2018/06/01 - 20:48~00:52 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にアリスさんが現れました。<補足:金髪碧眼の一年生。(乱入歓迎)>
アリス >
私、アリス・アンダーソンは一年生。今年の4月からの、一年生。
今年の初めくらいから常世学園で勉強をしている14歳。
致命的ぼっちの元いじめられっ子。
『おい』
元々本土にいたけど、いじめられてる真っ最中に異能に覚醒。
壮絶な仕返しの果てにめでたく常世行きに。
今はパパとママと学生通りで暮らしている。
『おい、起きろ』
うん、意識がはっきりしてきた。
やっぱり朦朧としている時には、自分のことを思い出すに限る。
『いい加減に起きねぇか!!』
頭上から劈く怒鳴り声に薄く目を開いた。
後ろ手に縛られた手が時折痛む。
私、アリス・アンダーソンは……監禁されている。
アリス >
「……なに、ここ…」
どうやら、ご丁寧に椅子に縛り付けられているようで。
身動きひとつ取れない。
『目が覚めたかな、アリスちゃん』
下卑た笑いを浮かべた、いかにもな違反学生。
いかにもな二級学生、いかにもな――――不良。
そんなのが、何人かボロいビルの中にいるようで。
「私、下校してバイト先に……?」
意識が唐突に途切れている。
気付いたら、この廃ビルの中だった。
『お前さんは誘拐されちゃったワケ』
『ヘヘ、大丈夫大丈夫。ちゃんと言うこと聞いたらパパとママの待つ家に帰れっから』
何が大丈夫なんだろう。
既に気分は最悪です。
『俺の仲間にさ、眠気をガスにする異能、スリーピー・ホロウっつーのが使えるやつがいてさ』
『そそ、俺がアリスちゃんにガスを食らわせてここに来ていただいたわけ、わかる?』
思い出した。その時、道に携帯を落としたんだっけ。
連絡手段ゼロ。ぼっち下校のバイト直行コースだったけど、目撃者くらいいたんだろうか。
私は誘拐犯たちと視線を合わせないように俯いた。
アリス >
窓から見える景色は黒一色。つまり夜。
パパとママ、きっと心配してる。
ううん、最近両親に内緒のバイトで遅いから、またあの不良娘はって思われてるのかな。
パパとママが通報してくれてたら、こんな奴ら……
『なんか喋れよ』
そう言われて、ようやく顔を上げて主犯と思われる男の顔を見た。
異能持ちか、魔術師崩れか。どっちにせよ、最悪の事態。
「何が目的? 身代金?」
縛られたまま相手の目的を聞いてみる。
そう言われると、不良学生たちはニタニタ笑いながら喋りだした。
『そんなことしねーって。ただ、アリスちゃんってさー』
『あるんだろ? 異能。それも何でも創り出せるって話のヤツがさ』
『それでさー、金目のもの作って欲しいんだよね。もしくはカネそのものォー?』
彼らはギャハハと笑い始めた。何が可笑しいんだろう。
こういう雰囲気の人間は苦手。
あの時の敵は女子だったけど、いじめられていた頃を思い出す。
異能の噂、知られてたんだ。悔しい。
アリス >
「異能でお金を作っちゃいけないって研究所の人が……」
その言葉に、顔を歪ませた茶髪な不良は、私の頭を掴んだ。
痛い。力任せに、頭を……
『知るかよ。俺らさ、悪いことしすぎてこの島じゃもう後がないワケ?』
『だからさー、高飛びするお金ちょーだいちょーだいアリスちゃーん?』
頭を掴んだまま左右に力任せに揺らされる。
それだけで痛いし、気分が悪くなった。
『さっさと金目のものを出しますって言えよ、あるんだろ、ジャバウォックとかいう異能!!』
正直、この拘束から抜け出すだけなら簡単だ。
手元に刃を練成すればいい。
ただ、その後に何も繋がらない。
こいつらの異能がわからない今、戦闘になったらどうなるか。
……私が追影さんみたいに強かったら躊躇わなかったのにな。
ようやく手を離されて涙の滲む目で相手を見上げる。
別に泣きたくて泣いているわけじゃない。
いじめられていた頃の記憶が、暴力に耐性のない自分を作り上げているだけで。
アリス >
『もう痛いことされたくないだろ? だったらちょちょいっと異能、使おうぜ?』
歪んだ笑顔のまま私たちを取り囲んだ男たちは、私に異能を使うことを要求してくる。
私の異能は……こんなことをするためにあるんじゃない…
「わ、私は携帯を道に落としたわ。拾ったら誰かが通報するかも…」
「それに、パパとママも黙ってるわけがない! 風紀に連絡して、私を探しているわ!!」
主犯の不良学生が手を上げた。
私は反射的に目を瞑ってヒッと短く声を漏らした。
『うるせぇーーーーんだよ……』
『ハハ、こいつやっぱ元いじめられっ子って本当だったんだ! すぐビビるぜ!!』
『やめとけって、可哀想だろ? アーリースーちゃんがさー! わはは!!』
羞恥に赤くなる。自分が情けない。
こんな奴らに良い様にされているのも、この状況も、何もかも。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にヨキさんが現れました。<補足:28歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールブーツ、黒サコッシュ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > ――アリスが攫われて間もない頃、道端で彼女の携帯電話を拾い上げるひとりの男があった。
周囲に落とし主らしき人物はない。彼は至極当然のように、携帯電話を風紀委員会へと届け出る。
ヨキと名乗ったその教師は、風紀委員会の建物で引き渡しの書類を記入しているところだ。
もしも彼女の両親が風紀委員会へ娘の捜索を願い出ていたなら、この遺失届ともすぐに結び付くだろう。
「今どきの子が珍しいな。携帯電話を落として気付かないだなんて」
自転車にでも乗っていたのかな、などと暢気に笑った。
アリス >
携帯が拾われて数時間後。
風紀がアリスの両親からの連絡に動き出した頃。
廃ビルの一室でやり取りは続いていた。
こんな連中のやること。
お金を作ったら口封じに殺されるかも知れない。
絶対に言うことを聞くわけにはいかない。
「わ……私が本気で異能を使ったら…逆襲されるとか考えないの…?」
話を引き伸ばすにしても、相手を逆上させるかな?とちょっと失敗気味の発言だった。
それでも男達は大して意に介することもなく笑いながら言った。
『俺ら強いし? 良いんだよ、抵抗しても…その代わりちょっと痛い目見てもらうことになるかな』
『そうそう、アリスちゃんをいじめたくなんかないからさ』
『チッ、ここは蒸し暑いな……オラ早くしろよ、金だよ金!!』
不良の一人が語気を荒げた。
ヨキ > カウンター越しに風紀委員と談笑を交わしていたヨキの顔が凍るのは、それから間もなくしてのことだ。
連絡の付かない女子が居る、という話。
脳裏を推測が駆け巡ったのは一瞬のこと。
捜索に動き出す風紀員たちに、あとはよろしく頼む、と伝え――そのまま帰るように見えて、男は単独で動き出す。
土地勘だけなら、こちらも風紀委員にも負けてはいない。
使われていない建物。人目を避けるのに絶好の場所。ならず者の根城……。
培った知識と情報を頼りに、夜の落第街を駆ける。
やがてアリスの居場所を知らしめたのは、犯人の一人が上げた怒声だった。
コンクリートに反響したその声が、夜気を辿って研ぎ澄ませた耳に届く。
密集するビルの隙間を飛び移り、屋上から続く階段を跳ぶように駆け降りる。
廊下に高く響くヒールの音は、アリスや不良たちの耳にも届くことだろう。
「――おい!誰か居るのか?返事をしろ!」
アリス >
誰かが廃ビルに来た。
その誰かの声が響いた時、風紀だと誰もが思った。
その場にいる誰より行動が早かったのは、私だった。
「ここよーー!! ここに私はいるわー!!」
そう叫んだ瞬間、主犯が私を殴った。
椅子ごと横に倒れながらも、私は笑っていたんだと思う。
口の端から血を流しながら、倒れこむ。
『このガキィ!!』
『追っ手を始末して……場所変えるぞ!!』
『俺らなら風紀の一人や二人くらい!!』
その時になって思った。
この声の主が、風紀でも何でもなかったら私の負けね、と。
ヨキ > 響き渡る少女の声に、廊下を駆ける足が早まる。
倒れた椅子の音を手掛かりに、目指す一室へ滑るように駆け込んだ。
やってきたのは、長身だが荒事には無縁そうに見える、ごく軽装の男がたった一人。
見るからに風紀委員でも何でもない。
転倒したアリスと不良たちとを素早く見定めた瞬間、笑う口の端が怒りに震えるのが見えた。
「……風紀の一人や二人が、何だって?」
徐に腰を落とし、低く構える。
それまでの軽薄そうな雰囲気から一転して、芯の通った身体が戦闘の態勢を取った。
「そこの君。今助ける」
不良たちを見据えたままアリスへ向ける声は、その一言きり。
アリス >
来たのは、軽装の男性。
それを見て、不良たちが顔を見合わせた。
『ンだてめぇ、見世物じゃねーぞ』
戦闘の態勢を取る男性に、不良たちも構える。
『やる気か!!』
不良たちは気付いていない。けれど、私はその人を見たことがある。
確か、美術の……
『眠気をガスにする異能ッ! スリーピー・ホロウ!!』
一人の不良が掌からガスを放出した。
自分の口元も押さえている辺り、指向性は持たせられても敵味方の区別はつかない異能。
私もあれにやられた。
異能を叫ぶ。それは昔から基本となる異能の作法。
――――異能認知学。
大勢に自分の異能の名前を教えることで、異能の出力が上がると信じられている。
不可思議が思議に変わる時、異能もまた現実に存在を始めるという学問の一種。
ヨキ > 怒気に張り詰めたヨキの眼差しに、昂った魔力の小さな光がぱちりと瞬く。
流派や体系とは程遠い、無法の構え方。
迎え撃つ姿勢で、相手方の初手を窺う。
向かってくるなら、誰から殴り合っても構わなかった。が――
「……――!!」
異能の名が叫ばれた瞬間、真っ先に叩くべき標的を決めた。
鋭く息を吸い込み、呼吸を止める。動けるのは恐らく一瞬。
ヒールが床を蹴った瞬間、足を勢いづかせた魔力が渇いた破裂音を立てた。
他の面子には目もくれず、迷わずガス使いとの間合いを詰める。
その懐へ飛び込み、異能を放出する掌を掻い潜るように左の拳を放つ。
アリス >
意外。乱入者の解法は息を止めて突っ切る。
『な、バ、』
声を短く上げて鉄拳がガスを放出していた不良を吹き飛ばした。
地面をバウンドして、呻く。
呼吸が難しいほどの激痛に苛まれていることだろう。
残りは三人。
『ふざけんな!! 囲んで畳め!!』
主犯の一声に、ガスが消えるのを見計らって不良たちが異能を発動させる。
『飛んで……蹴る!! クラッシュ・ダイブ!!』
『全身を硬化させる異能!! アイアン・フィスト!!』
一人が跳躍した瞬間、脚が薄く輝く。
恐らく跳んでいる間に格闘威力を増加させるなどの限定条件がついた近接異能。
もう一人は恐らく防御面を高める異能。ううん。
硬化させるのが拳でもあるならば……攻撃面も。
二人同時に、予期せぬ乱入者に向けて襲い掛かる。
一人は空中から蹴りを、一人は姿勢も低くボディ狙いのブロー。
ヨキ > 勢いづくあまり半ば転げるところを、受け身を取って素早く身を起こす。
口を抑えた右手を、残りの仲間たちが口を開くのに併せて放した。
「――ぶはッ!……はあッ、大丈夫そうだな。死ぬかと思った」
肩で大きく息をして呼吸を整え、外した眼鏡を背中の鞄に突っ込む。
裸眼でも顔立ちが変わらないところを見るに、伊達眼鏡なんだろう。
同時に放たれる異能に、こちらからも次の一手。
空中からの蹴りを間一髪で避けたように見えて、頬を掠められた顔が反動に揺れる。
「……ッてえ!」
生身とは異なる足の重みに、擦れた皮膚にじわりと血が滲む。
間髪入れずに向かってくるボディブローを、咄嗟に身を引きつつも真正面から受け止める。
「『アイアン』なら――これは効くかなッ?」
今度は右の拳を引き、低い位置にある二人目の顔面目掛けて横殴りを仕掛ける。
硬く握られた右手は、スタンガンのように迸る魔力の紫電を纏っていた。
ヨキの魔力そのものは、外敵には一切影響しない。
文字どおりの鉄か、はたまた生身の硬質か。通電させてみればあるいは――という心算だった。
アリス >
『!!』
一撃必倒の蹴りがかわされ、重く鋭い硬化した拳が受け止められる。
構えといい、先ほどの仲間を一撃で倒した拳といい、素人ではないのはわかっていた。
しかし。
しかし…
紫電を纏う拳をまともに顔に受ける不良。
その勢いは完全に殺されていた。ノーダメージ。普通の殴打であれば。
紫電に全身を痺れさせ、硬直させた舌を棒のように突き出して硬化不良は倒れた。
『テメ、死ねぇ!!』
クラッシュ・ダイブの不良がこちらにすぐに身を翻し、ローリングソバットを乱入者の頭に向けて繰り出す。
その隙を見計らい、私を人質に取ろうとこっちへ駆け寄ってきた主犯。
私は直後に自分を縛っていた縄を材料に錬成した拳銃を向ける。
「下がりなさい」
『アリス・アンダーソン……てめぇ…!!』
血を流しながら、主犯とにらみ合う。
ヨキ > 躱した蹴りの余韻が遅れて脳裏を揺らす。
どうやら思った以上に頭に血が上っているらしい。
硬化した皮膚をしこたま殴った右手を衝撃に痺れさせ、再び顔を顰めた。
倒れ込んだ相手から目を離し、蹴撃使いと相対する。
見開いた目が放たれた蹴りを視認するも、一発目よりも近い距離で真っ向から加速されては敵わない。
両腕を顔の前に翳して受け止め、後方に勢いよく転倒する。
「が、……ッ!」
吹き飛ばされて間合いを稼ぎ、次に備えて身を起こす。
それと同時、主犯と向かい合ったアリスの姿が目に入る。
錬成されたばかりの真新しい拳銃に、思わず目を瞠った。
「……君、何を!」
アリス >
「助けてくれるんでしょう?」
体を起こして、ジリジリと主犯との距離を測る。
「だったら……お願いね」
アリスの拳銃を前に主犯は異能を繰り出す機会を探っている。
蹴撃の不良は転倒したヨキに向けて追撃の跳躍を行なう。
『キエエエエェ!! クラッシュ・ダイブ!!』
叫びながら踏みつけるような、カカトからの蹴りを放つ。
その脚の輝きはどんどん強くなっている。
戦闘のテンションで能力が変わるタイプだろうか。
ヨキ > アリスの声に、息をひとつ吐き出す。
「――勿論だ。ヨキは君を助けるためにここへ来た」
この男は魔力こそ豊富だが、どうやら生身の人間であるらしい。
異能使い相手には、見るからに後手に回っている。
それでも、少なくとも諦める様子がないのは確かだった。
頭上から響く金切り声に、再び相手を見据える。
極限の集中に瞳の奥が煌めいた刹那、獣のように飛び掛かってゆく。
振り下ろされる踵を半身をずらして避け、相手の軸足を目がけて掬い上げるようなタックル。
足を抱え込み、突進の勢いで後方へ押し倒さんとする。
アリス >
「…お礼は全部終わってから言わせてね」
その言葉を聞き終わるか否か、主犯の男が吼える。
悪党を統率してきた男の異能。
『俺が最強になる異能ッ!! ファイト・クラブ!!』
今までの動きが信じられないほど加速しながら私に近づき、手の中の銃を蹴り飛ばす主犯。
「!?」
私は後方に跳びながらコンクリートの柱を意志の力で削り取る。
とにかく空気中に元素が、錬成の材料が欲しかった。
ヨキと自分を呼称した男に、蹴りかかった男は世界が回るのを見ることになる。
タックルを受けて、足を抱え込まれる。
そう、それはまるで。
『マ、マウントポジシ』
言い終わるより早くガードを固めた。
顔周りを両手で防ぐも、跳べない以上もうあいつは異能を使えない。
ヨキ > 視界の外で、主犯とアリスとの声が聞こえてくる。
だが今はこちらが先決とばかり、組み倒した男の上を取る。
相手が自分の目論見に気付いたと見るや、ヨキはにやりと笑った。
アリスからは見えない位置で、口元が耳まで裂けるかのような笑みだった。
「これでもう……『ダイブ』は出来ないなァ?」
身を縮こまらせたってもう遅い。
両目をかっ開いた形相は、怒りに満ちた鬼のそれだ。
「……ふんッ!」
振り上げた拳が勢いよく振り下ろされた先は――顔面でも胴体でもなく、金的であった。
アリス >
『がッ!?』
金的を受けた不良がこう短く叫ぶと、この世のものとは思えない悲鳴を上げて戦闘不能。
あと一人。
しかし……こいつは。
「空論の獣(ジャバウォック)!!」
元素を元に両手に拳銃を作り出し、主犯に向けてゴム弾を撃つ。
しかし、相手は軽く避けながら超スピードで近づいてくる。
恐らく、単純な身体強化系の異能。それもめちゃくちゃに強い。
あっさりと近づくとゴミでも払うかのように私の両手の拳銃を剛腕で振り払った。
ヨキ > 股間への一撃でまんまと伸びた相手を尻目に、間髪入れずに立ち上がる。
「――ヨキの学生に手を出すなッ!」
風を切って飛び出し、アリスの身体を有無を言わせず抱え込む。
二人の間に入り込んで庇う形で、主犯の腕から素早く距離を取って離れようとする。
「君、拳銃は止しておけ。どうせ動いてる相手には当たらん!」
顔は主犯へと向けたまま、アリスを視線だけで一瞥して叫ぶ。
アリス >
抱え上げられて運ばれながら、ヨキに語りかける。
「ええ、わかったわ。でも次はどうしたら?」
そう言いながら主犯を見る。
追いすがる不良は必死の形相だ。
自分の人生が終わるかどうかを、私の命に賭けている顔。醜悪。
『待ちやがれ!!』
ヨキに向けて滑り込むように膝を狙った蹴りを放つ不良。
構えは素人、なのに相当に場慣れしている。
ヨキ > 「さっきの銃は、君の異能か」
周囲の打ち棄てられた廃ビル然とした光景を見渡す。
答えを待たず、アリスへと耳打ちした。
「それでは、何か武器をくれるか。硬い棒きれがいい――鉄パイプとか!」
そう乞うと同時、膝に向けた蹴りが迫る。
少女を抱いた視界では、たたらを踏むように避けるのがやっとだった。
下ろすぞ、と短く合図して、自分の後ろ側へとアリスを立たせる。
「こんな娘相手に寄ってたかって、見っともない。
何が目的だ? 全員まとめて風紀委員へ突き出してやろう」
右の半身を向けたまま、空の左手をぶらりと遊ばせる。
アリスに向けた指先が小さく動いて、何か頼む、と合図しているようだった。
アリス >
「…わかったわ」
耳打ちされ、後ろ側に下ろされるとタイミングを見計らう。
鉄パイプ。鉄パイプと言われたけど、素材は何がいいのだろう。
曲がったり折れたりしなければいいのだろうか。
『金だよ、金ぇ!! 黙って死んどけ!!』
主犯は汚く罵りながら姿勢を起こすと、手刀をまるで鈍器でも振り下ろすかのように振るった。
その瞬間、錬成した工事現場の足場を組む時に使われる鉄に亜鉛メッキのスタンダードな鉄パイプを錬成して渡した。
冷静に喋りながらも、鼓動は跳ね上がっている。
ヨキ > 金という一語が声高に叫ばれた瞬間、ヨキの額には青筋が浮かんだようだった。
後ろ手に受け取ったパイプのひやりとした感触に、事情を察して握り締めた。
「なるほどな。――上々だ!」
たった一本の棒きれを受け取った瞬間、地面を踏み締めた足が安定した。
体術よりもずっと慣れて見える身のこなしで、鉄パイプを勢いよく頭上へと掬い上げる。
振り下ろされる手首へ向かって、一直線に――まるで刀でも手にしたかのように。
「異能を金に使うつもりなら……ますます許してはおけんな!」
アリス >
ギンッ、と音が鳴った。
振り下ろされる手刀は、確かに鈍器のような破壊力を秘めていた。
それは振るわれた鉄パイプと拮抗する、しかし。
『あ、ぐ……!』
正確に手首に向かって振るわれた鉄パイプは、
異能で強化されていて尚、関節を容易に破壊してしまう。
『お前の許しなんか、要るかぁ!!』
剛の蹴りがヨキの脇腹を狙って振るわれる。
最早半狂乱。しかし、手負いの獣の渾身の一撃。
「私はあなたに屈しない…!! 絶対に!!」
心からの叫びを、自分を誘拐した男に向けて。
ヨキ > 振り上げたパイプが手首を打つと同時、素早く引き戻して構え直す。
顔の横に立てた八相の構えで相手を見据え、次の攻撃に備える。
守るべき学生を後ろに置いた男の顔は、脅しにも微塵も揺れることがなかった。
無暗に力の入った蹴りならば、避けることは容易い。
「――眠っていろ!」
放たれた足の真横を擦り抜けて――鉄パイプで横薙ぎの一閃。
男のこめかみを狙い、剣術よりはむしろ鈍器のためのフルスイングを放つ。
アリス >
蹴りが空振りに終わる。
コメカミを強打され、全身が強化されていたはずの男は。
最強を自負した悪党は。
『……っ!!』
何も言葉に残すことなく、気絶した。
一部始終を見ていた私は。
「終わっ……た」
腰が抜けてその場に座り込んだ。
ふと、傷薬を創り出して殴られた部分に塗る。
なんだかのん気ね。そんなことを自分を俯瞰しながら言い放つ自分がいた。
「あ、あの……ヨキ先生。ありがとう、助かったわ」
立てないながらも礼を、確かに言って。
「どこか、痛いところはない? 包帯も傷薬も作れるわ」
ヨキ > 頽れた男をしばらく険しい顔で見下ろしていたが、起き上がってこないと知るやようやく息を吐いた。
握り締めていたパイプを地面へ転がして、背後のアリスへと振り返る。
「……待たせたな」
腰を抜かした彼女の前に跪いて、その小さな顔や身体に異状がないか確認する。
「どう致しまして。ヨキの方は大丈夫だ、ほんの擦り傷でな。それより……、
アリス・アンダーソンくん、で合っているかね? ご両親が心配していたよ」
気丈な様子のアリスに手を伸ばし、後ろへ回した手が彼女の背をそっと叩く。
「怖い思いをしたな。もう大丈夫だ」
アリス >
「え、ええ……私を…パパとママが?」
背中に優しい手が触れると、堰を切ったように涙が溢れた。
そうか、私は……怖かったんだ。
今の今まで気付いていなかったけれど。
「うっ……うわぁぁぁぁん!!」
泣き出す私にも、風紀の緊急車両の音が聞こえてくる。
安心感が、どうしようもなく弱い私をそのままに出していた。
パパとママは、私を探していてくれていたんだ。
ヨキ先生は、私を守ろうとしていてくれたんだ。
それが嬉しくもあり、申し訳なくもあり。
ヨキ > 泣き出したアリスの背を左手で支えたまま、右手で彼女の頭を撫でる。
「我慢しなくていい。今は君の方が大事だからな。
大丈夫。ヨキも皆も、君を守るために居るのだから」
自分の携帯電話を取り出して、風紀委員会へ連絡を入れる。
自らの身分と、現在地。窓から見えるもの。そして何より、アリス・アンダーソンが無事であること。
彼女が傷を負っているやも知れず、どうか手当てを、と頼むのも忘れずに。
通話を切ると、アリスの隣の床へ腰を下ろし、再び相手を見遣る。
彼女が口を開けるようになるまで、ゆったりと見守って肩を抱く。
アリス >
ヨキが丁寧に後始末の電話を終え、隣に座って自分を安心させてくれた後。
ようやく泣き終わり、泣き腫らした目でぼんやりと座っていた頃。
「ヨキ先生。私、本当に両親に愛されているか時々わからなくなるの」
「パパとママはずっと私を大切にしてくれていたのにね?」
「今日も、パパとママが私を探そうとしていなかったらって…ずっと不安だった」
ぽつぽつと呟く。
「いじめられっ子だったから、自信がなくて…」
「自信がないから、誰かのことも信じられなくて」
「でも、パパとママは心から私を心配してくれてるんだって…思ったら、泣いちゃった」
肩を抱いてくれる恩人に、微笑みかけて。
「本当に、ありがとう……ヨキ先生っ!」
そう言って笑った彼女は、風紀に保護されていった。
犯人たちは連行され、島外で服役するだろう。
しかし、今はそんなこと。そんなこと。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」からアリスさんが去りました。<補足:金髪碧眼の一年生。(乱入歓迎)>
ヨキ > 少しずつ零される心情に、ひとつひとつ真摯に相槌を打つ。
アリスの身の上を知らぬ自分に、饒舌に語れるほどの言葉はない。
「ヨキが聞いているのは、君のご両親が大層切羽詰まっていたと……それだけだ。
あとは君がご両親に会えば、自ずと分かるだろう」
友人同士の密やかな語らいのように、穏やかな笑みをくすくすと漏らす。
「誰あろう、自信がないという君こそが今日のヨキを助けてくれたよ。
ヨキ独りでは、きっと負けていたやも知れん。
守るべき君が居たことは、ヨキにとっても心強かったよ」
別れ際に向けられた礼の言葉に、こちらも晴れやかな顔で応える。
「ああ。次は怖くも暗くもないところで、のんびりお喋りしよう。
――またな!」
爽やかに手を振って――やってきた風紀委員らと顔を見合わせる。
「……ふ。はは。あははは。また出しゃばってしまったよ」
頭を掻いて照れ笑いをするヨキに、委員が呆れ顔を向ける。
またですか先生、先生は教師なんですから、委員会に任せてくれなくては困ります、云々。
呆れられても、説教をされても、この男はちっとも反省しないに違いなかった。
ヨキはやるべきことを、やるべくしてやったのだ、と。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」からヨキさんが去りました。<補足:28歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールブーツ、黒サコッシュ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>