2017/04/20 のログ
ご案内:「職員室」にヨキさんが現れました。<補足:27歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/某有名FPSのロゴ入り黒半袖Tシャツ、グレーのつなぎ、焦茶の革サンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > 「いただきます」
昼食どきの職員室。自席に弁当箱を広げ、手を合わせるヨキの姿がある。
ステンレス製のフードキャリアの中身は、昨晩仕込んだバターチキンのカレーライスだ。付け合わせにサラダとヨーグルト。
かつてカレーライスと天ぷらそばからのカツ丼にエクレアを頬張った獣人時代に比べれば、遥かにまともな食生活だろう。
開け放された窓辺でカーテンが揺れ、春のぽかぽかとした風が吹き込んでくる。
人々の朗らかな声が交わされる中、こっくりとしたカレーの香りがふんわりと漂う……。
「――んまいっ」
贅沢に丸鶏をまるまる一羽使ったカレーが、朝から働き詰めの舌に美味くない理由がなかった。
ヨキ > 今日はカレーライス。
残った分は冷凍して、ドリアやカレーうどんに使おう。パンに挟むのもいいし、パイを焼いたっていい。
揚げてコロッケにするのも大いにアリだ。
毎日のことながら、食事をしているヨキはとにかく機嫌がよい。
いわゆる「ながら食べ」もせず、まるで生まれて初めてカレーを口にしたような、幸せいっぱいの顔で頬張っている。
ご案内:「職員室」に宵町 彼岸さんが現れました。<補足:オーバーサイズの白衣、長髪に半分隠された顔、桔梗モチーフの髪留め、ヘムラインドルマンブラウス、藍色のフィッシュテールスカート>
宵町 彼岸 > 「職員室……ん、ここ」
お昼時、皆が休憩を謳歌する中、職員室の前に佇んでいる一人がいた。
片手には写真と丸、そして書きこみをされたメモを軽く握り、
もう片手に持つのは……自身の名前が記入されたとある紙。
「……えと」
これを提出するか否か、しばらくの間迷ってしまった。
拒否されるかもしれないと思うとそのまま帰ってしまった方が良い気もする。
けれど……そんな事を考えながらとうとうここまで来てしまった。
小さく息を吸うと控えめに扉を読んどノックし、静かに扉を開ける。
「……おじゃましまぁす。
ヨキ、せんせ、探してるですけど、いらっしゃいますか」
職員室というのは意外と便利。
誰が誰かわからなくても名前を呼べば講師が対応してくれる。
と言っても極力音をたてないようにドアを開けてしまったので
もしかしたら気が付かれないかもしれないけれど。
ヨキ > 昼間とあって、行き交う者は多い。
やってきた彼岸の姿に通りすがりの女性教師がすぐに気が付いて、ヨキ先生ならあすこよ、と指し示してくれる。
背後で聞こえた声に、職員室の中ほどの席で食事を続けていたヨキが振り返った。
「……おや」
行儀のいい咀嚼のあとに嚥下して、食器を置く。
明るく笑って、軽く掲げた右手で手招きしてみせた。
「やあ、ヨキはここだよ。
――こんにちは、カナタ君。ヨキに何か用かね?」
宵町 彼岸 >
「よし、帰り……あ、無理なやつぅ……」
一瞬気が付かれなければいいと矛盾した思いを抱え
踵を返しかけるも彼女自身が滅多にこんな場所に来ない上に
家庭環境の関係でケアが必要と思われている生徒。
そんな生徒が向こうからやってきたのだからそれはもう思いっきり気が付かれた挙句、
とても親切に場所を示され、案内までされては逃げる事も出来ない。
完全にホイホイされている。
「あ、えっと……」
そうしていざこうして向き合ってみると視線が泳ぐ。
講師の間では物忘れの激しい点はあるものの
大人しく人懐っこい学生として通っていたはずだ。
勿論意識はしてそう振舞っているけれど……
実際に自分がそうなってしまったかのような錯覚すら覚えるのはどういうことなのだろう。
「……ご飯ちゅ、邪魔、でしたか?
あの、中断するほど、の事ではない、ので
気にしないで、ほしーです」
……一体何しに来たのと普通なら突っ込まれるだろう。
とりあえず話題でもと思って自分でもちょっと変な事を口走った気がしていた。
ヨキ > 遠慮がちな彼岸の言葉に、平然と笑う。
口を拭って、茶で喉を潤して。
つい先ほどまで、カレーに首っ丈だったのが嘘のようだ。
「邪魔?いいや、そんな筈があるものか。
ご飯は大事だが、それ以上に学生のことはもっと大事さ。
このヨキを直接訪ねて来てくれたのなら、尚更にね」
彼岸が手にしていた紙を一瞥する。
「ほら、ちょうど椅子も空いているし。
よかったらお座りよ」
隣のオフィスチェアを引っ張ってきて、彼岸の前に据える。
眼鏡の奥の眼差しが、(それで、何の用事かな?)とばかり、話の続きを促している。
宵町 彼岸 > 「ええ―…そんなに……」
それはもう丁寧に対応してくれた。
見事に真正面から捕球されてしまうと
見せずに帰るという計画は少し難しそう。
差し出された椅子に小さく頷きちょこんと腰かけると
かくしを少し探った後そのまま手に握っていたことに気が付いて
「えと、これ……」
おずおずと手を差し出す。
その手に握られているのは受講届と入部許可証の二枚。
そのどちらにも細い文字で宵町彼岸とサインがしてある。
後は担当講師が受理して印を押せば正式なものとして処理されるもの。
それを渡すべきなのか……いや、渡して良い物か悩みながらも
それを差し出さないと話は前に進まない。
「……ボク、芸術の才能、無いです
だから、きっと授業、あんまり意味ない、かもです。
受講しない方が良い、なら、その……」
小さな声がどんどん小さくなっていく。
どうしても窺うような上目遣いになってしまう理由は
決して自分の体が小さいだけではなくって……
自分でもよくわからないけれどきっと
これが自信が無い、という感覚なのだと思う。
ヨキ > 差し出された紙の文字に目を落とす。
受け取ろうとした手を――彼岸の様子を見るなり、引っ込めてしまった。
「そうか。……いや、受講しない方がよい、と決めるのは、我々教師ではないよ。
教師はいつだって、君たち学生が学びにやって来るのを歓迎しているんだから」
言って、新しい湯呑に傍らの水筒から冷たい緑茶を注ぐ。
それを彼岸の傍へ置いて、身体ごと相手へ向き直った。
「まずは、それに名前を書いて持ってきてくれたこと、どうも有難う。
随分と勇気が要ったろう?
そうしたら……少しばかり、ゆっくりと話をしてみようか。
焦って受講して、やはり失敗だったと感じてしまうことも、
受講したかった気持ちを押し止めて後悔することも、どちらもヨキの本意ではないんだ」
目を細め、穏やかな声で笑い掛ける。
「授業に意味を見出すのは、君自身がやるべきことさ。
教師はそれを応援するために居るのだからね。
――どうして君は、自分に才能がないと思ったんだい?」
宵町 彼岸 >
「あ……」
ひかれる手に何処か安堵の混じったような様子で
何処か複雑な感情の一息を吐く。
受け取ってほしかったのか、拒絶して欲しかったのか
……多分そのどちらも正しい回答。
このヒトはこんな風に笑うのかと思う。
「……ボクが作る、ものはいつも、からっぽ、だから」
膝元に手を置いたままぽつりとつぶやく。
彼女が芸術が好きな理由は、そこに感情が宿っているから。
否が応でも読み取れてしまう彼女にとっては
その純粋な感情のうち、それに注がれる激しい感情こそが美しいと感じた。
……それを何というかはまだわからないけれど。
「好き、だけど、届かない、から
……だから」
だから好きなのかもしれない。
決して届かないと思うからこそ
星と同じように焦がれるのかもしれない。
そして同じくらい手に届いてしまう事が怖い。
手が届けばとたんに色を失ってしまう様な気がして。
「ボクが触れると、奇麗じゃなくなっちゃう……から」
ある意味とても珍しい本心からの言葉。
あの作品を作った人だからこそ、こんな言葉を伝えるのだろう。
あの子供のような世界への喜びを芸術にぶつけた作品を
この世に送り出した、目の前の人物に。
膝の上で両手をぎゅっと握り、俯く。
こうしてただ言い訳を並べても本当は答えなんてわかっている。
ヨキ > 少しずつ零れる彼岸の言葉に、じっと耳を傾ける。
相槌を挟むこともなく聞き終えてから、ゆっくりと口を開いた。
「君は確か……先日、『製図やコピーなら得意』だと言っていたね」
過日の言葉を借りて、話を続ける。
「そもそも人間の目というものは、とても都合がよく出来ていてね。
同じ景色を写真と視界とに映し取ったとしても、見え方は大きく違うだろう?
写真は、人間の目に捉えることの出来ない瞬間を見事に切り取ってみせる。
一方で人間の目は、写真に収めきることの出来ない『そこには存在していることが見えないもの』まで感じ取る。
たとえば……人の在り方や、その場の空気や、光の移ろいや、思い出といったものをね」
彼岸の表情と反応とを見ながら、ひとつずつ言葉を選んでゆく。
「自分が空っぽだと思うなら、はじめは『借り物』から始めてみればいい。
身の周りの美しいと思うものたちを、触れて、感じて、とことん写し取ってみればいい。
偏執的なまでに手を動かしてみれば、自ずと対象の裏側や内面まで見えてくる。
……感じて覚えたことを自分の中で捏ねくり回し、自分の中から沸き起こるものを
引っ張り出してくるのは、その後でだって十分なのさ」
茶で喉を潤し、ゆったりと腕を組む。
「『本当に美しいもの』は――誰に触れられようとも、手垢ひとつ付きはしない」
宵町 彼岸 >
「そのままにしか、写せない、です。
何処まで行っても、そのまま、で」
絵画にしろ音楽にしろ技術自体は非常に高いレベルにある。
それもそうだ。彼女には記憶経験だけで言うなら常人の何倍もの累積時間がある。
理論だけでできるものではないけれど、その経験すら取り込んでしまえば
理論上模倣できないものはほとんどない。
けれど、それはどうしようもない程救いのない世界のお話。
それらを無かったことにするにはもう戻れない程……染まり切ってしまった。
そんな汚いモノが触れていいのだろうか。
そんな穢れたモノが近づいても良いのだろうか。
美しいものを知った時から、
重い濁った澱がずっと抉る様に囁き続けている。
「……"本当に美しい物"は」
だからこそその言葉はつき刺さるような感触を残した。
断言された言葉を噛み締めるように反芻する。
その言葉を言い切る事はとても眩しく……そう言い切れることが何よりも羨ましかった。
きっと本当はそう信じたい。
原型すら失った何かが触っても、決して変わらない物がある。
同じように信じたいと叫んでいた誰かは鏡の中で泣きそうな瞳をしていた。
それのことはもう、思い出せなくなってしまったけれど
もう信じる事は出来なくなってしまったけれど
確かにそれを信じたがっていたような気がする。
「……どこかにそんな人、いた気が、するです」
ふにゃりと少しだけ小さく微笑む。
この人はきっと、本当に心の底からそう信じているのだろう。
表情が判断できなくとも我が事のように誇らしげにしているだろうと
願いに似た確信とでもいう様な、そんな心持ちで……
「……そうだといい、なと、思うです。
綺麗なモノ、好きだか、ら。
借り物、でもいい、なら、少しだけ、出来るです」
呟くように小さく口にするとぴょこんと椅子から立ち上がり、小さくお辞儀をする。
そうしてふらりと気まぐれな風のように職員室から足早に去っていった。
椅子の上に記名された二枚の紙だけ残して。
忘れ物の多い彼女ではあるもののそれは決して"忘れ物"ではなかった。
ヨキ > 「そのまま、か」
微笑む。
「ヨキはいいと思うぞ、そのまま。
だが、文字どおりに『そのまま写して』なお何も描き出すことが出来ないのなら。
詰まるところ――君の目には、何も見えていなかったことになる。
写し取る対象の中には、君の与り知らない心や、来歴や、背景といったものが含まれているはずだからね」
冷ややかな言葉の選びのようでいて、語調はすこぶる優しく、穏やかだった。
「君に鍛えるべきものがあるとすれば、それは巧拙からなる作品づくりの技術じゃあない。
対象を見つけて、触れて、読み取り、解釈し、丁寧に掬い上げる視野と度胸だ。
戦うためには、武器のみならず『戦い方』も学ばなくちゃ。
芸術の勉強は、芸術それのみによって出来ている訳ではないんだよ」
彼岸の挨拶に、こちらもまた頭を下げて微笑み返して見送る。
――足早に去った彼岸が残した用紙に、目を落とした。
「……………………、」
昼休みも間もなく終わる。
午後の講義へ出てゆく人の中で、ヨキは独り呟いた。
「ヨキとて、何の根拠もなく話しているのではないよ」
ペンを執る。
受講申請と、入部届。
教員の記名欄に、日付と自身の名をさらさらと書き記す。
「この目で見て、肌に感じたのだから」
何より強く、美しいものを。
ご案内:「職員室」から宵町 彼岸さんが去りました。<補足:オーバーサイズの白衣、長髪に半分隠された顔、桔梗モチーフの髪留め、ヘムラインドルマンブラウス、藍色のフィッシュテールスカート>
ご案内:「職員室」からヨキさんが去りました。<補足:27歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/某有名FPSのロゴ入り黒半袖Tシャツ、グレーのつなぎ、焦茶の革サンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>