2020/07/19 のログ
ご案内:「学生通り」に山本英治さんが現れました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス(待ち合わせ済)>
ご案内:「学生通り」に水無月 沙羅さんが現れました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女>
山本英治 >  
学生通り。まぁ、いかにもな高級住宅街って風情だ。
異邦人街に住んでる俺にとっては、あまり馴染みのない場所だ。
だが、だからって嫌いだとか。だからって警邏をしないとか。
そういうことは一切ない。

まぁ、警邏も夕日燃えるただいまの時刻を持って終わりだが。

冷たい缶コーヒーを買う。今日は微糖という気分だ。
お安い冷たさを手に、休憩できそうな場所を探す。

水無月 沙羅 > いつもの見回り、所謂パトロール。
つい最近妙なお貴族様を見つけてしまったからこそ、異変は続くというのがお約束というらしいから入念に。
やっぱりお金持ちっていうのは住む世界が違うのだと、ほんの少しだけ目を泳がせてしまう。
別にお金持ちになりたいわけじゃないけど。

曲がり角の先、そういえば自動販売機があったかな、と思いだしたら急にのどが渇いてきた。
もうすぐ海の日も近い、熱中症になる前に水分でも取ろうかと角を曲がる。
見えるのは黒いまりも。

「なにやっ……つ。」

何奴でもない、先輩である。
風紀委員の先輩(沙羅の中ではアフロ先輩と呼んでいる)、山本さんと言ったか。
以前の懇親会でお会いした人だ。あの時は何か悩んでいる様そうだったけれど。

「し、失礼しました山本先輩。 こんばんわ、ですかね。 時間的には。」

墜ち出した夕日をちらりと見やる。

山本英治 >  
「今、なにやつって言おうとしなかった? まぁいいんだけど」

缶コーヒーを開封して飲む。
冷たく、甘く、苦く。黒い髪と緋の瞳の少女を見る。
神代先輩の彼女さんだ。名を水無月 沙羅。

とはいってもこっちは懇親会の後、書類で名前を知ったクチなのだが。

「こんにちはとこんばんわの中間かな……」
「見回りお疲れ様です、あと先輩はいいよ」

視線を逸らす。復学組だから。

「俺、一年生だし……水無月さん、山本さんで良くない…?」

ちょうど良いベンチを見つけて。
でも女性より先に座るのは、如何なものか。

どうぞ、と一応座るよう促してみる。

水無月 沙羅 > 「あ、あははは。 急に黒いまり……アフロが見えたのでつい。」

びっくりしたんです。

「え? うーん……。 先輩は先輩って感じですからね。 少なくとも組織により長くいる、という事で、だめですか?」

すこし唇に指を当てて考える、敬愛する人を呼ぶのに○○さん。
と呼ぶのには実は少し抵抗がある、特に風紀の人たちには、まぁそれは私の個人的な憧れの様なものがついて回ってるからだけど。
風紀のメンバーはだいたいみんな先輩。 私から後に入った人が居なければ。

「せーんぱいっ?」

にこっと笑ってから、自販機でイチゴミルクに少しだけ目が行って、すぐに微糖のコーヒーに目を移した。
最近甘いものに目が行きがちな気がする、きっとどっかの暴君のせいだ。

「あ、お失礼しますね。」

何やら気を遣わせてしまった様子。
男性を立てる、というのも女性には必要な礼儀作法らしい。
よくはわからないけれど、とりあえず先に座ってと促されるならば座っておこう。
レディーファーストという奴だろうか。
案外生真面目な人なのかもしれない、紳士、とか?

でもこの前ナンパしてなかった?

山本英治 >  
「ついで済む部分超えてない? 黒いまりもの八割発言してない?」

相手の言葉に従えば、確かに俺は先輩になるのかも知れない。
俺はこの後輩に何かできるのだろうか。
労いの言葉くらいしか今はできないが、追々考えよう。

「オ、いいねぇ。可愛がられる後輩の資質を持ってらっしゃる」

コーヒーを口にする。
帰ってからも戦場だ。掃除、洗濯、料理にと。
一人暮らしは帰ってからも忙しい。だからカフェイン。

「そういや神代先輩とこの前会ったよ」
「なんかこう……柔らかくなったな、印象が」

首の辺りを掻きながら笑う。

「そういうとこ、水無月さんの影響ならありがたいと思う」
「俺、穏健派だからさ……いつか喧嘩するんじゃないかって内心ビビってたからな」

何が穏健派だ。この前、人を殺したくせに。
任務で人を殺した際に書く青い書類──デッドブルーを書いたくせに。
自嘲しながら、髪をいじった。

水無月 沙羅 > 「だ、だってこうなんというか……人の髪型というのがいまだに信じられなくて。」

どう見てもまりもだし、まりもだし、なんか虫とかの住処になってそうでちょっと怖い。
何なら小物入れになりそうなのがちょっと憎い。

「可愛がられる後輩の資質……ですか?」

特別なことをしたつもりはないけれど、今の動作にはそういう何かがあるらしい。
可愛がられたいわけじゃないが、コミュニケ―ションが円滑に進むのは良いことだ、メモしておこう。
ほんの少し前まで、私はそんなことを気にするような人間ではなかった。

「理央さん……ですか、と言うか彼女ってどこから漏れたんだろ、じゃなくて。」

唐突にふられるものだから、急に想い人の顔が過ってすぐに頭を振って虚像を追いやった。さすがに失礼というものだろう。

「やわらかくなった、んでしょうね。 約束してもらったんです。 死神には、システムにはならないでほしいって。」

カシュッっと音を立てて、コーヒーを一口。
甘い。微糖ってこんなに甘かったかな。

「影響っていうなら、私もいろんな人の影響を受けましたよ。時計塔の小さい先輩とか、理央さんとか、日ノ岡あかねとか、路地裏の怖い人、不死身と言うより……コピー? ううん、人形だったのかな、あれは。」

いつぞや、襲ってきた不死の同輩、恐ろしき力を思い出して身震いする。

「出会いは人を変えるって言いますからね。」

それは何から教わったんだっけ、たぶん漫画だったかな。
時々書店で見る少女漫画、見回りのときは読んでないですとも、誓って。ちょっと目に入るときがあるだけです。

「山本先輩、なにか……悩んでますか?」

髪をいじる目の前の先輩を見やる。
往々にして、人の感情が動くときは体も同じように独特のモーションが付く。
頭の付近をいじるのは、目線が動くのは、過去を思い出したり、嘘をついたり、想い悩んだりするとき。
この人もまた、今を過去に汚染されている、そんな気がしただけ。

山本英治 >  
「アフロに対する偏見捨てない?」

髪を弄る。中からフォークみたいな櫛、アフロコームを取り出した。
これで髪型を支えているのだ。

「愛嬌さ……生意気でもいいが、愛嬌がないと後輩は可愛がられない」
「そして真っ当な先輩の資質は、平和なインテリジェンスが必要ってところか」

真面目にメモを取る水無月さんに、破顔一笑。
なんだか、人付き合い一年生って感じがするなァ。

「あの懇親会ムーブでバレてないと思うのヤバない…?」

デッドブルー常連の神代先輩も、どういうことか最近、枚数が減ったらしい。
その場にいるだけの二級学生まで鏖殺しなくなった、というだけだが。
いつかわかりあえそうな気がしてくる。

「ああ……俺も色んな人と会ったよ」
「ってか、あかねさんにはさん付けしないんだ?」

呵呵と笑って次第に冷気を失いつつある手元の甘露を揺らす。
そして次に来た言葉は。

「悩みねぇ……生きてりゃ、人間悩みの十や二十、あるもんじゃないかな」

思わず茶化したが、相手の視線は俺の髪を弄る手を見ていた。
ああ、そうだった。髪を弄るのは相手との距離を取ろうとする防御反応の一種だったな。

「すまない、咄嗟に茶化した。あるよ、悩み。最近は、大きなのがある」

ヒグラシの鳴き声が響いた。
遠く、空にカラスの家族が飛んでいる。

水無月 沙羅 > 「お、おぉ。それで支えてるんですね。 アフロ、意外と興味深い……いや頭重くないですか? そして暑そ、あぁいえ、偏見は止めることにします、はい。」

どうも、あの髪形にはそれなりの作成する苦労があるらしい、適当な私の髪の比べたら手間も掛かるのだろう。

「愛嬌、ですか。 できてればいいんですけど。少し前まで、不要なものだと思っていましたから。」

不死身の怪物でよかったあの頃は。
今は、こういう人たちと会話をしてもっと知りたいと思うから、きっと必要なことになったんだろう。
貪欲に知識を求めるのも悪くない。

「山本先輩は優しいって評判ですからね。」

女癖が悪そうだという印象を口にするのはとどめておこう。
違うと思いたい。

「あ。あー……、私あの人苦手なんですよね。 なんというか、人間じゃない気がして。」

酷い言いようかも知れないが、感情が見えないというのは怖いものだ。
薄笑いしか浮かべないあの少女が、私は怖い。

「茶化しても、別にいいんじゃないですか? 知られたくない過去、言いたくない事。 人には多いですから。」

謝罪する先輩に向けて首を振る。それは間違いではない。
防御行動だとするなら尚更に、面識のない人物に対しての正しい反応だ。
言う儀理もなければ、理由もない。
それでもあえて、彼の言葉言動、今までの話題から推理するなら。

「……、殺した罪、ですか?」

神代理央、人が変わる、穏健派、喧嘩をする、髪をいじるタイミング、材料は既にそろっている。

「自分も同類、みたいに思った……とか。」

それは想像だけど、ちょっと踏み込み過ぎたかもしれない。
想った瞬間には言葉に出ていて、もう遅い。

山本英治 >  
「暑いし重いけど?」

アフロコームを差し直した。
髪のボリュームがアップ。

「そうかい? 必要性が理解できたなら、何よりさ」
「人間性……とか、そういう話」

相手の過去もわからない以上、慎重に言葉を選んだ。
親しくもない相手に対人関係のアドバイスを受けるのは相手にとっても本意じゃないだろう。

「はは……ありがとう、本当に優しい人間かどうかは自分で判断してくれ」
「苦手かい? あかねさん。ああ見えて可愛いところがあるぜ」
「猫みたいな印象を受けるし、人間的で真っ直ぐ目的に向かう意思の力がある」

その意思が。今は。園刃先輩を連れて真理に辿り着こうとしているのだが。

そして相手の言葉に核心を突かれれば。
俺は深く溜息をついた。

「その通りだ。俺は最近、デッドブルーを書いた。違反部活の部長を殺したんだ」
「その上で、トゥルーバイツに参加した園刃先輩を止めたい」

「俺の汚れた手で彼女を引き止めていいのかが、どうにもわからん」

喉が乾く。残った黒の佳味を飲み干した。

「感情で色んな事件に関わったが。感情だけじゃどうしようもないことが大多数だ」

水無月 沙羅 > 「人間性、ですか。」

ボリュームの復活するアフロを眺めつつ、相手の言葉の意図するもの汲もうと試みるが、まだ私には難しいことらしい。
適当な話題がするすると通り抜けて行く、所謂世間話と、自己紹介のような何かはスムーズに流れて行って。

彼は唐突にため息をつく。

「デッドブルー……ですか。」

所謂、死亡報告、致し方のない犠牲の様なもの。
私は、あまり好きではない。
『死を想う』事を教えられた自分にとって、それは重い意味を持っている。

「山本先輩、日ノ岡あかねの目的については、ご存知ですか?」

もし、知らないというのなら、いや、知っていても知らなくても、タイムリミットは余りないのだろう。
念のための確認を、そもそも私はあの情報を理央以外に漏らしていない。
陰でいろいろな人が動いている気配はするけれど、動くなと言われた私には関係のない話だ。
たとえ彼女が死のうとも。

「どう止めたらいいのか。なんてわかりませんよ。 でもそうですね。 理央さんが変わった理由くらいなら教えられます。」

空になった缶を見て、まだ8割は残っている缶コーヒーを差し出す。
自分は新しくミネラルウォーターを買おうかな。

「どうぞ、喉、乾くでしょう?」

緊張というのは喉が渇くものだ。

山本英治 >  
「ああ、デッドブルーだ。何度捕まっても人を殺し続けると宣言した男を」

右手を開いて視線を落とした。

「殺した」

諦めたように視線を上げると、左手のスチール缶をくしゃくしゃに潰して丸めた。
一般的に堅いと思われるそれは。
あっという間に手の中で球体になる。

「知ってるよ、機密に触れるのは下っ端の身分じゃ簡単なことじゃなかったが」
「あかねさんは“窓”を開いて真理に触れようとしている」

真面目な水無月さんだ。
てっきり人生相談でもしてくれるのかと思ったが。
相手から出た言葉は、神代先輩の話だった。

「神代先輩の? 聞きたいね」

親指で球体になった缶を弾く。
それは夕焼け空を目指して真っ直ぐ飛んだ。

「遠慮しておく、カフェインを取りすぎると眠れなくなる」

弾かれた球は。ガコンと音を立てて寸分違わずゴミ箱に落下した。

水無月 沙羅 > 「そうですか。」

何でもないように、その報告を受け止めた。
きっと仕方のないことだったのだろう、世界が変わってしまったあの日から、異能を持った人間を閉じ込めておくのは楽じゃない。
人を殺すことが、武器を持っていることが当たり前になってしまったこの島では、殺さず生かす、などと言うのはお伽噺のように遠い。

くしゃくしゃになったスチール缶は、彼の心境を投影しているようで。
しかし、人生相談に乗ってあげられるほど、彼と親しくもない。
少し踏み込み過ぎてしまったことを、反省する。
自然と目線が下がった。

日ノ岡あかねの話題は、とりあえず横に置いておこう、どうせ後でつながる。
今ここで返事をしても混線するだけだ。

「では、ミネラルウォーターでも、熱中症になってしまいますよ。」

ガコン、と静かな住宅街にペットボトルの落ちる音が響いた。
まるで、静寂の糸を切る様に。
沙羅はそれを彼に投げ渡した。

「情に訴えました。」

完結に、冗談めかして。

「みっともなく、泣いて、懇願して。 彼の本心に投げかけただけです。
 嘘をつくなって。」

少し苦みの増したコーヒーを飲み干した。

「彼は、殺したかったわけじゃなかった。」

それだけの話。

山本英治 >  
「そうなんだ」

そしてこれが俺の台詞。
仕方がなかった。けど、仕方がないで済ませて良いことでもない。
自問自答を繰り返して、悩み続ける。
贖罪なんて俺が百回死んでも釣り合わないが…悩むくらいはしてもいい。

投げられたペットボトルを受け取って。

「ありがとう」

手短に言ってキリリと冷えたそれを口にした。

そこで伝えられた言葉は。
緋眼の殺戮鬼。鉄騎赫焉。デッドエンド・パペティアー。
鉄火の支配者……神代理央の、真実。

「……そう、だったのか………」

自分の言葉が胡乱に響く。
誰だってデッドブルーなんて書きたくないって。
フィスティアに叫んだはずなのに。

心のどこかで、神代先輩はそうじゃないのかも知れない。
そう思っていたのだから。

「園刃先輩、笑ってたよ」
「楽しそうに、笑ってた………」

でも、それは本当に?
レイチェル・ラムレイ先輩と一緒にいた頃より。
貴子さんと三人でいた頃より。楽しいのだろうか。

水無月 沙羅 > 「不思議ですよね。 人って、仮面を被れるんです。」

自分用のミネラルウオーターを新しく買って、また音を立てる。
夏の暑さは、どこか自分を責める様に肌を焦がしてゆく。
じわりと滲む汗が服に染みこんでは張り付いて、気持ち悪い。

「平気そうな顔を、蔑むような顔をして、人を殺して見せる人間城塞。 一皮むけば、泣きながら砲を撃つただの少年兵。」

「例えば、親切そうな、紳士の様な顔をして、その実内心はぐちゃぐちゃに今でも折れてしまいそうな青春少年。」

自分もまた、そういった仮面を被っているのだろう。
生真面目そうな風紀員の、人のいい少女の顔を。

「それは自分でも気が付かないうちに張り付いているペルソナ。
 ねぇ、山本先輩。」

冷たい水を口に含んで、嚥下する。 ため息をつく様に一息ついてから、口を開く。

「園刃先輩、本当に『笑ってた』んでしょうか。」

だれもが、嘘をつくこの世界で、だれが真実なんて見抜けるのだろう。
きっとそれは不可能に近くて、でもそれを引きはがす方法を人間は知っているはずで。

あぁ、特にこういう人にとって、それは得意分野ともいえるのかもしれない。
自分の感情に素直になれるような人間には。

「あなたの此処は、どう思っているんですか?」

鼻が付きそうなほどに近づいて、黒い瞳を、真紅の瞳が覗き込む。
意地の悪い、あの鉄火の支配者の威を借りて。
見透かすように覗き込む。
沙羅の細い指が、筋肉質な胸をそっと突き刺した。

山本英治 >  
「例えば、社会性の仮面をつけ始めたばかりの少女?」

二面性。といえばシンプルだが。
人は“その場限り”の仮面すらつける。
人格を切り替える異能者とも、また違う。

人の本質にも似た概念だ。

「……それは…………」

自信がない。あんなに楽しそうに笑っていたけど。
内心でどう考えているかなんて、理解できるはずがない。

距離が近づく。胸に細い指が当てられる。
なのに、俺は。どこか上の空で園刃先輩のことを考えていたんだ。

「園刃先輩に恨まれても」

力強く答える。

「園刃先輩には違う笑顔を見せてもらう」

あれもきっと、園刃先輩の仮面の一つだから。

「だって……女の子が…真理を求めて命をインクの海に滲ませるなんて」
「俺、見てらんねーよ」

そう言って、目前の緋の双眸を見る。
ふ、と表情を緩めるように笑った。

水無月 沙羅 > 「……そうですか。」

くすり、と笑って一歩二歩、距離を取る。
もう、意地の悪い少女の仮面は十分に見せただろう。

「そうですね、そんな仮面を私もつけているのかもしれません。」

私が言うのもたいがいだけれど、なんというか山本先輩、それ恋してませんか?
目線、だいぶ違うところ言ってますよね。
やっぱり青春少年は地を行っているらしい。

「では先輩。 後輩の拙い意見ながら、少しだけお節介を。
 仮面は壊れやすいものです、矛盾を突かれるほど、感情に付け込まれるほど、大事な存在からの一撃となれば殊更に。」

自分はそれを、あの鉄壁の城塞相手にして見せたのだから。

「どうしても、というのならば。 相手の事なんて一縷も考えなくていい、貴方の感情を叩きつけても、偶にはいいんじゃないですか?」

人を動かすのは、人の心だ。 どこまで行っても、どんなに技術が進んでも。どんなに魔術が達者でも、それは変わらない。

「懇親会の時みたいに。」

随分と怒ってらっしゃいましたよね。 と笑う。

「先輩にも、この言葉を送りましょう。 受け売りですけれど。」

「『死を畏れ、死を想え。安寧の揺り籠は死と共にある』。」
 
「だれが何と言おうとも、死を手段にしてしまっては、システムにしてしまってはいけない。
 貴方がよくご存じのはずです、『オーバータイラント』。」

死に苦しむ彼に、あえてそれを叩きこむ。
お前が苦しんでいることを、彼女にさせるつもりなのかと。

山本英治 >  
「懇親会の時の話はやめてくれ、やさぐれてて持流さんに当たった後悔だけがある」

やさぐれてたら人に暴言を浴びせてもいいのかと言われると。
そうでもないな。

死を畏れ、死を想え……か。
感情と、死と、揺籃の物語が彼女の口から紡がれる。
だったら。感情をぶつけるのだったら。
ふさわしい人物がこの常世島にはいるはずだ。

「……今の、良いヒントになったよ水無月さん」

ポケットの名刺入れに大事にしまってあるメッセージカードに触れる。

「感情をぶつけられるなら、俺みてーな馬の骨じゃなくて」
「大切な友達からのほうが良いに決まってるってな…」

背を向けて去っていく。
夕日は遠い空でコーラのような黒と溶けて混じり合っている。

「オーバータイラント、山本英治……」
「時空圧壊のレイチェル・ラムレイとコンタクトを取る」

歩き去りながら背中越しに手を上げて。

「次の一手はそうなるだろうな」

さて、会ってどうする。何を言う。
それもまた、選択の一つ。

水無月 沙羅 > くすくす、と笑って懇親会の日を思い出した。
あの日の熱が、きっと誰もかれもには必要で、彼を動かしたのもまた『感情』という名の炎ならば。

「ご武運を、山本先輩。 まぁ、何かあったら骨くらいは拾ってあげます。」

男の子というのは、どいつもこいつも背中を押してあげなければ重い腰が上がらないらしい。
背中で語る様にその場を去っていく先輩に一礼しつつも、困った子供を見る様に見送る。

『レイチェル・ラムレイ』風紀員の一員だったはずだ、しかし。
これはきっと、危険な賭けだ。 感情というのは鋭い刃の様なもの、余計なお節介は時として大きな事故を生むことだってある。

犠牲になるのは、彼か、それとも彼女か。
其れともなにも変わらずに……いいや、何もなくとも変わっていくものだ。
人間というのはきっと、あかねがそれを成そうとするなら尚更に。

「さて、理央さんに一応報告だけでもしておこうかな。」

私は直接は動いてないから、命令は破ってませんよ?
動いてはいませんから。 動くように差し向けただけです。

「パトロールの続きでもしましょうか。」

ぬるくなったミネラルウォーターをバッグに仕舞いながら、学生通りを反対方向に歩んでいく。
違う道を進んでいたとしても、きっと分かり合えることもあるはずだ。
彼とこうして語り合えたように。

ご案内:「学生通り」から山本英治さんが去りました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス(待ち合わせ済)>
ご案内:「学生通り」から水無月 沙羅さんが去りました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女>