2020/07/25 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に羽月 柊さんが現れました。<補足:待合済:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >  
カツンと音が鳴る。

ヨキと別れ、"向こう側"の道を通り、なんてことない路地に一旦姿を現す。
もう夜も遅いが、『トゥルーバイツ』に対して
己の出来ることを探す為、少しの間ぐらいは寝る間を惜しもう。

最悪、この街に潜む古い知り合いを頼ってでも。

しかし闇雲に人気の居ない場所を探し回るにしても、アテは無い。
多少の範囲の生体感知ぐらいは出来るが、ただそれだけだ。

羽月 柊 >  
「……『真理』か。」

そう呟き、仮面を被った男は僅かに視線を走らせ、
懐から"デバイス"を取り出してくる。

出村 秀敏のデバイス。

不躾ながら、空間格納の魔具に死体を入れる前に、身分を検めた。
傍らの小竜たちが聞き取る限り、『妹を取り戻す為』に『真理』に手を出した。

デバイスの構造は分からない。

自分は『トゥルーバイツ』の求める『真理』とやらに興味は…無い。


だからこそ風紀委員に提出してそこで終わりだと思っていた。
けれど、終わりにはならず、まだ手元にデバイスを持ったままであった。
死体もまた、空間収納の魔具に入れっぱなしで、鞄の中だ。

無言で柊はデバイスを見つめる。

確かあれは、こんな風に――起動していた。


そう思い返しながら、男はそれの表面を撫でる。

『写し鏡、宿り木の水滴、水面に映る世界』

そう言霊を紡ぐと、自分の記憶から、
デバイスが起動していた状態を"外側だけ"再現した。

デバイスは、怪しく光る。

ご案内:「落第街 路地裏」に紫陽花 剱菊さんが現れました。<補足:紺色のコートに黒髪一本結び。紫電迸る鞘に納められた刀を腰に携えている。>
紫陽花 剱菊 >  
裏路地の暗闇を、静かな足取りで男が歩く。
共に歩いた少女と一度別れ、風紀と公安の追手を撒く事にした。
合流先は決めている。
今日の夜で、身を休める場所。
故に、男は無音で、音を立てずに動いてた。
だからこそ、柊の前に、其れは暗闇から突如這い出たように見えるだろう。
青白い月明りを浴びた、穏やかな顔をした男が、一人。

「……どうも。」

如何にも、追手と言う雰囲気ではない。
故に、剱菊は柊に会釈した。
手元に在るのは、あかねの同志が持っていた『デバイス』

「……其方は、あかねの同志……か?」

羽月 柊 >  
"起動していた"ように見えたそれが、剱菊の登場により、静かになる。

黒いスーツに竜を模した仮面。
差し込む月明りに照らされ僅かにその髪が紫色に。
傍らには、白い小さな鳥のようなモノ、使い魔か何かか。
魔術のあった世界に居た剱菊には、馴染み深いかもしれない…魔術師に近い雰囲気。

だが、彼には腕章は無かった。

林檎に噛みつく蛇はその腕に持っていなかった。


「……こんばんは。」

男は静かに、淡々と言葉を返した。


――あかね。

確か自分が最初に出逢った『トゥルーバイツ』の1人は、そう名乗っていた。

――日ノ岡 あかね、と。


だが、柊は彼女が此度の首謀者であることはまだ、知らない。


「……同志に見えるか?」

男はそう問うた。剱菊の出方を見るように。

紫陽花 剱菊 >  
仮面で表情は見えないが、雰囲気は妙な懐かしさを感じる。
自分の世界で繁栄した理外の術。
此れは、陰陽道……平たく言う魔術に近しい気配。
ともすれば彼は、術師か。傍らの物の怪は、彼のもので相違なさそうだ。

「…………人は見かけによらぬもの。
 然るに、斯様申し上げるので在れば、けだし違う、とは。」

確かにあの腕章は無い。
全ての『トゥルーバイツ』が其れを持っているとも限らない。
ただ、直感的に言えばそうではなさそうだ。
……"渇望"とも言うべきか。
そうでもしないと得られないという『願い』、熱意を用いて居るには
柊は、些か冷静過ぎる。剱菊はそう感じ取った。

「……では、其の『デバイス』は……拾い物か。
 公安や風紀の者々の様には見えない……其方は何者だ?」

羽月 柊 >  
仮面の奥で覗く桃眼は真っすぐに剱菊を見ている。
相手を見極めようとしている。
傍らの小竜たちも警戒を解いておらず、男の周りを飛んでいる。

妙に古い言い回しだ。
こういう時自分が学者の徒であることを感謝する。

「……人に正体を問う時は、まず己が名乗るべきではないか?」

矢継ぎ早に来る質問に、どこか相手に焦りのようなモノを感じる。
自分が止める為に対峙する相手側ではないのは確実だ。
なんの意図を持って話しているのか。

だからまず、問いに問いを返した。

「このような場所では何を明言しようと確証には薄いかもしれんが、
 君が"あかね"と言う相手が何なのか。
 
 ――俺が知っている"あかね"と同じなのか。」

同志、と言ったのだ。
だから、問うた。

紫陽花 剱菊 >  
ある程度其の目に自身が在れば、男と佇まいは凛然としていた。
行住坐臥を武に置く男は、常に其処が呵責無き戦場。
故に、好きは無く、静かな眼差しが仮面を見据えていた。

「……失礼。」

其れとは裏腹に、実に穏やかで静かな声音だった。
そう言われれば謝罪と共に一礼し

「……紫陽花 剱菊(あじばな こんぎく)。如くは無き男……。」

静かに、名乗った。

「渦中の少女、『日ノ岡あかね』他成らねば、恐らくは其方の思うあかねと同じ……。」

「私は、彼女の"共犯者"。故に、共に『真理』へ向かう……日ノ岡 あかねを生かす為に」

「私が、彼女の『願い』を叶えるために。」

静かに、ただ静かに全てを、在りのままを答えた。
嘘を吐く程のものでなく、男に表裏も無い。
とにもかくにも、"急いでいる"のが大きいだろう。

羽月 柊 >  
「……共に『真理』へ向かうというに、生かすというのか。」

仮面の男の語調は、"計画"の一端を知っていると語る。


例え剱菊の佇まいは静であったとしても。

言葉が急いているように感じた、ただそれだけだ。
だから、焦りを感じるように思えた。

「――俺は羽月 柊(はづき しゅう)。しがない研究者だ。
 君が"共犯者"というなら、俺はその対岸に位置するモノだろう。

 "日ノ岡あかね"とは一度逢った限りだが、
 その思惑で死ぬ命を一つでも"拾い上げる"為に……動いている。」

場合によっては戦闘になる可能性も考慮する。
もし剱菊が魔力を感知できるなら、男の魔力は仮面とその両手に集中している。

デバイスを持っていない方の片手は、いつでも鳴らせるように構えている。

――男は、"音"で魔術を構築するタイプだからだ。

紫陽花 剱菊 >  
柊の言葉に、剱菊ははにかんだ。
寂しげで、儚げな男の笑顔。

「……『生かす』だけなら、力尽くでも止めるべきだったんだろう。」

事実、無理にでも止める事は可能だっただろう。
如何なる術を修めていようが、百戦錬磨の戦人。
真正面と言わずとも、不意打ち、寝首を抑える事は幾らでも出来た。
けど、"出来なかった"。"出来るはずも無かった"。

「……私には、出来ない。『斬れない』……彼女は、ただの女子に過ぎず……
 ……静寂の夜で、夜明けを待ち続けて泣いている……。
 やりたくもない事を、やらなければ、夜明けは訪れず……私は、彼女に『何もしてやれなかった』」

全てが、遅すぎた。
後悔を口にしても始まらない。
初対面でいきなり、と思うやも知れない。
然れど、真摯に彼女を思うからこそ、自ら真摯に、思いの丈を口にする。
柊に向き合い、そして何より、"同じ考えを持っていたから"。

「……何も聞こえなんだ。あかねは、自分の声も、世界の響鳴も……。」

「成らば、せめて……私が出向き、彼女の『願い』を拾い上げるのみ……。」

彼女を生かす為の、最後の手段。
己のみが、死地へと向かう。

「……私も一時、其の様に同じ事を考えていた。
 一人でも多く、あかねの同胞を救わんと、駆け抜けた。」

「……結局、其れさえ、叶わなんだ……。」

無力さに、頭を振った。
黒糸のような髪が、僅かに揺れる。
其れでも、尚、"譲れない生命"が其処に在る。

「……せめて、あかねは。彼女だけは生かしたい……。」

「私が、愛した女性故に……。」

紫陽花剱菊、個人の我儘。
多くの命を零して尚、其れだけは落としたくない、傲慢さ。

羽月 柊 >  
「――……ある意味、いや、……我々の方が、同志か。」

柊は逡巡の後、そう言葉を吐き出した。

この男も結局"力"で解決することは望まなかった。
強引にこの手の中にあるモノを破壊しようとは思えなかった。

男に"渇望"は無い。"願い"も無い。

だが、彼ら『トゥルーバイツ』の面々が欲した"失った"モノを、自分も持っている。

だからこそ遠回りを繰り返した。
ヨキに出逢い、言葉を確かめる最中でさえ、男は『語る』と口にした。

構えていた手を握る。

「……そうだな、『彼ら』は、『助けてくれ』と言っているだけなんだろう。」

デバイスに視線を落とした。


「…………愛する女性の為、か。」

そう話す男の右耳で、月明りを金色が反射した。


「しかし、何も聞こえないとは…どういうことだ…。
 君は生かしたいのに共犯になると謳う……その真意は何だ。」

紫陽花 剱菊 >  
「……嗚呼。」

そうだ。彼女等は『救い』が欲しいだけ、叶えられる『願い』がたまたま其処にしかなかった。
『諦めきれる』程の事じゃない。簡単に『諦めれる』程の喪失では無かった。
だから、其処にしかない『願い』を拾いに行く。
たった、それだけ。誰もが持ち得る、些細な事。

「……異能。あかねの異能だ……。」

如何なる技術を以てしても、其の異能を解除する事は能わず。
彼女は其れほどまでに、試した。
きっと時間が許せれば、まだ他に方法はあったのかもしれない。
だが、あの無音の世界で長い時を過ごすこと等
ましてや、唯の少女にそんな酷な事、出来はしまい。

「……語るに及ばず。私の"我儘"だ。」

真意など、大それたことじゃない。
ただ、もう彼女は止まれない場所に来ていた。
だから、其の一歩を体を張って止めるしか、方法が無かった。
帰ってこれれば、其れで良い。
失敗すれば、己が死ぬだけ。
そう、今迄の『トゥルーバイツ』の面々と同じように
しゃれこうべに花が咲く。

そして、その後はあかねも────……。

故に、共犯。
故に、彼女を生かす。


"こうする事しか出来なかった、弱い男の我儘だ"。
路地裏を照らす月輪を一瞥し、思わず頭を振ってしまった。


「……月輪も、私を嗤っている……。」

滑稽、と。

羽月 柊 >  
「………いいや。」

自嘲する相手を遮った。
握っていた手を仮面にやり、外す。

男は、剱菊よりも確かに年月を経た顔で、
その桃眼に消えた蛍火を灯し、見やる。

「語らねば分からん。」

そう男は、残酷に。

「それが"日ノ岡"の異能で、『真理』に問うほどの絶望の意味を、
 その上で君が通したい我儘も……。」


そうだ、自分は周回遅れも甚だしい。
だから聞くしかないのだ。

「何故今そう言いながら、日ノ岡の隣に君が居ない訳を。」

言葉で、音で、"対話"するしか、自分には無い。

「何故"まだ"手が届くのに、ここにいる意味を。」

紫陽花 剱菊 >  
「……はは。」

力なく、乾いた笑いが零れた。
言わねばわかるまい、其の通りだ。
嘘を吐く事を剱菊はしない。
ただ、本当に語るほどの事じゃない。

「……いみじくも、唯の女子だ……あかねは……。
 唯、如何なる手段を用いても、"音"だけは聞こえない。
 自分の声も、足音も、他人の声も……何も、かも……。
 今の技術では、治せないと聞く。」

「"其処に己がいるかさえ分からない、明けない静寂の夜"……。」

何も聞こえない。
彼女のいる世界を体験したからこそ言える、永遠と明けぬ夜の世界。

「……あかねは、歌手になりたかったそうな……。
 斯様に、世界は彼女を愛さなかった……其れだけの、事……。」

欠如だけで言えば、きっとそれは"何処にでもありふれた不幸な話"なんだろう。
だから、世界は残酷なんだ。平等に死ぬ、己の世界のがまだまだ和やかに見える位


────……此の幽世は、残酷だ。


「……既に彼女は違反者。公安、風紀に追われる身……
 一度散会し、追手を撒き次第……、……其の道すがら……。」

「『真理』へのきっかけ探しだ……。彼等の持つ『デバイス』の拝借……。」

剱菊は『デバイス』を持っていない。
だが、トゥルーバイツの位置は大よそ把握している。
直ぐにでも合流する予定だったが、其れが今に至っただけに過ぎない。

羽月 柊 >  
「……………、そう、か。」

突き付けられた現実。
彼女が『真理』に頼らねばならぬほど抱えた空白。

――いつか出逢った彼女は、自分の隣で無邪気に小竜たちを撫でながら、泣いていたというのか。

ああ、本当に現実というのは残酷だ。
少し足を踏み外せば、底の見えない穴が口を開けて待っている。

そこに落ちたモノの苦しみは、理解出来たとて、
誰一人として同じではないのだ。

「異能だから音が聞こえない…? 異能の代償という訳ではないのか。
 音の聞こえない異能……。"異能疾患"……異能を"病"とすること…。
 "音を操る異能"という訳では、無いのだな? 悪いが俺は正直異能が専門の研究者じゃあない。」

"全ての異能は治療されるべき"。
いつかの学会で騒ぎが起きた時の言葉が、頭を過った。

言葉を拾ってくることは出来るのだが、専門でないことは発展しづらい。


「…デバイスを拝借……これか。」

手に持ったモノの存在を示すかのように、軽く振る。

紫陽花 剱菊 >  
「……然り……。」

病と捉えるので在れば、其れが正解だ。
但し、病と呼ぶには余りにも巧妙で
異能で在るが故に『其れが正常』に作用しているが故に
治す事もままならない、変える事も出来ない
不治の病。

「……左様。其方がご入用で無ければの話だが……
 ……恥を忍んで、お頼みすれば、其れを譲っては頂けないだろうか?」

羽月 柊 >  

 
「―――……嫌だ、と言ったら?」


 

紫陽花 剱菊 >  
「…………。」

紫陽花 剱菊 >  
「私は、追剥では無い。故に、他を当たる。其れだけ……。」

猶予は無い。
其れでも尚、彼から奪おうとは考えない。
ただ、成すべきを成す為に、己のやり方を貫き通す。

羽月 柊 >   
 
「………、君は諦めが良すぎる。」

別に和ませようと冗談を言ったんじゃあない。
コツン、カツンと男は剱菊に歩み近づく。
自分より少し低い相手の眼を見る。

「冗談という訳でもないんだが、
 俺はさっきも言ったように、以前の君と同じく"拾い上げる"側の人間だ。
 
 君が"死ぬ"為にこれを君に渡す訳にはいかない。それにだ。」

顔と同じ位置にそれを掲げる。
柊は口を開く。


『写し鏡、宿り木の水滴、水面に映る世界』


再び言霊を紡げば、剱菊の前でそれは"起動したように見えた"

「……これは、誰でも使える訳じゃあない。」

なのに柊は、真逆の事をいうのだ。

紫陽花 剱菊 >  
「…………。」

「本当に通すべきで在れば、一切合切を気にせず、唯駆けるべきなんだろう。」

「……私には、出来ない。」

諦め、自嘲にも似た嘲笑が漏れた。
"其れが出来ているなら、力ずくであかねを止めている"。
紫陽花剱菊と言う、戦人で在りながら穏やかな男は
例え我儘と言おうと、道理を重んじてしまうのだ。
意志薄弱ともとれるかもしれない。
其れでも尚、迷い、抗い続ける。
本当に"弱い男"だ。

「…………。」

光始めたデバイス。
だが、柊の言葉を聞くのであれば……"此れは己には使えない"。
其れでも、其れでも道が在れば一歩前進だ。
此れ一つで、真理へ飛び込もうなんて思っちゃいない。

「……こう見えて私も、相応に術を修めている。
 誰かが使った、繋がった事実が在れば……充分……。」

「……其れに、死にに行くために行くのではない……。」


「共に明日(つぎ)へと繋ぐために、"生きて帰る"。」

はっきりと其の目を見て、力強く答えた。
例え片道切符かもしれなくても、毛頭死ぬ気は無い。
此れは、生きる為の戦いだ。

羽月 柊 >   
「……俺にはこれ以上君の意志にモノは言えん。
 ただ、俺は……同じように"そうして取り零した"。

 君のように、愛するヒトを、"骸すら無く失った"。」

肩入れなのは分かっている。
ただの己のエゴなのも分かっている。

それでも、自分のような思いをするのは自分だけでたくさんだ。

骸は残るかもしれない。ただそれでもだ。


「正直な所、今やって見せたこれは、俺の記憶から写し取った偽物だ。
 起動したようにガワだけ見せているだけだ。

 『真理』はこの状態では聞けんし、異界に繋がってもいない。

 俺も魔術をある程度は扱えても、これの構造は理解できたとしても起動は出来ん。
 どれほど魔力を込めたとてうんともすんとも言わん。
 ここまで反応が無いなら、他のデバイスも同じだろう。」

実際起動しているように見えるそれからは『何も聞こえない』。
柊は聞いていないのだから当たり前だ。

「それでも、君はこれを持って"生きて帰る"というのか。」

紫陽花 剱菊 >  
「……二言無く。」

即答とも言える速さで、男は返した。
死中に活。其処にしか道無くば、越えるのみ。

「……器材の方は、問題無く……当ては、ある……。」

羽月 柊 >   
「……、……。」

はぁ、と溜息を吐いた。
そこまで言うのなら思いは本物だろう。

「…………貸してやるから生きて帰って来い。」

そう言うと、柊はデバイスを素直に渡――すのではなく。
片腕にある装具の一つを外した。

『還れ、汝は意味を失う』

その言霊で装具は柊の手の平の上で形を失い、金属のキューブといくつかの魔石になる。
それらをぽんと空中に放り出せば、ふわりと浮く。

『世界の種、白き紫陽花、宿りて芽吹け』

魔石の一つがデバイスに近付き、
裏側へ吸い付くように。

『茜色の夜明けを見上げ、我は願おう』

言霊は続く。
キューブ状になっていた金属が再び液体のように形を変え、輪を作る。

『廻り合わせが、彼らを地の果てへ追いやらぬよう』

『我の眼の鏡よ、夢を見せよ』

そうして、別の装飾を創り上げた。
柊はその装飾とデバイスを同時に剱菊に突き出す。

紫陽花 剱菊 >  
「……忝い。」

自分は縁に恵まれている。
此処でもまた、人に助けられた。
本来ならばそんな義理も無い。
だからこそ、深く頭を下げた。
生真面目な男なのだ。

静かに頭を上げた先では、デバイス何かしらの装飾が付けたされている。
此れは恐らく、彼の術か。
水銀の如く伸び縮むする不思議な光景だ。
デバイスを受け取れば、これらを一瞥し、柊を見た。

「……此れは……?」

羽月 柊 >   
「……俺が先程やって見せたことを、任意に出来るようになるモノだ。
 君は術の心得があるのだろう?」

装飾はブレスレットだ。
剱菊の服装ならば、装着して上の方まであげれば隠しておける。

「君の腕を疑う訳ではないが、きっちりと再現が出来るか分からん。
 それに土壇場だと尚更な。

 これに使っていた魔石は元々、ひとつの魔石だった。
 だからこっちの腕輪の方に魔力を込めれば、遠隔でデバイスが起動したように"見せかける"。」

本来ならば様々な要素を使ってもっと大掛かりに行う術だが、
そんな悠長なことは言っていられない。だからこそ元々あるモノを崩した。

いくつかあった魔石だが、デバイスに引っ付いたモノと、
ブレスレットに装飾されたモノ以外は、空中で星屑のように消えてゆく。

「……俺の使うような言葉や音は起動に必要ない。」

紫陽花 剱菊 >  
「……少々……。」

己のいた世界独自の、陰陽道。
先ずは真理へと続く一歩が、此処にある。
見せかけるだけでも、充分。
過去に通った道が在れば、自ずと道は開けるもの。
其の装飾を腕につけて、一礼。

「……手間を取らせた。ありがたく、借りさせて頂く。」

そう、飽く迄借りただけ。
返すために、生きて帰らなければなるまい。
だからこそ

「……"また"……。」

また、あおうと踵を返した。
勝負の時間まで、己のやれることを全うする……。


紫陽花剱菊の、最後の勝負へと向かう為に、暗闇の奥、静寂の奥へと進み始めた。

ご案内:「落第街 路地裏」から紫陽花 剱菊さんが去りました。<補足:紺色のコートに黒髪一本結び。紫電迸る鞘に納められた刀を腰に携えている。>
羽月 柊 >   
「ああ、"またどこかで"。」

あかねに言われた言葉を、剱菊に託す。


そうだ、これは貸しただけ。
返してもらわねば大損も良いところである。

……ただ、そんな損得を抜きにして、自然と身体が動いていたのが事実。


「――まだ、手は届くはずだ。」

そう信じて、再び仮面を被り、柊もまた、この場を去る。
僅かにでも命を拾い上げるために。

ご案内:「落第街 路地裏」から羽月 柊さんが去りました。<補足:待合済:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>