2020/06/27 のログ

ご案内:「『裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》』地下拠点」にエルヴェーラさんが現れました。<補足:【ソロール】重々しい漆黒のコートと仮面をつけたエルフの長耳少女。>
エルヴェーラ > 廃ビルの地下、青色の電子光によって描かれた
地図が展開されるテーブルの上を、白髪のエルフ――
エルヴェーラは見つめていた。

暗闇の中、無機質な光を放つそれは、立体的な落第街の地図である。
少女が細指を横へと動かす度に、小さな落第街はくるり、
くるりと回っている。
テーブルの上には所々に傷や破れの見られる色褪せた紙が
広げられているのみである。
これは機械装置を用いたものではない。魔術である。



エルヴェーラはその中のビルの一つに向けて手を突き入れると、
中指と人差し指で押し広げるかのような『操作』を行う。
一瞬にして拡大される立体地図。
エルヴェーラは人差し指を、そこへ突き入れる。

同時に青白い光で、ぎっしりと羅列された文字が
エルヴェーラの顔の前に生成されてゆく。
エルヴェーラは目を滑らせる。
文字を追うその無機質な昏い紅は、さながら整った顔立ちの人形
の眼孔にはめ込まれた二粒の宝石である。

彼女の瞳はどこまでも昏く、儚く。
目の前の青白く無機質な光を映し出していた。

エルヴェーラ > 「死体を操る異能者、白川 赤司、通称『セクト』。
落第街に住む二級学生を拉致、殺害後に異能で生ける屍と
変じさせ、手駒を作り出す計画――」

氷の如く無色透明で、冷たい声が地下に響き渡る。
青白い光の羅列を撫でるようにすすす、と掌を払う動作を
行えば文字が次々と上から下へ流れていく。
組織の一員……フェイスレスタイラントが調査した白川 赤司の
個人データである。
それから、アリソンの名。今回の計画で発生することが
予測された証拠を『消滅』させる為のキーとなる人物であった。
大量の死体を用いた戦術を展開することは
火を見るより明らかであった為、
それら全てを跡形もなく消滅させる力を持った者が必要だったのである。

高い能力を持つ彼女だが、制御し辛いのが玉に瑕だ。
作戦を変更せざるを得なくなってしまったのは事実だが、
それでも彼女の力に助けられた所は大きい。

「――無力化」

エルヴェーラがそう口にしながら、突き立てた指を
数度動かすと、羅列の最も下、何も無い空間に新たな文字が現れた。

同時に、文字の羅列の横に青白い線で描かれていた
『セクト』の顔の輝きが失われ、弱々しい光となる。

それを確認した後、エルヴェーラは立体地図へと
突き入れていた指を静かに引き抜く。

同時に、立体地図のあらゆる場所に
青白い光で描かれた顔と様々な文字が一斉に現れる。
それを見て、エルヴェーラは目を細める。

エルヴェーラ > 「いくら此処が淀んでいるからといって、
毒を投げ込めば川が腐るだけだというのに……」

エルヴェーラは思案する。
ここ、落第街にはあまりにも悪が多すぎる。
それは、良い。それは良いのだ。問題ではない。
殺しも、人身売買も、違法薬物の取引も、好きに行えばいい。
それが、落第街の日常だからだ。
その全てを救うことなど不可能であり、そもそも救う理由もない。
悪事によって救われている者も居るからだ。
ここで『そうすること』でしか居場所を確保できない者達が数多く
居るからだ。

しかし、時折『度を超えた者』が現れ、街の
システムごと破壊しようとする。これは、大きな問題である。
彼らの多くは、法で裁けぬ者達だ。
そういった者を断罪するのがエルヴェーラの所属する
『裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》』の行動原理である。

『法の外に在ってなお目に余る者』を刈り取る。
それが、彼女らの仕事だ。


何よりエルヴェーラには、彼らから力を奪い取る異能もある。
『私刑』の執行者にはうってつけだった。
『廃忘の霧《ホワイトアウト》。
『約束を違えた者の異能を消し去る異能』である。

無論、彼女らの行いは法に認められている訳でもなく、
誰に支持されるものでもない。
悪を裁く悪。法の外に在る『私刑』の執行者。
悪の矜持など、幻想に過ぎぬのかもしれない。


もし、そうだとしても。


我々は幻想と踊り続ける。
踊り、狂い続ける。
たとえ血を流しても、反吐を撒き散らしても。

狂ったように幻想と、踊り続けてみせよう。

それが、『悪の矜持』だ。

エルヴェーラ > 懐から出したメモ用紙を、左手の人差し指と中指で挟みながら、
視界の端に配置するエルヴェーラ。

それは、組織の一員であるヴラドの手によって収集された情報である。
ヴィランコード、ヴラド。
落第街で野菜を売る好青年、武楽夢 十架。
その裏の顔は、落第街の情報を組織へと流す優秀な情報屋である。

立体的な地図上に表示される情報に目を滑らせながら、
逐一指を尽き入れ、動かすことで追記してゆく。
追記し終われば、ふぅ、と一つ息を吐くエルヴェーラ。

その額には汗が滲んでいた。いつの間にか、肩も上下していた。
魔術に適性があるエルフとはいえ、
ここまでの数多な情報を術式で制御するのは、負荷が大きいのだ。

しかし機密性において、これより優れた手段を
エルヴェーラは知らない。あらゆるネットワーク上に存在せず、
エルヴェーラの指一つで保存している全ての情報を管理することが
できるのである。自らの命を削る行為と組織の情報を守る行為。
どちらを優先するか。それは彼女にとって愚問である。

そして、彼女は最後にメモ用紙の一番最後に書かれた情報に
目を細める。そうして、もう一度地図に指を突き入れると、
数多の重ねた情報を取り払い、その奥に在った情報を取り出す。


そこには、一人の首輪付きの少女の顔が映し出されていた。


『日ノ岡 あかね』の、その顔が。

エルヴェーラ > 「『日ノ岡 あかね』――トゥルーサイト最後の生き残り
……ぜひ、お会いしたいものですが」

エルヴェーラは立ち上がる。
しかし、今夜は日が悪い。

噛み砕かれ、貫かれ、抉られ。
『セクト』戦で負った傷は未だ深く、彼女を蝕んでいる。
簡易的な治癒の魔術ならば使うことができる。
しかし、気休め程度だ。
少し治りが早くなる程度である。
少なくとも今夜は、安静にしなければならないだろう。

「またの機会に、とっておくとしましょう。
お互い、『また』があれば、ですけどね……」

青白く光る『日ノ岡 あかね』に目をやった後。
エルヴェーラは立ち上がり、部屋を出た。

ここは落第街。
混沌渦巻く街。自由が暴力を振るう街。
誰であれ人の命など、いつ失われてもおかしくないのだから。

靡く黒コートは、闇の中に紛れて消えていった。

ご案内:「『裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》』地下拠点」からエルヴェーラさんが去りました。<補足:【ソロール】重々しい漆黒のコートと仮面をつけたエルフの長耳少女。>
ご案内:「日ノ岡あかねのいる場所」に日ノ岡 あかねさんが現れました。<補足:常世学園制服。軽いウェーブのセミロング。首輪のようなチョーカーをつけている。左腕に風紀委員会の腕章。>
日ノ岡 あかね > どこか。
少なくともベンチがあって、自販機があって、屑籠があって、街灯があるどこか。
そんなどこかに……日ノ岡あかねはいた。
鼻歌を歌いながら、月を見上げながら。

日ノ岡あかねは、上機嫌に笑っていた。

日ノ岡 あかね >  
ホットの紅茶のペットボトルを片手に。
ただただ、月を見上げて笑う。
これで、賽は投げられた。

結果は――どう転んでもいい。

少なくとも、これで誰もが『自分自身の在り方』について考える。
『自分自身の今後』について考える。
目の見えない敵に吠える時間は終わった。
目に見えない誰かのせいにする時間は終わった。

『自分自身にとって何が良くて何が悪いのか』を考える必要が出た。

考えないなら……それはそれでいい。
その他大勢になる事を自分から選ぶことも賢い選択だ。
考えるなら……それはとてもいい。
自分がどういう物語を紡ぐか考えられる。
『悪』が『悪』だから『悪』を行う話をするように。
『日ノ岡あかね』が『日ノ岡あかね』だから『日ノ岡あかね』を行う話をするように。
誰もが『自分』が『自分』だから『自分』を行う話を考えるなら、それに越したことはない。

だって、それはきっと……『楽しい事』だから。

「みんな……どんな役割(ロール)を欲するのかしら、自分の役割(ロール)をどう定義し、どう展開してくれるのかしら……?」

クスクスと、笑う。

「『勿体ない』わ、折角役割(ロール)を与えられるのなら……自分の役割(ロール)が何なのかくらい、答えられるようにならなきゃ」

あかねは……笑う。

「それをするために……みんなこの島にいるんだから」

日ノ岡 あかね >  
「さぁ……『楽しみ』ましょう。自分一人で『楽しめる』なら、私は何もいわない……だけど、そうじゃないからきっとみんな……この島にいるんでしょう?」

あかねは笑う。
あかねは笑う。
日ノ岡あかねは――慈しむように笑う。

「アナタの物語に私が使えるのなら……遠慮なく使っていいのよ、タダで使われるつもりなんてないけれど、『面白い物語』なら……私はいつでも大歓迎」

遠くを『視る』ように。
静かに……笑う。

「切っ掛け(フック)があるんだから……あとは自分で何とかしなさいね? 誰にだって、そう誰にだって」

日ノ岡 あかね >  
 
「――運命を塗り替える権利があるわ」
 
 

ご案内:「日ノ岡あかねのいる場所」に武楽夢 十架さんが現れました。<補足:黒髪赤目、足元が土に汚れたツナギを来た細身の青年>
武楽夢 十架 > 先日出会った女の子が主催のイベントに行った帰りに
凄いことをしたなと思ったその子にまた会えるとは思いもしなかった。

だから、少し目を丸くしてから、親しい友人に声をかけるようにして口を開いた。

「やぁ、こんばんは」

日ノ岡 あかね > 声を掛けてきた少年……十架に緩やかな笑みを向けて、あかねは嬉しそうに片手を振った。
まるで、『待っていた』とでも言わんがばかりに。

「こんばんは、トカ君」

そういって、ベンチの隣を軽く叩いて勧める。
相変わらず、満面の笑みで。

「さっき、来てくれてたわよね? ありがと、御話聞きに来てくれて」

そう、何でもないように御礼を言った。
放課後、普通の男女がそうするように。

武楽夢 十架 > 手を振替しながら歩み寄って、返礼を受けると少女の隣に座る。
あの日は、彼女が隣に寄ってくる方だったか。

来ていたのが見られたかな、と思ったのは自意識過剰かと思ったが
そこまでではなかったようだ。

「名前を知った女の子がやる催しがあれば、ちょっと気になるからね」

少し照れつつそう返す。

「場の空気とか凄かったね……あかねさんには悪いけど俺には『関係がない』から、ちょっと舞台を見てる気分だったよ」

そう素直に称賛の意味で言葉を口にした。

日ノ岡 あかね > 「ふふ、そうなの? でもあれが『関係ない』って言えるって事は」

あかねは、嬉しそうに。
心底嬉しそうに。
心底好ましそうに。

「……トカ君にはもう、『自分が自分だから自分を行う話』があるのね」

そう……微笑んだ。
頬を微かに、紅潮させながら。

武楽夢 十架 > 街頭の明かりによってか、月の光か青年の赤い瞳は怪しく煌めいて。

「それはどうかな……」

期待を裏切るように、少し悩んで見せる。
しかして、その青年の顔に変化はない。

「俺は自分を測った事はないから『やりたいことをやってる』だけだよ」

そうだな、と呟くと畑で出会ったあの日のように笑って続ける。

「君の期待に添えてるかは知らないけどね」

日ノ岡 あかね > 「それでいいのよ」

あかねは、穏やかに微笑む。
赤い瞳に黒い瞳を合わせて、二人で月の光を浴びる。
夜風が、微かに吹いていた。

「自分の責任で『やりたいことをやっている』のなら、それでいいの。私のあれはね……それが出来ない人や、それが出来るのに忘れてる人に声を掛けただけだから」

じっと、十架の目を見る。顔を見る。
あかねの笑みもまた、いつも通りだった。

「みんながちゃんと『やりたいことをやって』……みんながその『やりたいこと』に『関わりたい』と思って……自分から関わる。手を伸ばされるのを待つんじゃなくて、自分の頭で考えて、自分の足で立ち上がって、自分の手で誰かの手を取る……そうなればいいなって、私は思っているだけ」

あかねは、十架の目を見る。
赤い瞳を。綺麗な瞳を。
黒い瞳で。宵闇の瞳で。

「切っ掛けになれたなら、それでいいの。さっきのは本当にそれだけ」

日ノ岡あかねは……静かに笑った。

「まぁ、やる以上は手は抜かないけどね」

武楽夢 十架 > 彼女の言葉を聞いて答え合わせを図らずともしたかと
一度瞼を閉じた。

「なんとなく、そんな気はしてた。
あの場に人が来て君が口を開いた時点で『話』は次へ向かってたんだ」

ちょっとゾッとしちゃうね、と笑った。
だから、もう一度目を開けて彼女の目をよく見よう。

「君には無理をしないようにとかもうそういう段階は過ぎてるんだろうけど、
『僕』はお人好しらしいから」

敢えて言葉にしてなげかけるとすれば―――。

「君の『やりたいこと』が『面白くなる』といいと願ってるよ」

そう言わずにはいられない。
その結果が、歴史上の革命家たちが歩んだ結末にならないように、とも。

日ノ岡 あかね > 「ふふ、ありがと、トカ君。でも大丈夫よ」

そういって、あかねは笑う。
満面の笑みで、楽しそうに。嬉しそうに。

「私はいつも、『楽しく』『面白く』『やりたいこと』をやっているわ」

何処にでもいる少女の顔で、そう笑った。
先程壇上で不敵に笑った顔とは違って。
ただただ、楽しそうに。嬉しそうに。

「だから、良かったら……手伝ってね? 本当に良かったらでいいから」

あかねは、笑った。

武楽夢 十架 > 「はは、女の子に手伝ってと言われると断りにくいね」

そう言いつつ、視線を外してベンチから腰を上げた。
そうして、立ってから改めるように少女の顔をみる。

「きっと手伝う時は君の『期待』に応えられると思うよ」

笑顔に応えるように優しく微笑んで。

「さて、そろそろ俺は明日も畑の世話があるから失礼するよ」

明日も朝が早いんだよ、とぼやいて。

「ここで逢えてよかったよ、また同じように話をしよう」

そう言って、握手を求めて右手を少女―――あかねの方へ向けた。

日ノ岡 あかね >  
「ええ、そうできると……嬉しいわね」

握手に応えて、あかねは立ち上がる。
時刻は深夜。男女がずっといるのは健全で不健全な時間。
一度だけ、しっかりと……十架の手を握って。
日ノ岡あかねは、身を翻して。

「畑仕事、頑張ってね。またね、トカ君」

にっこりと笑って、そのまま駆けて行く。
野良猫のように、足音もさせず。
尻尾のようにセミロングのウェーブを揺らして……日ノ岡あかねは、夜の闇へと消えていった。

ご案内:「日ノ岡あかねのいる場所」から日ノ岡 あかねさんが去りました。<補足:常世学園制服。軽いウェーブのセミロング。首輪のようなチョーカーをつけている。左腕に風紀委員会の腕章。>
ご案内:「日ノ岡あかねのいる場所」から武楽夢 十架さんが去りました。<補足:黒髪赤目、足元が土に汚れたツナギを来た細身の青年>