2020/07/07 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >  
陽の落ちた落第街。

光の届かぬこの場所は、より一層その影を濃くし、
今日も誰かが必死に生き、誰かが生きることを諦めて闇に喰われていく。

裏路地の一つをコツン、カツンと
質の良い革靴が地面に積もる塵芥を踏みつけていく。


「………、……。」

夏のじっとりとした夜も気にせず、
革靴の主は影に溶け込むような黒いスーツだった。

顔には表情を隠す龍を模した仮面をつけた男は、
夜空を切り取ったかのような深い紫髪を冠に、
小さな羽ばたきの音を二つ連れている。

羽月 柊 >  
別段完全に変装しているという訳でもない。
傍らにいる小さな白い小竜は、
彼が羽月 柊であると証明しているようなモノだ。


闇市場に顔を出し、顔見知りと一つ二つ、情報交換の帰り。

隅で蹲る異邦人も、飢餓にあえぐ子供も、
明らかに眼がここではないどこかを見ている二級学生も、

男にとってはただの雑踏と同じだった。


直接迷惑をかけてこなければ、ただのノイズだ。

羽月 柊 >  
全てに手を差し伸べられはしない。

大人になれば、一定以上の音が聞こえなくなるように、
見えている哀しみも苦しみも、無視できるようになってしまう。


  "みんなしあわせになりました めでたしめでたし"


――なんて、そんなものは子供の絵本に過ぎないと、嫌でも知ってしまう。


だから、無感情に歩くしか無いのだ。



帰路の半ば、柊の革靴の音を乱す足音。
足を止めて目の前を見ると、下卑た笑みを浮かべている輩が数人。
身なりは良くない、二級学生か、はたまたチンピラの類か。

羽月 柊 >  
別段驚くようなこともしない。

落第街は世界の縮図だ。

救われているのはほんの一部。
そして弱いモノが死に、強いモノが生きる場所。

目の前の馬鹿共が喚いている言葉も、この場なら彼らにとっての正義だ。


自分の身なりが良いことは自覚している。
だからまぁ、言われるのだ。金をくれだとな。

大方手につけている魔道具の類が指輪だの腕輪だの、貴金属が多いせいだ。
宝石鉱石は魔力適性が良いから仕方が無いのだが。


「断る。俺は家に帰るんだ。大人しく通せ。」

冷ややかな目線でそう言えば、笑いが返って来る。
抜けのある歯を僅かな夜の光にギラつかせて。

羽月 柊 >  
オヤジ狩りなんて生易しいモンじゃない。
異能やら魔術があるこの世界じゃ、凶器なんて入手し放題だ。

死はもっと近くて、一歩踏み外せば仄暗い穴が開いている。

ひとしきり笑った後に振りかざされる拳も、
もしかしたら地面を割るかもしれない。



だとしても、柊の目線は冷ややかだった。

『…眠り姫の棺、咲き誇れ雪の華』

カツン、と一歩を踏み出す。

『冬の女王の口付けは……蛮勇すら凍てつかせる』

一歩、柊が踏み出すごとに、その足元を中心に地面が凍り始め、
拳を今叩き込もうとした者の手が止まる。

「……下手に動くなよ、割れたら元に戻らないぞ。」

その者の下肢は凍り付いていた。

羽月 柊 >  
「この暑さだ、小一時間もすれば融ける。」

慌てふためく他のモノを後目に、
柊はそのまま彼らの横を通る。



……つい手加減してしまった。


昨日青臭い言葉を聞いたせいか?

あんな若者の言葉一つに動揺しているのか?



「…そんなはずはない。」



確かめるように、呟きながら、
柊は歩いていく。

羽月 柊 >  
甘い顔をしてしまえば。
何もかもを許してしまえば。

――脳裏に過るのは、アカ色。



ああ、嗚呼、二度と。それだけはごめんだ。

落ち込んだ気分を察されて、
2匹の小竜が心配する鳴声をあげる。

全く、一人だと気分はどこまでも沈んでいけるというのに、
常に一緒に行動しているものだから、一人ではないと気付かされる。

「ああ、気にするな。」

そう2匹に誤魔化す。

帰ろう、息子の居るところへ。
あの子達の居るところへ。

ご案内:「落第街 路地裏」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>