2019/06/09 - 20:41~00:14 のログ
ご案内:「映画館『ユニヴァースシネマトコヨ』」にアリスさんが現れました。<補足:金髪碧眼の二年生。透かし編みのカーディガンとホワイトデニムのカジュアルコーデ。>
ご案内:「映画館『ユニヴァースシネマトコヨ』」にアガサさんが現れました。<補足:後ろに流した濃紫の長髪を赤いリボンで留めている少女。モスグリーンのパーカーとイエローデニム姿>
アリス >
私たちは映画を見に行こうという約束をして、
ユニヴァースシネマトコヨにいる。
腕時計を確認しながら、鼻歌でも歌いたいくらい上機嫌にアガサを待っている。
今日が楽しみで、昨日はあんまり眠れなかったくらい。
映画館の前は色んな人がいる。
学生たちが足並みを揃えて歩いていったり、あるいは早歩きに去っていったり。
以前はPTSDからその中に存在しない悪意や異形を幻視していたけど。
最近は、あんまりそういうのは見ない。
アガサ > 映画でも見に行かない?
そう電話で言われて二つ返事で返したのが先日の事。
直ぐに今はどんな映画が上映されているのか調べて、備えて、準備をしたのは言うまでも無かった。
「お、アリス君じゃないかこんな所で会うなんで奇遇だなあ。……なんてね、待ったかい?」
そして当日。
待ち合わせたのはショッピングモールの方じゃあなくて街中の方の映画館。
休日ともなれば人でごった返す方よりも此方の方が空いているだろうから、との判断によるのだけど
そういった予想は正しかったと見えて往来の中でも親友の姿を見つけ易い。
私はさも偶然会ったかのように茶化した声をかけ、気安くアリス君の肩を叩いた。
アリス >
肩を叩かれる。私に声をかける人は自然と限られる。
笑顔で振り返ると、親友の姿を見て。
「あら、アガサ。映画館に用事でもあるの? なーんてね」
くすくすと笑って私たちは二人組になる。
友達と足並みを揃える。それが平穏を生きる今は、ただ嬉しい。
「さーて、今日は何の映画を見るかちゃんと覚えているわよね?」
手をにぎにぎと動かして、楽しみを待ちきれない。
親友と見に来るわけじゃなければ、
全てのファッションセンスを無視してサメリュックを背負ってくるつもりだったし。
「ええと、学生一人っと」
タッチパネルで手際よく鑑賞券を買う。
今日は絶叫上映。喋ってもよし。他のお客の迷惑にならないことを叫んでよし。
アガサ > 「そうなんだよ。なんと親友と映画を見に行く用事があってね?」
わざとらしい会話に自然と二人して笑い合って、足並みも合っていざいざと券売機の前。
その横には今上映していてSNS上でも名前を散見するタイトルの看板が飾られている。
『ゴリラ・オブ・ザ・デッド』『ラスティ・ネイル』『超時空戦艦メガロス』
ホラーにラブロマンスに3Dアニメ映画。幸い、どれを見るにしても今の時間帯は丁度良いと言うものだけど、
今日私達が視に来た映画はそのどれでも無い。
「勿論だとも。『地獄の機装兵団VS正義のサイボーグ鮫軍団』のチアリング上映会!」
『地獄の機装兵団VS正義のサイボーグ鮫軍団』
それは大昔にあった独裁国家の残党が地底に落ち延び、身体を機械化し地上に再侵攻してくる……というものだ。
彼らの目的は人類を全て機械化し支配すること。その手始めに鮫をサイボーグ化した所、知性を得た鮫は反旗を翻し彼らと戦う。
正直、タイトルをアリス君から聞いた時は大変混乱したものだけど、親友が推すのなら間違いはあるまいと思うもの。
一つ返事じゃなかったのはこれが理由なのであった、まる。
「しかしアリス君……映画、結構好きなのかい?」
鑑賞券を買い、折角なので物販コーナーで映画のパンフレットを買い、ついでに無料レンタルのタンバリンを借りる。
その道すがら、映画のチョイスが不思議だなとも思うもので私は訊ねてみるんだ。
アリス >
ぐ、と親指を立てて彼女に指紋を見せ付ける。
そう、『地獄の機装兵団VS正義のサイボーグ鮫軍団』。
アベンジャイの最終作が上映されてる今。
あえて機装兵団を見るという選択肢。
それは平和そのものじゃないのだろうか?
平和だったら何をしてもいいのかという考え方もあるかも知れない。
でも、今。今見たい。今日見たい。チアリング上映で見たい。親友と見たい。サメ。機装兵団。
「映画は大好きよ、部屋で一人でも見れて友達が必要ない娯楽だったもの」
「でも、今は友達がいて、友達と見れるから好き」
「アベンジャイもシリーズ通して見てるし、ホールインワンフィルムの機装兵団シリーズも」
おっと、早口になってしまった。
とにかく映画が大好きなわけで。
私もタンバリンを両手に持って上機嫌に通路を歩く。
「一番奥のシアターね……アガサ、あなたは運がいいわ」
「最初に見る機装兵団がこの映画だということがね」
キリッ、と大真面目に語った。
アガサ > 「友達が必要ない娯楽……って言い方言い方。でもそういったものだった事にお誘い頂けるのは光栄だね?
隣で思いっきりタンバリン鳴らしてやろうじゃないか!」
早口になるアリス君の言葉を聞き終えてから私は力強く頷いた。
映画にそう明るく無いものだから、彼女の言う固有名詞は殆ど判らずとも、アリス君が映画好きだと言う事は判ったのだから。
これは盛り上げねばなるまいと気合を入れ、事前情報を仕入れるべくパンフレットを捲る。
アリス君の言にある通り、シリーズものらしい事が伺いして、中々に歴史深いものであるらしい事が知れる。
「一番奥の……ええとEの41と42の席だね。それにしても最初に見るのに良かったのかい?」
パンフレットにはシリーズの系譜が記されていて『地獄の機装兵団VS正義のサイボーグ鮫軍団』はどちらかといえば後ろの方だ。
きちんと伏線だとか、そういうものが判断出来るかは些かの不安があって、
でも私達の直ぐ横を鮫の着ぐるみ姿の集団が賑やか如く通り過ぎて行くのを見ると、すべてがどうでもよくなりそうになる。
あれがコアなファンという奴なんだろうか?
「…………」
つい、目線でアリス君に訊ねてしまう私がいた。
アリス >
「太古の昔、アリス・アンダーソンに友達はいなかった……」
「今はいる、いるから騒ぎたい。アガサと映画見たい」
遠い目で語った後にすぐに彼女と視線を合わせて頷いた。
「最初に最新作を見るからいいんじゃない、言っちゃなんだけど初期シリーズは人を選ぶもの」
初期はCGがチープだった。今はCGがチープだけど工夫がある。
初期は俳優が無名の大根だった。今は俳優がちょい豪華で大根である。
でもそこを語ると無粋なので言及はしないでおいた。
「Eの41っと……」
座って椅子を確認していると、アガサの目線に再び指紋を見せ付けて。
「あれ、サメの左脇腹に傷があるでしょ?」
「シリーズの方向性を決定付けた第二作『ギガシャークVS兵団アーマゲドン』でスウィフト船長がモリで刺した傷よ」
バチッと下手なウインクをした。
なんて気合の入った着ぐるみだろう。
あんなコアなファンと機装兵団を見れるなんて、感激。
「始まるわよ、アガサ」
上映前の注意が始まる。それが終われば……サメタイムだ。
アガサ > 映画のナレーションのような語り口調で遠い目をする親友をそっと見守る私の図。
アリス君曰くの技術の進歩の説明に相槌を打ちながらパンフレットを捲ると初期の映画のワンシーンなども載っていて、
成程これはチープだねと声が飛び出て頷きもする。
すると鮫のコスプレ集団のうちの一人が私を視た──気がした。うん、きっと気のせいさ。
「そういう鮫だったんだアレ……じゃあ、あっちの船長みたいな恰好の人がそのスウィフトって人かな?」
私達の席は丁度真ん中の真ん中で、その右前方に鮫のコスプレ軍団さんが居る。
反対の左前方には船長のような恰好をした白髭を蓄えた大柄なお爺さんが座って……いやあれコスプレなんだろうか?
アリス君に問いながらも私の眉根が訝しむように歪んだ。ひょっとしたら映画の中にでも迷い込んではいないだろうか?
そんな与太な思考が浮かびもし、けれどもアリス君のウィンクに断ち切られる。
「始まってしまうね、アリス君」
私もウィンクを返した所で館内が暗くなる。
少し前の私だったらこういう暗闇は良くない物だった。
面前のスクリーンが直ぐに灯され、諸注意が流れているからこその暗闇に余計な何かを視たに違いない。
でも今は何も視ない。何も聞こえない。平和そのもので、心健やかに映画を見る事が出来る。
「うわこってこての基地っぽさだ……!」
そして冒頭のシーンは何やら基地の指令室のような所から始まった。
整然と並ぶ兵士と思しき人達の顔はガスマスクのようなものに覆われて窺い知れない。
彼らが人類の機械化を目論む地獄の機装兵団なのは明らかだ。
アリス >
「え、本当だわ、スウィフト船長だわ、サインもらいたい…」
席を立ちそうになる心を必死に抑えて。
深呼吸で心をざわつかせる波紋のようなものを落ち着かせた。
映画が始まる。騒がしいままに、賑々しいままに。
「本当、こってこてね……」
基地っぽい基地。その指令室っぽい指令室。
そう言って笑っていると、カメラが切り替わった。
指令室の壁にあるドアに、日本語で『実験室』と書いてあった。
「ええ……何故、日本語…それに実験室と書いてある実験室…」
騒ぎがシアターの中に波のように広がっていく。
あまりにもシュール。
「あと、指令室からダイレクトに実験室に行けるの男らしすぎる!」
ツッコミ回路が治まりそうにない。
これだ。これなんだ。これが私の愛した機装兵団なんだ。
謎の秘密兵器が完成したことが指令室で祝われ、次のシーンへ。
ビーチサイドのホテルみたいな場所で白人男性が二人で話している。
『大変だ、ジョン』
『どうしたんだい、アレックス』
『ナンシーの甥が海で溺れたんだが……』
『大変じゃないか、それで?』
『機械のサメに助けられた、って本人が言ってるらしくて…』
今度こそ笑いが堪えきれなかった。
会話! だけで!! 初期説明を!! 済ませようとするな!!
「アガサ………これが私たちの今日見る映画よ…」
いえ、本当。親友を騙そうなんて気はないの。
これが。好きなの。だから、慣れて。これに。
アガサ > 指令室の隣に実験室。
しかも日本語で書いてあるし、何故かやたらに達筆な筆文字だ。
「指令室の隣に実験室って何かあったら諸共に吹き飛んだりしない……?」
館内は動揺に包まれ──いやこれ忍び笑いだ。成程こういう映画なのか!
と納得する私を他所に映画は進む。
次のシーンは如何にも高級そうなホテルでの男性同士の会話だ。
「へえー機械の鮫が人助け……」
初期説明に頷いた所で隣のアリス君が吹き出す。それに釣られたのか彼方此方で笑い声が重なりあって、
これ笑う所だったのか!と私の瞳が彼方此方に泳いだ。あ、鮫のコスプレ集団が腕を振り上げてノっている。
「アリス君……なんというか凄い世界にきてしまった気がするよ……」
今の私はおいてけぼりだ、予想と明らかに違う展開に脳が追い付いていない。
そしてそんな私を置いて映画は次のシーンへと進む。
場面は病院で、ベッドの上に男の子が横たわっている。
きっと彼がナンシーの甥なのだろうと予想をした次の瞬間!
「えぇー!?」
病院の窓ガラスを颯爽とぶち破り突入してくるガスマスク姿の機装兵士!
慌てふためく看護師を指先からの機銃であっという間に蜂の巣にしたかと思えば、悲鳴を上げる男の子を抱え込み、窓から飛び降りる!
そして地上に激突するのかと思いきや、大腿部から小型のジェットエンジンのようなものを展開し、何処へと飛び去っていってしまった。
「……えーと、あの甥っ子さんは重要人物なのかな」
どうなの?と映画の明りに照らされるアリス君の横顔を見る。
アリス >
アガサの質問に咄嗟に答えられない。
合理性をクシャクシャに丸めてリフティングして
直接闇鍋に蹴り込んだようなカオス感が売りの映画で。
「でも機装兵団ならやるわー」
やるわー。
「ウェルカムトゥようこそホールインワンフィルム!」
戸惑うアガサに、この映画のシリーズを初めて見た自分を重ねる。
大丈夫よアガサ。困惑するのは最初だけだから。
ああ、いや、最初だけって言っても慣れるまでだから。
結果として言えばこの映画を見てる間ずっと困るかも知れない。適正次第。
「うわー、わー」
息もつかせぬ銃撃と離脱!
機装兵団は序盤での単独作戦において成功率が異常に高いのだ!!
「わからないわ……多分、見覚えのある子役だから重要人物ね…」
慌しく進む子供の奪還作戦!
しかし、人類の持つ軍隊では機装兵団に歯が立たない!!
(この映画にしては予算がかかっているという意味で)
ド派手な戦争シーンをタンバリンをシャカシャカ鳴らしながら見ていた。
「まだかしら……サメ………まだかしら…」
そわそわ。そわそわ。それにしても子供一人助けるのに軍隊が動くとは?
アガサ > 「やるのかー」
やるなら仕方ない。これがホールインワンフィルムなるブランドの力なのだと理解はせずとも判断をする。
そしてまたもや場面は切り替わり人類と機装兵団との闘いが始まった。
空中戦だった。
戦闘機群の繰り出すミサイルの雨を、空を駆けるように飛び回り回避する機械化された兵士達。
機銃の一つでも当たれば爆発四散するに違いなく、けれども一切が当たらずコクピット内の兵士の顔が歪む。
そういった兵士達の通信の怒号が鳴り響く中、一機、また一機と撃墜されていく戦闘機。
その中でもエースパイロットらしき人物の反応だけは違った。
巧みにピッチアップやローリングを繰り出して機体に彼らを取り付かせない動き。
紺碧の空にイタリアンレッドの機体が空を飛ぶ兵士と空中戦を繰り広げ続ける様は思わず目を奪うもので、
今ばかりは周囲の人達も固唾を飲んで見守っているのかチアリング上映と思えない静けさだ。
「内容は兎も角映像は凄いねえ……あっ」
けれども多勢に無勢だ。あれだけあった戦闘機群は今や一機。対する機装兵団の数は両手の指よりも多い。
遂には最後の戦闘機もキャノピーに張り付かれて絶体絶命──
「サメだー!?」
──取り付かれる寸前の機装兵が何かに攫われて画面から消える。
同時に館内から歓声が上がる。鮫だ。
サイボーグ化された機械鮫がその口に兵士を挟み、濡れ紙を引き裂くが如く噛み砕き空に散らす。
その様子に一瞬止まった兵士達にレーザーが突き刺さり爆散。
そして後続のサイボーグ鮫軍団がダイヤモンド編隊を組んで空を泳いで来るシーンが映し出された。
「いやサメ飛んでるんだけど!?」
私の当惑しきった悲鳴に何処かから回答が飛ぶ
『サイボーグだからな!』
アリス >
「アメイジング……」
小さく呟く。人間と機装兵団との戦い。非常に美しい光景。
ここに戦争を賛美する気持ちは一切ない。
ただ、ただ。フィクションの中での空中戦というのは、苛烈で美しい。それだけなのだ。
イタリアンレッドの機体は、エースだった。
エースにも、覆せない状況が来た時。
「シャークよー!!」
歓声を上げる。思わずタンバリンを片手に持ったままアガサの手を握ってしまう。
今まで散々、人間を苦しめてきたサメが。
機械化されて人間を助けようとしている。
そこに彼らの思惑はどうあれ、燃えてしまうのが映画ファンというもの。
「高度に機械化されたサメは戦闘機と区別がつかない」
「アーサー・C・シャーク第三原則」
アガサにニコっと上機嫌に笑って見せる。
ここからは反撃の時間だと告げるように。
サメの編隊はあっという間に機装兵団を駆逐していく。
空を飛ぶ! 機械の! サメ!!
これが強くなかったら何が強いのだろう!!
時にレーザーで、時に体当たりで、時に噛み付きで。
空を往く悪魔たちを倒していく。
「ごめん、ちょっと泣けてきちゃった」
タンバリンをアガサに一旦渡して、ハンカチで涙を拭った。
そして出てくる秘密兵器。
地底から這い出る悪夢、最終破滅兵器サタンオクトパス。
八本足の毒々しい色をした兵器…まぁとにかくタコが姿を見せた。
アガサ > サイボーグ化された鮫達の火力は圧倒的だった。
ミサイル、レーザー、ナパーム。全身に搭載された火器の群が火線となって機装兵を薙ぎ払っていく。
彼らが空間を飛び回るのならば空間ごと吹き飛ばしてしまえば良いと言わんばかりの大サービス。
中にはそうした攻撃を耐える個体も居たけれど、衝撃により動きが制限された彼らは鮫の牙に掛かって無残な姿を晒す事となった。
「いやそれ初めて聞いたんだけど!?」
華麗なる反撃劇の最中、アリス君の哲学じみた鮫論法に私の悲鳴のような声が上がる。
上がるけど周囲の観客の歓声だとか楽器の音だとか親友の声だとかにかき消されて消えて行く。
「いやいやそんな大げさな……うん、確かに映像は凄いけど!」
タンバリンを受け取りアリス君の分もシャンシャカ鳴らしていると、
機装兵達が出てきた小島、そのカタパルトが豪快に割れて中から黒紫色の巨大な奇怪な機械蛸が現れる。
館内の興奮は最高潮となり『鮫をぶっころせー!』とか『鮫の力を見せてやれー!』だとか豪快な野次も乱れ飛ぶ。
「それにしてもどうして鮫は人類の味方をするんだろうねえ……」
タンバリンを膝上に置いて巨大なスクリーンを見上げる。
イタリアンレッドの戦闘機が離脱をかける中、擦れ違うようにサイボーグ鮫の編隊がサタンオクトパスへと向かう。
巨大な蛸がその8本の足先からビームを投射するよりも早く、編隊をブレイクした4機の鮫と先行の1機の鮫がそれぞれに空を舞う。
「ねえねえアリス君。あのタコってやっぱり中に誰か乗っているのかな。それともロボットなのかな?」
幾重にも折り重なる光軸を巧みに避けて行く鮫達の優雅な動きを眼で追いながら、何となく思ったことを訊ねてみた。
アリス >
「あー、ごめん。前作の概念だったわこれ」
前作あったんだもの。嘘じゃないもの。
明らかにテンションがおかしい私。
目の前が興奮しすぎてチカチカしてくる。
「展開がヒロイックすぎると涙が出るのよ……」
「サメにとって人類は食料だけど、機装兵団に全滅させられたら困るから助けてるんじゃないかしら」
「つまり人類に逃げ場はないわ…あー! シャークナンバー9がー!!」
アガサからタンバリンを片方返してもらってしゃかしゃか鳴らして応援。
すごい、すごい圧倒的映像美。来てよかった!
「多分だけど、機装兵団の偉い人が乗ってるんじゃない?」
「だから、操縦者もサイボーグで……まぁ大体ロボね」
サメが、乱れ飛ぶ。
タコが、暴れ回る。
激闘の果てに。機装兵団は全滅、サタンオクトパスは全壊、機械のサメたちもまた、海洋に残骸を散らしていた。
「うっ……ひっく…………」
嗚咽が漏れる。何故、あんなにも勇敢に戦ったサメが壊れなければならないのか。
嗚呼アリス・アンダーソン15歳にして戦いの悲しみを知る。映画で。
そしてシリーズ共通で日本版のみ流れる美しいエンディングテーマが会場を包んだ。
「Blue……青空に鳥は飛び…………Sky…風に靡く花たち…」
泣きながら歌った。もう顔はぐしゃぐしゃだ。
アガサ > 「つまり前作も見なければいけない流れだね?」
難解な世界だ。どうしよう、下手な魔術書の類より難しいんじゃなかろうか、これ。
アリス君の説明を聞く私の背景には宇宙が広がり、サイボーグの鮫が泳いでいたに違いなかった。
宇宙に鮫、居るんだろうか。居るんだろうなこの映画の世界。そんな熱い信頼感が今確かにあった。
「ええー本当かなあ。それだとさっきの男の子……いやサメが救助に向かってる訳でも無いのか……
アリス君の説明だと、過去作ではサメが敵だったのもあるみたいだし、その説はありえそうだね」
直線的なレーザーは悉く回避されてしまうと学んだのか、サタンオクトパスはその全身からミサイルを放つ。
勿論ミサイルの当たるサイボーグ鮫軍団では無かったけれど、爆発したミサイルの撒き散らすものは別だった。
「うわあレーザーが曲がった!」
それは金属片だ。中空に撒き散らされたそれらにレーザーが乱反射し、鮫軍団がそうしたようにサタンオクトパスもまた空間を埋める攻撃を展開したのだ。
これにはさしもの鮫軍団も一たまりも無い。でも鮫達は止まらない。
勇壮なBGMを背景に勇敢に戦い、そして遂にはサタンオクトパスに特攻する形で盛大な相打ちを演じたのだった。
「…………」
凄い映画だったなあ。そんな感想が脳を飛び回る最中、館内の彼方此方から啜り泣く音が聴こえる。
横を見るとアリス君が泣いていて、私はハンカチでそっと目端を拭って上げた。
「アリス君は感情豊かだなあ……い、いや私も面白いとは思ったけど……」
エンディングテーマとスタッフロールが流れる。
ワンシーンカット的に子供が救出されるシーンであるとか、彼が母親と抱き合うシーンが映し出される。
そして曲も終わり、暗転するかにみえて暗転せず、ワンカットでも無い映像が流れ始めた。
ホテルで会話をしていたジョンとアレックスが波打ち際を歩いている。
『しかしナンシーの甥は災難だったな、アレックス』
『あの子の看護師は気の毒だったが無事で何よりさ、ジョン』
『しかしなんでサメ共は人類を助けてくれたんだろうな?』
『さあ?サイボーグ化されて恨んでたんじゃ──』
平穏な後日談風の会話をする二人の内、アレックスが大仰に肩を竦めた次の瞬間
『うわああああーーー!!!』
突如として海中から飛び出してきた巨大な鮫がアレックスの足を齧り、あっという間に海中へと引きずり込んで行く!
そこで画面は暗転しTo Be Continued?の表示が右下に踊るように表示された。
勿論館内はそこでまた歓声が上がった。
「サメ、敵じゃんか!?」
私の声もあがった。
アリス >
「家にあるから……前作のディスク…あるから…家に……」
既に必死だった。
目の前の映像美とそれに連なる重厚な物語に心を奪われていた。
「サメにとっては多分、助けられたら助ける程度の存在よ」
行けたら行くみたいな。行かないパターンねこれ。
サタンオクトパスが飽和攻撃を仕掛けると、会場のボルテージは上がり、そして。
戦いは終わった。そしてスタッフロールの中、誰も席を立つ人がいない。
よく訓練されたファン。もちろん、製作者もそれを裏切らない。
「こ、これ………これ見だがっだ…」
涙声で、ハンカチで顔を拭われながら戦士たちの鎮魂を祈った。
そして。
最後に
サメがアレックスを襲った。
「……次回作…決まったようなものね!!」
大興奮でばしばしとアガサの肩を叩いて。
それから二人で映画の感想を話しながらクレープを食べに行った。
ずっと、ずっと。
サメとサイボーグの親和性について。
話していたとさ。
ご案内:「映画館『ユニヴァースシネマトコヨ』」からアガサさんが去りました。<補足:後ろに流した濃紫の長髪を赤いリボンで留めている少女。モスグリーンのパーカーとイエローデニム姿>
ご案内:「映画館『ユニヴァースシネマトコヨ』」からアリスさんが去りました。<補足:金髪碧眼の二年生。透かし編みのカーディガンとホワイトデニムのカジュアルコーデ。>