行ってはいけない。
お前は外に行ってはいけない。
「わたしは……行ってみたい」
ヨキ > 「それなら、少しだけ行ってみよう。
君が今まで忘れてしまっていることもあるかも知れない。何か思い出せるやもしれんしな」
一足先に立ち上がる。
「“外”を少しだけぐるっと回ってすぐに帰るけれど――
もしも気持ちが悪くなったりしたら、すぐに言っておくれ。
急に広いところへ出ると、心がびっくりしてしまうからね」
手を差し伸べる。
少女がその手を取ったなら、確と繋いだままに歩き出そうと。
少女の中で渦巻く逡巡には、無論与り知る由もなく。
227番 > 「そうだと、いいな」
差し伸べられた手を、小さな手でしっかりと握って、立ち上がる。
ついさっき自分の中で絡まっていた何かは、意思を口にしたときに息を潜めた。
「……うん。すぐに、言う」
歩き出せば小さい歩幅で追いかけていくだろう。
ヨキ > 少女の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いてゆく。
「ここから見ると、“外”の街は空が随分と明るいね。
夜なのか朝なのか、判らなくなってしまう」
隣の少女の様子を見守りながら、一歩一歩着実に歩く。
道が少しずつ広くなっていく。
道が少しずつ真っ直ぐになっていく。
道が少しずつ綺麗になっていく。
建物が少しずつ大きくなっていく。
建物が少しずつ高くなっていく。
建物が少しずつ綺麗になっていく。
空が少しずつ明るくなっていく。
明るくなっていく。
明るくなっていく。
落第街から“外”の街へ、グラデーションのように街並みが変化していく。
路地の先に見えるのは――歓楽街の、猥雑なネオンの光。
「――大丈夫か? 眩しいだろう?」
未だ距離があるというのに、歓楽街の明るさは路地裏の闇に慣れた目を眩く貫く。
227番 > 数年落第街にいて何度かだけ、街の景色が変わるここを見に来たことが有る。
落第街でも表の通りに顔を出せない227にとって、あまりにも人が多いここは、
遠くからちらりと見るぐらいしか、出来なかった。
だが、今はその道を歩いている。
変わっていく景色。歩みを進めるたびに、
見慣れたものが初めて見るものに変わっていく。
少しずつ気持ちも高ぶっていく。
「うん……まぶしい」
……青い瞳の瞳孔が、猫のそれのように細くなっている。
ご案内:「落第街 路地裏」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。<補足:両メカクレ。 オーバーサイズのシャツ。パンツルック。>
ご案内:「落第街 路地裏」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。<補足:両メカクレ。 オーバーサイズのシャツ。パンツルック。>
ヨキ > 少女の瞳が、獣のように瞳孔のかたちを変えてゆく。
穏やかなようでいて、その眼差しには油断がない。
少女の様子を、外部からの感傷を警戒するように、少しの変化をも余さず見逃すまいとする。
――やがて、歓楽街の通りへ一歩先に踏み出して。
「さあ、おいで」
少女へ振り返る。
“外”の世界へ、連れ出そうとする。
その最初の一歩を、待つ。
227番 > 瞳以外は何も変わらない。
興味津々に町並みに目線を向ける、普通の少女のものだ。
「うん」
なんだか耳鳴りがするが、きっと眩しいからだろう。
気にせず、緊張しながらもそっと一歩を踏み出す。
──そして少女は街の"外"に出た。
それを認識した刹那。
背筋が凍りつく感覚を覚え、表情が固まった。
ヨキ > ただ一歩、踏み出すだけ。
それだけだった。
それだけのはずだった。
あんなに輝いていたはずの少女の表情が、凍り付く。
「!」
目を見開き――咄嗟に。
ヨキは少女の背に素早く腕を回し、跪いて自分よりも小さな身体を掻き抱こうとする。
まるで、魂をこの世に繋ぎ止めんとするかのように。
「――君ッ! どうした? 大丈夫か?」
間近の顔へ、問い掛ける。
227番 > 「……こ、こわい……」
どうしたと問われて、絞り出すようにか細い声を出す。
眩しいぐらいに明るい場所なのに、何故か影を感じる。
何かに見られている気がする。おぞましい何か。
それは227にしか分からず、足りない言葉では説明することが出来ない。
体が震える。思うように動かすことも出来ない。
目の焦点も合わない、助けてくれた先生が、ぼんやりと見える。
ヨキ > こわい。少女が絞り出した言葉。
それを聞いて、ヨキの表情が険しくなった。
「……判った。今日はここまでにして、一旦戻ろう」
立ち上がる。そして――
「――失敬」
そう口にするなり、少女の身体を掬い上げるように抱き抱える。
少女の身体の震えを抑えようとするように、しっかりと抱き締めて。
踵を返す。一歩歩くごと、光が遠ざかっていく。
街並みが徐々に暗く、狭く、小さくなっていく。
「……そうか、怖かったか」
少女の耳元へ、囁き掛ける。
「済まなかった」
227番 > 答える間もなく軽々と持ち上がる。227はとても軽い。
そして落第街に戻ってくれば、謎の感覚からは開放される。
されど収まらない震え。これについては休息が必要だろう。
「ちが、ちがう、の……なにか、わたしを、見てて」
謝られて、しかし先生のせいではないと伝えたくて。
あの場では言えなかったことを、泣きの混ざった声で説明しようとする。
ヨキ > 「君を見ていた?」
振り返る。
歓楽街の通りを。
落第街の路地を。
確かに、いくつかの人通りはあった。
けれども、ヨキには特異な視線を察知することは出来なかった。
だからこそ、“外”への一歩を踏み出したのだから。
けれども。
「……そうか。君は誰かに“見られて”いるのか。
それはきっと……君を『227番』と名付けた者や、それに近い者やも知れんな」
何もない路地を、碧眼がじろりと睨め回す。
子を守る父のように。子弟を守る師のように。
「少し休もうか。どこか、寝床はあるかい?
今夜はヨキが一緒に居よう。たとえ怖いものが君を見ていても、君を守ってあげるから」
227番 > 「……名前を」
怖い思いをした。
でも、言う通り自分の過去に関わっている可能性は高い。
いつか向き合わなければいけない、そんな気もした。
寝床を問われる。
前に教えた人に、自分で最後にしてくれと言われたが……
どうやら自力で動けそうにもない。仕方がない。
あの人には、今度謝ろう……きっと許してくる。
「……ある、あっち」
震える指で方向を指差す。それを数回すれば、目的地にたどり着く。
「あの壁に、コンコンを、2かい、1かい」
ヨキ > 「そうだ。
君に怖い思いをさせないような人は、君に“ニイニイナナ”なんて名前を付けないんだよ。
……君が“ニイニイナナ”である限りは、きっと……こわい思いは、ずっとついて来る」
歩きながら、ゆっくりと語り掛ける。
少女の道案内に従いながら、毅然と路地を進む。
「――ここか?」
辿り着いた先。
周囲を窺うように見渡したのち――少女の教えに従って、壁を叩く。
227番 > 「でも、わたしには、これしかなくて」
しかし今日の出来事で本当の名前もあるのではないか……と少しだけ思った。
思い出した時、それを自分の名前だと思えるのだろうか……?
ノックが済めば、ガラスの割れるような音がして、穴が開く。
227にはよく分からなかったが、元の持ち主によると、魔術による偽装がなされているらしい。
電気も水道もないため、中は真っ暗。
何らかの方法で配置がわかるのであれば、
簡易ベッドと保存の効く食料が置かれているのがわかる。
ヨキ > 「『これしかない』のなら、自分で名前を作ってもいいんだよ。
名前の作り方がわからなくても、君と一緒に考えていく。
それがヨキのやっている、せんせいというお仕事なんだ」
少女の求めの通りにノックをして、寝床の入口が開く。
おお、と小さく感嘆の声を上げ――中へ足を踏み入れる。
暗い室内に入ると、スマートフォンを取り出す。
懐中電灯の機能を頼りに周囲を照らしながら、寝台の上へゆっくりと少女を横たえる。
「……さあ、今日は大変なことになったな。
犬に追い掛けられただけでも怖かったろうに」
床に直接腰を下ろし、少女を見遣る。
「今日あげたメモ帳の中に、ヨキが描いた君の絵も入ってる。
もしもまた怖くなったら、それを見てヨキを思い出して。
ヨキはいつでも、君を助けに行きたい」
227番 > 「……自分で……」
それも良いのかも知れないけど。自分の過去を知る手がかりを、
227は物事を覚えておくのが苦手だ。不要なこと忘れるようにしているためだ。
もし227というキーワードを忘れてしまったら、と恐れているのかもしれない。
ベッドに横たえられ、自分の場所に戻ってきたことで少しずつ震えが引いてくる。
「せんせいの、絵……」
もぞもぞと体を動かして、メモ帳の方をちらりと見る。
なんだか心強い。
「せんせい?……ありが、とう」
犬からの逃走、初めてのお絵かき、"外"と、色々あった。
かなり疲れてしまったのだろう。意識がぼんやりとしてくる。
ヨキ > 「無理はしなくていい。
君の楽しいように。君がいいと思えるように。
君が何を選んでも、どんな名前を選んでも――ヨキは君を応援しているから」
寝台に緩く肩を預けた格好で、少女へと語り掛ける。
「――どういたしまして、ニイニイナナ君。ヨキの大事な君。
ゆっくり眠るといい。次に君が起きるまで、ヨキはここに居るから。
安心して、おやすみ」
言って、再び少女の頭を撫でる。
スマートフォンの照明を最小限にまで落とし、優しく微笑み掛けた。
227番 > 無理はしなくていい。そのとおりだろう。
だから、今日は休まなければ。
「……おやす、み」
撫でられ、頭を軽く揺する。
フードが捲れて……猫耳が顕になったが、気にするほどの意識レベルがない。
不思議な安心感に身をまかせて、意識をフェードアウトさせていく。
ヨキ > 露わになった猫の耳に、しばし目を瞬かせる。
けれども獣人を見慣れていることもあって、すぐに意識を逸らした。
少女の呼吸が寝息に変わる頃、自分もまた穏やかに目を閉じる。
いつでも飛び起きられるように、肌に纏わり付いた緊張を緩めることはしなかったけれど。
朝になって、少女が目を醒ますまで――朝までの短いひととき、ここを寝床とする。
「…………、」
二つの寝息が揃う頃、スマートフォンの光もまたそっと消えた。
ご案内:「落第街 路地裏」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ご案内:「落第街 路地裏」から227番さんが去りました。<補足:白い髪に青い瞳。ボロボロのフード付きマントを羽織り、フードを深々と被る。待ち合わせ無し>