2016/11/09 - 20:03~00:57 のログ
ご案内:「教室」にルチアさんが現れました。<補足:Vネックセーター(白)、ジーンズ(インディコ)、ダッフルコート、ミドルブーツ>
ご案内:「教室」にシング・ダングルベールさんが現れました。<補足:紋様入り混じった紺のローブ。>
ルチア > いつもの通りにバイトをしながらの、雑談に上がった常世祭の話題。
お互いこちらの世界に来てから日が浅く、当然ながら今回が初のことであり。
ならば一緒に見て回ろうとなったのが1時間ほど前。
おやっさんからは「どうせ祭りが始まったばかりで客は少ねぇから行って来いよ」と有り難いお言葉の頂戴して、
早めにバイトを切り上げて祭りの方へとやって来た。
適当に店を冷やかして、(少なくとも自身にとっては)馴染みのない食べ物を食べたり飲んだりしながら、
何の気なしに足を向けたのは教室棟。
何時も通っている学び舎は、飾り付けられ人々で賑わっている。
ここらは店よりも展示物が多い区画になっており、
部活動であったり個人であったりの発表の場になっていた
「考えてみれば、島挙げての一ヶ月近くのお祭り、と言うのは凄いことだね。
この賑わいが暫く続くと思うと、中々に楽しい気分になるよ」
適当に目の付いた教室へと足を踏み入れながら。
中は油絵の古典のようで、風景画が多い。
想像して描いたものなのか、生徒の出身の世界なのか、この世界ではないような風景も含まれていた。
シング・ダングルベール > 「いやあ、買ったなあ。この島に伝説を刻んだなんたらっていう車の。
悪魔のL……だっけ? よくわからないけど、格好良い模型が売っていた!
この流線型のフォルム。一瞬で音速まで到達しそうな。車ってすごいなあ!」
きゃっきゃきゃっきゃと、自動車部で買い込んだ模型を袋に下げて、入った部屋はまた別世界。
「はー。こっちも色々とあるもんだ。風景画ってみんな自然を描きたがるから不思議だよな。
……あ、人物画もある。これモデルはヨキ先生か? うわあ、結構似てるなあ。」
ルチア > 「男の子だなぁ。
そう思えば車の免許は取らないのかい?
色々便利だと思うけれど」
子供のようにはしゃぐシングに小さく笑いながら。
確かに自動車部に並んでいた彼の買った模型は、興味が薄い自分から見ても
格好いいと思えるものだった。
「ビルとかだとどうしても直線的になるからつまらないのかな。
――ヨキ先生って言ったら美術講師だったかな、綺麗な顔をしているな」
隣から覗き込んで描かれた麗人を見やる。
目元の紅が鮮やかな、男性だった。
「……こっちは。こう……。
形容し難いなぁ。色がこう、散り散りになっている。
抽象画……?」
正直を言えば美術には詳しくはない。
へぇ、と感心してみるが。
隣に作者紹介が描いてあった。
「その人の生まれた世界を見る異能、かぁ。
だから風景画でも様々なのか」
要約すると、この生徒は他人の出身世界を“視ることが出来る”異能の持ち主で、
その異能を使って見た光景を絵にしたらしい。
勿論実在の人物やこの島の風景も描いてはいるが、展示されている風景の半分はそうであるらしい。
シング・ダングルベール > 「へえ、そりゃあ凄いな。写真いらず動画もいらずか。
でも相手によってはなかなか見たくない光景も見てしまいそうで、難儀な異能だ。
いや、異能自体が難儀なものか。こっちは暁の荒野で……こっちは、へえ。天空に浮かぶ島?
御伽の世界のようだけど、実際にそこにあった世界なんだなあ。
俺たちが他人事みたいに言うことじゃあないか。
例えば……そうだな。ルチア、君は『君がいた世界を描いてあげる』と言われたら、描いてもらう?」
ルチア > 「地獄から来た悪魔の世界なんて見てしまったら大変かもしれないね。
しかしどうなんだろう……常に発動しているような異能であったら辛いかもしれないな。
この島にいる人は様々だけど、来た世界も様々だと思い知らされるよ。
自分も含めてなんだろうけれど」
飛んできた質問に、少しばかり考えてから。
「どうだろうか。
私のいた世界はこの世界の並行世界みたいなところでね。
同じところも沢山有るんだ。文化とかはおおよそ同じだし、
常世島は無いけど、日本はある。
だから――然程面白い絵にはならないんじゃないかな」
少しばかり目を閉じて、長く過ごした街を思い浮かべて、
それを振り払うように首を振ってから。
「シングはどうだい?
“君の世界を絵で再現できたよ”って言われたら見せてもらうかい?」
シング・ダングルベール > 「そうだなあ。見てみたい気もするけれど、きっとやめておいた方がいいんだろうな。
仮にキャンパス上に再現されてたとして、所詮は塗料の層だ。
どれだけ見た目が再現されてたとしても、肺を満たすのも肌を撫でるのも、この世界の風だ。
これは違うんだなって、後悔ばかりが後からやってくる。
それは……俺は、嫌だな。」
ふう、とため息をひとつ。
「それより、そこで売ってたんだけどひとつどう? ラムネ。
時季外れらしいんだけど、なんか特別感あるよな。」
ルチア > 「……そう。
ここに描いてもらった人たちは、どんな思いでこの絵を見たんだろう。
君が言うように思ったのか……それとも、懐かしさで満たされたのだろうか。
――――――――、
や、何でもない」
ふと口をついて出そうになった言葉を飲み込んでから、やっぱり首を振って。
「ありがとう。
ラムネは日本の夏の風物詩、だったと思うよ。
実は一度も飲んだことはなくってね。
見れば見るほど変わった飲み物の瓶だとおもう」
ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。<補足:【24時で先にお暇いたします】27歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた白コート、細身の白ボトム、黒メンズヒールブーツ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
シング・ダングルベール > 「だってこれ、わざわざ中にガラス玉仕込んで蓋にするんだろ?
面倒というか、なんというか……いやでも、よくよく考えると技術力の塊だよな。
どうやって作ってるんだ、こんなの……。」
一口含んではからからと鳴らす。涼しげな音。
青みかがった瓶は電灯を透かして、それ単体で工芸品のような趣を生む。
人の流れに外れて壁沿い。もたれかかりながら、その流れを見やる。
「うち何人がこの島で生まれた、この世界の人間なんだろうなあ。」
ヨキ > 掲示板で告知されていた特別講義を終えて、その後。
いつもの奇矯なフォルムの白コート姿のヨキが、教室棟の展示を見て回っていた。
油彩画が展示された教室へ足を踏み入れると同時、知った顔に目を留める。
「――おや、君はどんぐり屋の。
もしかして、“お邪魔”をしてしまったろうか」
シングを見遣り、笑って挨拶。
隣のルチアへ、軽く会釈をする。
「やあ、学内で金工を教えているヨキと言うよ。
ダングルベール君が働いているお店で、食事を頂いたことがあってね」
自分がモデルを務めた生徒が絵を飾っていると聞いて、足を運んだらしい。
ルチア > 「これって舌でガラス玉を押し上げて飲めばいいののかな。
いや、確かに技術の塊なんだろうけれど、
こんなところに使わなくてもと言うか……。
こういうのが風流、と言う奴なのかな」
同じように壁側に移動しながら、ラムネを飲むのに苦心する。
上手く角度をつけるか、舌で器用に――これが中々難しい――ビー玉を押してやらないと上手く飲めない。
少しばかり眉を寄らせて。
「ここを故郷にしている人か……。
どうだろうか、見ただけではわからないな。
――ん?」
目立つ容姿の男性に――ああ、先程見た人物画の男性か――に目を留めて。
会釈と紹介を受ければ此方も笑みを浮かべて会釈を返した。
「いや、お邪魔なんてことはないですよ。
ルチアです。
シングとはバイト仲間の友人で。
……ああ、ヨキ先生はお客さんだったんですね」
ヨキと人物画を見比べる。
実際の人物の方が、やはり印象が強い。
シング・ダングルベール > 「今じゃうちの看板娘ですからね。彼女目当ての客もいるんですよ。これが。」
「ごきげんよう」と会釈をす。
シングらが働く喫茶店に、ヨキは過去足を運んだことがある。
ルチアが働き始める前の話だ。そのため、面識がないのだろう。
なるほど、と思った。
「そして今、『実物の方が色気があるな』って顔していましたね。
成程。君のタイプは先生のような繊細かつワイルド系?」
冗談めかした悪い笑み。
ヨキ > 「ルチア君。なるほど、バイト仲間か。
そうしたら、店で会うこともあるやも知れんな?あすこのメニューは、どれもこれも絶品だ。
どうぞよろしく」
ルチアからの挨拶に、笑って頷いた。
続くシングの軽口に、にやりと目を細める。
「確かに見事な看板娘だ。
どんぐり屋へ足を運ぶお目当てが、ひとつ増えたな。
……ほれ、若い娘を揶揄うでない。
ルチア君のような美人に、並の男が適うはずなかろう」
軽い調子で笑う。揶揄うなと言いつつ、ヨキもヨキで大概だ。
二人の隣で飾られた作品を見渡して、ほう、と感心の声を零した。
「しかし、こうして一ところに並ぶと、やはり見応えがあるな。
君らも楽しんでくれているかね?」
ルチア > 「そりゃあ色気のある男性は好きだけれどね?
そもそも綺麗な人を見て心が踊らない人間はいないだろうに。
私だって女性だから、素敵な男性を見れば心がときめくものなんだよ」
なんて、悪い笑みには大げさに頷いての肯定を見せる。
何処までが冗談か、それともどこまでも冗談か。
「お待ちしていますよ、ヨキ先生。
本当におやっさんの作る料理は美味しいですから。
そんな事言われたらサービスするしか無いですね。
――ふふ。
いやどうでしょうか。
先生みたいな綺麗な人に口説かれたら、
私みたいな小娘なんてひとたまりもないですよ?」
からかいの言葉にもしれっと笑みを浮かべて返す。
とは言え不愉快さはなく、そう揶揄するような言葉を楽しむようなそれ。
「はい。
私はこの島に来て日が浅いですが、こうも活気づくとやはり気分が上がりますね。
期間も長いですし、これからも楽しむつもりです」
シング・ダングルベール > 「俺はときめかれた覚えはないんだけどねえ……。
ああ。『素敵な男性』っていう前提条件を満たせていないのか?」
「まいったな……」とわざとらしく掌で顔を覆う。
「そういうヨキ先生は楽しんでます?
折角年イチの祭りなんだから、他のトコも行かないと。
例えば屋台とか……そういや、俺たちまだ飲食系のやつ寄ってないな?」
とルチアに目配せ。
「先生、なにかオススメあります?
よければご一緒でも。ちなみに俺、好き嫌いはありません!」
ヨキ > 物怖じしないルチアの言動に、愉快そうに笑った。
「はは、君は客引きの才があるな。
胃袋を掴まれた上に素敵な看板娘が居るとあってはね。
だがヨキだって、負けてはおらんとも。
可愛い生徒を口説くのは、無事に卒業した後と決めている。
そうやって奮った皆を巣立たせてゆくのが、ヨキの仕事」
いかにも冗談と知れる。尤もらしい口調を作ってみせた。
「よかった。常世島を訪れた者には、ぜひこの祭りを楽しんでほしいんだ。
出展者も、参加者も、また来年来たいと思ってもらえるくらいにな」
ほっと安堵し、シングの言葉に答える。
「ああ、無論楽しんでいるとも。
もう長いことこの祭りを見てきたが、一度も退屈したことがないくらい多彩でな。
ヨキは出展する側でもあるから、その『多彩さ』の一助となれるようにてんてこ舞いさ」
多忙とは言うが、その顔からして根っから楽しんでいることは明らかだ。
「飲食かね?オススメと言えば……そうだな。
ちょうどこの教室の並びに、生活委員会や、建築を専攻している者が手掛けた喫茶店がある。
“どんぐり屋”に負けず劣らず、毎年なかなかよい雰囲気だぞ」
ルチア > 「さぁ、どうだろうか。
君が知らないだけで私は君にときめきを覚えていて、
眠れない夜を過ごしているのかもしれないよ?
なぁに、君だって十分に魅力的な男性さ。
その気になれば彼女の一人や二人出来るだろうに」
顔を覆ったシングに小さく笑いながら。
口調はどこまでも軽い。
目配せには頷いて。
「それはヨキ先生に口説かれるのを楽しみに卒業するしかないですね。
では4年後是非お付き合いください。
それまでは“どんぐり屋”でお待ちしています、
どうぞご贔屓に」
此方も冗談と知れる口調。
軽く一礼を加えつつ。
「ここまで大掛かりな祭りは中々見れるものではないですし、
先生方も忙しそう……いえ、楽しそうですね。
ではそこに行きましょうか。
建築を専攻、と訊くと以外な感じもしますが。
ヨキ先生が勧めるのでしたら、はずれはないと確信していますよ」
シング・ダングルベール > ~というわけで喫茶店~
生徒二人に教師が一人。案内されるがままに席へ座する。
彼らの周囲を彩るのはゴシック建築めいた洋風の内装だ。
教室の日常感からすればまるで異世界。
三人とも、異世界からの来訪者ではあるが。
「はー、なるほど。確かにこりゃあすごいな……荘厳というか、なんというか。
これ、タキシードでも着てきた方がよかったのか? いやでも、向こうの席には陣羽織みたいなのいるしな……。」
流石文化の坩堝というべきか。亜人種なども入り乱れて、客層は幅広い。
「ルチア、何を頼む?」
す、とメニューを差し出しながら。
ヨキ > 「ありがとう。これで君も、ヨキの可愛い教え子の一人さ。
授業で直接の関わりがなくとも、師弟にはなれるからな」
ふふ、と穏やかに目を細める。
「島を上げての一大イベントだからな。
誰もが自分たちの活動を、そして常世学園のことを知ってもらおうと頑張っているよ」
二人を先導して歩き出す。
油彩画の展示が行われていた教室の、その並び。
現代的なビルの廊下が、少しずつ景色を変えてゆく。
辿り着いた喫茶店の、スタッフの生徒に挨拶をして、奥のテーブル席へ。
「――この喫茶店は、異邦出身の有志らが手掛けていてな。
異世界の優れた技術を、この地球上の建材や土地で換骨奪胎しようと苦心している者たちだ。
地球人にとっては、過去の様式に似ているように見えて、その実すごく手が込んでる。
見た目ばかりではないぞ。
コーヒーや紅茶にも、異邦風に香りのアレンジが利いていてな。
飲み食いするにも退屈しないんだ」
対面のルチアの手元のメニューを覗き込む。
それじゃあヨキは、と選んだのは、花で香り付けをした紅茶だった。
ルチア > 「こちらこそありがとうございます。
可愛い生徒のままでいられるように努力しなければ」
そうやって見られると、幼い子供になった気分になる。
ヨキに案内され、辿り着いた喫茶店で。
何時も座っている教室の椅子よりもずっと上等な気のする席に座り。
学園的でも日本的でもない、洋装の内装に少しばかり圧倒される。
これは元通りの教室に戻るのだろうかと、いらない心配までしてしまう。
「これなら建築専攻、と言うのも頷けるな。
確かに喫茶店というよりは貴族の夜会的な雰囲気だが……どうやって作ったんだろう、これ……」
やっぱりいらない疑問を口にしつつ、教師の説明に改めて店内の内装を見やる。
これらは地球の技術のように見えて、実際は異界の技術との融合したものなのだろう。
異世界から来ても、努力し自らの技術を磨くというのは、途轍もない前向きであるように思えた。
差し出されたメニューに目を通し、教師の説明を聞けば色々と試したくはなるが。
頼んだのスパイスの香り付けしたエスプレッソとチョコレートである。
シング・ダングルベール > 「これもある意味魔法だよねえ、夢があるっていうか。」
と、彼が頼んだのはスパイス入りのココア。そしてフルーツタルト。
オーダーが届くまでの間、どうしたものかと指を組む。
「こう平和って感じの空気だと、心が落ち着くよなあ。
恒久的なら言うことないんだけど。言うことあるのが現実なんだよな。」
天井を眺めながら、これまでの日々を思い返す。
来島からまだ半年にも満たない身。それでも迎えてくれた人たちがいる。
居場所は手に入れた。確かに、彼はここにいる。
ではこれからは? この島でずっと、生きていくのか?
「……俺、この間……人助けをしたんだ。おなかの大きな女の人だ。
何か月かわからないけど、妊娠してると言っていた。
こんな物騒な島だ。思わず聞いた。でも、その人は、この島で産みたいって言っていた。
それは……正しいことなのかな。」
視線を方々へ向ける。「あなたはどう思うか」と、言外に。
ヨキ > 「ルチア君も驚いたろう。
これらの細工が施された建材は、ほとんどが再利用されるようになっていてな。
異邦人街へ足を運んだことがあるかね?
あのさまざまな世界をひとつにひっくるめた風景の、一部になるんだ。
初めのうちは居住まいを正したくなるが、これが不思議と少しずつ馴染んでくる。
常世島のインフラにも関わってくるだけあって、“居心地”は死活問題だからな」
柱の一本を見遣れば、花の透かし彫りの奥に葉の透かし彫りが重ねられて、複雑な模様を形作っている。
たおやかに見えてしっかりとした頑丈さに、ヨキの言う「異邦の技術」が活かされているんだろう。
注文を済ませて、メニューが運ばれてくるまでの間。
シングの言葉と視線に、テーブルに両腕をゆったりと載せた。
「確かに常世島には、物騒な面もあるやも知れん。
だがその女性の素性を知らぬゆえ……ヨキには推し量ることしか出来ないが。
もしもその女性が、異能者だったら。
子どもの父親が、人間と種族の異なる異邦人であったら。
生まれてくる子どもに、現代の医学が太刀打ち出来ない病を抱えているとしたら?
……もしその仮定が正しければ、ヨキはこの島が十全と考える。
この常世島ほど、異能や異邦人に寛容で、先進的で体系化された魔術学が発達した土地はない。
一方で、もしもその女性が、あらゆる偏見や困難に煩わされることなく、それでもこの島を選んだとしたら。
それはきっと彼女にとってよい環境が、よい生活が、よい人間が、この島を選ばせた、ということではないかな。
彼女には、常世島を選ぶだけの理由があった。
『正しさ』というものは、ときに誤っているように見えることもある」
ルチア > 「再利用、ですか。
異邦人街はバイト先ですし、まあそれなり以上には。
――――ああ、あそこは良くも悪くも様々な物がありますしね。
確かに――居心地がいい場所は、大切ですね。
居場所が居心地が悪ければ、休むこともままならない」
複雑で美しい模様を眺めつつ。
自分には推し量ることが出来ない技術であるが、
それらをより高いものにしていこうとする意識は伝わってくるような気がした。
「これがずっと続けばいいのに?
そうだね……私もそう思うよ。
そうは行かないのかもしれないけれど」
喧騒を聞きながら、思う。
この島が物騒なところでもあることは知っているが、それとは切り離されたような、この場所この時間。
自身は危険な目にはあっていない。
けれど、それがあることは知っている。
私はこの島のことをまだ良くは知らないが、と前置きをしてから。
「正しいこと、と言う言い方が違うんじゃないかな。
生みたいと母親が言っている以上その生命は祝福を受けて生まれてくる。
それは純粋に喜ばしいことだし、
その祝福を受けて生まれる子を育てる場所としてこの島を選んだのなら、
それなりにの理由があるのだろう。
端から見て、それが困難や不条理に見えたとしても、彼女にはきっとこの島がその子を産み育てるにふさわしい場所だっただけだろう?
生むしかない、では無くて生みたい、と言ったのだから。
それに、この島で生まれたとしても、いつかこの島から出ていく、と言う選択肢だってあるのだし、
悲観的な話でもないと思うよ」
シング・ダングルベール > 「そう。ルチアの言うように選択の余地はいつだってある。
でもヨキ先生が後者に言うように、その人は島で産み、子を育むことを"選択"した。
俺は更に『何故?』って言った。でもその人は『この島で育ったのだから、次代へ繋げることで恩を返したい』、そう言っていた。
『自分は異邦人だけど、今はこの島の住人で。』
『風紀や公安だけじゃなく、みんな守ってくれるから』って。
……俺は二人みたいに、論立てて意を結することはできなかった。
あの人の行いは100%肯定できない。赤子は親を選べないし、環境だって選べない。
でも、だから……せめてその子が『母親の決断は正しかった』って思えるように。
『この島に生まれてよかった』って思えるように。俺はこの島でやれるだけのことをしようって思った。」
言の葉冷めやらぬ内、給仕姿の生徒がオーダーをテーブルに運ぶ。
調度品めいたカップで舌の根を潤し、続ける。
「っていう話があって、少し思い悩んでいたんだ。
俺だけじゃあどうしても消化しきるにはカロリーが高かった。
歳ってわけではないのだけれど、いやでも年頃故のことなのか?
どうなのかな……よく、わからないな。」
はは、とはにかむ表情を見せる。
ヨキ > 「よかった。異邦人にとって、異邦人街はなかなかナイーブな場所だからな。
君や、他にも住み心地がよいという者が多い一方で、
故郷を思い出させるからあまり好きではない、という者も居てね。
複数の街区を丸ごとひっくるめたのが常世島であるから……、
出来るだけあちこちを気に入ってくれれば、ヨキも嬉しい」
シングの問いかけに対するルチアの答えに、その通りだ、と大らかに頷く。
「何も子々孫々まで、常世島で骨を埋めなくてはならない、ということはない。
幸いにも、この地球には数多くの開かれた土地がある。
ヨキは教師として、この常世島で暮らす人々には出来うる限り『選択肢』を増やし、
さらにその中から『選び取る』ことの出来る人間に育ってほしいと思っていてな。
異能や魔術に秀でていても、人間より優れた種族であったとしても、出来ないことや、叶わない望みはある。
それらの欲求を補うだけの『答え』が出せる日々を過ごしてもらえたら……ヨキはこの島の教師でよかった、と思うね。
ダングルベール君が助けた、その女性のようにさ」
運ばれてきたカップにも、細やかな意匠が施されている。
古めかしいばかりでなく、モダンな曲線がしっくりと手に馴染む。
紅茶の温かな湯気の中に、花の微かに甘い香気。啜って、ほっと息を吐く。
「だから我々が出来ることは、自分たちが、そして次の世代が『生きる力を持った』人間に育つ環境を作ることさ。
それは人間関係であったり、この空間や街のようなインフラの整備であったり、美味い食事であったりする。
もしもこの街が物騒だとか、不便だとか感じたならば、それは次の世代の者たちも必ずそう感じるはずだ。
そうと気付いたうちに解決を試み――自分一人の力ではどうにもならないなら、仲間を頼る。
そうやって、環境は次々と生まれ変わってゆく」
シングの笑みに微笑んで目を伏せ、カップを傾ける。
「地球人ばかりでなく、異邦人がこの街についての考えに耽ることは、大きなチャンスなんだ。
常世島の移り変わりに、新たな視点や発想が持ち込めるからね」
いいことだよ、と穏やかな声。
ルチア > 「私は異世界というよりは、並行世界から来た人間なので、元々この世界と然程変わらない風景に住んでいましたから。
でも、あそこは寛容な街ですね。
私は好きです。
――まだあちこちと言えるほど足は運んでいませんが、
色々なところに行ってみたいとは思います」
そう言って頷いて。
「100%の肯定が必要なのかな。
彼女と君は違う人間だし、
そこまで親しいわけではない。
疑問は生まれて当然だと思う。
なあ、シング。
その子がこの島で生まれたことを苦しみだと思っても、
それはその子の負うべき問題で、未来に君の負うべき苦しみではない。
やれるだけのことをしようと思うのは大事だし尊いことだと思う。
しかし、不必要に背負うことはない。
抱え込むには人の手のひらはあまりに小さすぎる」
そう言って、運ばれてきたエスプレッソに口をつける。
ちりり、とした刺激のある、馴染みのないが心地の良い味。
「それでも、この島は受け皿だ。
私のような異邦人でも――この地球の人間と姿が同じだから、と言うのはあるだろうけれど、受け入れてくれている。
ならば、この島で生まれてくる子にだって、それは同じはずだし、
ヨキ先生のように選択肢を増やし見守ってくれる人もいる。
それ“ら”は人一人の手のひらよりずっと大きいはずだ。
だから、その子が、これからも生まれてくるだろうそう言った子らが
この島に生まれてきてよかった、と思える可能性は決して低くない。
君だって、そう言った手のひらの1つになるのだというのなら尚更だ。
一人では抱え込めないことでも、まとまれば大きなモノを受け止められる」
自分で言っていてまとまりがないな、と苦笑しながらチョコレートを口へと放り込む。
ナッツが入っていないのに、ナッツのフレーバーがした。
シング・ダングルベール > 「ルチアは大人だなあ……今日は改めてそう思うよ。年頃の姉みたいで肌痒い。
いっそ姉さんとでも呼ぼうか今度から。ああでも、それを許さないのがファン層だ。
んー……俺もファンが欲しいよ。」
聞き覚えのないフルーツの盛られたタルトをさくりと齧る。
ベリーやパインのような甘味と酸味が鼻に抜けるが、形容しがたい未知の味。
幾重にも絡まった思考の紐が緩み解けるような。郷愁を誘うそんな味だった。
祭事はまだはじまったばかり。これから何人もの島民が、この店に足を運ぶのだろう。
その人たちも、自分のような気持ちを抱くのだろうか。
身を浸すような平穏に、心ごと任すこのひと時を。
できれば自分が助けたあの妊婦にも、同様に味わってほしいと。
彼は窓の向こう空を眺め、しかとそう思うのだった。
ご案内:「教室」からシング・ダングルベールさんが去りました。<補足:紋様入り混じった紺のローブ。>
ヨキ > 「なるほど、並行世界か。
そうしたらもしかすると、ヨキはこちらの世界の君に会ったことがあって――
君は元の世界で、そちらの世界のヨキに出会っているやも知れんな」
かつて知り合った人びとの記憶の中に、ルチアの面影を探すように目を細める。
それは一瞬のことで、すぐに元の眼差しに戻るのだったが。
「彼女の言うとおりさ。
楽観的であることと、文字どおり何も考えないこととは、似ているようで全く異なる。
何かに心配なく立ち向かうためには、相応の準備と心構えが必要であるからな。
生徒の誰もが心の中に少しずつ、君ら二人のような憂いと覚悟を併せ持っていればいい。
この島を動かしてゆくのは、君ら学園の生徒なんだ。
その生徒らを助けるために、ヨキたち教師が在る。
互いに頼り頼られながら支え合い、誰かを支えることが出来ない者をも余さず助ける。
そうすることで、堅固で安定した社会というものが出来上がってゆくのさ。
ちょうどこんな――薄っぺらに見える透かし彫りの柱が、すっと真っ直ぐ立ち続けているようにね」
ルチアとシングの会話を聞きながらゆっくりと紅茶を飲み干したところで、ああ、と壁の時計を見遣る。
「それではヨキは、次の打ち合わせに向かわねばならんでな。
君らはどうぞ、ゆっくりしていってくれたまえ」
言いながら、赤い革の長財布から代金を取り出し、テーブルの上に置く。三人分の金額だ。
「――今日は特別だ。
二人とも、いい常世祭を堪能してくれよ」
笑って席を立つ。ではね、と軽く手を掲げ、喫茶店を後にした。
ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。<補足:【24時で先にお暇いたします】27歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた白コート、細身の白ボトム、黒メンズヒールブーツ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ルチア > 「厳密に――いや何というか、この世界とは似ているようで大分違うんです。
ですが、この世界にもう一人の私が居るのなら、幸せであればと思います。
ヨキ先生みたいな素敵な男性と知り合っていたら忘れることなんてないはずですが」
冗談めいた台詞を交えて己のいた世界を説明する。
文化や歴史、地理やらはかなり似たものだったが、一番の違いは大変容がなかったことだろう。
教師の言葉を聞いて、頷く。
島を動かしているなんて感覚は当然ながらない。
それでも、もう少し時間が経てばそんな感覚も――自覚も生まれてくるのだろうか。
「姉さんは流石に擽ったすぎるよ。
いっその事ヒーローでも目指してみるかい? シング」
エスプレッソを口に運びながら小さく笑い。
慣れない味と香りだったが不思議と落ち着くそれらを味わいながら――
立ち上がった教師を見上げ。
置かれた金額に頭を下げた。
「すいません、ごちそうさまです。
――ええ、勿論。
ヨキ先生も、良い常世祭を」
異界の地で今まで知らなかったものと出会い、交わっていく。
ソレが幸福なのか、もしくは幸福な仮初の夢なのかは解らなかったが――。
今は安寧の中にいた。
ご案内:「教室」からルチアさんが去りました。<補足:Vネックセーター(白)、ジーンズ(インディコ)、ダッフルコート、ミドルブーツ>