2020/06/14 のログ
ご案内:「スラム」に夢莉さんが現れました。<補足:どうみても女な口悪男。美しいブロンドの髪と真っ赤な眼をしている。>
夢莉 > フードを深く被り、スラムの角で煙草を吸いながら気だるげに座り込む。
治安の悪い地域で顔を出来るだけ隠すのは、経験で覚えたものだった。
自分の顔はこういった場所では、特に悪い意味で狙われやすい。
必要な時以外は見せぬが吉。それが面倒な輩に絡まれぬ為の、スラムで生きる為の知恵だった。
「…ほんっと
好き勝手やりやがる」
つい先ほど起きた、この辺りではまさしく「些事」である争いの事を思い出しながら。
人が死ぬのも消えるのも、大した問題ではない。
少なくともここはそういった場所。ここの住人の命は…軽い。
それでも、ゴミのように殺される自分と同じような境遇の者を見るのは。
気分がいいものではない。
夢莉 > 夢莉はスラムで生まれ育った。
夢莉自身は父親を知らない。母親は夢莉の生まれる少し前まで売春婦として生きていた。
貧民街を生きる為に売春婦となる女は少なくはない。夢莉の母親も、例に漏れず文字通り自分の身を売り、自分の生活を保っていた、ただの貧民街の住人であった。
一つ夢莉の母親が他と違ったのは、彼女が『外の街』の役人に気に入られていた事だった。
月に一度、視察と称してその貧民街にやってきたその役人は、身分を隠しながら夢莉の母親との関係を続けていた。
夢莉の母も役人という上客の存在によって、他の貧民街の住民とはくらべものにならない程豊かな生活が出来ていた。
互いにお互いの関係については語る事はなかった。どちらにとっても、関係を他者に知られる事は、最も危惧する事であったから。
やがて役人との間に子供が出来た。それが夢莉であった。
…だが、夢莉の母の順風満帆な生活は、そこで打ち止めであった。
自分の子を孕んだと知った役人はあまりにもあっけなく夢莉の母を切り捨てた。
さらにそれと重なって、売春婦仲間に役人との関係が漏れたのだ。
既に切れた関係への嫉妬で、夢莉の母は他の女達に口にするのも憚られるほどの仕打ちを喰らう事となった。
様々な嫌がらせ。仕事すら奪われる日々。
夢莉を生んだ後もそれは延々と続いていた。
売春婦として生きる上で最も重要である顔を焼かれ、夢莉の母は夢莉が5歳になる頃には、全てを喪っていた。
夢莉の不幸は、そこから始まった。
夢莉 > 顔を喪い、全てを喪った母親は、かつて溜め込んでいた資産を切り崩しながら、夢莉を育てた。
夢莉は美しい顔を持って、男の子と生まれた夢莉を、母親は女として育て始めた。
自分が喪った物を補完するために。美しくなるようにと、最大限の方法を用いて育てられた。
夢莉が8つになる頃、母は夢莉を仕事に駆り出した。
その仕事は、女としての仕事であった。
母親によって資産を切り崩してまで美しさを磨かれた夢莉は、貧民街から少し離れた歓楽街の離れにあるショーパブで、初めての仕事をした。
そこはパブとは名ばかりの、見世物小屋であった。
そこで夢莉は、その美しさで人気を勝ち取っていった。
夢莉 > 夢莉が金を稼げるようになってからも、母親は夢莉の美しさの為に拷問のような仕打ちを繰り返した。
稼いだ金で買ったホルモン剤を飲まされ、男らしい部分は可能な限り矯正を施された。
『ずっと綺麗な姿でいてほしい』が、母親の口癖だった。
夢莉には拒否権はなかった。
ただ、夢莉は子供であったが、自身の母親が自分にしていく事を疑問に感じる事の出来る賢い頭を持っていた。
それは、まだ精神的におかしくなる前の母親が、ほんの少しの間ではあるものの夢莉を愛する我が子として愛を持って育てていた為であったが
しかし夢莉にとっては、そんな事は知る由もなく
ただ母親に命じられる事や、自身の置かれる立場に対する疑問、反感だけを積らせていった。
夢莉が出来た唯一の犯行は、母に見られない時間、『仕事』をする直前のほんの少しの間の時間、普通の男の子として、仕事場の近くにあった広場にいる子供に交じって遊ぶ事だけだった。
その時だけ、なんとなく夢莉は自分のしている事と、自分の心の歯車がかみ合うような心地よさを感じる事が出来た。
そして時間が来れば、仕事場であるショーパブで服を着替え、客の前に出て、男でも、女でも、誰とでも客の相手をした。
仕事は嫌な事も多かったが、そうやって夢莉は、自分を捨てる事なく、幼少期を生きていった。
それが崩れたのは、夢莉が12歳になる頃であった。
夢莉 > 12歳になる頃、段々と夢莉は自分と他の子供が違うものであるという事に気づき始めていった。
その頃になると共に遊んでいた子供の中に、段々と『男』への成長をしていく者が増えていったのだ。
身長が伸び、骨格が逞しくなり、声が変わり出す同年代の友人が増えていった。
そんな中、夢莉だけが何時まで経っても、そういった変化が訪れる事はなかった。
声は依然として高いままで、筋肉はつく事は無く、背は伸び悩み、それどころかむしろ、ほんの少しであるが、乳房のふくらみを感じていた。
それは、母親が夢莉に対して長年行ってきた『美しくあるための矯正』の結果であることは、想像に難くなかった。
その頃から、夢莉は何とも言えぬ不快感を常に感じるようになっていった。
日常の中で、パブでの『接客』を続ける度に自身という一つの個が、ミキサーをかけられ、ぐちゃぐちゃにされる感覚。
そんな中で辛うじて自身を繋ぎとめていた、子供として遊び合う友人たちとの目を逸らせぬ程の乖離。
決定的だったのは、時折遊びの中で、同年代の友人たちに向けられるようになっていった…夢莉への『視線』だった。
夢莉にとって、馴染みのある、しかし、不快感を催す『視線』。
パブの中で客に向けられる『視線』と同じものを、友と思っていた者たちに向けられる瞬間がある事に、夢莉はすぐに、気が付いた。
自身が男であるのか、女であるのか
齢12の夢莉は、既にそれが分からなくなっていた。
夢莉 > 14歳になる頃。
仕事場であったパブに警察の捜査が入った。
その頃になれば既に夢莉も理解していたが、元々そのパブは違法行為の温床であった。
パブの情報を警察に流したのは、夢莉本人であった。
そうすれば店を続ける事は適わず、自分は解放されるのではないかという気持ちから、半ば衝動のように、情報を流した。
誤算は、それが母親にバレた事だった。
働き口を潰された事、我が子に初めて逆らわれた事に逆上した母親は、自分の今の生活が崩れ去る事へのストレスでヒステリックを起こし、そのまま夢莉の首を絞めた。
首にかかる強い圧迫感と窒息。気の触れた母の醜い顔。
それが『最初に死んだ時』に夢莉が最後に感じた全てだった。
気が付くと夢莉は、パブの近くにあった広場で目を覚ました。
首を絞められた跡は無く、服は仕事に行く直前の、男物のボロだった。
夢かと一瞬思ったが、横で鳴り響く、パブの前に駐車された複数のパトカーのサイレン音で、それが夢では無い事を理解した。
夢莉が、最初に自分の異能を知った瞬間だった。
目論見は成功し、夢莉は自分が稼いだうちのほんの僅かな端金を片手に、パブと母親から逃げきる事に成功した。
警察は夢莉を追わなかった。それは夢莉がスラム出身故に身元の判明が困難であった事もあるし、夢莉が言ってしまえば、被害者の立場であったからかもしれない。
母親とも、それ以来、会ってはいない。
おそらくパブの捜査の際に警察に捕まったのだろうが、そんな事は、もはや夢莉にとっては一切関係のない事だった。
そうして解放された夢莉は、一人で生きていく事になった。
だが、齢14の、身元の不明な子供である夢莉が、一人で生活をするのは、至難を極める事となった。
真っ当な働き口は当然、見つかりはしなかった。
住む所も失った夢莉が生きる為には、結局、パブと同じように、誰かの相手をする事で、生活をする他なかった。
夢莉 > 天涯孤独の身となってからの夢莉の生活は、やもすればそれまでの14年よりも過酷な日々が続いた。
身寄りのない子供、相手からの暴力を伴う『接客』をしなければならない事や、仕事の失敗により見世物として奇怪な物を口に入れられる事もあった。
そんな中で少しずつ一人での生き方を学んでゆき、2年が経った頃には、その顔も、体も、異能も、何もかもを自分の『武器』として扱う事が出来るようになっていた。
特に異能の存在は、夢莉にとって非常に助けとなった。
使い方次第では他の人間にとっての危ない橋すら難なく進む事の出来る夢莉の異能は、時に荒事から夢莉を助け、時に『接客』以外の仕事として夢莉の資金源となった。
そうして一人で粗方自分が生きる為のやりくりが出来るようになった頃、相手をしていた客の一人の言葉から、夢莉は常世学園の事を知る事となる。
そこから偽装学生証を手にし、学園都市を新たな拠点とする迄は…そう時間はかからなかった。
何にせよ、そうして新天地に向かう夢莉の胸中に、これまでの人生からの脱却という想いがあったのは、事実である。
……塵のような存在からの脱却、の為に。
夢莉 > 「―――こんなんじゃねえよな、求めたのは」
何処かへと消えた二級学生がいた場所に、そう呟いた。
(”あれは、オレだ”)
夢莉 > 今の自分は恵まれている。
なんの巡り合わせか二級学生から脱却し、裏方の汚れ仕事とはいえ公安として働いている。
自分を拾った奴はムカつく上にドがつく程の阿呆だが、しかし恩があるし、返そうと思える程度の相手だ。
それでも、まだ
自分はこちら側だという気持ちが消える事はない。
そんな事を思いながら、一人ぼんやりと煙草を吸っていた。
ご案内:「スラム」に織機
雪兎さんが現れました。<補足:風紀委員の制服、黒タイツ、伊達メガネ>
織機 雪兎 >
「んんんん……」
スラムに何やらバケモノがいる。
そう言う通報を受けたはいいものの、今動けるのが自分しかいなかった。
普通こういう案件は複数人で来るのだが、そう言うことだからおっかなびっくりスラムを一人で歩く。
「なんでだよぅ……僕一人で何ができるってんだ……」
真っ青な顔で懐中電灯をあっちにこっちに向けながら青い顔。
以前バケモノに襲われたときのことを思い出す。
ファッキンクソったれ人員不足め。
恐怖心を紛らわせるために悪態をつきながら歩いていれば、懐中電灯が金髪の美少女?の姿を捉える
「ひぃあぁ!? ――ぁ、ひ、ひと? あ、あぶないですよー、バケモノが出たらしいですよー……?」
一瞬驚くが、それが人だとわかってちょっと安心。
ビクビクと辺りを警戒しながら彼女?の方に近付いていこう。
夢莉 > 「あ…?」
やってきた女?を怪訝な表情で見る。
風紀の制服……通報でもあったのか。
にしても一人、しかもビビり散らかしている姿が随分と頼りない。
「風紀…?……むしろこんな場所に居て危なくない場所なんてある訳ねえだろタコが」
ぺっ、と煙草をそっと消して口悪く返した。
織機 雪兎 >
「んひぇあ」
口が悪い。
めっちゃ顔が良いけどめっちゃ口が悪い。
あまりの口の悪さに変な声が出た。
「い、いやでも、ほら。こんな場所でも危険度の違いと言うか、お財布の危機と貞操の危機と命の危機はそれぞれ別物と言うか。そ、そう、危ないから風紀委員のボクが表まで送ってあげるよ!! 風紀委員のボクと入れば安心だし! ね!!! そうしよう!!!」
足早に駆け寄りすがり寄る。
自分が誰かと一緒にいたいだけである。
夢莉 > 「……」
あからさまな『なんだこいつ』というという顔―――!!
「風紀委員ってのは人員が足りてねえのか…? こんなクソの役にも立たなさそうな奴もいんだな…」
ぼそっと(めちゃくちゃ口悪く)ぼやいた。
出来ればすがり寄るのも御免被るのだが、変に追い払うともっとうるさそうだ。
「…てか、お化け屋敷じゃねえんだから普通にしろよ。
余計に目につくだろ。
ンなだと襲われるか犯されるかされんぞ」
織機 雪兎 >
「んっひぃ」
ぼそっと呟いた言葉が耳に届く。
めためたにこき下ろされてる。
なきそう。
「普通!? 出来るわけないだろバーカ!! 怖いんだぞ!! こちとら脚ガックガクだぞ!! 暗いし! 善良な一般風紀委員の僕がこんな怖いとこで普通に出来るわけねーだろ!!! バーカ!!!! ばあああああああか!!!!!」
逆ギレである。
恐怖がはち切れそうなところに更に脅されたため、恐怖心の決壊を起こしての逆ギレ。
語る通り脚は残像が見えそうなほど震えているし、彼の袖口を掴む腕もものすごい勢いでバイブレーションしている。
さらに当然のように半べそだ。
夢莉 > 「(うぜぇ…)」
露骨にうぜぇって顔(?)をする不良学生であった。
「…じゃあもう帰ったら? 心配しなくても何もねーよ。
というか初対面の人間の袖を掴むんじゃねえよ」
織機 雪兎 >
「帰る!?!? 帰る!?!?!? 一人で!?!?!?!?!? このメタクソに怖くて危険な落第街の路地裏を一人で帰れと!?!?!?!?!?!?!?!? おまえそれでも人間か!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
この世の終わりのような顔をして叫ぶ。
ここまでくるにも命懸けだったのだ。
一人で引き返すなど、どれだけ命を掛ければ足りるのか。
眼をクワッッッ!!!と見開き、全力で叫ぶ。
「だって怖いんだもん!!!!!!! 仕方ないだろ!!!!!!!!! なにかに掴まってないと立ってられないんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!」
メタクソに情けないことを叫ぶ。
夢莉 > 「うるっせぇよ!!!!! とりあえず静かにしろ!!!!!」
至近距離で大声を喰らい怒鳴る奴。
あんまり目立ちたくないのになんなんだコイツという顔をしているぞ!!
「あーもう、とりあえずハイハイハイ!!! 風紀委員だっけか!? わーったよついてきゃいいんだろ!?」
どうせこんな煩くしてたら誰かしらに目をつけられる。兎に角ズラかりたい。
可能なら目の前の女を引きはがすなり異能使うなりで今直ぐいなくなりたいが腕を掴まれてるせいで異能が使えない。クソッタレめ
ご案内:「スラム」にハルシャッハさんが現れました。<補足:通りかかり。 影によく紛れるフード付きローブの男。革のブーツに、レザーアーマー。>
織機 雪兎 >
「はい」
スンッと黙る。
腕も脚もブルッブル震えて怖くて仕方ない。
つい逆ギレして騒いでしまったが、騒ぐと目立つのはわかっているのだ。
騒いだけど。
「じゃ、じゃあ風紀委員の僕にしっかりついてくるように! ふ、風紀委員の僕の指示に従うように!! 安全の、安全のためにね!!」
ついてこい、と言いつつ彼の腕にしがみ付いて離れないし歩こうともしない。
いや歩こうとはしているのだけど、脚が動かないのだ。
全力で脚に力を込めても、ほんの僅かずつ、ずり、ずりとナメクジが這う様な速度で地面を擦るだけである。
ハルシャッハ
>
ゆらり。 建物の影と影の間を一つの影が揺らめく。
大声で話す住人がこのスラムに居る事自体違和感の塊だ。
大声で話せば諸元が割れる。 どの位置、どの高さに居るのか。建物の中か。
その耳から伝わる情報を元に、男はその二人を遠巻きに、
まるで踊るように建物の合間を縫っていた。
「……。」
仕事の、いや正確には街の偵察の帰りだ。
対人、それも対多数で接触する必要性など絶無であり、どこにもない。
誰がどこに、何が有るのか。 まず知ることが必要だった。
あなたにも存在の気配はふと伝わるだろう。
何かが通った、という事実は間違いなく伝わる。消す必要が、なかった。
夢莉 > 「それでいいからさっさといこうぜ……なんかどっと疲れた」
あからさまに疲れ切った顔で歩き出す。人に掴まられてると兎に角動きにくい。ただでさえ筋力がないのだ。
「……」
少し周りを見る。目につく……こちらを見ているのは数人
そのうち数人は…まぁ、あんな大暴れする怪物と人間の戦いの直後に見知らぬ人間に近づきたくはないのだろう。
ちらちらと様子を伺う、警戒しているような視線だ。
別に気にしなくても近づきはしないだろう。
・・・が、一つだけそれとは違う視線が一瞬あったのに気が付く。
どちらかというと”今の自分寄り”の視線の動き。
気にする価値があるかどうかを確認してた視線。
それが一瞬あって、直ぐに消えた。何処に今その視線の主がいるかは分からない。
早々に立ち去ろう。厄物が多すぎる。
「あーあ、人がノスタルジーに浸ってる時にほんっと…ところで誰だよオマエ」
そういえばと、唐突に名を訪ねながら警戒は絶やさなかった。
弱者としてスラムで生きる人間としての最低限の心構えだ。
織機 雪兎 >
「うぅ……」
彼が歩き出せば引きずられるようにこちらも歩き出す。
周りからの視線を気にするように、キョロキョロとあたりを見回し、その視線から隠れるように更に彼の腕にしがみ付く。
「うえあはぁ!? きゅ、急に話しかけるなよ!! 合図!! 合図をくれ合図を! 殺す気か!!!」
ビョーンと10㎝ぐらい飛び上がるような驚き方。
そして無茶な要求。
「ぼ、僕は風紀委員の織機雪兎だよ。君こそ誰だよ。スラムに住んでるような身なりじゃないだろ」
スラムの住人にしては小綺麗だ。
こちらを観察するような視線には一切気が付かない。
ハルシャッハ
>
相手が何者なのかなど、こちらからすれば気にかける理由がない。
有象無象、どこぞの馬の骨のために割くリソースのほうがもったいない。
――逃走(ラン)・隠密(ハイド)・戦闘(ファイト)。
盗賊の、いや危険地帯を生き残る為の鉄則にして教則に忠実な、
盗賊の下っ端だったこの男からすれば、なおさら戦う理由もない。
ごくごく最低限の、生き残る為だけの装備しか無いのだ。
仕掛けるにはあまりに理由が脆弱に過ぎた。
一瞥、二瞥。
軽く視線を投げ込むと、家3軒程度離れた距離を1軒分詰める。
敵対するような動きではない。むしろ、盗賊としての技術はまだまだ下級。
しかし、それでも技術を教わったかどうかだけで、素人とは天と地の差がある。
気配の色が、むしろ逆に薄くなる。 接近しているにもかかわらず。
音が近いならば、むしろ動きは小動物のように。穏やかに。
盗賊の鉄則だった。
夢莉 > 「どう合図すりゃいいんだよ……」
正直名乗りたくねーな、と思いながらも言わないと煩そうだし風紀委員相手に偽名を使うのも面倒くさいなと思った。
聞かれる前に聞かれそうな事は話しておこう。面倒くさいし
「夢莉だよ。3年、年は18。
スラムはただの古巣。様子見に来ただけで今は別の場所に住んでる
こんなモンでいいか?」
言いながら不審な動きが距離を詰めて来たのを感じ、そっと歩く位置を移動させた。
最悪自分が狙われるように、自分の方が狙いやすくなるように。
特に意味はない。
今目の前にいる雪兎と名乗った少女を守らなければという気持ちが強い訳ではないが、どうにも、癖として、そういう動きをとっていた。
織機 雪兎 >
「ふうん。ユーリパイセンはこのへん住んでたの? 大変だねぇ」
会話を始めたからかちょっと余裕が出来てきた。
未だ彼の腕からは離れないが、こっちを見ているその辺の住人を睨みつける程度の余裕。
「てーかパイセン口悪いよパイセン。パイセンせっかくカワイイ顔してるんだからもうちょっと愛想よくしようぜパイセン」
歩く位置を移動したことにも、何者かが距離を詰めてきたことにも一切気付かず、呑気にパイセンパイセンと彼の口の悪さをからかって。
この女、風紀のくせにめちゃめちゃ呑気してる。
ハルシャッハ
>
――視線が問題なく通り、視認できている段階で情報が増える。
音源の主はガキが二人。 若い声から想定はついたこととは言え。
事実、距離を詰めたことでより確実に確認ができた。
背格好、大筋の年齢。
そして、ある程度足音から歩く配置を移動したということは、
『こちらの存在が気取られている』ことを意味する。
知識と経験さえあれば、これほどまでの情報量が、得られるのだ。
(……ガキ二人か……。 死んでも知んねぇぞ……?)
関わり合いになる理由が絶無なのだが、それでも渋い顔にはなる。
まして、片側は極めて呑気なものだ。ここがどのような場所か知ってか知らずか。
一般人のバンピーが、ましてや非武装で歩いていい場所ではない。
何かしらの心得くらいは無いと、危険な場所だというのに。
位置と相手の情報さえ得られれば、男にとっては収穫だ。
2軒分の距離が、一気に3軒半まで急激に広がった。
それは、より離脱しやすい距離へと離れていくことを意味する。
周囲に耳を張り巡らせ、宵闇により溶け込みながら。
男は新しい情報を求めて、目を光らせていた。
夢莉 > 「愛想よくする必要性がねえからな」
媚を売るのは疲れた。
必要がなければ、極力御免被る。
何より、スラムや貧民街では美人というだけで狙われるのに、その上で愛想まで良くして居たらカモと見られかねない。
最低限の威嚇。「手を出したら噛みつく」という意思表示は出している必要はあるのだ。
「とりあえずさっさといくぜ。テメエのせいでめちゃくちゃ疲れた。
街戻ったらなんか奢れよ」
すたすたすたと、早足でスラムを出ていく…
出来るだけ早く、安全な場所に出る為に
織機 雪兎 >
「えー、パイセン美人さんなんだから愛想よくすればモテると思うなぁ。あでも僕にだけ優しくしてくれるとかだと僕ァキュンとしちゃうかもしれないなぁ。いや待てよ、誰にも靡かない孤高の野良猫みたいなパイセンもそれはそれで……」
へらん、と笑いながらいつもの調子を取り戻していく。
緊張感がなくなったのはスラムに慣れている誰かが隣にいると言う危ない安心感からか。
「ふふん、風紀委員の僕が居れば落第街なんて怖がる必要はないからね、大船に乗ったつもりで――あっちょっまって早いまって」
言葉とは逆にがっしり彼の腕にしがみ付きながらドヤ顔していく。
が、彼の足の早さに着いていけるほど脚が回復したわけでも無く。
結局こちらを『視て』いた視線に気付くことなく、スラムを無事抜けだしましたとさ。
あとから来る風紀の本隊と合流と言う本来の仕事を果たせずしこたま怒られたのはまた別の話。
夢莉 > 「キメぇ」
一刀両断しながら去っていく。
(…襲ってこないなら、まぁ、いいか)
ご案内:「スラム」から織機
雪兎さんが去りました。<補足:風紀委員の制服、黒タイツ、伊達メガネ>
ハルシャッハ
>
観察するのだ。 よく観察し、よく調べ、よく学ぶために。
難しい話ではない。
誰しもが持つ動物として、いや。 獣としての本能を研ぎ澄ますだけだ。
忍びの技術、盗賊の技術はそこから始まる。
それらをいかに研ぎ澄まし、生き残る為の適切な択を取るかという一点だ。
距離を徐々に離す、その足は早くも静かで。
ロングブーツがレンガやコンクリートを叩く音も、そう響くこともなく。
――人として穏やかで、そしてそうは取れないほどの朧気な輪郭。
それが、また観察の学びを終えて。 ――宵闇に消える。
ご案内:「スラム」からハルシャッハさんが去りました。<補足:通りかかり。 影によく紛れるフード付きローブの男。革のブーツに、レザーアーマー。>
ご案内:「スラム」から夢莉さんが去りました。<補足:どうみても女な口悪男。美しいブロンドの髪と真っ赤な眼をしている。>