2020/08/02 のログ
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女 ソロール>
水無月 沙羅 > 落第街やスラム街にある、提供された幾つかの隠れ家を転々とし、風紀委員から、あの人から逃れてきた。
それも今日で終わり。
現実から目を逸らして、月に願うのは今日でおしまい。
ロマンチシズムを、幻想をあの人に押し付けるのはもう終わりにしよう。
幻想は現実にはなりえない。
どんなに願っても、星に願っているだけでは意味がないのだ。
ロマンチシズムに思いをはせるのが悪いと言いたいわけじゃない。
其れに寄り掛かって、其れを誰かに押し付けてしまうのは、それはもうエゴイズムでしかないのだ。
それを、在ろうことかエゴの塊とでもいうような人に教えられた。
でも、ある意味必然だったのかもしれない。
エゴで動いてきたからこそ、彼は彼女を救えたのだ。
我儘という名のエゴイズムを突き通したからこそ、あの事件は大団円とは言えずとも、最悪の中の最善をつかみ取った。
「でも。」
それは、許されるのだろうか。
水無月 沙羅 > 星空を見上げながら想う。
自分の『我儘』は、誰かに押し付けてもいいモノだろうか。
それは負担にはならないだろうか。
誰かを傷つけてしまうのではないだろうか、誰かを壊してしまうのではないだろうか。
『我儘』、言い換えれば、自分のしたいことを他人に『強要』しているともいえる。
それは暴力と何が違うというのか。
誰かを説得するということは、それは何かを諦めさせるという事だ。
それは、その人の抱えている何かを『殺す』という事だ。
侍の様な彼は。
『"知るか、そんな事"』
そう言ったけれど。
それを言うのは、それを通してしまうのは、とても怖いことなのだ。
他人を傷つけるというのは、とても怖いことなのだ。
それは時に、人の人生を大きく変えてしまうから。
お互いの関係を大きく変えてしまうから。
変化は破壊からしか生まれない。
それを痛いほどわかっているからこそ、それに恐怖せずにはいられなかった。
水無月 沙羅 > 「難しいね、『我儘』を貫き通すのって。」
『生きたい』 ただそれだけの我儘を通すために、自分は多くの命を奪った。
『隣に居たい』 ただそれだけの為に、多くの命が失われていくことに目をつぶった。
『お人形にはなりたくない』 ただそれだけの為に、彼を独りにしてしまった。
何かを成すという事は、何かを失うという事とセットなのだ。
一歩間違えれば、取り返しのつかない結果になるかもしれない。
もう二度と戻れない。 失ったモノは還らない。
消えた命がもう一度灯る事は無いように。
過ぎてしまった時間は戻らないのだ。
時間を遡る自分の異能は、本当の意味で時間を戻してくれるわけではない。
そうあったという記録をもとに、上書きしているに過ぎない。
水無月 沙羅 > 「それでも。」
それでもと言い続けなければ、どんなに苦しくても、どんなに辛くても。
それでもと言い続けなくては、何も変わらない、何も変えられない。
「やらなくちゃいけないんだよね。」
「決めたんだから。」
「あの人を『助ける』って、決めたんだから。」
どんなに遠回りでも、どんなに空回ったとしても。
そう決めたのならば。
『我儘』を通すと決めたのならば。
その痛みを胸に、傷つける事を覚悟して、傷つくことを覚悟して。
前に進むしかない。
「だから、見守っていてくれますか。」
星空に願う。
今度は、『幻想』ではなく、『現実』にするために。
ご案内:「大時計塔」から水無月 沙羅さんが去りました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女 ソロール>
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女 ソロール>
ご案内:「大時計塔」から水無月 沙羅さんが去りました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女 ソロール>
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女 待ち合せ済み>
ご案内:「大時計塔」に神代理央さんが現れました。<補足:ダブルテーラードのジャケット/金髪紅眼/顔立ちだけは少女っぽい>
水無月 沙羅 >
―――A few minutes after that.
神代理央 > 謹慎の処罰を受けての週末。
昨日と同じ様に自宅での事務処理を片付け、あてどなく徘徊する様に外出した。
あの広い部屋に一人で閉じこもっている事が、想像以上に、辛かったから。
多くの人々で賑わう学生通りや商店街を横目に。
彷徨い歩いた足が向かった先は――島を見下ろす大時計塔。
孤独になりたかった訳じゃない。
ただ何となく。本当に何となく。静かに夜空を見上げてみたくなったから。
「……とはいえ、此処に来るまでが一苦労ではあるがな…」
僅かに吐息を乱して。
立ち入り禁止になっている大時計塔の展望台への扉を開いた。
大きく金属が軋む音と共に足を踏み出せば、吹き抜ける夏の夜風が頬を撫でる。
――そして、視界の先に。
一番会いたかった人が。
一番会いたくなかった人が。
其処には、居た。
水無月 沙羅 > この街で一番高い場所。
全てを見渡せるその場所で、不意に風が吹いた。
巻き上げられる髪を抑えながら、風の吹いてくる方へ振り向く。
いつの間にか星空に吸い込まれていた意識が、開かれていたドアに向けられる。
誰が来たのだろう。
あの小さな先輩か、それとも星空の瞳を持った少女か。
そんな想像は思いもよらぬ訪問者によって打ち砕かれて。
「理央さん……?」
本当は、自分が連れてきたかったこの場所に。
いつか連れて行くと約束したその場所に。
この街で一番『重力』の軽いこの場所に。
今は一番来てほしくない人物が立っていた。
「……奇遇ですね。」
驚く心を胸に隠して、彼を見つめる。
目を細めて、笑いかける様に。
神代理央 > 「……ああ、奇遇だな。本当に…まさか、此処でお前と会うとはな」
彼女の視線を受けて。彼女の言葉を聞いて。彼女の笑みを見て。
己は果たして、どんな表情を浮かべているのだろうか。
少なくとも、きっと自然に笑えてはいない。
真面目な表情を、意識しているつもりなのだが――
「……にーな、と名乗る少女から、生活に困窮していると聞いた。
不便にしている事があれば、多少は協力するが」
コツ、と革靴が床を叩いて、彼女の元へと一歩踏み出す。
何時もに比べて随分と重たい足を意志の力で引き摺りながら、少女から数歩離れた展望台の端。手摺に身を預けて、夜空を見上げる。
「とはいえ、資金援助程度しか出来ないがな。大手を振って、行方不明扱いのお前を援助するのは、色々と勘繰る者がいるからな」
表情を変えぬ儘、彼女に顔だけ向けて言葉を紡ぐ。
己でも判断のつかぬその表情は――泣いている様な、笑っている様な。様々な感情が無秩序に注がれ、溢れ出しそうな。
そんな表情の儘、彼女に向けて静かに言葉を紡いだ。
水無月 沙羅 > 「私は、良くここに来ますから。 立ち入り禁止ですけど。」
少しだけ苦笑する、本来学生は立ち入り禁止であるこの場所に、風紀委員という秩序を守る者が二人して並んでいる。
誰も気にしてはいないが、問題がないというわけでもない。
何より、こんなところまで来た彼が未だに物調面なのがどこか可笑しくて。
「……先輩。 やっぱり馬鹿でしょう。
スラム街や落第街で、あんな大金持って歩けるわけないですよ。
お札やらなにやら、あそこでは有名人になった私は、ほとんど相手にされませんよ。
なにしろ、神代理央の恋人、ですからね。」
目の上のたん瘤、関わりたくない相手。
手を出したら、関わったら、どんな仕打ちが待っているかわからない。
それも自分たちを散々ないものとして扱ってきた人物の関係者。
袋叩きにされないだけマシだったともいえる。
少し考えればわかるだろうに。
紅い革財布を、塔の下に落ちないように彼の足元に滑らせる。
「泣きたいような顔、してますね。 独りは、辛かったですか?」
何処か強がってみせる少年に、昔の自分が重なった。
空を見上げる彼に倣うように、先ほどまで見上げていた星空をもう一度眺めた。
月は明るく二人を照らしている。
神代理央 >
「…感心しないな、と言いたいところだが。私自身もこうして訪れている身だ。バレない様に、程々にしておけ」
淡々と、注意――というより忠告の色合いが強い言葉で彼女に応える。
それは正しく『部下を注意する上司』『後輩に忠告する先輩』を守る様な。意識して、一線を引く様な。
「……そうか。アナログではあるが、電子決済の必要無い現金であれば、と思ったが、役には立たなかったか。すまないな。
……お前は、命を狙われている身だ。その理由が、私の恋人であるから、という訳では無かろうが、一因である可能性は高い。
余り広言するな。自分の身を守る事を、第一に考えろ。
…本当は、此処で会うとも思っていなかったし、会いたくはなかったよ」
感情という水が、縁一杯迄溜まった様な表情が一変。
苦虫を噛み潰したような表情へと変われば、その言葉は責め立てる様な色すら浮かぶ。
足元に滑り込んだ紅の皮財布。それを一瞥すると、黙って拾い上げ、懐へと収める。
「……冗談を言うな。私は、一人でいる事の方が長かったのだぞ。
今更、今更独りが辛いなどと思う訳がなかろう。
私は『鉄火の支配者』と呼ばれる男だ。孤独に揺さぶられる様な柔な精神なぞ、しておらぬ」
フン、と高慢な色の滲む吐息と共に、吐き捨てる様な。彼女を遠ざける様な言葉を投げつける。
そのまま、視線は再び輝く星空へ。穏やかな月光へ。
優しい月光すら、今は忌々しかった。
水無月 沙羅 > 「……。」
少年の言葉を一言一句聞き逃さないように聴いていた。
窘める様に、高慢な男のように、孤独が辛くないように、そう見せかけるその少年の声を聴いていた。
あぁ、どこまで言っても彼は、私の前でさえもまだ、その仮面を脱げずにいる。
『鉄火の支配者』、そう望まれる形を保てるように。
自分を偽るのだ。
――――風の音が、沈黙を許さないかのように鳴る。
何処か気まずい雰囲気が続く中で、少女は、沙羅は口を開いた。
もう、『ごっこ遊び』は終わりにしよう。
「そうやって、何時まで強がっているんですか?」
「そうして、何時まで泣き顔を仮面で隠し続けるんですか?」
「私を突き放して、守っているつもりなんですか?」
「本当は、泣きたくて仕方ない癖に。」
少なくとも、水無月沙羅に垣間見せていた神代理央は。
『鉄火の支配者』の仮面から覗いていた小さな少年は。
そんな人間ではなかった。
神代理央 >
「……分かった様な口を、聞くな」
手摺を握る掌に、力が籠る。
「……もう、私の仮面は癒着して剥がれない」
「演じる事が楽だからな。求められるが儘にいる事の、何と気楽な事か」
「その結果が、あの道化師紛いの殺し屋なのだから、笑い話にもならぬが」
ゆっくりと、少女に顔を向ける。
その顔は――少女の言う通り。思う通り。
泣きだすのを堪える様な、子供の様な表情で。
「今更戻れないんだよ。私が何人殺したと思っている。どれだけの人の物語を、終わらせたと思っている」
「今更『これからはいいひとになるからゆるしてください』などと戯言を吐けるものか」
「もう許しは請わない。もう切り捨てる事を躊躇ったりはしない。
私はシステムの守護者。多数派の幸福を維持する者。『秩序ある社会』を守る者」
ギシリ、と鉄柵が軋む音がする。
魔術について、少年よりも造詣の深い少女であれば分かるだろうか。
半ば暴走めいた形で、肉体強化の魔術がその躰から滲みだしている事に。握りしめた手摺が、悲鳴を上げて歪み始めていた。
「……だからもう、俺の傍に来るな。俺は、独りだってやっていける。
今迄上手くやってきた。今日までだって、上手くやっている。
だからもう、来るな。もう、俺の傍に、俺の、隣に――来るな!」
吠える様に叫んで、手摺を拳で叩き付ける。
不安定な形で発動した魔術は、金属が拉げる音と共に鉄柵と己の拳を平等に傷付けた。
――不慣れな激昂の後。
息を荒げながら俯く。
少女と視線を合わせない様に。合わせられないと、いうように。
水無月 沙羅 > ――来るな。
その言葉が発せられるのと同時に、いつかの時と同じように。
魔力を込める、肉体を強化する、自分の体が傷つくことをいとわない魔術を行使する。
そして。
鈍い音が、神代理央の頬に突き刺さる。
振り上げられた拳だけ、強化は使わずに、少女の等身大の強さで。
万感の思いを込めて。
「甘えないで。」
冷え切った声で、其れこそ、突き放すように。
「甘ったれたこと言ってんじゃないですよ。」
胸倉をつかんで、睨むように額同士を強くぶつけて。
「逃げるな!!!」
少年の仮面を、文字道理殴りつけた。
神代理央 >
頬に走る鈍い痛み。
それと同時に、視界が揺らぐ。
少女に、文字通り『殴られた』のだと気付いたのは、胸倉を掴まれてからだった。
「……な、にを…!」
咄嗟に向けようとした反論の言葉は、ぶつけられた額からの衝撃で打ち消される。
それでも、彼女を睨み付ける様な視線を向けて。
胸倉を掴む彼女の手を解こうと、その手を強く掴んで。
「……逃げて何が悪い!求められる事を演じて、かっこうをつけて、何が悪い!それが望まれているんだ、そうしていればいいんだ!」
抗っているのか、泣き叫んでいるのか。
最早己にも、判断がつかない。
「………もう、期待させるな。お前がいなくなった時、俺は少しだけ安心したんだ。
見限ってくれたんだと。逃げてくれたんだと。これでもう、俺はお前を傷付けずにすむんだと」
「なのに、お前は『鉄火の支配者』から俺を取り戻す、などと言伝だけ残して。腕章を残して」
「お前も狙われていると、まことしやかに噂が囁かれているというのに、そんな馬鹿な事をして」
「………頼むから、もう俺を独りにしてくれ。誰かと一緒にいる事が出来る、なんて期待を、もう俺に、抱かせないでくれ」
彼女の手を掴んでいた己の手は、いつの間にか解けて垂れ下がっていた。
視線を合わせず、俯いた儘。ぽつりと、言葉を零した。
水無月 沙羅 > 「悪いに決まってるでしょう!!」
眼すら合わせようとしない少年の顎を掴んで、無理やりに向かい合う。
あふれだす感情を、もう抑える事をしない。
感情とはこう出すのだと見せつける様に、怒りと、悲しみを溢れらせて。
「求められることを演じて? じゃぁあなたは、私の望みが見えてないというんですね!」
大衆の望みなんて知らない、私を視ろ。
「もう忘れたんですか? 私は貴方と傷つきたいと願ったんだ。」
そうやってあなたは、また私から目を逸らして、自分の心からも目を逸らす。
「もう忘れたんですか? 私は殺されてなんかやらないって、言ったはずだ。」
殺し屋がどうだというのだ、私は生きて居る、こうして、生きて居る。
死んでなんかやるものか。
「バカなのは貴方だ、そうやって、一人で全部抱え込んで。 独りになろうとして。
貴方の本当の気持ちから逃げてばかりいる。」
「仮面の裏にこそこそ隠れて、それが剥げないっていうなら!!」
「私が、『鉄火の支配者』を殺してあげます。」
少年の首を、少女の力とは思えないような力で締め上げる。
気道を抑え、呼吸を止める。
少女の目は冷たく少年に突き刺さる。
底冷えするような、少女の殺意が確かにそこにはあった。
水無月 沙羅 > 「私を視ろ。 神代理央。」
神代理央 >
「……か……はっ……」
首に、少女の指が絡まり、締め上げられる。
酸素を求めて手足が揺れる。塞がれた喉が、懸命に酸素を得ようと少女の中で震える。
向けられた明確な殺意。生命の危機。
【ほら見た事か。こういう事に成る筈だ、と常々警告していたというのに】
【出来損ないの仮面を被っているからだ。非情になりきれぬ癖に、非情であろうとするからだ】
【苦しいだろう?息も出来ず、心が軋み、何もかもが辛いだろう。私は、全て分かっているよ。何せ、生まれた時から、お前は私の大事な大事な――】
酸素が途切れ、視界が点滅し、昏くなっていく。
その最中。己の内奥から声が響く。動かない筈の手足に、奇妙なまでに力が籠る。
今なら、容易に彼女を振り解ける。それに、少し疲れた。
暫く眠っていても、バチは当たらないだろう――
【だが、まあ、良いだろう。さあ、ゆっくり休め。後は私に任せよ。先ずは此の忌々しい女を、お前の目の前から排除してやろう】
神代理央 > 「……そ、れは。だ…め、だ。こいつは、おれの、おんな…だからな…」
万能の力が満ちた様な手をゆっくりと持ち上げて。
虚ろな視線と、呼吸の儘ならぬ喉から、漸く単語として成立する様な言葉を零して。
神代理央 >
「……かわいいな、おまえ。ほんとうに、さらは、かわいいな」
そっと、彼女の頬を撫でる。
神が宿ったかの様な力は、もう満ち足りてはいなかった。
水無月 沙羅 > 「っ……」
咄嗟に手を離す。
何か、雰囲気が変わった。
口にしたとぎれとぎれの言葉は、何に対しての言葉だったのか。
それはきっと、忌々しい呪詛へ反旗を翻した証。
だから、もうこの殺意はいらない。
神代理央が抗うと決めたなら、もう必要ない。
あくまでも『自分』を決められるのは『自分』だけなのだから。
もう、手助けはいらない。
「かわいい女は、恋人を殺そうとしたりしませんよ。」
首を絞めた手を、もう片方の手で掴む。
血が滲み出そうなほど掴む。
罰を自分に与える様に、痛みを与える。
撫でられる頬に、苦い笑いを返した。
神代理央 >
「……が…はっ……っか、は……ぁ…」
呼吸が戻る。
急速に取り入れられた酸素に、喉が悲鳴を上げて咳き込む。
それでも、頬を撫でる手を離そうとはしない。
「……ばか。なにやってるんだ。そんなことしたら、けがをするだろう」
咳き込んで、涙で視界が滲む。
それでも、その視界に彼女が自らの手を自戒する様に掴んでいるのが見えれば。
それを止めようと、もう片方の手を伸ばす。伸ばして、掴んでいる手に触れる。
呼吸の儘ならぬ躰では、止められる程、強く握る事は出来なかったのだが。ただ、そっと握るだけ。
「…ばか。ばか、ばか、ばーか。さらの、おおばか」
未だ整わぬ呼吸の中で、幼児の様に言葉を繰り返して。
そのまま、彼女に凭れ掛かる様に、力が抜けて、倒れ込む様に。
水無月 沙羅 > 「いいんです、これは、罰なんですから……って、ちょ。理央さん……?」
やりすぎたかもしれない、血の抜ける様な音がして、恐ろしい光景が目に浮かんだ。
倒れこんでくる少年が、自分にもたれかかる。
幼児のように何度も言葉を繰り返す。
「うるさい……バカなのは貴方だ、自分の心配をまず……しなさいよ!」
治癒魔術を行使して、理央に施す。
異常がないか、魔力を眼に集めて、理央の魔力に異変がないか確認する。
脈拍を確認する、意識はもうろうとしているのは間違いない。
空気が足りないのなら、送り込めばいい。
「黙って……。」
抱き寄せる様にして、唇を重ねた。
そっと、赤子を抱くようにしながら、息を吹き込む。
神代理央 >
「…うるさい、ばか。おれがさらのしんぱいをしてなにがわる……っ…ごほっ…!」
紡ぐ言葉に、もう力は無い。
それでも、彼女に言葉を返そうと懸命に唇を開く。
開いた先から、また喉が悲鳴を上げて咳き込んでしまうのだが。
潰れかけた喉から、それでも懸命に彼女に返す言葉を続けようとして。
その唇は、彼女に塞がれることになる。
「……ん……ん、く…――」
治癒魔術に長けた彼女であれば、少年の身体と魔力の状態はあっさりと、見て取る様に分かるだろう。
精神の混乱による肉体強化の発動。それにより不安定な魔力の流れの儘、同調していた異能が強引に発動しようとした事によって不安定な魔力が少年の身体の中で更に乱れる事になった。
結果として、異能と魔術の半暴走と気道の圧迫による急激な酸素欠乏症。それが、少年の意識の混濁を招いていた。
だから、と言えるかどうかは分からないが。
息を吹き込む彼女に特に抵抗する事は無く、寧ろ縋る様に。
その腕をそっと掴むのだろうか。
水無月 沙羅 > 「(ゆっきー先輩の時と同じ……、暴走して乱れた魔力が自分の体を傷つけてる。
なら、魔力の流れを戻してあげれば。)」
紅い瞳は魔力による変化か、『金色』に輝いて理央を見つめる。
理央の内部にある魔力を操作する様に、体表面を撫でる。
魔力の流れに沿うように、導く様に、沈めていく。
見開いた瞳は必死に、命をつなぎとめようと動き回っている。
唇は押し付けられて、吐く息はゆっくりを理央の肺へ送られてゆく。
縋る様に掴む手に気が付いて、そっと手を重ねた。
神代理央 >
ぼんやりと見開いた瞳は、彼女の紅い瞳が金色に輝く様をじっと眺めている。
魔力の流れが回復していけば、彼女の治癒魔術もそれに比例して効力を増していく。
元より、急激な悪化に至ったものの処置が迅速かつ適切であれば問題は無いレベル。
送り込まれる彼女の吐息と、鎮静化する魔力の暴走は、呼吸の回復という目に見える結果となって現れるだろう。
「……ふ……ん、む……」
回復に至り、朧気ながら活動を再開した理性の中で。
金色に輝く彼女の瞳を、ただ綺麗だな、と。
見開いた瞳をあやす様に、もう片方の掌は、そっと彼女の頬を撫でるだろうか。
水無月 沙羅 > 「ぷぁっ……はぁ……。」
魔力の乱れは治まった、治療も効果が見える。
もう心配はない、後は体の治癒能力が自然と回復を促してくれるだろう。
酸素が行きわたれば意識も戻ってくるはずだ。
離れた唇から、少しだけ繋がっている水の糸を拭って、理をの体を抱き起す。
――『黄金の瞳』は紅い瞳に姿を戻して。
沙羅はほっと胸を撫で下ろした。
危うく、『鉄火の支配者』ごと、『神代理央』まで殺してしまうところだった。
その恐怖に、今更ながら体が震えてくる。
「大丈夫ですか、理央……。」
心配そうに、いつもの不安げな少女の顔が覗き込むだろう。
少しだけ涙を眼に溜めて、自分の罪に胸を痛めている。
そんな少女の顔が、理央の目の前にはあった。
神代理央 > 「…っはぁ……っふぅ……」
抱き起こされる躰。
未だ靄がかかった様な思考ではあるが、それでも治療を施される前に比べれば、随分とマシになっている。
離された唇から浅く早い呼吸が酸素を取り入れ――次第にそれは、ゆっくりとしたものへ。
落ち着いた吐息へと、戻っていく。
「……そんな顔をするな。大丈夫だから。お前を置いて、俺が死ぬ訳ないだろう」
不安と罪悪感に歪む彼女に、穏やかに微笑み返すと。
そっと手を伸ばして、彼女の目元に溜まる涙を拭おうとするだろうか。
「……心配、したんだからな。急にいなくなって。話も出来なくなって。どうすれば良いのか分からないまま、色んな話だけが進んでいって。それに、平気な顔をしなきゃいけなくて」
そして、ぽつぽつと。訥々と。
隠していた本心を。仮面の奥に隠れ潜んでいた、幼ささえ伺える様な思いを。
静かに、語り始めるだろうか。
水無月 沙羅 > 「今まさに、死にそうになっていた人が言う台詞ですか。」
涙を拭われながら、そっと微笑み返す。
回復していく様子に、安心したかのように抱きしめた。
「すみません……、独りにして。 一緒に居てあげられなくて。
本当は、一緒に居たかったんです。
でも、もう一人の貴方に、お人形にされたくはなかったんです。
貴方を、助けたかった。」
優しく抱きしめながら、子供の様に語り出すその本心を、頷きながら聞いていく。
己のひた隠していた心もまた、雪解けのように漏れ出して。
言葉となって零れてゆく。
『我儘』は、沙羅のエゴイズムは、こうして幕を閉じた。
神代理央 >
「……ばーか。俺が、お前に殺されてなんかやるものかよ。
俺はきっと、ロクな死に方をしないだろうけど。
それでも、お前の手を、俺の血で汚させてなんか、やらないからな」
くすりと笑みを浮かべながら、成すが儘に彼女に抱き締められる。
そっと両手を彼女の背中に伸ばして、此方も彼女を抱き締め返そうと。
「…そうだな。きっと、あのままの俺でいたのなら。
お前を人形にして、言い訳にして。力を振るっていたのかもしれない。
そしてそれは、もしかしたら。此の島の為には必要な装置だったのかもしれない。そう望まれていたのかもしれない」
敢えて。彼女が『殺した』可能性を語る。
その可能性が人々の為に成り得たかもしれない可能性を語る。
しかしそれは、詰る様なものではない。
一度言葉を区切り、そっと彼女の背中を撫でて。
「……でも、一人は寂しかったんだ。お前を散々一人にしておいて、寂しいなんて言うのは、おこがましいけれど。
だからきっと、お前を見ない儘、皆に望まれる姿になることは、きっと寂しい事だ」
「………あの殺し屋の言う様に、俺は弱くなったんだろうか。
変わってしまった事は、弱さだったんだろうか」
不安を零す。不安定さを嘆く。
それは、己の重荷を彼女に知って欲しいという『我儘』
神代理央は、情けなく、不甲斐なく、幼い感情の儘に。
彼女に縋るという『我儘』を、零れ落としていた。
水無月 沙羅 > 「……私が、貴方を守りますから。
碌じゃない死に方なんて、させませんよ。」
くすり、と笑い返す。
もう二度と離すまいと強く抱き寄せて。
「弱くなっては、いけないんですか?」
抱き寄せたまま、言葉を紡ぐ。
それは本当に伝えたかった事。
この放浪し続ける生活の中で、沙羅が見つけた答え。
「弱くなったって、いいじゃないですか。
泣きながら謝ったって、いいじゃないですか。
傷つけたくないって、泣いたっていいじゃないですか。」
「人間は、変わっていく生き物なんです。
くじけたり、転んだり、躓いたり、そのたび立ち上がればいい。
弱くなるたび、その分強くなればいい。
間違えたなら、やり直せばいい。
罪は消えなくても、私たちはいつだってやり直せる。」
だって、そうして私たちは出会ったのだから。
「理央、もう一度、始めましょう?
神代理央を、もう一度最初から。
もう、仮面は必要ない筈だから。
貴方は貴方のままで、貴方がしたいことを、貴方がしたいようにすればいい。
殺し屋の思惑通り、貴方を殺すことになってしまったけれど。」
それでも。
「もう一度、一から歩きだせばいい。
今度は私がついていますから。
貴方の傍で、一緒に罪を背負いますから。」
星を見上げる。
星に願うだけの自分はもういない。
願うことは止めないけれど、ロマンチシズムは消えないけれど。
願いを叶えるために、歩くことを覚えたのだから。
星に願いを託すのではなく、星に願いを込めて。
忘れないようにこの目に刻むのだ。
月の明かりは二人を優しく照らしている。
1/6にはまだまだ遠いけれど、1/2から始めよう。
「月が綺麗ですね。」
いつかの言葉に、想いをのせて。
夜は過ぎて行く。
神代理央 >
「……頼もしいな。
俺がダモクレスの剣に貫かれる前に、玉座から引き摺り倒されそうだ」
と、可笑しそうに笑う。
抱き締められる力が強くなる。
彼女より、強い力で抱き締め返す事は出来ない。それくらい彼女は強くなったし――自分は、こんなにも弱かったのかと再認識。
「……人間は変わっていく生き物、か。
そうだな、ああ、そうだ。俺は、弱くなってしまったかもしれないけれど。
かつての俺の様に、業火で人々を支配する様な強さは、失ってしまったかも知れないけれど」
嘗ての己なら、既に殺されていたと告げた殺し屋。
きっと、彼の言葉は正しい。
嘗ての己であれば、きっと彼を殺した。
そして、多くの人を殺した。人を人と認識せぬままに。
そうあれかしと、望まれていたから。
「…もう一度、か。
俺は、ゼロからのスタートじゃない。
マイナスから、やり直さないといけない。
それくらい、罪を重ねてきた。
それくらい、殺してきた」
己の行いは既に『清算』なのだと嘲笑った公安の男が居た。
『そんな事知るか』と高らかに告げた強敵が居た。
『素顔と向き合え』と笑った女が居た。
『妹を殺した』と壊れた少女が居た。
それでも、もう一度。
もう一度、やり直せるというのなら。
「……そうだな。それも悪くないのかもしれない。
お前と一緒なら。お前と過ごす事が出来るなら」
星空が瞬く。
見上げる星空は、己には眩し過ぎる。
でも、見上げている間は、背負う重荷はきっと軽くなる。
彼女と、星空を。月を見上げている間は。
神代理央 >
「…ああ。本当に。月が、とても綺麗だ」
神代理央 >
「……なあ、沙羅」
「…その、なんだ。…愛してる。これからもずっと、よろしくな」
神代理央 >
月を見上げて、彼女を見つめて。
ちょっとだけ照れくさそうに。
不器用な二人を、お月さまとお星さまだけが
何時までも見守っていました、とさ。
水無月 沙羅 >
「……えぇ。 私も、愛しています。」
「理央。」
ご案内:「大時計塔」から水無月 沙羅さんが去りました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女 待ち合せ済み>
ご案内:「大時計塔」から神代理央さんが去りました。<補足:ダブルテーラードのジャケット/金髪紅眼/顔立ちだけは少女っぽい>