2020/07/05 のログ
ご案内:「常世公園」にアルン=マコークさんが現れました。<補足:167cm58kg/金髪紅眼。細く靭やかな四肢に平凡な顔つき/悪を許さぬ光の勇者/後入り大歓迎>
アルン=マコーク > 水が油滴を弾くように。
昼下がりの公園で、金髪の少年がのんびりと過ごす人々に避けられている。

「こんにちは。あなたは『悪』をどう思いますか」

……むべなるかな。
怪しげな宗教の勧誘か、学生のおふざけか。
演劇の衣装のような、紅いマントを羽織っているのがなおのこと、彼を『まともではなく』見せている。

いつも彼が掃除をしている落第街であったなら即座に因縁を付けられそうなものだが、治安の良いここ学生街では、胡散臭そうな視線を向けられ、距離を置かれるだけだ。

「こんにちは、少し聞かせてほしいのですが。あなたは『悪』についてどう思いますか」

迷惑そうに避けられていることに気付いているのかいないのか。
それとも不屈の精神を持っているのか。
少年は諦める気配を見せることなく、問い続ける。

しかし、一つも答えが返ってくることはない。
場合によっては、風紀委員を呼ばれているかもしれない――

アルン=マコーク > 「だめだな。こちらの世界でも、人々は『悪』に興味がない」

アルンはため息を吐いた。
彼が無視されているのは、人々が『悪』に興味がないからというわけでは決してないのだが……

「しかしそれは、良いことでもある。『悪』に興味がないのなら、『悪』に誘引されることもない――はずだ」

思い返すのは、雨の中出会った風紀委員、リンカの言葉。


『善と悪は光と闇…この世界の人の心に等しく在るものだよ』


そして目を閉じると、ゆっくりと首を横に振った。

(いや、間違えてはならない。僕の世界では有り得なかった『悪』との同居が、この世界ではあり得るんだ)
(ならば、彼らが僕の話を聞こうとしないのは、内なる『悪』が僕――光の勇者を恐れているから、か?)

まあある意味では、その勇者然とした振る舞いや、紅いマントのせいという面もあるのだが。
ともあれ。
勇者は諦めるということをしない。
何度無視されようとも、元気よく人々に尋ね続ける――

誰か、彼に答えをくれる者が現れるまで。

ご案内:「常世公園」にツァラ=レーヴェンさんが現れました。<補足:白髪蒼眼の少年/外見年齢12歳154cm/白に赤基調の振袖、へそ出しの紫袴。和風っぽい服。>
ツァラ=レーヴェン >  
「おにーさんなーにしてるのっ?」

誰もが遠巻きにアルンに不審者を見るような眼を向ける中、
真後ろから不意に声がかけられた。

彼の近寄り難さなどまるで気にしないように。
周りからは全く気付かれていないかのように。

そこにはいつの間にか少年が立っていた。

赤いマントに金髪紅眼のアルンとは正反対。
白髪に蒼眼が興味深そうにそちらを眺めていた。

もしアルンの能力である現象への耐性が幻術にも対応できるなら、
青い蝶が周囲を舞い、少年の本来の姿を隠しているのが分かるかもしれない。

アルン=マコーク > 「やあ、こんにちは」

気配もなく背後に立った少年に、気負いもなく振り返り、挨拶を返す。
白髪蒼眼の少年に、というよりも、身に纏う幻術の気配に僅かに眼を細める。

「なにか魔法を使っていますか。身を隠す、あるいは守るような」

しかし、その看破までをできるわけではないようだった。
その魔法に敵意を感じ取らなかったのか、特に警戒することもなく質問に答える。

「僕は光の勇者アルン。この世界での『悪』について、聞いていました」

ツァラ=レーヴェン >  
「わーお、おにーさんブエンリョってヤツだねー!」

自分の術にあっさりと気付かれれば
きょとんとしてアルンをまじまじと見つめた後、
にししと笑ってそんな返答を返す。

否定も肯定もしない。
ただ看破出来ないまでも気付いたことを真正直に話す彼に、
少年は可笑しくてたまらないといった様子だ。

「ゆーしゃ? 何それ。
 『悪』? なんで悪について聞くの?
 悪者とかそーいうのを探してるんじゃなくて?
 なんでそんな曖昧なモノを聞いてるの?」

ぴょこぴょこと落ち着きなくアルンの周りをくるくる。 

アルン=マコーク > 「ブエンリョ……無遠慮? ですか? すいません、あまり『遠慮』というものを、僕はよくわかっていません」

頭の中にしまい込まれていた記憶を探るように、視線を上に向けて、勇者は素直にそう答えた。
目の前の少年が幻術を解かないことにも特に警戒することなく、矢継ぎ早に浴びせられた質問について、顎に手を置いて考え始める。

「勇者は……『悪』を滅ぼす者です。僕は勇者なので、『悪』を滅ぼさなくてはならないのですが、この世界の『悪』は、僕のいた世界の『悪』とは違うらしいんです」

落ち着きなく周りを動き回る少年に、視線を合わせるようにアルンもその場で回る。

「なので、『悪』について知る必要があると考え、聞いていたのですが……あまり効果は出ませんでした。人々の内なる『悪』が、僕の質問を嫌ったのでしょうか」

そんな自分の推測を、大真面目に語った。

ツァラ=レーヴェン >  
「あはは! 面白いなぁー。
 おにーさん見た目よりも結構若いの?
 この世界の『悪』ってことは、君"も"別の世界から来たのかな?」

ともすれば不審者にも見られそうな青年は少年と話している。
通行人はそんな彼らを特に気にすることなく、過ぎていく。

アルンが話しかけて遠巻きにされていた時よりも、自然にだ。
これは少年の幻術のせいだった。
周囲に自分達がただの風景と思わせているのだ。

「『悪』を滅ぼすのが勇者? なんで君は勇者なの?
 こんなところでそんなヘンなこと聞いてたら、"君が悪者になっちゃうかもよ?"
 他のヒト、明らかにおにーさんの事、変な人って見てるもん。」

というか本当に無遠慮なのはこの少年なのだが。
そんなツッコミをするモノが…いないのであった。

アルン=マコーク > 「そうですね。僕はこの身体の持ち主、閂悠一くんに喚ばれて、別の世界から来ました。ですが、僕のほうが生きてる時間は長いですね」

どうして『若さ』について言及されたのか、僅かに首を傾げながらも、向けられた質問には律儀に答えていく。
答えながらも、周囲に視線をやる。視線が――アルンに向けられていた、敵意や、恐怖、警戒の感情が減っている。
どうやらこの少年は、よほど周りに見られたくないのだと納得しながら、更に向けられた質問に意識を向ける。

「僕が勇者なのは、選ばれたからです。僕のいた世界で」

それから、訝しげに眉を顰めて尋ね返す。

「確かに僕はこの世界では異質ですが……異質なものは『悪』なのですか?」

それは、アルンの考える『悪』とは、あまりに違う。
そして、その違いが決定的ならば、アルンは――

アルン=マコーク > この世界そのものを滅ぼさなくてはならなくなる。
ツァラ=レーヴェン >  
「ふーん。君の身体はそのー、かんぬきゆういち?って、別の人なんだ?」

少年が何故自分の姿を幻とするか。

少年はまだこの世界に来たばかりだ。
まだまだ見たいモノがいっぱい、知りたいコトがいっぱいある。
誰かに見つかって拘束されてしまうと面白くないのだ。

まぁ、見つかってしまえばそれまで。

それまでは、自分が気になるコトを見たい。

「あはは、怖い顔してるなぁー。
 あちこち見て回ったけど、この世界ってぐちゃぐちゃだよ?
 ここは一応ちょっとは整理されてるみたいだし、そのせいでおにーさんが浮いて見えるんだろうケド。

 『悪』なんて流動的じゃん?
 これが絶対『悪』そのものだーって、そんなモノ全然ないよ?
 神様だって、他の神様を信じてる人からしたら悪い神様になるもん。」

それにさぁー、と、その場でくるりと一回転した後。

「おにーさんはそれで、"幸せなの?"」

アルン=マコーク > 「失礼。威圧の意図はなかったんですが」

眉を顰めただけだ、と思っていたのに。
頬を両手でぐにぐにと触り、確かめる。

「僕の世界では、『悪』は流動的なものではありませんでした。勇者である僕にはそれは明確に感じられるものでしたし、こちらの世界にも同じような『悪』は見られたので、滅ぼしたのですが」

つまりそれは、こちらの世界で既に殺しをしているという告白だったが、アルンは特に感慨もなくさらりと言ってのける。

「……『悪』が流動的なら、こちらの世界では『悪』を裁くことはできなくなる。しかし、『悪』はある。依然として」

アルンは、笑顔の少年に真顔で問いかける。

「僕は勇者なので、幸せを感じる機能がないです。ですが、この世界の人々は、幸せを謳歌している」

ちらと、公園をゆく人々のほうを見やる。
のんびりと空を眺める人。ジョギングで道をかける人。
皆、穏やかな表情で時間を過ごしている。

「定まらない『悪』を放置したままでは、皆が幸せを分かち合う世界にはならないのではないですか?」

ツァラ=レーヴェン >  
「あはは、『悪』が決まってるモノだったら、
 すごくラクな世界なのかもねー。ああでも、それじゃー僕みたいなのは生まれないのかな。」

表情を戻す様が可笑しくて少年はころころと笑う。
後ろ手に手を組んで、スキップしそうなぐらい、面白そうに。

「んえ、幸せ感じないの???
 美味しくないなぁーおにーさん。疲れないの?
 少なくとも僕の暮らしてた『日本』では皆が皆幸せって訳じゃあなかったかなー。
 あちこち見て回ってここも似たようなもんかなーと思ったけど、もっと混沌としてる。

 日向よりも日陰が濃くて、あの世とこの世がとっても近い。

 皆が皆幸せになんて無理だろーね。それじゃーただの機械だもの。」

アルンに見えているであろう蝶の一匹を両手の平に乗せて、
それから――ぐしゃりとそれを潰した。

「悪を絶対定義したら、悪だと言われた側はどうなると思う?

 "君の行いが悪だと言われたらどう思う?"」

そう言いながら笑う少年は、本当に少年か。

アルン=マコーク > 「楽……ではありませんよ。『悪』は常に人々を脅かす。それは僕の世界でも、こちらの世界でも変わりはない」

やんわりと少年の言葉を否定しながら、アルンはしかし、表情を変えずに淡々と返事を続ける。

「僕は勇者なので、疲労は感じませんね。神聖治癒魔法が常時発動しているので」

その話す内容はだいぶおかしな事を言っている。
強力な回復魔法を常時発動しつづけているなど、それこそ疲れ果ててしまってもおかしくないはずだが……

「機械のことはよくわからないのですが、皆が機械だと何か不都合があるのですか。僕は皆が幸せなら、機械でもいいと思うのですが」

そして、目の前で蝶を潰す少年にも、特に反応はしない。
それが生命を持つ蝶ではなく、魔術による作り物であるということは看破している。

「僕が『悪』なら、全ての悪を滅ぼし、最後に僕が僕自身を滅ぼす」

勇者はまるで揺らがない。
目の前に立つものが誰であれ、何であれ。

「勇者とはそういうものです」

ツァラ=レーヴェン >  
「じゃあなんでここでも『悪』を絶対定義したがるのさ。
 僕から見たらラクしてるよーにしか見えないね。」

潰した蝶の欠片の光を撒いて、両手を広げてやれやれのポーズ。

「その悪って定義されたモノが、別の人から見たら救いに見えても、おにーさんはその悪を倒すの?

 明日食べるモノも無い貧乏な人に盗んだ食べ物モノを渡した人は悪い人?
 殺されそうになって相手を逆に殺しちゃった人は悪い人?
 誰かを助ける為に人を殺した人は悪い人?

 君がそうやって殺した人も、もしかしたらそんな人間だったかもしれないよ?」

少年の言葉は本当に矢継ぎ早だ。

「善悪なんてコインの裏表ぐらい薄っぺらいよ。
 大多数が善だと信じてることが善で、悪だと思うことが悪ってだけでさ。
 そんなモノを全部壊したら、僕らはおまんまの食い上げだなぁ。
 油揚げだって食べれなくなっちゃう。」

アルン=マコーク > 「定義……うーん、僕にとって『悪』は明確なので、定義する必要はないです。ただ、こちらの世界はどうなっているのかと、気になっているだけで」

まるで雨が降りそうで困ったな、というような軽さでそう答え、

「楽に『悪』が滅ぶならそれでいいのでは……?」

と、少年の皮肉にもまるで取り合わない。

「はい。殺します。『悪』は『悪』を救うこともありますから。しかし、他人を救うために食べ物を盗む者も、殺す者も、身を守るために目の前の相手を殺す者も、僕の滅ぼすべき『悪』ではない」

矢継ぎ早の言葉、そのどれもが勇者を揺るがすには至らない。

「なるほど。つまりあなたが言いたいのは、『悪』は移り変わる、ということですね。そこに基準はなく、『大多数』に属さない者が『悪』だと」

納得したように小さく唸りながら、何度も頷く。

「ところで、『善』とはなんですか? コインの表裏と言うなら、『悪』と対と成す何かでしょうか」

ツァラ=レーヴェン >  
「わーお……。僕も結構アレなことのたまってる自覚はあるケドサ。」

善の意味を聞かれると、流石にくるくるころころ落ち着きの無い少年が止まった。

「そーだよ。『悪』の裏が『善』。『善』の裏が『悪』。悪いことの反対。良いこと。

 困ってる誰かに手を差し伸べる事、
 誰かを笑顔にする事、
 誰かを、"幸せ"にする事。

 言っとくけど、大多数に属さないから悪って訳でも無いんだからね。
 その大多数が腐ってたら少数が善になるし。
 おにーさん相当アタマ固いよ? 物理的な意味じゃなくてね???
 少数ってだけで悪いと思ってもらったらヤバイもん。」

腰に手を当て、もう片方の手の人差し指をピッと立ててメッのポーズである。

アルン=マコーク > 「ああ、それをこちらでは『善』と呼ぶのですね」

アルンは何か合点がいったというように大きく一度頷いた。

「僕の世界では、それは生きるものが当たり前に持つ性質でした。だからそれに、名前はなかったのですね……」

なるほど、なるほどと何度も繰り返しながら。

「理解が遅くてすいません」

勇者は叱られて素直に頭を下げた。
そして、眼をすっと細めた。

「しかし、僕は言われたことを繰り返しているだけです。
『大多数が善だと信じてることが善で、悪だと思うことが悪ってだけ』と言ったのはあなただ。それは違うのですか?」

勇者の眼は爛々と紅く輝いている。
それが何を意味するかはわからない。

「皆が幸せになるなら、機械でもいい。その問いについても答えがまだでしたね。楽に『悪』が滅ぶならそれでいいという問いに関しても」

同じ文化を――共有していないから。

「はぐらかして答える気がないのならそうと言って下さい。僕は腹芸が得意ではないので」

ツァラ=レーヴェン >  
「当たり前ねぇ。当たり前だから名前が無いってのも変なの。」

少年の倫理はこの世界と近い、近くて少し遠い。

「基本的にはそーだよ。大多数がルールを決めて、それを善って呼んでる。
 でもさ、少数だからってだけで殺して良い理由にはならないって分かる?
 おにーさん0か100かしかない考えに見えるけど、その間の数字は見えないの?
 全部が全部そうって言われてあっさり信じちゃうワケ?
 少数を無くしたらまた新たな少数が出来るよ。

 そーやってあんまりぽんぽん人間の数減らされるとさー、僕困るんだ。
 ご飯減っちゃうもん。」

血のような紅を見つめるのは空の蒼。
下から空がアルンを見つめている。
 
「んで、機械でもいいって? 君が良くても僕はやーだね。
 楽に悪が滅んだって僕は首を縦には振らない。

 悩んで迷って泣いて笑って怒って楽しんで…それが人間だ。
 こんなことを言う僕は君にとって『悪』なのかな?」

気になったことだけ返す癖があるようだ。
抜けていた問いに改めて答えを返して腕組をする。

アルン=マコーク > 「ああ、僕には『悪』が段階的に測れるものであるという考え方がわかっていないですね。それはそこにあって、ルール……『法』ですか? に決められたものであるのなら、それは『悪』であって、他の何者でもないでしょう」

ころころ変わるものは法ではありませんしね、と付け加える。

「それとも、こちらの世界では『法』も移り変わるのですか?」

そんな的はずれな問いかけを、大真面目に。
空の蒼色に向けて、正面から投げかける。

「言葉を信じるつもりはないです。僕には僕にとって明白な『悪』を感じられるから。ただ、こちらの世界で言われている『悪』を、僕が理解できたなら、共に悪を滅ぼす仲間として動けるだろうと思ったので」

言葉を弄しても、この勇者には届かない。
周りを駆け回っても、ただ視線を合わせるだけ。
勇者の足を動かすには至らないのだ。

「悩んで迷って泣いて笑って怒って楽しめないなら、人間ではない、と?」

ううん、と唸り、それから、言葉を選ぶように慎重に吐き出した。

「僕はそうは思いませんが……それだけであなたを『悪』とは断じません。僕の滅ぼすべき『悪』とは、言葉で象られるものではない」

それから、ああ、とついでに思いついたように付け加える。

「それに、あなたが人間を『ご飯』と呼ぶことで、僕があなたを『悪』と呼ぶこともない」

ツァラ=レーヴェン >  
「少なくとも僕には人間には見えないね。
 
 はー………やめよ! 僕が幸せじゃーないやこれ。
 大体君ご飯になんないし。幸せないし。」

相手の言葉を一通り聞き終え、くるっと背を向けて伸び。
その後手をぱたぱたと振っている。

「ルールも法も確かに似たようなモンだけどさ、
 それだけってことは無いんだよ。何事も。
 少なくとも僕が見て来たこの世界のヒトは、僕が前に居た世界のヒトとさほど相違無い。
 姿かたちはともかくね。

 だから君や大多数が機械で良くても、僕や、僕以外の人がそれを拒否する。少数派は必然と出来る。

 おにーさんにとっての『悪』が明白で揺るがないっていうなら、
 ここでいくら他人に悪を聞いても君が納得のいく答えは返ってこないと僕は思うなー。
 だってそれ、仲間じゃなくって道具だもん。

 ……いつかおにーさんの行き過ぎた『悪』の決めつけが、
 おにーさん自身を『悪』にしない事を祈るよ。」

やめよといいつつ答え切った。

ここまで喋るつもりなかったのになーとばかりに無防備に背中を向けている。
周りからは自分達のことは今は何が起きたって風景だ。

アルン=マコーク > 「それだけってことはない、ならば、『それだけではない』の中身を知りたいと思うのはそんなにおかしなことですか」

小さく、息を吐く。
蒼い瞳を持つ少年の、問答を切り上げる言葉に残念そうに頷いて応える。

「僕は納得が欲しいのではないんです。ただ、この世界における『悪』の在り方について知りたいだけで。それが僕の在り方と共に歩めるものであればいいと願ってはいますが、何かを求めているわけではない」

そして、自分に向けて祈ってくれた少年に。
『悪』にならぬようと想いを向けてくれた少年に応えるように、膝を折り、自分の胸に手を置き、眼を閉じる。
なにかの儀式的な意味のある仕草だろうか、妙にこなれている。

「共に歩めないのであれば、共に歩まなければいいだけの話ですからね。元より、向こうでも一人で『悪』と戦っていましたから」

そして、立ち上がると、両手を揃えて深々とお辞儀をした。
これの意味はわかる。すなわち――

「多くを教えてくれてありがとうございました。おかげで、この世界の『悪』についてを知ることができた」

感謝の意を示しているのだった。

ツァラ=レーヴェン >  
「知りたい欲求は別におかしなことじゃーないよ。
 でも、僕にとってはどーにも暖簾に腕押し、豆腐に鎹ってね。」

跪かれてしまった。
正直、斬り込んでくるだろうかとも思っていた。

「……言っとくけど、さして相違無いとは言ったけど、僕はここのヒトじゃあないよ。
 あくまで僕が言ったのは僕の世界でのことだもん。

 …なんでここまで言うかって? "幸せ"は僕のご飯だからさ。」

背を向けていたのをやめて、少し遠目に彼を見ている。

「いつか君も僕のご飯になるといいなぁ。
 僕はツァラ、"幸運の祟り神"さ。」

アルン=マコーク > 「それで構いません。僕より多くを知る人であることには変わりない」

深く下げた頭を上げながら、そう言って微笑んだ。
背を向けている相手であっても、笑みを返すのが、アルンという人間のあり方だったから。

「僕が勇者である限り、そうはならないでしょうね。それでは、またどこかで」

少年が、『ツァラ』と名乗った瞬間。
アルンの指が僅かに動き、勇者が身に纏っていた魔力に動きがあった。
魔力の操作に長けている、或いはそういった異能を有しているなら、それが精神に干渉する類の魔法の気配だと、気付くかもしれない。

当のアルンは、何事もなかったかのように、少年とは逆方向に去っていこうとしている。

ツァラ=レーヴェン >  
もしその魔法が、少年の「真名」を通じて行うモノならば。
その魔法は不発に終わるはずだ。

それが何を意味する所かは分かるだろう。

そうでなくとも精神に関する類の干渉は、少年の近くを飛ぶ蝶の動きが大仰に動く。
当のツァラは少しの間しまっていた笑みを戻している。

「……人間、どんな人生歩むか分からないから人間なのさ。」

アルン=マコーク > 厳密には、『魔法の気配』。
魔力が蠢き、完成した魔法として放たれる前の僅かな気配。
それだけを残して、しかし、それは発動するには至らなかった。
それは、精神干渉を防ぐ蝶の力か、或いは単純に条件を満たしていなかったからか。

アルンはもうだいぶ遠くまで歩いていってしまっていて、その真意を探ることはできない。
少年の言葉ももう、届いてはいなかった。

ご案内:「常世公園」からアルン=マコークさんが去りました。<補足:167cm58kg/金髪紅眼。細く靭やかな四肢に平凡な顔つき/悪を許さぬ光の勇者/後入り大歓迎>
ツァラ=レーヴェン >  
「うーん……マズイのと当たっちゃったなぁ。」

ひらひらと舞う青い光の蝶を人差し指に乗せ、舌を出してぺっぺ。
特に青年を追いかけるということもなく、少年は佇んでいた。

「なーんか最後変なことしようとしてたよーなそうでもないよーな…。
 幸せを感じないってのは厄介だなぁ。他のてきとーな所食べにいこー。」

興味を失ったようにアルンとは反対側に歩いていく。
蝶を引き連れて、蝶に埋もれるように、
そしていつしか少年の姿は…見えなくなっていた。

ご案内:「常世公園」からツァラ=レーヴェンさんが去りました。<補足:白髪蒼眼の少年/外見年齢12歳154cm/白に赤基調の振袖、へそ出しの紫袴。和風っぽい服。>