2015/07/19 - 20:29~03:03 のログ
ご案内:「天津重工本社ビル」に『七色』さんが現れました。<補足:銀髪おさげの女。派手なスーツに身を包む>
ご案内:「天津重工本社ビル」から『七色』さんが去りました。<補足:銀髪おさげの女。派手なスーツに身を包む>
ご案内:「天津重工本社ビル」に『七色』さんが現れました。<補足:銀髪おさげの女。派手なスーツに身を包む>
ご案内:「天津重工本社ビル」に五代 基一郎さんが現れました。<補足:特殊警備一課の制服。仕事中。>
『七色』 > 天津重工。日本が誇る重工業の一つ。
近年ロボット工学の分野で目覚しい成長を続けており
特にアンドロイド用のボディパーツでは他の追従を許さないとまで言われるほどであった。
……だが、その威光も今や昔。
違法演劇集団"フェニーチェ"の大口スポンサーであることが明るみに出たため、厳しい追求を受けることとなった。
解体か、吸収合併か。時刻にして夕暮れ18時過ぎ。
地下30Fロビーにおける経営陣の記者会見の席で、事は起こった。

『七色』 > 「ごきげんよう皆様。はじめまして。」
「私、フェニーチェの女優を務めておりました。」
「『七色』と申します。」

本来経営者が座るはずの中央に陣取って、彼女は続けた。

「最後に一旗あげようと思い、一念発起致しまして。」
「このビル最下層にエネルギープラントがあるのはご存知ですね? そうですね?はい。」
「日付変更を合図に、オーバーロードして粉微塵となります。」

突然のことにざわめく記者団。平然と中に割って入る銀髪の女。
中継用のカメラを掴み、その整った顔立ちで覗き込む。

「止める方法がないわけではないのだけれど……。」
「……それは少し無理かなと思うのね。」

突如として自らの首元にナイフの刃を押し当てて、一思いに引き抜く。
噴水めいて飛び散る鮮血のも中央で、女はくるりとまわり、嗤った。

「私が死ねば止まるのよ。」
「でも私は死ねないの。」

「この放送を見ている誰でもいいわ。」
「早く私を止めにいらっしゃいな。」
「金も名誉もいらないわ。」


「さあ、私に"死"を頂戴。」


女は中継が中断されるまで、狂ったように嗤い続けていた。

ご案内:「天津重工本社ビル」に『美術屋』さんが現れました。<補足:姿のない『美術屋』。無数の無人の戦闘用ドローンを操る。電脳世界での『シュージン』>
ご案内:「天津重工本社ビル」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪眼帯の風紀委員の少女。身体の一部を機械化したダンピール(ただしハーフエルフと吸血鬼の子)。元魔狩人。>
『美術屋』 > その中継が終わるや否や、この会社が生みだしたアンドロイドが
動き出す。仕込んでいた無人のドローン。
それを、操作できるだけ。すべてを稼働させる。

――選別。派手な演出。背景。
――前座。

今回の美術は、七色の望みを叶える、望みを打ち砕く
戦士の選別。一番彼女が輝いて完成させるその――色を選ぶ。

すんなり通っても面白くない。
だから――

『彩るよ、舞台美術。だから、踊ってよ。ただの鈍色に呑まれない、輝きを、彼女にふさわしい輝きを放ってよ』

ビルの隔壁を起動させる。
落とす落とす。時間稼ぎ。
ぎりぎりのほうがお好みか?
それとも――

――さぁ、キミたちはどんな色を見る。それを彩ろう――

――人生は、舞台だ……

五代 基一郎 > 前日に届いた何者かによる風紀公安への招待状のような犯行予告文。
如何なるものか考えあぐねられていたが
それはその翌日、実体として我々の前に姿を現した。

夕方に突如起きたビルの乗っ取り事件。
要求がどうのという問題ではない。
これはもう凶行としか言いようがない者だった。
そう、今回の首謀者であるフェニーチェの演者『七色』の要求は
自らの死としか思えない発言。

前日の件があってか動くのは速かった。
案件が案件のため、風紀からは選抜された人間であるレイチェル・ラムレイと
特殊警備一課の人間が出動を要請された。
合同捜査ということもあって公安からも実働部隊が出されている。

予備的に指揮も執ることとなった第二小隊長五代は
今特殊警備一課が保有する硬式飛行船『マリア・カラス』の艦橋にいた。
隊員、レイチェルは既に大型の兵員輸送兼攻撃ヘリ『ベッコウバチ』に搭乗するような
抱えられる形で現場である天津重工本社ビルに向かっている。

通常の攻撃へリや偵察ヘリよりも大型であり、ガンシップよりも小型でもあるが
特殊警備一課が装備している特殊装甲アーマーの重量を加味すれば四人
一個隊がせいぜいの運搬となるわけだが。

『マリア・カラス』から発進した『ベッコウバチ』五機の中の一機に
『ブラスレイター』に搭乗するレイチェル・ラムレイの姿もある。
バイクの重量との兼ね合いもあり『ベッコウバチ』両脇に兵装ポッドが隊員の代わりに保持されている。

「レイチェル、聞こえるか。インカムの調整は出来ているようだな。
 ドロップゾーン、天津重工本社ビル屋上まで
 あと少しだ。作戦は簡単だ。風紀は屋上から突入。
 尚ビルの管理会社へシステムの明け渡しを要求したが何者かに乗っ取られたかでこちらからの制御は不可能だ。
 妨害は十分に考えられ、また『七色』以外のフェニーチェの団員がいると思われる。
 全員に伝えるが妨害、並びに脅威は実力を以って排除しろ。
 道中は臨機応変で対応。目標は最下層にいる『七色』、以上。」

ヘリのローター音が風を切り裂いてビル群の上を飛びすさぶ。
天津重工本社ビルに近づけば徐々に減速をはじめ、そして
隊員たちを固定していたリグを解放していく。
固定リグから解放された隊員たちは続々と本社ビル屋上へ降下、着陸していく。
レイチェルの乗るブラスレイター、そして兵装ポッドも降下というより
投下と言う形でビル屋上へ解き放たれた。

『七色』 > 「どうだ? I-RIS、中の状況は。」

≪駄目です。中の状況がまるで見渡せません。≫
≪恐らくは強力な異能力者が妨害しているのでしょう。≫

「そいつを無力化したらどうだ?」

≪無力化できれば問題ありません。≫

「よし。」

公安が誇る超性能AI、I-RIS。
彼女の性能を持ってしても、本社ビルへの介入は不可能だという。
隊長格の男は向き直り、軽く作戦のおさらいに入る。

「みんな聞いたか。サブオーダーが入った。」
「I-RISの介入を阻むほどの異能の持ち主が相手側にいるらしい。」
「恐らく制圧するにあたって、そいつも直接妨害を仕掛けてくる。」
「風紀の奴らとどちらが早いかってトコだが、俺たちもそれなりに荒事には慣れている。」
「目にモノ見せてやれ。"あいつら"にも、"あいつら"にもだ。」

立てた親指を上に向け、下に向ける。
隊長格の男の鼓舞に沸き立つ面々。
その中に常世学年一年生。ギルバートの姿もそこにあった。
彼の頭上には、『ベッコウバチ』が高く旋回する。
手元のPDAですばやくメッセージを打ち、突入準備へと走る仲間らの後を追った。

あて先はレイチェル・ラムレイ。
内容は "Good luck =)"
酷く単純なものであったが、それだけで十分だ、と天高く突き立てた親指を掲げた。

レイチェル > 「あいよ、シンプルな仕事は嫌いじゃねーぜ」
そう言って、インカム越しに五代へ向けて応答する。
「何者かに乗っ取られた……ってことは、それなりの技術者が控えてやがるな。
そいつが此処に居るかは分からねーが……ま、ここは何せあの天津重工本社だ。
とんでもねぇお出迎えが待ってるかもな」
そう口にしながら、手元のリボルバー拳銃を眺めて構えたりなどしながら、降下を待つ
レイチェル。


「まるで戦争映画だな」
特殊装甲アーマーを纏った風紀委員特殊警備一課の面々の様子を見て、そんなことを
呟くレイチェル。彼女自身は普段通りの、制服とクローク姿の為に非常に浮きだって
いるように見えるに違いない。彼女は重苦しいものを着て立ちまわることを好まない。
自前の異能や、再生能力もある。過剰な装備は逆に足手纏になるだけなのだ。





屋上への降下はスムーズに行われた。全ては事前の計画通りに。

ブラスレイターと共に屋上へと着地を行ったレイチェルは、素早く機体から降り、
ブラスレイターに搭載されている武装を自らのクロークの内に仕舞いこんだ。

「必要だったらまたこちらのシステムから呼び寄せる。とりあえずはここで待機、だ」
そして最後に、自らの愛機に向けてそう呟いた。

■AI>「ラムレイ様、ご武運を」
無機質な機械音声が、人間の青年の声を模した無機質な機械音声が、建物内部への
突入を開始するレイチェルの背後からかけられた。


建物内部へと突入する直前、機械化されたレイチェルの右目に、空中に浮遊する
メッセージ着信画面が映る。

「こんな時に何だよ……」
意識すれば、メッセージ内容がレイチェルの右目の視界に直接表示される。
送信元は、ギルバートのPDAからだ。

『Good luck =)』

レイチェルは肩を竦めて、特殊警備一課と共にそのまま建物内部へと駆けていった。

五代 基一郎 > ■隊員>「こちら一班、そこかしこの防壁が下りてます。」

時間稼ぎのつもりか、焦燥させることに意味を持たせているのかという具合に
防災用の隔壁が道を塞いでいる。

■隊員>「排除できる障害ではありますが、これに時間を取られてはみすみす爆破を許してしまうな……」

隊員二人が隔壁等破壊、強行突入用の斧にて隔壁を両脇から殴り
破壊して蹴破って進むも一区画ごとにこれをやられているのだ。
丁寧に一枚ずつはがして地下30階まで行こうものならその間にこのビルが無くなっている。

■第一小隊長>「施工当時の設計図のままなら、その一つ先の区画にエレベーターがある。それを使いましょう。」

報道機関に対する報道管制の通達を終えて、艦橋の指揮所に戻れば
第一小隊長と共に管理会社から取り寄せたビルの施工図と
デジタルで管制された隊員らのビーコンが重ねられた
データマップを前に指揮に戻る。

「聞こえたか、レイチェル。その次の区画にあるエレベーターシャフトで地下30階まで降下だ。
 エレベーターは使わず、エレベーターシャフト内を降下することになる。
 中々ない体験だ、気を付けてくれ。そこにも何かいる可能性は否定できないからな。
 何せ逃げ場がない。」

レイチェルを先導する隊員が隔壁を破れば、エレベーターが二つ併設された
区画にでる。
隊員が磁力を発生させる特殊な取っ手器具をエレベーターのドアに貼り付ければ
そのまま左右に開くように引っ張り、エレベーターという箱がない
地下三〇階まで直通の一本道が顔を出す。

■第一小隊長>「一班から突入、決して銃は手放すな。」

「ビルの施工図から割り出した階層予測と現在位置の高度から階層を割り出す。
 三〇階まで一気に下れ」

一班、二班が向かって左側のエレベーターシャフトに入り込み
エレベーターワイヤーを掴み、滑りながら降下を始める。

三班、四班は右側のエレベーターシャフトへレイチェルを先導するように入り込む。
三班の一人がワイヤーとの連結したカラビナとザイルをレイチェルへ投げて渡し
降下を促しつつ滑って行った。
ザイルを腰回りに巻き付け、器具で止めれば降下するに十分なものとなるだろう。

『美術屋』 > ―――その光景を。
仮面をつけた、一人の男が。
どこか薄暗い部屋で。
起動した、電子機器の音が鳴るその場所で。
ただ”視ていた”……
もうひとつの世界から。そっと……


見たのはエレベーター。そこから下りてくる……

――トラップが起動する。
仕掛けていたのは、機銃。
熱感知。そこから連射されていく――
玉数は無数。速度を落とさず降り切れば
無事、一番下にも降りれるかもしれないが
一瞬でもためらえば、この舞台では動けない傷を負う。

そして、もうひとつは人の耳に障る高音の超音波。
蝙蝠型の奇機獣。
耳に残るそれは、一気に下りる行為を阻害する。

その”勇気”がないものはここで脱落だ。


そして一方。エレベーターではなくフロアのほうにももちろん
ドローンは展開されている。その数はひぃふぅみぃ
数えるだけでも面倒だ。そのすべてが武装されており
当然時間稼ぎを狙ったものだ。

――誰かが残って、小数を先に進めるか
――強行突破か
――それとも――

考える思考時間すら時間稼ぎになる。
ここは、風紀、公安の”現場”の判断力が試される。

さぁ――どうする?

『七色』 > 「ウォォォォ、祭だゼェ!」

カートゥーンめいた大腕の男が、馬鹿げた重機関銃を抱えて弾丸を吐き散らす!
タイプライターよりも大味で、ド迫力の効果音!

「ゴーゴー!」

      「バスクの後に続け!」

   「ハハハハ!」

「行くぜ行くぜ行くぜーッ!」


「「「「ウオオオーッ!!!」」」」


暴力的な"ノック"が、正面玄関の自動ドアを粉砕!
待ち構えていたドローンごとあっという間にスクラップの山と化した!
アリの巣に水を注いだかのように、更に現れる無人ドローンの群れ!
夜景よりも眩くて、喧騒よりも騒がしく。
一連の光景は全てリアルタイムでTV中継されており、繁華街の高層ビルの巨大モニタのいくつかは、大々的に情勢を伝えていた。

レイチェル > 突入と同時に、自らの右目に搭載されたネットワークシステムをオフラインにする。
ビルのシステムを乗っ取るような人間を相手取ることになるのだ。念には念を、だ。


小隊長の提案に頷き、エレベーターシャフトの前まで辿り着いたレイチェル。
五代からの通信には、ふっと笑って返す。

「いいじゃねぇか、昔から一度滑り降りてみたいと思ってたんだが、
 その夢が今叶ったぜ」

覗きこめば、まさに一寸先は闇、である。
その虚ろな穴を見ながら、レイチェルは腰に手をやった。

時は一刻を争う。一課の面々と共に、ザイルを伝って、降下を開始した。

暗がりの中、下へ、下へ、下へ。滑り落ちていく間に、レイチェルは右目の視界を
暗視モードへと切り替え――同時に、複数の機銃が彼女らへと向けられていることを察する。
同時に、超音波を発する蝙蝠型の奇機獣も襲い来る!
超音波に足止めを喰らい、滑り降りるのを躊躇えば、一瞬にして肉塊となるのは火を見るより
明らかだ。
周囲の状況を確認するレイチェル。機銃を全て破壊するのは、恐らく不可能だ。
現実的なのは――。


レイチェルは、自らが便りとしていたザイルを、抜き放ったリボルバーで撃ち抜いた。
ふわり、と。一瞬身体が浮くような錯覚を覚えた後、彼女の身体は凄まじい勢いで落下
を開始する。

「時空圧壊《バレットタイム》――!」
本来ならば、一瞬の内に、地面に吸い込まれるように落下していく筈のレイチェル。
しかしながら。
彼女の落下は、ゆっくり、ゆっくりと。
その速度を落として――

「邪魔くせぇぜ!」
両腕を伸ばし。二挺のリボルバーを蝙蝠型の奇機獣へ向けて全弾撃ち放つ。
曇った銃声が、シャフト内部に響き渡る――。



――そして、世界は時の刻み方を思い出す。


レイチェルの身体は、再び殺人的な速度で以て地面へと落下していく。
目前に迫る終着地点《デッドエンド》。叩きつけられれば、幾らダンピールのレイチェルとて
無事では済まない。
レイチェルは、掌を翳す。地の底へ向けて。

「衝撃《ブラスト》――!」
彼女が使う唯一の魔術。衝撃を操るその力で以て、まさに叩きつけられんとしていた床を撃った。
彼女の身体は上方向へ軽く吹っ飛び翻筋斗打つが、受け身は簡単にとれる。

「さて、あいつら大丈夫か……?」
蝙蝠の対処はした、筈だ。後は、そのまま滑り降りれば問題は無いだろうが……。
他の者の様子を窺う為に、レイチェルは上を見やった。

五代 基一郎 > エレベーターシャフト内部は一瞬にして処刑場に変わった。
密閉空間に近い中で機銃と、体内器官に訴える超音波を放つ無人兵器。
ただ突入する人間であればひき肉になるのみだが。

レイチェルを含む隊員達に浴びせられる機銃。
レイチェルがザイルを斬り放し、迎撃している瞬間。

隊員達はエレベーターシャフトのワイヤーから手を離す。
構えていたケースレス大型自動拳銃を両手で持つ。
自らを支えるもののないまま体をひねり、視線の先にある罠に向ける。
それはそれぞれ別の方向に向いている。誰がどの方に向ければよいかと体が覚えている。

そして、また機銃の雨の中で冷静に撃ちぬいていく。
機銃の弾丸がその体を穿とうとするも一瞬の明滅が起これば弾かれる。
特殊警備一課が専用に採用している特殊装甲。全身を包むそれは
対衝撃、対刃性で言えば対人火器を寄せ付けないものだがその特徴はシステム。
エネルギーシールドにある。それはエネルギー兵器や熱量、実弾をも一時的に弾くものだ。

もちろんバッテリーの浪費もある故に許容量もあるが、
自動的なリチャージ可能なためある程度把握していれば
自己管理が可能だ。

加えてフルフェイスヘルメットが外的に障害となる音、光なをど自動的にシャットアウトする。
攻撃行動が認められた瞬間にそれを弾く。

ワイヤーから手を離されて自由落下のままドローンを迎撃しつつ
目標近く、地下三〇階に近づけば壁を蹴り各々減速していく。

そしてレイチェルに続くように地下三〇階のエレベーター口に近づけば
壁を蹴りつけ止まり、エレベータードアを殴りつけてその入口を確保した。

■隊員>「クリア。地下三〇階に突入します。」

三班、四班がレイチェルに頷き
一班、二班が先導する。


一方飛行船『マリア・カラス』では事態の状況を掴みに掛かっていた。

■第一小隊長>「報道管制、どうなっている?この島全体に流れているぞ」
「報道機関には全て伝えて了承は取ってある。つまりそれ以外だな。」

それ以外。つまり我々の目の届く、いやそれ以外のものが何か関与している。
ドローンや機関銃の罠に関する管制もある。
『七色』の工作か、『七色』以外の団員……今回の工作を手伝ってる者が
この島では管理しえない……有り得ない、公的なもの以外の報道を可能にしているというのだろうか。

突入部隊との無線はオフラインになっている。
妨害を考慮してだが、どうなっているのか……

『美術屋』 > 朽ちていく、減っていく。
どんどんどんどん、時間とともに。
公安は強行。しかしその突貫力は絶大。

ドローンがオトリの一人に気が向けば
連携で動きを封じられる。

計算された動き。
荒事に慣れた指揮の動きだ

時間稼ぎにと置いたものは紙のように通過され
選別はなされず、まだ十二分な人数が残っている。

――ならばと、出したのは大型。

重工の最新技術と、最新火器を備えたそれで迎え撃つ。
そこにくわえて、魔術が作動する。

『What a piece of work is a man』

観客が、見たいと願った。
美術屋が描きたいと願った。
その、”感情”を糧に生みだす。
その傑作――

きっとこれは公安と、最高のショーを奏でることだろう。
抜ければ、最終目標までの道のりでここ以上の難所はない。
ならば――ここが一番の……


風紀の作戦指揮は素晴らしいものだった。
そしてその勇気もまた。
”知恵”と”勇気”……
あとは――

    ”実力”だ。

獣型――ライオンのような機獣。
数は、20そこらか。
仕掛けるのは、それが限界だった。
残ったメンバーで、何人が、どれだけの時間で抜けれるか。
背景を整えるのは、それが。限界だ。


とある個室で、尋常じゃない汗をかきながら
少年は、熱のこもった脳に命令を送り続ける。

「七色……キミの望んだ背景は、描けたかな?」

じっとりと蝕む汗に。
選ばれた者たち以外が、この先にいかないよう
さらにプログラムを走らせていく……

それにしても……

”死者”を出さないようにコントロールするのはなかなか、骨がいる。
でもやるしかない。そのための舞台美術だ

『七色』 > 地下10F。依然として先行突入した公安委員が、的確に場を収めていく。
隊員からリアルタイムで反映される情報が、I-RISを中心に公安・風紀両委員会の司令塔へと還元される。
3DCGで描かれたミニマップには、絵の具がキャンパスに広がるように、勢力図が塗り替えられていく。

「……頃合かしらね。」

レイチェルが隔壁を抜ければ、出迎えたのはエレベーターガールやホテルマンなどではない。
事の首謀者。銀髪の大女優。『七色』の姿がそこにあった。

「や、ごきげんよう。」
「あなたはどうか知らないけれど……私は、あなたに会いたかったわ。」

監視カメラが二人の姿を捉えて放さない。
その光景もまた、リアルタイムでの配信がなされている。

「風貌良し。気勢良し。おまけにこの島で生き抜くには、実力も申し分なし。」
「あなたなら、素敵なヒロインになれると思うの。」

色のない通路に色のない外観。
ただそこにいる『七色』だけが、有り余るほどに色を放っていた。
それは大女優だけが持ち得る風格か。
以前レイチェルが対峙した劇団員よりも、その圧は遥かに強かだ。

「どうかしら?」
「素敵だとは思わない?」

レイチェルの顔を覗き込むようにして、口元を妖しく歪ませた。

レイチェル > 「流石は警備一課、ってとこだな。噂通りの実力と装備って訳だ」
警備一課の動きを見れば、心の底から感心したのかそんな声をあげて、顎に手をやる。


やがて隔壁を抜ければ、レイチェルの眼前には一人の女性が立っていた。
先ほど見た映像にも映っていた、フェニーチェの『七色』であった。
映像越しに見た顔ではあるが、実際に見るのは彼女にとって初めてだ。

「……ヒロイン?」
手に握ったリボルバーを、いつでも抜き放てるように意識しつつ。


「何を言ってるのか分からねーな。フェニーチェへの勧誘のつもりか?」
妖しい美貌がレイチェルの顔を覗き込んだ。
対し、レイチェルは眉をしかめながら、視線は合わせずただ目の前だけを見ている。

五代 基一郎 > レイチェルと隊員達がそうして降下した先には
フェニーチェ最大の演者『七色』そしてライオンのような機獣。

『七色』がレイチェルに語りかければそれは指名なのか。
隊員らが動けば、機獣もまた動く。どうやら特殊警備一課の人間に当てられたようだ。
『七色』の邪魔をさせないための配慮か。ならばと
ゆっくりと『七色』から剥がすように動き……レイチェルへ隊員が手で伝える。

機獣はこちらで対処する、『七色』は任せると。
ライフル銃を背部のアタッチに回し突入用の斧を構えたり
ナイフのみに持ちかえたり
各々強化装甲の拳を固め始める。閉所での近接戦闘を想定したものへと変えて
別の区画入口近くまで分散させるように動いていく。
機械獣との閉鎖戦闘、しかも移動しながらで同数、それ以上の連中と戦うのは骨が折れそうだがやるしかない。

故に、一人が駆けだせば他の者らも戦闘態勢を維持したまま移動戦闘へ切り替えていく……

『七色』 > 「あら? 女の子なら誰だって憧れるものだと思っていたけれど?」
「ふふ。いいわ。どの道あなたがどうであれ、世間の注目は"私"と、そして"あなた"よ。」

くつくつと笑いながら、背を向ける。
ついて来い。そう言わんばかりに。
刹那眩い光が二人を包み、白闇が明けるころにはそこには誰もいなかった。
他の風紀委員たちを残して。

転移荒野、遺跡群。
二人の姿は、その一角へとジャンプアウトしていた。
ゴシック調の古びた意匠。風化し色の落ちきった彫像。
空には報道ヘリ。周囲には照明が。
舞台の上に立つ二人を見つめている。

「私の物語は、最後のひとかけらだけがずっと足りないの。」
「あなたが放った"ゲート弾"(あの弾丸)なら、それを埋められる。」
「私を満たしてくれる。私を完成に導いてくれるわ。」

指を弾けば、その手には装飾麗しき細剣が煌く。
二三度振るえば、刃に移りこむ月光が、その鋭さを暗示させるよう。

「でもただ撃たれるだけじゃ、三流脚本もいいところ。」
「私という作品を完成させるため、ここに一騎打ちを所望するわ。」
「嫌とは言わせないわよ。もう地下プラントに残された時間は僅かしかないもの。」
「島が爆ぜるか私が爆ぜるか。」
「どちらも刺激的だとは思わない?」

「……なんて、言葉は不要ね。」
「此方から行くわ!」

驚異的な加速度で間合いを詰める!
一閃二閃と視界を埋め尽くす程の刺突の嵐!
戦闘訓練を積み重ねたものだけが体得できる剣術の技前を、彼女は"ただの演技"として表現することができる。
それこそが彼女の異能。彼女の異名。
《比類なき大女優》。
舞台の上で、他の追従は許さない。

レイチェル > 「生憎と、ヒロインなんて大役やるには血で穢れ過ぎちまっててな」
肩を竦めながら、リボルバーは離さずに。


「……空間転移、か」
光と共に、周囲の景色が一変する。
そこは、転移荒野の遺跡群。馴染みのない場所ではあるが、
大方の位置は彼女も把握出来る。


「ゲート弾……ね」
レイチェルは、彼女の身の上などは知らない。
しかしながら、彼女が死を望んでいるらしいことは察し、柳眉を逆立てる。

「何でてめーがそんなに死にたがってるのかは知らねーが……オレの目的は
島の爆発を止めることだ。なら、此処でやるのはどのみち一騎打ち、って訳だ」
二挺のリボルバーをしまい、新たに取り出したのは魔導剣。
先日『癲狂聖者』と撃ち合った一振りの刃、魔を断つ剣だ。

加速。一瞬にして失われる間合い。
超人的な速度で振るわれる細剣。

「てめぇ……剣術士か!?」
およそ外見からは想像がつかない激しい刃の嵐に、レイチェルは舌打ちをする。

加速に次ぐ加速。
離れては激突する刃。
耳をつんざく剣戟の音。
荒野を照らす月光の下、数多の火花が咲いては散りゆく。

五代 基一郎 > 己の体ごと機獣に体当たりし、壁へ叩き付けめり込ませ動きを封じる隊員
その視界の脇でレイチェルと『七色』が消えた。
異常事態である。そして『七色』の目的たるレイチェルと檀上に上がることが叶えば
機獣の動きが緩慢になり、そこを特殊装甲の隊員達が仕留めにかかる。
目的を達成したからこそ後は不要であるかのように。

完全に裏を掛かれた形となった。ゲート弾は確かにブリーフィングの段階で
『七色』のその特性上各々一発は持たされている。
故にレイチェルでなくとも、であるがレイチェルでもと思っていた。
指名されても誰でも戦え、一対一に持ち込めれば勝機はあると。
だがそこまで、転移してまで『七色』がレイチェルへ固執することは想定を外れていた。

『七色』の支援者たる者も既にそれは了承済みだからなのだろう。
思えば報道機関を外れた島全体へのライブ放送。そこからして常軌を逸している。
そこまでレイチェルに固執する理由がわからない。

作戦時の現場での対応から外れる事態が起きた。
主たる目標は今現在ここにいない。隊員らは無線封鎖を解除して
公安の実働班と、風紀の特殊警備一課を結ぶチャンネルを開く。

■隊員>「事態が急変しました。『七色』がレイチェル・ラムレイを連れてこの場から転移しました」

■第一小隊長>「把握している。対象と彼女は現在遺跡群古代劇場だ」

そう。先の通りリアルタイムの報道でその様子は流されていた。
現状が、今『七色』とレイチェルが何をしているかが映像として。
用意のいいことだ。

「エネルギープラントは災害時の破損を考慮して安全策がとられているはずだ。
 都市部での爆発を避けるために洋上まで区画ごとパージするものだが
 そちらからコントロールできないか」

動きが緩慢になった機獣を組み伏せて破壊した隊員が
エネルギープラントのコントロールユニットに近寄り
操作を試みるが、それは無駄に終わった。
オーバーロード時に予想せれるタイムリミットへの数字だけが進んでいく。

■隊員>「駄目です。操作を受け付けません。」
■第一小隊長>「残された手段は手動しかない。」

手動でシステムを作動させ物理的に洋上へ切り放すには
明らかに時間が足りない。それでもやるしかない。
島が吹っ飛べばそれこそ何もかもやってもおしまいなのだ。
逃げ出すよりはマシである。

「いや、まだ手はある。」
だが、そう。まだ手は残っている。
最初に『七色』が告げた通り。このオーバーロードを止める手段が。

「レイチェル、レイチェル・ラムレイ。聞こえるか。」

その最後の希望へと無線を通して語りかけた。

『七色』 > 「舞台の上で求められる役割というのは、その都度違うわ。」
「剣客であったり、怪盗であったり。」
「時にはまったく華もない、ただの囚人の役だったり。」
「挙句死体の役だったりね。」

思い出話に花咲かせながら、刃交えて幾許か。
アングルをぐるりと変えるため、報道ヘリが大きく空で弧を描く。
カメラマンがズームしたところで、レイチェルの剣が大きく『七色』を切り付ける。
舞う血飛沫を全身に浴びながら、それでも彼女は怯まない。

「血は本当に穢れなのかしら?」
「演出にも料理にも、刺激的なスパイスは必要よ?」

レイチェル > 魔導剣が大きく『七色』を斬り裂く。
それでも怯まない『七色』に対し、レイチェルは次の刃を振るう。
映像越しに自傷行為を見てはいたが、この女は不死身なのだろうか、と。
そんな考えが彼女の脳裏に過る。

その間にも、互いの剣が止むことは無い。
やがて『七色』の剣も、レイチェルを大きく斬り裂いた。
襲い来る痛みに顔を顰めるが、それでも彼女は退かない。


「そんな刺激は万人受けじゃねぇな。……どうして、てめぇはそんなにオレに固執する?」
『七色』は最初から、わざわざレイチェルのことを指して、そしてここまで運んできた。
血で穢れているといえば、フォローを入れるように言葉を返す。
『ヒロイン』となるように、誘うように。
彼女にとっては、これらのことが不可解で仕方のないことであった


五代の声が耳に届けば、インカム越しに返答を返す。
「ああ、聞こえてるぜ」

五代 基一郎 > 「エネルギープラントのパージも不可能、オーバーロードを止める手段はこちらにはない。」

返事が返ってくればまず要件を伝える。
残された時間は少ない。

「止めるには『七色』を退場させるしかない。
 ヤツは檀上の演者とそこにある、そこから見える世界に魅入られた魔だ。
 魔を断て、レイチェル・ラムレイ」

如何なる理由があろうともそれを行ってはいけない分水嶺がある。
境界線がある。それを越えれば、人は人でなくなり
また演者も演者でありつつ、それはまた別の性質に変わる。
『七色』もまた既に演者という何者にも姿を変えて人々を魅了する役者から魔性の者へ。
劇団の檀上にあがる演者ではなく、魔性の光。闇の中で鈍く輝く光。
そして、その光が誘発させる破滅の光。
時間がない。島が吹っ飛んで地図上から消えるまで。

「俺も島が吹っ飛んで周りは海というシチュエーションで
 海には入りたくないからな。
 時間がない、頼んだぞ。」

『七色』 > 「単純なことよ。」
「あなたが一番適任だから。」
「それ以外に必要かしら?」

細剣を地面に振るい、滴る血潮を振り払う。
刃に残る赤の色。指先を這わせ拭い去れば、瞬時にして赤は猛々しく燃え上がった。

「私、異邦人だったの。」
「最初に見た光景はここ。舞台の上で、一人演技に興じる男がいたわ。」
「もうその男はいないけれど……私にこの世界で生きる指針をくれたの。」
「女優としてね。」
「でも、彼は私がどれだけ見事に演じきっても、ただ一つの理由だけで心から認めてはくれなかったわ。」

「『私が死ねない』から。」
「だから彼は"完成した"し、私はどれだけ演じても"未完成"のままなのよ。」

刃が一層燃え上がる。
彼女の心象を表現するかのように。

「でもそんな私に、終わりを与えてくれる存在を見つけたの。」
「それがあなた。」
「あなたは私を殺して、名声を得るわ。」
「あなたがどう思おうと、それは確実にあなたを取り囲む。」
「そしてそんなあなたに倒された私は、女優のまま綺麗に消え去ることができる……。」
「身勝手かしら? 身勝手ね。」
「でも女ってそういうモノでしょう?」
「芸術は、情熱よ?」

細剣を天空目掛けて逆袈裟に振るえば、火柱のように次々と噴き上がる!

レイチェル > 五代の声を耳にして、レイチェルは決意を新たに目の前の女を見据えた。

「演じても演じても、未完成……死によって完成される……か。
 とんだ演劇狂いだな、『七色』。突き抜けてるその拘りだけは、
 ある意味賞賛したいところだぜ」
『七色』の話を聞いて、その言葉と裏腹にレイチェルは顔をしかめた。

血振りをする 『七色』を前に、レイチェルは改めて魔導剣を構える。

「名声なんざ要らねぇ。舞台女優《ヒロイン》も、英雄存在《ヒーロー》も、まっぴらだ。
 誰だって憧れる、お前はそう言ったな。けど、オレはそんなもんに、憧れてなんていねぇ。
 オレが刃を振るうのはな、名声の為じゃねぇ、己の信じる大義、なんて
 英雄様の抱くような、ご大層なものの為でもねぇ。
 お前と同じ、ただの身勝手だぜ、『七色』――」

柄を握る手に、力を込める。

「――オレがこうしてるのは、てめぇのやってることが、気に食わねぇからだ!」

疾駆。
噴き上がる火柱を、躱しながら。
燃え上がる炎が、レイチェルの制服を、肌を、掠めていく。
レイチェルは、退かない。

間合いを詰めて、魔導剣を大きく横に振りかぶった。
そのままであれば、先の剣撃と大して変わるまい。
しかし、レイチェルはそこで口を開く。

「――衝撃《ブラスト》!」
レイチェルの魔力が、収束してゆく。
魔導剣が、レイチェルの魔術に呼応するかのように青白く光輝く。
同時に、レイチェルの振るう魔を断つ刃は、爆発的な勢いで以て
『七色』を吹き飛ばし斬る勢いで、振るわれる!

『七色』 > "上"と"下"で寸断された大女優は、月下の宙に舞い上がった。
虚ろに開いた目は、瞬時に色艶を取り戻す。
雑に地面へと放り出され、雑に転がり雑に伏す。
しかし彼女は絶命などしていなかった。指先だけで這いずって、仰向けになりレイチェルに向き直る。

「さ、おやりなさいな。」
「それでプラントの臨界も収まるわ。」

一陣の夜風。
遠くから響くはエンジン音が近づいてくる。
空には輸送ヘリが隊列を組み、陸には装甲車両が列を成す。
公安が、風紀が、行政の手勢が、枯れた劇場跡地を取り囲み始める。

レイチェル > 吹き飛ぶ『七色』を確認し、クロークの内から一挺のオート拳銃を取り出す。
彼女が死んでいないことは勿論分かっている。

装填されているのは、ゲート弾。
小型の門を作り出し、相手を必滅させる風紀委員の最終兵器の一。
冷たく輝く銃口を『七色』に向けると、レイチェルは静かに口を開いた。

「最後に聞くぜ。プラントの臨界を止める気は無いのか?」
彼女自身も、『七色』が頷くとは思っていない。
しかしながら、聞かずには居られなかった。
彼女の過去を知ってしまったからだろうか。或いは。
彼女自身にも分からないままに、言葉だけが口から放たれたのだった。

『七色』 > 「あら、優しいのね。」
「……ふふ、でも残念。」
「ここで全てを捧げて、私はそこでようやく終わることができるの。」
「団長(あの人)がいなくなってから、私の生にもう意味がないのだと今では思っている。」
「だからきっと……。」

「ここで生き長らえば、また何度だって同じことするわよ?」

悪戯な笑みを湛えながら、目を細めてみせた。

レイチェル > 「……皮肉じゃねぇが、見上げた女優だよ、てめぇは」
トリガーに指を掛ける。
不老不死であろうが、この一撃を受ければ、再び蘇ることも無い、だろう。

「同情は……しねーぜ」

それはそれは、飾り気無く。
それはそれは、呆気無く。
それはそれは、淡々と。

「……あばよ」

『七色』という名の大女優を終わらせるべく、
乾いた発砲音が、荒野に響き渡るった。

『七色』 > 上半身が"門"に飲み込まれ、続いて下半身が紫色のガス状となり霧散した。
本来であれば、あのガス状生命体が彼女の本質だったのだろう。
結合する先がこの世界から消滅することで、存在に矛盾が生じて消滅に至る。
集う行政の手勢は順次撤退を始め、調査班だけが駆け寄ってくる。

「お疲れ様です。」

天然水入りのペットボトルを彼女に渡し、現場の検証に移った。
恐らく、直に五代から事の収束が通達されるだろう。

ご案内:「天津重工本社ビル」から『七色』さんが去りました。<補足:銀髪おさげの女。派手なスーツに身を包む>
『美術屋』 > すべての掌握していたシステムの権利を破棄する。
痕跡も綺麗に消して、それくらいはお手の物だ。
負傷者はいれど死者はいないよう、”努力”はしたが――さて……

ドローンが力なく倒れ伏す。隔壁も、すべて元通り。

静かに汗だくになった身体を起こして、部屋から後にする。
その頬に、涙を落して。

――素敵だったよ、七色。最期を特等席で見れてよかった

ご案内:「天津重工本社ビル」から『美術屋』さんが去りました。<補足:姿のない『美術屋』。無数の無人の戦闘用ドローンを操る。電脳世界での『シュージン』>
五代 基一郎 > 天津重工本社ビルでは手動のパージが試みられていたが
その最中、無線で入った『七色』の退場と同時に
オーバーロードは止まり徐々に平常動作に戻って行った。
つまり、危機は去った。
現場で作業をしていた特殊の面々はひと息ついて、撤収を始めた。

一方五代といえば転移してレイチェルに無線を掛けてすぐ
『ブラスレイター』を回収した『ベッコウバチ』に乗り込み
現場に急行していた。到着する頃には、事態は収束していたわけだが。

『ベッコウバチ』から『ブラスレイター』共々そこへ降りて
レイチェルへ伝える、事は終わったのだと。

「エネルギープラントの暴走は停止。フェニーチェの大女優『七色』は退場。
 これでこの件が終わり、事態の流れは終息していくだろうさ。」

そう。檀上に上がる演者が退場してしまったのならば
それは乃ち閉幕となる。演者のいない舞台など誰が見るというのか。

「お疲れ様、だな。」

レイチェル > 五代がやって来れば、よ、と。手を振って応える。

「これで、閉幕か……」
手の内に残ったオート拳銃を改めて見つめながら、レイチェルはそう口にした。
いつも握っている筈の拳銃は、いつもより、ほんの少しばかり重く感じた。

「ところで先輩、さっき無線で海がどうとか言ってなかったか?」
ほんの一瞬だけ何かを思うように視線を落としていたレイチェルであったが、
すぐにふっと笑顔になり、五代の方に向き直った。
そして、小首を傾げるレイチェル。

五代 基一郎 > 「そうなるな」

振られた手に返すように同じく手を振り返す。
レイチェルの顔色が浮かないことも、言葉からも察せられる。
いくら風紀で荒事を率先するレイチェルであっても、立て続けにほぼ死と
ほぼ同義の事態を己の手で行った。

もちろん、やむ負えない事情ではある。
そうしなければならなかったに足ることがあった。
罪を犯したものであってもその命や存在に対する価値を法の番人であっても
断定することなどはできない。
悪党だから殺していいなどというのを前提として置くのは大間違いである。
かつてある人が言った。目には目をでは世界中の人間が盲目になると。
解釈は違うかもしれないし元の言葉も今じゃ忘れられているかもしれない。
だかそれは意味ある言葉だと思う。

そしてそれについて呵責が起きるのであれば、真っ当な人間である証拠であり
だからこそその真っ当な人間の心に対して出来る人間がするべきことをしなければならない。

「ん、あぁ……海、行くか。海。ちょうどいいし休み取ってさ。
 丸一日海で遊ぶか。と言っても俺は遊び方知らないから今度もよろしく頼むよ。
 レイチェル先輩。」

日常を、その心の為にと。時間と世界を戻すように誘う。
もちろんその差異が広がることに苦しみが生まれるかもしれないが、今は必要な事だと
守るべきものをということも色々あるとしつつ、単純に海に行きたいことを立てて誘った。

続いてきた事件から、日常の世界へ。

レイチェル > 「そうか、そうだよな……」
人を殺すのには、きっと『普通』の人間よりもずっと慣れている。
元の世界でレイチェルは、魔狩人をしていた。
その中で、魔の憑いた人間や魅入られた人間を殺してしまったことは何度もあった。
それでも。今でも毎度のように、掌の内にある拳銃を重く感じてしまう。
しかしきっと、この少しばかりの重さこそが、
レイチェルという存在を『人』の側へ繋ぎ止めているのだと、彼女自身思うのであった。


「ふふん、それじゃあその時はしっかり付いて来ることだな、五代!」
偉そうに腕を組むレイチェル。
そうして五代の待つ、日常の世界へと、レイチェルは歩いて行ったのだった――。

ご案内:「天津重工本社ビル」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪眼帯の風紀委員の少女。身体の一部を機械化したダンピール(ただしハーフエルフと吸血鬼の子)。元魔狩人。>
ご案内:「天津重工本社ビル」から五代 基一郎さんが去りました。<補足:特殊警備一課の制服。仕事中。>