2020/07/26 のログ
ご案内:「スラム」にトゥルーバイツ構成員さんが現れました。<補足:赤髪紅眼の青年/158cm 血の滲む包帯だらけの身体、半袖に半ズボン。腕にはボロボロの腕章。>
トゥルーバイツ構成員 >  


ヒトは、己の存在意義を疑う時、狂い始めるという。


 
陽が落ちて来る。最早『トゥルーバイツ』の面々はとうとう後が無くなっていた。
期限は27日。そこを過ぎれば『真理』に繋がる窓は機能しなくなる。

スラムで1人、ボロ切れのような青年はデバイスを見つめていた。

薄暗い中でも僅かな光を浴び、血色の眼と髪は、
あまりにその色とは対照的に温度を失い、虚ろだった。

トゥルーバイツ構成員 >  



「……母さん。」



 

トゥルーバイツ構成員 >   



「……俺は、いらない子だったよね………。」



 

トゥルーバイツ構成員 >  
どれほど風紀委員や公安委員から逃げただろう。
デバイスを奪おうとする輩から逃れただろう。

漸く1人になれて、青年はようやく声を出した。

どれだけ暴力を持ってしても、
強引な手で彼からデバイスを奪うことは叶わなかった。

彼は、あまりに半端な不死者。



青年が己の存在意義を疑ったのは、幼少の頃だった。

《大変容》の起きたこんな世界でも、己の子を忌む親は後を絶たない。
いいや、異能などという馬鹿げたモノのせいで、むしろ数は増えたのかもしれない。

ご案内:「スラム」にルギウスさんが現れました。<補足:胡散臭いサングラスの闇司祭>
トゥルーバイツ構成員 >  
青年の異能は、そんな日常のありふれた、ありふれてはならない悲劇の中で目覚めた。

ゴミだらけの部屋、明かりも電気も無いアパートの一室。
もう誰も帰ってこない部屋の隅で、餓死寸前になりながら。

歩くことすら最早ままならない。


身じろぎで、落ちた酒瓶の破片で指を切った。

――アカイ、アカイ。

……それを何を思ったか、青年は、口へ運んだのだった。


そうして、彼は今ここに居る。

彼の異能は『自食』。
己を食べねば生きられぬ。己を傷付けねば生きられぬ。

青年は、物心ついた頃から、地獄を歩き続けていた。

ルギウス > 「おやおや、そのような格好でこのような場所に。
 どうしました?
 折角の腕章も見るに堪えない有様じゃあないですか」

何時からそこにいたのだろうか。
最初から居たかのように、瓦礫に腰かけて紫煙が靡く細葉巻を咥えている。
トントン と 指で灰を落としながら、汚れ一つない司祭服の男は続ける。

「まるで歴戦の戦士のなり損ないじゃないですか。
 どうです、貴方の物語を少しばかり語って見せてはいただけませんか?
 ミスター『グーラー』」

トゥルーバイツ構成員 >  
鮮やかな色で、灰色の世界から、青年は来訪者を虚ろに見る。


「……まだ、邪魔が、来るんだ。」

もう全員振り切ったと思ったのに。
どうしてヒトは来るのだろう。

「……知らないおじさんとは、喋らない。」


背丈の小さな、細身の青年は、抑揚を忘れた声で話す。



自分を食べてさえいれば何年も生きることが出来た。
けれど、それには全て痛みを伴った。

普通の食事では、最早青年は自分の体を維持出来なかった。

鎮痛剤の類はいくらでも試した。
最初のうちこそ効いてはいたが、感覚を麻痺させる類は麻薬と同じく、
繰り返す度に効力を鈍らせ、最早この世に彼に効く鎮痛剤の類は無くなってしまった。

痛覚遮断の類は、身体を食べて再生するときに戻ってしまう。

生き地獄だった。

しかし、生きる為に発現した異能のせいで、青年は今まで死を選べずに居た。
だからこそ真理に手を伸ばした。

ルギウス > 「ああ、それはそれは。
 申し遅れました、私はルギウス。“自由なる”ルギウスと申します。」

立ち上がって、仰々しいお辞儀を一つ。

「ほら、これでもうお友達です。
 私の事は気安くルギウスお兄さんとでも呼んでください。
 それで、どうです、死ぬ前に貴方の人生を語ってくださいよ。
 私が常世中に知らぬものなどないくらいの感動舞台にしますから」

細葉巻を美味しそうに味わい、空に紫煙を吐き出す。

「貴方のエンディングについて、貴方自身の口からきいておきたいのですよ」

トゥルーバイツ構成員 >  
「そう……ルギウスお兄さん。」

早くどこかに行けばいいのに。
ゆらゆらと頭が首の座らぬ赤子のように揺れる。

「エンディング。終わり。
 うん、もう……終わりでも良いや…。」


むしろどうしてもっと早く終わりにしなかったのだろう。
死のうと思えばいつでも死ねたはずなのに、
自分を食べないでいると、無意識に食べようとして。

今もまた問いをかけられて、ストレスを紛らわそうとしたのか、
自分の指に歯を立てた。まるで子供の指吸いのように。

「俺は、生まれ変わりたい…。」

ルギウス > 「ほうほう、生まれ変わりたい。
 さぞや今世にいい思い出がなかったのでしょうねぇ。
 どのような未来をご希望ですか、悲劇の君よ。
 
 どんな悪にも負けない英雄譚?
 真実に牙を突き立て、理不尽に怒るヒーロー?

 それとも……

 母に愛され、安寧と平和に満ちた一般人?」

そこまで言って、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

「ええ、いいですよ。
 どのような未来も、来世も。この世に対しての恨みも辛みも。
 全て総てを語ってください。

 可能であれば、私がそこに到達できるように協力しますとも。
 何せ私は―――魔法使いですからねぇ、魔術なんてケチくさい事はいいません。
 魔法です。どんな望みも願えば叶う」

トゥルーバイツ構成員 >  
「現実なんて、痛いこと、ばかり。」

育児放棄される前は殴られて、
この身体になった後は自分を食べてさえいれば良いからと妙な実験をされたりした。
自分の細胞を培養したモノを食べさせられたりもした。
けれど、自分の心臓から繋がっているモノでないと、身体は受け付けなかった。

彼は、自分自身にだけの吸血鬼に等しかった。
自分の中に化物が居て、それとずっと一緒に生きて来た。

「俺は、ちゃんとお父さんとお母さんがいて、
 "普通"に、生きたいだけ、なの、に。

 俺は何のために生まれたの、魔法使いのおじさん。」

自らの存在を問う度、心は軋む。

「俺は、自分を食べなきゃ、生きられない。」

もう嫌なんだ。自分を傷付けるのが。

「――どうすれば、愛してもらえる?」


酷く断片的、酷く欠落した感情、
凍った瞳の子供たち。

被虐待児が行きつく有り様。

泣けない赤子は、泣いている。

ルギウス > 「ええ、全くです。
 貴方は、その現実に打ちのめされてきたのでしょう。
   ちから
 その<異能>で死ねずに苦しんできたのでしょう。
 とてもよくわかりますよ、死を記憶している身としては非常に親近感が湧きます」

大きく頷いて。
相手の言ったことを繰り返し、理解していると示す。

「神は時に厳しすぎるほどのクソッタレな試練を課すことがありますが……。
 そうですね、貴方のソレは度を越しています。
 何のために生まれたのか、それは……『此処で私に逢う為です』よ。
 魔法使いの“お兄さん”である私に。」

コホンと小さく咳をして。
                   ちから
「私が愛しましょう、貴方の全てを。その<異能>も一切合切全てを。
 <真理>では癒せないものを、私が魔法で癒してあげましょう。
 貴方は貴方のまま、そこに居ればいいのです。
 誰に恥じることなく……私は、貴方を肯定し護りましょう」

トゥルーバイツ構成員 >  

「うそつき。」



真偽を見抜く眼は濁り果てた。

「そんな魔法、あるもんか。」

こんな自分のことなど、気持ちが悪いに決まっている。


保護されて、そうして生き良いようにと繰り返した実験は彼を苦しめただけだった。

何が楽しくて自分のものとそっくりの腕を食べねばならない?
何が楽しくて己の骨をかみ砕かねばならない?
何が楽しくてこの目と髪と同じ色の錆を口にし続けねばならない??

『親』という、赤子が生まれて初めて出会う『世界』に拒絶された彼は、
届かない泣き声をずっと上げているのだ。

ルギウス > 「これはこれは、手厳しい。
 確かに見たモノしか信じないのが人間というものですか」

ふむ と少し考える素振りをした後に。
左手を突き出して。
いつの間にか右手に握っていた大きな剣で、なんの躊躇もなく己の左手を切り落とした。

少しだけ顔を顰めたが、すぐに笑みを浮かべて。
己の左腕に食らいつく。

「……我ながら筋肉質で美味しくないですね。
 せめて火を通せばよかった。
 さて、これで晴れて同じスタートラインになりましたねぇ?」

もちろん、血は流れっぱなしで傷なんて治らないが。

トゥルーバイツ構成員 >  
「………"よく食べれるね"」

相手の意図が分からない。
血の匂いには、慣れた。慣れていない。

自分だって嫌なのに、よく同じことをしようとする。

「……なんでそこまでするの。」

地面に広がる色と同じ眼で、青年は問う。
赤の他人ではないか、と。


時間は刻一刻と過ぎていく。

デバイスを握る手に、僅かに力が籠る。

ルギウス > 「美味しいモノじゃありませんが、私も初めて食べるというわけではありませんので。
 流石に、貴方と違って怪我は治療させていただきますよ。
 『偉大なる自由神よ、信徒の怪我を癒したまえ……キュアウーンズ』」

今回は敢えての止血のみ。
どうせ生やすのは後からでもできる。

「私はねぇ、神からの祝福だとかギフトだとかで苦しんでいる方を見るのが大っ嫌いなんですよ。
 昔の私を見ているようで、我慢ならないのですよ」

ふぅ と落ち着くために大きなため息。

「いいじゃないですか、私達が幸せになっても。
 そのような泡沫の夢くらいは私だって見るのですから。
 そして―――夢は、偶に現実になるんですよ」

トゥルーバイツ構成員 >  
「……でもさ、どうやったら、しあわせになれると思うの?」

腕を掻きむしるようにする。
人間は、力の加減をしなければ脆いモノだ。
すぐに手に付く自分の血を舐める。

自分が本当に欲しいと思うモノはどうあがいても手に入らない。

だからこそ、彼らは、彼は『真理』を手にしているのだ。
それがどうしようもない博打だとしても。

「昔の、お兄さんは、どうしたの。」

同じところまで下りて来たというなら問おう。
この回らない頭で、この赤子のような思考で、
この常人と同じになれない小さな身体で。

赤子は、愛情が無ければ死んでしまう。
《大変容》以前、遠い昔行われた、壮絶な実験がそれを語っている。

ルギウス > 「さて、幸せの形は現在の私でもわかりかねます。
 今でも悩んではいますが―――」

少しだけ笑いの質が変わった。
浮かべる笑みはそのままに、漂う気風は挑戦者のソレ。

「昔の私は貴方と同じです。
 流されて殺されて、また流されて殺されて。
 何百何千何万と繰り返し繰り返し。
 今も力を得るために、長い長い旅路の途中です」

すっかり短くなってしまった細葉巻を血だまりに投げ捨てる。

「さて、貴方は―――どうなりたいですか?
 世界に復讐を願いますか?
 来世での平穏を願いますか?
 それとも―――今世での安寧を願いますか?」

トゥルーバイツ構成員 >  
「……………。」

『真理』に縋る程の『願い』
この世に未練が無いといえば嘘になる。

誰かに助けられた記憶が無い訳じゃない。

 赤子
 青年は、デバイスをぼんやりと眺める。


  「俺は……愛されたい。」


絞り出すのは、現在への本当に一欠片の僅かな執着。
復讐なんて考えたことがあるモノか。
来世で幸せになれるならそれに越したことは無い。

 だけど、けれども。

  親
   に、愛されたかっただけなんだ。
 世界
 

ルギウス > 「では、そのように。
 安寧に満ちた波乱のない世界を貴方に与えましょう。
 どうぞ、満ち足りた揺り篭の中で微睡ください。
 次に目覚める時には、世界はきっと貴方に微笑みます」

右手を広げて、いらっしゃい と誘うように手を伸ばす。

トゥルーバイツ構成員 >  
「…………。」

分からない。

分からないけれど、せめて夢の中だけでも、愛されるなら。
せめて夢の中だけでも、この痛みから逃れられるなら。


 凍った瞳の赤子は、

 自らを食べねば生きられぬ化物は、

 
「…魔法でずっとなら、それでも……。」

もしそれで自分を食べずに死ぬならそれでも、構わない。

本来は道理が許さないだけ。
本来は自由が許されていないだけ。

ルギウス > 「安らかに、愛で満たされてお眠りください。
 私が魔法で貴方を害する全てのものから護りましょう。
 道理も自由も貴方に与えましょう」

そっと近づいて、右手を使い青年の目を隠すように近づける。

「ほら、お疲れでしょう?
 大丈夫、眠っている間に親の温もりを授けましょう」

トゥルーバイツ構成員 >  
がくんとルギウスへ青年が力を失う。
手に持っていたデバイスが落ち、転がった。
『真理』への『窓』は、残り2時間を切った所で、彼から失われた。

次に目覚めて彼が生き地獄のままならば、
次に選ぶのはきっと自殺であろう。

それこそ本当に、一切食事をせず、

遠いあの日、彼が世界から見放されたように、日常の悲劇の一部になるだけだ。





けれど今は、今だけはどうか、


願わくば、彼に永久の安寧の眠りが与えられますように。

トゥルーバイツ構成員 >  




  『おかあさん だいすきだよ』


 

 

ご案内:「スラム」からトゥルーバイツ構成員さんが去りました。<補足:赤髪紅眼の青年/158cm 血の滲む包帯だらけの身体、半袖に半ズボン。腕にはボロボロの腕章。>
ルギウス > 「汝の魂の平穏のあらんことを。
 暗闇が全てを隠し、安寧をもたらさん事を」

小さな声で、聖句を唱える。

「ああ、まったく……問答無用で殺す方が手っ取り早いのですが。
 甘くなりましたかねぇ?」

そのまま流れるように患部を撫でて傷を癒しながら大袈裟にため息を一つ。

「記憶処理と偽造身分を三人分、加えて異能封印と若返り。
 ああ、ついでに祝福も。
 じっくりと近くで観察できたので、彼の異能は理解したので容易でしょうが」

やれやれ と 首を振る。

「どうせ暇をしていたのですから。
 たまには平和な日常系の舞台も悪くはないでしょう……なに、たったの50年程度です」

ルギウス > 「ああ、一つだけ仕込んでおかないと。
 そのまま死なれては感想が聞けない。それでは舞台化ができないじゃあないですか」

危ない危ない と 大袈裟に掻いてもいない汗を拭う。

「死の間際にはすべてを思い出して、インタビューしませんと。
 機会は無駄にできませんからねぇ」

ルギウス > 「さてさて、この場はこれにて閉幕。
 幕間の後に、彼の新しい開幕にご期待とご声援をお願いしたします」

青年が座っていた辺りに向けて、大袈裟な一礼をした後に。
スポットライトは消え、舞台の幕は閉じられた。

ご案内:「スラム」からルギウスさんが去りました。<補足:胡散臭いサングラスの闇司祭>