《第二円》
第一円とは真逆、侵入者のトラウマ、
最も見たくないものを再現した世界を疑似的に作り上げ、そこに侵入者を送り込みます。
それは過去の経験であったり、
時には目を背けたくなるような行動をした自分自身かもしれません。
無くしたくないものを最悪の形で失うような、想像しうる最悪な未来かもしれません。
それらは貴方の経験や記憶、そして知識に補完され、
現実の物よりも更に激しく、暗く、そして鋭く貴方の無力感となり
何度も何度も貴方へと突き刺さります。
この世界は貴方を無力な貴方へと否応なく引き戻します。
それに逃げ場はありません。他の誰を騙せたとしても、
貴方自身からは逃げられませんから。

脱出の条件は
「決別」

忌むべき記憶と思い、それを振り切る事が出来るかは貴方次第。
無力な貴方は今、どんな顔で今の貴方を眺めていますか。

2020/07/21 のログ
ご案内:「特殊領域 第二円」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】茶髪茶眼の男/25歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。白衣。>
胡蝶の夢 > 蝶は飛ぶ。
(http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca1813.html)

羽月 柊 >  
走る、奔る。黒髪の後を追いかけて。
手は届かない。

いつの間にか暗闇を抜けていた。

不意に足がビシャリと水を跳ねさせる。天からは水が降り注ぐ。
雨だ……雨が、降っている。


「………っ!!」


――あの日も、暑い夏の日だった。


「……そんな…ここは――。」


――理想は消え、夢は、潰える。

羽月 柊 >  
黒髪のソレを見失った柊が辿り着いたのは、瓦礫の山だった。
かつて柊と香澄の研究所があった場所。



――見たくない。

残酷に、足は意識に反して歩を進める。

――見たくない!

足元の瓦礫の欠片を蹴飛ばす。

――嫌だ!

指をパチンと鳴らして、灯を付ける。

――やめろ!!!

羽月 柊 >  
 そうして、足がいずれ、踏みつけるのは、
 柔らかいぐにゃりとした感覚。

 雨でも全てを流しきれない、

  アカイ

  アカイ イロ

羽月 柊 >  
 
「ァ、あぁぁァあアァああウァぁァアア!!!!!」



錯乱した叫び声が柊の口から溢れる。
そこは地獄だった。

おびただしい数の小竜たちの死体が転がる。
踏みつけたのは、皆香澄の方に懐いていた子ばかりだった。

 誰がこんなことを?

 何故だ、香澄は、香澄は無事なのか?

小竜たちの死骸をどうにか踏みつぶさないように避けながら、
だが一部は、どうしても踏み越えざるを得ず、
その小さな体躯に体重を乗せれば、か細い骨が砕ける鈍い音が足から伝わった。

「―――~~~ッ」

何度も心で懺悔を繰り返しながら、
崩れずに残っていた建物へ進んでいく。

羽月 柊 >  
白衣がアカで汚れる。

だが構っていられない。


「香澄ッ!!!?」

無事でいてくれと建物に入れば、
眼に飛び込んで来るのは、信じがたい光景だった。

その建物は、香澄の私室だったはずだ。

その中でも、収納スペースだったはずの場所。

だがそこにあったのは、積み上げられた死骸の山と、
そこから抜き取られた内臓、壁にびっしりと竜の血で書かれた魔法陣、構築式。

鳥籠の中で暴れる鴉に似た何か。


その死骸の中央で

香澄が、不気味に笑っていた。

羽月 柊 >  
「香澄、無事、で……?」

安堵も束の間だ。彼女の手には儀式用と思しきナイフ。
身体は返り血でその瞳よりも赤い。

『あァ、柊………。』

柊に気付いて、ゆらりと香澄がこちらに向き直る。
灯の魔術に照らされて、彼女のもう一方の手には……セイルの尾が握られていた。

よくよく見れば、死骸の山の天辺にいるのは、フェリアだ。

どちらもぐったりとしている。まだ他の個体のように内臓は抉られてはいないが…。


「何、を、しているんだ……。」

そう、聞かざるを、得なかった。

羽月 柊 >  
『ふふ、強い竜を作ってるノ。』

その赤い瞳は爛々と輝いているのに、正気の光を灯してはいなかった。
強い竜と言われても、柊には疑問しか頭に浮かばない。

何を言っているんだ、香澄。

『今ね、"やり直し"してるの。
 一回目はね、失敗して"鴉"が出来ちゃったから。』

どうして笑っているんだ。

『ちょっと暴れたカラ、家壊れちゃった、ケド。』

『強い竜が出来たらネ、偉い人がお金ヲ出してくれルって言ったノ。』
 そうすれバ、モット竜が飼育できるじゃなイ?』

香澄は笑う、笑っている。
血の匂いの吐き気さえも掻き消すぐらい、
雨と血に濡れた身体も気にならないぐらいに、

まるで、別人のように思えた。

「何を、言ってるんだ……このまま少しずつ……やって、いけ、ば。」

自分が何を言っているのかよくわからない。

『それじャ駄目なの!! もっと認めてもらワナきゃ!!!』

そう叫ぶ彼女が何を言っているのかも分からない。

彼女はまた、ナイフを振り上げた。

この研究所最初の、双子に、それを突き立てようと。

羽月 柊 >  
 
 
「やめろ――ッ!!!」
 
 
 
思わずそう叫んで、手を伸ばした。

胡蝶の夢 >  
――だが柊が香澄に触れた瞬間、彼女は数多の蝶となり散った。

驚くより先に、足元の感覚があやふやになる。
赤色は、瞬く黒に塗りつぶされていく。

羽月 柊 >  
意識が胡乱だ。

自分の身体の感覚を掴み、黒の中でたたらを踏むと、
視界の端に、紫髪が見えた。

理想の世界で白昼夢のようだった感覚が、戻って来る。


目の前で散った蝶が集まり、茶髪茶眼の、かつての自分を形成する。

『……全て夢だと思いたかった。』

そう自分が喋る。

『どこで違えてしまったんだ。』


「……今でも、分からないとも。」

苦々しく、自分に答える。

今でも苦しんでいる。

胡蝶の夢 >   
"――そっか、あなたにとっては、過去であっても、まだ『終わっていない』のね"

不意に声が、聞こえた。
……そうだ、これは自分の過去だ。

胡蝶の夢 >  
そう頭に過った瞬間、まばらに声が聞こえてくる。

"これは終わり───じゃないでしょう!"

"納得もしたつもりだし、飲み込んだつもりではいるんですよ"

"割り切り。割り切りか。さてな、そのようなもの、ヨキには不要だ"


否定も肯定もまぜこぜに、手を伸ばすように。


"世は貴様らの愚かさも愛そう! 愛した上で、正すのじゃ。支配者とはそういうものじゃからな"

"勉強になりました。……是非、『また』"

"欲の獣にご注意ください"

"まぁ、そいつが何かしでかしたら俺も手を貸してやる。暇潰しにはなりそうだ"

"希望を捨てぬ事、抱き続ける事は立派な事ですし、そうあるべきだと思います"

"無茶しなきゃ『願い』に手が届かないのなら、私はいくらでも無茶しますから"


言葉が雪のように降り積もる。

"自らの死を、おそれはしないのか"

羽月 柊 >   
「……これをまだ、過去には出来ない。」

そう呟く。

眼前に突き付けられた絶望を、過去であるそれをまだ己は過去とは思えない。
それこそそうだ、理沙と同じく、納得して飲み込んだ"つもり"をしているだけだ。

だからこそ今、再現され苦しむ。

かといって英治のように足掻くことも出来ず、
シュルヴェステルのように悩むには時間が経ちすぎた。


ただ、それでも。

「それでも俺は、止まっている訳にはいかない。」

目の前にいる過去の自分は、今の自分を哀れに見ているかもしれない。
傷を抱えてでも、血を流し続けてでも、歩き続ける自分を。

だが、その歩みの上で出逢った縁がある。
どんな出逢いであれ、それは一度きりの出逢いでなく、『また』と言ってくれるモノも居るのだ。

羽月 柊 >   
「……だから、今は、さよならだ。」

きっとまたいつか思いだす。また苦しむ。
そう分かっていたとしても、再び柊は過去を胸に秘め、歩むと口にする。


その言葉と共に、目の前の自分が再び蝶となって散っていく。


散った蝶の一匹が、ひらひらと、柊に近寄って来る。

胡蝶の夢 > その蝶が柊に触れる。


 『おかえり、お父さん。』


テキ
息子の声と共に。
そうして、柊の意識は途切れた――。

ご案内:「特殊領域 第二円」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。血に塗れた白衣。>