2020/07/23 のログ
ご案内:「スラム」に日ノ岡 あかねさんが現れました。<補足:常世学園制服。軽いウェーブのセミロング。首輪のようなチョーカーをつけている。左腕に腕章。腕章のエンブレムは林檎に噛み付いて絡みつく蛇。>
日ノ岡 あかね > 廃墟群の一角。
崩落した廃ビルの瓦礫に軽く腰掛けて、月を見上げる。

「……まぁ、分かってた事だけど、白星は無しね」

連絡を見る限り、今のところ『真理』に挑んで生き残った『トゥルーバイツ』の数はゼロ。
前回と概ね同じ結果だ。
幸いなことがあるとすれば……『挑まず諦めた者』もいることだ。
生還者はそういう意味では増えた。
『真理』に挑むよりも命が大事と思えるなら、それは良い事だ。

「前より良い調子ね、そういう意味だと」

あかねは一人、小さく微笑む。

日ノ岡 あかね > 生徒会や委員会の本格介入もない。余計な被害は拡大していない証拠だろう。
あくまで、被害者は『トゥルーバイツ』の構成員のみ。
元々、『トゥルーバイツ』の活動は落第街などでの摘発と介入と称した見回りだ。死者はどうしても出ると上も最初から考えて書類を準備している。あとはそれの適用範囲を少し広げるだけで話は済んだ。
『デバイス』による死亡も自殺で処理するようにとっくに根回ししてある。
今回の一連の活動は……表向きには「風紀委員としての活動中の不慮の事故」か、「激務に耐えかねての心的ストレスからの自殺」という扱いになる。
どちらも、元違反部活生威力運用試験部隊という大枠から見れば「想定されている事態」の内の一つでしかなく……しかも、その中の一小隊に過ぎない『トゥルーバイツ』だけで頻発する「特殊事例」となれば。

「……指導者の監督責任でどうせ済むしね」

そう、まとめて全部「あかねのせい」で済む。
事が終われば、成功しても失敗しても日ノ岡あかねの責任として処理して終わり。
風紀にも痛みはなく、体裁としても責任者を懲戒処分しつつ幽閉で筋は通る。
もう、何が起きても心配はない。

日ノ岡 あかね > 通信端末を開き、ネット上での情報も確認する。
やはり、『トゥルーバイツ』の事は匿名で話題にすらなっていない。
騒ぎにはなっていないということだ……まぁ、当然だ。
傍から見れば少し手の込んだ自殺でしかない。
そんなもの、この島ではそれこそ日頃から『溢れて』いる。
特筆に値するワケがない。
状況は概ね……想定通りに動いている。

「まぁ、これで……動く相手はもう決まったかしらね」

傍から見ればどうでもいいこと。
大局にも影響はしない。
関わらなければ危険はなく、関わっても大半の『トゥルーバイツ』構成員は「放っておいてくれ」というだけ。
それでもなお、関わってくるのは。

「……『選んだ』人達だけ」

クスクスとあかねは笑う。
例の『話し合い』の時にした篩い分けと色分けが此処で生きてくる。
風紀と協力して、ある程度の選別は済ませることが出来た。
完璧とはいかないが……盤面は既に整っている。
まぁ、それでも、想定外の事態はいつだって起きるだろうが。

「……そこは時の運ね」

肩を竦める。
最後は結局、博打になる。
こればかりは、生きる限り仕方がないこと。

ご案内:「スラム」に山本 英治さんが現れました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス>
山本 英治 >  
「その、時の運とやらは……」

ポケットに手を突っ込んで瓦礫に向かって歩を進める。
一歩、一歩。距離を縮める。

「大勢を死なせているぜ」

自分の顔を撫でる。きっと凶相が貼り付いているに違いないのだ。
俺の声は……声音は驚くほど低い。
まるで相手が憎い仇だとでも考えているようで、内心自嘲する。

「鶴尾 摩衣を覚えているかい?」
「トゥルーバイツの構成員だ………常世ディスティニーランドで死体が見つかったよ」

「可憐な笑顔の子だった」

拳銃が当たる距離まであと何メートルだ。
考えろ。考え続けろ。

日ノ岡 あかね > 「覚えてるわ」

薄い笑みを浮かべて……あかねは笑う。
いつも通りに。

「マイちゃんは御家族と『やり直し』をしたがっていた。彼女の『因果律操作』の異能でも時ばかりは巻き戻せない。仮にその手の異能を無理な過去改変に派手に使ったところで……タイムパラドクスが起きる。以前にその手の事故を起こしたこともあると語っていたわ。だから……彼女は『そういう全ての問題を解決しつつ家族とやり直す方法』を必死に探していた……必死に、必死に、他の全てを擲って……それでも、『見つからなかった』、そんな『完全な解法』は諦めるしかなかった」

あかねは……目を細める。

「でも、『諦められなかった』」

じっとりと……瞳孔を細めて。
日ノ岡あかねは、静かに笑う。

「前は『私以外みんな死んだ』けど、今回は『私以外の生き残り』もいるわ。前よりマシでしょ?」

クスクスと笑う。
実際、既に投降なり逃亡なりしている面子は何人かいる。
『デバイス』も持ち主以外が悪用することはまず不可能なつくりだ。
なにせ、あと数日で文字通りのガラクタになる。
起動も持ち主以外には出来ない完全なハンドメイド。
手は打ってある。

「それでも……エイジ君は御不満みたいね?」

笑いながら、小首を傾げる。
月明りが、二人の男女を強かに照らした。

山本 英治 >  
月の下に浮かび上がる彼女の笑みは。
ゾッとするほど美しい。

「摩衣ちゃんは……普通の女の子に見えた」
「表向きは明るく笑っていて」
「それでもポケットに真理を隠していて、あの日使った」

ああ、家族とやり直したかったのか。
だからあのベンチを選んで“接続”した。
そしてバッドエンドを迎えた………

「数が正当化される問題じゃねぇけどな……」

一歩。あと一歩。もう一歩。
近づいて、制圧しろ。拳銃を向けるんだ。
緊張感と怒りに顔が強張る。

「みんなに話して今からでも計画を中止することはできないのか?」
「このままじゃ誰も救われない」

落ち着け。拳銃が強制力を持つ位置まで近づくんだ。
相手は異能すら持っていない。一人の女の子だ。

一人の女の子………?
願いを持った……遠山未来と等しい…ただの、女の子…なのか。

日ノ岡 あかね > 「私の言う事聞くと思う?」

あかねは笑う。
いつも通りに。
いつか、公園のベンチで出会った時と何も変わらない。

「『トゥルーバイツ』は組織じゃあないわ。ただ、個々人の『切なる願い』を叶える方法を知るためにお互いを相互利用するだけの寄り合い所帯。『トゥルーサイト』だってそうだったしね……『トゥルーサイト』は全員で大規模儀式をする必要があったから最後まで一緒だったけど、『トゥルーバイツ』はもう『手段』が全員の手に渡っている以上、誰も私の言う事を聞く義理なんてないわ」

『デバイス』を配布された時点で、もう誰もあかねの命令を聞く理由などない。
号令を待ったのだって成功率を少しでも上げるためだ。
全員が陽動で全員が本命。
それは、『デバイス』を持つ当人からすれば……自分外の全員が陽動になってくれるということ。
言うなれば、各々の『好都合』を待っただけなのだ。

「ねぇ、エイジ君。アナタは人を助けたいの? 救いたいの?」

あかねは微笑みながら、尋ねる。

「それは似ているようで……全然違う事よ」

山本 英治 >  
「………そうか」

銃把にかけていた手を下ろす。
もう、どうしようもないのか。
間に合わないとわかっていて。
一人一人に声をかけて、なんとかするしかないのか。

だったら、せめて園刃先輩だけは。

「助けるは人の命を守ること」
「救うは人の人生を拾い上げることだろ?」

表情を歪めて聞き返す。

「違うなら教えてくれよ……日ノ岡あかね」
「願いが叶う真理は誰もが望むもの、誰もが求めるもの」

「そんなものが本当にあっていいのか……?」

日ノ岡 あかね > 「ふふ、わかってるならいいのよ」

嬉しそうにあかねは笑った。
下がった銃口を一瞥すらせず、あかねは続ける。

「それは個人の偏見が決める事じゃないかしら?」

笑いながら、小首を傾げて。

「今では当たり前のあらゆる技術だって、発明当時は『禁忌』とされた例なんて山ほどあるわ……今回だって、それと同じことじゃない? もっとも」

自嘲するように、あかねは肩を竦める。

「今回は命を使ったギャンブルだから、馬鹿にされてもしかたないけどね」

実際、これは分の悪すぎる賭けだ。
だが、あかねはそれですら、『普通』の事と思っている。

「でも、『報酬が保証されない博打』なんて……切羽つまれば誰でもやるものでしょう? そこに少しでも可能性があれば、ね。それと同じじゃない? 違うかしら?」

山本 英治 >  
個人の偏見。そうなると、言うことが俄然苦しくなる。
願いを諦めて他の幸せを見つけろと言っても大きなお世話。
どうしようもない状況をどうにかする絶対的な法(ロウ)がなければ説得は無意味。

なら、後は結局個人の問題なのだ。
日ノ岡あかねという個人に全体の問題を問いかけても無意味。
ロジックは簡単。しかし、結果を出すのは難しい。

それでも。

「それでも……やっぱアンタのすることが気に入らねぇや…」

何時だったか、感じた違和感は。
今こうして結実した。
彼女さえいなければ摩衣ちゃんは今も諦めきれないまま生きていた。
生きていれば……生きてさえいれば………!!

「ごめんな、個人の感情を押し付けて」
「アンタはいつでもロジカルなのに、年上の俺が生の感情で話してりゃ世話ない」

物陰から視線を感じてそちらを向くと。
ヒッと小さく呻いて住民が姿を消した。
それだけで俺の顔がいかに不機嫌に歪んでいるかが察せられようというものだ。

「本当なら勢いだけで問い詰めたいところだが」
「種子は撒かれた。あとは個人がどう動くかの問題らしい」

顔を両手で覆った。それでも。それでも。
園刃先輩とレイチェル先輩の再会を諦めたくない。

日ノ岡 あかね > 「別に私はまだ『デバイス』の接続に時間がかかるから、問い詰めたいならいくらでも聞くけどね」

クスクスと笑う。
山本英治の顔をみて、目をみて、日ノ岡あかねは楽しそうに笑う。
会話は好ましい。
あかねは常に、そう思っている。

「いいじゃない。気に入らない事は気に入らないで。私はそういうの好きよ。気に入らないって『自分のせい』でしょ、いってみれば?」

自分が気に入らないから突っかかる。
それを『相手のせい』にしなければ、それは自分の感情だけによる自分の責任。
自分のワガママを突きつけるという事。
だが、『それを自覚して行う』のなら……それは意志の表明だ。
自分自身の責任と覚悟で行うことだ。
なら、それこそ……あかねは止める理由を持たない。
互いに抗う権利があるだけだ。

「まぁ、私個人を止めたいなら此処で私を捕縛でもなんでもするべきだろうけど……他にもっと大事なことがあるなら、そっちを優先するといいでしょうね? こうしてる間にも、『トゥルーバイツ』の『デバイス』は各個人の手元で脈動を続けているわ。刻一刻と……『挑戦者』は増えていくわよ?」

山本 英治 >  
「アンタにそうしたいのは山々だが時間がねぇな……」
「あとは紫陽花さんに救ってもらうといい」
「紫陽花さんは俺の見込んだ漢で、アンタは紫陽花さんが見初めた女だ」

「恨み言だけじゃ誰も救えない」

銃身はホルスターに収まり。
ポケットに手を突っ込んで。背を向ける。

「アンタと会うことは、もうないかも知れない………だから」
「さようなら、日ノ岡あかね」

「またな」

そうだ。いつか人が分かりあえる日が来たら。
日ノ岡あかねともまた会える。だから。

今は仮のお別れだ。
けど……園刃先輩とレイチェル先輩を永く隔てちゃいけない。
だから、抗う。

月の照らす瓦礫の下で。
俺たちは別れた。

ご案内:「スラム」から山本 英治さんが去りました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス>
日ノ岡 あかね > 「ふふ、コンギクさんはちょっとズレてるけどね。『またね』、エイジ君」

笑顔で見送る。片手を軽く振りながら。
まるで、通学路で別れる男女のように……気軽に。

そして、その背が見えなくなってから。

「……私を救うのはいつだって私だけよ」

ぽつりと、呟く。
宵闇の中。
月下も照らさぬ少女の言葉は……そのまま、夜に溶けて消えた。

日ノ岡 あかね >  
 
「ほんと、男ってバカばっか」
 
 

ご案内:「スラム」から日ノ岡 あかねさんが去りました。<補足:常世学園制服。軽いウェーブのセミロング。首輪のようなチョーカーをつけている。左腕に腕章。腕章のエンブレムは林檎に噛み付いて絡みつく蛇。>