2020/07/24 のログ
ご案内:「スラム」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > 廃材置き場に隠れるようにして、人知れず事切れた少女があった。
ヨキの目の前で、目を剥いて泡を噴きながら死んだ少年があった。
やっぱり死にたくない、と泣きじゃくってヨキに抱き着く者もあった。
ヨキが目の当たりにした『トゥルーバイツ』の面々はさまざまな結末を迎えていた。
さまざま、といっても、『真理』と接続して命を落とすか、その願望を放棄するかのどちらかであったけれど。
ヨキはそのいずれもを肯定した。
ヨキはそのすべてを否定しなかった。
ヨキはそれら誰もに優しい微笑みを向けた。
死んだ少女の遺体を隠した。
死んだ少年の瞼を閉じさせてやった。
諦めた者たちを優しく抱き留め、その背を撫でてやった。
同じ顔、同じ手、同じ声で。
ヨキ > ヨキは感心していた。
これなら壊滅を免れる。生きたいと願う者にも選択肢がある。
日ノ岡あかねの統率だから、さほど大事にはならないだろう。
風紀委員会の傘下であるから、きっと大事にはならないだろう。
なるほどよく出来た計画だ、と、ヨキは心から感心していた。
惜しむらくはひとつだけ。
「これが授業の課題であったら、さぞ良い点を取れるだろうにのう」
煙草を手に、ぽつりと呟く。
ヨキは今、打ち棄てられたバラックに凭れて一服していた。
単純に、『トゥルーバイツ』の消息を追って歩き回る最中の一休みだ。
ご案内:「スラム」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >
ヨキの視界の端に、黒が生まれる。
白を2つ連れた、黒が。
異世界とは違う、この世と少しだけズレた場所。
妖精が使う道だとか言われている、"あちら側"の道。
色々な種族と共存するこの常世島にも、そういう道は無数に点在している。
黒であった男は以前ヨキとこちらで逢った時とは違い、
竜の仮面を被り、表情を簡単には読み取れない。
男がここに来た理由もまた、『トゥルーバイツ』であった。
一度その『真理』による死を目撃してから、
自分の中で騒ぐ心のまま、それを無視することも出来ず、
落第街のこんな深い所にまで来てしまったのである。
死にゆくモノを止められる程自分に熱は無い、けれど、何かがしたかった。
「……君は。」
通りすがりにヨキを見つけ、目的の無いまま歩く足を一度止める。
ヨキ > ふっと紫煙を吐き出す。
煙草持つ手を下ろし、黒い人影へと目をやる。
「やあ」
仮面の奥の眼差しを見定めようと、碧眼が真っ直ぐに柊を見る。
「――こんばんは。羽月か。
今宵もまた暗がりで会ったな」
バラックの壁から背を離す。
背中に付いた白っぽい土埃を、トップスの裾を扇いで払い落とす。
「今日はどうした? 声に元気がないな」
羽月 柊 >
仮面の奥の桃眼は視線が定まっていなかった。
落ち着きが無い。足を止めていても、思考は忙しなく絶えず言葉を産み出し続けていた。
以前の男ならばきちんと視線と視線を交わせていたはずだ。
「こんばんは……今日のここは少し、騒がしいが。」
歩み寄りはするだろう。
ただ、男の立つ姿もどこか、"止まっていられない"と訴える。
肩幅に開いた足が、落ち着きの無いなにかしらの動きが。
答えの見つからぬ、答案用紙を眺めるように。
「………近日に色々あったばかりでね。
君は今日も生徒回りか。」
ヨキ > 「この街が静かなのは、寝静まった日中くらいだろう。
ああ、今夜も教え子を訪ねて回っておるよ。
この街にあっては、平穏な暮らしも保証出来ぬゆえな」
漠然と柊を見る。
柊の全身を見る。
身体中のパーツを見る。
「……色々、とは何だ。
そのために落ち着いては居られぬか。
どうだ。何があったのか、ヨキに話してみては?
少しは気持ちも楽になるやも知れんぞ」
羽月 柊 >
柊の言葉は、水をなみなみと注いだコップのようだった。
表面張力で持ちこたえているように、
自分で揺らぎを与えるまいと堪えるように。
叫びたい訳ではない。
ただ、いつもならすぐ見つかるはずの答えが見つからない。
「………ああ、そうだな。
夜の方が、ここのモノ達には適した時間だったな。」
騒がしい。
けれど、ただ死ぬモノが少し増えただけだ。
本来なら、柊には雑踏だったはずだ。
けれど、騒がしい。
「…そんなに俺は落ち着きが無く見えるか。」
自覚はある。
「……昔起きたことを少々、強制的に思いだす羽目になった。」
ヨキ > 「ああ。付き合いは浅くとも、どこか動揺しているように見える。
君の息子と同じだ。心なしか危うく、覚束ない――そんな風に」
泰然と立つ。
揺れているのは、ただ黒髪だけ。
「……ふうむ?
その口ぶりから察するに、良い思い出ではないようだな。
『この街で』何を見聞きしたかを、掻い摘んで話したまえ。
人の悪しき思い出を、隅々まで掘り起こす趣味はないからな」
話の続きを促す。
羽月 柊 >
「…そこまで自分は"落ちて"いるのか。」
思考することを辞められない。
常に色んな事を考え、それを自分で却下し続けている。
余裕の無くなったモノの一部が一様に辿り着く様相。
遠くで聞こえた話し声に、それだけで、桃眼は滑稽な程に躍る。
男はポケットの一つから、とあるモノを取り出す。"デバイス"だ。
ヨキが見送った、見届けた、隠した、保護した……。
そのモノ達のいずれもが、手にしていたのと同じデバイス。
『トゥルーバイツ』が、『真理』を聞くための"窓"。
「……これを使う場面を少々、見てしまってな。
"違反部活"の品だが、どうにも無視できずにこのザマだ。」
ヨキ > 「さあ。ヨキは君のことを深くは知らぬ。
見て感じたことを口にしただけのこと」
肩を竦め、首を横に振る。
それから、柊が取り出したデバイスを一瞥し、相手の顔へ視線を戻す。
「……ほう? 目の前で、人が死ぬところを目の当たりにしたか」
迷わずそう口にする。
何のための道具か、それによって何が起こるかを、すべて承知している顔で。
「この街へ出入りする以上、そういった事態には慣れていると思っていた。
……そうか、それが君の“悪しき記憶”のためか」
目を細める。
眼鏡の奥で半眼になると、夜のか細い光を照り返すこともない。
ただただ昏い紺碧が、柊を見ている。
「それを『無視できない』というのは?
持っている者を見つけ、止めるつもりか?」
羽月 柊 >
「……さすがは先生、良く知っていらっしゃる。」
息を一度吸って、吐く。
皮肉にも聞こえたかもしれない。
視界の煩わしさに仮面に手をかけ、外す。
薄暗いスラムの中露わになる表情は酷く、苦かった。
「そうだな、自分でも慣れていると思っていた。いいや、思っている。
正直自分でもどうかしていると思っているぐらいだ。」
デバイスを僅かに軋ませるように握るも、それを壊すことはしない。
壊すことは出来なかった。
柊の瞳で咲く夜桜は、風に吹かれ花びらを散らす。
無数の言葉という花びらを落としても、答えは見つからない。
自分の足元に、花びらは降り積もる。
「……わからん。これを見つけた時、もう一人に言葉はかけた。
だが俺には、彼らを止められるとは思えなかった。
思いだした過去の全てが悪しきなら、
何もかもをかなぐり捨てて止められたのかもしれん。
だが俺にとっての過去を、彼らを代わりになどと無礼も過ぎる。
……それでも、無視しきれない。」
傍らの白い相棒たちは、そんな柊を止めなかった。
ヨキ > 「……………………、」
柊の言葉をじっと聞く。
「……その道具が何をするためのものか、君は知っておるか。
異界の『真理』を訪ね、それに接続するためのものだ。
何故彼らがそれを手にしたか、知っておるのか。
彼らにはこの世界で叶うべくもない『願い』があるからだ。
彼らがそれを手にするまでに、いかなる道程を経たか、知っておるか。
君が『慣れている』と簡単に言い切ったことと、紙一重のあらゆる手段だ」
淡々とした声で話す。
「君はよく判っているようではないか、生半可に立ち入ることが『無礼である』と。
無視しきれないのは何故だ。
失敗すれば命を落とすからか? 異界のものと接触するからか? 命を懸けた悲願を、埋めるほどの手があるからか?
ヨキは夜ごとこの街をくまなく回ってきた。
彼らが命を懸けるほどの手段を試したように、ヨキもあらゆる手を尽くして彼らと触れ合った。
それで、君は?
『無視しきれない』という言葉だけで、彼らの覚悟に立ち入ろうというのか?」
羽月 柊 >
「……………、……。」
口が、開いても、言葉が、紡げなかった。
羽月 柊 >
羽月 柊は、何もかもが半端だった。
何をしようにもだ。
だからヨキの今の言葉に咄嗟に言い返せなかった。
何を考えても、言い訳じみて口から産み出せなかった。
大人だから理解してしまう。自分がどれほど卑怯なことを言っているのか。
ヨキ > ヨキの瞳が。
柊をじっと見ている。
その目には温度がなかった。
そこには怒りも、落胆も、悲しみもなく。
ただ柊を見ている。
煙草をひと吸いして、まだ半分近く残ったそれを携帯灰皿へ押し込める。
「――羽月」
低い声が、相手を呼ぶ。
「彼らを少しでも止めるつもりがあるなら、『己の内側』ではなく『相手を見ろ』。
それが出来ぬなら。
自分自身の感傷が心の多くを占めているのなら。
後ろ髪を引かれようともはらわたが捩じ切れようとも、一切合切手を引け」
歩み寄る。
間近で向かい合った相手を、見下ろす。
「己の無礼さを自覚する理性があるのなら。
彼らを無視しきれないという慈悲があるのなら。
子どもたちと、傷付け合ってでも立ち向かえ。
それが大人の役割だろうが」
羽月 柊 >
相手が近くに来たことで、漸く視線が定まる。
自然と相手を見上げる形になる。
ヨキの背負う月明りに僅か眼を細める。
「………ッ……。」
唇が何度か音を出そうと動く。
「……だが、」
必死に繋いだ音は、酷く、酷く、稚拙すぎる。
「"今更"、彼らと向き合うのに何が出来る……!!!」
大人と言われた癖に子供のように。
コップの水が、零れた。
手を引けるモノなら、持っているモノ全て放り出してしまえば良かったというのに。
手を引けないでここにいる。
最早『トゥルーバイツ』の計画は実行されてしまっている。
遅すぎる、何もかもが遅すぎる。
ヨキ > 「『今更』、か」
ふっと笑う。
大きな口が、三日月のように笑みのかたちを作る。
獣めいた牙が並ぶ口。
「君とはもしかすると、いい『同僚』になることも夢ではないと思っていたが……。
そうか。残念だ」
浮かべた笑みは、すぐに消える。
「……羽月よ。
彼らはな、『成功率一パーセント』のために命を懸けておるのだぞ。
ここで立ち止まっている君は、やりもしないことに百パーセントの失敗を見出しておるのか?」
羽月 柊 >
相手の笑みに、思わず一歩たたらを踏む。
人間であり人間でしかない男は、かつて獣だったモノを見上げる。
「……最初は放り出そうとも考えた。
拾ったモノを他に託して、俺の舞台はそこで終わりだと。」
同僚と言われ、どういうことか理解は出来ない。
ただただ、零れたコップのままに。
「だが舞台から降りられなかった。
しかし自分の持つ信念が彼らと真逆すぎる。
一度話して、それは嫌というほど身に染みた。」
永久の平行線だ。
心が死んでも生きる側の柊から、心が死ぬぐらいなら死ぬという側への問答が。
「可能性を、見ていない訳じゃない。
だが自分が力を持っていないことも嫌というほど知っている…!」
それでも可能性を探しているからここにいる。ヨキの前にいるのだ。
ヨキとの"対話"をすることから、柊は逃げてはいなかった。
今まで"無能力"だった男は、呟く。
「……それでも、俺の言葉は、届くというのか…? "ヨキ"。」
"独り"の男は、相手の名を呼んだ。
――自分の奥底で叫ぶ、諦めたくないという、
願いにも満たない、僅かな祈り。
ヨキ > 「届くさ」
その声は、ひどく明朗に響く。
「何故なら君は、ヨキと話したからだ」
空の左手が、握り拳を作る。
それをそっと正面へ伸ばし――柊の胸元へ、とん、と押し付ける。
「君は一度失敗した。
失敗した自分を知っている。
そして今、君は手掛かりを得ようとしている。
だったら。
二度目がある。
三度でも、四度でも、何人取り零したとて諦めるな。
君は『彼ら』と言葉を交わすうち、少しずつ『彼ら』が持つ空白の大きさを知るだろう。
だが君は――それでもなお、語り続けなければならない。
彼“ら”ではなく、ひとりひとりの彼、彼女とな」
相手へ押し付けた拳に、ぐ、とほんの少しだけ力が籠る。
まるで、言葉では伝わりきらない何かがある、とでもいうように。
「――諦めるな。
彼らの悲願を阻むことを覚悟しろ。
彼らの人生に介入することを覚悟しろ。
彼らから敵視されることを覚悟しろ。
それでも君は、自分がここに在ると証明し続けろ。
惜しくも命を落とした者には――弔いを躊躇うな。
『たった一パーセント』のために、そうとしか手のなかった者たちだ」
見開いた碧眼の奥に、金色の焔。
「彼らは、ただ己の願いのためにひた走ったのだ。
たとえ周回遅れでも――走れ、羽月!」
羽月 柊 >
それは、柊が独りでは決して得られない答え。
"己の内側"のみを見ていた。
"独り"だと思い込んでいた。
"諦め"で無理やり蓋をしていた。
『また抱えた腕から落ちるかもしれない』と、
自分が抱えられるモノだけを後生大事にしていた。
――やるならば、また落とす覚悟をせねばならない。
――やるならば、自分が抱える覚悟をせねばならない。
ヨキの言葉を聞き、しばらく柊は無言でいた。
「……君は、本当に強い。」
「強くて、真っすぐだ。」
服越しのヨキの拳に、
確かにあたたかな力強さを感じて。
「だから、こんな俺でも、走れると思えてしまう。」
やってやろうじゃあないかと、言ってしまう。
例え時間が幾ばくも無いとしても。どれほど遅れてでも。
一度閉じて開かれた桜は、今度はヨキの見下ろす中、真っすぐに凛と咲き誇る。
「………俺はどれほど苦しんでも生き続けることを選んだ。
これを説くのは酷だと分かっている、だが。」
金色のピアスが揺れる。
「俺は空白の一部を知っているからこそ、語ろう。」
ヨキ > 「そうだ」
より一層、にやりと笑う。深く深く。
「それでよい、羽月。
御託を並べることは、誰にだって出来る。
『彼ら』は、それを乗り越えて『真理』に到達せんとする者たちだ。
『彼ら』の心は確実に――君よりも、ヨキよりも、ずっとずっと強い。
だから。
折れるな。弛むな。絶対に、目を背けるな」
柊から手を離す。
向かい合ったまま、一歩下がる。
「だが、決して案ずるな。
君の心は、このヨキが支える」
先ほどまで柊に宛がっていた左手の、手のひらを己の胸へ添え。
「ヨキは『選択』した者、すべての味方だ」
羽月 柊 >
自分が語るのは正に『彼ら』にとって絶望だろう。
諦めて苦しめと言うのと同義だろうから。
けれど、自分も決して、何もかもを諦めきれてはいないのだ。
今こうして、ヨキと"対話"したように。
「……支えるか。」
そう言われたのはいつぶりか。
それこそ、この胸に秘める空白を創った主に言われたきりではないか?
「――そんなことを言われるのは、"久々"だ。」
そういって、苦笑を浮かべた。
とても下手な、大人らしくない笑みを。
それを揶揄するように、小竜の両方が柊の肩に留まり、頬ずりや鳴声を上げる。
「……あぁ、ああ悪い…お前たちも居るな…。」
本当に人の心は間違う。
どれほど近くに他人が居ても、独りだと思ってしまえるのだから。
ヨキ > 「は。
このヨキと出会えたことを、幸運に思うがいい。
対話ならば、いくらだって付き合うさ」
柊に擦り寄る小竜たちを見ながら、腰に手を当てる。
「惑いを糧に変えるのは、未だ簡単ではなかろうが……精々努めるがよい」
踵を返す。
スラムの奥へ向かって、足を踏み出す。
「……ではな、羽月。
君が駆け抜けた先を、楽しみにしておるぞ」
片手を軽く掲げる。
背中と足音は徐々に遠ざかり――やがて闇の奥へと姿を消す。
ご案内:「スラム」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
羽月 柊 >
――行ってしまった。
――言ってしまった。
「………ありがとう、ヨキ。」
去っていく背にそう投げかける。
感謝の言葉はすぐに口にしなければ、伝わらない。
……そうして、冷静になったことで遠くて近くなった騒ぎを想う。
自分に、後どれぐらいのことが出来るのか。
分からない、けれども。
進まなければ。
この"声"が、届くなら。
パチンと"音"が響き渡る。
ご案内:「スラム」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>