2020/07/18-2020/07/19 のログ
ご案内:「異邦人街」に羽月 柊さんが現れました。<補足:後入歓迎:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。くたびれた白衣。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >  
「ええ、爪切りはこれで…。
 いえそんな、私に出来ることがあれば何なりとお申し付けください。」

異邦の街。
立派な馬舎のような建物がある所から男が出て来て、愛想笑いをしている。
外向けの顔、外向けの言葉。
丁寧に頭を下げ、扉が閉まるのを待つ。

……小型竜が専門だというに、客の所で昔の知識柄でつい普通の竜の話に口を出したのがまずかった。
知り合いの竜乗りの飼竜のメンテナンスを頼まれたのである。


扉が閉まった後頭を上げると、じゃれつかれてぼさぼさになった紫髪を手で梳いた。

羽月 柊 >  
外は夕暮れ。

営業やら客への巡り仕事がひと段落を迎え、
セミの声が鼓膜に張り付くような中、帰路を歩いている。

どこかに寄ろうか、そんなことを考えながら。

異邦人街は歩き慣れた。
紫髪に桃眼の自分の見目では、こちらの街に居てもさほど不自然には思われない。

「……寄る場所が一つ無くなったんだったな…。」

とある家の前で足を止めて見上げていた。

羽月 柊 >  
この家の前を通ると、いつも爺さんに呼び止められた。

まぁまぁ話でも聞いていかんか、なんて言われるままに
仕事帰りに良く長話で捕まっていたものだ。

その話は大体が大嘘で、到底信じられるモノではなかった。
研究者の自分からしてみれば馬鹿馬鹿しい話も山ほどあった。
何度思わず矛盾を指摘したのか覚えてすらいない。


ホラ吹き爺さんと呼ばれていたその御仁は、
そんな自分の生意気な態度も意に介さず、本当に良く声をかけてくれた。

仕事が失敗して項垂れた時も、
取引先に失礼をして冷や汗をかいた時も、あの間の抜けた呼び声が――。


今でも、聞こえるような、気がした。


気がしただけだ。


風の噂で、その爺さんが亡くなったと知ったのだから、
もう声をかけられることは無い。

羽月 柊 >  
時間の歩みは残酷だ。
自分たち定命のモノは、こうやって嫌でもそれを思い知る羽目になる。

自分が居なくなった時、どうするかという思いも頭を過る。

自宅に保護している小竜たちのこと、息子のこと。
確かに万一の時の引き取り先は決めてはあるが、それだって万全とはいかない。


しばらくその家を見つめた後、踵を返して背を向けた。

「…馬鹿のような話だが、楽しかったとも、爺さん。」

素直になり切れない自分だが、もういない故人に最後の餞の言葉を送り、歩いていく。


――…夏は、苦手だ。

ご案内:「異邦人街」から羽月 柊さんが去りました。<補足:後入歓迎:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。くたびれた白衣。小さな白い竜を2匹連れている。>