2018/06/06 のログ
ご案内:「図書館」にヨキさんが現れました。<補足:28歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた細身の袖なし白ローブ、黒ボトム、黒革オープントゥのハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > 閲覧席のひとつにパソコンを持ち込んで、じっくりと書き物に励む大きな背中。
時刻は午後、日没にはもう少し猶予がある。
学生らは未だ多くが授業に出席している時間帯であるから、館内には空席が多い。
現に、ヨキの左右もがらりとして静かだ。

端末上にに表示されているのは、異能を用いた芸術に関する論文だった。
キリのよいところまで書き上げると、画面から顔を離して椅子に凭れる。

「――ふう」

画面と睨めっこしていた目を深く瞬きして、鞄の中から取り出したペットボトルの茶で喉を潤した。

ヨキ > ペットボトルを規則通りにすぐ鞄へ仕舞い込むと、背後に広がる書架を見渡す。
端末にロックを掛けておくのも抜かりなく、座席を立つ。

もう少し文献が欲しいと思い立ったらしく、整然と並ぶ本の合間をのろのろと歩き出した。
目的の分野へ一目散に向かうのも悪くないが、こうして背表紙を眺めて歩けば、掘り出し物も見つかるというものだ。

ご案内:「図書館」に朝宮 小春さんが現れました。<補足:165cm/茶色の髪を大きな三つ編み一本/ワイシャツタイトスカート/メガネ/生物教師>
朝宮 小春 > 元々、元来の資質は文系寄りだった。
昔から小説の類が好きであったし、語学分野にもそれなりに強い。
ただ、どうしても家系が、血筋が……理系の研究職であったから、それに憧れて理系に進んだ人間である。

彼女が科学を愛していても、科学があんまり愛していない。

新しい研究結果の論文が出るたびに読み進めるのだが、読み流すようにスラスラ読むことなどなかなかできない。
難解な言葉を辞書で引きながらコツコツと。


外の蒸し暑さと違う、そこそこの陽気の中で辞書を捲って論文と向き合う……
勝敗は先に決していたと言ってもいい。


辞書のページを捲りながらその場で硬直して、一切動かない生物教師がそこにいた。
目を閉じたまま、すー、すー、とほんのわずかな寝息が聞こえる。


メガネは顔から外れ、机に落ちていた。

ヨキ > 片手で持てるだけの、いくつかの本を見繕って座席に戻ろうとしていた頃。
見覚えのあるシルエットを見かけて、んん?とそちらへ足を向ける。

「やあ、朝み――……」

微動だにしないその様子に、眠っていることはすぐに知れた。
かといって、女性の身体をみだりに触れるようなヨキではない。
背を丸めて相手へ歩み寄り、その耳元にそっと囁き掛ける。

「朝宮。風邪を引くぞ」

口元に手を添えて、内緒話のように。
もしも目を醒ましたなら、以前よりも少しだけ雰囲気の明るんだ、まるきり人間の姿かたちをしたヨキの顔がそこにある。

朝宮 小春 > こっくりこっくり。熟練の技のように殆ど動かないままの彼女であるが、声を耳にかけた瞬間にぴくり、と身体が震えた。

「ふぁい、寝てません。大丈夫です。大丈夫です。」

がばりと顔を上げて、脊髄反射の言葉が飛び出す。
背筋がピン、となって慌ててメガネを探し、ぱたぱたと手を伸ばしてそのメガネを弾き飛ばして床に落とす。

絵にかいたようなダメ学生(教師)は、……メガネの落ちる音ではっ、と我に返った様子で。
………ヨキの方を見ることができぬまま、耳が急に赤くなっていく。

「………ん、っんん。」

取り繕うような咳払いが出た。

ヨキ > まるで自分の学生を見ているような顔をする。
彼女が赤くなるまでの一部始終を見届けたのち――くつくつと、喉を鳴らして笑った。

「く、ふふ……ふふふ。相も変わらず、君は目が離せんな。退屈しない」

床に転げた眼鏡を拾い上げ、レンズが割れていないことを確かめてから相手へと差し出す。

「今度こそ、おはようございます。朝宮先生?」

冗談めかした声からして、堪えた笑いが滲んでいる。

朝宮 小春 > 「………ぅう、す、すいません。」

メガネを受け取ってまず出てきた言葉がそれだった。
ここは学園で、自分は教師であり、そして相手は先輩である。
これ以上に失態はあろうか。いや本当はたくさんあるけどそれは置いといて。
情けない教師と言われても反論などできまい。

「……お、おはようございます。 いや本当、さっきまでは起きていたんですけど。
 …………いえ、結構経ってますね。」

慌てて言い繕おうとして時計を見て、その目が一気に曇る。
肩を落として……いうなればいつもの彼女である。

それこそ、様々な人間の入り乱れるこの学園の中で群を抜いて鈍感な彼女が、ヨキの変化に目敏く気が付くはずもなく。
何かいいことあったのかな、程度の収まりである。

ヨキ > 「はは、気にするな。ヨキとて小難しい本と向き合えば眠くもなる。
 授業中に眠りこける学生の気持ちも理解出来るというものさ」

赤面から落胆まで、流れるように表情が変わる。
あまりからかいすぎるのも考え物だ。

ヨキはといえば、すっかり人間の姿に馴れきっているらしい。
指摘されなければ自分から言い出すでもなく、普段どおりの調子で話を続ける。

「君は何か、勉強の真っ最中だったか?
 もしも図体の大きな男が邪魔でなければ、隣に座ってもいいかね」

すぐ向こうに座ってたのさ、と隣の区画を示す。
空いた座席に、ヨキの荷物が置き放しにされている。

朝宮 小春 > 「うう……。」

有難い。気にするなと言われてこれほどありがたいことは無い。
でも申し訳なくて、すぐにお礼の言葉は出てこない。少しだけ唸って、はい、とだけ小さく答える。

「あ、……はい、異能の研究で新しい論文が出たと聞いたんですけれど……
 ちょっと難しくて。
 こうやって合間合間に読むようにはしているんです。」

少しだけ苦笑しつつ、ぺろ、と舌を少しだけ出して。
以前背中を押されてから、小難しい本を読んだり、パソコンに向かい合う機会が増えた。
研究は遅々として進まず、それこそ個人の趣味の範疇から出ていないけれども。

「あ、もちろん大丈夫です!
 その、寝ないように見張ってもらえるんです?」

あはは……、と、バツが悪そうに笑いつつ、メガネをしっかり付け直し。

ヨキ > 「なるほど、論文か。熱心でよいことだ。
 ヨキも今ちょうど、『異能を用いた芸術』について一本したためていたところでな。
 日進月歩とはよく言ったものだ、次々と新しい解釈が出てきては追い付く暇もない」

隣への着席を快諾されると、朗らかに笑う。

「ありがとう。
 そうさ、君が寝ないようにヨキは見張っておるし、
 君はヨキの執筆が脱線しないように見張っていてくれればよい。
 何しろここは、興味を引かれるものが多すぎてな」

言って、一旦元の席から荷物をまとめて取ってくる。
獣人であった頃よりかは、肌の色つやがよく、身長がわずかに低くなった。
最も目立つ変化といえば、顔の左右に垂れ下がった犬の耳がなくなったことだろう。
とは言え、風変わりな服装もくしゃくしゃの癖毛も、そのままではあるのだけれど。

朝宮の隣の机に、パソコンや鞄を置いて座り直す。

「それで、学生らと向き合うことに少しは慣れてきたかね?
 君はいつも真面目に打ち込んできたからな」

朝宮 小春 > 「……全然分からないんですけどね。
 うう、いや、全然じゃない。全然って言ったら本当に分からなくなるから……」

ぶつぶつと呻く。
まずは心から負けそうになっているのを、何とか振り払って。

「分かりました……。私だって頑張ると言った手前、隣で寝てはいられませんし。」

メガネをかけて、しっかりと気合を入れて、頬をぱちんと叩いて。
寝ぼけていた自分に気合を入れつつ、ヨキ先生の座る椅子を引いて待つ。
というところで、ようやく相手の変化に気が付く。
おや……、と、じぃぃ、っと眺めてしまいながら、隣に改めて座って。


「……ぁ、ああ、ええ、そうです、ね?
 ………慣れては来ましたけど、慣れれば慣れるほどいろんなことができてないのが分かるので……」

視線は外さぬままに、はふ、とため息。

ヨキ > 「異能については、まだまだ不可解な点も尽きんからな。
 当の研究者らも、答えが見えぬままに自説を検証し、論文にまとめているのだ。
 専門外の人間が一朝一夕で理解できるような内容でもあるまい。
 とは言え、ヨキはそんな君を大いに応援しているのだがね」

再び開いた端末の、打ち込んであった論文をざっと見直す。

「至らなさを知れることは、自分が成長している証拠だ。
 慣れに甘んじていては、自覚も鈍ってきてしまうからな。……」

そこで、自分の顔をじっと眺める目線に気付く。

「……おや、何だね?
 可愛い瞳に熱烈に見られては、君に恋してしまいそうだよ。
 それより先に、君がヨキに夢中になりかねん」

でかい口なら言うこともでかい。

朝宮 小春 > 「……そうですね、自説を持っていれば誰もが研究者となれますし。
 私の場合、先達もいるわけなんで、もうちょっと頑張らなきゃ、と思うんですけどね。

 ……でも、応援されているからには、ちょっとこう、やるな、ってところを見せなきゃいけません。」

今のところ、「やるな」と思われるのは堂々と図書館で寝こけていたことくらいである。
汚名返上といかねばならない。
拳をぐ、っと握って見せる。

「………あ、いえ、その。
 って、何言ってるんですか。」

頬を赤くしながらぺふん、と肩を叩いて。もー、と苦笑を浮かべる。

「ええと、ほら、その。
 ………出し入れ自由な感じ、ですか? こう、そういう………」

両手を頭に当てて、ほらほら、と耳を示す。
ある意味この島にいると、何でも不思議なことは「そういう力ね」で済ませてしまうようになりがち。
ある意味、慣れに甘んじている。

ヨキ > 「ヨキの方は、君の真面目さを十分すぎるほどに評価しているんだがな。
 困難でも諦めずに居られるだけ、大層な努力家だとも。
 たとえ実を結ぶのが遅かろうと、必ず報われると思っている」

赤面する朝宮にくすくすと笑うけれども、根っからの冗談を言っているつもりでもないらしい。
相手の指摘を受けて、ようやく思い至る。

「――ああ。そういえば……そうそう。
 いつだったか、君と泳げるようになる話をどうこう交わした後だったかな。
 “色々”あって、人間になれたんだ。

 おかげで鼻は利かなくなってしまったし、耳もすっかり引っ込んでしまったよ」

いやあ、と頭を掻いて照れ笑い。
種族ががらりと変わるのは不思議の中でも弩級だが、ヨキはヨキで「そういうこともあるのさ」と言わんばかりの顔だった。

朝宮 小春 > 「まあ、実を結ぶかどうかと言われてしまえば、きっとこう……
 自分が思い描いたようなものは、結ばないかもしれないんですけど。

 ……もちろん、いつか何かを形にするんだ、という気持ちはありますが、
 でも、やりたいことがあって、それがいくら汲んでも尽きそうにないのは悪いことじゃないかな、って。
 最近は、そんな風に考えるようにしてます。」

あはは、と笑う。
鮮やかに何もかも解決、とは何がどうひっくり返っても出来ないけれど、それはそれ。

「………あ、そうなんです、ね? 人間に………。
 ええと、………」

相手の顔色を窺う。どうやら、そんなに悪からぬことなのだろう、と想像する。
相手が苦し気で無いのであれば、少しだけ肩の力を抜いて。

「とはいえ、……そんなに変わらない、んですかね?
 実際、鼻ってどのくらい効いたんです?」

首を傾げながら、軽口で尋ねてみる。
なんだかんだで彼女も女性。匂いは気になるものだ。

ヨキ > 「そうだな。
 無気力に陥ってしまうよりは、どんなに小さなことでも絶え間なく続けていられた方がいい。
 この島にはそんな、心を満たせるだけの物事で溢れている。
 そう考えられるようになった君なら、結果は自ずとついて来るだろう。
 それで、今はまた何か目標にしていることがあったりするのかな?」

問いつつ、人間になった変化についてはにこにこと機嫌がよい。

「犬の嗅覚であった頃は、それこそ職員室からここまで君の匂いを追ってくることも出来たぞ。
 今やすっかり人並みで……君は変わらずよい香りがする、ということくらいしか分からなくなってしまった」

だがね、と付け加えて、相手の目をじっと見返す。

「その代わり、『色』が見えるようになった。
 犬の目がどれほど味気ない視界であったか、君に見せてやりたいほどだ。
 見るものがみなあまりにも華やかで、目玉が爆発するかと思ったよ。

 だから君の肌も目も、髪の艶も、今ではよく見える。
 ヨキは今まで損をしていた。これまで思っていたより、君はずっと美しいとね」

歯を見せてにんまりと笑う顔は、どこまでも晴れやかだ。

朝宮 小春 > 「………」

目標を問われて、一瞬口ごもる。

「………泳げるように……
 あと、その、………もうちょっと痩せ……?」

凄く褒められた後でバツが悪いのだけれど、にこにこと笑顔の相手に嘘もつけない。
目標、なんにも変わってません。
むしろ悪化しました。
ロキ先生の懺悔室である。

「……そんなにですか?
 いや、まあ、確かに犬の嗅覚ならそれは頷けるんですけど。
 ………いやまあ、その。」

自分の匂いの話題になれば頬が赤くなり誤魔化そうとする。
いや清潔にしてるつもりではありますよ! ええ!

「………あ、そういうことだったんですね。
 …なんだろ、分かっていたつもりなんですけど。
 改めて言われると、そうだったんだ、なんて驚いちゃいますね。すみません……。

 ………あ、あんまり褒めたって何にも出ませんよ?」

ストレートな誉め言葉に、照れ照れと照れて論文に目を落とす。

「…あ、えっと、じゃあ泳ぎとか運動は前より苦手になったりとか……?」

誤魔化すように、相手に問を投げかける。

ヨキ > 「泳……?何だ、まだ金槌であったか!安心したぞ。
 ヨキもまだまだこれからであるでな。
 それから、痩せたいというのは……」

思わず相手のボディラインを一瞥してしまう。
すぐに顔へと視線を引き戻して、

「男のヨキからすれば、君はこれ以上なく魅力的なのだがな。
 君が痩せたいと言うのなら、止めはせん。
 あまり褒めすぎても、女性には気色悪かろう……」

心なしか残念そうにしている。前々から嘘を吐くのは下手だが、隠すことも下手だ。

「……む。体臭の強弱ももちろんあるが、君の場合は違うぞ。
 人並みであっても、誰かが歩いた跡を追うのは造作もないことであったよ。
 それに、君のように見知った相手の香りはより馴染み深いでな。

 ヨキは見返りのために人を褒めることなどせんよ。自分がそうと思ったから、口にしているだけさ」

これまた平然としている。

「手足の力や、体力は確かに落ちたな。以前は疲れ知らずであったから……。
 泳ぎは、どうかな。人間になってから、まだ海へ出ておらんのだよ。
 今年の夏はそろそろ試しどきやも知れん。

 何にせよ、人間になって失ったものは多いが、得たものの方がずっと多い。
 こんなに晴れやかな毎日を過ごせるとは思っていなかったよ」

そこで時計を見遣って、おや、と呟く。

「ふふ、少し話しすぎてしまったかな。
 そろそろお互いに、少しばかり作業に戻るとしようか」

笑って、自分の端末と相手の論文とを指し示す。

朝宮 小春 > 「…そ、そうなんです。いや、浮くところまではいけたはずなんです!」

拳をぐっと握って己の進歩を力説しつつ。
相手の目線には、また頬を少し赤らめて。

「……まあ、その、気を抜くと大変なんで。
 そのためにも、しっかり泳いで、と思っているんです。」

残念そうにされれば、くすぐったそうに頬を抑えて。照れてしまう。

「あ、……なるほど。
 知っている人の匂いもわかるんですね。……よかった。」

胸を押さえてほっと一息。匂いの強弱は自分では分からない。

「あ、……じゃあ、今度海にでも行きましょうか。
 泳げなくなっていたとしても、一緒に練習しますから!

 ……泳げるなら教えて貰うってことで……。


 ……あ。
 すみません、お時間取らせちゃいましたね。
 では、ちょっとがんばります。 しっかり眠気も覚めましたし。」

ご機嫌な言葉と笑顔には、こっちも笑顔。
よーし、と頬をぺちと叩いて。………辞書と向かい合い始め。

ヨキ > 「ヨキも泳ぐ心地というものを体感してみたくてな。
 せっかく十全な身体を得たのだから、試せることは全部やってみたいのだよ」

今度海にでも、という誘いには、顔中をぱっと輝かせる。

「――本当かね?嬉しいな。
 知った相手が一緒なら、練習にもやる気が出るというものだ。
 君の痩せる目標も、現実味を帯びてくるだろう?
 ふふ、楽しみにしていよう」

端末上に立ち上げてあったタスクリストに、何事か書き込む。
箇条書きで短く並ぶのは、ヨキの「やりたいことリスト」らしい。

「ヨキも集中しなくてはな。
 次の鐘が鳴るまでは、ひとまずもうひと頑張りだ」

そう告げるのを最後に、再び画面と向き合う。
肩の力も抜けて、どこか和やかな横顔で。

ご案内:「図書館」からヨキさんが去りました。<補足:28歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた細身の袖なし白ローブ、黒ボトム、黒革オープントゥのハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ご案内:「図書館」から朝宮 小春さんが去りました。<補足:165cm/茶色の髪を大きな三つ編み一本/ワイシャツタイトスカート/メガネ/生物教師>