2020/07/23 のログ
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」に羽月 柊さんが現れました。<補足:後入歓迎:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。くたびれた白衣。鳥籠を手に持っている。>
羽月 柊 >  
風紀委員会の本庁。余程でなければ来る予定は無かった。
建物を睨みつけるように桃眼で見上げ、首元のネクタイを軽く正す。

白衣のポケットから機械を取り出す。

先日の『トゥルーバイツ』のデバイスだ。
今は最早何の反応も示さないそれを見て眉を顰める。

死体を直接ここに持ってくるのはどうかと思ったが、
とっておきだった空間格納の魔具に入れて来た。
使い捨てなので…損も良いところではあるのだが。

デバイスをポケットに戻すと自動ドアをくぐる。

……正直、裏で活動していることもあって、なんとなく居づらい。


――幾人かいる風紀の知り合いに逢うの一番か、
とはいえ、幌川 最中に遭うのだけはなるべく避けたい所だ。
何をバラされるかわかったものじゃない。

「……すまない、死体を見つけたという報告はどこに行えば良いだろうか。」

どう言えば良いかも分からないので、受付に率直に申告してみる。

羽月 柊 >  
死体など正直落第街では日常茶飯事だ。
だからわざわざ報告するということは、それだけ"意味がある"。

だが、どう言えば良い。

しかも本来はこの風紀委員の子飼いであるはずの
『トゥルーバイツ』の死体だ。

……思えば、かなり虎穴に入っているような気がしなくもない。


だが、風紀委員とて一枚岩ではあるまい。
今まで逢って来た彼らは、それぞれが様々な考えで居た。

ならば、向いている方向も少しずつ違うはずだ。


手に持った籠の中で小竜たちが鳴く。

誰かしら、担当が来れば良いのだが。

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」に幌川 最中さんが現れました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。今日の星占いは1位。>
幌川 最中 >  
受付にそう言えば、風紀委員の少女は本庁内の一室に羽月を通す。

最低限観葉植物なんかを置いて、「親しみやすい!」「自然!」なんて。
そんな雰囲気を無理に醸し出そうとしたような小さな一室に。
ノックの音が数度響いて、一度聞いたことのあるかもしれない声がする。

「おやどうも。いやあ、嫌なモン見ちまいましたねえ」

肩を竦めて、軽く――ではよくないと、少しばかりの仮面一枚。
「不幸を目の前にした市民」を目の前に、椅子を引いてから腰を下ろす。

「……『はじめまして』。
 風紀委員会の――生活課のほうの、幌川最中いいます。
 それで、お話、お聞きしたいんですが、……話しにくいですか?
 話しにくけりゃ、読心系の異能者もウチはいますんで、お気軽に」

この場には不相応なほどフレンドリーに。
柔らかな表情を浮かべたまま、幌川は羽月の瞳を覗き込んだ。

羽月 柊 >  
取り次いでもらうことは出来た。
平静を保ち、案内してもらった少女に「ありがとう。」と一言返す。

さて、誰が来るのか。

小竜たちの入った籠を足元に置くのもどうかと思い、テーブルの上に置く。


現れた、のは。

ちらりとでも考えたせいか?


聞こえた声に思わず目が見開く。すぐに戻した。気付かれていないか?
そうして対面の椅子に腰を下ろした男を…見る。

あの日、裏競売の中、仮面の奥で見ていた桃眼で。

――幌川 最中。


「…ああ、『はじめまして』。」


どうやら、約束は、守られた。


「俺の名前は羽月 柊。
 ……確かに話しづらいが、能力者に頼るほどでもない。
 ただ出来れば、"そちら"に聞いてもらって判断して欲しいのだが…。
 何分、少々面倒な見つけ方をしてしまったからな。」

周囲に人や録音・録画はされているだろうか、と暗に問う。

これは賭けだ。
約束を守った相手に対する、僅かな……信頼という名の。

幌川 最中 >  
「ああ、大丈夫ですよ」

初対面の、無辜の市民に笑いかけるように穏やかに。
凪いだ水面のように、極めてフラットな声音で男は頷いた。
男は羽月の思惑には意を向けることはない。

「それなら、同席してもらいますか。ちっと待ってもらえると。

 ……あー悪い、西九寺呼んできてもらえる? 一応保険で。
 ああいや、そういうんじゃないよ。他の人もいたほうが安心できるだろうから。
 それに、俺たちも彼も、確証があったほうが気楽だろ」

一度だけ席を立って、部屋の外の風紀委員に声を掛ける。
しばらくして、おさげ髪の女生徒がやってきてから、幌川の横の席に腰を下ろす。

『はじめまして、西九寺千里といいます。
 お伺いの件に関しまして、こちらで録音と、私の異能での確認を。
 「少しばかりの真偽感知」程度で、あなたの発言を確認させていただきます。
 すみません、不幸なお話の後にこんなことさせてしまって。
 では、以降私は発言致しませんので、どうかお気にせず』

少女が軽く頭を下げる。
どうやら、嘘をついているかそうでないか程度は彼女の異能で判別をつけるらしい。
風紀委員会にはよくあるやり方のようで、実に迅速な対応だった。

「それで、羽月さん。
 場所、時間、状況……それから、何か気付いたことなどあれば。
 お伺いをさせてもらえると、大変ありがたいんですが」

いかがでしょう、と、幌川は問いかけた。

羽月 柊 >  
どうやら相手は本当に初対面という事を貫くらしい。

人が増える。それだけ、結果の予測が難しくなるのは確かだ。
ならば仕方ない。嘘がつけなくなるならば話すしかない。
退路を柔らかく塞がれた気分になる。

本当に最悪、この場で"向こう側の道"に
逃げ込まないといけない可能性まで頭の中で追いかける。

「…時刻は昨日の夜頃、場所は落第街の通り、
 付近の目印は、――の看板が最も近い路地。」

テーブルに手を組み、話し始める。

「何故その付近にという問いは後に置いておく。
 まず先に話させてほしい。

 その場に二人の人間が居た。
 それから一方の人間が、敬礼した後に
 意味の分からない言葉を叫ぶようにしてその場に崩れ落ちた。」

嘘は言っていない。
"話していない"ことはまだ山ほどあるが、一先ずそこで言葉を区切る。

幌川 最中 >  
腹芸をするというのは、「こういうこと」だ。
第三者がいる状態で、第三者に違和感を感じさせずに、
その上で、嘘は言わないで話をすることが最も重要である。
だからこそ、この静かな緊張状態は作り上げられる。退路はない。

いいや。「無辜の市民」が、気分が悪くなったのならば、
風紀委員会は、絶対にそれ以上の追求はしないだろう。調査はするだろうが。
だから、これはいつだって降りることができる話なのだ。利は羽月にある。

「なるほど」

相槌は静かなものだった。
黄色い分厚いメモ帳にさらさらと状況がメモのように記される。
落第街の通りという情報から、頭に入っている地図と照らし合わせて紙面に記す。

忠実に。

「それから?」

桃色の瞳を、やはり幌川は静かに見つめている。
じっと。まるで穴の底か何かを眺めるかのように見やり、話を促す。

羽月 柊 >  
柊はじっと最中を見ている。こういう時、眼を反らしてはいけない。
そうなれば疑われるのは自分だからだ。

"演技"をしなければいけない。

「……毒や異能という類には見えなかった。
 双方共に知らない人間ではあるが、"同じ衣装"をしていて、
 どうやら仲間のように見えた。

 崩れ落ちた方は確認したが死んでいた。
 まだ生きている方に確認したが、
 聞いた限り『仲間割れではない』と言っていた。」

自分の中で出来得る限り、選び抜いた言葉を探し出してくる。
こういう時に限って言葉というモノは手の平から零れ落ちてしまうが、
焦らないように自分に言い聞かせる。

「……『今更仲間割れをしても無意味』だとも、言っていた。」

どの情報を出して、どの情報を出さないようにすれば良い?

相手は、『トゥルーバイツ』に対してどういうスタンスなのか。
この逃げ場の無い場所で、己はどう立ち回れば良い。

幌川 最中 >  
「なるほど、同じ衣装と」

横に座った少女に対して、「共通装束のある違反部活洗ってくれる?」と一言。
少女は、傍らのタブレット端末をつけてから手を動かし始める。

相手の意図は、幌川にもわからない。
ただ、「通報」でなく、「出頭」したのだから、
そこに何らかの意図が含まれているのではないか、と推測することはできる。

だからこそ、いつも通りに。
風紀委員会のマニュアル通りの対応以上のことは決してしない。
その必要がないからこそ。手元でペンがくるりと回る。

「その『まだ』生きているほう、っていうのは?」

見え隠れする意図までは読めない委員を横に置いている意味。
真偽以外の判定ができない少女が傍らにいる意味。
あらゆるものを積み重ねて、彼の真意を見定める。

風紀委員会内部の体制を、過激・穏健の二つに分けるよりも、
解像度をより上げるのであれば、革新勢力の左派と保守勢力の右派というほうがいい。
左派こそ目立ち、一般的な委員の中で「ちょっと」なんて言われることもなきにしも非ずだが、
それはある種の進歩主義でもあり、「より良く」することが根本にある。

対して右派勢力というのは。
旧時代において、ファシズムと呼ばれ、忌まれた体制が生まれた勢力であり。
幌川は、この右派勢力に席を置いている。だからこそ。

「今はどうかわかんない、ってことですかね?」

羽月 柊 >  
「……話をする限り、同じように"死ぬ可能性"がある。
 現在の安否はわからん。ある程度言葉で止めはしたが、意志が固かった。
 ただ対話に応じる分、まだ可能性もあるかもしれんとここに来た。」

そう、名も知らぬ少女の意志は固かった。
それでも、彼女は自分と"対話"をした。

押し問答にも近い、永久の平行線の対話ではあったが、
相手にも聞く意志があったし、自分もまた話を聞いたのだ。

死んだ男の叫んでいた『真理』という言葉。


少女がタブレット端末に眼を離したのを見て、
柊は姿勢を正すようにして、組んでいた手を離し…
己の腕を軽く二度払うように叩き、最中をもう一度見やる。

――叩いたのは最中の、腕章がある位置。

「"真実"を話しているかは分からん、だが、計画と言っていた。
 なら、あの二人だけに話がおさまるとも思いにくい。

 あんな風に不審死を次々と起こされては、流石にそちらも嫌ではないか、とな。」

幌川 最中 >  
羽月の話を聞きながら、極めて幌川は普通にしていた。
ところどころ唸るところこそあれど、それこそ気にする様子もなく。

ただ、中身が知れた瞬間。
「それ」が、一体何であるか、誰であるかが垣間見えた瞬間。
少しだけ目を細めてから、小さく溜息をついた。
傍らの少女にも「調べなくていい」と口添えてから、まっすぐに羽月を見る。

「ああ、なるほど。
 それであれば、『最近巷で話題の違反部活』でしょうな」

違反部活、と。
遠慮一つなく、躊躇いすらなく言い切った。

「かつて、そういう活動をしていたカルト部活があるようでしてね。
 その生き残りが、新しい『違反部活』を立ち上げたって話は俺も聞いてますよ。
 それは、それを見てしまったなら、運が悪かった。申し訳ない」

頭を軽く下げてから。顔を上げて、微笑む。

「風紀委員会っていうのは、対処療法しかできないんですよ。
 だから、実際に人が死なないと事前に防ぐことはできない。
 ただ、そういう違反部活が動いていることは知っている。
 ……俺達にできるのは『声掛け』程度なんですよ。全てが未遂である以上、強権は振るえない」

仕方のないことである、といった様子で、まっすぐに羽月を見据え。
『元違反部活生威力運用試験部隊傘下独立遊撃小隊・トゥルーバイツ』を。
「ただの違反部活」と言い切った。風紀委員会傘下の組織ではなく。

「進言、ありがたく。
 こちらの方でも調査は進めさせてもらいます。
 ……もし、何かあるのであれば俺の方に連絡貰えれば。
 ああ、もちろん委員会の直通番号でも問題ないんで、好きなように」

風紀委員会右派・幌川最中は。
トゥルーバイツを同じ風紀委員会の学生とは一言も言わず。

違反部活(テロリスト)だと、笑ってみせた。

「心のケアについては、後ほど別の人員が担当しますんで。
 ……今回は、貴重な情報をお寄せいただき、改めてありがとうございました」

しっかりと腰を折ってから、頭を下げた。

羽月 柊 >  
「……、……。」

相手の言葉に我が耳を疑った。
かろうじて目を見開くことだけは堪えたが、
無理な演技は最中相手には非常に滑稽に見えたかもしれない。

――切り捨てたのか、こいつは。

ここまで言い切ったということは、自分が何を示したかはっきりと理解したはずだ。
ならば、持ってきたデバイスや死体すら、意味を成さないのか?

「そうか………『死』を選らばねばならぬほど『病』に冒されたモノに、
 対処療法しか出来ないと言うのか……君らは。
 もう、実際にヒトが死んでいるというのに。」

そう、恨み言を言うしか出来ないのか。

「……では、あの名も知らぬ少女もあえなく散るのか。
 "少々変わった言葉遣い"と"尖った歯"をしていたが、まだ制服を着ていたぐらいの年齢の彼女も。」

最中が撫でやった少女も、
そして、日ノ岡 あかねも、そうなるのか。


「…何かあれば、連絡させてもらうとも。」

幌川 最中 >  
滑稽などとは、思いやしない。
滑稽などではない。そちらのほうが正しいことは。
他の誰でもない、幌川自身もよくわかっているのだ。わかっていてもそうしているだけのこと。
その視線は。もう、何年も何年も、何回だって向けられてきた。

それを批判しながら誰かに手を伸ばし、落第街に堕ちた委員がいた。
それを批判しながら誰かを救おうとし、自分に撃ち殺された委員がいた。

その両方を理解している。
理解しているからこそ、絶対に歩み寄りはしない。
理解できるからこそ、絶対にそれを肯定したりはしない。

「『死』しかない患者に、何ができるってんです」

はじめて、本音らしきものが溢れる。
半ば八つ当たりのような言葉には、穏やかに返すことは決してしない。

「末期の患者に、何をしても治らない『病人』に。
 医者も何もできやしないでしょう。それに、言い方を変えちまえば。
 ……『病巣』を切除しなければ治らない病気には、医者ならメスを入れるでしょう」

自分の信念に違いはないと。
自分の歩む道が間違いだとは決して思わないと。

それが『誰』であるかで、法は揺らいではいけない。
『誰』だからといって、許されたり許されなかったりしてはいけない。
法を守るからこそ、法に守られることができるのだ。

席を立ってから、薄く笑う。
羽月に、「どうにかしたいならあんたがやれ」と、挑戦するような視線。
自分はもう匙を投げている。行動を起こすのならば、あんたがやれ、と。

風紀委員だからといって、誰もが同じようにいるわけではない。
こうして、常世島名物の『見て見ぬ振り』が上手い風紀委員だっているのだから。

何かを変えたいのならば。「トゥルーバイツ」のように。
誰かが、何かをしてくれるのを待つのではなく。
当たり前のように首を突っ込むべきなのだ、と。リスクを背負うべきだ、と。

「俺の『上』にいるお偉いさんは、手術を選んだみたいでね」

幌川と同伴の少女が席を立ってから、「それでは」と敬礼をする。
きっといつか、羽月が見た「誰か」が死ぬ前の敬礼と、そっくり同じものを。
踵を返し、風紀委員会本庁の長い廊下を歩く。……仮面の『下』の表情、いざ知れず。

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」から幌川 最中さんが去りました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。今日の星占いは1位。>
羽月 柊 >  
そこから外に出るまで、柊は最低限の言葉のみになった。

ああ、やはり渡した仮面通りだとも、狐。
君の視線はそうだ、裏で後押しするのではなく、表舞台に立てと言うのだ。

名も知らぬ相手の為に、一度だけ出逢った相手の為だけに。

『上』はこれから死ぬ人間を『病巣』だと切除するつもりなのだ。

無駄足という事は無い、逆を言えば、ここまで上辺の会話だけになるなら、
彼らに武器を持たせるような事が無ければ、明確な対立は無いということだ。
だが分からない。これ以上どうすれば良いのかと。

思えば自分の意志とはいえ、安請け合いをしたモノだ。
白衣のポケットにあるデバイスの存在を思わず確かめ直す。


本庁の建物を出ると、夏のぬるい風に頭を撫でられ、
乱暴にがしがしと掻いた。

「ああ全く……事が終わったら、貸したモノを返してもらうぞ。」

相手に名前が知れた。分かっている。
だからこそ、後ろを振り向き、桃眼でねめつけた。


唇が音を出さず、相手の名前を呼ぶ。幌川 最中、と。

――ヒトは、本当に他人を嫌悪した時、その名を呼ばぬという。

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」から羽月 柊さんが去りました。<補足:後入歓迎:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。くたびれた白衣。鳥籠を手に持っている。>
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」に幌川 最中さんが現れました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。今日の星占いは1位。>
幌川 最中 >  
 
――時は遡って。

 

幌川 最中 >  
『元違反部活生威力運用試験部隊傘下独立遊撃小隊・トゥルーバイツ』。

それの扱いに関しては、風紀委員会内部でも様々な見解があった。
それを風紀委員会の下部組織として扱ったほうがいい、という意見。
それを風紀委員会など関係なく、「トゥルーサイトの後釜」と扱う意見。
あらゆる意見が、この風紀委員会という委員会の中で渦巻いていた。

元違反部活生である日ノ岡あかねを旗印に、風紀委員会の中からも人員が集まり。
「真理」を求めている、なんてことを、風紀委員会が知らぬはずもなく。

それでいて、成功率1%未満であれば気にする必要もない、と。
『見て見ぬ振り』を続けていた風紀委員会の中でも、噂を聞くほどとなった。

旧知の委員が「そこ」へと所属を変えた少女を取り戻したいという委員も。
友人が「そこ」へと所属したが、そんなことはしてほしくないという委員も。

あらゆる委員がいた。
あらゆる人間がいた。
あらゆる想いがあった。

幌川 最中 >  
「はい」

挙手をする。
昼過ぎの薄暗い会議室に、風紀委員が集まっている。
表向きな集まりではなく、あくまで私的な友人関係という題目で。

「それならもう、俺は」

ペットボトルと書類が数枚、机に散らかされている。
黒塗られた様々な生徒に関するプロフィールを印刷したA4の書類。
そこには日ノ岡あかねの名前も、園刃華霧の名前だってある。
四十数枚の「人間」の、学園に提出されているデータがファイルされている。

「諦めたほうが懸命に思いますなあ。
 ……ははは、いやあ、いやあね。別にやりたい人がやりゃあいい。
 俺は諦めただけなんで、別にどうこうってわけじゃあないっすから」

同席している風紀委員会は、幌川と思想を同じくする委員たちだ。
現状維持を至高として、あらゆる進歩も、あらゆる後退も望まない。

             ・・・・・
「……そもそも、風紀委員になった程度で、人は救えねえって」


じきに気付くんじゃないです? なんて言いたげに笑う。
赤い風紀委員の制服。右腕に巻かれた風紀の腕章。葉巻の煙を揺らす。

幌川 最中 >  
「そもそもの話っすよ、そもそものね」

違反部活謹製の、甘ったるい痛み止めの葉巻。
あらゆる痛みを誤魔化して、気を紛らわせるための違反薬物。
それがそれであることを知っていても、誰も何も言わない。

今までに、試すように後輩たちの前で吸ってきたが。
それを咎められたことは一度たりともありやしなかった。

身近な「誰か」の違反は、平気で見過ごされてくる。
何度も何度も。わざとらしくパッケージすらも机の上に置いたとて。

それでも、苦言を呈されることはなかった。
未成年の喫煙くらいなら「可愛らしい違反」かもしれない。
では、「違反部活謹製薬物の常用」なら? これも同じだろうか。

善悪も、法も。……あるいは裁きであったとしても。
それを向けられる相手によって、いとも容易く歪められる。
だからこそ、幌川は笑って言うのだ。平気な顔をして、肩を竦めて。

 ・・・・・
「そういうの、もう、誰も気にしてないんならいいんじゃないすか?
 好きにしましょうよ。まあ、『今回』はダメかもしらんけど」


「“次”は、ある程度抑えられるんじゃない?」
 
 
幌川の言ったこと。……「止める」。
それは、あかねや華霧を止めるだなんてことでは決してなく。
『次』に、あかねや華霧の「ような」誰かを止める、という抑止のあり方である。

――だって、止まんねえじゃん。
止まんねえんだったら、それを次のために使うしかなくない?

ペットボトルのミネラルウォーターを傾けながら。

幌川 最中 >  
この、猛毒のような諦めを広めること。
この、どうしようもない諦めを認めること。

『仕方なかったね』と言いながら、なあなあでいること。
これを誰も彼もが思うようになることが、幌川の思い描く理想だ。

誰のせいでもない。
世界は、「そういうふう」に出来ている。
なにもかもが満たされることなんて絶対にありえない。

「そういう」世界を、誰もが享受することこそが。
……幌川の願う「平和」で、「十全」な世界だ。

誰もがお互いに無関心に、誰もがお互いに浅い興味と浅い理解を示し。
それでいて、表面上は――『仮面の上』では、それで十分とお互いに笑う。

幌川の思い描いている理想郷は。
実現可能な理想郷だ。事実、それが成立する可能性は大いにある。
「真理」を頼らなくてもいい、ぐうたらな、怠惰な理想だ。


「だからまあ、今回はさ。
 誰が何が悪かった、っていうんじゃないよ。罪悪感を感じる必要はない。
 きっと、何か行動を起こす奴は、『誰が何をやったって』やるんだから」


「違反部活・『トゥルーバイツ』。
 同情はいらない。違反部活生が勝手に死ぬことに、心は動かさなくていい」


「誰かの『物語』を書き換えたいっていう人たちも同じ」


葉巻を丁寧に揉み消す。
同席している風紀委員は、その銘柄を『見ない振り』している。


「『誰が何を言ったって』、挑むのはさ。
 ……『トゥルーバイツ』も、『正義の味方』も、同じだからさ」

幌川 最中 >  
 
――幌川最中は。 
 
 

幌川 最中 >  
 
『この世界』に、『不足』を感じられるような人間に。
 
 

幌川 最中 >  
 
――理想を思い描き、現状に不足を感じられるほど幸せな人間に。
 
 

幌川 最中 >  
 
 
         嫉妬している。
 
 
 

ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から幌川 最中さんが去りました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。今日の星占いは1位。>