2020/07/04 のログ
ご案内:「開拓村」にシュルヴェステルさんが現れました。<補足:人間初心者の異邦人。人型。黒いキャップにパーカーのフードを被っている。学生服。後入り歓迎してます。>
シュルヴェステル >  
賑やかなりし常世島。華やかなりし常世島。ただし、概ね島の西側以外。
島の西側――未開拓地区には未だ手つかずの荒野も残されており、
スポットライトの当たることのなかった、様々な《未知》や《生命》の墓場である。
されどそれは厳しいだけでは決してありはしない。

亡骸を踏み、死骸の上で暮らすことによってそこに営みが生まれる。
恐らく、この開拓村という村は『そういう』村である……とシュルヴェステルは思った。

……この島では、よくも悪くも命の価値が可変だ。
というよりも、命そのものがモノでしかなかったり、モノに命を見ている者もいる。
そのどれもが歪で、おそろしいものに見えてならなかった。

「――、」

トントン、と指先でカウンターを叩く。
この酒場における、「もう一杯」の合図。
言葉を重要としないこの酒場は、居場所のない異邦人である彼の一種の拠点と化していた。

誰とも関わらない状態で、この島で生きていくことはできない。
だから、関わる相手を選んで、探す必要がある。
人は一人では生きられない、というのは、ひどく残酷な真実でしかなかったのかもしれない。

シュルヴェステル >  
そして、この島の摂理がそれだった。
関わる相手を選び取り、繋いだ縁を手繰って生きる。
目の前に正解がなかったとしても、その先にはあるかもしれない。

夢のような世界だ、と、シュルヴェステルは思った。
同時に、気味の悪い世界である、と、シュルヴェステルは感じた。

差し出された背の高いグラスに注がれた奇妙な飲み物を受け取る。
無言で目を閉じて、額の肌角のある辺りまで片手を持ってくる。礼の所作。
店主は、それを見ても何を言ったりも見たりもしなかった。

この世界には、起きるはずの戦いが起きていない。

歩くだけで地を揺らし、他者を踏みつけるほどの巨大種が存在しないことが幸福である。
もしくは、存在していたがいまはいない、というだけかもしれないが。

歩くだけで誰かを害してしまう者と、誰もが平和に安全に、という願いを持つものは共存することは不可能だ。

この一点だけで、どれだけこの世界が歪であるかということは考えずともわかる。
必ず足音一つで一人が死ぬのであれば、誰もが安全にはいられない。平和にはいられない。
だというのに、この「誰もが平和に安全に」が成立しているように見える理由は一つだ。

多数から少数に対する、生存を人質にした多大なる譲歩の強制。

これが、この世界では常に行われていると、青年は考えている。

シュルヴェステル >  
「あなたが歩くと、誰かが死んでしまうのであなたは歩かないでください」。

巨大種が大多数を占めるのであれば、きっと踏まれる側が踏まれないように努力するだろう。
木の上に逃げ出すかもしれない。空を飛ぶようになるかもしれない。
そういった、ある種生存に必要な「進化」を、そうやって獲得しているはずだ。

「……違う、」

口の中で小さく呟く。
先日、この開拓村の辺りに三ツ首の狼種が出たと風の噂で聞いた。
『モンスター』から開拓村を守ったのが誰だったかということは知らないが、
この酒場で肉料理として提供されたという話を聞いた以上、恐らく生きてはいないだろう。

この開拓村は「自然」に近い地であると勝手に思い込んでいたが。
どうやら、それは自分の見ていた幻想であるようだった。

強大ななにかがやってくるたび、自然の摂理に従って、滅びを迎える。
そして、頃合いを見計らって再び再生される。
そういう納得の下にある村と思っていたが、この村はどうやら「守られていた」らしい。

「あなたがいると、この村の住民が迷惑を被るので死んでください」。

自分がようやく見つけた居所だと思った場所も、そうではないことを知ってしまった。
この村も、島の東側と同じだ。大多数の不利益を見て、少数の生存は否定される。

「間違っている……ッ!」

拳を、強く強く握り込みながら俯いて、小さく吠えた。

シュルヴェステル >  
同じ共同体に属しているだけと言えばそうだろう。
ただ、いまは軒下で雨宿りをしているのだと言い訳もできる。
それでも、それはシュルヴェステルにとって。どうしようもないほどに。

「……ッ、」

奥歯がガリ、と音を立てる。
人間よりも数倍強靭な骨組織。同じようで違うものを、噛みつける。
まるで自分を呪うように。自分を罰するかのように。

「……まるで、まるで、人間ではないか」

『誰か』の善意を享受して、何もしないことで弱者として振る舞うこと。
それが意図したものであれ、そうでないとしても。
結果として、現状は『誰か』に守られ、『誰か』の殺した狼種の肉を食っている。
生きるためといえば聞こえはいいが、本来、汚れるべきは自分の手だ。

食事とは、「そういう行為」であったはずだ。
シュルヴェステルの属するオーク種にとっては、食事は汚れた行為である。
同時に、神聖であり不可侵のものであり、汚れを負うことで生命の傲慢さを確認する行為のはずだ。

……だというのに。

それじゃあ、この島のどこなら「自然」が残されているのだ。
此処にないのならば、どこにもないのではないか。
行く場所など、はじめからどこにもありやしないのではないか。

『聡き檻』のシュルヴェステルは、この世界にやってきたときに死んでいて。
このシュルヴェステルという男は、ただの異世界の亡霊なのではないだろうか。

戦士の誇りも、オーク種の誇りも、そのどれもに泥を塗りたくらねば。
この世界では食事にありつけない。……とどのつまり、既にもう《私》は死んでいるのではないか。

「……違う、違う。杞憂だ、詭弁だ……」

渦巻き始めた思考は、止まることを許さない。
進むほかを持ち合わせないオーク種にとって、止まるのは死と同義。

無間地獄がこの地球上にもしあるのならば、ここを指す言葉であるのかもしれない。

ご案内:「開拓村」にサクラ=ウィンスピーさんが現れました。<補足:いつもの装備>
サクラ=ウィンスピー > 「ハローお元気ー? あのお肉どうー、美味しかったー?」

カランカランと寂れた酒場の扉が開くとともにこの辺りには似つかわしくない明るい声が響き渡る。

トコトコと意識もせずシュルヴェステルの隣りの席にドカッと座りニコニコとしているが言葉から先日の件で現れた狼種を狩った『何者』かというのがわかる。

彼女は自分のしたことを気にも止めることはなく。
むしろ狩ったモノの味を聞くくらいには負い目を感じていないように見え。

シュルヴェステル >  
「…………、」

一拍二拍の間ではなく。
まるで自分だけ時間が止まってしまったようで。
息ができなかった。呼吸が止まってしまったかと思った。
それほどまでの衝撃を自らに与えた相手が、自分の隣の席に平然と座る。

「貴殿」

呼びかける言葉は、少しばかり力なく。
様々な感情の入り混じった言葉であるものの、努めて冷静を装いながら。
自分より遥かに背も低く、体格ができているとも言い難い少女に対して。
まるで、肉食獣に話しかける草食獣のような有様で。

「先日、狼種を狩ったのは、貴殿か」

揺れる声色は隠せていただろうか。わからない。
自分の中では整理などつけようもない。ただただ、一つだけ問うた。

サクラ=ウィンスピー > ニコニコと横にいる彼に対して感想はない。
目の前のオーナーらしき人にあの後の狼の売れ行きや話なんかを交わして談笑していると、不意のように横から尋ねられる言葉に会話を打ち切る。

「そうだよ。あの子があのまま悪さをしていればこの辺りも危なかったからね。」

自分よりも明らかに大きな体格をしている彼へと視線を向ける。
カウンターに乗り出していた身体を引いて椅子の上でくるりと向きを変えて言葉を続ける、さも当たり前のように。

「それに、ボクはこの村から報酬を受け取ったよ。もらった分の働きはしないとね。」

前者と後者、どちらが本音なのかは悟らせる気はなく。
ただ事実は言う、実際にあのまま放置していれば狼の生活域に村は巻き込まれて少なくない被害を出していただろう。

それは確実なのだ。

シュルヴェステル >  
「悪さとは、何だ」

その返答に対しての礼よりも先に、そんな言葉が口をついて出る。
報酬。村が「そうしてくれ」と彼女に頼み込んだのか?
だとすれば、この村全体が異邦より参った狼種を殺せと言ったということか。

「……ああ、ああ、すまない。
 私が冷静を欠いているという自覚はある。
 わけのわからないことを宣っているというのもわかっている。ただ、教えて欲しい」

ごくりと生唾を飲み込み。
フードとキャップ、二段階で隠した赤い揺れる瞳が少女へと向かう。
そして、半ば祈るように。シュルヴェステルは神を信じてなどいない。
それでも、いまこの瞬間だけはこの世界の誰よりも『架空の第三者』による救いを求めている。
まるで機械仕掛けの神の到来を待つ、捩じ切れた脚本のように。

「……それは、殺されるほど、悪いことなのか。
 危なくなる程度で、人類種や私のような異邦の種がすべて滅ぶことはないだろう。
 ……それでも、殺されるほど、それは許されないことなのか?」

これが許されないことだと言われてしまったら。
――この世界の、生命の摂理の全てとの不協和を起こすことになってしまう。
それだけは、この世界に参った生命の一つとして、これ以上なく受け入れ難かった。

サクラ=ウィンスピー > 何に対しての悪なのだろうか。
彼の問いに対してバカにするわけでもなく首を傾げて悩む。

「んー…そうだなぁ。キミの悪の基準っていうのがボクにはわからないけども…、」

自分は頼まれたから、と切り捨ててしまえば簡単な話だろう。
対価を払えるだけの力を持った側が正義となる力isパワーと、簡単な図式だ。

しかしそれではない気がした。

「危険だって思われる事は恐ろしい事だよ。だから、この村の人たちはあの子一匹を生かすより自分たちの命を優先して、そして生き延びる手段があったから実行した。」

あの狼を脅威だと認識されてしまった。
理由はどうでもいい、会話が出来なかった、村に被害を出した。ヒトを殺めてしまった。
それだけでヒトにとっては害のある存在だと認識される。
特に、異邦からきた化け物はそうやって見られるし、元の世界だって言葉の通じない相手にそうして来ていた。

「でもそうだなー。それで言うならあの子は生き残るために努力をしなかったから死んだ。って、それだけじゃないかな。」

ただ、中立の立場でどちらが悪いってことはなくて、生存競争の中に置いてどちらがどれだけ足掻いて、どちらの運が悪かったか。
今回はたまたま数の多い方が生き残っただけなんだろうと、持論だけで言うならそうだ。

シュルヴェステル >  
「違う」

否定の言葉は口調が強かった。
少しばかり、周りの常連客たちが声をひそめた。
苛立ちを隠そうともせずに、正面から、まっすぐに少女を見て。
必死に他者の価値観への歩み寄りを試みながら――それが到底受け入れられないものでも――、青年は。

「私が言ったのは、貴殿が。
 貴殿が、『あのまま悪さをしていれば』と言ったことについて、問うている。
 ……その『悪さ』とは、一体何なんだ? 何をしたら、殺されるほどの悪となる?」

シュルヴェステルは、決して自分の価値観で物語ろうとしているわけではない。
精一杯、他者の言葉から、他者の価値観を、他者の物語を知ろうとしている。
知らないものを恐れているだけでは、殺された狼種と同じことを相手にすることになる。
そうするつもりはなかった。

「貴殿は、あのままいれば狼種が何をしたと考えた?」

質問はどんどん単純になっていく。
熱を帯びた言葉は、どんどん思考速度を上げていく。
だが、言葉が追いつかない。シュルヴェステルは、それを使う努力をしてこなかったから。
「生き残るために努力をしなかったから死んだ」。それと文字通り同じ。

生き残るために。この世界で、何らかの答えを得るために。
生存競争の中で、足掻いて、世界を呪いながら、それでも……どうしても!


――愚かなことに、諦めがついていないのだ。


「実際には何もしていなかったはずだ。
 襲われる側も生き残るための努力をしていないからそうなったのと同じだろう。
 貴殿の生業は、……弱者に、身不相応の武器を与えることなのか?」

サクラ=ウィンスピー > 「あの子に関して話すなら近い内に確実に出てたよ。」

周囲がどよめく、穏やかなはずの一時に波紋が立つような声色が響いたからだ。

自分よりも体躯の大きな相手が苛立つ様を見れば同じ体格の少女なら脅えるし泣き出しもするだろうが、それでも目を離すことはなく。

あの狼について絞って話す。

「まずあの狼が吐く息、三首の属性は違うけど火と氷と腐れを使った。個体としても一般人じゃ勝てないレベルだったし、キミはあの子が活動していた場所を見てみた?」

彼らが恐れていたのは抽象的な話ではなく、特にあの狼に的を絞った話であるなら、村に実質的な被害は無いが、存在するだけで恐怖を覚えられるということはつまり、間接的な被害は出ているということで、

「木や生物が根こそぎ枯れ果ててたんだよ。あの子が本当になにもする気が無くてもそれは脅威でしかないよ。」

あの狼の特性として共存すること自体が難しいなら追い払うか討伐するしかない。
残念だとは思わないし、倒す相手に感傷するくらいなら亡骸全部利用するのがサクラのため事実だけを告げる。

彼の求める答えにちゃんと答えられているかは自分はわからない。
比較的人間に近い体躯をしているし、自分はここに来ても恵まれている方なのがわかる。

だから目の前の自分よりも大きくて小さく見える彼にすべてわかってもらえるとは思っていない。

ここからは狼の話ではなく自分の話である。
サクラの持っているサクラの考え。

「それはそうだね。この村の人たちはたまたま居ただけのボクに会ったからたまたま生き残っただけ。でも、そうだね。ボクは対価をもらえば彼らが分不相応でもなんでも力になるよ。……例えば君が今、ボクに納得出来るだけの対価を提示して『納得がいかないからこの村を滅ぼせ。』なんて依頼をしてもボクはする。」

異邦人となってしまい、立場は違うがやることは一切変わっていない。
自分の発言でさらに周囲の空気が悪くなるのがわかる。
あからさまではないがこちらを監視するような目で、あの狼に向けていた目と同じものだ。

しかし知ってから知らずか、ジッと彼を見つめてどうする?と問いかけてみる。

シュルヴェステル >  
「噂程度には聴いている。
 ……私が言いたいのは、『強者による庇護はあらゆる進化を止める』と、」

そこまで言ってから、言葉は止まった。
首を軽く横に振ってから、「すまなかった」とだけ告げる。

彼が言いたいことは。
「危ないから」といって、全ての石ころを道から取り除くことが。
……それが正しいことなのか、ということであり、同時に。
彼女の言うことはシュルヴェステルの言う「自然な状態」の否定だということだ。
必ず生きていれば、生命である限り何らかのイベントは起こりうる。
それを「誰かに代わりにやってもらう」だけでは、先には進めない。進化できない。


「わからない問題」があったとして、答えを誰かに教えてもらうことは正しいのか。
目の前の少女は、頼まれれば対価があるとはいえ、当たり前のように答えを告げている。

それは正しくなかろう、というのが、シュルヴェステルの意見である。
きっとどちらが正しいという結論も出なければ、平行線でしかない。
平行線だからこそ、わかりあうことはできない。納得などできようものか。


植物も、生物も。そういった「上位種」がいるからこそ食物連鎖が起こる。
それに合わせて、長い長い時間を掛けて環境側が適応していく。
その可能性を奪うことは、長い目で見れば生命の進化の否定である、というのが彼の意見だ。

「貴殿に出会えてよかった。
 ……次に貴殿に、『このような場』以外で出会ったら。
 私は恐らく、言葉を用いることはしないだろう。それは、……ひどく、悲しい。
 荒野で貴殿に出会わないことを、どうか心の底より祈る」

瞬きを一度だけして、息を吐く。
冷静さを取り戻す儀式のように。人間の真似事をするように。

「私は、世界が壊れることは了承しよう。それが自然の摂理ゆえ。
 ……ただ、貴殿が世界を壊すためのつるぎを抜いたのならば、私は」

椅子から降りて、すれ違い際に一言だけ呟く。

「貴殿に、牙を向けることになろう」

振り返ることはしなかった。
熱を持った頭を冷やすように長いグラスの飲み物を、自分の頭の上で逆さまにする。
酒場の誰もが、もうシュルヴェステルを見てはいなかった。

シュルヴェステル >  
 
――言葉に、意味などない。
 
 

ご案内:「開拓村」からシュルヴェステルさんが去りました。<補足:人間初心者の異邦人。人型。黒いキャップにパーカーのフードを被っている。学生服。後入り歓迎してます。>
サクラ=ウィンスピー > きっと意見は合わないだろうんだろうなと、去っていく相手を見送っていく。

こちらにとっては弱者を守ることはよくある話で、自然の摂理だと割り切って先日まで笑い合っていた相手を無碍にする事は出来ないから。

きっと話してもわからないし、きっとどこかでぶつかるんだろうなと結論付ける。
それでもまた、どこかで話すなら今度は楽しい話題がしたいと思う。
眉間に皺を寄せてウンウン呻るよりもそちらの方が個人的に好きだから。

「おじさんー。それじゃあねー。」

最後に、先日の狼から採れた素材の換金を済ませる。
けっこうな価値があったらしく報酬と合わせて懐もホカホカだ。
今日はこれで何を買って食べようか。

先程のやり取りから切り替えてそんなことを思案しつつ村を後にするのだった。

ご案内:「開拓村」からサクラ=ウィンスピーさんが去りました。<補足:いつもの装備>