2020/07/18 のログ
ご案内:「常世公園」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。青いシャツに黒ズボン。>
羽月 柊 >  
――深夜。

昼頃に襲ったスコールが地面に水たまりを作り、
それも徐々に乾き始めている。
暗がりに同化した水は、歩けばぴしゃりと水を跳ねさせた。

「……、…。」

黒ズボンに跳ねた水に男は息を吐き出す。

遠くで早起きすぎるセミの鳴き声がした。


夜空は薄い三日月が昇り、もう数日後には姿を隠す。
星は眠らない街の灯が大半を隠し、数少ない眩いモノだけが目立つ。

この男、柊も、そんな街の灯と同じく眠ることが出来ず、
夜の散歩に出て来ていた。

羽月 柊 >  
傍らにいつもの小竜はいなかった。
ただの散歩だ。そう護衛をつける必要も無い、ましてや寝ているのを起こすこともない。

研究所内の夜行性の子たちに声をかけて、
白衣も羽織らず、夏の蒸し暑い夜風に吹かれ、ここまで来た。

少し動けば眠くもなるだろう。

そんな期待を込めて。


そうして男は空を見上げてぼんやりと思考にふける。

羽月 柊 >  
――今までは、ヒトを避けて暮らしてきた。

最低限、仕事と息子の周りの関係だけ。
自分が表にしゃしゃり出ることもそう無いだろうと考えていた。
普段と変わらない生活、変わらない仕事、そうであるはずだった。

だがやはりここ最近の身の回りの出来事を考えると、
やはりヒトはそういった殻の中にずっと籠ってはいられないのだと、まざまざと知ることになる。

研究者としての表の顔は元より、
裏の顔であった落第街周りでの取引関係や姿を見られている。

…この歳になって、気付かぬうちにガタが隙として出て来たのか?

そんな思考が脳裏を過る。

幸い、名前を知られていない幌川 最中相手や、落第街を歩くことを許容したヨキ。
己の専門に関係のある黒龍。そういった形で対立しない状態では、あるが。

羽月 柊 >  
懸念事項が多くなると、自然と腕組をして考え事をしてしまい、
公園のベンチに腰掛けた。

目線は夜景に向いてはいるが、その桃眼は何も見ていない。
ただ無表情に、夜灯を反射しているだけの瞳。


無為な対立は避けたい。

自分の戦闘能力を過信してもいないし、
無力な息子を抱えている。弱い小竜たちを保護している。
家に防護の魔法をかけていない訳じゃあないが、世間的に自分の弱点は丸出しも同然だ。

こういう時、護衛がいるとはいえ、1人で動いていることが辛くなる。


「………独り、か。」

そう呟いて風に流れる己の髪のうっとおしさに頭を振れば、
右耳のピアスが街灯に反射して煌めいた。

ご案内:「常世公園」に焔誼迦具楽さんが現れました。<補足:白地に大きく『前途多難』と書かれたダサTとショートパンツ。長い黒髪を後頭部で結った少女>
羽月 柊 >  
人間の悪い癖だ。
1人ではないのに、独りであると考えてしまう。
自分が今まで…独りでやらざるを得なかったからだ。

――黒髪の女性が頭にちらつく。

隣に立つ人が居たことはあった。
だがそれは、今の柊の隣にはいない。

それは泡沫の夢。いつかの過ぎた消せない痕。


 『でも……羽月さんだって
  ……取りこぼしたくなんか、ないんじゃないですか…?』

山本 英治の言葉が頭を掠め、思わず歯噛みする。

(そんなこと、『当たり前』だろう。)

あの時セミの演奏に掻き消された言葉が蘇った。



そんな、独りの夜のはずだった。

焔誼迦具楽 >  
 夜の公園に、軽い足音が響く。
 その足音は、ベンチに座った男性の前で止まった。

「おにーいさん。
 こんな時間に一人でいると、怖い怪物に食べられちゃうわよ」

 おどけた調子で声を掛けるのは、十代半ばから前半に見える小柄な少女。
 長い黒髪を夜露に濡らし、特徴的なTシャツには『前途多難』と書かれている。

「――こんばんは。
 静かな夜だけど、眠れないのかしら?」

 明るい調子で、ほんの少し気遣う様子を見せながら問いかけた。

羽月 柊 >  
思考の海に沈み込んでいた。

どこも見ていない伏せがち桃眼が、
聞こえた"音"に、漸くその目線を上げ、正体を捉えた。

「……君こそ、女の子がこんな夜におじさんに声をかけて大丈夫なのか。」

腕組をしていた力が抜け、膝上で改めて手を組む。

……先ほど思いだしたばかりだからか、
相手の黒髪と赤眼に、思わず桃眼を細めた。

――偶然とは、時に残酷だと…思わざるを得なかった。

焔誼迦具楽 >  
「ふふ、普通の女の子なら、大丈夫じゃないのかもしれないわね」

 視線が合うと、赤い瞳でのぞき込むようにしながら、無邪気そうな笑みを浮かべる。
 けれど、その目が意味ありげに細まると、迦具楽は不思議そうに首を傾げた。

「あれ、私の顔、何かついてる?」

 「焼きそばの青のりかな?」とか言いながら、口の周りを手の甲で拭った。

羽月 柊 >  
「自分が普通の女の子ではないと言っているも同然だな…。
 まぁ、確かにそのシャツは普通から少しばかりズレているが。」

まぁこの島では、夜に女の子が出歩いていたって安易に襲われるとは限らない。
異能、魔法、不思議な力…そういうモノが当たり前の世界。
返り討ちにあって死んだってなんらおかしくはない。

「…よくよくヒトの表情が読めるんだな。

 君と似ているという訳じゃあないんだが、
 ちょうど君のような髪と眼の人物を思い出していた所でね。」

無邪気な様子に、自分から溢れて止まなかった文字の山を一旦隅へと押し込める。
解決したということはない。

最近の出来事も、思いださざるを得なかった言葉も、
ただ無理矢理蓋をしただけだ。

焔誼迦具楽 >  
「えっ、そんなに変?
 これ結構気に入ってるんだけど」

 シャツの裾を引っ張って、文字を強調する。

「表情を読むなんて、そんな難しい事できないわよ。
 でもほら、なんとなく、楽しそうとか悲しそうとか、怒ってるとか――そういうのはわかるものでしょ?
 アナタはそう、なんというか――寂しそう、かな?」

 そう言いながら、自分の髪を指先で弄り。

「黒い髪と、赤い瞳?
 黒髪は珍しくもないだろうけど、赤目はたしかにちょっと珍しいかもしれないわね」

 話しながら、迦具楽は遠慮もなく、隣に腰を下ろした。

「ねえその人って、あなたの大事な人?」

 興味津々、と言った様子で、隣から顔をのぞき込むように訊ねた。

羽月 柊 >  
「そうだな、少なくともどこにそんな服売ってるのかと思う程度にはな。」

このご時世だ。自分でプリントも出来るし、
そういう風に注文すれば作ることも割と安価にできる。

他愛ない言葉は気を紛らわせるのに効果的だ。
少なくとも、自分を脅迫するかのように考え込んでいた状態からは抜け出せる。


「…俺はなるべく表情を面に出さないようにしているからそう思った…。
 とはいえ、自分なりにじゃあ、君から見たらそうじゃなかったんだろうな。」

そう言いながら少女が隣に座り込むと、
ベンチの幅を取る面積を減らすかのように男は足を組んだ。


「……遠い昔の、"そうだった"ヒトだ。
 黒い髪に赤い瞳の……それこそ、普通の女の子だ。」

それは過去にした言葉。

それは現在ではない言葉。

それは、それがなければ今の彼がいない言葉。

焔誼迦具楽 >  
「うーん、表情と言うよりは、雰囲気かしら。
 勘みたいなものだから、気にしないで?」

 なんてことなさそうに言うが、本当に迦具楽にとってはなんてことはない事なのだ。
 なにせ、普通の人間とは見えているものが違う。
 ここに来たのだって、なんとなく『美味しそうな匂い』がしたからというだけの理由だ。

「ふうん?
 もしかして、あなたの恋人だったのかしら。
 ねえ、そのヒトはどんな人だったの?」

 隣で足を揺らしながら、迦具楽は好奇心のままに問いかける。
 

羽月 柊 >  
『美味しそうな匂い』とはどういうモノだろう。

迦具楽が男の魂の色を見ているならば、少々違和感を感じるだろう。
その色は、まるでペンキを塗りつけたように元の色から違って見えるかもしれない。

一台の車が、公園の外を照らして通り過ぎて行った。


「分からないな……そうだったら、良かったな。
 彼女にとってはそうじゃなかったのかもしれない。
 ……今の俺には、分からないことだ。」

答えはひどく曖昧だった。
普段の男を知るモノならば、ここまで彼がぼかした言い方をするのも珍しい。
男の奥底に眠る、こんな夜でなければ出てこないであろう言葉の羅列。

もし迦具楽がこの男を喰らおうと考えているならば、
割と今は男に隙はある。

だが、男の手には魔力を湛えた魔具の数々がつけられていた。
普段連れている護衛はいないものの、最低限の自衛能力は持っていた。

焔誼迦具楽 >  
 迦具楽にとっての『美味しそうな匂い』とは、言うなれば感情の濃さ、思いの強さ、そう言ったもの。
 その方向性に正も負もなく、強い思いがあればあるほど、引き付けられるものを感じるのだ。
 そう、本来の色を塗りつぶしてしまいそうなほど強い『ナニカ』があれば、興味をそそられるのも当然だった。

「なんだか、はっきりしない答えね。
 そうだったら良かったって思うのなら、そうだったって事にしちゃえばいいじゃない。
 だって、過去の事なんでしょう?」

 不思議そうに、迦具楽は悪気なく言葉にする。

「私には、好きな人がいるわ。
 あ、うーん、私も『いた』かしら。
 もう卒業しちゃったかもしれないし」

 自分にとって、かけがえのない存在だった少年。
 甘えさせてくれて、優しくしてくれた、父親のような存在。

「恋人になろうとは思わなかったけれど、それでも大切な人だったわ。
 あなたにとって、そのヒトはそういうヒトではなかったの?」

 純粋な疑問。
 自分が誰かを想う気持ちと、どう違うのか。
 何が違うとこのように曖昧な言葉になってしまうのか。

 それは食欲よりもずっと気になるもので。
 ほんの少しつまみ食いでもしようかと思っていた気持ちも、すっかり好奇心の中に消えていた。

羽月 柊 >  
男の答えは酷く曖昧ではあったが、『美味しそうな匂い』は強かっただろう。
忘れたくても忘れられぬ想い。
簡単な単語には表せぬ、それはこの男が研究者という多くの言葉を知るとしても。

「…そうだな、君のように思えたら、
 俺は随分と気が楽になるのかもしれない…。」

一度目を閉じ、だが、と首を横に振り。
開かれた桃眼は遠く壊れた夢を想う。

「隣にいることが当たり前で、
 向いている方向は同じだと思っていた。

 ……通じていたはずの心が全く別だと目の前に突き付けられた。
 俺は何を取り零したのか、取り返しのつかない程に。」

男は"何があったか"を明確にはしなかった。

裏切られたのか、はたまた。
だがそこには、過去にしきれぬ後悔が詰まっていた。

口調は酷く淡々としているというのに。

まるで、沸騰する水の表面だけを凍らせたかのように。

焔誼迦具楽 >  
「なんだか、単純って言われたような気がする」

 言い方にムッと唇を尖らせてみるも、続く言葉には好奇心だけでなく真剣な様子で聞く。

「――そっか、あなたにとっては、過去であっても、まだ『終わっていない』のね。
 だからそんなに苦しそうなんだわ」

 溢れ出しそうな思いを、表面だけ塗り固めて覆い隠して。
 それでも隠し切れない、大きな苦悩。
 それは、ただ過去を想う人間のものではなく。

 過去を思い出にできずにいる、今まさに苦悩している人間の心。
 淡々とした言葉に押し込められた、激しい想いがにじみ出てくるかのように。
 迦具楽の感覚は、確かにその心の熱量を感じ取っていた。

羽月 柊 >  
「いや、俺には君が羨ましかっただけだ。」

かつて他人に、"考えすぎる"と言ったことがある。
だが結局、それは自分にこそ当てはまる。
内心自嘲して止まないのだ。


  自分は大人だ。


泣き叫ぶ歳は過ぎた。

何故と問う言葉は尽きた。

何もかもを飲み込んで明日の為に今を生きるしかない。

夢を見て現実から目を逸らす訳にはいかない。



「…いいや、終わったことだとも。
 ………君を見て思い出したとはいえ、初対面の君に何を言っているんだろうな俺は…。」

表面だけまたそうやって取り繕う。
ふー…と長い息を吐き出し、眼を閉じる。

焔誼迦具楽 >  
「終わったことだったら、そんなに苦しまないわ、きっと。
 だって、終わっていれば、自分の思いに決着がついているはずだもの」

 そうなれば、思い返して悩む事などないはずだ。
 今でも思い悩み、思い返すのならば、それはまだ『続いている』に違いない。
 それが、迦具楽から見た男への率直な感想だった。

「あら、初対面の他人だから言える事だってあるんじゃない?
 だって、こんなに静かで、穏やかな夜なんだもの」

 そう、隣で微笑みを向ける。

「もし、あなたにとってその過去が、今を生きる重荷なんだったら。
 ――私が食べてあげよっか?」

 その魂ごと。
 その苦悩する思いごと。
 何も感じずに済むように。

羽月 柊 >  
「…だからと言って、子供のように立ち止まって嘆く時間は無い。
 それに……生憎とこれがあるから今の俺がある。」

解消の仕方は分からない。
だが、そうやって『続いている』からこそ、男は今ここにいる。
それ自体は間違いないのだ。


ベンチから男だけ立ち上がる。
月夜と該当に紫髪が照らされる。

振り返って少女を見下ろす。

「……聞いてくれたことには感謝しよう。
 ただ、これは捨てられない。」

そう告げる男の意志は硬固だった。
自分の過去を否定したくは無い、と。

焔誼迦具楽 >  
「――そう、残念」

 男を見上げながら、少しも残念でなさそうに笑った。

「あなたは強い人だわ。
 けど、同時に脆くもある。
 きっと、いつまでもそのままでは居られないわよ」

 そう、男の意志を尊重するように。
 けれど、その危うさも指摘して。
 迦具楽も同じように立ち上がる。

「お話できてよかった。
 とても楽しい時間だったわ」

 そう言ってくるりと、背を向ける。

「あなたの先行きに、幸があることを願っているわ。
 またいつか会いましょう。
 ――アナタが、壊れてしまう前に」

 そうして、迦具楽は足音を鳴らしながら、楽し気に、夜の闇へと溶け込んでいくだろう。

羽月 柊 >  
「――、………。」

去っていく少女の背を見送る。
名も知らぬ彼女に、どこか得体の知れなさを感じながら。
その姿が見えなくなると、吐息が夏の湿った空気に混ざった。

「……らしくない。
 いっそ幻覚や幻聴とでも言いきってしまえばいいものの。」

神様か何かにでも逢ったのか。
いいやそれだけで片づけられはしない。

最後に突き付けられた言葉が、頭の中で反響する。

「口に出したのは何年振りだ…?」


――それは小さな綻びなのかもしれない。

やがて徐々に、夏の空が白んでくる。
遠くに聞こえていたセミが、合唱を始める。

そうしてまた男の日常は始まるのだ。

ご案内:「常世公園」から焔誼迦具楽さんが去りました。<補足:白地に大きく『前途多難』と書かれたダサTとショートパンツ。長い黒髪を後頭部で結った少女>
ご案内:「常世公園」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。青いシャツに黒ズボン。>