2020/06/23 のログ
ご案内:「転移荒野」に山本 英治さんが現れました。<補足:風紀委員の腕章/防塵防砂対怪異戦装備>
山本 英治 >  
夕暮れと夜の境界線。
また大規模な門が開いたという話に。
生活委員会と共に現場に急行する。

門から何が出てくるかは、わからない。
だからこそ、備えるのだ。

防疫は生活委員会が、対怪異は風紀委員が。
それぞれ準備をしてある。

門の向こう側は真っ暗でよく見えない。

「今日はケンタウリ流星群……」
「夜空がせっかくの天体ショーってな日にとんでもない事件が起きるかもしれないなんてな」

軽口だって、叩きたくなる。
それくらい今回の門は大きい。

山本 英治 >  
周囲が騒然とする。
門が閉じようとしている。
それも内部にある、異物を吐き出してから。

その時。

出てきたのは、少年だった。
さっきまで村の周囲で遊んでいた、という雰囲気の。
取り囲む俺たちに怯えている。

門が閉じ、空間が安定しても彼一人。
ああ、なんということだろう。
彼は孤独の客人となってしまった。

生活委員会が少し旧式の、それでも安定性の高い翻訳機を彼に向ける。

異界の少年 >  
変なオブジェを押し付けられそうになり。
恐怖に叫ぶ。

「嫌だぁぁぁぁぁ!! 帰りたいよぉ!!」

周りには知らない人ばかり!!
急に夜が近づいている!!
パパ!! ママ!! 助けて!! お願いだから!! 僕を!!

山本 英治 >  
ああ……心が、軋む。
この世界に、また新しい異邦人の誕生だ。

異邦人。人類が接する第二の移民問題。
違う次元からの来訪者は、寄る辺なき世界に惑う。
受け入れるのは、形だけ。
生きるかどうかは本人次第。

目を瞑って歯を食いしばる。
こんな小さな子供が。母親と父親に会う手段をなくしてしまうなんて!!

「……その子、どうなるんですか?」

未来。親友よ、俺は無力だ。
どうすることもできない。
生活委員会はあまり数が多くない。
それも、異邦人を専門に対応する部署となると……
生活委員会 >  
山本の問いに、答えあぐねる。
彼は見た目とは反して繊細な男だ。
どう答えたらいいものか。

「保護をする。彼の意思を確認して、この先どうするかを選んでもらう」

そう答えるのが精一杯だ。
世界は狭すぎる。
そこに余所者が場所を取るとなると、少し難しい。

山本 英治 >  
選んでもらう。この先を。
その言葉が非現実的かつ、空虚に響いた。

「選んでもらうって……」

子供は保護をしようとする手を振り切ろうと暴れている。
精一杯。今はもうどこにもない───自分自身の小さな世界を守るために。

彼は……必死に夜が来る、星がある、怖いと叫んでいる。

彼の世界では、星は忌避するものなのかもしれない。
子供だから、夜に出歩かないようにそう言い聞かされているのかもしれない。

それがただ、悲しい。

山本 英治 >  
必死に周囲の手から逃れようとする異界の子供に。
居ても立ってもいられなくなる。

「すいません、翻訳機を一つ貸してください!!」

そう叫んで生活委員会に許可を求めた。

生活委員会 >  
山本の言葉に、全員が顔を見合わせる。
彼は少年に何を言うつもりなのか。
どちらにしても、もう風紀の出る幕ではない。

「生活委員会の備品だ。それはできない」
「始末書じゃ済まんぞ、山本」

誰もが辛い。
誰もが苦しい。
悲しみに暮れている暇なんてない。

そして自己憐憫を自分で処理できない男に、貸すものはペン一本たりともない。

山本 英治 >  
今もあらん限りの声で両親に助けを求める少年に。
できることなんて本当はないのだろう。
それでも。

「始末書でもクビでも好きにしろ!!」

そう叫んで手を出した。
ただ……翻訳機を、貸してほしい。
彼に、告げる言葉がある。

生活委員会 >  
山本は何をする気なのだろう。
とにかく、彼の目は本気だ。
肩を竦めて、トランシーバーにも似た翻訳機を彼に放った。

「おっと、翻訳機を落とした」

そう言って小さく舌を出した。
周囲の同僚は見て見ぬ振りだ。

山本 英治 >  
突然、放られた翻訳機を受け取って。
破顔一笑。

「拾ったッ!!」

そう叫んで、彼の元に歩いていく。

「聞こえるかい? 何がそんなに怖いんだ?」

できるだけ怖がらせないように。
落第街の少女、ニーナにそうしたように。
声を抑えて語りかけた。

異界の少年 >  
「星は悪魔なんだよ!? 知らないのか!!」
「見上げてみてよ、あんなにたくさん僕を見てる!!」
「助けて、パパ!! ママ!!」

これは夢だ。
夢から覚めたら、パパとママに朝の挨拶をするんだ。

だから早く起こしてママ……この悪夢から…

山本 英治 >  
そうか。星は怖いもの、という文化圏から来たのか。
だったら、俺がやるべきことは一つ。

星を壊す。

「見てろよ、お前! 俺は星なんかちっとも怖くねーぞ!!」

そう言うと空に向けて構えを取り。

「お前が怖いっていうならな、兄ちゃんが星なんか落としてやる!!」

呼吸を整え、そこに悪でもいるかのように表情を強張らせ。
空に向けて拳を突き出した。

 

すると。空に流星が一条。
ケンタウリ流星群の時間だ。

「そぉら、落ちてきた!! お前が怖くなくなるまで、俺が星を落としまくってやる!!」

空に向かって、拳を。蹴りを。突き上げ続けた。
泣きながら、ずっと。星を攻撃していた。

異界の少年 >  
星が……落ちてる。
永遠に不朽の存在である星が。
夜空に爛々と輝く憎たらしい星が。

あのお兄ちゃんの拳で、落とされてる。

くしゃくしゃに表情を歪めて。
僕はずっとその幻想的な光景を見ていた。

山本 英治 >  
息が切れても、まだ。まだ。
ずっと、ずっと。
空に向けて拳を突き上げていた。

天体ショーが終わる頃。

「悪い、星があんまりにも多すぎて、手が足りねぇや」
「兄ちゃんが弱いからだな……」

そう言って涙を拭うと、安心させるように笑って。

「強くならなきゃな!! お前もだ……強く、強くなろうぜ…なぁ」

胸元に手を当てて、必死に次の涙を堪えた。

「俺たちは生きてるんだから」

異界の少年 >  
お兄ちゃんは泣いてた。
泣きながら笑ってた。
それが、きっと大人の姿なんだ。

僕は力強く頷いた。

今は何もこの手にないけど。
いつかモジャモジャのお兄ちゃんみたいに。強く。

山本 英治 >  
笑顔で彼の頭を撫でて。

「ああ、約束だ!」

そう言って少年に背中を見せた。
見守っていてくれた生活委員会の、翻訳機を貸してくれた男の元に。

「落ちてた」

と言って翻訳機を手渡した。
これは、問題になるかも知れない。
それでも、彼の……いや、俺の自己満足のために。
やっておかなければならなかった。

空を見上げた。
そこには、希望の余地を許さないどこまでも冷徹な星空が広がっていた。

ご案内:「転移荒野」から山本 英治さんが去りました。<補足:風紀委員の腕章/防塵防砂対怪異戦装備>