2020/07/25 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に園刃 華霧さんが現れました。<補足:着崩した制服 左腕に林檎に噛み付いた蛇が絡みついているエンブレムの腕章>
園刃 華霧 >  
――どうしてそんな簡単なことをわかってくれねぇんだよ…園刃先輩……
――どうして……どうして諦めちまえるんだよォ!!

脳裏に響く声

――ま、飽きたら真理挑んじゃおっかなってさ!! かぎりんもそんな感じじゃね?
――つまんないまま死ねないでしょ

脳裏に残る声
二人の男の声

まったく違う性質の男の
まったく違う言葉

それが響いた

「…………ハァ」

ため息を一つ

なんとはなしに、手にデバイスを呼び出す。
簡単な操作をして生体反応を見る。
まだ、生きているメンバーが居る。
捕まったり、止めたりした連中もいるから実際に活動している人間の数はわからないが
それでも、生きている奴らは居る

あかねちんも、まだ生きてる
なら当然――

園刃 華霧 >  
 
「……は?」
 
 

園刃 華霧 >  
消えていた。
新島省吾、という男の反応が。

「ウッソだろ……なン……おマ……
 だっテ……」

――まぁ、全部俺が見て覚えてからで、俺はいいかなってさ

「なん……で……ッ
 アタシも、あかねちんも……まだ、生キてる、ダろ……!?」

手が震える
妙な汗が吹き出してくる

省吾は自分に似ていた
『楽しい』ことを探していたところとか
なにが欲しいか『わからない』ところとか
それに……

「なん、で……先に、くたバって……ッ」

園刃 華霧 >  
デバイスを落としそうになる
慌てて飲み込んで回収した

――ズキリ

何処かが痛んだ
膝が折れる
立っていられなくなった

その場に、膝をつく

ご案内:「落第街 路地裏」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
園刃 華霧 >  
「……省吾クン、おま……どうし、テ……」

自分が生きていて、どうしてあの男が死んでいる?
あの自分に生き写しの、アイツが、死んで……

震えが収まらない
汗が止まらない

死ぬ……?
アタシも、死ぬ、か……?
省吾クンと同じように


視界が――曇る

ヨキ > 『トゥルーバイツ』の面々を捜しての街歩き。
時間が空くごと、ヨキは落第街へ足を運んできていた。

己と付き合いのあった者、なかった者。
それらを等しく見つけ出す探索行――

その足取りの中で、新島省吾という少年とはついに交わることがなかった。
顔も知らず。言葉を交わす機会もなく。死んだことさえ知らぬまま。

そんな、ある日の話。

「――どうした? 君は『トゥルーバイツ』だな? 大丈夫か?」

見知った腕章の少女が、地面に膝を突いている光景を目の当たりにして。
長身の男が、華霧へ迷わず駆け寄ってゆく。

園刃 華霧 >  
「……ァ?」

落第街、こんなところで
路地裏、こんな場所で
『トゥルーバイツ』と知って

『大丈夫か』、と駆け寄ってくる

それだけで異質な存在

視界が曇って、見えづらい
背が高い、ことはわかる

「誰、ダ……?」

呆然と口にする
間の抜けた言葉だ
こんな時、こんな場所で
突然現れた相手に
使うような言い方ではなかった

ヨキ > 「ヨキだ。君の敵ではない」

朦朧とする華霧の傍らへ跪き、簡潔に答える。

「『接続』はしていないようだな。
……落ち着いて、ゆっくり呼吸を」

手は触れない。言葉だけで、穏やかに話す。
紺碧の瞳が、真っ直ぐに華霧を見ている。

少し間をおいてから。

「…………。

教師をやっている。
『日ノ岡あかね』は、ヨキの教え子の一人だ。
彼女のことを、島に来た当時から知っておる。

『トゥルーバイツ』の皆を、見届けるために来た」

“見届ける”。阻むではなく、見届ける、と。
教師を名乗った男は、そう表現した。

園刃 華霧 >  
「ヨキ……教師……
 あかねちんの……」

すぅー
はぁー

素直に言葉を受け入れた
こんなことは久しぶりかもしれない
受け入れて呼吸をすれば……だいぶ、落ち着いてくる

落ち着いてみれば――

「……“見届ける”?
 そりゃ、マた、どうシて。」

教師、と言った相手でも態度は変わらず
いつもの調子で尋ねる
……いや、まだ少し視界も声量も覚束ない、が。

「その様子ダと、『トゥルーバイツ』のコトは知ってルんだロ?
 "止める"か"放置"ってノが大体じゃナい。」

好奇心に勝てなかった

ヨキ > 華霧が徐々に落ち着きを取り戻す様子に、安堵の笑みを浮かべる。

「『トゥルーバイツ』のことを、知っているからこそだ。
みな命を懸けるほど切実な願いを持っていると、痛いほどに知っているから」

教師然とした柔らかな語調は、この場ではいっそ不似合いなほどだ。

「『あの』日ノ岡君の下に集まった者たちを、どうして止められようか。
どんなに手を尽くしても叶わなかった願いに、『一パーセント』でも可能性があるのなら。

ヨキは君らを止めはせん。
『真理』と接続するのも覚悟。『真理』から手を引くのも覚悟。
そのいずれの選択をも、ヨキは歓迎する。

だが、迷いを残したまま『真理』に触れようとしたり、生半可な気持ちで邪魔をするような者が居れば、ヨキはそれらを止める」

華霧の顔を見遣る顔は、憐れみも侮りもない。

「だから、君のことも放っておけなかった。
君の『選択』を、見届けたかったから。

……先ほどは何があったのか、訊いてもいいかね?」

園刃 華霧 >  
「……ハ。
 そウか、そう、来たカ……」

かけられた言葉を、飲み込む
『選択』を"歓迎"する
しかし、迷いがあるなら、"止める"

こんな相手は、初めてだ

――ただ、止める
――ただ、送り出す

それしか、会ったことはなかった

「……変わり者、ダな。アンタ。
 いいヨ、話す。」

大穴に言葉を投げる話が何処かにあった気がした。
いわば、この相手はその穴。
その程度でも良い。
返事が返ってくるなら上々じゃないか。

「……『トゥルーバイツ』に新島省吾って男が居た。
 そいつは、異能で吸血鬼同然になって、何もかも無くしちまった。
 ……親も、友だちも、なにも、かも……
 だから、『楽しい』ことを必死で、探して……
 でも、何が、『楽しい』ことか、わからなく、て……
 なにもかもが『つまらなく』て……
 最後に、『選んだ』のは『腹いっぱいオムライスを食う』だった。」

昨日、会った自分の写し身
もうひとりの自分の姿


「そいつは、昨日、アタシと会った時に、言っタんだ。
 『まぁ、全部俺が見て覚えてからで、俺はいいかなってさ』って。
 そう、言ったんだ。全員の結果を見てからって……
 でも、省吾は! まだ、終わってもいないのに……
 もう、死んで……っ」

初めて会った相手に、心情を吐露する
ああ、なんだ
なんて、弱っちいんだ

「アイツは……アイツは、アタシに似てたんだ。
 アタシは、この落第街で生まれて。
 何も持ってなくて。だから、何もかも自分で手に入れてきて。
 でも、手に入れたはずなのに、『空っぽ』で……
 そんな、アイツが……アタシより、先に……」

ヨキ > 華霧の話を、じっと聞く。
ごく小さな相槌を返すのみで、口を挟むこともなく。

「新島、省吾……。
そうか。それほどの苦しみを持つ者が……。

ああ。ヨキもその新島君と、言葉を交わしてみたかった。
何も変わらなくていい。ただ……君と今こうして話しているように、話してみたかったよ」

目を伏せる。首を小さく振る。

「……『真理』と接続した新島君の心情を、我々は想像する他にない。
異能者が集まるこの島では、どんな想像も彼の苦しみには手が届かない。

『一パーセント』に手が届くという直感かもしれない。
『九十九パーセント』に諦めを覚えたのかもしれない。

でも。それでも。
ひとりひとりにチャンスが与えられている以上、彼の選択は彼の選択でしかないのだ。

そんな彼に心を揺さぶられている君は――

きっと、真に『空っぽ』ではない。
……はっきりとしないものの輪郭を、掴みあぐねているだけではないかと、ヨキは思う。

これもまた……君の苦しみには及ぶべくもない、ヨキの『想像』だがね」

園刃 華霧 >  
「そうダよ! 見届けル、なンて言うなラ
 アタシよか、アイツに……
 あの、食えもシない飯と、ヤりもしナいゲームに囲まレてタ、
 アイツに……っ
 会ってヤれば、良かったンだ……っ」

また、視界が曇る
そこまで言い切って……
我に返る

「…………いヤ、うン……
 アンタに言うことじゃ、なかった、ナ。」

はあ、と溜息をつく
ああ、まったく……みっともない

「『どんな想像も彼の苦しみには手が届かない』……か。
 そう、だナ……
 アイツ、にハ……アイツの、選択が、アッた。
 似てる、とかデ一緒にシちゃ、悪いナ……」

まったくだ、と思う。
自分だって、勝手な押しつけを嫌ってたくせに。

なにをやっているんだか

そして

「……はっきりとしないものの輪郭を、掴みあぐねている?」

クラっと、した
まるで、めまいだ

「あァ……そう、そう……ダ、よ。
 アタシは、『わからない』。
 『わからない』から、『真理』に全部、貰おう、と思っテ……」

ヨキ > 「ああ。会いたかった。……会いたかったよ。
この入り組んだ街を、毎日隅々まで巡って……。
それでも、会い損ねてしまった。

君よりは、だなんて言わない。
新島君と会えずじまいに終わったことも、こうして君の話に耳を傾けることも。
ヨキには同じほどに、重くて、大事で、苦しいんだ」

華霧の物言いに、ゆったりと首を振る。

「人と似ている、と思うことは、決して悪いことではないよ。
彼の身の上に共感することと、彼の選択を尊重してやることは、両立できる。

簡単なことだよ。それだけでいい。
それだけで――君と新島君は『友達』だった。

友達、とは、特定の行為を指すものではない。単なる『居心地の良さ』の名前だ」

相手から垣間見える戸惑い。それを受け止めるような眼差し。
語り掛ける声は、変わらずに低く緩やか。
それはさながら、ひとつひとつの言葉を丁寧に、相手へと届けんとするように。

「……異世界の存在は、恐らく君の知りたいことを知りはしない。

それよりも……君が過ごしてきたこれまでの日々。
分からなくて、はっきりしなくて、曖昧でも。

それらの中にこそ、『君にとっての真理』は眠っているのではないかな。
君が生徒として過ごしてきた時間に。君が会った人々の中に。
眠っているからこそ、すぐには見つからない答えが。

……君には、『接続』すべきものが他にあると思う。

君が懸けるべき『一パーセント』を、見誤ってはいけないよ」

園刃 華霧 >  
「……」

教師、なんて人種。
今までは胡散臭いとしか思ったことはなかった。
まあそれでも学生という身分を手に入れてしまった以上は、
ほどほどに関わっていけばいい、と思っていた。

「ナー、る、ほド……あかねちんの、『センセー』ね。
 はハ、こりゃ……はは……」

力ない笑い
弱気、無気力ではない
ただただ、相手に感服する種類の

「『友だち』……そっか……アタシ、省吾クンとも『友だち』ダッたんダ……」

少しだけスッキリした声
活力が少しだけ戻る

「『居心地の良さ』……
 なに、『友達』っテ、そんな……そンな、もん、なの……?」

きょとん、と……
年相応か……いや、不相応に子供のような顔をする

そんな、シンプルな
そんな、わかりやすい
そのくせ、いままで、よくわかっていなかった
そんな、単純なことで、いいのか

「これまでの日々……
 でモ、でモさ……
 でも、アタシは、それヲ、捨てて、きた、ンだ……
 捨てテ……此処まで……それを、今更……」

今更、どの顔下げて振り返るのか
戻ってしまって、いいのか

ヨキ > 「そうだよ。『友達』なんて、そんなものだ。
何かをするとか、してもらうとか。そんなことは、必要ないんだ。

『居心地の良さ』は、初めは自分だけのものだから。
だからこそ、自分から『友達』を名乗ることは照れ臭く、気恥ずかしい。

積み重ねて、分かち合って、たまに喧嘩して、仲直りして。

自信を持って友達を名乗ることは、それからだって遅くはない。
けれど――君が『既に』誰かの友達であることは、揺るぎのない事実なのだよ」

華霧の声に、いくらかの張りが戻る。
それを聞いて、笑みを深める。

「君はまだ、捨ててはないだろう?
『今更』と言えるうちは、まだチャンスがある。

君はそれに蓋をして、見ないようにしているだけだ。
もし本当に捨てたのなら、それを顧みることはしないのだから。

……言葉になんてできなくてもいい。
何を言おうかなんて、考えなくてもいい。

君がいちばん『居心地の良さ』を感じた人のところへ、戻ってごらんよ。
つらくて、痛くて、死ぬほど苦しくても。

少なくとも、君は死なない。死んだような思いを経て、生まれ変わる。
新しい『友達』を、もう一度やり直すのだよ」

園刃 華霧 >  
「い、ヤ……でモ、だッテ……
 アタシ、だけ、じゃ……ない……
 アイツ、だっテ……アイツら、だって……
 アタシ、を捨て、テ……切っテ……

 だか、ら……いマ、さら……
 もウ……
 もう、おわって……
 だから……おしまい、で……

 あいつら、の、いばしょ、なん、て……
 ほか、いっぱ、い……

 やりなお、し、なんて……
 むり……」

震える
声が、震える
もう、自分でも
何を言っているのか
わからない

「む、り……
 あたし、は……すて、られ……て……
 あた、しは……いら、ない……
 あ、たし……あた、し……」

わからない
わからない
わからない

ヨキ > 「本当のおしまいは、君が死んだときだけだ」

静かな声に、不意に力強さが宿る。

「……君の言う『あいつら』と別れたときのことを、思い出してみたまえ。

君が『トゥルーバイツ』に参加することを、生返事で了承したか?
君が危険な賭けに出ることに、見向きもしなかったか?

違うのではないか。
言葉を尽くして止めてくれたり、言葉を尽くして君を送り出したり――
あるいは無言のうちに、言葉よりも多弁な気持ちがあったのではないのか。

君と『あいつら』は、居心地のよい友達だったのではないのか?
だからこそ――君の『選択』を尊重し、この場へ送り出したのではないのか」

身を乗り出すことはない。
声が上擦ることもない。
ただ、ただ、語り掛けるだけ。

「『あいつら』は、確かに居場所がいっぱいあるのだろうさ。
だがそれと同じく――『あいつら』は、『君』という居場所をひとつ、失いもしたのだ。

……もう一度、考えてみたまえ。

君は『真理』に接続しようと、『あいつら』の元へ戻ろうと、痛い思いをする。

対話には、痛みが伴う。腹を割る痛みが伴わねば、それは対話ではない。
痛みを乗り越えた先にこそ、『真理』があるのだよ」

園刃 華霧 >  
「しん、だ……とき、だけ……」



死など、怖くなかった
死など、ありふれていた
死など、あたりまえだった

でも、いまは……

「うん……あいつら、は……
 はな、し……きい、て……
 わらった、り……おこっ…た、り……
 あきれ、たり……」

それぞれが、それぞれの反応をした
それぞれが、それぞれの答えを出した

「でも、あた、し……
 あ、たし、のきも、ち……
 あた、し、の、かんが、え……
 わかって、もら、えた、か……
 わか、ん、なく、て……
 しん、じ、られ、なく、て……
 だ、から……おわ、かれ……
 すて、られ、るの……や……」

切ったのは、自分
捨てられたくなくて、捨てたのは自分
自分 自分 自分
 
「い、いの……?
 ……もどって……いい、の……?
 あたし、は……いらない、こ、じゃ……ない……?
 また、すてら、れ……ない……?」

なきじゃくる、こどものように
ヨキにうったえる

ヨキ > 「……何度でも、何度でも『あいつら』と話してごらんよ。

日ノ岡君が、己のためにあらゆる手を尽くしたように。
新島君が、君に本心を明かさずに逝ってしまった後悔を繰り返さないために」

手を伸ばす。
華霧の肩に片腕を回し、抱き寄せる。
大きな手が、華霧の肩を優しく叩く。

「大丈夫。ヨキが保証する。
君は戻っていい。何度だって、やり直せる。

『真理』には、失敗など許されない。

だけど人間は、何度だって失敗を繰り返せる――生きている限りな」

華霧に向かって、頷く。
大丈夫、大丈夫だと――何度でも、伝えるために。

「今、もう一度会えるなら。
いちばん会いたい人は、誰だい。

その人が――君を受け入れてくれた時のことを、思い出してみて。
その人の表情を、言葉を、立ち居振る舞いを。

今度もきっとまた、そんな風にして。
君はもう一度、受け入れてもらえるだろうさ。

少しくらい、言い合いになったっていい。
それもまた、『真理』に繋がる取っ掛かりなのだから」

園刃 華霧 >  
「なん、ど……でも……」

考えたこともなかった
だって一度終わったものは、終わりだと思っていたから
だから、終わらせたくなかった
だから、終わらせた

「ぁ……」

抱き寄せられる。
普段なら、よほどのことでもなければ抗うであろう、その行為
でも、今は素直に受け入れて

「もどって……いい……
 やりなお、せる……」

呆然と、鸚鵡のように繰り返す

「たかこ、ちゃん……は、もう、いない……
 あと、は……」

素直に、口にする

「―-――ぇ――、ちゃ、ん」

しかし、その声はか細くて

ヨキ > 「………………、」

聞き取れなかったその名前を、聞き返すことはしない。

「よくやった。
そこまで言えたら、もう十分だ」

するりと、間もなくして腕を解く。

「『真理』に接続するには、タイムリミットがある。
それは『トゥルーバイツ』の話でもあるし、『君が会いたい人』の話でもある。

人間は、いつ命を落とすか、いつ話が出来なくなるとも分からない。
ある日突然、異能に目覚めてしまうようにね。

――ヨキは君の『選択』を応援する。
どんなに格好がつかなくても、それは紛れもなく君の岐路だから。

……後悔だけは、するな。絶対に。
試せる手段があるのなら、余さずそこへ踏み込みたまえ。

臆してもいい。ヨキがついてる」

園刃 華霧 >  
「……ぅ、く」

腕を離され
言葉をかけられ

何かが、こみ上げる
それだけは、それだけは……

――それだけは、こらえる
それだけは、だめ

のこして、おかないと……

「たいむ、りみっと……
 うん……そう、か。
 うん……わかった」

震える足で立ち上がる
まだ足元は覚束ない

「うん……後悔、は……もう、したくない……」

こくり、と素直にうなずく
曇った視界が晴れてくる

「はは、アンタがついてるなら……心強い、ナ……
 ヨキ……いヤ……ヨキせんせー。
 ……いや、うん。ガラじゃ、ない、な。
 ヨッキー、とか、で、いい……?」

まだ力ないけれど、笑顔を浮かべ

「……でも、こンなこと、して回ってンの……?
 教師って大変ダな」

しみじみと……口にした

ヨキ > 「よかった。あとはもう、大丈夫そうだな。
ふふ、そうだよ。『こんなこと』に毎日掛かりきりだ。

何故なら、皆の悲願と命が懸かっているのだからね。
生きている限り、ヨキはこの島の皆の『先生』で居たいのさ」

華霧の弱々しい笑顔に、ふっと笑う。

「ああ、ヨッキーでいいよ。大歓迎だ。
呼びやすいように呼んでもらえるのが、いちばんいい。
名前も呼べないなんて、そんなの寂しいだろ?」

だから、と彼女の後に立ち上がる。

「君の名前も呼ばせてほしい。
ずっとずっと、覚えておくから。

ヨキはこれから、君の『新しい居場所』のひとつになるのだから」

君の名前は? と、小首を傾ぐ。

園刃 華霧 >  
「……」

ああ、そうだ。
名前も教えていないような、目の前のこの男に
アタシは全部、みっともなくさらけ出しちまった

まったく、今更だけど恥ずかしい……
そして、もう一つ

「ァー……名前……名前、な。
 いヤ、アタシ、名前も、なカった、からサ。
 ……『そのば かぎり』。
 えット……必要になっテ、そこで……作った、から、サ……」

思わず、頬を掻く
『新しい居場所』といわれて改まると、なんだか気恥ずかしかった。
こんな気持は、初めてだ。

ヨキ > 「ソノバ君」

ヨキは改めて名前を呼んだ。

「君の大事な友達は、その名前で呼んでくれるんだろう?
だったら、君はそれを大事にしてもいいし、新しく名前を作ったっていい。

この街には、決まった名前もなく生きている者も少なくない。
君は名前も身分も、自分で決めてきたんだ。
自分から行動できることは、間違いなく君の誇りだよ」

名前で相手を呼べたことで、嬉しそうに微笑む。

「ヨキは学園で、美術を教えている。
訪ねてきてくれれば、いつでも話をしよう」

鞄から、名刺を一枚取り出す。
名前や連絡先の書かれたそれを、華霧へ差し出して。

「何かあれば、いつでも頼ってくれ。
ヨキは部活や委員会からも距離を置いている。
中立の立場であればこそ、乗れる相談もあろうから。

『友達』とはどうなったか――後で、教えてくれよな」

園刃 華霧 >  
「誇り……か。
 考えたこトも、なかッタな……」

生きることに必死過ぎて
失わないことに
手に入れることに
必死過ぎて……
そんな意識は欠片もなかった。
しかし、これが誇り、だというのなら……
そう、捨てたもんじゃないのかもしれない。

「び、美術、かー……
 そッチはからッキしだかラ、話、だけデいい……?」

そもそも興味もないから見てもいないし、
当然自分で何かをしたこともない

文字ですら金釘流……を、報告書に必要でどうにかしてきた始末だ

「ン、そだネ。
 ヨッキーには世話になったシ……
 報告に、いくヨ。」

誇り、といえば……
こちらにでてきてからは、義理は果たす、ことはしてきた。
であれば、この恩も勿論、返すつもりだ。

ヨキ > 「ああ。誇りなんてものは、生きていく上で必要ないからな。
それに、美術も。腹は膨れないし、ひたすら金食い虫だ。

だがどちらも、人生をただ生きるよりも豊かにするものだ。
君は必要な分だけ、拾えるだけ拾えばそれでいい。

だから、ヨキともおしゃべりするだけでいいさ。
気兼ねすることはない。何となく話したくなったら、いつでもおいで」

わはは、とばかりに、あっけらかんとして笑う。

「待っておるよ、ソノバ君。
――上手くいくように、とわざわざヨキが願うこともない。
君が誓うんだ。どうにかしてみせる、ってね。

……さて。
ヨキはそろそろ、行かなくてはならんな。
まだまだ見届けたい人が、たくさん居るんだ」

園刃 華霧 >  
「ン……まタ、お節介、焼きニ行くンだろ?
 アタシは、もう大丈夫。
 行ってくレ。
 アタシのせいで間に合ワなかった、なンてなったら寝覚め悪イ。
 必要なら、遊びに行くしナ?」

からり、と笑って手をふる

ヨキ > 「そうだ。
『接続』する者の、背中を押して。
迷いの残る者を、日常へと引き戻して。

そうやって――ヨキは君ら『トゥルーバイツ』を見守るのさ」

軽く手を挙げて、踵を返す。

「ありがとう、ソノバ君。ヨキと話をしてくれて。
君の『選択』……、確かに見届けたよ」

歩き出す。
今日もまた、『トゥルーバイツ』の消息を求めて。

「――頑張れよ!」

最後にそう一言――明るい声を、残して。

ご案内:「落第街 路地裏」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
園刃 華霧 >  
「……さ、テ。」

改めて、デバイスを取り出す。
生命反応を見る。

数は、減ってる。

でも、あかねちんはまだ生きている。

「……ごめん、あかねちん。
 やっぱ、そっちは無理だった……
 あかねちんは……どうなるんだろう、な……」

再びデバイスを飲み込む

――まぁ、全部俺が見て覚えてからで、俺はいいかなってさ

「……せめて、アタシが全部見て、覚えておくよ」

ぼそり、とつぶやいて
その場を後にした

ご案内:「落第街 路地裏」から園刃 華霧さんが去りました。<補足:着崩した制服 左腕に林檎に噛み付いた蛇が絡みついているエンブレムの腕章>