2020/07/20 のログ
ご案内:「特殊領域 接触-第一円」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >
黄泉の穴。
魔術学会に属するモノとしては、
忌むべき場所であり、同時に興味をそそられる場所。
『羽月、奥へ行ってミロ、面白いモノガ見れるゾ。』
落第街の昔の知り合いに唆されて、柊はその場所へ来ていた。
光の柱が多数立つ、本来なら黄泉の穴には最早差し込まぬ光。
「………確かに面白いが…、…しかし、何か……なんだったか…。」
柱の付近まで歩を進めると、竜の仮面を外し、それを見上げた。
何かを思い出すような引っかかりを覚えていた。誰かが噂していたような。
知り合いは『面白いモノ』としか形容していなかった。
あいつはまぁ、知りたかったら体験してみろとでも言いそうだが。
「………、……。」
それを睨むように桃眼が見る。
研究者は、好奇心には抗えない。
柊は、惹かれるように柱に手を伸ばしていた――。
胡蝶の夢 >
―― 蝶が、飛んだ。
(1 http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca1752.html)
(2 http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca1812.html)
羽月 柊 >
『 、 ?』
誰かが呼ぶ声がする。
『"柊"! どうしたのよぼーっとして。』
羽月 柊 >
ハッとする。周りを見回す。
辺りには今まで立っていた廃墟も、瓦礫も、存在せず。
鈍色の景色が徐々に色を帯びる。
きちんと掃除された部屋。
目の前には数値を叩き出す装置と、延々紙を吐き出す装置。
それらが接続されている機械には卵状の赤色と青色の宝石と思しき石が二つ。
計器のガラス板に反射する柊の姿は、今のような紫髪に桃眼ではなく、
茶髪に茶眼の、日本人らしい姿だった。
『もう柊ったら、卵が気になりすぎて徹夜してるでしょ最近。』
そう言って、隣でくすくすと笑う女性。
「あ、あぁ……悪い。 。」
――そうだ、彼女は。
――いつだって、隣に居た。黒髪に赤い瞳の。
「だが、"香澄"だって、似たようなモノだろ?」
羽月 柊 >
そう言って苦笑を返して、二人で笑い合う。
香澄。……読戸 香澄(よみど かすみ)。自分の幼馴染。
ここは日本本州にある、二人の研究所。
まだ立ち上げたばかりで、毎日機材や研究資料の運び込みに忙殺され、
おまけに頼んでいた"卵"が届いたという報せに、
一旦部屋を片付けてそっちに手を回さざるを得なくなった。
しかしそんな忙しさだって苦という訳ではない。
隣には彼女がいる。
それが何よりのこと。そう、それこそが、羽月 柊の、『理想の世界』。
「この調子なら、数日後だろうな。この卵。」
研究所を立ち上げて、何か取っ掛かりの為にと知り合いなど方々を当たった。
その中で最初に当たりを引いたのが"竜"だった。
異世界研究の中でも竜はかなり特別な位置にある。
多種多様な異邦の動物種に絞り、そこから更に竜に。
竜は第一希望といった具合だったが、まさか本当にその希望が通ってしまったのだ。
順風満帆。これ以上何を望もうか。
羽月 柊 >
『そうね、卵が孵ったら色々考えなきゃ。
やっぱり柊は保護を第一にするの?』
計器の様子を手元のクリップボード上の紙に書き込みながら、香澄が柊を見上げる。
そんな彼女の左耳には金色のピアスが光っている。
「そうだな……竜の希望が通ったのなら、俺はやっぱりそれかな。
やっぱりさ、可哀想だろ。俺たち人間の都合で親無しになったりするのは…。
守人の真似事なのは分かってるが…それでも、さ。」
竜の素材は元々、
謂れが付くだけでも魔力的意味を持つほど高価だった。
だからこそ竜という強大なモノを、どれほど危険でも密猟しようという輩は後を絶たない。
そうしてそれは、稀に成功してしまうのだ。
異能や魔術が蔓延ったこの世界では、竜が負けることもさして不思議ではない。
御伽噺や絵空事の産物だった幻想の住人達は、
《大変容》の後、そうして度々惨劇の当事者となっている。
そういう部分はこの理想の世界でも変わらぬままだった。
羽月 柊 > 『………――、――。』
羽月 柊 >
『…今まで私の我儘を聞いてもらったんだもの。
今度は、柊がやりたいことを私が応援するわ。隣でね?』
そう言って、香澄は綺麗に笑った。
もう泣き虫な彼女はいなかった。
それからなんてことない二人の日常が流れる。
孵った双子の竜にセイルとフェリアと名付けた日。
保護としての試行錯誤、公の場での発表。
帰ると迎えてくれる幼馴染。
苦楽を共に、彼女と一緒に過ごせる。そんな幸せを。
羽月 柊 >
いつしか理想は、二人の左手の薬指に――。
「……香澄、絶対、幸せにするから。」
婚約指輪を贈った。
そう言って、互いに顔を赤くして、彼女の左手を取る。
羽月 柊 >
左手を見て、もう一度、確かめるように、顔を上げた。
「かす、……………み。」
羽月 柊 >
――違った。
顔を上げた時に見えたのは、香澄じゃない。
そこに居たのは、そこに居るのは。
――良く似た、別の、"バケモノ"。
羽月 柊 >
「―――ッ!?」
違う、違う。チガウ。思いだしたくない。
いいや違わない。彼女を自分から奪ったのは誰だ。
―― 鴉の、鳴声がした ――
理想は、理想。かつての夢の果てた痕。
ああ、思いだしてしまう。
どれだけ嫌だと駄々をこねても、現実は残酷だ。
自分にとっての"敵"が、誰なのか。
目の前のソレが、何より教えてくれるではないか。
羽月 柊 >
黒い髪に、赤い瞳の。
『お父さん』
ソレが。
羽月 柊 >
己の"敵"を思い出した瞬間、ガラスが割れるように、世界が壊れた。
手を取り合っていた彼女の残滓は離れ、
柊に背を向け、遠ざかっていく。
「――ッ!! まて、待ッ……!」
胡蝶の夢 >
ソレを追いかける柊の後ろ、蝶はついていく。
その先に至るは、夢か、現か――。
ご案内:「特殊領域 接触-第一円」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】茶髪茶眼の男/23歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。白衣。>