2020/07/08 のログ
ご案内:「大時計塔」に神樹椎苗さんが現れました。<補足:名簿必読お願いします。黒基調の衣服、スカート。怪我だらけの自殺癖。時間や細かいシチュはお任せ。後入歓迎 ~朝6:00までRP可>
神樹椎苗 >
「はあ。
ここを登るのもなんだか久しぶりな気がしますね」
大時計塔の階段を上り終え、椎苗は一息ついた。
久しぶりと言うほどではなかったが、最近は別の場所へ出歩いてたため、数日立ち寄っていなかったのだ。
毎日訪れていた場所だからか、数日離れただけで久しく感じてしまうのだろう。
扉を開けて、外に出る。
柱にロープを結び付け、輪になったロープの先を自分の首にひっかけた。
「ああ、やっぱりこれが落ち着きますね。
いつでも死ねるってのがいーです。
別に首を切ったり、心臓刺したりしてもいーんですけど、それなりにいてーんですよね」
柱にもたれかかるように、腰を下ろす。
そして昨日図書館で見つけた『30日で分かる日常魔術! サルでもわかる注釈付き』というふざけた本を広げた。
神樹椎苗 >
生暖かい風が吹き抜けるために、あまり読書に向いた場所ではないのだが、そこは毎日通っていた慣れもあるのだろう。
じっとりと、高い湿度に汗がにじみ出るが、それを時折タオルでふき取りながら、本を読んだ。
そして急にページを捲る手が止まると、椎苗は小さく噴き出した。
「これ書いたやつ、中々センスあるじゃねーですか。
特にこの『こんな本を読むような奴はろくな人間じゃないだろうし教養もなさそうだからひらがなで書いたよ!』って注釈が必要なさ過ぎて笑えますね」
ほかにも、注釈として本文への補足が至る所にあるのだが、どれもこれも皮肉やブラックジョークが織り込まれている。
そんなふざけたことを書いているくせに、確かにこの本の通りにやれば本当にバカでも魔術が使えてしまうところがすごい。
一体どんな思考回路と精神構造をしていたらこんな本が書けるのだろうか。
「著者は、羽柴哲也、ですか。
発行日は2016年って、ずいぶん古い本ですね」
この著者の別の本にも興味が出てしまった。
一度、古書店街にでも行って探してみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、時折、微かに笑いつつページを捲っている。
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女>
水無月 沙羅 > 「ぁー……。」
帰ろうと思ったモノの、帰ったら何と言われるのかと考えたら帰れなかった。
そんな複雑な思いの少女が一人、物憂げに時計塔に足を運ぶ。
まだ夜が明けきる前の朝型、そういえば服も台無しになってしまったな、と。
適当に落第街で拝借したボロ布を、穴だらけになった制服の上に羽織っている。
どうせ誰もいないならいっそ身を投げて死ぬ気分でも味わってみようか、などと自嘲的なことを考えたのだが……。
残念なことに先客がいたようで。
「……小さい女の子?」
扉を開けて、呆然と立ち尽くしてしまった。
神樹椎苗 >
まだ日が昇ったばかりの時間。
生暖かい風に吹かれながら本を読んでいる所に、人の気配が登ってきた。
現れたのは、ぼろぼろの姿をした少女。
「こんな時間に、なんですかお前」
ヒトの事を言えた義理じゃないが、こんな時間にこんな場所に上がってくるのはろくな人間ではない。
案の定、少女の姿は、平常なものではないじゃないか。
椎苗は睨むように、少女を下から上へと観察する。
「――そんな体と心で、こんな場所に来てるんじゃねーですよ。
自殺なんてもんは、やったところで何にもなりゃしねーのです。
残るのは汚物と、それを処理するかわいそうな人間くらいで。
というかそもそもですね――」
パタン、と本を閉じて、子供らしくない無気力な瞳が、鈍く突き刺すように少女を見上げる。
「お前、落ちたくらいで死ねるような奴じゃねーでしょう」
そう、平坦な声音で告げた。
水無月 沙羅 > 「え………?」
一瞬思考が停まった、うん、前半は理解できる。
確かにここに来るような人間は、景色を楽しみに来たか、スリルを味わいに来たか
若しくは死ぬために来るかの選択肢位だろう、後は物思いにふけるとか。
問題なのは最後、この子今何と言ったか。
『落ちたくらいでは死ねない』と、確かにそういわなかったか?
「ぁ……えーっと……、本当に死ぬつもりはなかったというますか、本当に死ねないと言いますか……あ、はい……えっと。」
脳内で整理するも、先ほどまで心身ともに疲労が蓄積していたものだから考えがまとまらない。
「……どうしてご存知なんです? 不死なる者(アサナシオス)の事。」
何処かであっただろうか、というか、こんな小さな女の子がなぜ?
疑問はそこばかりに集中して行く。
神樹椎苗 >
「教えてやる義理はねーですね」
突き放すように言いながら、自分のバッグをまさぐる。
そこから一本のペットボトルを取り出して、少女に放り投げた。
それは一本のアイスティー。
保冷バッグの中にでもあったのか、まだひんやりと冷たさを保っている。
「とりあえず、それでも飲んで落ち着きやがれです。
お前はバカじゃねーんですから、頭が冷えりゃ少しはマシになるってもんですよ」
本を隣において、力を抜くように促した。
水無月 沙羅 > 「むっ……」
少女の言い分に少しだけむかっ腹が立った。
ちいさい子に対して大人げないかもしれないが、そこまで言われる理由もない。
投げられたペットボトルを受け取りながら。
「良いじゃないですか、そっちは勝手にこっちのこと知ってるんですから聞くぐらい。」
そう言えば、日ノ岡あかねとの一件以来、なにも飲まず食わずだったのを思い出す。
ペットボトルのふたを開けて、勢いよく喉に流し込んだ。
「ぷぁ……っ、はぁ……」
冷たい水が喉を通り抜ける。
文字通り体が生き返っていく様だ、いや、死にはしないのだが。
「まるで見てきたように物を言うんですね。」
皮肉を返すように、胡乱な顔で返す。
まだ試行は少し鈍っている、痛みが消え切ってくれない。
「お隣に座っても?」
せっかくだ、この少女の話を聞くぐらい許されてもいいだろう。
死なない怪物にだってそのくらいは許されるはずだ。
神樹椎苗 >
「見てはいねーですけど、推測はできなくもねーです。
風紀活動の最中のトラブルに異能を使った対応。
心身の状態から見れば、一度異能を使った後に、誰かに痛めつけられたってところですか。
まあ同情くらいはしてやらなくもねーです」
そういう割には、欠片も同情してるようには思えない声音だ。
それでもおもむろに、自分のバッグをどけて隣を空ける。
「どうぞお好きにしやがれです。
お前に必要なのは休息ですからね」
バッグから今度はチョココロネを取り出すと、少女に差し出す。
「疲労の回復には甘いものがいいです。
しいの朝食ですが、お前にもわけてやりますよ」
相変わらず興味なさそうな視線を向けながら、包帯だらけの手で。
水無月 沙羅 > 「……随分と、お優しいんですね。」
言葉とは裏腹に、そこまでされたのではこちらが大人げないみたいではないか。
おおよそ間違っていない展開に頷きながら、差し出された席に腰を下ろす。
朝は随分と風が冷たい、戦闘でのぼせていた頭がゆっくりと冷えて行く。
肌はピリピリと少し痛むが。
「少し間違いです。 正確には私がトラブルを起こし、帰るに帰れなくて放浪していたら悪い人に捕まったのを命からがら逃げてきた。ですね。」
提示された推測を訂正しながら、胡乱な目で空を見上げる。
「……そういうあなたは、なぜここに? 何か死にたい理由でもありましたか?」
これから死のうという人の割には、随分と準備がいいと思いながら。
チョココロネを受け取ってから半分千切り、少女に手渡す。
「こういうのは半分こにするものだと、お兄さんに教わりました。」
包帯だらけの手は、あえて聞くこともないだろう。
こんな小さな少女なのに、随分と大人びているからには何かあっても不思議ではない。
神樹椎苗 >
「優しくしてるつもりはねーですよ。
しいはただ、この場で必要な事をしただけです。
風紀に目を付けられるのも面倒くせーですしね」
ふっ、と退屈そうに息を吐く。
「お前からトラブルを起こしたってんなら、普通じゃねえですね。
――ああ、最近景気のよさそうな強欲女ですか。
ああいうやつは、半端なやつじゃ相手しきれねーですよ」
蓄積された情報の中に、断片的にだが記録がある。
最近になって入力された情報からも、風紀がわざわざトラブルを起こしに行く相手となれば、推測し難い事ではなかった。
ちぎられたコロネを受け取って、口の中に放り込んだ。
半分にされたチョココロネは、中身がはみ出てえらい事になっていたが。
「――お前、中々れーぎってやつがあるじゃねえですか。
それに免じて、特別にしいがここにいる理由を教えてやります」
そう言って、自分の首に掛けたロープを、くいっと引いて見せる。
ロープは数メートルの長さで、椎苗の首から、すぐ後ろの柱に繋がり固く結ばれていた。
「理由なんかねーです。
これはただの癖ですよ」
そう言って、少女の目の前から這うようにして動き、時計塔の縁へ。
ほんの僅かの怯えも躊躇もない様子のまま、あっさりとその姿を消して。
ごきり、と、鈍い音が響いた。
水無月 沙羅 > 「ぇ……えっ!? ちょ、ちょっと!?」
じょ、冗談ではない!?
いきなり目の前で年端もない少女が自殺とか本当に、本当に昔の私を思い出すからやめてほしいのですが!?
チョココロネを口に入れる事すらも忘れて
「肉体強化!!!」
縁を壊れそうなほど握りしめてから、体を壁に這わせて動かない少女に手を伸ばす。
ひょっとしたらまだ治癒魔術をかければ息を吹き返すかもしれない。
神樹椎苗 >
どれだけ慌てても、椎苗の首は拉げていて、ほぼ即死である事は疑いようもない。
数多く死んで来た少女であればなおさら、すでに手遅れであることははっきりとわかるだろう。
しかし。
「――目の前で死なれるってのは、そういう気分らしいですよ」
時計台の上から。
さっきまで少女が隣り合っていた場所から、目の前で死んでいるモノと同じ声が聞こえるだろう。
「ほとんど関係ない人間でも、目の前で死ぬのを見たら胸糞悪くなるのです。
だから命ってやつは大事にしなくちゃいけねーのです」
そんな言葉が、風に乗って聞こえるだろう。
椎苗はまるで、今の事がなかったかのように、柱にもたれながら包帯に着いたチョコを丁寧にふき取っていた。
水無月 沙羅 > 「え……あれ? あれ?」
先ほどまで少女がぶら下がっていた場所と、今少女が居る場所を何度も交互に見返す。
「あぁ……あなたもスペアが居るタイプの不死ですか……。」
縁からよじ登り、ぐったりとした様子で前のめりに倒れこんだ。
「別に……まったく関係ない人なら私にとってはどうでもいいことです……。 犯罪者が死んだって別に……別にどうってことありません。」
少し前のことを思い返す、自分で殺した少女を見て固まっていた人間が何を言っているのか。
「でもあなたは……なんと言いますか、私を助けてくれましたから……別ですよ。
寝覚めが悪いとかじゃなくて……悲しいです。」
本当なら命は一つで不変ものだ、本当の意味で死なれて、もう会えないとしたら発狂したかもしれない。
「昔の私みたいじゃないですか……。」
本当に、実験施設にいたころの自分を思い出す。
この少女ほど自由に死ねたわけではないが。
神樹椎苗 >
「不死、は正確じゃねーですけど。
結果としては別段変わらねーですね」
そう少女に肯定を返すと、倒れこんだ少女を見て目を細める。
「助けたつもりなんかねーですよ。
お前がただ、助けて欲しがっただけでしょう」
求められた反応を、正しく返す。
ただの装置としての動作。
椎苗自身も放っておけるような人でなしではなかったが、求められたことに対するリアクションの意味合いが強かった。
どちらかと言うのなら。
自殺を見せつけた事の方が、椎苗の意思が強かっただろう。
「昔のお前がどんなもんかはしらねーですけど」
いや、知ることはできる。
けれど、わざわざ知らなくても想像は難しくなかった。
「今のお前は、嘘つきですね。
死ねないやつが無頓着になるのは、自分の死に方くれーのもんです。
むしろ、他人の生き死にってのは、簡単に割り切れねーくらいには敏感になっちまうもんでしょう」
そこにまで関心がなくなってしまうのは、狂ってしまった怪物くらいだ。
こんなあったばかりの人間相手の生き死にに本気になってしまう少女が、割り切れているとは思えなかった。
水無月 沙羅 > 「ぅ……」
全部論破されてしまった。
自分が誰かに助けてほしかったのも、自分が嘘をついたことも。
まったく他人の生死に割り切ることができていないことも全部。
こんな少女にまで見透かされている。
普段はマヒしている感情があふれて止まらなくなる。
「どうしてそんなにわかるんですか……みんな私の事そんなにわかりやすいですか……」
表情は変わらないのに涙があふれてくる。
子供の前でなんて情けない。
「死にたくないし死なせたくもないんですよぉ……。」
もう弱音を吐く機械になってしまった。
「しいさんは、怖くはないんですか?」
純粋な疑問、こんな子供が、死ぬことが怖くないなんてことがあるのだろうか。
「私は……痛いのも、死ぬのも、嫌いです。」
神樹椎苗 >
「ほかの人間はしらねーですけど。
お前みたいなやつは、しいにとってはわかりやすいですね」
自分の不死を持て余して、付き合い方が見つけられない。
そういう相手なら、理解できる部分が多くある。
椎苗自身、他人の生死には鈍感になれない。
そして、ずっと助けを『求めていた』。
「死ぬ事は怖くねーです。
――死は安寧。死は始まり。死は祝福。
しいにとって、死ぬって事は生きる事と同義です」
それに、死ぬより辛い思いも、死にたいと願うほどの苦しみも、十分に経験したのだ。
少女のそれと比較できるものではないが、椎苗には『死を想う』だけの理由があった。
「まあ、痛いのも苦しいのも嫌いなのは一緒ですね。
死ねるなら構わねーですけど、即死に限るってやつです」
なんて言いながら、少女の頭にそっと、包帯まみれの病的に細い手を伸ばす。
「ここにはしいしかいねーです。
吐き出してー事があるなら、吐き出しちまえですよ。
答えがやれるかは知らねーですけど、少なくとも聞いてやるくらいはできます」
ようやく土俵に乗ったとばかりに、そんな言葉をかける。
無味乾燥な表情には、ほんの少し、柔らかさが浮かんでいた。
水無月 沙羅 > 「……しぃさんはなんだかお母さんみたいです。 冷たいのにあったかい。」
……誰かに触れられてこんなに穏やかな気分になるのはいつ振りだろう。
あの時は。お兄さんの時は拒絶してしまったのに。
同じ不死だから? そうかもしれない。 でもそれ以上に、何処か似通ったモノを感じるのかもしれない。
「私……まだまだ子供なんです、いいえ、見た目通りの年齢ですけど。
私の不死……えっと、時間をさかのぼるタイプらしいんですが……だから、研究されてて。
痛いこと、いっぱいありました。
だから……ほとんど。覚えていないんです。 その時の事。
引き取られたときも、ほとんどしゃべれない廃人だったって聞きました。
しいさんは……なんだか、大人っぽいですね。
……死が祝福、少しだけ、わかる気がします。
死ねるなら、もう痛い思いも悲しい思いもしませんもんね。」
彼女の言う祝福とは違うのかもしれない、自分の言う死の祝福は、どちらかと言うと逃げなのだろう。
よく、自殺する人に向けられる逃げるなという言葉、あれが沙羅は嫌いだった。
死ぬ辛さも知らない奴に、何かを言われたくはない。
「だから、失敗できないはずだったんです。 失敗しちゃいけなかったんです。 お尋ね者にならないように、でも、失敗しちゃいました。」
えへへ、と嗤うように。 自分を嘲るように。
「もう戻れないんです、先輩に、理央さんに御迷惑をかけてしまいますから。」
もう、あの暖かい場所には戻れない。
そう思ってしまった。
「傍にいていいいって、初めて言ってくれた人だったんですよ。」
涙と鼻水で息ができなくなって、両手でぐしぐしとぬぐった。
泣き虫は鳴き止んではくれない。
神樹椎苗 >
「研究、実験、どこもそんな事ばかりですね。
本当に、胸糞わりーです――」
そのワードを聞くだけで体が竦む。
口に出せば、嫌悪感と恐怖で声が震える。
覚えていない少女は幸運なのかもしれない。
椎苗は――未来永劫、忘れることはできないのだろう。
「しいはただの子供です。
まだ十歳のぴちぴちのロリです。
でも精々たった六年しか違わねーでしょう。
しいもお前も、子供で何がわりーんですか。
子供に、大人になることを強いる方がおかしいに決まってるじゃねーですか」
少女が何に失敗したのかは知らない。
知るつもりも――今のところはない。
「『だから』失敗してもいいんです。
しちゃいけねー失敗なんて、ありゃあしないのですよ。
こんな時代じゃねーですか。
ただでさえ、心も体も持て余してる思春期の子供が、意味もわからねー能力を持て余してるんです。
どうして、失敗しないでいられるんですか」
失敗していない。
そんな風に言えるのは、失敗に気づく事も出来ない阿呆か、失敗を何とも思わない恥知らず。
そうでなければ――途方もなく運のいい、全てに恵まれた『神の子』くらいだろう。
「戻れない場所なんてねーのです。
それはお前が勝手に、戻れないと思い込んでるだけじゃねーですか」
傍にいていい。
それは、簡単に言える言葉ではない。
少なくとも、椎苗にとっては。
「迷惑、掛けりゃいいじゃねーですか。
一緒にいたい、離れたくないってわがまま言えばいーじゃねえですか。
子供がわがまま言って他人に迷惑かけることの何が悪いのですか。
それとも、その先輩ってやつは、お前のわがままも受け止められねーくらい狭量なやつなんですかね。
そんないい加減な気持ちで、『傍に居て良い』なんて言う、無責任なやつなんですかね」
「それがだれかなんてしらねーですけど」と、椎苗は言葉を選ぶこともなく投げかける。
水無月 沙羅 > 「……わかりません。
先輩の事、まだ何にも知らないんです。
知らないくせに、憧れたりして。
だから、如何なのか、わからなくて……不安なんです。」
人間の心変わりなんて、良く知っている。
少なくとも自分の父と母は――。
首を振る、思い出すことを拒否する様に。
「信じる事すら怖くなるんです、裏切られるのが怖くなって、だんだん信じられなくなる。
信じられない私が、どんどん嫌いになる。」
そうして、負の感情は渦巻いていく。 自己否定へと。 だから、自分はあんなにも簡単に自分を殺せる。
死ぬのは怖いけど、醜い自分はもっと怖い。
「それに、逢ったのだって一回だけなんですよ?」
言ってみればひとめぼれ、我ながらなんて、なんて浅ましい。
「きっと……向こうはそんなこと覚えてすらいません、きっと気まぐれです。」
思い込みは、やがて自分にとっての真実となる。
世界が信じられない少女は墜ちて行く。
「失敗してもいい……えへへ、しいせんぱいはやさしいですね。
みんなそうだったらよかったのに。」
ボロボロと心が崩れて行く、優しい言葉がしみこむのと同時に、自分の幼さと、愚かさが暴き出されているようで。
隣の少女がひどく眩しく見えた。
神樹椎苗 >
「お前は、頭は悪くなさそーなのに、バカですね」
ざっくりと、やはり容赦はなく。
「信じられない、裏切るのが怖い。
お前の言ってる言葉は全部、しいには『人を信じたくて仕方ない』としか聞こえねーです。
そしてどーしようもなく、誰かに自分を認めてほしい、肯定してほしい。
そうやって泣きじゃくってるようにしか聞こえねーですよ」
まったく、ここにもずいぶんと純粋な『少女』がいたものだと、椎苗はため息を吐いた。
「一回だってそれは出逢いで、エニシで、必然かもしれねーのです。
回数なんて問題じゃねーですよ。
むしろ一回あっただけでそこまで想えるのなら、それは間違いなく本物の『想い』に違いないじゃねーですか」
それの何を恥じる必要がある。
一体何に負い目を感じる必要がある。
「『自身』を持ちやがれ、バカ後輩。
お前の『憧れ』もお前の『不安』もお前なのです。
お前の純粋さも、お前の醜さも、全部ひっくるめてお前です。
自信を持てなんて言わねーです。
不安なのは当たり前ですし、自分の事が嫌いになる事くらい誰にだってあります。
だけど『自身』を持つ事だけは忘れるんじゃねーですよ。
見失ってんじゃねーですよ。
虚勢を張ってんじゃねーですよ。
幼くて愚かで、わがままで醜くても、それがお前で、お前はそれでいーのです。
だからお前はお前のまま、本物の『想い』をぶつけて来やがればいいんです。
知らないなら、そうやって知って来やがれですよ。
うだうだ考えるのは、そうやって知る事をしてからにしやがれです」
純粋さは、毒になる。
けれど、毒は薬にもなる。
少女の純粋な『子供らしさ』は、少女を苦しめたかもしれないが、救うのもまたソレ意外にはないはずだ。
「知らないまま諦めるのは、お前の勝手です。
でも、お前はそれでいいのですか。
お前の『想い』をそうやって――殺していいのですか」
水無月 沙羅 > 「しいせんぱいの言ってる事、難しくって半分もわかりません。
エニシ、とか、ヒツゼンとか、ジシンとか、オモイとか、キョセイとか、
わかんないことだらけです……私には……沙羅には分からないことばっかりです。」
でも、そうやってわからないと言って逃げていいものじゃない。
そう言っている事だけは、なんとなくわかる。
泣いて逃げているだけでは、何も始まらない。
「諦めなくてもいいんでしょうか、他の人みたいに。
憧れてもいいんでしょうか、夢見てもいいんでしょうか。
私は、こんなに汚れてるのに。」
覚えていない、はっきりとは。 でも、この手は血に汚れている。
それでも、それでもと言ってもいいのだろうか。
あの人に、優しい人たちに、私の穢れを移したくなくて。
それでもと……手を伸ばしてもいいのだろうか。
「……殺したくなんてないです。
死にたくないです、諦めたくないです、信じたいんです、見てほしいんですっ。
私は、私を……認めてほしくて……っ」
本心があふれて、涙と共に、とめどなく流れて行く。
口から、目から、言葉と涙という形で、隠していた心が露わになってゆく。
「ひとりはいやだよぉぉぉ、怖いよぉぉ―――。」
16歳の少女は、人目をはばかることもなく、子供の様に泣きだす。
彼女の心をせき止めるダムは決壊した。
少女である事を許されなかった少女が、初めて自分を吐き出した。
神樹椎苗 >
「しいは、相手に合わせて伝えるとか、苦手なのですよ」
だから多くの言葉を使う。
だから何度も繰り返す。
そのうち一つでも伝わればいいというように。
少女に答えは必要ない。
なぜなら、答えは最初から少女の中にあるのだから。
少女を助けられるのは、少女以外にはあり得ないのだから。
「――言えたじゃねえですか」
何かに向き合おうとするのなら。
何よりも最初に、自分と向き合わなければならない。
少女はようやく、『本当の自分』と向き合い始めたのだろう。
泣き出した少女に、しいはそれ以上言葉を弄することはなく、ただじっと見守った。
(まったく、本当に羨ましいバカやろーです)
少女は『生きて』いる。
死ねなくとも、『生きて』いた。
それがただただ、椎苗にはうらやましくて仕方なかった。
水無月 沙羅 > 鳴いて、啼いて、泣いて、哭いて。
あふれる涙も鼻水も枯れ果てて、少女の顔がすっかり赤く腫れあがったときに。
少女はようやく言葉を発した。
「……っず、すいません。 みっともなく泣いて。 初めて会ったのに、みっともないとこ見せちゃいました。」
ずずぅっ……っと鼻水を啜って、目を拭い、椎苗にむかって初めて本当の意味で笑いかけた。
「しいせんぱいはやさしいですね。 お母さんみたい。」
「しいせんぱい、私、水無月沙羅っていうんです。 しい先輩は、何て名前なんですか?」
冷静になってから、ボロボロの自分が恥ずかしくなって、ボロ布で丸くなる。
すっかり忘れ去っていたチョココロネを、口に放り込んで。
甘さにまた少し泣きたくなった。
「しいせんぱい。 またここにきてもいいですか? しいせんぱいと、話に来てもいいですか?」
きっと、この人は死にたくて死にたくて仕方ない人なんだろう。
私とは反対で。 きっと、もうそんな段階はとっくに過ぎてて。
だから、死んでほしくないなんて言えなくて。
でも、やっぱり、『生きて』ほしくて。
「沙羅のために、またここにいてくれますか?」
せめて言い訳ぐらいには、してくれるだろうか。
神樹椎苗 >
「ロリをお母さんとか言うんじゃねーですよ、バカ後輩。
そういうのはしいみたいなロリじゃなくて、異邦人街とかにいるロリババアとかに言いやがれです」
言いながら、ふっと仕方なさそうに息を漏らして。
「しいは、しいです。
かみきしいな。
好きに呼びやがれですよ、バカ後輩」
チョココロネを頬張る姿を見れば、椎苗はまた、柱にもたれて座り込んだ。
「来るなら好きにすればいーじゃねえですか。
ここは別に、しいの部屋でも何でもねーですし。
――お前のためなんてしらねーですけど、しいはここが気に入ってるのです。
偶然会ったなら、話してやらねー事もねーですよ」
「けれど」と椎苗は少女に呆れたような顔を向ける。
「お前が話すのはしいじゃねーです。
本当に話さないといけない相手に、向き合って来やがれです。
しいなんかにかまけてる暇なんか、お前にはねーんですよ」
そう、酷く小さな手を突き出して、シッシ、と追い払うように動かす。
「――ああ、一つだけお前にしてやってもいい事はありましたね」
と、突き出した手を今度は人差し指だけ、そっと真上に向けて。
「お前がいつか『生きられなく』なったとき。
お前がどこかで『生きる』事を忘れたとき。
その先で迷わないように、おまじないを教えてやります」
少女はまだ、死ねない事に絶望していない。
死ぬ事を恐れて、『生きよう』としている。
ならばきっと、この言葉が助けになるときがあるかもしれない。
「『死を畏れ、死を想え。安寧の揺り籠は死と共にある』」
どこの誰の言葉かもわからない。
神木に蓄積された、あまたの情報の一片。
その言葉は人が『生きる』ための教えに他ならなかった。
「お前は間違いなく『生きて』いて、『死を想う』事ができる立派な人間ですよ。
必死に生きあがくと良いです、人間らしく」
そうして手を下ろすと、疲れたように柱へ頭を倒した。
「ほら、さっさと行きやがれバカ後輩」
水無月 沙羅 > 「……『死を畏れ、死を想え。安寧の揺り籠は死と共にある』……」
教えられた言葉を繰り返す、忘れないように、大切に抱きしめて置けるように。
受け取ったものを無くさないように。
「うん……忘れないように、頑張って生きるね。 しいなせんぱい。」
胸に大事にしまい込むように、両の手を胸に当てて。
「うん。わかった、死を想うことを忘れないように、がんばるよ。
だからね、しいなせんぱい。」
しっし、とされる手をつかんで。
膝をついて、持ち上げる、手の甲に唇をつけて。
「沙羅は、しいな先輩の為にも、生きるね。 しいな先輩の分も、ちゃんと、『生きる』から。」
…………だから。
「話したいから、絶対また来るから、そうしていいって言ったのは、しいな先輩だから。」
「またね。」
頭のいい先輩への、バカな後輩からの精一杯の抵抗。
死にたがりの不死への、死にたくない不死からの精一杯の、お願いを。
サヨナラの代わりに込めて。
少女は時計台から飛び降りた。
死ぬためではなく、好きな人に逢うために。
神樹椎苗 >
「――はあ。
まったく、どいつもこいつも」
洒落た事をして去っていった少女を見送りもせず、椎苗は気だるそうに宙を見上げる。
「どうして助けてほしそうな顔でしいに寄って来やがるんですか」
面倒くさそうに頭を傾けて、片手でつり下がったままのロープを引いた。
ロープは軽く、椎苗の死体が砂に変わった事が分かる。
「誰かに『助けられちまった』しいが、黙ってみてられるわけねーってんですよ」
それは、決して許されない事だと椎苗は思っていた。
助けられたことで、また終わりのない苦しみを味わうことになったけれど。
その恩を返さないで居られるほど、恥知らずではいられないのだ。
「死を想え――」
死はあらゆる生と共に在るもの。
隣にあり、常に寄り添うもの。
死があるからこそ生はあり、生あるからこそ死を畏れる。
「お前はしいみたいになるんじゃねーですよ、バカ後輩」
少女のような子供が、自分のようになってしまったら。
それはとても、悲しい事のように思えた。
ご案内:「大時計塔」から水無月 沙羅さんが去りました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女>
ご案内:「大時計塔」から神樹椎苗さんが去りました。<補足:名簿必読お願いします。黒基調の衣服、スカート。怪我だらけの自殺癖。時間や細かいシチュはお任せ。後入歓迎 ~昼頃まではいけます>