2018/01/30 のログ
ご案内:「常世博物館(小イベント開催中)」にアリスさんが現れました。<補足:女学生予定の女の子。(乱入歓迎)>
アリス >
大勢の人で賑わう常世博物館。
そこを見て回っている次第で。
つい最近まで友人一人としていなかったぼっち暦の長い自分には一人博物館も余裕。
むしろ楽しめる。
今は大変容について記述されたコーナーを見ている。
アリス >
この世界における南極は既に消滅している。
知識としては軽く知っていたけれど、詳細を知れば凄絶だ。
地球全体に時空の歪みが発生し、門が開かれ、世界は大混乱。
《始原の門》から怪異? が大量発生したとも。
つい先日、ゴブリンに襲われた時の恐怖を思い出して小さく身震いした。
アリス >
ポケットから携帯デバイスを取り出してトモダチに常世博物館に来てるよ、とメール。
ついでにTwister(最近登録したSNSの一種)に博物館なう、と書き込んでおいた。
フォローしてる人もフォローしてくれてる人も少ないけど。
心がぼっちダークサイドに支配されかけてきたので気分転換。
立体映像とプロジェクションマッピングで当時の始原の門周りの環境を再現したコーナーに来た。
なかなか興味深い。今、南極はどうなっているのだろう。
アリス >
そして、歴史は順路に沿って移り変わる。
異能者の大量出現。
私はいじめられたストレスが爆発して異能に目覚めた。
しかし、異能の存在がなかったら私は今も本土でいじめられっ子のままだったのだろうか。
告発者による魔術の暴露。
異能者が世界に爆発的に増えた時期に、魔術の存在を広めた存在がいたらしい。
これは何故、このタイミングで魔術を世界に広めたのかがまたミステリアス。
施設で研究された時に私自身に魔術の素養はないことがわかったけれど。
神秘に対する憧れは消えていない。
うーん、なかなか楽しい。
博物館恐るべし。撮影禁止じゃなかったらバシバシ撮っているのに。
アリス >
展示物は異界大戦のコーナーに切り替わる。
異界大戦。それは怪異と異邦人と、神秘を知ったショックに混乱する世界を惨劇に巻き込む。
ありとあらゆる悪徳が肯定され、恐怖と捻れた正義が血を流し続ける。
……しまった、ここはちょっと展示物がグロい。
ちょっと具合が悪くなってきた。足早に通り過ぎよう。
……どこか休憩できるところはないものか。
ご案内:「常世博物館(小イベント開催中)」に簸川旭さんが現れました。<補足:黒髪痩躯の青年。図書委員会遺物管理員>
簸川旭 > 「よりによってここの担当なんてな……繁忙期だからって、これは僕の仕事じゃないが……」
展示場の端の椅子に座り、会場の様子を眺めている青年がいた。
展示物からは可能な限り目を逸し、口を抑えている。
その容姿は黒髪に痩身、顔色は青白くあまり気分が良さそうには見えないだろう。
独り言のように何やら文句をつぶやいていた。
そうしていると、足早に展示スペースから去っていく金髪碧眼の少女が目に留まる。
様子からしてあまり気分が良さそうには見えない。彼自身もそのような有様ではあったが。
椅子から立ち上がると、青年は少女に声をかけた。
「どうかされましたか?」
青年が胸に提げているプレートが揺れる。
博物館の職員であることがわかるだろう。
アリス >
口元を押さえてどこか休憩できる場所がないか探していると、青年に話しかけられた。
…博物館の職員さんだ。
「えっと……ちょっと、異界大戦の時の資料とか見てたら具合が悪くなって…」
「休憩したいんですけど、そういう場所はどこにありますか?」
ポケットを探る。何か落ち着ける気の利いたものでも入っていないかと思ったけれど。
便利なものは何もない。
そもそも自分は物質創造系の異能だからいざという時の備えをあまりしない。
「座れると非常に助かります」
青い顔で青年に言った。
簸川旭 > 「……なるほど。それは気分が悪くなって当然ですね。僕もあれは嫌いなので」
少女が異界大戦の資料を見て気分を悪くしたと聞くと、青年も目を伏せがちに言う。
展示物が嫌いなどと職員にあるまじき言葉を吐きながら彼女の顔色を青年は伺った。
「わかりました。医務室はここから少し遠いので……すぐ近くに休憩所があります。そこにご案内します」
医務室は遠い。しかも今日は特別展示で人がごった返している。
人混みの中を歩かせるのは更に気分を悪くさせるかもしれない。
彼はそう判断し、先導するように少女の前に立って歩き始めた。
彼自身、この場を離れる理由になるということで内心は喜んでいるらしく、どこか晴れやかな表情さえ浮かべていた。
それを隠しきれていない。
物の数分もすれば、中規模のスペースへと着いた。職員用に用意された休憩所だ。故に他の客はいない。
幾つか椅子や机などが並ぶ小部屋である。
「とりあえずここでお休みください。まだ気分が悪いようでしたら医師を呼んできますので」
と、金髪碧眼の少女に対して椅子を手で指す。
アリス >
展示物が嫌い? 自分と同じでああいうのがちょっと苦手な人なのだろうか。
しかし職員の方が展示物を嫌いと言い切るのは凄い。
「ありがとうございます」
小さく頭を下げて青年の後をついて歩き始める。
表情はわからなかったけれど、歩幅で急いでいるか、喜んでいる印象を受けた。
自分も早歩きについていく。
職員用休憩スペースにつくと、指示された椅子に座って深呼吸をした。
「ありがとうございます、助かりました」
弱々しい笑顔で頷いて。
「それにしても、職員用の? 休憩室を使わせてもらえるなんて」
簸川旭 > 少女に職員用の休憩室まで案内したことについて問われると、青年はややバツが悪そうに天井を仰ぐ。
「……普通の休憩室だと他の来観客や職員の目があって僕がサボっていることがバレてしまうから、特別だ。
ああ、サボッているというのは語弊がある。気分の悪い来観客の救助も仕事の内だな。医務室も休憩室もちょっと遠いのは本当だし」
彼女に対してそう答えた。
先程までの丁寧な口調は消え、かなり砕けたものとなっていた。
職員用に用意されたウォーターサーバーで紙コップに水を入れると、それを彼女に差し出した、自身の分は既に手に持っている。
「言っただろう、あの展示は僕も嫌いだって。今日みたいな仕事も本当は担当じゃあない。
さっき休んだばかりだったんだが、偶然君が通りかかってくれて、僕としても丁度良かったわけだ。……ああ、この話上に言わないでくれよ」
青年の顔色は先程よりだいぶマシなものとなり、自身も椅子に座って寛いでいく。
ここまで連れてきた理由は、自分も休みたかったからということである。
ある意味彼女が口実になってくれた、ということだ。
そんな理由を彼女に話してしまいながら、青年は水を口にした。
「気分はマシになったかな」
アリス >
「……そうなの? じゃあ、仕方ないわね」
相手に合わせてこっちも普段の口調に戻した。
青年はかなり年上だけど、丁寧な日本語は苦手だからと自分に言い訳した。
紙コップの水を受け取ると、お礼を言って一口。
「へえ。望まない仕事というわけね……」
「告げ口なんてしないわ、私だって助かったんだもの」
「歴史的資料となるとああいうのも年齢制限なしで展示されるのね」
「ヒロシマで見たゲンバクシリョーカンと同じものを感じるわ」
気分について聞かれると笑顔で。
「ええ、おかげで大分落ち着いたわ。あと少し休んだら大丈夫」
「ええと……」
青年のネームプレートを見る。しかし難しい漢字で読めない。
簸川旭 > 「原爆資料館……ああ、僕も行ったよ。確か小学校の修学旅行だったかな。
でも驚いたな。そんな懐かしい名前を聞くなんてな。この時代にもまだあるのか……、
結局大変容が始まって以降は日本に帰ってないからな。今はどうなってるのかもよく知らない。」
話を聞くと、酷く感慨深そうに青年は言った。
というには、度が過ぎるほどであった。何故ならば、青年は涙すら流し始めていたためである。
最後の言葉は、彼女に向けたものというよりは独り言であろう。
「……ああ、すまない。なんでもないんだ。ちょっと懐かしくなって。
大変容については惨劇とは切り離しては語れない。あれも歴史的な資料として公開してるんだ。
……僕は見るのもごめんだけどな。あのときに死んでしまった人たちのことを考えると、どうしても吐き気がする。
もう数十年の前の話らしいから、現代の人間にとってはただ過去の話かもしれないが……」
まるで自分が過去の人間であるかのように青年は呟く
一人で鬱々と語っていると、彼女がネームプレートに視線を注いでいるのにようやく気づく。
涙を拭い、プレートを手で持って彼女の問いに答える。
「ああ……僕は簸川旭(ひのかわ あきら)だ。一応学生で、図書委員。博物館の職員だ。本当はもっと別の仕事なんだが。
君も学生なのか? その様子だと博物館に来るのは始めてみたいだけど」
金髪碧眼の少女にそう尋ねた。
彼女の砕けた口調についても、旭は全く気にした素振りはみせなかった。
アリス >
「今は閑散としていたわ、原子爆弾よりも目立った脅威が身近な世界だものね」
「それでも史料としては興味深……って、ど、どうしたの?」
彼は涙を流していた。
まるで何かを悼むかのように。
「……そんな…」
「あなたの年齢からしたら、生まれる前くらいの話でしょう?」
続けて『なのに』と言いかけて口を噤んだ。
感情に理由を問うには、自分はあまりに若かった。
デリケートな問題かと思うと、詮索し切れなかった。
歯切れも悪くハンカチを差し出す。
異能で作ったものではなく、AAとママがイニシャルを刺繍してくれたものを。
「ヒノカワ アキラ……簸川さんね」
「私はアリス。アリス・アンダーソン。四月から常世学園の一年生よ」
「学籍だけある状態で、宙ぶらりんだけど。博物館自体は楽しんでいるわ」
簸川旭 > 「アリス・アンダーソン……入学前ってことだな。じゃあ、まあ一応僕は先輩になるわけか。……ああ、大丈夫だ。大丈夫だから」
彼女の自己紹介を聞く。差し出されたハンカチについては大丈夫だ、と辞退した。
自分の涙に驚いた様子には、すぐには答えない。
「僕からしてみれば、この島も今の世界も、あり得ない事だらけだ。君が何のために入学したのかは知らないけど、注意した方がいい。
知ってるかもしれないが、治安がいい場所だけじゃないし、時折……というか今もだが、化物もでる。
異能だか魔術だか知らないが、それで好き勝手にする奴だっている。正直大嫌いだ、そういう奴らは。
だから……先輩としていうなら、遊ぶのは学園地区とか学生街にしておいたほうがいい。変な場所には行かないことだ。
学園生活を楽しむだけなら、それで十分だと僕は思う。今日みたいに、博物館に寄って文化的な活動をしていればそれでいい」
一応の、先輩らしい忠告などを旭は語る。時折言葉の中ににじみ出るものは、憎しみにも近い色彩を帯びている。
訳の分からない連中に関わるなとか、落第街には近づかないほうがいいなど、そう言った言葉も告げて。
「……僕が急に泣き出すやつだと思われたら困るから、一応さっきのことにも答えておくよ。
僕が生まれたのは20世紀……丁度、大変容が始まる直前の時代だ。だから、僕は大変容以前の地球に生きていた。
大変容の日に異能に目覚めたらしくてさ、そのまま僕は意識を失った。
そして次に目覚めた時には、大変容も何もかも終わってて、この島の研究所のベッドに寝かされていたってわけだ。
冷凍睡眠状態だったってことらしいが……まあ要するに浦島太郎だな。君が知ってるかどうか知らないけどな。まあ、それだけのことだよ。
別にそこまで珍しい話じゃない。大変容の時はそれこそ時空が歪んでたって話だしな」
水を全て飲み干すと、旭は紙コップをぐしゃ、と握りつぶした。
「自分の親や家族が死んだ出来事についての展示なんて、そりゃ見たくないってわけだ。
はあ……子供相手に何語ってるだか。すまないなアリス。聞き流しておいてくれよ」
アリス >
「そうね。簸川先輩と呼んだほうがいいかしら?」
ハンカチを戻しながら、相手の話を聞く。
学生街に両親と住んでいるけれど、両親が住処に学生街を選んだのは治安の問題があるのかも知れない。
そんなことを彼の話からぼんやり考えた。
「……怪異、会ったわ。亜人に追いかけられた」
「風紀のロボットに助けられたけど……怖かったわ」
目の前の青年から滲み出る憎悪は、どんな種子から芽吹いたのだろう。
どんな土で育ち、どんな水を受け、どうしてここまで根深くなったのか。
その答えが本人の口から語られた。
「リップバーン・ウィンクル……浦島太郎…?」
聞き流してと言われるには、あまりにも重たい言葉だった。
大変容以前から生きていた人。
冷凍睡眠の異能を持つ青年。
異能を憎む異能者。
「……うん」
視線を下げて言葉少なくそう答えておいた。
彼は間に合わなかったんだ。
何もかもに遅れてしまって。長い後日談に生きている。
家族がいない世界に取り残された自分を想像した。
なんだか、それだけで泣きそうになった。
簸川旭 > 「ああ、あまり深刻にならないでくれ。言っただろ、珍しい話じゃないんだ。
正確な数はわかっていないらしいが、大変容で死んだのは当時の人口の半分近くだとも言われてるんだ。家族友人が死んだなんて、珍しくない。
君も見ただろうが、気持ちの悪くなるような災厄とか戦争とか……僕はそういうのを全く見ずに来たんだ。
むしろマシだったとさえ言えるかもな。気づいたら漫画やアニメの中でしか存在しないはずの異能とか魔術とか……神様さえ、いる世界になってた。
その事実さえ受け入れればいいだけなんだから。楽なもんだよ。ある意味では俺も異邦人的なものなのかもしれないな」
アリスが少女だから、そして現代に生きる者だからということもあるのだろう。
短く言葉を紡いだ彼女に向けて、旭は笑い声さえ交えて見せて答えた。
やや早口なのは、感情の高ぶりをごまかすためで。
「正直言って、今の有様の世界は嫌いだし、元の時代に帰りたい。だが、もうこうなってしまったのはどうしようもないんだ。
別に異能者とか魔術師とか、異邦人が憎いわけでも嫌いなわけでもない。ただどうしようもない思いだけがあるってだけでね。
多分、異邦人もこういう思いを抱えてるんだろう。だから珍しくないんだ。あいつらだって、多くの場合元の世界に帰れないんだからな……」
珍しくない。
珍しくない。
そう自分に言い聞かせるように旭は呟いた。
「湿っぽい話になったな……現代の子供に聞かせてもなんというか、正直困るだろ?
僕の話ばっかりしてしまったから今度は君の話を聞かせてくれよ。20世紀の話とか、この島のことについてぐらいなら応えられるつもりだ。
異能とか魔術とかは……専門のやつに聞いてくれ。僕はよくわからない」
自分の話ばかりした、湿っぽい話をしたとやや気まずそうな表情を浮かべる。
世界についての憎悪を今を生きる人間に聞かせてもどうしようもないことなのだから。
ごまかすように今度は君の話をとだけ言うと、一枚の名刺を差し出した。今時名刺などなかなか見るものではない。
それには、彼の名前と、図書委員会:遺物管理員と書かれていた。
「こっちが本業で、今日のは手伝いなんだ。
何か変なアーティファクト……危険な魔導書とか、呪具とか、そういうものを見かけたり話を聞いたりしたら教えてくれ。
それを封印するのが僕の本業。それが博物館に収蔵されたら、危険がないように封印してるんでね。
流石にそろそろ仕事に戻らないと怪しまれる……ここはオートロックだ。他の職員がやってくる前に出といてくれよ。じゃあな」
それだけ言い残すと、旭は逃げるようにして部屋を後にした。
アリス >
今日、惨劇を資料で知った。
けど、今聞いたのは生の声だ。
マシだったとさえ言える。
そう言い切れるようになるまでに、どれほどの懊悩があったのだろう。
そして涙を流すほどに、振り切れていない過去でもある。
「私は……異邦人の知り合いはいない」
「だから、異邦人のことも詳しくないし、簸川先輩のことも伝聞以上のことはわからない」
「でも……」
顔をくしゃり、と歪めて。
どうしようもない。
彼は言った。
そう、どうしようもないんだ。
彼にとってこの世界は行き止まりに等しいのだから。
名刺を受け取ると、強く頷いて。
「また会ったら、私の話をするから……」
「だから、また会ってね。簸川先輩」
そう言って立ち去る青年を見送り、自分も空になった紙コップを無害な気体に分解して部屋を去っていった。
ご案内:「常世博物館(小イベント開催中)」から簸川旭さんが去りました。<補足:黒髪痩躯の青年。図書委員会遺物管理員>
ご案内:「常世博物館(小イベント開催中)」からアリスさんが去りました。<補足:女学生予定の女の子。(乱入歓迎)>