2020/07/28 のログ
ご案内:「常世渋谷 常夜街」にケイスさんが現れました。<補足:探偵 / 霊能力者|178cm / 62kg |チンピラみたいな柄物のテロテロのシャツに黒いスラックス、黒髪、左手だけに高価そうな黒い手袋、眼鏡>
ケイス >
深夜1時過ぎ。
常世渋谷・常夜街。常世島における「夜の街」。
異相常世渋谷・合同探偵組合に席を持つ探偵――ここでは便利屋を指す――の、
《凍結》のケイス(仮名)は、この街で四番目に大きなキャバクラの裏手にいた。
煙草をふかしながら、ゴミの詰まった袋の口を縛る。
長い髪は適当に首元で結われて、まるでチンピラのような見目。
そんな彼が一体、何故ここにいるかといえば、《探偵》の仕事だ。
時遡って5時間前。
異相常世渋谷・合同探偵組合――この街における《謎》を解き明かす者たちの寄合――に、
一軒の依頼が舞い込んだのである。
具体的には。
『ワンサン(キャバクラの愛称)の女の子が、神隠しみたいに消えるんです!』
『どうにか見つけてきてください!!』
――つまり、そういうことである。
ケイス >
「霊障じゃねーじゃねーかよカスが……」
12ホールブーツの爪先で、勢いよくゴミ袋を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばした矢先に袋が破れてあたりにゴミが勢いよく散乱した。
「…………」
周囲に誰もいないことを確認してから、溜息混じりにポケットの煙草に火をつける。
そのうち綺麗になってるだろ。知らねえけど。
つか汚えから触りたくない。触らない。裏路地に背中を預けて、息を吐き出す。
霊障事件の疑いあり、とやってきたキャバクラで、
『詳しい話を自分から聞きたければ』と気取ったしゃらくせえボーイに言われて、
しぶしぶ片付けを手伝わされる羽目になった挙句にそういう《超常》の兆候はなし。
普通にお前らが給料払わねえから消えてるだけじゃねーか。
アホくせえ。勘弁してくれ。
盗み聞きの結果、調査は概ねそのような形で片付いた。
が、盗み聞きをしましたと言うわけにもいかないので片付けだけして帰る。
《凍結》のケイスの、わくわくキャバクラ裏側一日体験はこの程度のオチがついた。
ケイス >
確かに、霊障な気はしなくもなかったのだ。
誰もが失踪する時間が同じだとか、全員がこの店の女だというのも。
この店が《境界》上にある、と適当なゴシップを騒ぎ立てる者もいたのだ。
確かに、それらしき《脈》の上にはある。事実としてそれは間違いない。
常世渋谷においては、こういう噂話は少なくないからこそ調査に出た。
「よくある話」で放っておいた結果、街に呑まれてはたまったものではない。
……まあ、「今回みたいな話」も、この街では同じくらいよくあるのだが。
消えたものを探す、という依頼は少なくない。
とりわけ、この常世渋谷では様々なものが《消える》。
愛用していた結婚指輪だったり、キャバクラに勤めている女の子だったり、
飲み会の前から最中にかけての記憶だったり、いつだか流行っていた服屋だったり。
それらすべてが、この《街》の特色と語る探偵もいる。
だが、《凍結》のケイスはそうは思っていない。
彼の視点からすれば、そのどれもが『片付けが下手なヤツ』のせいだ。
ケイス >
結婚指輪が消えるのは自分の女関係の片付けのできなさのせい。
キャバクラの女が消えるのは給料を払わない経営者のせい。
飲み会の前の記憶は、自分がどれだけ飲めるかをわかっていないやつのせい。
いつだか流行っていた服屋は、在庫を片付けられなかったせい。
そのどれもは、『片付け』ができるヤツならなくさない。
それが彼の持論であり、彼の目の前には無数のゴミが散らばっている。
他人を小馬鹿にする割に自分は棚に上げるのが、《凍結》のケイスだった。
ポケットからデフォルトの着信音が響く。
画面に表示されているのは《焼却》の二文字。
やけに軽いマリンバの音に、苛立ち混じりの舌打ちをしてから出る。
「外れだよ」
相手の言も聞かずに、一言だけ適当に言い放ってから通話を終える。
探偵業を営む者は、この街では少なくない。
自分や他人の得意分野を選択し、それに該当する二つ名で呼び合う。
それが、様々な霊的な事象にも関わる《何でも屋》の《探偵》の習わしだった。
何故って。
名を知られれば、呑まれる危険性が増える。
この街の厄介事を背負い込むには、自分の本当の名前というのは重すぎる。
ケイス >
『おーい探偵くん。まだゴミ捨ててるのか~い?』
間の抜けた、しゃらくせえ男の声。
自分の面がいいことをよくわかっているタイプの相手。
当たり前のように仕事に対して金銭を払わない男。
それでいて、人が一人消えようが二人消えようが関係ないような男。
「……クソ面白くねえ」
八つ当たりのようにもう一度ゴミ袋を蹴り飛ばす。
辺りに散乱するゴミをちらりと一瞥だけして、店内へと戻り。
『いやはや、随分時間かかったね。
……まあ、仕事はしてくれたから答えはするけどもね。
君、名前……なんて言ったっけ? それで、何を聞きたいんだい?』
ケイス >
「名前なんてなんだっていいだろ。
名乗る義理とかあると思ってんのか?
……いいよ、なんでも。比嘉でも、NEOでも、常磐でも」
ケイス >
――夜は、更けていく。
ご案内:「常世渋谷 常夜街」からケイスさんが去りました。<補足:探偵 / 霊能力者|178cm / 62kg |チンピラみたいな柄物のテロテロのシャツに黒いスラックス、黒髪、左手だけに高価そうな黒い手袋、眼鏡>