2020/06/29 のログ
ご案内:「【回想】異邦人街にある路面バス停留所」に武楽夢 十架さんが現れました。<補足:【ソロ―ル】黒髪赤目、足元が土に汚れた橙色のツナギを来た細身の青年>
武楽夢 十架 > 丁度、こんな季節/日だった。
―――本日は快晴なり。熱中症には気をつけよう。
―――星座占い、本日の最下位は蟹座。ラッキーアイテムはランポルキーニ・クラシックレジェンド仕様。
横にある小さなモニタが映し出すものを横目に少しだけ早く着いてしまった停留所には青年・武楽夢 十架ただ一人。
今日は午後から授業を受けに学園に向かうだけなので屋根のある路面バスの停留所のベンチに腰がけた。
まだ夏本番は遠いはずだが、項垂れるような暑さに参りそうになる。
そういう自分の弱さは昔から変わってない。いや、農作業中にフラついて倒れそうにならなくなっただけでも大きく成長したと言えるか。
体力がなくてフラついてて今にも倒れそうだったあの頃。
かつての事を思い出す。
そう、こんな風に遠くに入道雲を見て自分の体力の無さに絶望しかけた日のことだった。
―――彼女、■リ■と出会って俺が彼女を失うまでの物語はちょうど二年前のこんな日に始まった。
武楽夢 十架 > 僕の両親は昔、仕事でこの学園の見学にやってきたことがあるらしく。
その時に子供が出来たら是非ここに入学させたいと願っていたらしい。
―――どこの国も混乱しててまともじゃない世の中で一番マトモに思えたのがここだったのだそうだ。
そんな両親に勧められたのもあって僕は常世学園に入学を決めた。
農学科もあって、故郷に帰った時に荒れてたりはあるけど土地は困らないんじゃないかと思って農業をやろうと軽い気持ちで考えてた。
その結果、自信の体力の無さに愕然として農業の厳しさというのに入学早々心が折れそうだった。
朝は早いし、体力は使う、その上出身やこれまでの学力に合わせた必修科目が用意されてた。
甘く考えてた僕は陽炎を作り出すアスファルトの上で崩れ落ちそうだった。
崩れ落ちて溶けて消えてしまえば楽かもしれないと考えてた。
『はいはーい、そこの君!停留所の方に寄ろうねー』
そんな声と共に僕の腕を取ったのは、一人の学園の制服を着た少女だった。
異能で変色したという緑色の長髪と■■■て■■■な■の彼女との最初の邂逅だった。
武楽夢 十架 > 屋根付きの停留所のベンチに座ると水とタオルを彼女がくれた。
なんでも困ってる人と危なっかしい人は放っておけないんだそうだ。
「……すみ、ませんっ……助かりまし、た」
口に水を含み、急に溢れ出した汗をタオルで拭いてそう感謝を口にすれば、
胸の前で小さく手を左右に振って、いいよいいよと彼女は笑った。
『私は、二年の……普通科二年の■■■リ■。あなたは?』
脱力したままペットボトルの口だけを見ながら僕は反応だけは返した。
「農業学科……専攻一年の武楽夢 十架です」
そう言って、僕は顔を上げてここでようやく自分の『黒い瞳』に彼女を映した。
彼女はとても■■だった。その笑顔が眩しくて、
「じゃあ、十架くんで!」
そう名前を呼ばれた時に、今でもはっきり言える。
僕はこの時に彼女に一目惚れしたんだ。その思い出せない笑顔に。
武楽夢 十架 > ―――思い出に少し浸っていたら、路面バスが到着した。
バスに乗る際に空から照りつける真夏の太陽にあの時を思う。
「……君のいない世界だけれど、君のすべてを失いはしないよ」
ぽつりと零した言葉は路面バスの動力駆動音に混じり消える。
停留所に過去の記憶は残す機能はない。
他の誰の記憶にも最早彼女の記憶はないのかも知れない。
バスは動きはじめた。
もう全てが終わった記憶の続きは、また思い出してしまった時に。
ご案内:「【回想】異邦人街にある路面バス停留所」から武楽夢 十架さんが去りました。<補足:【ソロ―ル】黒髪赤目、足元が土に汚れた橙色のツナギを来た細身の青年>