2020/07/05 のログ
ご案内:「異邦人街」に山本 英治さんが現れました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス(待ち合わせ済)>
ご案内:「異邦人街」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
山本 英治 >  
警邏中である。
大したことはしていない。
家の近所だけど、結構離れているので知り合いはいない。

………なにか恨みでもあるのか、太陽よう。

ギラギラと照りつける直射日光にアフロが焼かれていた。
いかん、ミネラル取らなきゃ。
近場に何か水分と一緒に摂取できそうなお店ないかねぇ。

犯罪が頻発するような街でもなし。警邏は平和でいいけど。
今の時期に歩きはキツい。

ヨキ > 休日の買い物中である。
それはそれは楽しんでいる。
パナマハットを被ったひときわ背の高い男が、貴重な日陰を辿るように歩いていく。

「おや」

正面からやって来る、ひときわ頭の大きな男に気付いて。

「こんにちは山本君、お疲れ様。今日も暑いな」

片手を軽く挙げて挨拶する。
帽子のおかげで、こちらは涼やかな顔をしている。
今日も暑いな、という言葉が、何だか軽い。

「…………。今にも死にそうな顔をしておるが、平気か?
少しどこかで休んだ方がよいのではないか」

アフロの下の顔を覗き込むように。
真面目に職務に打ち込むこの山本英治という青年を、ヨキはいたく気に入っていた。

山本 英治 >  
汗を魚へんの漢字が書かれまくってるハンカチで拭っていると。
声をかけられた。
癖の強い黒髪、見ているだけで不思議な心持ちになれる深い色の瞳。
ヨキ先生だ。

「お疲れ様です、ヨキ先生。いやぁ、暑いですねぇ…」
「太陽に怨恨を向けられる覚えはないのですが」

こちらも片手をあげようとして、持っていたハンカチを落としそうになり慌ててお手玉。
ふぅ、落とさずに済んだ。

「そうですね……そろそろ休憩しないと体がもたないす…」

ふと、見ると。
双葉コーヒーというコーヒー店があった。
冷たいコーヒー。というか甘いフニャペチーノ。
良いかも知れない。

「どうです先生、ちょっと涼んでいきませんか」
「昨日は夜ふかししてしまったので、カフェイン摂取がてら」

と、誘ってみる。
ヨキ先生の言葉に耳を傾ける絶好のチャンスでもあるがぁぁぁ。

ヨキ > 「それは大変だ。
風紀委員が警邏中に倒れたとあっては、示しが付かんからのう。
コンディションは万全に保たなくては」

英治に釣られて、コーヒー店の方を見る。
再び相手へと向き直り、快諾した。

「構わんよ。休憩には良かろう」

言って、二人連れ立ってコーヒー店へ足を向ける。
彼からの誘いの言葉に、軽い調子で笑って。

「まさか夜更かしとはな。
それはそれは、この炎天下は余計につらかろう。

眠れないほど忙しかったのか?」

山本 英治 >  
「そうですね、確かに……」
「清く、正しく、高潔に。あとついでに健康でなくては」
「ありがてぇや、それじゃ早速」

コーヒー店に入ると、冷たい空気が体に染み込んでくる。
生き返る、と呟いてメニューを手に取る。

「トールバニラノンファットアドリストレットショット…」
「チョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフニャペチーノで」

甘いのは盛るけど。飲むのは無脂肪ミルクがいい。
そんなこだわりを見せて。

「そうなんですよ、しんどくてしんどくて」
「いえね……227って番号で管理されてた子が友達にいまして」
「その子が大時計塔に登って降りられなくなっていたので、助けました」

次の注文どうぞ、とヨキ先生に振る。

「その後、家に送り届けたんですが結構、夜更けになっちゃって…」

ヨキ > 「反対だよ。
清らかも正しさも高潔も、まずは健康から来るものさ。
健康でないと、己の矜持まで気が回らなくなるからな」

英治の隣で、店内の空調に息を吐く。
帽子を脱いで、額の汗をひと拭き。

「ほう。フニャペチーノ。それならヨキも彼と同じものを」

あ。注文を省略したぞ。

それから、英治が語る昨晩の顛末には途端に目を丸くして。

「227? あの、白髪に青い目をした少女のことか?
彼女が学園に、時計塔にやって来ていたと?」

大変な吉報を耳にしたかのように、一気に顔じゅうが明るんだ。

「そうか……。彼女は表通りへ出て来られるようになったのか。

いやはや、偶然だ。一夜限りだが、ヨキも彼女に会ったことがあってね。
それはそれは疲れたろう、お疲れ様だったな」

すかさず、店員へ追加の注文を投げる。

「この焼き菓子を、自分と彼に」

バターたっぷりのマドレーヌを、ヨキと英治に一つずつ。

山本 英治 >  
「なるほど……健全な肉体に健全な意思が宿ると」

思えば、インフルエンザに罹患した際は厭世的な気分になった。
そういうものなのかも知れない。
そしてそれは、今も不善を成す全ての者に対する心構えを考える一助となる。

「あ、はい。ヨキ先生もニーナをご存知で?」

テーブルに着席。二人の身長から考えるとどんな椅子だってやや小さく感じる。

「みたいですね……いや、俺も一安心しましたよ」
「今はユーリさんとこに身を寄せてるみたいで…」
「落第街にいた頃に俺が押し付けた赤い靴も履いてて…俺ぁ泣きそうになりましたよ」

マドレーヌあざます、と笑顔で頷いて。
出てきたフニャペチーノを口にする。
冷たくて、甘くて。それだけで体の疲労が吹っ飛んでいく。

「助けられたはずの子猫を死なせるようなことはもうしないって…決めましたんで」

破顔してマドレーヌを口にする。

ヨキ > 「そう。だからヨキは、君ら委員には……ひいては生徒の皆には健康で居て欲しいと思っておる。
自分と、自分の身の回りについて考えられるようになるためにね」

向かい合って座る。

「ふふ、君は彼女をニーナと呼んでおるのか。可愛い名だな。
ヨキはついつい、226だとか、サンマルいくつだとか、彼女の他にもああした身の上の子が居るのではないかと、そればかり心配してしまってな。

そうかそうか、今は知り合いのところに……。それなら安心だ。
いつか、彼女と校内で出会うこともあろう。おかげで楽しみが増えたよ」

たっぷりと甘いドリンクを、まるでとっておきのおやつみたいに味わう。
添えられたマドレーヌは、上品ながらもコーヒーの味わいに調和して、いかにも染み入るようだった。

「――子猫を? それは比喩ではなく、実体験か。
何があったか、聞かせてもらっても?」

“死”という語にも関わらず尋ねることが出来たのは、彼が笑っていたから。
片眉を上げて、フニャペチーノを口にする。

山本 英治 >  
「うす……自分も健康には気をつけます」

今のところ、健康なのも。きっと若いからで。
自分の体の維持に気をつけなければ、三十四十でボロボロになるかも知れない。

「はい、ニィニィナナだから、ニーナ」
「た、確かに……! ニーナって兄弟姉妹いるのかなぁ…」

ぼんやりと考える。たくさんいるニーナを。

「そうすね、友達としてできることがあるって信じます」

フニャペチーノ。マドレーヌ。
なんともいえない、バターの香り。

「あ、はい……子猫が………助けようとしたんですが」
「子供のイタズラで車道に飛び出して、轢かれて……」
「ペット霊園に“連れていった”んですよ」

寂しそうに。それでも。

「遠山未来も、あの子猫も。いつか会える日が、楽しみですよ」

遠山未来。犯罪者に殺された山本の親友。
俺は今も信じている。いつか人と人が手を取り合えたら、いなくなった人とまた会えると。

大切な人を失った世界で。塀の中で朝を迎え続けるうちに。
いつか、そんなことを信じるようになった。

ヨキ > 「かく言うヨキも、何かと夜更かしをしがちでな。
人のことを言ってばかりも居られんのだ」

自戒する英治に、悪戯の種明かしのように笑って。

「彼女自身はわからない様子だったがね。
それも含めて、この表通りで何か掴めることがあればいい」

表通りという呼称。表があれば裏もある。
ヨキはそうして落第街の存在を許容する。

喉と腹に冷たさや甘味が染み渡ったところで、テーブルに軽く肘を突く。

「なるほど……そのようなことがあったのか。
君はいつでも懸命だな。だからヨキは、君を高く買っておるんだ」

楽しみだ、と語る英治に微笑み掛ける。
親友が殺されたことを、そのために服役したことも、ヨキは話に聞いていた。

「そのためには、やはり君も健康で居なくては。

健康というのは、己の矜持を保つことの他に、長生きするためでもある。
先立った者たちへ向けて、土産話をうんとたくさん持っていくためにな。

健やかに楽しみ、悪しきを挫くからこそ、友の前でも誇り高く笑えるというものだ」

山本 英治 >  
「えー、本当すか?」
「俄然、親しみが湧いちゃうなぁー」

フフフと笑って背もたれに体を預ける。
こうして笑っていられることが、今は幸せでならない。

「そっすね……彼女、羞恥心とかも全然で…」
「そういうのも、追々学んでくれれば安心なんですが」

落第街を見て見ぬ振りをするのは簡単。
それをしない、この先生を。
俺は尊敬している。

「……ありがとうございます、先生」
「世の中、マドレーヌみたいに甘くはないけど…」
「でも、笑顔のためにまだやれることはあるって…思うんで」

そして、彼は健康でいることの大切さを語った。
そうか、そうだよな。
俺が不健康に、不幸に生きて。未来が喜ぶはずがないのだから。
なんだか嬉しくなって、アフロをつい指先でいじってしまう。

「はい。長生きします……百までとは言いませんが、目標80で」
「帰ったら早めに眠るようにしないとなぁ……朝は太極拳だこれは」

甘露を嚥下して。

「それで、ヨキ先生は長生きのために何を?」

と、口の端を歪めて少しわざとらしく聞いた。

ヨキ > 「学校の仕事は、日中に済ませるだろう。
夕方になると……」

少しだけ声を落とす。

「『裏通り』へ足を運んでな。
“健康で居たくとも居られない”ような教え子たちを、訪ねて回る。
ついつい話し込んでしまうとな、いつの間にか朝になってそのまま出勤……ということもある。
体質柄、仕事柄、種族柄、夜しか会えない、という者も少なくなくてな」

眉を下げて苦笑する。
227番の姿を思い出すように、窓から外を一瞥した。

「あはは、慣れぬことをして生活のバランスを崩してしまうのも、それはそれで良くない。
自然体で良いのだよ。疲れは否応なしに溜まるものだから――その代わり、気分だけでも明るく居られるように、などとね」

長生きのために、と訊かれて、よくぞ訊いてくれました、と改めて身を乗り出す。
わざとらしい聞き方に対して、格好つけたインタビューみたいに。

「長生きの秘訣か。ン?
そうだな。好き嫌いなく、食べたいものを何でもよく食べることだ。
腹はいっぱいになるし、心も満たされる。財布の中身は短命だがのう。

ふふふ。人助けのための夜更かしは、ノーカンということで」

山本 英治 >  
「なんと………」

目の前の教師は。夜廻りをしているのだ。それも落第街で。
こんなの一銭の得にもならない。ただの人助けだ。
何故か泣きそうになる。
自分も信じている正しさに触れるというのは。感動すらする。

「自然体………師父にも同じことを言われましたね…」
「脱力、リラックス、自然体。まずはこれを目指し、最終的にこれにたどり着け、と」

そして長生きの秘訣を聞けば。
可笑しそうに笑って、周囲の客に申し訳無さそうに口を両手で閉じた。

「俺も自炊ばっかじゃアレですし、今夜は食べたいもの食べますかね」
「ナシゴレンが食べたいなぁ……マレーシア料理の店、近場にありまして」

そして時計を見る。
楽しい時間はあっという間だ。
空になった容器を手に立ち上がり。

「今日はありがとうございました。気分一新、警邏に取り組んで参ります」
「それではまた!」

と、トレーを所定の場所に置いてから。
店を出て。外からガラス越しに、左掌に右拳を合わせて一礼し。
去っていった。

ご案内:「異邦人街」から山本 英治さんが去りました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス(待ち合わせ済)>
ヨキ > さながら顔を洗うだとか、散歩をするだとか。
何でもない習慣のように、ウィンクを一つ。

「武術の心得を持つ君なら、リラックスの方法も数あることだろう。
君はもっと、身体も心も強くなれる。ヨキはそう信じているよ」

笑い声を上げる英治の様子に、こちらもくつくつと可笑しげに。

「いいな、ナシゴレン。
ヨキはカオマンガイが食べたいな……」

時計を見遣って、おや、と声を漏らす。

「よい休憩になっていたら良かった。
引き続き、仕事を頑張ってくれたまえよ」

快い挨拶に、ヨキもまた笑顔で応える。
ガラス越しの一礼に、手を振ってみせて。

しばらくしてから、ヨキもすっきりとした顔で店を後にした。

ご案内:「異邦人街」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>