2020/06/22 のログ
ご案内:「大時計塔」に神樹椎苗さんが現れました。<補足:黒基調の衣服、スカート。怪我だらけの自殺癖。時間や細かいシチュはお任せ。~0:00まで後入歓迎 ~6:00までRP可>
神樹椎苗 >
今日も静かな時計塔。
塔の上まで登って、椎苗はぼんやりとここから一望できる景色を眺めていた。
見渡せる常世島の光景は、控えめに言って気分のいいものだった。
「ここに忍び込んでサボる人間が多いのも、納得できないでもねーですね」
そんな景色を見下ろしながら、時計塔の下をのぞき込む。
下に人通りは少ない。
真下を歩いている人間なんてのはさらにいない。
これなら他人を巻き込む心配はなさそうだった。
神樹椎苗 >
椎苗の手元にあるのは、数メートルほどのロープ。
それの端を手近な柱に結び、もう一方を輪の形にして自分の首にひっかけようとしている。
この長さがあれば、落下の衝撃で首の骨が折れて速やかに死ねることだろう。
万一ロープが切れたりしても、高さがあるから即死は免れない。
そう、この日もやはり、椎苗は自殺のためにこの時計塔を登ってきたのだ。
「今日は邪魔が入らないといいんですが。
まあ、その時はその時で別にいーんですけど」
先日のように、気づかないところに人がいたり、タイミング悪く登ってきてしまった人がいたりするかもしれない。
ただ、それならそれで、椎苗としては見られても構うわけではないのだ。
運悪く止められてしまったら、それもまた仕方ない。
そしたらまた日や場所を改めるだけなのだ。
ご案内:「大時計塔」に日ノ岡 あかねさんが現れました。<補足:常世学園制服。軽いウェーブのセミロング。首輪のようなチョーカーをつけている。>
日ノ岡 あかね > 「面白そうな事してるわね」
いつのまにか、その女はいた。
猫のように足音すらさせず。
小鳥のように小首を傾げて。
薄く、女は笑う。
「ああ、『そういう』こと」
少女が何をするのか、所作と道具で『察した』のか……制服姿の女は、楽しそうに笑う。
女のウェーブのセミロングが、風に揺れた。
「邪魔はしないから、見学してても良いかしら?」
神樹椎苗 >
時計塔の縁に腰掛け、足を投げ出しながら、ロープの輪に首を通す。
あとは、軽く身を乗り出してお仕舞、といったところで声がした。
「……見世物じゃないですが」
面白くなさそうに声の方を振り向くと、学生らしい様子の女がいる。
同学年にいた覚えはないから、おそらく先輩の内の一人だろう。
「見学してても、面白いもんじゃないですよ。
特に首を吊るのは後が汚いし、後始末もめんどくせーです」
首に掛けたロープを引っ張り、結び目が解けないか確認しながら答えた。
日ノ岡 あかね > 「そうかしら?」
女はどこか嬉しそうに笑う。
「私、目の前で首吊り自殺なんて見たこと無いから、丁度それに立ち会えたというだけでもとっても面白いわよ」
楽しそうに女はコロコロと笑って、少女の顔を見る。
黒い瞳が微かに輝いた。
「私はあかね。日ノ岡あかね。冥途の土産にお名前教えて頂けるかしら?」
本来冥途の土産は生者が渡すはずなのだが、あかねは全く気にしない。
神樹椎苗 >
「そんな楽しそうにされると、見物料でも取りたくなりますね。
人が死ぬのを見るのが楽しみとか、趣味が悪いにもほどがあるんじゃないですか」
楽しそうな様子の女に、呆れたような表情を向ける。
「勝手に見物までしておいて、その上土産まで強請るとか、欲の皮が突っ張ってそのうち裂けるんじゃないですか。
お前の名前とか興味ないですし、名乗ったから名乗り返してもらえるとか思ってるんですか。
初対面の相手にその態度、けっこ―キモイですよ」
日ノ岡 あかね > 「ふふ、ごめんなさいね。私誰にでもこうなの」
全く気にする様子もなく、笑って少女を見つめ続ける。
目は逸らさない。
じっと、その様子を見ている。
「別に人死にばかりが楽しいわけじゃないけれど、私以外にとっても人死にはいつの時代だって娯楽よ? だから、闘技場も処刑場もいつも人で賑わっていたの。何も可笑しい事なんてないわ」
ニコニコと笑いながら、呆れ顔の少女を見ている。
ずっと、ただただ視線を注いでいる。
「だから、邪魔はしないし、好きにしていいわよ?」
神樹椎苗 >
「そうですか。
誰に対してもブレないのは、ある意味きちょーなんじゃねーですかね」
社会での多くの人間は相手や立場に対して、コロコロ態度を変えるもの。
その中で一貫して変わらない態度でいられるのは、まあまあ貴重だろう。
「言われなくても好きにするつもりですし、よけーなお世話ってやつです。
それに、歴史的には娯楽ですけど、しいのは娯楽として提供してるわけじゃないです。
娯楽にするつもりなら、やっぱり見物料置いてきやがれですよ」
パンパン、と、血の滲む左手で隣の床を叩いて、見物料を要求する。
日ノ岡 あかね > 「別にいいけれど、死ぬんだから使い道ないんじゃないの? 三途の川の渡し賃でいいかしら?」
そういって、少女の叩いた床に硬貨を三枚ばかり置く。
値段でいえば、まぁ自販機のペットボトルが二本程度は買える額。
それ程高くなければだが。
「今のあの世のレートがわからないけど、これくらいかしらね?」
冗談めかしてくすくすと笑う。
風に揺らされて、軽くスカートの裾が揺れた。
「懐に入れてあげましょうか? どこのポケットに入れて欲しい?」
神樹椎苗 >
「あ、素直に出すんですか、お前、意外といいやつですね。
まったくいい人には見えないですが」
置かれた硬貨を見て「パフェも買えないじゃないですか」と文句をいいつつ。
「今時の渡し舟はフェリーくらいでかいんで、維持費もかかるからこんなはした金じゃ途中で蹴り落されるのがオチです」
そう言いながらも硬貨はしっかり奪い取り、自分のポケットに押し込んだ。
「お前に介護される必要はないです。
見物料が安すぎて面白くねーですし、札束の一つでも用意し――」
そんな風に話している間に、ふんわりと、自然に前のめりになったと思ったら、椎苗の体は時計塔の縁から押し出されていた。
両手を床に着けたとたん、無意識に体を押し出していたのだ。
「――あ」
そんな間の抜けた声が聞こえた直後、椎苗の体はロープ一本に支えられ中空にぶら下がる。
ごきん、と鈍い音の一つも聞こえただろう。
日ノ岡 あかね > 目前で突如起きた悲劇をみて、あかねは「あら」と気の抜けた声をあげた。
そして、縁からぶら下がる少女……下手すると少女『だったもの』を見下ろしながら。
「大丈夫? リテイクする?」
呑気に、そう声を掛けた。
先程までとまるで同じ調子で。
「まだ辞世の句とか聞いてもいないし、多分心残りでしょ? そうでもない?」
マイペースに尋ね続ける。
元々、常世島は人死にが多い。
治安の悪い場所では比較的『いつものこと』だし、そうでなくても荒事は日常茶飯事。
あかねは大して気に留めなかった。
神樹椎苗 >
当然、ぶら下がる椎苗から答えは返ってこない。
落ちた反動と風によって、ぶらぶらと揺れているだけだ。
とはいえ、即死とて意識が完全に消えるまでにはラグが生じるもの。
声自体は椎苗にも届いていたかもしれない。
時間としては数秒か、数十秒か。
きっと数分もたてば、女はいなくなっていたかもしれないが、それほどの時間も必要なく、見下ろす女の隣に突然気配が現れた。
「心残りとか別にないですし、言い残す事だって特にないです。
……うわ、結構えぐいひしゃげ方してるじゃねーですか」
そんな他人事のように言うのは、今まさにロープで吊られている椎苗そのものだった。
自分で首を吊った自分を見下ろしながら、足元のロープを握って引っ張り上げようとする。
「あ、結構重たいですね。
しい、体重は軽い方だと思ってたんですが、やっぱり死ぬと重てーです」
そう言いながら、自分の死体を引き上げようと、ロープを握っていた。
日ノ岡 あかね > 「あら、『やっぱり』生きてるのね」
何でもないようにあかねは笑った。
中空で藻掻き始めた少女をみて、自分の尻尾にじゃれる子猫でも見るかのように笑っている。
「まぁ、『本当に死にたい人の物言い』じゃなかったものね」
軽く身を乗り出してその様子を確認して、目を細める。
「本当に死にたい人は誰かの制止なんて待ってくれないし、こんな誰かあっさり来るかもしれないところでは死なないものね」
だから、あかねは声を掛けた。
自分の死を止めて欲しいのか。はたまた最期に文字通りの『死華』を看取ってほしいのか。
いずれにせよ、必要なものは他者。
故に……日ノ岡あかねは声を掛けた。それだけのこと。
「大丈夫そうだし、私は行くわね。サプライズとしては面白かったわ」
そういって、踵を返す。
手は貸さない。
何故なら、自殺は『悪い事』。
未遂でもなんでも、実行後には他人に著しい迷惑を掛ける。
故に。
「またね、あとは『自責』でよろしくね」
日ノ岡あかねは、手を貸さなかった。
ご案内:「大時計塔」から日ノ岡 あかねさんが去りました。<補足:常世学園制服。軽いウェーブのセミロング。首輪のようなチョーカーをつけている。>
神樹椎苗 >
「まあ、癖みたいなもんですし。
『死にたくたって死ねない』んじゃ、やる気もやり方もぞんざいになるってもんです。
しいは、苦しまないで死ねるならなんでもいーんですよ」
自分の死体を引っ張り上げながら、言いたい事を言って帰ろうとする女には振り向きもしない。
「言われなくても、後始末するまでが自殺ですし。
またの機会はなくてもいーですけど、今度はもう少し見物料を持って来てほしいもんですね」
そして女が立ち去ると、ようやく引き上げた自分の死体を横たえて、気持ち悪そうに眺める。
支点になり骨が折れ引き延ばされた首を、屈んでつつきながら、白目を剥いている自分の死体に触れている。
神樹椎苗 >
自分の死体を見るのはいつもの事。
何度死んでも、完全に死んだと同時に、椎苗の肉体は新たに再構築される。
その結果、毎度毎度、自分の死体を眺めて後始末することになるのだ。
ロープを引っ張ったことによって古傷が開き赤く染まった両手で、首の骨の折れ具合なんかを確かめてみる。
思った以上にくたんくたんになっていた。
「意外と勢いよく折れるみたいですね。
意識もほとんど一瞬で途切れてくれましたし……後がえぐいのを除けばわりとアリかもしれないです」
ポケットから小さなメモ帳を取り出して、死に方と死んだときの感想をメモしていく。
気が向くとつい無意識に死んでしまうものだから、なるべく痛みも苦しみも少なく死ねる方法を多く用意しておきたいのだ。
「しかし、ここでまた人が来たらかなり猟奇的な現場に違いないですね。
自分で自分の死体を検分してるとか、奇特な趣味の人間に勘違いされそーです」
もちろん、そんな趣味はない。
椎苗の趣味は美味いスイーツを食べる事であって、自分の死体を弄り回す事ではないのだ。
神樹椎苗 >
しばらく自分の『死に具合』を確認しつつ、満足すれば首にかかったままのロープを外した。
柱に結んだ方を手持ちの短剣で結び目を切り落とし、綺麗に丸めて回収する。
ついでに、生きてる自分のポケットに先ほどの見物料があるかを確認して、三枚の硬貨を見つけると小さながま口を取り出してその中にしまった。
「それにしても、立ち入り禁止にしては意外と人が来るもんですね。
せめて鍵くらいは掛けてもいーとは思いますが」
とはいえ、実際に鍵を付けられたら、気軽に死ねる場所が一つ減ってしまうので困るのだけれど。
それでも『本当に死ねてしまう』人間が飛び降りでもしてしまえば、それなりに問題になってしまうんじゃないかと、子供ながらに思いもするのだ。
ご案内:「大時計塔」に宵町 彼岸さんが現れました。<補足:灰色オーバーサイズパーカー、制服(ボタンを掛け違えた白のブラウス、>
宵町 彼岸 > 「落とし物の紛失にはご注意くださーい」
死体に対してそんな声が頭上から聞こえる。
それは時計塔の展望台の更に上、普段は鳥しかいないその場所で
寝ころんでいた状態を起こし、足をぶらぶらとさせながら眼下を見下ろしていた。
「特に感染症の恐れがあるやつはねぇ」
人と言うには歪な形になったヒトだったものと
その複製を見下ろしながらも少し眠たそうにぶかぶかの袖で眼をこする。
よくねたーと小声でつぶやきながら両手を広げながらググッと伸びをし
「あ、ながれぼし」
少々変わった特殊性癖の持ち主という事であっさり終わらせながら再び
後ろに倒れ、空を見上げた。
下で起きていた一部始終は把握しているが死体なんてどこ吹く風で。
神樹椎苗 >
意外と人がいる、と思っていたらまたも声がかかってくる。
それも頭上から。
「……なんですか、ここにはヒトの頭上が好きな人間が多いんですか。
それともあれですか、猫みたいに高さで優位性を保ちたいタイプの人間ですか」
先日もここで身投げしようとしたら、頭上から声を掛けられたのだ。
高いところが好きな人間でも多いのだろうかと、自分の事は棚に上げて思った。
「落とし物じゃないです、廃棄物です。
感染性の廃棄物は、やっぱり焼却炉ですかね。
燃やされるのはあまり好きじゃないですけど。
焼かれて死ぬのは苦しいだけで、中々死ねないからめんどくせーです」
と、答えながら自分の死体を引きずって、人の目につきにくい場所へと運んでいく。
ながれぼし、という声が聞こえればふと、椎苗も空を見上げるだろう。
「何が燃え尽きたんですかね。
あれくらい一瞬で消えられるなら、ありがてーですけど」
星が流れるのを見送ったら、ぶら下がっている足を見上げつつ、声の主に話しかける。
「お前はあれですか、流れ星を見ると願い事とかするタイプの人間ですか。
それとも、さっきの強欲女みたいに人が死ぬのを見て楽しむタイプの人間ですか」
宵町 彼岸 > 「馬鹿と煙は高いところが好きなんだよぉ。
つまりはそーいうことぉ。なまじっか能力があるモノが集まる島だものぉ。
余計そうなりやすいんじゃなーい」
ケラケラと笑いながらまるでお気に入りのぬいぐるみでも抱いているかのように横に転がってみたりして
「廃棄物なら猶更。ぽいすてすると誰かが食べちゃうかもしれないよぉ?
……あれ?それはそれで生物濃縮の実験が出来るかも。
ねぇきみは生物濃縮興味……わぷ」
ふわふわとさまよう思考をそのままに言葉にしながら
流体の詰まった袋のように転がり続け、ついにはそのまま下に転がり落ちた。
かなり鈍い音が響くが数秒固まった後もぞもぞと顔だけあげ
にへらっとほほ笑む。
「あはー、上ばっか見てたら落ちちゃった。
そだねー……願い事はするタイプだよぉ。
あと、そう。死人を見て楽しむタイプ?だっけ?
それに関してはのーだよ」
神樹椎苗 >
けらけら笑い声をあげながら落ちてきた女に、少しだけ驚かされた。
「うわ、えげつねー音した割には元気そうですね。
あれですか、痛覚を忘れてるタイプの人ですか」
痛いのは嫌いなのか、自分の頭を押さえるようにしながら少しだけ身をすくめた。
「まーそうですよね。
人が死ぬのを見て楽しむのは、どう考えても希少種です。
そんな趣味があっても普通は口にしねーもんです。
わざわざ口にするのは、どこかネジが飛んでるよーな人間くらいです」
それを言うなら、癖のように自殺する人間も大概ネジが飛んでいるようなものだが、それは棚上げにする。
しかし、そんな受け答えをしながらも、女の口にした『実験』という言葉にますます身が縮むような思いをさせられた。
「実験……実験とか、あまりいー気分しねーです。
痛くも苦しくもない実験なら、まだ考えないでもないですけど……。
それよりも、願い事ってどんな事するんですか。
しいは『死にたい』のが願いみたいなもんですけど、ふつーはどんな事願うもんなんですか」
宵町 彼岸 > 「どーなんだろぉ……」
ぺたんとすわりこんだままふしぎーと呟ききょとんと見上げる。
不思議な言葉を聞いた時のように目を真ん丸にしながら数秒ぽけーっとした後首をかしげて
「この島って変わってるよねぇ。
その中でならもしかしたらそれは変ではないのかもしれないもの。
でもそうありたいのなら……きみは倫理観?がしっかりしてるんだねぇ」
と逆方向に首を傾け、いたた、と両手で側頭部を抑える。
どうやら落ちた時に打ったみたいとどこか人ごとにごちるも
続く言葉についとしばし動きを止めて
「……願い事ぉ?ふふ、ひみつ
あれって人に言ったら叶わないんだってそう聞いたよぉ」
投げられた問いにふにゃっとほほ笑みながらずるずると縁までたどり着き、景色を仰ぎ見る。
眼下の見下ろす町とその向こうに僅かに見える海。
空に浮かぶ雲とその合間から見える月が海に反射して
……そう、とても平和だ。そう、とても。
「あはー、痛くないのは大事だよねぇうん。
ふつーは……ごめんね。ボクにはよくわかんないや。」
どこか怯えたような雰囲気を一瞬漂わせたことに気が付いていないかのようにあくまでのんびりと言葉をつづる。
こちらに視線をむけたなら口元には笑みを浮かべながらも
じぃっとそちらを見つめるどこまでも凪いだ瞳と目が合うかもしれない。
神樹椎苗 >
「倫理観はわからねーですけど、自分がふつーじゃない事くらいはわかってるですから。
だからしいは、ふつーならどうだろうって考えてるだけです」
話しながら、女の隣に腰を下ろした。
見える景色は、やはりきれいなものだった。
こんな光景が何事もなくただ続くのであれば、それはきっと平和なのだろう。
けれどそれはきっと、『ふつー』の人間にとっての平和なのだ。
椎苗にとっての平穏は、今はまだ『死ぬこと』にしか見いだせない。
「人に言うと叶わねーですか……。
それじゃあ、しいはずっと死ねないって事になるじゃないですか。
それは、かなりぞっとする話です」
特別迷信を信じているわけではないが、隣ののんきそうな女を見ていると、そんなものかもしれないと思ってしまう。
隣で視線が合えば、やけに静かな瞳が、女の雰囲気とちぐはぐに見えて妙な感覚だった。
「――あ、しいの『貌』なんて覚えようとしなくていーですよ。
それと、今日の事も忘れちまって大丈夫です。
こんなの、ありふれた自殺志願者との出会いでしかねーですから」
【解析】すれば、なんてことはない。
目の前の女も『ふつー』とは違っているだけの事だった。
けれどそれも、この島の中では『普通』の事なのかもしれない。
椎苗自身も『普通』に含まれているのかもしれないが、その『普通』は椎苗にまだ何も救いをもたらさない。
「お前もしいも、ふつーに生まれてたらどーなってたんですかね。
そうしたら、『ふつー』の人間らしく生きてたんですかね」
景色を見ながら、『ふつー』の自分というものを、ほんの少し想像した。
宵町 彼岸 > 「そうかなぁ……案外第三の分類だってあるかもしれないよぉ?
だってここはこの世界で飛び切り一番変な島だもん」
願い事、叶うと良いねーなんて口にしながら揃って空を見上げる。
願いが叶うなどと言えば聞こえがいいが、その内容は自死なのだから幇助と取られても仕方がないが……
それがダメな理由は理解は出来ても共感は出来ないのだから仕方がない。
だってほら、いつ見上げてもこの島の空は悲しくなるほどきれいで……
そして綺麗な顔しか見せてくれない。
「あはー、そうなるねぇ。
少なくとも”望んでは死ねなく”なっちゃったかもしれないよぉ?
あくまで噂程度のお話だけどぉ」
死のうとして死ねない。
それは何か辛いことがあったから死のうとか発作的なものではなく
選択肢の一つとして常にある子なのだろう。
喰らってみればわかるかもしれないけれど……
まぁそれで”叶えて”あげる義理もない。と
ふにゃりとした笑顔の下で明日の夕飯を考えるような気軽さで思う。
「あれぇ?前に合った事あった?
んふー、そうだったらごめんね。
ボクいっつもこれ聞いてるから気を悪くしないでほしーなぁ。
……んふ。キミのことは分からないままだろうけどキミのことを分かるように努力はするから許して?」
自分が人の顔を覚えられない事を知っているのかそれ以上か……
何にせよ知らない相手が自分を知っていることには慣れている。
どこかで自分の話を聞いたのかもしれない。
そしてそんなことはさして重要ではない。
そんなつまらないことよりも……。
ヒトってわかんないねー。と縁に腰かけ足を揺らしながら空に手をかざす。
指の間から見る星はそのまま見るより鮮やかに見える。
「それは面白いねー。
美味しいご飯を食べて、友達と遊んで、
また明日ねって手を振って別れて……
そして明日を想って眠る。
それがふつーらしいから、そうなったらどれだけ楽しいかな?
でもそうじゃないからそれを想像すると楽しいのかも」
神樹椎苗 >
第三の分類。
普通でも普通でなくもない、どちらでもないなにか。
どちらにも寄り添えるようで、どちらにも近づけない。
女がどれだけ考えて言ったのかはわからないが、意外と椎苗自身を捉えているような言葉で、少しだけ眉を顰めることになった。
「ああ、それくらいなら今更かもしれねーですね。
昔からずっと、『望んでも死ねなかった』事しかないですし。
だからしいは、何時か何処かで『何かの間違いで』死ねればいいと思ってるんです……って、なんでお前にここまで話さなくちゃいけないんですか」
ついつい話してしまったことに不満があったのか、赤く染まった包帯の手でやけに『ほーまん』な肉をつまもうとした。
「安心していーです、初対面です。
でもどーせ、二回目でも三回目でもかわらねーですし、気を悪くするよーなこともないですよ。
世の中自分じゃどーにもならねーことばかりしかないですし。
まあでも、その努力するしせーは嫌いじゃねーです。
次に会ったとき、ちゃんとしいの事がわかったらパフェおごってやりますよ」
椎苗にとって、自分の事を覚えてるとか覚えてないとか、そんなことは案外どうでもいい事でしかない。
覚えてなければまた『はじめまして』を繰り返せばいいし、飽きたら今度は『別のはじめまして』をすればいいだけなのだ。
隣の真似をして、手をかざしてみる。
ほんの少し見え方が違うだけで、よりきれいにも見えるし、見えなくなる星もある。
そう、少し見え方が違うだけなのだ。
「そうですね。
しいには明日が楽しみって気持ちがわからねーですけど、そんなふうだったらって考えるのは嫌いじゃねーですし。
わからないからこそ面白いってのはあるかもしれないですね」
隣の芝生がどうとか、よく言う話ではあるけれど。
これもきっと、やっぱり見え方の違いなのだ。
「でも、ご飯食べて、遊んで、また明日。
それだけならできなくもないかもしれねーですよ。
やりたいかと言われたら別ですけど。
やりたくないかって言われると、そうでもねーんです。
だから、お前ともまた会ってやってもいーですよ。
パフェもおごってやらねーといけないですし」
宵町 彼岸 > 少し悩み、言葉に詰まったかのような表情を眺めながら今度は手を水平線に向ける。
こうして高い場所から見れば星よりもとてもとても遠くに見えるが……それでも実際は比較にならないほど近い場所。
願いの大半は似たようなものだけれど……この子にとってそれはどうだろうか。
「それでも……希望があるから実験するんだよねぇ
ボクも、そして多分キミも。
ふふ、僕は研究者だからねぇ。ロマンチストなんだよぉきっと」
間違いなく一般的な倫理観において近くに死体を置いてする会話ではない。
死ねないと聞けば一部は羨ましがり、そして一部は眉を顰めるだろう。
そして死のうとすればそのどちらもが往々にしてそれを禁忌とする。
死の臭いが近くにあれば猶更だ。
けれど……
「ふふ、キミが君であるために必要な願いなんでしょぉ?
それが何であれ。なら何であれ、願いが叶えばいーってそー思うよぉ?
まぁ、ふつーのひとはびっくりしちゃうだろーけど……
んっ……どーしたのぉ?
ふふ、照れ隠しなんてかーわいいねぇ」
揶揄するような言葉はそれが本気でからかっていない事も伝わる響きを含んでいて……
それを振り払うかのように伸ばされた手にやたら艶のある声を僅かに上げ
けれど成すがままでからかうような口調で首をかしげ。
「ああそぉ?じゃーはじめまして。
ぱふぇ?ボク甘いもの大好き。」
パフェという言葉に両の手の先を合わせぱぁっと小さな子供のような笑みを浮かべた。
半分以上味覚は死んでいるけどソレでもかすかに感触は分かる。
片手で数えるほどしか記憶にないがあれはなかなかおいしい食べ物だったはず。
「じゃあ普通のふり、試してみよー?
案外しっくりくるかもしれないよぅ。」
上機嫌な様子でゆっくりと立ち上がり服の裾を払う。
もうずいぶん冷えてきた。そろそろ寮に帰らなければまた迷子を疑われて怒られてしまうかもしれない。
何分数日前に迷子になったばかり。
「ちゃーんときれいにしとくんだよぉ。
見つけた人困っちゃうからぁ」
それが何についてのことかは言うまでもないがまるでイタズラ跡を指すかのように笑って小さく伸びをする。
神樹椎苗 >
「……研究者はわかんねーですね。
けど、希望があるから繰り返すってのはそのとーりです。
お前がロマンチストなら、しいもロマンチストですね」
実験や研究という言葉にはやっぱり、どうしても身が竦んでしまうが。
それでもこの女の言うことには、それほど嫌悪感はなかった。
「照れ隠しなんかじゃねーですし。
まあ、好きならいーです。
しいも甘いもの好きだから、それっぽいこともできるんじゃねーですか。
けど、しいの前で美味しいふりはしなくていーですからね。
そんなこと、言われなくてもわかってるですから」
女が立ち上がると、椎苗も一緒に立ち上がった。
椎苗もそろそろ帰るべきだが、明日は【診察】があるために、今日は寮ではなくて研究区だ。
この女が迷子になるのは気がかりといえなくもないけれど、そこまで面倒を見る関係でもない。
「そーですね。
町で会うか、保健室でばったり会うかもしれねーですけど。
次に会ったら考えてやりますよ。
……あ、廃棄物はへーきですよ。
しいは『樹』ですから。
死んだ『樹』は土に還るだけです。
自然の摂理ってやつですね」
椎苗が言いながら視線を向ければ、そこには砂が一山残っているだけだろう。
痕跡は何も残らず、すべてが砂に変わっている。
そしてそれも、この高所の風が全部吹きさらって行くことだろう。
「さ、さっさと下りますよ、マシュマロ。
しいはそこから飛んでショートカットしてもいーですけど、マシュマロはほっとくと風に攫われそうだから下まで着いていってやります」
宵町 彼岸 > 「うんうん、ロマンチストだよぉ。
そんな願い、ロマンチストしか似合わないもん」
それしか希望がないからそれを選ぶ。それはそう、とても素敵だ。
死ぬしか選択肢がないわけではなく、死を選択する。なのだから。
まぁ、この子がどうしてもその方法を見つけられないなら
他に選ぶ余地など無い。そうなるようにしてあげようかなぁなんて"純粋な親切心"で思う。
そうすれば死ねるかもしれない。
最も、今はその時ではなさそうなのでしないけれど。
「……そーぉ?」
ほんの僅かな瞬間眼がほそまると同時に口の端が鋭角に吊り上がる。
それを抑えるように手元で口元を抑えると心底楽しそうにくすくすと笑い声をこぼした。
何か興味を引くような特性を知っているのだろうか。
この子の目的は奇しくも自分と一致している。
ああ、"興味が湧いて"きた。
「そんなことまで知ってるんだぁ。
ボクってばゆーめーじん。一応甘いとか辛いとかはちょっとだけわかるからへーきだよ?
ふふ、心配してくれてありがとーねぇ」
次にどこかで会う約束もせず、どこか噛み難い浮いた会話を繰り返して
それでも普通のふりをしているよう装って。
喜悦を湛えた瞳は瞬く間にまた眠そうなとろんとしたものへと戻っていく。
との後、時計塔を下る間はいつものようにふわふわと風船のような会話受け答えをするだろう。
それは彼女にとって至極普通な会話だから。
「"ばいばい。またね"」
そして別れ際もそういって別れるだろう。
まるで普通の友人のように。