2020/07/09 のログ
ご案内:「裏切りの黒 地下拠点」にエルヴェーラさんが現れました。<補足:制服を着たエルフの長耳少女。人形の如きその身と心に、果たして血は通っているのか。>
ご案内:「裏切りの黒 地下拠点」に吸血鬼《ヴラド》さんが現れました。<補足:欠けのある狐の面をした黒尽くめ/ヴィランコード:ヴラド>
エルヴェーラ >  
テーブルを覆う、青白い魔力光。
エルヴェーラが細く白い指を突き入れれば、
整理された情報が、文字通り根を張る。
植物が成長する様を早回しで見ているかのようだ。
根は葉を生み出し、描写を始める。

描かれるのは落第街の地図と、その情報だ。

突き入れた指を震わせたり、撫でるように動かすことで、
空中に淡い光の文字が刻まれていく。
数多の光が筆跡を描き、大量の文字《じょうほう》が空間に、
集約され、集結していく。

留まることなく流れていく文字は、ある一点でその動きを
ぴたりと止める。

『トゥルーバイツ』

その文字を見て、エルヴェーラ――拷悶の霧姫《ミストメイデン》は、
深い息を床に吐いた。

「やはり。今のままでは情報が足りませんね――さて、吸血鬼《ヴラド》?」

エルヴェーラ一人がソファに腰掛けるこの部屋で、
彼女は宙に言葉を放つ。

吸血鬼《ヴラド》 >  
彼女の声に応じるように、影から闇が歩み出る。
それは霧、黒い霧。
しかして、ヒトの形をして意識しなければ見逃してしまうような。
対話するのに丁度いい距離感。
テーブルを挟んで対面する。
一瞬では互いに手出しできないようだが―――話合いには程よい距離感で
霧はヒトの輪郭に変わる。

男は依然、黒い姿のままに見えるが先程とは違いその表情を――仮面に隠されていない口元は伺い知ることは出来るだろう。

「お待たせしたかな、拷悶の霧姫《ミストメイデン》。だとしたらすまないね、拠点《ここ》に来るのも久しぶりなんだ許してくれ」

その言い方は柔らかい―――しかし、冷たい声色。

「残念ながら欲しがりそうな個人情報《パーソナリティ》は手に入ってない」

二つのチップをテーブルの上に置いてそちらへと滑らせる。

                            ・・・・・・
「こちらで手入れたのは一つはいつもの。 もう一つが少しは足りない情報の足しにはなる」

エルヴェーラ > 影から歩み出た黒い霧――吸血鬼《ヴラド》。

魔術を用いた情報集約は勿論、自動で行われるものではない。
地道な調査、情報収集を行った上で、情報を積み上げているに過ぎない。
そして、そうした積み上げを得意とするのが、彼女の目の前に現れた男なのだ。

目星のついた重要な情報を、特定の人物からピンポイントで抜くのであれば、
それこそソレイユ――フェイスレスが適任だ。
対し、落第街の情報を広い範囲で集めてくることにおいて、組織で彼の右に出るものは居ない。
野菜売りの好青年は落第街に根を張り、着実に溶け込み――確かな情報を、拾い上げてくる。
互いに手法の異なる二人だが、そのどちらにもエルヴェーラは信用を置いていた。

「謝る必要などありません。私は憤りを覚えませんから、安心してください」

静かに、そのように口にする人形。その昏い紅に染められた硝子細工のような瞳。
無機質なその目は、霧の男を見上げれば、ぱちりと瞬きをする。

「ああ、そちらはダメ、でしたか。まぁ、そう簡単に掴めるものではないでしょう。
 引き続き、調査をお願いします」

突き入れた右手の人差し指を青白い光の中でぴん、と伸ばしながら、
少女は虚ろな色で語を継ぐ。


男から受け取ったチップ。それを、空いた左手で握りしめれば、
その拳から青白い光が放たれて、青白い芽を息吹かせる。


「なるほど……」

一言口にして、エルヴェーラは右手を素早く動かし始める。
『トゥルーバイツ』、そして『トゥルーサイト』。
そう書かれた項目に、光の羅列を刻んでいく。


「しかし、トゥルーバイツの拡大――凄まじい勢いで進んでいるようですね。
 まるで魔法のようです。それほど迄に彼女の言葉が落第街に住む湿った者達の
 胸を打ったか、或いは――」

――何かタネでもあるのでしょうかね、と。
そう口にしながら、エルヴェーラは情報を打ち込み続けていたが、
とある『言葉』を打ち込んだ瞬間、その手を止めた。


その『言葉』は。
彼らにとっての過去。
彼らにとっての災厄。

それは――

吸血鬼《ヴラド》 >  
こうして姿を見せ合うのは久方ぶりだ。
定期的に渡している情報も大体はこちら側で生活する仲間に彼女の下へ届けさせている。
情報の機密についてだけは、アナログであったほうが安全だというのはこうして簡単に手に入ってしまっているからだ。

この少女の表情(かお)は、出会った時から変わっていない―――ヒトのことを言える義理はないが。

「そうかい、なら良かったとしよう」

さて、と男は少しだけ立ち方を変えた。
それは少女が情報に目を通し始めたからだ。

サラッと流せるような最近の情報、我々にとってはあまり焦るべきでもないような。
だけれど、これから必要になるかも知れないそんな情報だ、と男は先に知っているから。

「個人情報に関してはあんまり期待しないでくれ……そういうのはアイツの方が得意だろ」

今回の場合は、今の対象の立ち位置が厄介というのもありそうだ。
一通り読み終えた彼女からの『トゥルーバイツ』の話題。
個人的な感想なら幾らでも言える。 余りにも破格な条件であったり、率いる者のカリスマ性……あれは魔性の類だと個人的には思うが、現状を変える革命者に彼女はなる手段を取り、変わりたいと願いなら変われない者たちの心を掴んだ。
そういう風に単純に考えるのは楽だ。

彼女いうタネとは、要は。

「イカサマじゃなければいいねってか……俺もそうは願いたいね」

個人の資質によるもの、大いにあるだろう。
だけど、すぐにそうだと断じるのが危険であると知っている。

警戒するに足る情報が彼女の手から打ち込まれていく―――


              ・         ・
             《門》  そして  《窓》 。



「トゥルーサイト、『対象』が所属していた組織もだいぶだね……
 情報の正誤なんていうのは、勝者が好きに書けるがその部分は―――見逃せないよね」

エルヴェーラ > 無言で彼が手に入れてきた情報を打ち終えた後、
エルヴェーラは目を細めて情報にもう一度目を流す。
そうして、目を閉じたかと思えば、顔の横で握っていた左手を伸ばす。

「いい仕事です、吸血鬼《ヴラド》」

下から上へ、優しくチップを投げて返す。
チップは正確に、吸血鬼《ヴラド》の胸の前、少し手を出せば
その掌の上へ収まる所まで、届くことだろう。


「本来であれば、その通りです。ピンポイントで情報を抜くのは、フェイスレスの
 得意とするところ。しかし、今回に限って言えば、フェイスレスに情報収集を
 任せるのは悪手だと私は考えています」

フェイスレスからの報告。そして、エルヴェーラ自身が出会った彼女のあの『問いかけ』。
地に根を張った自己《かこ》を持たぬフェイスレスにとって、あの少女は劇薬だ。
二度三度と、引き合わせるべきではないだろうと。エルヴェーラはそう考えていた。

エルヴェーラ自身も、揺さぶられたのだ。
彼女と出会ってから、あの日のことを、夢に見た。

幾度も胸の色を塗り潰す灰色。
それでも、決して忘れ去ることはできぬ、あの鮮やかな紅を。

「『口を開けて待っている』訳には、いかなくなりましたね、吸血鬼《ヴラド》」

彼女は立ち上がり、吸血鬼《ヴラド》へ向けて小さく首を傾げる。
その動作は、その姿は、まるで血の通っていない美術品《びひん》だ。


そして、美術品は唄う。

唄い、唄う。

その声は、暗闇に響く鈴の音。
その声は、降り積もる雪の音。
その声は、全てを包む闇の音。

どこまでも優しく、どこまでも懐かしく、そしてどこまでも冷たい。
深い悲しみを思い起こさせる、異邦の音を揺らす、異邦の調べ。

両腕を広げる。
同時に、青白く光が細かな粒となって、空中に霧散する。
霧散した後に残るのは、微かに青く照らし出される、深い闇。


「さあ、此処に――」




この都市で、裏切りの黒の、物語を。

「――始《はじ》めましょう」

この現在で、過去から未来への、物語を。

「――紡《はじ》めましょう」

この都市で、生きた幻想の、物語を。

「――創《はじ》めましょう」


漆黒の仮面は、彼女の顔を覆う。
血の通わぬ人形の顔を、覆って隠す。

そうして少女は口にする。
詠うように。奏でるように。





「――私たちの、裏切り《トラディメント》を」



少女たちは紡ぐ。

たとえそれが歪んだ物語で、幻想《おとぎばなし》だったとしても。

其処に矜持《のろい》が、在る限り。

其処に信念《のろい》が、在る限り。

何故なら。

裏切りの黒の矜持には、血が流れているのだから。

吸血鬼《ヴラド》 >  
投げ返されたチップの動きは欠けた面の隙間から見える赤い瞳が追いかけて落下位置は計算を終えている。
特に感慨はないが、褒められた仕事に対してというのもあり胸の前に手を出して軽くだけ会釈。
薄暗闇の中ではその一瞬で出された手の上にチップが乗ったと正確に把握するのは通常のヒトの目では困難だろう。
受け取ったチップを手を下げる所作と共に黒に覆われた何処かへ仕舞う。

ヴィランコード:無形の暴君《フェイスレスタイラント》。

数度、すれ違った程度会話もまともにしたことはない。
しかし、個人についての情報収集ならばフェイスレスがよいと聞いていた。実際これまでフェイスレスの入手する情報には驚くべき点が多かった―――まるで本人が直接情報提供してくれたかのようで。

恐らく今回に関して『対象』とは相性が悪いのか、はたまた……。

「そういう事なら、承知したよ―――拷悶の霧姫《ミストメイデン》の判断に従う」

どこまで調べられか、など分かったもんじゃない。
しかして、自身の性質上の限界もある。その事は彼女も承知しているだろう。




 ああ、はじめよう再び。




              ・・・
―――かつてこの手を濡らしたあの血が、ここに未だ流れているのだから。

ご案内:「裏切りの黒 地下拠点」から吸血鬼《ヴラド》さんが去りました。<補足:欠けのある狐の面をした黒尽くめ/ヴィランコード:ヴラド>
ご案内:「裏切りの黒 地下拠点」からエルヴェーラさんが去りました。<補足:制服を着たエルフの長耳少女。人形の如きその身と心に、果たして血は通っているのか。>