2020/07/11 のログ
ご案内:「カルト教団『天丿揺リ籠』」に■■■■さんが現れました。
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 その娘は、よく晴れた秋の日に産まれた。
 壁に囲まれた広い空間に、ただ一人。
 一本の若木のように瑞々しい大木の根元へ、捧げるように置かれた揺り籠で、娘は産声を上げた。

 母も父も居らず、娘の声を聞くものはいない。
 泣き疲れた赤子は、眠りに落ちる。
 見守るのはただ一本の、大木のみ。
 

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 娘の元に人が訪れた。
 顔も隠し、髪も無く、性別もわからぬ装束で、声も出さず。
 ただ娘の世話をして去っていく。

 それだけの日々が繰り返され、時が過ぎる。
 四年の月日が流れ、娘ははじめて壁の外へと連れ出された。
 目隠しをされ籠に乗せられ運ばれた。

 娘は厳かな装飾の部屋で、一段高い場所へ座した。
 周囲を顔を隠した者たちが囲み、娘の前では一人の男が頭を垂れていた。
 

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 娘は自分の名前も、読み書きも言葉も知らないままだった。
 けれどなぜか、その場に至りすべき事を理解した。
 そして、流暢な言葉を発したのだ。

 娘は男の過去、現在、そして未来を語り、最後にいつ死ぬかまでを予言した。
 男は驚き、感謝し、娘を崇めて立ち去った。
 娘は自分が何を言ったのか、言われたのかも分からぬまま座っていた。
 

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 それが、日に数度、毎日続いた。
 娘は全知であった。
 あらゆる過去と未来を語り、どのような問にも答えた。

 娘は祀られ、崇められた。
 一本の木と共に、壁の中で囲われたまま。
 何一つ知らないまま、娘は全知だったのだ。
 
 そして娘が産まれて七年。
 終わりは唐突だった。
 

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 世話役が、娘の身体に模様を書き込んだ。
 娘を崇めていた人々が、娘を取り囲んだ。
 人々は一斉になにかを唱えだし、娘もまた、共に知らない筈の言葉を唱えた。

 変化は一瞬だった。
 壁の中には暗闇が訪れた。
 黒い霧が一面に広がったのだ。

 霧の中から浮かぶように、白い顔が、白い腕が現れる。
 その指先が一人を指し示した。
 途端、その一人は倒れ伏し、絶命した。

 また一人、また一人と繰り返される。
 白い顔の虚ろな眼窩には、黒い炎が揺らめく。
 その炎は、怒りを湛えていた。
 

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 全てが倒れ、その指先が娘の前で止まる。
 娘は何も理解できず、何もわからない。
 黒いきりに包まれた娘に、白い指先が触れた。

『死を想え』

 それが娘の始めて知った言葉だった。
 黒い霧は娘を憐れむように包み込み、白い指先は娘の胸にゆっくりと沈む。

 そうして娘は七年の短い生を終え、全知ではなくなったのだ。

 

ご案内:「カルト教団『天丿揺リ籠』」から■■■■さんが去りました。