2020/07/09 のログ
ご案内:「Silent Scream」に松葉 雷覇さんが現れました。<補足:白い背広姿の眼鏡をかけた男性。青いバンダナと眼鏡が特徴的/待ち合わせ中>
ご案内:「Silent Scream」に山本 英治さんが現れました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス(待ち合わせ済)>
ご案内:「Silent Scream」に227番さんが現れました。<補足:白い髪、青い瞳。白の袖なしワンピースに麦わら帽子。帽子のリボンに227と書かれたバッジ。>
227番 > 落第街の路地裏。あるいはスラム。その境目は曖昧である。
そこにアフロの青年と、麦わら帽子の白い少女。

…新しい生活になって数日、少しずつ慣れ始めて、
ふと前の寝床に忘れ物をしたことを思い出した。
しかし、落第街に行くには自分の足だけでは遠すぎるし、迷うし、あぶない。
保護者を頼ろうにも、今日は忙しいようで。
そんな感じで困っていた所、たまたま通りがかった
エイジをみつけ、事情を話して、頼ることにしたのだった。

「エイジ、こっちの、ほそいみち」

久々の落第街も、道はしっかり覚えているようだ。
すいすいと路地裏に入っていく。

山本 英治 >  
ニーナの後ろを歩く。
いやはや、これくらいの子供は元気で良い。
笑顔で細い道に入りながら。

「ははは、ニーナはこの辺りに詳しいんだなぁ」

アフロを揺らして一緒に歩いていく。
自分の力なら、大抵の出来事から彼女を守れる。
そういう驕りがあったのは、確かだ。

今、思えば。警戒するべきだった。

227番 > 入り組んだ路地裏でも迷うことはない。
何年も過ごした庭のような場所だ。

「ここ、曲がった、ところ」

前のように一人でもなければ、
頼もしい、風紀の友人と共にいる。

だから──少女も、油断をしていた。

松葉 雷覇 >  
二人が丁度その細道へと歩き、曲がり角へと差し掛かった時の事だ。
全身をぼろ衣で纏った人物が二人の目前に現れた。
ほんの一瞬、227へとぶつかる寸前、その景色はやけにスローだったかもしれない。
男か女かはわからない。ただ、その人物が浮かべる恐怖に歪んだ顔のみが、二人の盲目に焼き付いたかもしれない。
なにせ、確認する余裕もない。何故なら

──────一瞬でそれは、血のスコールへと変貌した。

鼓膜を揺らす、肉がひしゃげる音。
耳をざわつかせる、骨が砕ける音。
視界を染める、飛び散った赤い鮮血。
そこに最早、"生命"と呼べるものは残っておらず
スラムの床と一体化してしまったかのようなひしゃげて、押し潰れた何かがそこにあるのみだ。
臓物と砂利が鮮血で洗い流されるかのように、二人の足元へと広がる。

「成る程。逃げきれませんでしたか……ですが、良いデータが取れました。おや……。」

程なくして、同じく奥からやってきた白い背広の男。
眼鏡をかけ、温和な物腰のまま二人を視認すれば、此の場から不釣り合いなほどの微笑みを浮かべた。

「『227番』ではありませんか。どうも、其方の方はお友達ですか?
 どうも、『227番』がお世話になっております。私、異能学会の松葉 雷覇(まつば らいは)と申します。」

「ああ、足元のそれは気になさらないでください。俊敏性の実験を行っておりましたが、ご覧の通りです。」

男はさも、当たり前のように語り掛けてくる。
目の前の"それ"を引き起こした事をひけらかし
友達に自らの小さな失敗談を話すような、気軽さで。

山本 英治 >  
ふと、目の前に現れたボロ布を纏った人間が。
たった今まで。命だったものが。

一瞬で────内容物をぶち撒けた。

異能か、魔術か。それはわからない。
ただその場に居ては危険なことだけはわかった。
こんな状況で正気で、順当に頭が回る自分が信じられなかった。

「お前………何をしている……?」

ニーナを庇うように前に飛び出し。
自らを鼓舞するかのように吼えた。

「それは命だぞッ!! 生きて……生きていたんだ!!」

心臓が跳ねる。これでは、まるで……親友が、未来が死んだ時のようで…

227番 > 何が起こった?
赤く染まる視界。飛び出すともだち。

「ぇ……な、に……」

聞き覚えが有る音がした。
軋む音、ちぎれる音。

「ぁ……」

身体を震わせながら、声の主を見上げる。

「……そん、な」

こんな日に会うとは、思っていなかった。
あの日の記憶が、寒気が、恐怖が蘇ってくる。

ああ、この人は、わたしを殺した人、だ。

見上げたまま、その場に膝をついてしまった。
白いワンピースが赤く滲んでゆく。

松葉 雷覇 >  
「何、と言われると実験を行っていましたが、はて……。」

英治の怒声に雷覇は困ったように眉を下げた。
わかっていない、彼の怒りが、怒鳴られる理由が。
ああ、と漸く合点がいったのか、人差し指を立てて英治に説明する。

「ご安心ください。二級学生 桧山 楓(ひやま かえで)さん。彼女には実験に参加して貰った時点で……。」

「『人としての運用は想定しておりませんので』」

雷覇にとって、たった今潰れたものは"生命"としてもカウントされていなかった。
死の恐怖に歪んだあの顔を踏みにじるかのように、冒涜するかのように
人差し指を軽く左右に振って、笑っている。
普通の感性を持っているのであれば、その狂気に寒気さえ覚えるかもしれない。

レンズの奥で、青い瞳が227へと向けられた。

「あの時ぶりですね、『227番』……ああ、怖がらなくても結構。」

「次は"殺したり"しませんよ。此処で何かの縁。共に行きましょう……。」

差ながらそれは、娘を導く父の様に穏やかで
英治の事をしり目にその手を差し伸べた。
人としての決定的"ズレ"。それを目にした時、二人は何を思うのか。
無防備な右手が、英治の隣を横切っていく。

山本 英治 >  
脳内が赤く染まっていく。
赤。赤い血。血が。広がって。未来。

時折、善悪の彼岸を外れた者がいる。
それは自らを悪と思わず悪を成す。
人はそれを─────真の悪とも呼ぶ。

「ニーナを殺し………?」

まさか、こいつは……以前にニーナに会っていて…
頭がそれを理解するよりも早く。
彼の前に腕を伸ばしてニーナに触れようとする彼を遮った。

「風紀委員一年。山本英治だ……これから」
「ニーナと……桧山楓に…………」

鈍く輝く黒の眼光が、松葉雷覇と名乗る男を貫いた。

「命に、謝らせてやる………!!」

中段一本突き。崩拳を振るった。
手加減など考えなかった。ただ、必死で。

「ニーナッ!! 逃げろォォォォォォ!!」

227番 > 差し伸べられた手。

「ぃ、や……」

当然、それを取ることはなく、遮られた。

「っ……」

逃げろと言われた。
しかし、少女は完全に腰を抜かしていて、少しずつ下がることしか出来ず。
恐怖を湛える青い瞳は、その男と、ともだちの背中を見上げていた。

松葉 雷覇 >  
突き出された拳は、側面から"強い力"に押し出されて雷覇の横腹を掠める程度で終わる。
雷覇の異能、重力操作。正確には押したのではなく、その拳を引っ張って軌道を逸らさせたのだ。
しかし、空を切る剛拳。脇腹を掠めただけでもじんわりと痛みが広がっている。
見事に体を直撃していたら、肉も骨も無事では済まなかっただろう。
差し伸べた手を引っ込め、憂いを帯びた瞳を英治へと向けた。

「何をそこまで憤っているかはわかりませんが、暴力はいけませんよ。山本君。」

「もしかして……貴方は桧山さんとお友達でしたか?それは、たいへん気の毒な事をしてしまいました。」

「実験に志願したのは彼女でして、異能のせいで足が動かなかったようでしたのでね。その手助けをしていたのです。」

「結果はこの有様ですが、ね。子どもの前で暴力はいけませんよ、山本君。『227番』も、こんなに怯えている。」

ゆっくりと英治から距離を離し、227と二人の側面をゆったりと回る様に歩き、"諭す"。
暴力は得てして、悲しみしか生まないと。それに囚われるなんていけないことだ。
では、雷覇がしたことは?


────勘違いしてはいけない。たった今踏みにじられたものは、彼にとって"そうあるべき"と定められた被検体に過ぎなかったのだ。

暴力でも何でもない。しいて言えば、"歩み"。真理へとたどり着くための、歩み。


「行きましょうか、『227番』。山本君もどうですか?」

「此の辺りに、美味しいカフェがあるのを知っていますよ。」

だからこそ、英治の言葉など微塵も掠りはしない。
平然と、さも当然のように日常の延長線。
人の皮を被った白い狂気が、怯える小さな命へと一歩、また一歩と近づいてくる。

山本 英治 >  
不可視の力。サイコキネシス? いや、違う。
何かがおかしい! 何かが!!

「う、うう……っ!」

こいつは価値観がまるで人間のそれとは違う。
何かを得るためなら、人の命が潰えてもいい。
だから、間違っているとも思っていない。
彼は……本気で言っているんだ。
子供の前で暴力はいけないと。俺に。諭しているんだ。

「ニーナに触るな、外道ォォォォォォォォォッ!!」

拳を振るう。蹴足を繰り出す。劈拳を振り下ろす。
しかし。その数々が不可視の力に遮られて彼に届かない。

まるで……拳が彼を傷つけることを拒んでいるかのようだ。

松葉 雷覇 >  
怒りを込めた拳が、激情を秘めた蹴足が、怒号を込めた劈拳が
どれもこれも、彼の周囲を巡る重力の波に呑まれて軌道が逸れていく。
だが、不可視の力と言えど所詮は力。引っ張る、押し出す。
本当に単純な力だ。腕力一つ鍛えた人間なら、此の程度の出力は造作もなく押し返せる。
が、その激情が判断を鈍らせているのか、未だ雷覇に届く事は無く
彼は至って温和な雰囲気を崩す事は無く、足を止めた。

「山本君……。」

憐れむような、穏やかな声音。
振り返った雷覇は、悲しげな表情をしていた。

「乱暴はいけないと、いいましたよ?貴方は……そこまでして私と"戦いたい"のですか?」

山本 英治 >  
そうだ、こいつの力にも限界はあるはずだ。
だったら払う力よりも、直進する質量攻撃ッ! 

「命を粗末にするヤツとは、俺は誰とだって戦うッ!!」

拳を振るって距離を取り。
そこから繰り出すは、八極拳の秘奥。
絶招歩法、箭疾歩。

震脚。足元を踏み砕き、全体重を拳にかけた。
拳での体当たりとも言える拳打。

松葉 雷覇 >   
「はて……困りました。私だって、命は尊いと思っているというのに。」

何せ此方は恨まれる理由が腑に落ちないというもの。
彼は何に憤っているのか。志は同じのはず。

────何処までも交わらない、二人の思想。

「おっと……。」

大気が震える、大地が揺れた。
優男の体がぐらつき、必殺とも言える拳が目前にある。
せめて、『227番』には被害が及ばぬように、拳に重力をあてがい
真正面から"相殺"を試みた。

……が、目論見は拳ごと砕かれ、幾何か威力を殺したとはいえ、打拳が雷覇の胸部にめり込む。

「……ッ!」

苦悶の表情は、一瞬で英治たちの目前より消えた。
その体は瞬く間に弾け飛び、轟音を立てて壁へとめり込む。
瓦礫にその体を下敷きにされ、肉がひしゃげ、肋骨が滅茶苦茶に体を貫通する。
純白の白も、己の血で赤く染まり無様なものだ。

「ゲホッ!ゴホッ……!!」

吐血。肺がひしゃげ、肋骨まで貫通して上手く息が出来ない。
何と言う威力だ。よくぞ、人の身でありながらここまで鍛えたとも言える。

「ハ、ハハ……。ゲホッ!……素晴らしい……!」

その研鑽、賞賛に値する。
雷覇は笑った。威力を幾何か殺したその一撃は、雷覇を絶命させるには至らなかった。

「あぁ……おかげで、少しばかり貴女の気持ちがわかりまし、ッ……ゴホッ!……たよ、……『227番』……嗚呼、実に、残念です……。」

雷覇は、未だ笑っている。

松葉 雷覇 > 「"今から、貴女さえ、巻きこんでしまうのが──────……"。」
松葉 雷覇 > スルリ、と男のバンダナが頭部からすり抜けた。


────刹那、周囲の地面が音を立てて抉れて行く。見えない重力の波。
英治も、227も、あらゆるものを巻き込んで迫る力の本流がでたらめに周囲を削っていく。
本当に動きがでたらめだ、隙間もある。だが、呑まれれば最期、その体は決して無事ではすむまい。
潰れて真っ赤な花を咲かせることになるだろう。

松葉 雷覇 > 「始めましょうか……山本君、貴方の望んだ『戦い』を────……。」

その青い瞳に、確かな"敵意"と、周囲に凍てついた"殺気"を纏った。

227番 > 体の震えが強くなる。
自分を襲った何かの力。それよりも強い力を。
触れれば裂けてしまいそうな殺気を、感じ取って。

「ぁ……エイ、ジ、逃げ、て」

震える声を振り絞る。自分はいいから、と。

山本 英治 >  
当たった!!
俺の拳法は通じる!! 絶招であれば!! 攻撃は通る!!
構えを取る。
上虚下実。上半身をリラックスさせ、下半身で大地を感じろ!!

相手に敵意と、確かな殺意が籠った時。
俺は初めて敵の攻撃の正体を知った。

「………っ!!」

圧倒的な殺意の奔流で敵の攻撃位置はわからない。
ただ、破壊されていく場所をとにかく避けた。
そう、相手の攻撃は重力ッ!!
さっきは斥力で攻撃を反らしていたんだ!!
そして重力で二級学生をひき潰し、今は見えない破滅を発生させている!!

「こいつ……!!」

ニーナの声が聞こえた。
避けるだけで精一杯、いやむしろ運がいいだけだ。
だけど。それでも。

「ニーナを置いて、行けるかよォ!!」

信じた未来を。目の前の命を。
俺は絶対に諦めたりしない。

松葉 雷覇 >  
雷覇の胸部は大きくひしゃげていた。
肉がへこみ、削げ、血の滴る骨が幾つか骨を貫通している。
大抵の人間であれば絶命するダメージだが、男は確かに生きている。
科学者故の、"自らの身体改造"。尤も、それでもそれは生命の域を出ない体。

「ッ……。」

口端から、血が漏れる。
その力を以ても絶対無敵ではない。
限りなる命の宿命を、雷覇は背負っている。
……尤も、彼は"自らのリミットまで度外視しているのだが"。

「……そう言えば、風紀委員会には秩序の為に過激な行動をとる派閥があると聞きました。
 その為であれば、スラム一体を焦土に返る事も厭わないものもいる、と……とても恐ろしい話です。」

辺り一面に迸る力が、一瞬だけ動きを止めた。

「恐ろしい話ですが、それこそが"戦い"だと私は思います。私も其れに倣いましょう────。」

辺りの瓦礫をはじけ飛ばし、重力の波が再度動き始めた。
今度は明確な殺意を以て、地面を抉り
227と英治、両者を押しつぶそうと真っ直ぐに襲い掛かる。

山本 英治 >  
「………ッ!!」

致死の一撃だったはず!!
手に今も残る嫌な感触がそれを伝えてくる!!
なのに、動いて!! 能力を行使してくるッ!!

「戦う力だけが正義じゃない……だが」

227を抱えて後方に跳ぶ。
そこから先の言葉は、言えなかった。
激痛。何が起こったのか、理解するのに時間がかかった。

左足の甲から先が。拉げていた。
超重力、受ければ全身がこうなっていた。

「があああぁぁぁぁぁ!!!」

絶叫した。ニーナを離して、ゆっくりと下ろす。

「逃げろ………ニーナ……俺は、後から行く…!!」

もう走れない。どうする、どうやって切り抜ける!?

「早く行け、な……」

左足を見せまいとし。安心させるように笑った。

松葉 雷覇 >  
力の本流が通り過ぎてもなお、それは止まらない。
何処かの建造物、或いは壁か、人か。
何かにぶつかってそれは初めて止まった。
周囲の建物を瓦礫へと変え、"ただそこにいた"というだけで、また一つ命が

"瓦礫の中で潰れて消える"。

勿論それに目もくれるはずも無い。
自らに戦いを挑んだ山本 英治。その一点を見据えている。
"その他すべての被害は元より、戦いで出来るコラテラレルダメージに等しい"。

「……足、大丈夫ですか?まだまだ行きますよ。」

此の程度で、止まるはずも無い。
雷覇が手を翳せば、英治の頭上の景色が歪み、重力が叩きつけられる。
巨大な見えない鈍器だ。避ける事も出来るし、腕力に自身があれば跳ね返せる。
如何様にでも対処できるが、そんな単純な事では終わらせない。

翳した掌に転がる、六角形の鉄格子。
その鉄格子の中で渦巻く、光を吸い込む小規模なブラックホール。
重力エネルギーを集中して作られた、エネルギーを閉じ込めた物体。

「どうぞ、差し上げます。」

ピン、と指先で弾けば一直線に英治へと飛んでいく。
隕石の様に高速で、飛来する。
先に仕掛けた重力とは違い、これは目前で爆発する小規模な爆弾のようなもの。
巻き込まれれば、肉一つ簡単に爆ぜ散らす事も出来る。
雷覇の科学によって生まれた兵器。

兵器と重力、この二つの連携を如何にして躱す?

227番 > 叫び声を間近で聞いた。

「……っ!」

初めての事に驚き、それがともだちのものだと理解して青ざめる。

降ろされても少女は駆け出さない。
腰を抜かしていたときと違ってちゃんと立っては居るが。

「やだ……!そんなの、だめ……!」

逃げろと言われても、少女は反抗する。

……だが、自分が邪魔をしているのでは、とも思う。
残って自分に何が出来るのか?何も思いつかない。

躊躇いから数歩下がる。
男の方から何かが飛んでくる。
きっと、それは危険なもので。

「エイジ…!」

少女は、ともだちの名前を呼ぶ。

山本 英治 >  
「!!」

振り下ろす気配、いや殺気に。
咄嗟に異能を、オーバータイラントをフルパワーにして。
両手を真上に突き上げた。
圧しかかるそれは、重力の鈍器。

一歩たりとも動けない。
仮に足が十全に機能していても。
この攻撃を支えて動くことはできなかっただろう。

相手は両手がフリーだ、早く何かを。
何かアクションをしないと。
それでも、異能を全開にしているのに。

まだ圧される。

圧倒的だ。死は、ここまで圧倒的なのか。
諦めが心を支配しかけた時、間近で声が聞こえた。
ニーナだ。

まだ、俺をそう呼んでくれるのか。
お前を危険に晒して、今は立つこともできない。
俺を。
 
 
『エイジ』

 
その声は……未来か。俺の親友。

『君は本当のヒーローがいると思うかい?』

わからないよ、そんなの。
俺は過去にそう答えたように、問いかけてくる未来に返した。

『本当のヒーローなんていたとして、彼は大忙しさ』
『だってそうだろ? 世の中に悲劇も悪もたくさんあるんだからね』

だったら、どうすればいいんだ未来。

『簡単さ……みんながヒーローになればいいのさ』
『僕や、エイジが……なんてことない普通の人が手を取り合って災厄に抗うんだ』

そんなこと、できるのか?

『できるさ、やれるとも。僕が信じたエイジも、きっと正しく力を使える』

ふと、俺の右手が動いた。
真上から来る重力と拮抗して動かないはずの、俺の右腕。

雷覇は、何かのガジェットを用意している。
きっとあれは、破滅だ。

『だって────君は僕の親友なんだからね』

俺は、直感のままに右手の親指を弾いた。
空気の塊が指弾となって六角形の鉄格子のようなキューブに当たり。
俺と雷覇の間で破壊の暴風が吹き荒れた。

体を赤いオーラが覆っている。
支えていた左腕一本で押し潰す重力を吹き飛ばした。
左足の痛みが消えてきた。見れば、足は再生を始めている。

これが俺の新しい力。
さらなる剛力と、再生能力。

「異能、セカンドステージ………」

再び右手の指を弾き、空気の銃弾を雷覇に放った。

「オーバータイラント・セカンドヘヴン!!」

強く一歩を踏み出し、ニーナの前に立つ。

俺はもう……信じた未来に後悔しないッ!!

松葉 雷覇 >  
「……ッ!」

吹き荒れる暴風に金糸の髪が靡き、白い背広が靡いた。
何が起きた。ただの"力"だけで相殺したのか?
だが、それなら肉体が無事では済まないはずだ。
見開いた青い瞳は、英治の異変を一挙一同、見逃さない。

「……成る程……。」

再生能力。異能のステージがもう一段階進化したようだ。
重力もあらゆるものを取っ払えば所詮は力。
ブラックホールも小規模とは言えその通り。
文字通り、腕力だけでそれを"制してみせた"。
空気の弾丸を僅かに体を逸らして見せるが、額が掠り、血が垂れる。

「……素晴らしい……!」

笑顔でその進化を賞賛した。
進化とは即ち、真理への到達の一歩。
男は狂気と悪意と、人とはかけ離れた感性で生きている。
それでも彼は、人を愛していない訳では無い。
愛しているからこそ、如何なる行いも、祝福さえできるのだ。

「────……もっと私に、良く見せてください。貴方の、"力"を……!」

翳した手を振り下ろせば、鉄格子に包まれたブラックホールが複数乱反射し襲い掛かる。
壁に、床に、果ては荒れる重力に。
複数の爆弾が英治の周囲を跳弾し、時間差で襲い掛かる波状攻撃。


貴方の真価を、是非ともこの目に焼き付けたい─────!

山本 英治 >  
「その素晴らしい力でぶん殴られてみるか?」

拳を軽く振る。あとは暴力だ。
全てを破壊し、ニーナを守れ。

「死ぬほど痛ぇぞ!!」

足元を無造作に殴りつけた。
それはカノン砲の直撃にも等しい破壊を放射状に前方に広げた。
地面がめくれ上がり、衝撃波がキューブを飲み込む。
複数のキューブとその威力は相殺される。
だが。

土煙の向こうから。直線的に。
俺が突っ込んでくるのが見えるかい……雷覇さんよぉ!!

「砕けろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

相手に向けて。拳を無造作に振り下ろす。
劈拳でもなんでもない。ただの暴力。

だがそれは戦車の装甲も破壊するだけの威力を秘めている。

松葉 雷覇 >  
「おやおや……。」

まさに暴風雨とも言える暴れっぷりだ。
地面を無理矢理めくりあげ、無理矢理ブラックホールを相殺した。
自爆の可能性だってあるというのに、再生能力があれば出来る芸当か。

「素晴らしい────。」

純粋な迄の力。見惚れる程の力だ。
一直線に土煙から躍り出て飛び出した"暴力"。

「……フフフ……。」

"死"だ。直撃すれば、この肉体は今度こそ肉片として飛び散り、死に絶えるだろう。


……その力を賛辞すべきではあるが、生憎とまだ死ぬわけにはいかない。


無造作に振るわれる力に合わせ、雷覇の全身は触れる前に上に吹き飛んだ。
重力による急上昇。遥か向こう側、瓦礫の山の上に着地する。
拳が雷覇の体を捉える事は無かったが、肉薄して迫る風圧だけで、ご覧の通り指先が僅かに"ひしゃげて"しまった。
戦車の装甲を抉る剛拳。生憎この肉体では受けきれるはずもない。

「流石ですね、山本君。貴方の進化を見れて、大変光栄です。是非とも……ッ……最後まで、お付き合いしたいのですが……。」

へこんだ胸を抑える。
不自然な動悸が収まらない。そろそろ、タイムリミットだ。

「生憎、私が……ゲホッ!……ハァ……、……死ぬべきは此処では無い。今回は私の負けです。」

「よりその力を研磨し、共に"真理"へと至りましょう。」

雷覇の隣の時空が歪み、淀んだ黒い穴が形成される。

「……山本君、『227番』」

「貴方達の未来に、輝かしき未来があらん事を──────。」

雷覇に戦いのこだわりは無い。負け戦でも素直に受け入れる。
寧ろ、新たな力を手にした同志を称え、現れた淀みへ、虚空と共に消えてしまうだろう……。

山本 英治 >  
拳が地面を撃つ。
空間が裂ける音、相手は真上。
斥力を操作しての跳躍か。
つくづく、異能のバリエーションが幅広い。

「未来は……この手の中にある………!!」

拳を真上に突き上げると、赤いオーラが消えていく。

「お前に譲ってもらう謂れはねぇ!!」

そこまで言って、負荷に眩む視界を軽く左右に振った。
雷覇は次元の裂け目を通って消えてしまう。
あまりにも。あまりにも強大な敵だった。
だが、退けられたのは……未来とニーナがいてくれたからだ。

「大丈夫かい、ニーナ」

振り返ると、彼女の服が血に汚れていることに気付く。

「怪我はないか?」

結局、目の前で命は喪われた。
あいつは……こんなことを繰り返していたのか。

227番 > 目が雷覇の姿を追う。それはこの場から居なくなった。
気が抜けて、その場にへたり込む。

結局、何も出来なかった。
せめて、自分のことぐらい守れるようにならなくては……。

一人考えていると、声をかけられる。

「わたしは、平気……エイジの、おかげ」

守ってくれたから。傷一つ付けられていない。

「それより、エイジは、大丈夫?」

平気だとアピールしようと、ゆっくりと立ち上がって、
そちらに歩み寄り、上目遣いで見上げる。

山本 英治 >  
へたり込む彼女に、手を差し出して。
そうだ、この手は壊すだけじゃない。
こうして……誰かに差し伸べることだってできる。

「俺は大丈夫だ……」

にっこり笑って、アフロを片手でぐしぐしと撫でて見せた。

「ニーナを守ろうとしたから、俺は強くなれたんだ」
「だから……生きててくれてありがとう、ニーナ」

これから、俺は風紀の仲間に事情を説明するだろう。
この世界に存在する驚異のことも含めて。

雷覇。松葉 雷覇。
あいつは……一体。

227番 > 差し伸べられた手は取って。

「……よかった」

安堵からか、青い瞳から雫がこぼれた。

「わたしも、ありがとう、エイジ」

目をこすって、涙を拭って、笑った。


忘れ物を取りに来たが、それどころではなくなってしまった。
戦いによって路地裏は破壊されている。エイジも後処理が必要だろう。
今日のところは断念して、帰る選択をするだろう。

ご案内:「Silent Scream」から松葉 雷覇さんが去りました。<補足:白い背広姿の眼鏡をかけた男性。青いバンダナと眼鏡が特徴的/待ち合わせ中>
ご案内:「Silent Scream」から山本 英治さんが去りました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス(待ち合わせ済)>
ご案内:「Silent Scream」から227番さんが去りました。<補足:白い髪、青い瞳。白から赤黒に滲んだ袖なしワンピースに麦わら帽子。帽子のリボンに227と書かれたバッジ。[待ち合わせ]>