2020/07/19 のログ
ご案内:「ソロール:夢」に胡蝶の夢さんが現れました。<補足:それは誰かの軌跡>
胡蝶の夢 >
蝶が飛ぶ。
夏の夜、僅かに光を放ち、蛍のように不確かに。
『どうしてだ、 ……!!!』
いつかの慟哭に、その身が刻まれるまで。
胡蝶の夢 >
蝶は桜の木の下を飛んでいた。
卒業証書を手にした青年が、それを追い越すように駆けていく。
随分と背が伸びた。
幼馴染だった女性が卒業して島を出て、それから数年。
四苦八苦しながら彼も漸く、島を出られる。
荷物をまとめよう、いや先に連絡か?
昨日だって連絡したじゃないか。
早く に逢いたい。
どう足掻いたって浮足立ってしまう。
就職先は生憎彼女がいる研究所とは別になってしまったが、
なんだって良かった。
黒い髪に赤い眼の、彼女の笑顔。
その隣に、また居られるんだから。
胡蝶の夢 >
男子寮に帰って、荷物をまとめながらスマホを操作する。
「もしもし ? あぁうん。俺。
いやいやちゃんと証書貰えたって! 疑うなら今度逢う時見せるからさ。」
青年の頬が自然と緩む。
軽口を叩き合って、ははっと1人部屋に声が響く。
たまにあんまりにも嬉しくて喋りすぎると、
隣室から壁を小突く音が聞こえたりして。
ただそんなお邪魔虫も、全然気にならない。
友人にも随分と茶化されたモノだけど、
本気だと分かれば、そうそう文句も言われなかった。
この数年で慌ただしくバイトをして、そこそこお金を稼いだ。
きっと彼女が仕事をして稼いだ額に比べれば、微々たる額だとは思うが。
多分、本州に渡ったとしても、何年かは仕事三昧だ。
だけど、『夢』があるから頑張れる。そう、信じている。
胡蝶の夢 > ――信じていた。
胡蝶の夢 >
蝶の羽根の、ほんの一片が欠ける。
まだ飛ぶのに影響は無い。
けれど、その蝶の起こす風向きが、僅かに変わる。
「 、■■山の麓とか良いと思うんだ。」
すっかり大人同士になった男性と女性が、レストランで食事をしながら話している。
同じ位だった背丈は男がすっかり追い越し、
元気いっぱいだった少年も、泣き虫だった少女も、子供の面影は鳴りを潜めていた。
「結局、独立して研究所を建てるとして、研究対象は絞るんだろ?
島に帰るのも手だけど、 がこっちでやりたいなら俺は反対しない。」
『…そうね、島に帰るのは確かに良いけれど…。
やっぱり私は、こっちで自分の力を試したいの。』
赤い瞳は、真剣に真っすぐに男を見ていた。
「…いいよ、 の好きにしていい。
そのために俺がいるんだからな。」
その真剣さに、誰がNOを言えただろうか。
胡蝶の夢 >
『ありがとう、 と一緒に研究所立ち上げる夢、やっと叶うね。
そういえば魔術もすっかり上手くなったよね、 。
昔は魔術使うのに指鳴らしだって満足に出来なかったのに。』
女性がころころと笑いながら、食事は進んでいく。
あの日食べた味は、今ではもう思いだせないけれど。
「それはもう言うなって……鳴らす音がイメージ構築に楽だからって言われて、
まさか鳴らす方に苦労するとは俺も思わなかったんだから…。」
からかわれて、照れたように苦笑を浮かべる。
大事なことが決め終わり、食事もそろそろ終わろうか、という頃。
「……あのさ、 。渡したいモノがあるんだ。」
そう言って、男は真剣な表情をして鞄を開ける。
胡蝶の夢 >
取り出されたのは、小さな箱。
え、と口に手を当てる女性の前で、
男は両手で、ゆっくりと箱を開けた。
「……ほんとは、指輪にしようと思ったんだ。
だけどさ………まだ俺、研究者としては半人前だし……。」
箱の中にあったのは、金色に光る――ピアスだった。
あの時、まだ若かった。
指輪でしっかりと繋ぎ止めて置けば、結末はまた変わっただろうか?
「これさ、ペアのピアスなんだ。二人で一個ずつしようって。
二人で一つみたいな、…だから、二人で一人前みたいなさ。
いつか研究が成功したら、その時は、ちゃんとした指輪を贈るよ。」
いくらそう思っても過去は変えられない。
嬉しそうに受け取る女性も、顔を真っ赤にしている男も、
これが何一つ、間違っているとは思っていなかった。
胡蝶の夢 >
二人が幸せそうなレストランの窓の外、蝶が飛ぶ。
僅かに覚束ない飛び方で、ゆらゆらと。
追いかけてみれば、また――見失ってしまった。
ご案内:「ソロール:夢」から胡蝶の夢さんが去りました。<補足:それは誰かの軌跡>