2020/08/01 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」にマルレーネさんが現れました。<補足:165cm/金髪碧眼修道服/待ち合わせ>
ご案内:「宗教施設群-修道院」に神樹椎苗さんが現れました。<補足:黒基調の衣服、スカート。怪我だらけの自殺癖。右腕を首から吊っている>
神樹椎苗 >  
 美術教師と話をしてからというもの。
 すでに失われ始めてる記憶にに歯噛みしながらも、抗うことを決めていたのだが。

 消えたはずの『友達』から置手紙を受け取り――割り切れない想いが強くなっていた。
 二日の間悩み続けて、それでも自分の中で決着をつけられずにいたところ。
 まるで救いを求めるかのように、異邦人街へと足を運んでいた。

「――ああ、そういえば」

 ぼんやりと顔を上げれば、宗教施設の立ち並ぶ区画へと迷い込んでいた。
 確か何時か出会った『優しい人』は修道女だったなと、涙を流していた女性の顔を思い出した。

マルレーネ > 「………はい、それじゃあ、お大事にしてくださいね。」

手を振りながら老人を見送っている金色の髪をした修道女。
はい、それじゃあね、と手をぱたぱたと振って見送るのは、あの光の円で見た女性と同一人物。

小さな修道院の前でやってきた人間を見送りながら、よし、と掃除に取り掛かろうとして………………。

「……あっ!」

視線が交われば、こちらから思わず声が漏れた。
あの時の、と驚いたような顔をして、思わず口を掌で押さえて。

神樹椎苗 >  
 ちょうど老人が出てきた施設の方へ目を向けると、つい思い浮かべたばかりの女性と視線があった。
 驚いたのは椎苗も同様で、少し目を丸くしてから視線をそらし――少しの間逡巡を見せてから、女性の方へ一歩歩み寄った。

「――また、偶然ですね」

 そう、どこか憂いのある表情で声を掛けて、小さな修道院を見上げた。

「ここは、お前の修道院なのですか」

 と、小さいながらも懸命に維持されている事が見て取れて、少し和らいだ表情でたずねる。

マルレーネ > 「………はい、そうです。 私の………といっても、借りているだけですけれど。」

少しばかり元気が無いその表情を眺めながら、こちらはにっこりと穏やかな笑顔を見せて。

「お茶の一つでも、どうですか?
 あれから……一度も出会えなくて、夢だったのかと思ったくらいで。」

そっと掌を差し出して、よければ、とエスコートしようとしてくる。

神樹椎苗 >  
「――そこまでは消えてないのですね」

 女性が答えてくれたことに、とても小さく呟いた。

「そうですね、もしお前がよければ――ああ」

 差し出された手に応えようとして、右腕が動かない事を思い出す。
 まだ一週間ほどしか経っていないために、とっさの時に右手を使おうとしてしまうのだ。
 改めて、左手で女性に応えると、院内へと案内されるだろう。

マルレーネ > 「………私、マルレーネ、って言います。マリーで構いませんよ。
 ……もしよければ、お名前を貰っても?」

差し出された手に対しての反応がワンテンポ遅れることで、少しだけ察するものはある。怪我は最近なのだろうな、なんて。
言わないまま、教会の中、お話の出来る部屋へと。

「何か、飲みます?
 暑い日ですけど、暖かいものもありますし、冷たいものもできますよ。

 良く一人でも飲んでいるんです。」

ちょっと冗談めかして声を出しながら、ソファに座らせて準備をせくせくと。
助けてもらった人、という印象がやっぱり強い。

神樹椎苗 >  
 細やかな仕草や表情から、気遣いを感じて小さく会釈しながら感謝の気持ちを抱く。

「しいは、『かみきしいな』と言います。
 学園の一年で、初等教育をうけてますよ」

 そう、自己紹介を返して部屋に通される。
 気遣いに甘えてソファに腰掛けると、少し考えてから答えた。

「それなら甘くて温かいものが良いですかね。
 ――しいなんかが、お相手でいいのですか」

 幸い暑さに関しては、それほど気にならない『構造』をしていた。
 それよりも、今は温かさが欲しいと思ったのだ――不合理的だが。

 助けたつもりなんて露ほどもないからか。
 偶然同じ場所にいた、という程度の印象以上を持たれているとは思わず。

マルレーネ > 「椎苗ちゃんですね。………なるほど、椎苗ちゃんって呼んでいいですか?
 ……それなら、ココアを熱くなり過ぎない程度に。」

穏やかに微笑みながら二人分のココアを準備し、そっと机の上に置く。

「………お相手、ですか。」

一言つぶやいて、その上で対面に座れば、そっと頭を下げる。

「私はあの場所で、帰る方向も分かりませんでした。
 どこにも、………どこにも行けなかった。 あの世界に戻ろうとまで思いました。」

「貴方がいたから、こちら側に帰ろうと思えたんです。」

「お礼を、まだ言えていませんでした。」

神樹椎苗 >  
「好きに呼んでくれれば構わねーですよ」

 用意されたココアに礼を言って、左手を伸ばした。
 が、続けられた言葉には、意外そうな表情を浮かべる。

「――しいは、何もしていませんよ。
 あの世界から戻るには、強い意志が必要でした。
 お前には、それがあった、それだけの事です」

 本当に、ただただ偶然の出会いだったのだ。
 まさかそんなふうに思われていたとは思いもせず。
 謙遜するわけでもなく、本心から彼女自身の意思がそうさせたのだろうと。

マルレーネ > 「………私は。」

「強い意思があるとしたら、毎日仕事をしなければいけないと。
 働かなければいけないと。
 穏やかな場所から離れなければいけないと。
 そう、骨の髄から思っていただけの話なんです。」

ココアを持つ手を止めながら、目を伏せる。
修道女は、何かを思い出して、それをなぞるかのようにゆっくりと言葉を選んで。

「私には強い意思はなかった。
 今でも思い出してしまいますから。
 なんで出てきたのだろうって、思うことだってありますから。」

穏やかに、ゆったりと。
私は何もできなかったと口にする。 出られたのは、偶然であると。

神樹椎苗 >  
「習慣を習慣と出来るのは、惰性でなく意志ですよ。
 聞く限り、お前を救ったのは、お前自身が積み重ねてきた人生そのものでしょう。
 お前はそれを誇るべきだと思いますよ、それくらいあの場所は――居心地が良すぎました」

 そう修道女の顔をしっかりと見て、伝えた。
 そしてココアの上に視線を落とす。

「あれは、有限の理想郷でしたから。
 自ら踏み出るのでなく、時間切れで目覚めていたら。
 現実との落差で心を病んだかもしれません」

 それほどにあの世界は、多くのヒトを惑わせた。
 収拾がついた後も、現実に復帰できていない人間も多いと聞いている。
 椎苗もまた、あの微睡に身をゆだねていたのなら――今頃、自分を失っていただろう。

マルレーネ > 「あはは、こっちで言う年中無休でしたからねー。
 しかもそれを割とこう、強要というか。」

遠い目をしながらははは、っと笑ってみせて。

「………たくさん傷つきました。
 あの後、もうちょっと深入りしたんだと思います。
 吸い込まれるように、今度は嫌な記憶も見ました。」

目を細めながら、穏やかに、ゆっくりと。
思い出したくもない記憶がどろりどろりと流れ落ちてくるけれど、首を横に振って。


「………見せられたとしたら、それは私の心の弱さ。
 落ち込んでなんかいられませんよね。」

えへ、と舌を出して笑って見せる。

神樹椎苗 >  
「そいつはなかなか、ハードな日常を送ってたみたいですね」

 話しぶりやその雰囲気から読み取って、異邦人なのだろうと解釈し。
 自らを弱いと言いつつも、笑顔を見せる姿勢には椎苗も薄く口元を緩ませる。

「前向きに進もうとする姿勢は良いと思いますよ。
 弱さと強さは表裏一体です。
 弱さを自覚できるのは――間違いない強さですね」

 そう目を細めながら言って、しかし。
 ココアを置いて息を吐くと、また迷いのある表情を見せた。

「――しいも、あれから先に向かいました。
 それこそ、一番奥深くまで。
 すこし、裏技は使いましたけどね」

 ふっと、自嘲するように見せながら。

マルレーネ > 「ハードなんてもんじゃないんですから……」

はぅー、っと肩を落として溜息をつきながらも、てへ、と笑って見せて。

「前向き………。 前向きなのか後ろ向きなのかもわかりませんけどね。
 でも、褒められてるならそう受け取っておきます。」

ウィンク一つ。
もうどうせ一人きりなのだ、と思うことも無かったわけでもない。
強い、とは本当に思わない。 弱いどころか、もう折れているとも言えるかもしれない。

けれども。

「………ご友人は見つかったのですか。」

相手の顔色を伺うが、それでも、聞かざるを得ない。

神樹椎苗 >  
 修道女の愛嬌のある仕草に、微笑みをつられながら。
 しかし――問われれば表情は歪む。

「見つかった――と言うのも難しいところですね。
 なにせ、あの場所を『作っていた』のが、その『友達』ですから。
 そういう意味では、お前にも迷惑をかけてしまいましたね」

 『友達』のしでかした事は、多くのヒトへ影響を残した。
 それは『友達』に関する記憶が失われても――残り続ける。

「――その『友達』は、自分を消し去ろうとしたのです。
 あらゆる人の記憶から、あらゆる世界の記録から。
 死ねないお人形だった自分を、自分の手で葬るために」

 目の前の修道女は、あの縁に踏み入った人物だ。
 だとしたら、アレが何が故に用意された舞台だったのか――知る権利はあるだろうと。

マルレーネ > 「……ひとまず、話を整理しますね。」

「椎苗さんの友人は、……死ぬことが出来なかった。
 だから、世界から消えることを………選んだ?

 その時に起きたのが、あの光の柱、だった…………ということですか?」

正直な話、唐突には信じられない言葉ばかりが並ぶ。
でも、……それを言ったら、あの光の柱の中で体験したことそのものが元々信じられないことばかりだ。
改めて、ゆっくりと言葉を噛むように相手に問いかけて。

神樹椎苗 >  
「不死、と言えばわかりやすいですかね。
 本質は多少異なりますが、現象としては間違ってません。
 普通には死ねないから、どうにかして死ぬ方法を編み出して――結果がアレです」

 改めて言葉を選びなおし、修道女の言葉に頷く。

「しいにも具体的にアレがどういう仕組みだったかまでは、理解できていませんが。
 あの光の柱は、『友達』が自分を終わらせるために必要なものだったのです。
 それにヒトを巻き込み過ぎだろうとは、思わなくもないですが」

 と、一呼吸おいて、ココアを口に含んだ。

「――しいは、その最深部まで行って、『友達』に会いました。
 そしてほんの一時言葉を交わして、その最後を見届けたのです」

 そう、あの『光の柱』に纏わる顛末を簡潔に語り。
 けれどその表情は、言葉を続けるほどに曇っていくようだった。

マルレーネ > 「………なるほど、そうだったんですね。」

こんな小さな子供が、友達の最後を見届けたのか。
それだけで、心臓がぎゅ、っと握られたかのようにどくり、っと鳴った。

そんなことまでしなければいけないのか。


「………隣、行きますね。」

よいしょ、っと立ち上がれば、対面ではなくて、隣のソファに移動する。
相手の言葉に対してはあえて返事を返さずに、………座り込んで。


「…………それで…?」

話を促す。 もう終わった、とは思えなかった。

神樹椎苗 >  
 隣へと移る修道女に、少し困惑した視線を向けるものの。
 それを拒否することもなく、促されるまま、頷いて続ける。

「『友達』の願いは、自分を終わらせて、忘れ去られる事です。
 あいつが関わったあらゆるヒトの、深く関わっていた教師の記憶からも消えています。
 しいは――少しばかり体質が変わってるので、まだ覚えていますが。
 それでも、今では顔も声も、背格好も、男か女かも思い出せません」

 そう言いながらしかし、「それはいいのです」とも続ける。

「忘れない事、一つでも多くの事を覚えていようと抗う事を決めましたから。
 もし、あいつと交わした言葉の全てを忘れても、『友達』が居た事だけは忘れないと。
 その『友達』とも約束しましたからね」

 その覚悟はした。
 無駄だとしても抗い続けろと、背中を押されたから。
 その迷いだけは、振り切る事が出来た。

「ただ――いえ、これは、言っても仕方のない事ですね」

 それでもやはり、椎苗の表情は晴れる事なく、何かを堪えるように唇を引き締めていた。

マルレーネ > 「………………。」

相手の言葉を聞く。
聞きながら、そっと腕を伸ばして、ぎゅ、っと引き寄せて。

「覚悟を決めるのと、痛いと感じることは別のこと。
 腹を括るのと、怖いと感じるのは別のこと。

 耐えられるのは、何も感じないとは違います。」

ゆったりとした言葉を、一つ、一つ、噛みしめるように囁いて。

「ここは教会です。
 思いの丈を、全部口にしていいのですよ。

 私は未熟ではありますが、それでもあの場にいたのです。
 貴方の気持ちを、疑わずに聞くことくらいはできますよ。」

なんて、頭を抱きながら撫でていく。


子供は子供だ。
子供でなくても、辛いもの。

神樹椎苗 >  
 突然抱き寄せられ、一瞬身を強張らせるが。
 その温かさに触れられ、撫でられると、急に何かがこみ上げて溢れそうになった。

「――っ、でも、それは。
 しいは、あいつの願いを、祝福して」

 言葉が途切れる。
 溢れそうなものを、ギリギリで堰き止めるように。
 小さな体は弱弱しく震える。

「話しても、もう、変わらないのです。
 もう、全部、終わって、だから」

 迷いと戸惑いが、普段の明瞭と流れる言葉を遮る。
 甘える事を許されて、どこか怯えるように。

マルレーネ > 「我儘を言わなかったんですね。」
「貴方は。」
「自分の気持ちを何も言わずに。」

ゆっくりと、ゆっくりと頭を撫でて。

「とても辛いと感じられているそのご友人を、祝福して送り出して。」
「自分の気持ちを我慢したんですね。」


「………はい、終わってしまったんですね。
 偉いね。
 椎苗ちゃんは、友達のことだけ、考えたんですね。」

撫でる。そっと抱きしめながら…………ぽとり、ぽとりと椎苗の頭に落ちるもの。

何故こんな小さな体で。
何故そんな辛い選択を。

唇を噛んで、先に泣いたのはこっちだった。

神樹椎苗 >  
「――――っ」

 言葉が、一つ一つしみ込んでくる。
 堪えようとしていた、耐えようとして抑え込んでいた『蓋』に、罅が入っていく。

「なん、で。
 お前が、泣いてるんですか」

 修道女の服を強く掴みながら、震える声を絞り出す。
 これ以上はだめだ、耐えられないと、心が悲鳴を上げている。

「どう、して」

 わからなかった。
 いや――わかっていたけれど、『理解』できなかった。
 どうしてここまで、修道女が自分の事に心を痛めてくれているのか。

マルレーネ > 「………」

何も言わず、ぎゅ、っと今度は強く抱きしめた。
抱きしめながら、胸に埋めるようにして、ゆっくりと、ゆっくりと頭を撫でる。
ぎゅ、っと唇を噛んで、息を二回、三回………。


「………そこまでしなければ眠れなかった………」

彼女の友人の辛さを、考えることもできない。

「…それを見送ることしかできなかった………」

それをただ見送る辛さを、想像することもできない。

胸が痛い。 痛い。 とても痛い。


「………私にできることは、何も無いですけど。
 痛いとか、苦しいとか、想像することしかできません、けど。」

拒絶しなかった。 そのつらさを、悲しさを、全部引き寄せるように考えて、己だったらと置き換えて、少しでも理解しようとして。

ぽろぽろと泣いていた。

神樹椎苗 >  
「だから、なんで――」

 お前がそこまで想ってくれるのだと。
 言葉になる前に、涙腺から熱いものが溢れ出した。

「――しい、は」

 それは本当は胸に留め続けるはずだったモノ。

「それしか、できないから――そうするべきだと、思ったから」

 終われない辛さも苦しみも、痛いほど知っているから。

「それでも、ずっと、頭に響く、のです。
 それで、よかったのか、って」

 それは後悔や、葛藤とは違う、自分の行いへの自問。

「しいは、間違って、いたんですか。
 しいは、正しくなかったんですか。
 しいは、どうすればよかったんですか」

 心にずっと、引っかかっていた。
 『そうするしかなかった』と理解していたから、無視し続けていた小さな傷。

「どうしてこんなに、苦しいのですか――」

 涙は溢れて、止まらない。

マルレーネ > 「私には。」

言うべきだと思う。貴方は間違っていなかった。
全てを出し切った。最善を選んだ。
絶対に、絶対に間違ってはいないと。


「私には……わかりませんっ……!!」

絞り出すような言葉は、それでも、正直だった。
分からないのだ。 それが正しかったかどうか。 最善だったのかどうか。
分からない、何もかも。


「でも、その選択は椎苗さんにしか、できなかった!!」

お互いに涙を流して、椎苗の肩を抱きながら、声が出る。
思ったよりも大きな声が出たけれど、もう止まらない。


「最後まで隣にいて、最後まで覚えていて。
 どうするか悩んで、決めて。
 それが出来るのは世界で椎苗さんしかいなかったんです………!

 辛いに決まってるじゃないですか。
 誰も、何も教えてくれない、答えの無いもの、なんですから。」

いきなり、踏み込んでしまっているのは自覚している。
それでも、身体も心も傷ついたままの少女を、心から抱きしめる。


「私は椎苗さんの選択を信じます。」
「正しいとか正しくないとか、神とか、そんなの関係ありません。」

「私は信じます。
 貴方が信じられない分、二倍信じます。」

だからもう、心を痛めないで。
口にはしない。 ただただ、それだけを祈る。
神に、私の声はもう届かないとしても!

神樹椎苗 >  
「しいに、しか――」

 そうなのだろう。
 互いに『友人』だと想いあえた椎苗だからこそ。
 そして苦しみを知っている椎苗だからこそ、見送ることを選ぶことができた。

 それが『最適解』だと、相手を『想う』のなら、そうすべきだと。

「答えが、ない」

 反復する。
 『最適解』などなかったんだと、はっきりと伝えられた。
 この苦しさは当然のモノなのだと。

「どう、して。
 お前は、バカです――」

 それでも信じると、正誤でなく、椎苗が選んだ答えそのものを信じてくれると。
 間違っていたと言ってほしかったのかもしれない。
 正しかったと言ってほしかったのかもしれない。

 けれども、修道女の答えはどちらでもなく。
 だからこそ、椎苗の心は揺さぶられる。
 耐え続けようとした傷の痛みを、吐き出す。

「しいは、止めたかった――。
 あいつと、もっと、『普通』の話を、他愛もない、『友達』をしたかった。
 逝かないでほしいって、置いていかないでほしいって――」

 終わりを得た『友人』を羨ましいと思った。
 けれどそれは裏返せば――。

「しいは、あいつともっと、一緒にいたかった。
 消えてなんて、欲しくなかった――!」

 それは、選択の時に切り捨てられた、しまい込んだ、もう一つの本心。
 『忘れない』なんて些細な我儘だけではごまかせない、椎苗の想いそのものだった。

マルレーネ > 相手の本心をただひたすら、耳に入れて。
うん、うん、と頷いて。 頭を撫でて。 今彼女のできる全力で言葉を受け止めて。
そこから、一拍、二拍。


「それでも。」
「友達のために、我慢したんですよね。」
「わた、しには、絶対できない、選択を。 ………したんです、ね。」

涙がぽろり、ぽろり。
私は受動的に。 突然一人になりました。
まるで激流に飲み込まれるように、ぽい、と放り出されるように。

だからこそ、あきらめもつくってものです。 どうしようもない。
選択の幅も何もあったもんじゃない。
死なずに済んだだけありがたい話であって。


じゃあ、彼女はどうなのか。
その選択は彼女が自分自身で選ぶもの。
そして、その選択肢を選んだからかどうかは分からずとも。
選択を経て、その後に一人になった。


結論は同じだ。
だが、全て違う。

私なら"自分の選択"に耐えられない。
神よ、なんでこんな選択を課したのですか。

マルレーネ > 「偉いね。
 偉いね。
 椎苗ちゃんは、偉いね。

 だれよりも、えらいね。
 だれよりも、ともだちおもい。

 えらかったね。 つらかったね。」

何もできない。
私にはなんにもできやしない。

せめて、心のとがった部分が掌で削れて丸くなるまで、撫でていよう。

神樹椎苗 >  
「しいは、えらくなんて」

 それが正しいと、最適解だと誤魔化して。
 他に出来る事などないのだと、言い訳をして。
 『友達』の願いを祝福するだなんて、役割に浸っていただけだ。

「わからない――」

 最後まで見届けることができた喜びと。
 ただ一人、想いあえた『友達』を失った悲しみ。
 そのどちらもが、間違いなく椎苗の本心で。

「いたくて、くるしい――」

 ただただ、腕に抱かれて涙を流す。
 言葉ももう、出てくるものは嗚咽ばかり。

 ――ああ、ようやく。
 本当に『死を想う』意味を、知ることができた。

 なにか、大切なものを見つけた――そう感じる事ができた。

マルレーネ > ………

彼女にはわかるまい。
だって彼女はまだ、幼いのだから。


「いたいよね。 くるしいよね。
 泣いたって、いいからね。」

嗚咽ばかりを零す少女の頭を撫でながら、己も目をぎゅっと、閉じる。


悲しむのは当然だ。
それは、否定したらいけない。 だから、ゆっくりと泣かせていく。
何もただ、しない。

自分の仕事がまだあるとしたら、それはこの次だ。

神樹椎苗 >  
 嗚咽は暫く止むことはなく。
 涙が止まるのにも、幾分と時間が必要だった。

「――こうやって」

 嗚咽が止んで少し経つとようやく、掠れた声が小さく。

「泣かされたのは、はじめてです」

 修道女の胸に顔をうずめるように、体を小さくしながら。

「なんか、てれくせーです」

 まだ少し鼻を鳴らすようにしながらも、落ち着いてきたのだろう。
 複雑な気持ちで顔こそ見せられなくて、上げられなかったが。

マルレーネ > 「………もう、落ち着きましたか?」

初めてだと彼女は言う。
そんなことって。 私が彼女の年の頃は、よくわんわんと泣いていたもの。
それは私だけじゃないはずだ。

ぽとり、ぽとりとまた、涙が落ちる。
彼女が泣き止んだのに、まだまだ、こちらは次から次へと。

幼い少女が歩んできた道を考え、また泣いた。

「………二人だけの内緒ですね。」

頭を胸に抱いて、そっと髪の毛にこちらも顔をうずめるようにして、そう囁く。

神樹椎苗 >  
 内緒だと言われれば、顔を上げないまま頷くだけで応える。
 しかし、頭の上に落ちてくる小さな雫は、まだ止まっていない。

「どうしてそうやって、泣いてくれるのですか」

 ほぼ初対面だというのに、こうして心から痛みを分かち合おうとしてくれている。
 そして、その真摯な相手を想う心が、椎苗からずっと押し込めてきた感情を引き出したのだ。

「仕事だからって、そう、出来る事じゃねえですよね」

 修道女――聖職者はこうして人の悩みや後悔を聞くのも仕事だと、知っている。
 けれど、今自分を抱きしめてくれている相手は、与えられた『役割』を果たしているだけには思えなかった。

マルレーネ > 「………それは、違います。」

首を横に振っては、小さく吐息を漏らす。
相手の疑問は最もではあった。
二度目の出会いとはいえ、初めて出会ったシチュエーションはあまりにも非日常。
こうやって、しっかりお話をすることは初めてに近い。
そんな相手がぼろぼろと泣いているのだから、格好悪いったらない。

「……仕事なんて、思ってませんよ。」

そっと頭を撫でながら、言葉を紡ぐ。

「私は、 貴方を。
 あの場から助けてくれた恩人だと思っています。
 そんな恩人の気持ちを、受け止めないわけにいきません。

 私にはできないことができる、強い心を持っている人間だと思っています。
 そんな尊敬する人の言葉を、耳に入れないわけにいきません。

 そして。
 私の腕にすっぽり収まる、小さな女の子だと思っています。
 泣いている女の子の思いを、自分のものとして受け止めらなくて、大人だとは言えません。」

言いながら、額にそっと唇を当てて。

神樹椎苗 >  
 額のくすぐったさに身をよじる。
 やっと上げられた顔は、目じりが赤く腫れていて、一瞬だけ見上げて視線を合わせるが。
 慌てて目を逸らした。

「しいに、助けたつもりなんてないですし。
 お前が言うほど強くも――『人間』とすらも言えないです。
 でもまあ、だからって言うなら」

 もぞもぞと、腕の中で身じろぎして。
 ほんの少しだけ、声に甘えるような幼さを感じさせる。

「――これで、おあいこです」

 恥ずかしさを紛らわすように、柔らかな温もりに縋り付く。
 遠く微かに残る誰かに抱きあげられた感触――。
 それを想起しながら初めて感じる温もりは、あまりに心地よかった。

マルレーネ > 「はい、おあいこ。 秘密ですよ?
 ……それでも、私が勝手にそう思っているだけですからね。」

囁きながら膝の上に抱いて、胸に抱く。

「………椎苗ちゃんは、こうしていて………気持ちいいですか?
 ………もし、望むなら、いつだって来ていいんですよ。
 私の膝と私の胸で良ければですけど。」

穏やかに尋ねながら………ゆりかごのように揺れて。
腕の中にすっぽり納まってしまう少女の姿と、ようやく雰囲気が重なり合う。

神樹椎苗 >  
「――べつに、ちょっと、てれくせーだけです」

 まるで、心地よさに甘えていたのを見透かされたようで。
 誤魔化すようにむくれながら、それでも体は預けたまま。

「まあ、そう、ですね。
 お前が来てほしいなら、来てやらなくもねーです」

 そっけない言い方に反して、左手はしっかりと服を掴んでいて離さない。
 甘え方を知らない子供が戸惑っている――そんなふうにも見えるだろう。

マルレーネ > 「来てほしい。」

こっちもぎゅ、っと少女の肩を抱いたまま、離さない。
むしろこちらが甘えている、まであるくらいに、少女を引き寄せて、頭に頬ずりを二つ。

「………とっても、来てほしいです。
 お話もしましょう。
 一緒に泊まっていってもいいですよ。
 ベッド、ちょっと大きいですから、二人でも眠れます。

 いつでも、いつだって。」

引き寄せ、撫でて、甘えて。

「……私とも、友達になってくれますか?」

神樹椎苗 >  
「ん、くすぐってーです」

 頬ずりされれば弱く抗議するものの、その表情は柔らかく緩んでいて。
 来てほしいと言われた事に嬉しさを隠せていなかった。

「仕方ないですね。
 そこまで言われたら、一泊くらいしてやらないとかわいそうですし」

 捻くれた答えを返しながら、互いに甘えあえる時間に安らぎを覚え。
 けれど、『友達』と言う言葉には、すぐに答えを返せなかった。

「――お前は、良い奴です。
 優しくて、弱いのに強くて、あたたかい」

 腕の中で目を閉じて、修道女の体温を感じる。
 鼓動を感じて、『生命』を想う。

「しいをこうして抱き寄せて、想ってくれた相手も――お前が初めてです」

 誰かの腕に抱かれて、その体温に触れるのがこれほど心安らぐものだとは知らなかった。
 そこまで――心を許せてしまう相手が、現れるなんて考えたこともなかった。

「それでも、しいの『友達』は、あいつだけです。
 それは、それだけは――永劫変わることがない、でしょう」

 あの関係性を『友達』だと、その誰かを『友人』だと呼ぶのなら。
 椎苗にとって、それは唯一無二のものだ。

「べつに、お前が嫌とか、そういうわけじゃ、ねーですよ。
 ただ、そう、『友達』とは違う、そう思っただけで」

 答えてから、慌てて言い訳するように言葉を付け足す。
 『友達』にはなれないと答えたものの、けれどこの関係性を言い表す事が出来ず。
 もどかしさにまた、隠れるように顔をうずめるだろう。

マルレーネ > ああ。そこまでに。
これは私の失敗だ、すぐに分かった。
そこまで強く思える友人と同じ呼称が、使えるはずがない。

「………椎苗ちゃんは、本当に、ともだちおもいなんですね。」

もう少しだけぎゅっと、抱き寄せる。
うん、うん、と静かに頷いて。自らの発言に後悔しつつも、顔には出さない。

「それでいいと思います。
 今掌にあるものを、ずっと、ずっと大事にしてください。
 それはきっと、辛いことでは無いですから。

 椎苗ちゃんが思うように、感じたままに。
 私に協力できることがあれば、何でも。」

顔をうずめる少女を愛おしそうに抱きながら、そうですね、なんて。


「………お姉ちゃんとか呼んでみます?」

なんて、えへ、と冗談交じりに。 明るい調子に戻そうと。

神樹椎苗 >  
「『友達』想いかどうかは、わからねーです。
 これだって、初めてなんですよ」

 この一か月ほどの間、本当に初めて経験する事ばかりだった。
 理論理屈、情報としての知識――それはいくらでも持っていたが。
 実際に経験するものは、感じるものとは、あまりにかけ離れていた。

「はい、大事に、できうる限り。
 協力も何も――お前には今こうして、助けられてしまってます」

 そう、感謝を伝えつつ、冗談交じりな言葉に顔を上げた。

「――『お姉ちゃん』?」

 言われるまま、本当に不思議そうな表情で繰り返す。
 そんな本来の幼さが垣間見える一瞬の後、真剣に考えこむように目を細める。

「姉、姉妹、家族――。
 よくわからないですが、それは、こういうモノなのですか?」

 そう、何も知らない子供のような、素朴な疑問をたずねるように。

マルレーネ > 「そうですね…………。
 私を信用はできますか?」

そっと肩を抱いて、向き合って、真正面から見つめ合って。

「私の言葉を、ひとまず真実だと考えて、受け入れることはできますか?」

穏やかなまま、修道院の空気の流れが止まったかのよう。
問いかけて、首を傾げ。


「……貴方の疑問に、できるだけ、嘘をつかずに誤魔化さずに答えたいので。」

えへ、と舌をちょっと出して笑った。

神樹椎苗 >  
「今更です。
 お前の言葉は、信じられるだけの心が籠っていますから」

 信用できるかと問われれば、すぐにそう返すだろう。

「――こうやって、真剣に向き合おうとしてくれる相手を。
 その言葉を信じて、受け入れたいと、しいは思っていますよ」

 穏やかでけれど真剣な眼差しに、椎苗もまた正面から応える。
 修道女の茶目っ気が出た笑みには、同じように微笑みを浮かべて。

マルレーネ > 「ひとつめ。」

ふー、っと一息をついて、視線を合わせる。

「貴方は友達思いです。」
「貴方に友達として選んでもらった人を羨ましく思います。」

「そんな貴方を、私は。
 尊敬しています。」

そっと手を取って、手の甲にキスを一つ。

「……これは、"敬愛"という意味だと教わりました。
 私も、貴方のように友人を大切にしたい。」

「それを教えてくれた貴方に、感謝を。」

その手を引き寄せて己の胸にあてて、ぎゅ、っと掴んで祈りを捧げる。

神樹椎苗 >  
 尊敬していると真っ向から言われれば、流石に座りが悪いのか、唇がむず痒そうに歪む。
 そして、敬愛の証を示されれば、驚いたように目を丸くして。
 告げられた感謝の言葉に、ほのかに頬を染めて、目を逸らす。

「――これは、てれくせーですね」

 茶化すわけでなくそう口にするのも、言われたように素直に受け入れようと努めているからだろう。

マルレーネ > 「ふふ………、ふたつめ。」

微笑みながら、少しだけ困ったように。


「………その。
 私も家族は特にいないので、ごめんなさい。
 言ってみたはいいんですが、よく分からないのが本当です。」

勢いで言いました、と、頭を下げて謝罪する。

「……妹がいたら、こんな感じかな、なんて、………ちょっと思っちゃって。」

えへ、と微笑みながら、舌を出して。

神樹椎苗 >  
 頭を下げられれば、一時きょとんとしてその様子をみて。
 そして微笑みながら舌を出す様子を見れば。

「――ぷ、ふふ、なんですか、それ」

 そう、可笑しそうに声を出して笑う。

「それじゃあ、お互いにしらねーんですね。
 家族も、姉妹も――そーですね、それなら」

 この茶目っ気がたっぷりの、心優しく、相手を慈しむことができる女性と。
 いつか、誰かとしたような言葉を交わしてみてもいいだろう。

「ちょっと『試して』みますか。
 お前と、しいで――その、『普通』の姉妹みたいなものを」

 言ってみるとどことなく恥ずかしく、はにかんでしまうが。

「家族とか姉妹とか、それがどんなものか、なにをするのか、しいは知識でしか知りませんが。
 それでもお前となら――そんな関係を試してみるのも、悪くないかもしれないです」

マルレーネ > 「そうなんですよぉ、………だから、こう、そういった相談が来ると本当、ちょっと困っちゃって。
 あ、絶対秘密ですよ!」

なんて、人差し指を自分の唇に当てながら、にひ、と笑う。
楽し気に振舞いながらも、相手の言葉には少しだけぴたり、っと静止して。

「ちょっとだけ、ですよ。
 二人きりでいる時だけ、ちょっとだけ。」

「………おいで、椎苗。」

そっと、改めて両手を広げて。
自分から初めて、他人を呼び捨てにする。

神樹椎苗 >  
「そうですね、ちょっとだけ」

 限定的で不器用な、『お試し姉妹』。
 呼ばれた名前は、いつもとまるで違う響きを持っていて。
 途端に、気恥ずかしさがにじみ出てくる。

「ん――」

 それでも、広げられた腕の中には思い切って飛び込んで。
 そう、誰かの腕にはじめて『自分から』身を預けに。
 腕の中に納まれば、さっきまでと変わらないはずなのに、胸の奥がやけに暖かい。

「――『お姉ちゃん』」

 そう口に出してみたら、それはとても『特別』な言葉に思えて。
 喜びと恥ずかしさと、ほんの少し切なさが入り混じり――。

「――てれくせーです」

 顔を赤くしながら、甘えるような笑みを浮かべた。

ご案内:「宗教施設群-修道院」から神樹椎苗さんが去りました。<補足:黒基調の衣服、スカート。怪我だらけの自殺癖。右腕を首から吊っている>
ご案内:「宗教施設群-修道院」からマルレーネさんが去りました。<補足:165cm/金髪碧眼修道服/待ち合わせ>