2020/07/22 のログ
ご案内:「落第街」に水無月 沙羅さんが現れました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女 待ち合わせ済み>
水無月 沙羅 > 特殊領域『円』。そこから帰還した沙羅は精神に異常をきたしているとされ、しばらく病院に縛り付けられることになる、筈だったが。
どういうわけか未だにこの落第街という土地を歩いている。
いつものパトロールのように見えてしかし、その目は何処か虚ろで。

「……異常……ないですかね?」

確かに辺りを見回してはいるのだが。
覇気がない、というのが正しいのだろうか。
怯えているわけではないが、少なくとも風紀委員の腕章をしている少女にしては、余りに危なっかしいと言わざるを得ない。

ご案内:「落第街」に神樹椎苗さんが現れました。<補足:黒基調の衣服、スカート。怪我だらけの自殺癖。包帯を巻いた右腕を首から吊り下げている。>
神樹椎苗 >  
 落第街を、人目を避けて歩いていく。
 人通りの少ない場所は、落第街には多い。
 特に危険な人物などに会う可能性はあるものの、その確率は交通事故に遭うようなものだ。

(――まあ、そうなったらそうなったで、逃げるだけならどうにでもなりますしね)

 人のいない路地を抜けて、こそこそと進んでいく。
 昨日の『トラブル』で実質右腕を失った椎苗は、あの光の円に挑むための支度を整えたかったのだ。
 学生街で売っている訓練用の武具でなく、表向きの所持には許可が必要な、殺傷力のある装備を得ようと。

(短剣二振りじゃ、心もとないですからね)

 備えあれば憂いなし。
 落第街ともなれば、そう言った危険な獲物を扱う商人も顔を出すだろうと。
 そうして、目立たないようにしながらも、一度表通りに出てから、また路地の裏へ消えようとして。

 ふと、知っている顔が歩いているのを見つけた。

(――あの色ボケ後輩、なにやってんですか)

 普通に考えれば、風紀委員としての見回りだろう。
 今の落第街はにわかに騒がしくなっているのだ。
 しかし、それにしては様子がおかしい。

「――こんなところで、何してやがるんですか色ボケ後輩」

 そう、見て見ぬふりをできない程度には。
 見てすぐわかるほどに、常態ではなかったのだ。

水無月 沙羅 > 「んぁ……? あぁ、しーな先輩ですか。 こんにちわ、こんな場所に居たら危ないですよ……?
 あ、いや、しーな先輩なら、別にいいのかな。
 何があっても、えっと、複製? っていえばいいんですかね。
 復活できますから。」

声に振り向けば、表情のない顔のまま、口元だけがへにゃっと笑う。
目は死んだように椎苗を見つめているだけで、以前のような輝きは無く。
死なないから平気ですよね、と、本来なら言わないであろう言葉を口にする。

「なにをしてるって、パトロールに決まってるじゃないですか。
 ほら、誰かがあのへんな光に入らないように、とか、もめ事が起きたら対処できるように、見回ってるんです。
 これでも風紀委員ですからね。」

袖につけている腕章を少し上げようとして、その手は宙を切った。
あれ? と言いながら持ち直す。
へへへ、と笑いながらくいっとあげて見せるが、
沙羅に瞳は、何の変哲もない腕章が『真っ赤に染まっている』様に見えて、一瞬身体がこわばっていた。

神樹椎苗 >  
「――お前」

 娘が正気でないことは、すぐにわかった。
 何があったのかはわからないが――先日の様子から考えれば、短期間でこうなるのは尋常ではない。

(昨日の今日で、これですか――ああほんとに)

 面倒なやつが周りに増えてしまった。

「なんでいつもお前は、壊れかけて現れるんですか」

 そう言いながら、癖で右手を伸ばそうとして――舌打ちをしてから左腕で娘の腕を掴もうとする。
 こんな状態でふらふらと歩かせるわけにはいかないと、一先ず、相手を確保するために。

「それでお前、何があったんですか――いや。
 ――何をやったんですか」

 そう、うつろな瞳をのぞき込むように、娘を見上げた。

水無月 沙羅 > 「壊れかけ……に見えますか? あはは。なら、まだごまかせてるんですね。
 壊れかけなら、ん、まだ、大丈夫。
 うまく演じてるでしょ? 人間らしく見えますよね?
 少しくらいならまだ、アハ。」

首を、カクンッ、と横にかしげて笑う。

「ダメですよ椎苗先輩、お仕事の邪魔しちゃ。
 いまは日ノ岡あかねのグループも何をするかわからないんですから、気を張っておかないと。
 あの人が、危ない目に合うかもしれないから。 ね?」

掴まれしそうになる腕を、ゆらりと躱して。
あははと力なく笑う。
ずっと、口だけが笑っている。

「……何をやった、ですか? そうですね、数え切れないほど、死んで、殺してきました。」

少女は冷たく、それだけを話した。

神樹椎苗 >  
 声と、表情と、言葉と、動作と。
 娘はすべてがうつろで、かみ合っていない。
 それは例えるのなら――壊れかけた人形。

「訂正しますよ。
 随分と、丹念にぶっ壊されてるじゃねえですか」

 伸ばした腕は躱された。
 中途半端にまだ思考が働いているようなのが、少し厄介だろうか。

 神木から風紀の活動記録を抽出する。
 その中から目の前の娘の名前を抜き出し――いくつかの報告を読み取った。

「――お前、あそこに入りましたね」

 それも無防備に、対策もなく。
 あの場所は――特殊領域と呼称されたあの光の円は、まともな精神で触れられる世界ではない。
 少なくとも。
 形だけでも普通の人間として歩き出したばかりの娘が、耐えられるような場所ではないのだ。

「それも、四円まで転がり落ちて――自殺でもしたかったんですか」

 娘の挙動を観察する。
 いざとなれば、力づくで制圧する必要もあるだろうか。
 静かに、椎苗は警戒の度合いを引き上げる。

水無月 沙羅 > 「……? あぁ、円の事ですか。 よく、知ってるんですね。」

一瞬首をかしげて、くすりと笑う。

「しーな先輩には何でもわかっちゃうんですねぇ。 はい、入ってきました。」

にこやかに笑いながら、袖を血がにじむほど掴んでいる。
震えは腕からやがて足にまで伝播して。

「―――四円、えぇ、行きました。 でも、死にに行ったわけじゃありませんよ。」

そこだけはなぜか、強く否定した。 一瞬だけ、目に光が戻って、すぐに消える。

「……人助けをしに行っただけです、言ったでしょう? わたし、風紀委員なんです。
 お仕事ですよ、お仕事。 やだなぁ、怖い顔しないでくださいよ。」

あはは、とまた笑った。
力なく、嗤って。

「アナタは、行かないほうがいいですよ。」

他人の心配をする。

神樹椎苗 >  
「人助け――人助けですか。
 しいには、お前はまだ人を助けられるような奴には見えませんでしたが」

 せいぜい、歩き始めたばかりの幼子だったろう。
 それが誰かのために動こうとして――壊れたのか。
 震えているのは恐怖のためか、また別の感情か。

「しいの心配なんか出来る状態じゃねーでしょう。
 お前、自分がおかしくなってる事はわかってますね」

 まだ僅かに理性は残っていそうだが、それも反射的なものか。
 少しずつ、さらに距離を詰めていく。

水無月 沙羅 > 「好きな人のために、走るのはいけない事でしたか?
 できないと決めつけられて、それでも隣に居たいと思うのはいけない事ですか?」

あなたも、そんなことを言うのか。
無意識のうちに歯ぎしりをして、椎苗を、何時も優しそうに笑う瞳が睨む。

「心配しちゃいけないんですか? 待ってるだけで居ろっていうんですか?
 待ってる怖さも知らないくせに。
 死なれる怖さも知らないくせに、殺す怖さも知らないくせに!!!」

恐怖と怒りと、あとは、炎に焼かれるような、狂気を吐き出して。
にじり寄られると後ずさる、触れられたくない。

「えぇ、お医者さんにも言われました、おかしくなってるって。
 だから何ですか、また我慢しろっていうんですか? あなたも!!」

思い出すのは、あの研究所での感覚。
死と痛みの感覚。
吐き出す呼吸は乱れて、汗は滴り落ちる。
身体は怒りと恐怖に震えて、崩れ落ちそうになる身体を気力だけが支えている。

神樹椎苗 >  
「――馬鹿ですねお前は。
 忘れていれば、楽だったでしょうに」

 第二円の仕組みを考えれば、そういう事なのだろう。
 足は止めず、ゆっくりと下がられた分近づく。

 忘れていたはずの記憶を掘り起こされて、再び体験することになった。
 椎苗が恐れて避けたことを、この娘はなんの準備もなく経験してしまったのだ。
 まともな精神であればあるほど、耐えられるはずはない。

「ソレを思い出した以上、お前はもう元には戻れないでしょうね。
 そのまま壊れるか、全て押し込んで忘れたフリをするか――しいのようになるか」

 どれも推奨できる選択ではないけれど。
 壊れた心を修復することは、容易にできる事ではない。
 特に――同種の経験を持つ椎苗には。

「乗り越えろなんて、軽々しくは言えねーですからね。
 まあせめてお前にやってやれる事があるとすれば
 そのまま壊れて、人間でなくなる前に。
 眠らせてやるくらいのもんですか」

 誰かのために走るのも、誰かの隣に居たいと願うのも。
 否定するつもりは一切ない。
 けれど――それをやり通すには、生半可ではならないのだ。

 もしもこの娘が壊れて、人間らしさを失ってしまうのならば。
 まだ人間らしく居られるうちに、『安寧』を与えてやるのがせめてもの情けだろうと。

水無月 沙羅 > 「楽な道なんてありませんよ。」

椎苗の言葉を否定する。
忘れていればいいというわけではないと。

「これまでも、ここから先も、楽な道なんてないんですよ。
 しーな先輩は、楽な道をすすみたいんですか?」

強がるように、ハッと笑って見せる。
震える身体で、壁に背をついてもたれかかりながら、それでも甘言に寄り掛かりたくないというように。

「私はね、しーな先輩。 壊れるつもりも、忘れるつもりも、……しーな先輩みたいに全部諦めるつもりも、毛頭ないんです。」

それは後輩から先輩に対しての、初めての侮蔑のまなざし。
私は貴方とは違う、そう言っている。

「乗り越える、それができたら、苦労はしないんでしょうね。
 でも、それって置き去りにする……ってことですよね。
 なら、私はその選択は選べない。」

過去の記憶が、あの領域での恐怖が、狂気が頭痛を引き起こして、正気を奪っていく。
身体は死の恐怖に怯えて、過去に捕らわれて、今にも心が壊れそうになる。

「だからね、しーな先輩。 それじゃダメなんですよ、私誓ったんです。」

「全部背負っていくって、あの人と一緒に、罪も、過去も、過ちも、苦しみも、痛みも、悲しみも。
 全部全部、背負って生きていく、置いて行ったりなんてしない。
 人間であることを、諦めたりなんてしない。」

だから。

「邪魔をしないで。」

その言葉を最後に、崩れ落ちて尻もちをついた。
自分よりも小さい先輩を見上げながら、壊れそうな心を必死に繕いながら。
眼前の敵になりえるかもしれない恩人を、見据えている。
神樹椎苗 >  
 娘の視線を受けて、椎苗は無感動に――大したものだと見下ろす。
 これこそ、人間の強さというべきものなのだろうか。
 椎苗には――わからない。

「吠えるじゃねーですか」

 そうだ、この娘は自分とは違う。
 死ねない身体と凄惨な記憶を持っても、人間であろうとしている。
 ――人間で在った事のない、椎苗にはわからない。

「なら、お前が今どうするべきか、わかりますね」

 腰を下ろし、視線を合わせる。
 恐怖と怒りと、不安や後悔――多くの感情が処理しきれずに溢れ出していた。
 今の娘には、誰もが敵のように映っているのかもしれない。

「しいは、お前を邪魔したりはしません。
 お前が人間で在ろうとするなら、それを止めるつもりもねーですよ」

 それでもかろうじて、まだ壊れ切ってはいない。
 確かな想いが、娘の砕けた心を繋ぎとめている。

「いいですか。
 今お前は疲弊していて、正面から向き合えるほどの力も残っていません。
 そんな状態じゃ、誰も救えないし、誰の隣にも立てませんよ」

 そう、何時かのように子供に言い聞かせるように。

「全部背負うなら、向き合うなら、ちゃんと休む事が必要です。
 険しい道を行く覚悟があるのなら、休むべき時は休むのです。
 お前の想う相手に――本当に必要なときに、其の様じゃ、お前が置いていかれますよ」

水無月 沙羅 > 「だって、休んでいたら……それこそ置いていかれそうじゃないですか。
 今までだって、必死についていって、ようやく隣に並べたと思っていたのに。
 それも幻想だったかもしれなくて、だから、だから、走らないと、いけないんです。」

椎苗の言う通りだった、もうとっくに精も魂も尽き果てて、一歩を歩む力すら残ってはいない。
それでもと動き続けたのは、やはり恐怖に駆られたから。
『一人になりたくない』という恐怖。
自分が壊れてしまえば元も子もないというのに、それでも止まらずにはいられなかった。

知らず、息は乱れて、呼吸は浅くなってゆく、次第に酸素が足りなくなって、目の前が眩んでゆく。

「……休めるモノなら、休みたいと、おもいますけど、ね。
 あぁ、やっぱり、しーなせんぱい、おかあさんみたい……。」

簡単に言ってくれるなと苦笑いしながら、少し安心する様に肩を落とした。
恐怖は未だ止まずに心を蝕み続けるけれど、あぁ、どうしてだろう。
この人の言葉にどこか安らぎを覚えるのは。

神樹椎苗 >  
 娘の根幹、恐れの根っこは『孤独』だ。
 『孤独』を望む椎苗とは真逆の、恐れの形。

「足を止める事と、休む事は違います。
 また走り出すために、必要なときに駆け付けるための休息です。
 以前のお前とは違います。
 足を止めて思考を止めていたお前とは、もう違うでしょう」

 娘から力が抜けて、身体の震えが弱まる。
 疲労を自覚したことで、遅れて限界が来たのだろう。
 ただ、それは幸いで、極限の疲労の前には思考も鈍る――恐怖も鈍る。

「がむしゃらに走るだけでは、何時かおいていかれますよ。
 お前は一度休んで、自分がどこに向かって走るべきか、よく確かめるべきです」

 そうして再び、肩を抱くように腕を伸ばす。

「ほら、休めるところまで連れてってやります。
 こんなところじゃ、何されるか分かったもんじゃねーですからね」

 おかーさんみたいだと零れた言葉には、また呆れたように眉をしかめて。

水無月 沙羅 > 「どこへ向かって……走る、べきか……?
 それは、考えたこと……ありませんでしたね。
 理央さんのいる場所……じゃ、ダメなのかなぁ。」

思考は鈍って、自分より小さい少女の肩に寄り掛かる。
暖かな体温に触れて、生を実感して、知らず涙があふれていた。

独りぼっちは、すごくこわい。

ゆっくりと目の前は暗くなって、意識は薄れて行く。
疲労は眠気となって襲い掛かり、少女を夢の世界へ連れ去ってゆく。
傍らの少女から感じる温もりは、何を想起させたのか。

「どうして……母さん……、置いていかないで……。」

静かに涙を零しながら、曖昧になった意識の底で言葉が漏れ出していた。
もう、二度と触れ合う事は無い温もりに。
彼女はどうしたって飢えていた。

神樹椎苗 >  
「――誰かを追いかけるだけじゃ、お前の夢は叶わねーですよ」

 やっと眠った子供をあやすように抱きかかえながら、そっと背中を撫でる。
 静かに呼吸し、自身へ魔術を行使して身体能力を強化した。
 動かなくなった右腕を植物へと変化させ、いくつもの枝を伸ばして絡めとるように、娘を『揺り籠』の中へ抱える。

「お母さん、ですか」

 娘の身体を抱えたまま立ち上がり、ふと考える。
 親を想う気持ちもまた、椎苗にはわからない。
 最初から親などおらず、それに疑問を持つことすらもなかったのだ。

「こんな美少女ロリを捕まえて、おかーさんとか言ってるんじゃねーですよ」

 また呆れながら、ゆっくりと『娘』を起こさないように落第街を離れる。
 その第三者から見れば異様な光景からか、幸運にも誰かに襲われるという事はなかった。

 そうして、『娘』を他の風紀の元へ、安全な場所へ送り届けながら、情報を掘り起こす。
 『娘』を自覚なく追い詰めていた、大馬鹿者の名前と居場所を確認し。

「神代理央を呼び出しやがれ。
 そいつはもう少し、痛い目を見るべきです」

 そう言い残して、椎苗はその場を後にした。

ご案内:「落第街」から神樹椎苗さんが去りました。<補足:黒基調の衣服、スカート。怪我だらけの自殺癖。包帯を巻いた右腕を首から吊り下げている。>
ご案内:「落第街」から水無月 沙羅さんが去りました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女 待ち合わせ済み>