2020/06/28 のログ
ご案内:「落第街大通り」にアルン=マコークさんが現れました。<補足:167cm58kg/金髪紅眼。細く靭やかな四肢に平凡な顔つき/悪を許さぬ光の勇者/後入り歓迎>
アルン=マコーク > いまだ日の高い夕暮れ前ほどの時間、紅いマントが目立つ、線の細い少年が竹箒を振るっている。
煙草の吸殻や、飲料の空き缶、何やらの糞や吐瀉物、そういったものどもを、丁寧に掃き集めている。
金髪の少年――アルン=マコークは口を真一文字に結び、額に汗を浮かばせながら、無言で淡々と掃除を続けていた。
違法部活の人間でも、二級学生でもなさそうな、小綺麗な格好(と紅いマント)は大通りの人々の耳目を集める。
大通りのほんの一角だけを清掃することに何の意味があるのか――
自浄作用の麻痺した街は、次の日にはもう、同じくらいに汚れているだろうに。
実に無駄な行いであるように思えた。
学園でなにがしかの処罰でも受けたのか、あるいは何らかの無償奉仕、
はたまた落第街の人間に喧嘩を売っているだけなのか。
彼にそんなつもりはなくとも、そう受け取る者がいることはおかしなことではなく。
「おい、ガキ。空き缶落ちてたぜ」
薄ら笑いの三人組が、アルンに向けて思い切り空き缶を投げつける、といった光景も、何ら珍しいものではなかった。
アルン=マコーク > 悪意と共に投げつけられた空き缶は、アルンに命中する直前で何かに撃ち抜かれたように軌道を変え、地面に落ちた。
アルンはそのまま箒で一掃き、ゴミの山へと空き缶を叩き込んだ。
「やあ、ありがとう」
そして、笑顔で応える。まるで何事もなかったかのように。
ぶつけられた悪意も空き缶も、決して自分を損なうことなどない。
それは示威行為ですらない。ただただ事実としてそうである、ということが顕になっただけであった。
「っざけんなよ、ガキ……!」
そんなものは当然、示威行為として受け取られる。
薄笑いを引っ込め、威嚇のために表情を険しくした三人が、アルンを囲む。
「ナメてんのか? あァ!?」
アルン=マコーク > 落第街の大通りで目立った騒ぎを起こすような輩は、全くの門外漢か、そこそこに荒事慣れした者くらいである。
裏の世界には裏の世界なりの均衡があり、好んでその領域を荒らして良いことが起こることはない。
男たちは後者だった。
体格も良く、暴力を振るうことに慣れている。
他人を威圧することに慣れていて、その効果を十分に吟味することができる手合いだった。
一人が正面からアルンに近づき、顔を近づけ、歯を剥き出して見せる。
「オウ、こっち見ろや。売ってんのか? ああ? ったるかコラ?」
そして、二人は流れるように左右に別れ、アルンの死角へと回り込み、逃げることを許さない。
アルンは掃き掃除の手を止め、男の目を正面から見返した。
「……すまない。僕は売り子ではないんだ。何か入用なのかい。困っていることでもあるのかな」
本当に何もわかっていない様子でそう返事する。
男たちは笑った。
アルン=マコーク > 「おいおい、ブルってるぜこいつ!」
「困っていることォ~? お前が、これから! 困ることになるんだよなァ~!」
アルンの斜め後ろに回った二人が嘲るような言葉を投げかける。
目の前の男は、厳しい顔つきのまま、アルンを睨めつける。
「この通りでデカいツラしてんじゃねえって言ってんだよ……わかるか? 邪魔くせえんだよ!」
そうがなり立てると、男はゴミの積まれた山を蹴飛ばした。
それなりに威力のある蹴りが、集めたゴミを撒き散らかす。
アルンは目を細めた。
アルン=マコーク > 「そうだね。済まなかった。これでは通行の邪魔だ……これからは端に寄せるようにするよ」
アルンはそう言って、男たちに深々と頭を下げた。
そこでようやく、脅し役の男も表情を緩めた。
わざとらしく懐から煙草を取り出すと、火を点け、たっぷりと煙を吸い、頭を下げたままのアルンに向けて吹きかけた。
「わかりゃァいンだよ、なァ?」
「これからは気ィつけろよ!」
どこぞの勘違いしたガキを脅かし、黙らせたことで男たちは満足した。
アルンの掃き集めたゴミ山をもう一度派手に蹴り散らすと、火を点けたばかりの煙草をアルンに向けて投げつけ、立ち去った。
煙草が何かに撃ち抜かれるように軌道を変え、地面に落ちたのを、男たちは見なかった。
アルン=マコーク > 「確かにこれは邪魔だな。彼らが怒るのも仕方ないことだ」
誰に向けるでもなくそう呟くと、アルンは再び掃き掃除を再開する。
蹴り散らかされたゴミを手早く掃き纏め、通りの端に寄せて集める。
すっかり日の落ちて暗くなった通りでは、その姿はあまり目立つものでもない。
好奇の視線、決して良い意味でのものでもないそれに晒されることこそあれ、その後は特に誰かに絡まれるようなこともなかった。
そこそこ大きなゴミの山を再び築き上げると、アルンは満足そうに頷いた。
「今日はこんなものか。明日もまた、同じくらいの時間に続きをしよう」
ぴしゃんという大きな破裂音と、カメラのフラッシュのような一瞬の閃光。
通りを往く人々が振り返ると、そこには竹箒を担いだ小柄な人影だけがあった。
ゴミの山は聖なる雷に焼かれ、完全に消滅していた。
いつもより少しばかり綺麗になった道端に、誰かがゴミを放り捨てた。
ご案内:「落第街大通り」からアルン=マコークさんが去りました。<補足:167cm58kg/金髪紅眼。細く靭やかな四肢に平凡な顔つき/悪を許さぬ光の勇者/後入り歓迎>