2018/05/25 のログ
ご案内:「訓練施設」にヨキさんが現れました。<補足:28歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/ライムイエロー半袖Tシャツ、黒七分袖インナー、黒ハーフパンツ、黒ランニングタイツ、黒×青ランニングシューズ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > 放課後の休憩所に、間延びした溜め息交じりの声が響く。
「はあああああ……」
長身がはみ出すほどの小さなベンチに、軽装のヨキがくたびれた様子で丸くなっていた。
大きな背中が、息切れのために上下している。
夕方以降空いている訓練所のひとつを、魔術の練習のために借りたのだ。
持ち込んだ飲み物のボトルを早々と飲み干し、自動販売機でスポーツドリンクを買い求めたところである。
人間になって二年近く経ち、魔術学の知識はそれなりのものにはなってきた。が、如何せん実技が追い付かない。
厖大な魔力が、未だに制御しきれずにいる。御すれば詰まり、放てば操作が効かない。
だからこうして、空いた時間には独りこつこつと『自習』に励んでいるのだ。
ヨキ > 元はといえば神性に由来する魔力を、ひとの言葉と思考で操ることなど出来ないのかもしれない。
それでも、ヨキはこの常世島で培われた魔術学でこそその力を行使したいと思っていた。
自分はもう、異世界の獣でも、半死半生の獣人でもないのだから。
整った空調でしばし涼んだのち、ベンチを立って休憩室を離れ、元の訓練所へと歩き出す。
頭の中では小難しい魔術学の理論がぐるぐると渦巻き、眉間には薄く皺が寄っていた。
学生がいない時間帯を選ぶのは、大きな図体で近寄りがたく険しい顔を見せないためだ。
ヨキ > 訓練所の一室の、中央に立つ。徐に見下ろした両手に、ぱちりと紫電が跳ねる。
魔力を統御する言葉と、言葉にしがたい美しいものを脳裏に浮かべる。
たとえば転移荒野に降った不可思議なオーロラだとか、青垣山から見た夜明けの光だとか、大時計塔から見下ろした街の光だとか、そういうものを。
「――…………」
野放図に広がり拡散する魔力に、指向性を与える。
黒色に彩った指先が、やがて青い光を帯びてゆく。
多少なりとも魔術学を学んだ者には何てことのない、ごく初歩的な技術だろう。
それでも、ヨキにとってはひどく多大な集中を要した。
まるで吐息の一つでも零せば破れてしまうかのように、自らの身体に向かってじっと神経を研ぎ澄ませる。
ヨキ > 小さく息を吐き出すのと、右手の指先を持ち上げたのは同時だった。
(――あ)
いける、と思った。
流れるように引いた右腕が、光の軌跡を描く。
左足が頭よりも高い位置まで上がって空を切り、風の音を伴って弧を描く。
身体を捻り、蹴撃を二度、着地した瞬間に再び蹴り上げて三度。
室内を、人工物とは異なる青白い光が満たしては消える。
最後に二本の足で地面に立ったあとも、四肢に集中した魔力の流れは途切れていなかった。
皮膚に太陽光を透かしたように、両手の内側が茫洋とした光を灯していた。
「……………………、」
果たしてこつを掴めたのかどうかさえも判然としない。
ほんの数秒間、眼前に広がった光景を目の当たりにして、まるで信じられない表情で足元を見つめていた。
ヨキ > 「で……出来ッ」
できた、と声を上げようとした瞬間、魔力の集中がふっと途切れる。
あとはもう、どこへともなく撒き散らされる力が溢れ出てくるばかりだった。
一度昂揚してしまった心では、もう先ほどの切っ先のように研ぎ澄ました冷静さは戻ってはこなかった。
仮にも魔術師を名乗ろうとするならば、あの状態を空気のように保たねばならないのだ。
「……さ……先がやっと見えたと思ったんだがな……」
がっくりと肩を落とす。
ご案内:「訓練施設」に宵町 彼岸さんが現れました。<補足:白衣、癖のある長髪に半分隠された顔、気崩し気味の白のカッターとショートタイ、黒と緑基調仕様のスカート、絹手袋、抱えた古紙の束、ラブラトライトのチャームがついたブレスレット、深緑のショートブーツ>
宵町 彼岸 >
「……んぁー。いいにおーぃ」
とぷんという音共に施設の廊下に長身の黒い影が沸き立つかのように表れる。
相変わらず全身を喪服で包んだバンシーのような姿の人形の
その腕の中の小柄な姿は今日も今日とて歩くつもりは微塵もないかのようで
胸元に埋もれたまま抱えた古紙の香りを胸いっぱいに吸い込んでは
少し危ないお薬でも吸っているかのような蕩けた表情を浮かべる。
きっかけはただの古紙回収。
頼まれていた分をのんびり回収して回るといつの間にやら良い時間。
ついでに燃やしても良いとの事だったので今日は完全に遊びに来るつもりで
こうして訓練施設に足を運んでみた。
具体的には良い子はマネしないでね系ピタ〇ラスイッチを作成するつもりだった。爆発炎上する系の。
しかし一室の前で意図せず影が立ち止まると、怪訝な表情で辺りを見渡し……
「……ぁ」
何だかいつもより小さく見えるせんせ(お気に入り)の姿を見て小さく息をのむ。
少しだけそわそわしているうちに人形はゆっくりと滑るように室内へと滑り込んでいく。
「えと、その
……こにちわ、せんせ」
聞き逃してしまいそうなほど
そんな小さな声でそっと挨拶を呟く。
ヨキ > 「ん」
ただでさえ耳聡いヨキのことだから、馴染みの学生の声となれば尚更だ。
「――やあ。こんにちは、カナタくん。
はは、小さくなっているところを見せてしまったな」
振り返ると、笑って背筋を伸ばす。
彼岸よりも少し上にあったであろうヨキの顔が、再び長身に遠ざかる。
「何か実験でもしに来たのかね。
ヨキは今、魔術の練習をしていたところでなあ」
歩み寄った彼岸のどこかそわそわとした様子に笑い掛けた。
「これがまた、なかなか上手く行かんものだ。
……あんまり近付くと、多分汗臭いぞ」
困ったような笑みを作りはするけれど、自分から拒みはしない。
宵町 彼岸 >
「えと、その、実験……えっと、そんな、感じ?デス」
このひとはそう気にしないだろうけれど
少しだけ返答に困りつつ目を泳がせた。
そうして自分が今傍目にはかなりリラックスしすぎているように見えるだろうと思いいたるも
「わ、わ……」
わたわたと腕の中で姿勢を整えようとするも上手くいかず……
人形はそれに反応したかのように貴方の近くにぽすりと抱えたものを落とし、
空中に波紋を残し僅かな水音と共に消えていく。
「……あれー」
たまにこういう事があるけれど一体どういうことなのか。
それはともかく……
「あ、えと、その、……綺麗?」
見上げた視界に淡い光の残滓が映った。
落とされたまま床にペタンと座り込み、ぼうっとそれを眺める。
そこに残る魔力の残滓は例えるならば陽光のよう。
朝と夜と色を変えるような美しさを持つそれは
なかなか言葉にしがたい儚さと力強さを含む様な色で……
「……きに、ならない、です」
続く言葉にフルフルと首を振る。
それを見える人は少ないかもしれない。
そもそもこれはその側面のうちの一つに過ぎず、
本質は別の物なのかもしれない。
それに彼女自身はかなり綺麗好きな気があるものの
目の前のこのヒトの事は全く不快にならなかった。
ヨキ > この常世学園に長く務めた教師ともなれば、学生に一人二人や一匹二匹の『お供』がついていようと気にはしない。
すぽりと取り落とされた彼岸にくすくすと笑って、
「……おや、何か視えたかい。
さっきまで散々魔力を撒き散らしていたからな」
何気なく、指の長い手のひらを表裏と引っ繰り返して見遣る。
そう言っている傍から、抑えきれない魔力の光がぱちり、ひらりと瞬いた。
紫電、あるいは星。水面の照り返しだとか、そういた類に似た煌めき。
「ふふ、なら良かった。
女性と関わる以上は、出来るだけ身綺麗で居たくてな。
それほど動き回ってもいないというのに汗だくだ。
ヨキももしかすると、学生として学び直さねばならんやも知れんよ。
……立てるかね?」
座り込んだままの彼岸へ、そっと手を伸べる。
宵町 彼岸 >
「……せんせも苦手、あるですね」
苦手というより正直持て余しているという印象が強い。
一見して形成回路が飽和状態にある。
問題は式というより出力それそのもの……
「きれー、です」
強いて言うなら、何処か引いてしまっている所があるような気がするけれど
それそのものの扱いはトライ&エラーで覚えるのがおそらく最も効率的。
「……ボク相手に気にすること、でもないと思いま、す。
せんせはなにしててもたのしそ、です」
ゆっくりと手を伸ばして伸ばされた手を取る。
触れる際に少しだけピクリと震えながらも
自分を引きあげるその整った指先をじっと見つめて……
「……」
何処かこの人にとってはこれもまた世界を描く方法の一つなのだろうとふと思う。
出来ない事がこんなにも楽しそうだなんて。
ヨキ > 「苦手? それはもう、これでもかというくらいにあるとも。
『先生』が完璧な人間で居られたら、どれだけ良かったか」
どこか照れくさそうな顔をして、言葉を続ける。
「なに、君相手だからこそ、だ。
自分を好いてくれた女性に、男として見っともないところは晒せんよ」
朗らかな調子で言ってのけ、明るく笑ってはいるが、嘘や冗談めかした様子はない。
柔らかく掴んだ彼岸の手が小さく震えるのに、ぱちりと瞬いた。
指先を見つめたまま黙る彼岸の手を、握ったまま小さく揺らす。
「……どうした?
何かイヤなことでもあったかな」
中腰になって、相手の顔を覗き込む。
「ヨキは鈍感なんだ。
君が何を考えているか、教えてくれると嬉しいな」
顔を無邪気に間近へ寄せて、にこりと微笑み掛けた。
宵町 彼岸 >
「でも、たのしそ、です
できないこと、もっとみんな、苦しそうなのに」
完璧でない事をこれほど楽しげに語る人はそういないと思う。
今まで”取り込んで”来たヒトの数は数知れず、けれどみな何かに喘いでばかりの人種だった。
だからこそ、とても眩しい。
「みんなにそう、言ってるですか?
言われて、ちょっとうれしいの、ふしぎですけど」
本当は誰かに触れられることに強い忌避感がある。
けれど今は震える程度でそれを抑えられた。
まるで内心を誤魔化すかのように冗談を口にするも
ふと柔らかで自然な雰囲気を漂わせ、数秒思考に耽る。
「……昔、何処かで読んだ、です。
きれーなもの、作る人はまほーつかい、が、いて」
まるで独り言のように呟く。
それを読んでくれたのはいったい誰だったか、今では思い出せない。けれど……
「きっとせんせ、も、新しい筆、使い方
練習してるんだなって」
はにかむ様に微笑む。
よく子供みたいと笑われてしまうけれど
彼女はまだサンタクロースとお伽噺の魔法使いを信じている。
そして、目の前のヒトは彼女にとってそのうちの一人。
ヨキ > 「勿論、いつまで経っても出来ないことや、上達しないことはもどかしいよ。
きっと独りきりで思い悩んでいたら、ヨキだって暗く塞ぎ込んでいたろうね。
しかしヨキには、笑い合える学生や、分かち合える友人が居る。
だからどんなに苦しい時期が続いたって、途中にはこうして心地よく笑えるひとときがあるのさ」
続く彼岸からの問いには澱みもなく、まあな、と答える。
「誰にでもそう言うのは辞めた方がいい、と怒られもするがね。
それでもヨキは、嘘やご機嫌取りのために軽い気持ちで言っている訳ではないんだ。
……そういうところが、また女たらしだの何だのと不評を買ってしまうんだが」
その和やかな表情のまま唇を結び、相手の昔語りに耳を傾ける。
彼岸の微笑みに、一瞬何か珍しいものでも見たかのように目を瞠り、そして笑い返した。
「そうだよ。このヨキは、いろんな筆をたくさん持っているのさ。
大事に手入れをして、満遍なく使うんだ。
自分でも思いもよらないような使い方が見つかるようにね。
楽しそうな生き方をしているように見えるだろう?
君はそれを憧れてもいいし、真似してみたっていいんだ」
宵町 彼岸 >
「……綺麗なもの、沢山、いっぱいあるんです、ね」
胸を張って仲間がいると言えることがいかに珍しい事か。
何処までも孤独の中でしか過ごせない自分にとって、
この人は本当に太陽のようで……
「……限られた相手だけにいう、と
それはそれ、で何か言われる、とおもいます」
結局の所口説いていると思われるのは仕方がないだろう。
どうやらそういう先入観がすでに生徒の間に浸透しているようだから。
「ひごろ、のおこない?」
立ち上がるとこてんと首をかしげる。
完全におまいう案件だが当の本人は大変だなー位しか思っていなかった。
そうして続く言葉に何処か戸惑ったような笑みを浮かべる。
「良く、分からないです。
何度も何度も、考えて、聞いて、想像して。
でも、わからないんです」
今まで、世界を計る物差しは一つしかなかった。
世界を描く筆も、一つしかなかった。
それらは余りに醜く、赤茶けた泥で舗装されていた。
苦痛を誤魔化すために享楽的に生きる事は出来ても、
今まで人生を楽しめたことは記憶の限りではない。
憧れ、真似てみようにも
……何処までもそれは模倣に過ぎなくて。
でもだからこそ、こんなにも
「……すみません、おじゃましちゃいました、ね」
胸の奥の湧き出すような欲求と
どろりとした感情を隠すかのようにかぶりを振ると
一歩引き、いつものどこか軽薄な笑みを浮かべる。
これ以上、想ってしまわないように。
これ以上、望んでしまわないように。
「……いつか、また、せんせの絵、たのしみにしてます、から」
呟くように告げると緩慢に、けれど
まるで逃げるようにその場に背を向け、歩き去ろうとする。
「……そしたら」
声には出さず俯き、背を向けたまま吐き出して。
本当は少し、気が付いている。
けれど、もう少しだけ気が付かないふりをしていたい。
――きっと認めてしまえば、私はそれを壊してしまうから。
ヨキ > 「ああ。ヨキにとっては、カナタ君も大事な一人だ。
大事なものは、みんな輝いて見えるものだからね」
日頃の行いについて指摘されると、気の置けない友人のように吹き出して笑う。
「……ふッ。くく、ははは。正論だな。
だがこの物言いを封じられようものなら、ヨキは何も喋れなくなってしまうからな。
困ったものだよ」
彼岸に続いて上体を引き起こす。
「世の中には、明瞭に理解出来る事柄の方がずっと少ないものさ。
よく分からなくたっていいんだ。何せ――」
相手を見下ろす深い紺碧の双眸に、金の光が小さく過る。
「ヨキの方が、君を巻き込みにゆくから」
この男を太陽と呼ぶのなら、その焔は自ずと他者を灼きに迫るだろう。
曖昧模糊とした挨拶に、相手を引き止めるでもなく見送る。
「ヨキの絵? ああ、いつかと言わず、出来上がればすぐにでも。
…………、」
声にならない呟きは、無論ヨキの耳に届くことはない。
耳を澄まし、聞こえなければすぐに諦める。その代わり、彼岸の背に向かって声を投げた。
「君が何を考えているのか、ヨキにはまだ欠片ほども判らないが――
そうだな、君はヨキを甘く見ない方がいい。
教え子を『受け止める』度量には、少しばかり自信があるでな。
思ったことは、何でも話してくれた方がいい」
たとえ受け止めたそれを受け入れるか、あるいは受け流すか――はたまた返り討ちにするにせよ。
また会おう、と別れを告げて、再び『自習』へと戻ってゆく。
ご案内:「訓練施設」からヨキさんが去りました。<補足:28歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/ライムイエロー半袖Tシャツ、黒七分袖インナー、黒ハーフパンツ、黒ランニングタイツ、黒×青ランニングシューズ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ご案内:「訓練施設」から宵町 彼岸さんが去りました。<補足:白衣、癖のある長髪に半分隠された顔、気崩し気味の白のカッターとショートタイ、黒と緑基調仕様のスカート、絹手袋、抱えた古紙の束、ラブラトライトのチャームがついたブレスレット、深緑のショートブーツ>