2020/07/11 のログ
ご案内:「黄泉の穴」に幌川 最中さんが現れました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように繻汲ナいる。人好きのする見目。>
幌川 最中 >
王様の耳はロバの耳。
それを聞かされた葦はなにもかもを詳らかに語った。
秘密を吐き出さずにいられなかった理髪師はどう思ったのだろうか。
もし、幌川最中という男が理髪師だったなら、恐らく同じことをしただろう。
黙りこくって、誰にも言わないなんてことは。
内緒話を自分の中に寝かせることは、幌川にはできやしない。
「穴」。4年前に発生した災禍の爆心地。
《大変容》セクトの一つであり、違反部活「新世魔術師会」の拠点が存在した地。
「新世魔術師会」が蒐集した膨大な禁書類を用いて、
「無名の恐怖」なる存在を召喚しようとした結果、儀式は失敗。傷跡はこの通り。
もし、ここに全てを話したら、「無名の恐怖」は自分に語りかけるのだろうか。
それとも、悪行を誰もに語るのだろうか。誰もが知るところになるのだろうか。
「わかんねえなあ、『こういうの』はさ」
目下に広がる大穴を見下ろしながら、遥か異界に思いを馳せた。
幌川 最中 >
端的に言ってしまえば、自分がやることは。
『穏健派』の末席に座る幌川の抱く理想は、現状維持だ。
「理想」と「希望」と「夢」を生贄にして、変わらない明日を迎えることだ。
「新世魔術師会」しかり、「トゥルーサイト」しかり、「グレイテストワン」しかり。
かつて、「そういうもの」に溺れて消えていった人間は少なくない。
だからこそ、「理想」も「希望」も「夢」も。
最初から、期待する必要がないほどに安定した世界で生きていたい。
「足りない」と思わなければ、幸せでいられるというのに欲張る。
だから。初めから「足りている」者だけがこの世界に存在していればいい。
必要最低限の生活。必要最低限の充足。必要最低限の人員。
「だから、華霧ちゃんもあかねちゃんも、……」
理想を抱くのは構わない。
だが、もしその「理想」がたしかに顕現して、たしかに成立してしまったら。
「理央ちゃんも」
理想を抱くのは構わない。
だが、もしその「理想」がたしかに萌芽して、たしかに成立してしまったら。
「俺、困っちゃうんだよな」
幌川 最中 >
「現状維持」とは、何もしないことではない。
「現状」が破壊された場合には、どういう手段を取ってでも「現状復帰」を目指すこと。
「現状」とされる誰かにとって都合のいいポイントを維持し続けること。
穴の中にすべてを放り込んでしまえば、なかったことになるだろうか。
なかったことになりはしない。一人でも残れば、思想は残り続ける。
だから、必要なことは「全て」を穴の中に放り込むことでしかない。
可能か不可能かでいえば、絶対的に不可能だろう。
だが、不可能だからといってやらない/やめる理由にはならない。
彼女たちが『真理』によって頂きに手を伸ばすというのであれば、
自分はこの両腕でもって頂きに手を伸ばす。
人間という種族は、自らを霊長のものであると遠慮一つせず語る。
どこの何かも知れたものじゃない『なにか』に与えられる『答え』など。
計算問題の答えを書き写すようなものでしかない。
自らの手で、自らの頭で行うからこそ、それは正しく『自分の答え』となる。
幌川 最中 >
これは風紀委員である/ないの垣根を越えた行為だ。
幌川最中という一個人が、「偶然」自分の周りで「そういう」事柄を見聞きしてしまったから。
もし登場人物が「自分から遠い誰か」であれば何もしなかっただろうが。
生憎と、「現状」を妨げるのは自分から近しい少年少女たちだ。
であるのならば。
「懐の最中(さいちゅう)に潜り込む」のが一番ラクな人間が担うべきだ。
先日の任務で幌川がわざわざ呼び立てられた理由。
神代理央という少年を「懐柔」する手段として、恐らく風紀委員会は自分を配置した。
実にいい配役(キャスティング)である。
であらば、前述の二人の懐の最中に潜り込むのに苦労しないのは?
幌川は、困ったように眉を下げながら、軽く頭を掻いた。
「風紀委員会にアイドルを」。
先月の風紀委員会会議で上がった意見は、実に「わかって」いた。
旗を振る乙女に対峙した「対面」がやることは、今も昔も同じだ。
聖女と呼ばれるジャンヌ・ダルクを魔女に堕した。それが、「人間」の知恵だ。
幌川 最中 >
これは、明らかな越権行為である。
風紀委員会は、基本的に対症療法的に物事への対処に当たる。
公安委員会は、基本的に物事が起きる前の調査に重きを置く。
では、幌川が行おうとしている『現状維持』は一体どちらであるのか。
「物事が起きる前」の調査を行い、この島で「予防」を行う。
神代理央に説いた原則を踏みつける、確実な違法行為である。
これは、誰にも許される行いではない。
それでも、この行いは「風紀」を守る行いであることには違いはない。
風紀委員会の原則を守るために、風紀委員会の準備したルールを破る必要があるだけ。
理央ですら、凶弾には倒れた。
誰も予測していなかったその一打で、それが知れてしまった。
「神様」は死なないからこそ「神様」でいられる。
神話は揺らぐ。神話の時代は終焉を迎え、人間が霊長を名乗っている。
その再現。
魔術的儀式の一つ。腰から下げた狐の面は、自分では手に入れるのは難しい代物。
それなりの値段のする、魔術的意味合いのある羽月柊という魔術師から借りたもの。
狐を被る。
あらゆる「意味」が、「呪い」に形を変える。
積み重ねた「意味」は、一朝一夕で手に入れられるものではない。
その全てが、「魔術的意味」へと変化する。全てに意味を付与する。
あの日の会話も。あの日の会話も。
あの日の会話も。あの日の物語も。
「――意味は、此処に」
人は、これを古くより、「呪術」と呼んだ。
幌川 最中 >
野津幌川は、古くより地球にあった川の名だ。
その流域周辺に腰を下ろし、その川の名を一族の名とした。
野津幌川。旧い呪術の家柄に当たる。
そして、幌川はその分家筋に当たる家が名乗った名である。
野津幌川家は、《大変容》を機に全てを失った。一族郎党、なにもかも。
そういう「呪術」の家柄があったことなど誰一人として覚えていない。
忘れ去られた、「人の営み」がそこにあった。
幌川の家系は、細々ながらもきちんと受け継がれていた。
問題はただ一つ、その血を強く引く最後の一人の老化が著しく激しいことだけ。
幌川家の長は、これを好機と見た。
異能の副産物ということにすれば、この最後の呪術を。
内密に、野津幌川の呪術を神秘の貯蔵庫である常世学園で守ることができる、と。
老化が激しい理由など、ただ一つだ。
人を呪わば穴二つ。……誰かを呪う者が、永遠を生きられる理由などない。
「特殊能力の副作用」だなんて嘯いてはいるが、そんなのは安い嘘。
野津幌川の最後の呪術士は、大嘘吐きの「狐被り」である。
そんなことを知る者は、この世界には誰もいない。
この物語を知るのは、穴を覆うことになる葦だけだ。誰も聞くことはできない。
だってここは、黄泉の穴なんだから。
生者に聞かれて困る話は、ここでするに限る。
幌川 最中 >
――話は終わりだ。
ご案内:「黄泉の穴」にツァラ=レーヴェンさんが現れました。<補足:白髪蒼眼の少年/外見年齢12歳154cm/白に赤基調の振袖、へそ出しの紫袴。和風っぽい服。>
ツァラ=レーヴェン→幌川 最中 > ――最中の視界に、一匹の蒼い蝶。 (07/11-23:02:54)
ツァラ=レーヴェン >
『現状』
常に自分達の傍に在るようでいて、常に移り行くモノ。
それは水の入った風船のよう。
手に提げる分には何もない。
屋台に並べばそれは、一つ一つ水面に漂う魅惑。
だけど、手から落としてしまったら、もしも針を刺してしまったら、
少しの衝撃で破裂し、簡単に中の水をぶちまける。
簡単に、それは元の姿を失ってしまう。
「すーごい穴だねぇー。」
最中が"それ"に瞬きをした次に、張り詰めた現状は割れた。
物語を聞いたか否か、呑気な声が、穴を取り巻くバリケードの一片から聞こえる。
上に立つのは、白。
幌川 最中 >
「いらんもん捨てるなら、おすすめするよ」
ここにやってきたことを注意することもなく、目を細めて笑う。
いつも通りの幌川最中の表情で。まるで化かされたかのように。
「ここなら、何をどれだけ捨てても誰も怒りやしない」
人影を見かければ肩を竦めてから、「落ちたら真っ逆さまに地獄行き」と笑って。
欠伸混じりに穴に踵を返しながら、やはりのんびりとしたまま。
君がもし他人の思考を覗くことができるならきっと君こそが葦となる。
王様の耳の正体を語り、叫ぶ葦そのものとなることであろう。
一人の風紀委員の立場を脅かし、更生の切っ掛けになるのかもしれない。
それでも、風紀委員会とは。法とは。
法を守らない者も守れるようにできている。
「未遂」で検挙することはできない。
「思想犯」を殺すことはできない。
その両原則を武器と防具に、幌川は堂々と笑った。
「まだ」何もしていない以上、裁かれる謂れもない。
「俺はもう、『捨て』終わったから――次、どうぞ」
軽く穴をジェスチャで示してから、学生街に戻っていく。
仮面を、しっかりと「被り」直してから。
ご案内:「黄泉の穴」から幌川 最中さんが去りました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。人好きのする見目。>
ツァラ=レーヴェン >
「ハァイ。おじさんも"気を付けて"、ね。」
その背を見送り、手を振る白は少年だった。
こんなにも危険な場所で、こんなにも日常の無い場所で、
にこにこ笑顔の少年だけが、残された。
「残念、新しい玩具を拾いはしたケド、
捨てるようなモノは無いんだ。」
軽やかな声がそう謳う。
足場の悪い中、少年はくるくると回る。
振袖が揺れ、舞うかのように。
蒼い光の蝶が周りに現れては、少年を包む。
ふわっと蝶が散り、大きな耳と、三つの尻尾。
「――呼ばれたのかもネ。僕は君に。」
誰も聞くモノは居ない。
「お楽しみ、お楽しみ。
狐は君にお呪いをあげよう。」
そう笑う少年は――。
「僕は"幸運の祟り神"。
カミサマは………君と縁を結ぼう。」
くすくすと笑いながら、
狐の少年は蝶と共に消えていった。
ご案内:「黄泉の穴」からツァラ=レーヴェンさんが去りました。<補足:白髪蒼眼の少年/外見年齢12歳154cm/白に赤基調の振袖、へそ出しの紫袴。和風っぽい服。>